さて、これからどうしたらいいのかな……?
朝会で保健医の室井、五車学園に潜入してきた魔界医フュルストを確認した日。俺は学校の教室でこれからどうするべきか考えていた。
俺が取れる選択肢は二つ。
一つはアサギ達の協力を得たりしてフュルストを倒し、対魔忍アサギ3のルートに入るのを阻止する。
これはどうやってフュルストを倒すとか、アサギ達を説得するとか様々な問題がある。しかも、もし成功してフュルストを倒せたとしても、今度はそれを実行した俺が敵に、最悪の場合フュルストの上司であるエドウィン・ブラックに目をつけられる危険がある。
それを考えると、いくら命がかかっているとしてもこの選択肢は取りたくない。
もう一つの選択肢はもう何もかも捨てて五車学園から逃げ出すこと。
この選択肢は以前より考えていた。というか、実行するための準備だけは以前から少しずつ進めていた。
任務で敵組織の情報を調べるついでで、複数の組織が睨み合ってて一時的な安全地帯となっている場所を調べたり、
武器商人や武装組織に武器やら物資を売る時、どんな物が高値で取り引きされるのか調査したり、
偽の戸籍を作るのに詳しい人材を探したり、
逃げた際に追手になりそうな対魔忍の忍法を初めとする戦闘のデータを記録して、それを元に対策を立てたりと、
対魔忍を抜けて五車学園から逃げ出すための準備は万全とは言えないが、それでも七割くらい整っていた。
だから今すぐ五車学園から逃げ出して、対魔忍アサギ3のルートが開始された時のとばっちりから避けるのは充分可能だ。何だったら銀華にきらら、翡翠と佐奈さんと言った知り合いも数人ぐらいなら一緒に連れ出すことも、難しいが不可能ではないだろう。
正直、この逃げるという選択肢は非常に魅力的で今すぐにでも実行したいくらいなのだが、それを止めるのは俺の頭の中にある原作知識だった。
もうほとんどおぼろげでよく覚えていないのだが、確か対魔忍アサギ3には複数のエンディングがあり、その中にはアサギがエドウィン・ブラックと同じ吸血鬼となるエンディングもあったはずだ。しかもそのエンディングは「新世界」とか言うこことは別の世界での話となっていたはずで、その辺りの曖昧な知識が俺を不安にさせているのだ。
アサギは本当に新世界に行ったのか? もし新世界に行ったとしたらこの世界はどうなる? ただアサギとその周りの少数の人間だけが新世界に行くのか? それともこの世界は無かったことになるのか?
これは俺の考えすぎなのかもしれない。しかし万が一、対魔忍アサギ3のルートに突入してアサギ吸血鬼化のエンディングとなり、それでこの世界が無くなって新世界になるとしたら、俺達はどうなるんだ?
そう考えると、とても怖くてここから何の保険も無しに逃げ出すことはできなかった。せめて退魔忍アサギ3のルートにならないという保証さえあれば……って、いや、待てよ?
そこまで考えたところで俺の頭の中に沢木浩介の顔が浮かび上がってきた。
そうだよ。対魔忍アサギ3のルートに突入するのは、浩介がフュルストにそそのかされてアサギを攻略するための「駒」にされてからだ。だったら浩介に気をつけていれば、対魔忍アサギ3のルートに突然するのを避けられるんじゃないか? まあ、それだけじゃあ確実とは言えないが、何もしないよりはマシなはずだ。
というか俺って春休みにそれが目的でアサギの家に行って、浩介に色々アドバイスをしたはずだよな?
春休みでの出来事を思い出した俺は放課後になると早速、浩介がいる中等部の校舎へと向かうことにした。
「ここが浩介がいる教室か。さて、彼はどこに……んん?」
浩介がいる教室に着いた俺は、すぐに彼を見つけることができたのだが、そこで浩介の様子がおかしいことに気づいた。
浩介は教室の窓側の席に座って窓から外の景色を見ているが、その表情は非常に不機嫌そうで、全身から「俺に関わるな」というオーラを漂わせていた。
何アレ? 一体浩介に何があったんだ? まるで春休みに初めて顔を合わせた時のよう……いいや、あの時以上にトゲトゲしている感じなんだけど?
「あ〜……。浩介君? ちょっといいかな?」
「一体何の用だ……って!? さ、五月女さん? し、失礼しました!」
俺が声をかけると浩介は最初、不機嫌そうに睨みつけてきたのだが、話しかけたのが俺だと分かると席から立ち上がって謝罪をしてきた。
「気にしてないからいいよ。それより、この後用事がないんだったら帰らないか? ちょっと話したいことがあるし」
「話ですか? はい、分かりました」
現在の浩介の状況を確認するために俺がそう言うと、浩介はすぐに頷いてくれた。
「それで五月女さん? 話ってなんですか?」
「ん? ……ああ、最近の調子はどうかなって、思ってね。ほら、春休みの時にアドバイスしたけど、それからどうなったか聞いてなかったからさ」
学校の帰り道、浩介の質問に俺が答えると、浩介は嬉しそうな顔となって俺を見てきた。
「はい。五月女さんの言われてパソコンとか種類関係の勉強をしているうちに、家でアサギ姉さんの仕事も手伝えるようになって、お陰でアサギ姉さんに褒められました。……でも」
そこまで言うと浩介は表情を暗くして俯き出した。
「でも? でもどうしたんだ?」
「……家でアサギ姉さんがやっている仕事って、ほとんどが対魔忍の報告書の清書とか整理なんですけど、その全部が要領を得ないって言うか……幼稚園児の手紙レベルなんです。『俺の忍法で敵を倒した』とか『偵察だけの任務だったけど、単なる小悪党だったからやっぱり倒した』とかそんな文章ばかりで……」
うん。そうなんだよ。対魔忍の報告書って九割くらいがそんな報告書っていうより幼稚園児の手紙レベルの物なんです。
「アサギ姉さんと一緒にそんな報告書(?)の清書をしているうちに『俺って何でこんな対魔忍になりたいと思っていたんだろう?』とか『何でこんな脳筋しかいない対魔忍に馬鹿にされないといけないんだろう』と思うようになって……」
そこで浩介は一度言葉を切ると、深い深いため息と共に呟いた。
「本当……対魔忍なんて全員死ねばいいのに……」
「………!?」
浩介の言葉に俺は思わず驚き目を限界まで見開いた。
オイイイイィッ!? 浩介君、何だかヤバい感じに闇堕ちしているんですけどォッ! これ! これって対魔忍アサギ3よりヤバい状況なんじゃないの!? え? 何? これって俺のせい? 春休みにアドバイスをした俺のせいなのか!?