行きたくないなぁ……。
対魔忍の任務の当日。俺は任務のブリーフィングをするための作戦室に向かいながら、内心で深いため息を吐いた。
「頼人先輩? 一体どうしたんですか?」
そうしていると隣を歩いている銀華が憂鬱になった俺の気分を察したのか、こちらを見上げて訊ねてきた。
「あー……。いや、なんでもないよ」
「……やっぱり今回の任務に参加する『あの人』の事ですか?」
俺は誤魔化そうとするが長い間コンビを組んでいた銀華は全てお見通しだったようで、俺が今回の任務に行きたくない理由を口にしてきた。
そう、対魔忍の任務は基本的に全て乗り気ではない俺だが、今回は特に乗り気ではなく、叶う事ならば今すぐにでも逃げ出したい気分だ。それもこれも今回の任務には厄介な人物が一人参加しているからだ。
俺は頭の中で一人の対魔忍の顔を思い浮かべるともう一度内心で深いため息を吐いた。そしてそうしている間に作戦室に辿り着き、俺達が作戦室に入るとそこには三人の女性の姿があった。
作戦室にいた三人の女性達は、今回の任務で魔族の拠点に攻撃を仕掛ける役割の対魔忍で、しかも三人共周囲から名前を知られる程の手練ればかりである。
鬼崎きらら。
由利翡翠。
上月佐那。
鬼崎きららと由利翡翠は俺と同じ学年の対魔忍見習いで、すでにいくつもの任務を経験して並みの対魔忍を超える実力を持っているとされる注目株であり、上月佐那は二年前に卒業した先輩で銀華と同じ逸刀流の達人として知られている現役の対魔忍である。
「………」
銀華はきららの姿を確認すると無言で俺の前に立ち、それと同時にきららが俺達に気づく。
「あっ。頼人、やっと来たんだ……って、獅子神ちゃんは一体何をしているのかな?」
「……別に。私の勝手じゃないですか、鬼崎先輩」
俺に向かって話しかけてきたきららは、銀華が俺の前に立っているのを見て若干不機嫌そうな顔となって言い、銀華の方も不機嫌そうな声で返事をする。
きららとはこれまでにも何回も同じ任務に参加した仲である。実の父親に母親を殺されたという悲しい過去から重度の男性不信であったきららは、最初こそは俺の情報を無視して独断で敵陣に突っ込んでいくという行動を何度も行なっていた。しかしある任務で敵の罠に捕まったきららを俺が助けた事をきっかけに、彼女は少しだけだが男性不信が治って俺に心を開いてくれるようになった。
今では俺ときららは学園でもそれなりに話すし、一緒に昼食をとるくらいまでに仲良くなっていた。しかしそれと同時に最初こそはそれなりに友好的であった銀華ときららは、俺の時とは逆に険悪とまでは言わないが互いに敵視をしているような関係になってしまっていた。
流石に任務中に争うような事はしないが、それでも学園内では銀華ときららがお互いに無言で睨み合っているという光景が何度も目撃されている。一体二人とも何が気に入らないんだ?
「え、え~と……。そ、それで一人足りないみたいだけど『彼女』はまだ来ていないのか?」
「来ていない」
「……ん。そうだね。まあ、まだ時間になっていないし、そのうち来るんじゃない?」
今回の任務に参加するのは、きららを初めとする魔族のアジトに襲撃する役割の対魔忍四名に俺と銀華を入れて六名であと一人足りない。このままだと銀華ときららの間の空気が荒みそうだったので俺が皆に聞くと、翡翠が部屋の天井を見上げながら答え、続いて佐那が手に持っていた缶チューハイを一口飲んでから言う。
そうか「彼女」はまだ来ていないのか。……このまま来ないでくれたらいいのに。
翡翠と佐那の言葉を聞いた俺は思わずそう心の中で呟いた。
これまでに俺はきららだけでなく翡翠と佐那とも同じ任務を何回も共にしていて、その実力も人格も理解している。三人共クセは強いが対魔忍の中では珍しく、本当に珍しく、非常に珍しく信頼できる人材である。
だからきらら達三人と行動できるのは幸運だと思うのだが……問題は最後の一人だ。正直な話、「彼女」と行動するデメリットだけできらら達と行動できるメリットが消滅していると俺は思う。
「私が最後か?」
俺がそんな事を考えていると背後から聞き覚えがある女性の声が聞こえてきた。背後を振り返るとそこには俺が予想した通りの人物、今回の任務に参加する最後の対魔忍の姿があった。
秋山凛子。
それが俺の後ろに現れた対魔忍の名前だ。この世界の原作に大きく関わるゲームの一つ「対魔忍ユキカゼ」のサブヒロインで、「対魔忍RPG」でも準主役級のキャラクターであった。