蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

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四話

「それじゃあ、今回の任務も頑張ろうね」

 

「ハイ、ソウデスネ。一緒ニ頑張リマショウ、サクラサン」

 

 東京キングダムでの捜索任務から二ヶ月後。今日はタノシイタノシイ(大嘘)対魔忍の任務の日だ。

 

 そして今回の任務で同行するのはさくら……というか、この二ヶ月の間、任務で同行するのはほとんどさくらだったが、これには正直助かっている。さくらだったら脳筋の対魔忍の先輩方と違って、いきなり俺を罵倒してきたり、自分達だけで敵に突撃して敵の罠にはまるなんて事にはならないからな。

 

 しかしそれならば何故、笑顔で挨拶をしてくれているさくらに、俺が死んだような目をしながら機械のようなカタコトで返事をしているのかというと……。

 

「あ、あれ? 五月女君? もしかして……ちょっと元気なかったりする?」

 

「ええ、そうですね。何しろ対魔忍の任務を受ける回数が二倍になったので、疲れが溜まっているかもしれませんね」

 

 俺の顔を見て引きつった笑顔となり、恐る恐る聞いてくるさくらに俺は僅かばかりの皮肉を込めて答えた。

 

 そう、俺が死んだような目になって機械のようなカタコトでさくらに返事をしていた理由は、ここ最近の対魔忍としての仕事のスケジュールが関係していた。

 

 どういう訳かこの二ヶ月の間、俺の所に来る対魔忍の任務の回数が倍になっていて、以前は月に二回のペースだったのだが今では月に四回……つまり週に一回のペースになっているのだ。不幸中の幸いと言うべきか、任務は偵察任務ばかりで命の危険性が低いものの、それでも週一のペースで対魔忍の任務を行なっていれば体力的にも精神的にも辛い。死んだような目になってカタコトで返事するくらいは大目に見てほしいものだ。

 

 さくらも俺の現状を理解しているので困った表情で謝ってくる。

 

「うん、疲れているところごめんね。でも五月女君が頑張ってくれているお陰で他の対魔忍の皆も助かっているから、もう少し頑張ろうね?」

 

「助かっている? それってどんな風にですか?」

 

 若干精神がささくれている俺がそう聞き返すと、さくらは先程とはまた別の困った表情となって言い辛そうに答える。

 

「え、え~と、その……。五月女君はさ、私達対魔忍の一番のお仕事が魔族を倒す事だって知っているよね?」

 

「はい」

 

 さくらの言葉に俺は、何を今更と思いながら頷く。

 

 全ての対魔忍は元を辿れば人間と魔族の混血児の子孫であり、そこから得た魔族の力を「忍法」と称して使い、魔族と戦って人間の世界を守っている。それは俺が五車学園に入学して対魔忍見習いになった時、一番最初に教わったことだ。

 

「それでね、その辺の事情もあって対魔忍の多くは魔族との戦闘が得意なんだけど、代わりに情報収集みたいな行動は……ぶっちゃけ苦手なの」

 

「……はい」

 

 続けて言うさくらの言葉に俺は、先程若干声のトーンを落として答える。

 

 対魔忍は情報収集が苦手。これも当然知っている……と、いうか現在進行形で身をもって理解させられている。

 

 一応、対魔忍は忍法の他に常人離れした身体能力を持っているので通常の偵察任務くらいは出来るのだが、それはあくまで「通常の人間や下級の魔族の動向を探れる」レベル。上位の魔族やその支配下にある魔族達、または米連のような魔術や科学でセキュリティーを強化している組織には全く通じず、対象の名前や本拠地の大体の場所、そして敵の大体の数が分かれば御の字といった感じである。

 

 それよりも確かな情報が欲しければ、潜入や逃走に応用できる忍法を使える対魔忍に調べてもらうか、魔族の情報提供者や敵対組織から情報を取り引きなどで情報を提供してもらうしかないのだが、これらの情報もそれ程正確ではない上に罠である可能性が高い。

 

 つまり敵の戦力もろくに分かっていない出たとこ勝負で戦うと言うのが、現場の対魔忍達の現状なのである。

 

 だから罠や、敵に協力している高位の魔族といった予想外の要素が少しでもあると、あっさりと崩れて全員殺されたり捕らわれて奴隷にされたりするのだ。まぁ、ここで全員殺されたり捕まったりするのは、予想外な出来事が起きた時に撤退しようなど考えもせず、玉砕覚悟で戦おうとする現場の対魔忍達の脳筋ぶりも関係しているのだが、そんな当たり前のことは今は置いておこう。

 

 それにしても対魔「忍」なのに情報弱者って……。改めて対魔忍の現状を確認すると頭が痛くなってきたんだけど?

 

 内心で頭痛を堪える俺を余所にさくらは話を続ける。

 

「でも五月女君の忍法は今までのどの対魔忍よりも偵察任務に向いていて、そのお陰で五月女君が偵察してくれた任務では対魔忍の被害が全く出ていないの。ほら、先月の初めにあった任務のこと覚えている?」

 

 先月の初めの任務? 確か魔族のテロリスト集団を偵察する任務で、電磁蜘蛛でテロリストのアジトを偵察したら事前の情報の倍以上の敵、そして情報にはなかった高位の魔族が待ち伏せしていたんだよな? それでその事を報告したら、テロリストのアジトに強襲する予定だった対魔忍達は任務遂行不能と判断して撤退、任務は失敗したが死亡者は出なかったんだっけ?

 

「はい。覚えていますけど」

 

「それを知った上の人達が五月女君が頼りになるって分かったみたいで、こうして偵察任務を回してきたの」

 

 ………マジで?

 

 俺は任務の回数が倍に増えた理由と、対魔忍が情報戦で雑魚すぎる事を理解すると、頭痛が更に酷くなったような気がした。


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