「いきなりですまないけど、俺に剣を教えてくれないか?」
自分の弱点を克服すべく病院を退院して俺が向かったのは五車の里にある逸刀流の道場だった。
俺の弱点で特に目立つものは接近戦の弱さ。任務では電磁蜘蛛を使って遠距離からの偵察や暗殺に徹底しているものの、これからも電磁蜘蛛の操作中に本体を攻撃されないとは限らない。一応電磁蜘蛛の操作中は銀華が俺の身体を護衛してくれているが、それでも自分で自分を守る手段は多いに越したことはない。
そこまで考えたところで思い出したのが、対魔忍に伝わる剣術、逸刀流だ。
原作でもこの世界でも某R嬢を代表する逸刀流の使い手達がバタバタ捕まって殉職していくのを見ていたから今まで俺の中で評価は低かったが、それでも逸刀流は大昔から魔族と戦ってきた経験に磨かれてきた完成度が高い剣術だ。実際銀華や佐那のように逸刀流の達人で優秀な対魔忍は存在する。
そして逸刀流には居合切りの技も多数ある。もし俺が接近戦に出るときは電磁蜘蛛の操作中か撤退時に奇襲された時だろうから、どの様な状況でも対応することを理想とした居合切りの技は是非とも覚えたい。
以上の理由から俺は装備科で新しい刀と練習用の木刀を購入して、そのまま逸刀流の道場へ行くと最初の言葉を言ったのだった。
『『…………………………』』
道場の入り口で直角九十度のお辞儀をして入門を希望した俺に付き添いで来た銀華は驚きで絶句。逸刀流の道場で訓練をしていた門下生達も全員驚きで絶句しており、その中には凛子と佐那の姿もあった。
いや、俺も自分で意外かなと思っていたけど、皆そこまで驚くことはないんじゃない?
俺は凍りついた道場の空気に、お辞儀をした体勢のまま気まずい思いをするのだった。
私、秋山凛子は信じられない気持ちで目の前の光景を見ていた。
今、私の目の前ではクラスメイトの対魔忍が持参してきた木刀を持って素振りをしている。
五月女頼人。
まだ学生でありながらすでに多くの任務で活躍して「蜘蛛の対魔忍」の異名で知られている対魔忍。
彼は蜘蛛の使い魔の様なモノを生み出す忍法を使い様々な任務を成功させ、それだけではなく任務で失敗して魔族や武装勢力に捕われた仲間の対魔忍を多く救い出してきた。私も彼に救われたことがある。
つまり何が言いたいかと言うと、頼人はすでに現役の対魔忍に劣らない実力を持つ、私達の中でも頭が一つも二つも抜きん出た存在だと言うことだ。
そんな頼人がいきなり道場にやって来て「剣を教えてほしい」と言ってきた時は、何かの冗談かと思った。今も素振りをしている彼を私だけでなく他の門下生、そして付き添いで来た獅子神も信じられないといった目で見ている。
何故剣を習うのかと聞いたら頼人は「自分の弱点を克服するため」と言った。すでにあれだけの実力を持っていながら更に上を目指すとは頭が下がる思いだった。
「私も負けてはいられないな」
私はそう呟いて気持ちを切り換えると、自分の鍛錬を行うことにした。
自分のクラスメイトで、自分よりずっと実力者である頼人が努力しているのだ。ならば私ももっと努力をしなければならない。
以前の任務でも私は敵の卑劣な罠にかかってしまい、頼人達に迷惑をかけてしまった。だからその汚名を返上するためにも敵の卑劣な罠など容易く食い破る力を身につけなければ。
難しい作戦などの話は頼人がなんとかしてくれるだろう。
「それでどうだろうか? 引き受けてくれないか?」
東京キングダムのとあるビルの一室で、一人のスーツを着た男がテーブルの向こうで椅子に座る人物に話しかける。
スーツを着た男は東京キングダムを拠点とする犯罪組織の中で中堅とされる組織のリーダーで、ここに着た理由はある人物の暗殺をテーブルの向こう側の人物に依頼する為だった。
「最近噂の『蜘蛛の対魔忍』ねぇ……。私も興味はあるし。報酬の額も魅力的だけどさ? 噂じゃ蜘蛛ちゃんは姿を見せないそうじゃない? ……それを探せってこと?」
テーブルの向こう側の人物の声は若い女性のものだった。スーツを着た男はその声に首を横に振って答える。
「いや、蜘蛛を誘き出す作戦は我々の方で計画している。君には蜘蛛を殺すことだけを依頼したい」
「『我々』ね……。まあ、いいわ。この依頼、引き受けるわ」
「おお、それはありがたい。ありがとう」
テーブルの向こう側の人物の返答にスーツを着た男は心から嬉しそうな表情となり礼を言う。
「それでは期待しているよ。……『死神のアンリード』」