蜘蛛の対魔忍の受難   作:兵庫人

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四十一話

「あのなぁお前ら、いい加減にしてくれよ? 怖い夢を見たから俺の部屋に突撃してきたって、子供じゃないんだからさ……」

 

 銀華ときららに自室ごと吹き飛ばされた次の日。俺は五車の里にある対魔忍専用の病院に入院していた。

 

「頼人先輩、ごめんなさい……」

 

「わ、悪かったわよ……」

 

 呆れながら言う俺の言葉に銀華ときららが返す言葉もないといった表情で謝罪をしてくる。今、俺がいる病室には銀華ときららの他に、翡翠と佐那さん、そしてアサギにさくらが見舞いに来ていた。

 

 幸い、全身に打ち身と軽い切り傷があるだけで、回復力を高めてくれる薬を使えば二、三日で完治するとのこと。

 

「まあ、怪我が軽くて助かったけど……。でも何で俺だけ個室? しかもここってとてもいい部屋だよね?」

 

 俺が入院しているのは病院の最上階にある個室。しかもこの個室に運ばれるのは、かなりの重病人や地位が高い人だけで、この部屋でナースコールを押せば医者と看護士の一団が一分もしないうちに飛んでくるそうだ。

 

 ……そんな個室に何で俺がいるの? 俺って、名家の御曹司でもなければ単なる下忍以前の対魔忍見習いだよね?

 

「ああ、そんなこと気にしなくてもいいって。五月女君はいつも頑張ってくれているから、これくらいはね」

 

「そうよ。貴方のためなら、これからもこの部屋をすぐに用意するわ。だから早く元気になってね、五月女君」

 

 俺が疑問を口にすると、それにさくらとアサギが笑いながら答えてくれた。

 

 俺のためにこんないい部屋を用意してくれたのは嬉しいのだが、それってつまり俺はこれから先どんな大怪我を負ってもこの部屋ですぐに治されて任務に駆り出され……いや、止めておこう。これ以上考えると、最悪の未来予想図に辿り着いて泣いてしまいそうだ。

 

「そ、それよりさくらさん? 頼んでいたパソコンのデータはどうですか?」

 

 俺は話題を逸らすべくさくらに話しかけた。彼女には昨日、銀華ときららによって部屋ごと破壊されたパソコンのデータの復元を頼んでいて、話しかけられたさくらは一つ頷いてから答えてくれた。

 

「うん。バッチリ。パソコンのデータは明日には復元できるみたいだよ」

 

「そうですか……。よかった。だったらそのデータを使って今回の任務の報告書を印刷してくれませんか? 報告書は俺の分も凜子の分もほとんど完成していますから」

 

「うん。それはいいけど、五月女君にしては今回の報告書、随分時間がかかったね?」

 

 俺が報告書の印刷を頼むとさくらが首を傾げて言い、それにアサギを含めた見舞客全員が頷く。

 

 まあ、皆の疑問ももっともだ。毎回毎回毎回毎回、任務の度に自分だけでなく他の対魔忍達の報告書を作成してきた俺ならあの程度の報告書、二十分程度で作成できる。それなのに今回はその六十倍の時間がかかったのには、ちゃんとした理由がある。

 

「……今回の任務で襲撃した組織があの捕虜の対魔忍を捕まえたという情報はありませんでした。そして捕虜の対魔忍からは新しい薬品が検出された報告もあります。それで捕虜の対魔忍を『仕入れた』ルートの予測と洗脳に使用した新しい薬品の解析データを調査班と医療班から聞いているうちに時間がかかってしまったんです」

 

『『………………』』

 

 俺が報告書の作成に時間がかかった理由を話すと、銀華を初めとする見舞客全員が驚いた顔となってこちらを見てきた。え? 一体何事?

 

「驚いた。頼人って報告書の作成にそこまでするんだね」

 

「そうだね。報告書なんてもっと適当でいいんじゃないの?」

 

 普段から無表情の翡翠が僅かに驚いた表情となって言うと、それに呆れた表情となった佐那さんが頷く。

 

「いやいや……。報告書が適当じゃ駄目でしょ? 報告書というのは任務の内容だけじゃなく、そこで起きた問題も知らせるもので、これを怠ったら似たような問題が起きた時、自分だけでなく他の人達も危険になるでしょう?」

 

 そう、報告書とは本来その場で起きた危険性を周囲に知らせ、その原因を改善するためにあるもの。それに報告書一枚でもそれに書かれた内容は対魔忍のだけでなく、政府の上層部も目を通すのでこの危険極まりない対魔忍の現状を変える可能性が僅かばかりだがあるのだ。

 

 だから俺は他の対魔忍のように手を抜かず、出来るだけ正確な報告書をこれからも作成し続ける。今の所、成果はこれっっっっっぽっちも出ていないけど、それでも俺は生き残るためにどんな小さな可能性にも賭けていくつもりだ。

 

『『……』』

 

「って、アレ? どうしたんですか、二人とも?」

 

 気づくとアサギとさくらの二人が涙を流しながら合掌して俺を拝んでいた。

 

 え? 本当に何これ? やめてくれよ、縁起でもない。俺はまだ死んじゃいないぞ?

 

「う、ううん……。ちょ、ちょっとね……」

 

「ええ……。五月女君に後光がさして見えたから、つい……!」

 

 さくらとアサギは相変わらず合掌をしながら答えてくれたが、後光って何よ? 俺の頭の上に光の輪っかでも浮かんでいるのか? 本当に縁起でもないからやめてくれ……。

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