蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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三十二話

 最初、俺はアサギの口から出た人物が誰か分からなかったが、数秒後に思い出すのと同時に背中に大量の冷や汗が吹き出たのを感じた。

 

 沢木浩介。

 

 彼は「対魔忍アサギ3」のストーリーに欠かせない、ある意味重要人物と言えた。

 

 浩介は既に故人となっているアサギの結婚相手の弟で、兄の死後はアサギとさくらの井河の家に引き取られている。

 

 そして浩介は井河直属の下忍、つまりは古くから続く対魔忍の家系に生まれながらも長い間忍法に目覚めておらず、肩身の狭い思いをしてきた。しかしアサギはそんな彼を決して見捨てず実の弟のように可愛がって、それが理由で浩介は、死んだ兄の嫁と分かっていながらもアサギに恋愛感情を懐くようになった。

 

 だがそんなアサギに対する恋心をつけこまれて、浩介は人間の保険医として五車学園に潜入していたエドウィン・ブラックの部下である魔界医フュルストの、アサギを攻略するための「駒」にされてしまう。

 

 フュルストによって浩介は「女性を強制的に発情させる」という忍法が使えるようになり、彼はその忍法を使用(というか悪用)してアサギとセックスをして、最終的にアサギを妊娠させる。するとフュルストは浩介を不気味な人面肉ボールにして、彼と彼との間にできた子供を人質にすることでアサギを捕まえるのだった。

 

 もう前世の記憶は朧気だが「対魔忍アサギ3」のバッドエンドの一つには、浩介は肉ボールのままで洗脳されたアサギと魔族が心から愛し合ってセックスしている現場を見せられて、無念の涙を流すパターンもあったはずだ。

 

 この事から分かるように沢木浩介という人物は「対魔忍アサギ3」で最大の被害者であると同時に最大の戦犯である。

 

 というか念願の忍法が使えるようになって嬉しいのは分かるが、それを実の家族のように接してくれた恩人に使うか、普通? そもそもアサギは死んだとはいえ兄の嫁、つまりは義理の姉なんだろうが? それを強制的に発情させて行為に及んで妊娠させるなんて、いくら原作がエロゲだといってもやり過ぎだろうが?

 

 もうその存在事態がトラブル系のイベントフラグであるアサギとさくらの家に泊まるというだけでも恐ろしいのに、そんな厄介な未来を持つ浩介と会うだなんて嫌すぎる。訓練室の使用許可はもらったのだし、井河家の訪問は丁重に断ろうとしたその時、俺はあることを思いついた。

 

 それは浩介と接触することで「対魔忍アサギ3」のイベントを何とか回避できないかというもの。

 

 確か「対魔忍アサギ3」で対魔忍は、エドウィン・ブラックの組織ノマドの影響を受けた日本政府からとかげの尻尾切りを受けて、壊滅的被害を受けていたはずだ。だが「対魔忍アサギ3」の一応主要人物である浩介の行動を見張っていれば、対魔忍が日本政府から切られる未来も回避できるんじゃないか?

 

「学園長、その沢木浩介君ってどの学年なんですか?」

 

「コウ君の学年? 新学期が来たら中学三年生になるから獅子神さんと同じね」

 

 確か……「対魔忍アサギ3」開始時の浩介は高校一年だった……はずだ。だとしたらまだ一年くらいの猶予があるってことか。

 

「……分かりました。学園長とさくら先生が迷惑でなかったら、泊めてもらえませんか」

 

「ええ、こちらこそお願いするわ」

 

「うんうん。歓迎するね」

 

 俺が井河家に泊めてほしいと言うと、アサギとさくらの二人は嬉しそうに笑って頷いた。

 

 この世界が「対魔忍RPG」の世界になるか、それとも「対魔忍アサギ3」の世界になるか、この春休みで見極めてみせる。そう心の中で呟いて俺は気持ちを引き締めたのだが……。

 

 

「五月女先輩! 俺と勝負してください!」

 

 

 初めて浩介に会うなり、最初から敵意が最高潮の彼に勝負を申し込まれた俺は、一体どうしたらいいか分からなくなった。

 

 いや、本当に何で俺ってば初対面の浩介にここまで嫌われているの?


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