蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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三十六話

 さて、どうしたものかな……?

 

 俺は浩介の実力を見て内心で頭を抱えていた。

 

 今回俺がアサギの頼みを聞いて浩介と模擬戦をしたのは、彼が「対魔忍アサギ3」のように敵の手駒に墜ちる未来を防ぐためだ。「対魔忍アサギ3」で浩介が人間の保険医に化けて五車学園に潜入したフュルストの口車にあっさりと乗ってしまったのは、周囲の環境だけでなく、未だに忍法に目覚めず対魔忍としての自信が無いことも原因なのだと俺は思う。

 

 だからこうして模擬戦をすることで、鍛えれば俺みたいな遠距離からの忍法メインの対魔忍でもここまで戦えることを見せて、あと浩介にも小太郎君並の体術のセンスがあれば体術の訓練をすすめるつもりだったのだ。

 

 しかし十回も模擬戦をして分かったが、浩介には体術のセンスはなかった。それこそ欠片も、悲しくなるくらい全くなかった。

 

 俺はこれでも中学一年生の頃から偵察の任務につき、敵味方の戦いをずっと見てきたので、相手の力量を測る目はそれなりに鍛えられている自信がある。

 

 それで浩介の体術のセンスがどれくらいかというと………本人達の名誉のためにここでは本名を伏せておくが、対魔忍Mさんか対魔忍Yさんの作戦立案能力並と言えばご理解頂けるだろうか?

 

 ここまで体術のセンスが無ければ、体術の訓練を強要したり、小太郎君の話をしても逆効果だと思う。勿論、最低限自分の身を守れる力量を得るくらいには体術の訓練はしてもらうが、それ以上の訓練をただやみくもにやらせてもし体を壊してしまったら、浩介は今度こそ心身ともに立ち直れない気がする。

 

 今彼に必要なのは、少しでいいから目に見える形で対魔忍としての実績を出してアサギの役に立つ方法だ。それさえ見つければ浩介も自分に自信がつき「対魔忍アサギ3」みたいに、目覚めていない忍法を目覚めさせるなんていう、あからさまに怪しいフュルストの口車に乗らない確率が上がるはずだ。

 

 しかしそんな、忍法も体術も無しで対魔忍として活躍して、対魔忍の総隊長であるアサギの役に立つ方法なんて都合のいいものがあるか? そんなものが本当にあったら活躍する対魔忍がもっと増えて、俺も楽ができるはずだし……ん?

 

 そこまで考えたところで俺は、体育館の壁際に置いてあった自分の荷物を見つけ、一つのアイディアが脳裏に浮かび上がった。これならもしかしたら上手くいく……のか?

 

 壁際に置いてある荷物を取って浩介のところへ行くと、浩介は体育館の床に座り込んで何やら呟いていた。

 

「やっぱり俺なんか……。いや、まだだ……忍法、忍法さえ目覚めれば……。忍法に目覚めれば俺だって……」

 

 うわぁ……。

 

 どこか虚ろな目をしながら呟く浩介に俺は思わず引いて、隣で見ていた銀華なんかドン引きの表情となっていた。これって俺が現実を知らせて浩介を凹ませたことになるのか?

 

 以前俺は、忍法を心の支えにしすぎて油断したり、やる気を出さない者を忍法万能病と言っていたが、それはある意味正しかったと思う。忍法万能病はもはやれっきとした精神の病で、虚ろな目をしている浩介は忍法万能病に心を蝕まれた重度の病人だった。

 

 この時点ですでに、浩介はいつか自分に強力な忍法が目覚めて、それによって対魔忍として活躍してアサギに認められる未来を妄想することだけが心の支えとなっていた。彼がここまで追い詰められたのは、周囲の影響が大きく同情の余地があるのだが、それでも俺はあえて次の言葉を浩介に投げかけた。

 

 

「なぁ? 忍法に目覚めたとしても、それが役に立たなかったらどうするんだ?」

 

 

「………………………………………え?」

 

 俺の言葉に虚ろな目をして呟いていた浩介は驚いた顔となってこちらを見上げてきた。そしてその顔色は、気のせいか先程よりも悪く見えた。

 

 どんな武器や能力も使い方次第では大きな力となるが、それ自体の力の強弱や使い易さ使いにくさというのは確かに存在する。

 

「対魔忍アサギ3」で浩介がフュルストとから与えられた女性を強制的に発情させる忍法というのは、女性相手では大きな効果を出せるかもしれない。だが強くて便利な忍法かと聞かれれば否で本人も多分望んでいた能力ではないだろう。

 

 そう考えると、彼がこの忍法を使ってアサギを襲ったのも、自分が得られたのが望んでいたのとは違う強力でも便利でもない忍法である事実に絶望して、自棄になったせいでもあるかもしれない。

 

「目覚めるかどうかも分からない、目覚めても役に立つかどうかも分からない忍法をアテにするより、今あるもので頑張る方がいいと思うぞ?」

 

「………さい」

 

 俺がそう言うと浩介は何かを呟いて立ち上がりこちらを睨みつけてきた。その目には初めて会った時以上の敵意が宿っていた。

 

「うるさいんだよ! アンタに俺の何が分かるんだよ! アンタみたいに強力な忍法が使えて! 対魔忍として活躍して! アサギ姉さんにも認められているアンタなんかに俺の気持ちが分かってたまるかよ!」

 

 俺に向かって叫ぶ浩介の目尻には涙が浮かんでいた。うん、そうだな。俺がこんな事を言っても上から目線の無神経な言葉にしか聞こえず、彼を苛立たせるだけだろう。浩介が怒る気持ちは理解できる。

 

 ……だから銀華さん? いつでも浩介を斬り捨てられるように、彼の背後で抜き身の刀を上段で構えるのはやめてね? その怒った表情と合わせて凄く怖いから。

 

「気に障ったようなら謝るよ。でももし、忍法も体術も無しに対魔忍として活動できて、学園長に認められる方法があるとしたらどうする?」

 

「………え?」

 

 気を取り直して俺がそう言うと、怒りの表情だった浩介は一瞬で呆けたような顔となった。よし、食いついた。

 

「とりあえず、『コレ』を使って俺の真似事でもしてみるか?」

 

 そこまで言って俺は壁際に置いてあった自分の荷物を持ち上げて浩介に見せた。

 

 浩介に見せた荷物、それは以前装備科に作ってもらった特製のドローンと、それを制御するための小型ノートパソコンであった。


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