蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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三十四話

「~~~! コウ君!」

 

 浩介の意味不明な言葉についに我慢できなくなったのかアサギが叫ぶ。それによってようやく我に帰った浩介は彼女の存在に気づく。

 

「……え? あ、アサギ姉さん? いつからそこに?」

 

「貴方が五月女君に勝負を挑んだあたりからよ。それよりどういうこと? どうしてあんな馬鹿な事を言ったの?」

 

「そ、それは……」

 

 怒ればいいのか呆れればいいのか分からないといった感じのアサギに、浩介はなんとか答えようとする。その姿からは先程までの敵意は感じられず、これでようやく話が聞けそうだ。

 

「そうだな。それは俺も聞きたいな。何で俺がこの家に泊まる事が学園長と子作りをするって話になったんだ?」

 

「……それは、五月女先輩は優秀なのに、誰とも子作りをしたって噂を聞かないから……」

 

「? 何で俺が優秀だったら誰かと子作りすることになるんだ?」

 

 気まずそうに視線を逸らしながら答える浩介の言葉に、俺がますますわけが分からなくなって首を傾げていると、隣にいる銀華が言い辛そうな表情で口を開いてきた。

 

「そういえば頼人先輩は、中学生になるまで五車の里の外で生まれ育ったんですよね。……実は五車の里では優秀な対魔忍は、複数の相手と子作りする事が黙認というか陰ながら推奨されているんです」

 

 ………銀華は一体何を言っているんだろう? 優秀な対魔忍は複数の相手と子作りをしていい? 五車の里全体がそれを黙認している?

 

「………」

 

「………」

 

 俺が視線だけでアサギに今の話が本当かどうか問うと、彼女は渋い顔で頷いて答えてくれた。……マジですか。

 

「なぁ、銀華? 日本では重婚は犯罪だぞ? それは当然分かっているよな?」

 

「はい。でも子作りするだけで結婚をするわけではないですし……。それに頼人先輩?」

 

 俺の言葉に頷いた銀華はそう答えてから一度言葉を切り、こちらを見てきた。

 

「何だ?」

 

「対魔忍の任務は危険なものばかりです。これは頼人先輩は当然知っていて、今までに何人もの対魔忍が任務中に死んだり魔族に拐われたりしたのを見てきましたよね?」

 

「それは、まあな……」

 

 今度は俺が銀華の言葉に頷く。対魔忍の任務が危険なのは身にしみているし、彼女の言う通り任務中に死んだり魔族に拐われたりした対魔忍は、任務で毎回見ている。助けられるのは電磁蜘蛛やライトイーターを使って直接助けたり、後続の部隊に救援要請を出しているが、対魔忍の任務を任され始めてから今まで百人以上の死亡者と行方不明を見てきた。

 

「任務の度に失われる対魔忍の穴を埋めるために、五車の里は常に出来るだけ多くの、そして優秀な新たな対魔忍を必要としています。だから五車の里は優秀な対魔忍に複数の相手と子作りする事を陰ながら推奨しているんです」

 

 戦国時代の忍者か、対魔忍は? いや、戦国時代の忍者の方がまだ待遇マシなんじゃねぇの?

 

 任務の度に対魔忍が何人か死ぬか行方不明になるから、その穴を埋めるために多くの対魔忍の子供を作る? ふざけるな。任務の度に犠牲が出るのが分かっているなら、数を補充するんじゃなくて犠牲が出ないように工夫しろよ。今までバンバン被害者が続出しているのに対魔忍の戦力が減らないなと、内心でちょっと疑問だったけど、そんな方法で戦力を維持してきたの?

 

 というか俺ってば、一応優秀だと周りから認められているから、複数の相手と子作りすることを五車の里に黙認されているの? ……全然嬉しくねぇ。何その全然嬉しくないハーレム? そんなの更に柵が強くなる上に、子供は対魔忍確定とロクでもない未来しかないじゃないか。

 

「五月女先輩は周りだけでなく、アサギ姉さんも家で優秀だと言うくらい凄い対魔忍だし、忍法だけでなく邪眼も二つ持っているじゃないですか? だから五月女先輩は近いうちに誰かと子作りして邪眼を持つ対魔忍を作るんだと、皆が話していて……その矢先に五月女先輩が春休みの間、ウチに泊まりに来ると聞いたからそうなんだと……」

 

 不安そうに俺を見てくる浩介の言葉に俺は頭が痛くなりそうな気分だった。というか家の中ではアサギが額に手を当てているのが見えた。

 

「……銀華? もしかしてお前がここに来たのって浩介君が言うように、俺が学園長と子作りをすると疑っていたからか?」

 

「………………………………………すみません」

 

 俺が質問すると銀華は長い沈黙の後で蚊の鳴くような声で謝ってきた。

 

 この後輩達は俺のことを何だと思っているんだ? これはこの春休みの間にキッチリと話をつける必要があるみたいだな。


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