蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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三十一話

 五車学園に入学して対魔忍見習いになってからの俺の生活は、学校の授業、対魔忍としての訓練に任務、報告書の作成、そしてほんの僅かな休日。これの繰り返しで、死亡フラグがいたる所に乱立している対魔忍の世界で生き残る為とはいえ、ゆっくりと休む時間というのは中々取れなかった。

 

 はい、そこ。「まるで社畜みたい」だとか言わない。というか本当に言わないで? 泣きそうになるから。

 

 だって仕方がないだろ? 対魔忍の任務は基本的に拒否する事が出来なくて、もし対魔忍の任務を拒否したり失敗したりすると自宅か五車学園の地下にある懲罰房で数日間謹慎された上に、まだ対魔忍見習いのくせにエリート意識だけは人一倍強い生徒の皆さんから白い目で見られるんだから。

 

 嗚呼、俺をこんなクソッタレな対魔忍の世界に放り込んでくれたこの世界の俺の両親よ、呪いアレ(血涙)。

 

 とにかくそんな対魔忍見習いとしての生活を送っているうちに、気がつけば中学生生活も残りわずかとなり、俺は中学最後の春休みを迎えた。そしてその春休みの初日、俺は終業式を終えるとすぐに、俺についてきた銀華と一緒に職員室へやって来ていた。

 

「春休みでの訓練室の使用許可、ねぇ……。五月女君ってば相変わらず真面目なんだね」

 

 俺が職員室へやって来た理由は五車学園にある戦闘訓練用の訓練室を春休みの間、使用する許可をもらう為で、それを聞いたさくらは感心したような表情で俺を見ていた。

 

 もちろん春休みは実家には戻らない。実家はこの五車の里から遠く離れているし、それにもし今両親の顔をみたら◯ンダムSEEDの○ラみたいに「どうして俺を対魔忍にしたの?」と弱音を言ってしまいそうだからだ。

 

 今職員室にいるのは俺と銀華とさくら、そしてさくらと同じ教師である八津紫と様子を見にきたアサギの五人。さくらの言葉に頷いた紫は銀華に目を向けて質問する。

 

「それで獅子神も春休みの間、訓練室を使用したいということか」

 

「は、はい。私もこの忌神の力を少しでも使いこなしたいですから……」

 

 紫の言葉に銀華は僅かに俯き、顔のバイザーを手で触れながら答える。

 

「分かりました。そういう事なら訓練室の使用を許可します」

 

『『ありがとうございます』』

 

 訓練室の許可を出してくれたアサギに俺と銀華は一緒に頭を下げて礼を言う。するとアサギは俺達に向けて笑みを浮かべる。

 

「さくらも言ったけど、本当に貴方達は真面目ね。特に五月女君はただでさえ優秀な上、両眼が邪眼になっているのに」

 

「その邪眼を使いこなすために訓練をしたいんです。『使える』と『使いこなせる』じゃ大きな違いがありますからね。俺は『忍法万能病』にかかる気はありませんから」

 

『『忍法万能病?』』

 

 俺がアサギにそう返すと、彼女だけでなく銀華にさくら、紫、全員が首を傾げる。

 

「……忍法に目覚めた対魔忍のほとんどは自分の忍法を過信しすぎている。『自分にはこの忍法があるからどんな敵にも勝てる。例えピンチになっても忍法があるから大丈夫』だと。

 そして忍法に目覚めていない対魔忍はそれをやる気を出さない言い訳にしすぎている。『自分はいつかきっと強力な忍法に目覚める。だから今活躍出来なくても仕方がない』と。

 自分の力に誇りを持つのも、自分の未来に期待するのもいいですけど、あそこまでいけば病気です。ですから忍法万能病」

 

「……耳が痛い話ね」

 

『『………』』

 

 思うところがあるのかアサギが苦い顔となってそう言い、彼女の隣にいるさくらと紫は額に手を当てて、俺の隣の銀華は深く何度も頷いていた。

 

「でもそう考えて努力を惜しまない貴方の言葉だからこそ、あのふうま君もあそこまで変われたのでしょうね。……ねぇ、五月女君? もし良かったら、春休みの間、私の家に泊まってくれない? 貴方にあってほしい人がいるの」

 

 どうやら俺が小太郎君の○ック・リー化の一因である事をアサギは知っているようで、彼女はそう言った後、急に変わった提案をしてきた。

 

「俺が学園長の家に? それにあってほしい人って誰ですか?」

 

「その子はコウく……沢木浩介といって、今私が面倒を見ている対魔忍見習いの子なんだけど、まだ忍法に目覚めていなくて悩んでいるみたいなの」

 

 沢木浩介? なんだかどこかで聞いたような名前だな? というか嫌な予感がスッッッッッゴクしてくるんだけど?


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