蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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三十五話

 五車学園の体育館、そこで二人の対魔忍見習いの男子学生が対峙していた。

 

 一人は紺色のツナギのような戦闘服を着た五月女頼人で、もう一人は紫色の対魔忍スーツを着た沢木浩介であった。

 

 浩介は右手に忍者刀を構えているが、頼人の方は左手に弓を持ってはいるが矢をつがえていないどころか、右手に矢を持ってすらいない。

 

 普通に考えれば近距離に適した忍者刀を構えている浩介の方が、遠距離用の武器である弓をただ持っているだけの頼人よりも有利である。しかし浩介の表情には余裕など微塵もなく焦りと疲れが色濃く浮かんでおり、対する頼人は無表情で浩介からは何の驚異も感じられないといった感じで彼を見つめていた。

 

「………くぅっ!」

 

 頼人と浩介がしばらくの間睨み合った後、先に動いたのは浩介であった。

 

 浩介は距離を詰めると頼人に向けて忍者刀を振るう。「見習い」の文字がつくとは言え、対魔忍である浩介の攻撃の速度は常人より遥かに速いのだが、その動きはどこかぎこちなく頼人は最小限の動きで浩介の攻撃を回避する。

 

「この! この! 当たれよ! 当た……え?」

 

 自分の攻撃を全て避けられて焦る浩介。そして十回目の攻撃が空振りで終わった瞬間、彼の視界から頼人の姿が一瞬で消えた。

 

「五月女先輩っ!? 一体何処「ここだよ」……に?」

 

 頼人の姿を見失った浩介が慌てて周りを見回そうとした時、彼の背後から頼人の声が聞こえてきた。浩介の後ろにいる頼人は既に弓に矢をつがえており、その矢は彼の後頭部に狙いを定めていた。

 

「それでどうする?」

 

「……降参します」

 

 弓を構えたまま頼人が聞くと、浩介は両手を上げて自分の敗北を認めた。そしてそれを頼人と浩介の二人から少し離れた場所で見ていた銀華は、バイザーで表情は分からないがつまらなそうな声で言った。

 

「これで頼人先輩の十戦十勝ですね」

 

 

 

 沢木浩介君、弱すぎない?

 

 俺と銀華がアサギ達の家に泊まるようになってから早三日。アサギに「出来たら浩介の訓練も見てくれないか?」と頼まれたのでとりあえず十回程練習試合をしてみたのだが、今の感想しか出てこなかった。

 

 いや、本当に何これ? 一応訓練はしているみたいで身体能力は同学年の対魔忍見習いと同じか多少低い感じだが、肝心の戦闘技術は完全に我流……というかデタラメで、隣で見ていた銀華なんて呆れているんだけど?

 

「………浩介君? 君の戦い方はどういうことなんだ? 何というか、その……最初からずっとぎこちない感じだったけど?」

 

「そ、それは……」

 

 俺が言葉を選びながら聞くと、気まずそうに視線を逸らして事情を説明……するかと思ったら、何やら言い訳みたいな話を延々と言い始めた。そしてその言い訳を簡単にまとめると次のようになるらしい。

 

 浩介は、死んだ兄の失敗(魔族に捕まって人質になったことでアサギも魔族に捕まって輪姦された)に加えて未だに忍法が目覚めていないことによって、周囲からの風当たりが非常に強い。それもあって戦闘訓練で練習試合をしようものなら、同級生達からの私刑に発展しかねないので、今まで自主練ばかりをして練習試合を避けていたそうだ。

 

 そして風当たりが強いのは五車学園の中だけでなく五車の里でも同様で、学校の授業のない休みの日などはあまり外に出ない半分引きこもりのような生活を送っているらしい。家の中にいる間は当然ながら体術の訓練はしておらず、しかし学園の成績が悪いとアサギやさくらが心配するので、その分勉強に精を出していたと浩介は言う。

 

 これらの話を聞いて俺は「うん。これは強くなれないな」と大いに納得した。離れた場所で同じく話を聞いていた銀華も同じようで、バイザーで分り辛いが今彼女はきっと呆れたような表情をしているのだろう。

 

 確かにそんな周囲からの風当たりが強い状況では、あまり他者に関わりたくないのは分かるが、それでも一応アサギの役に立ちたいと思っているのなら、学業よりも体術の訓練を優先すべきだろう?

 

 というか浩介ってば最初、俺に挑戦状叩きつけてきたよね? 確かに俺は遠距離がメインで近接戦は苦手だけど、それだけで勝てると思われていたの?

 

 もしそうだとしたら、ちょっと泣きたくなるんだけど?


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