蜘蛛の対魔忍の受難   作:小狗丸

6 / 49
六話

「ちっくしょおおおっ! 覚えていろよあのハゲェッ!」

 

 俺は夜の街を怒声を上げながら全力疾走していた。何故そんな事をしているのかというと、追手の魔族から逃げる為である。

 

 今回の任務はいつもと同じ偵察任務だった。魔族の武装勢力のアジトへ、強襲役の対魔忍の先輩方が仕掛ける前に電磁蜘蛛を使って偵察任務を行い、詳しい敵の戦力を調べるといういつも通りの偵察任務だ。

 

 そして偵察を行うとやっぱりと言うか、事前情報よりも多くの魔族がアジトにいた。それを報告すると案の定、強襲役の対魔忍の先輩方の一人、スキンヘッドで筋骨隆々の対魔忍が「その程度の数、何とでもなる」と言って単独で魔族のアジトに突入、そして必然と言うべきかそのスキンヘッドの先輩はあっさりと魔族に捕まり輪姦されてしまう。

 

 このいつも通りの対魔忍の負の流れに、俺とさくらは揃って頭痛を覚えて額に手を当てたのは仕方のない事だろう。

 

 しかもそれだけならまだいいのだが、あのスキンヘッドの先輩、あっさりと俺達の事を喋ってしまい今回の任務は失敗。俺達は追手の魔族から逃げる為にその場を離れ、今に至るというわけである。

 

「全くさぁ! いくら俺が偵察をしてもそれを聞いてくれなかったら意味がないじゃないか! 自分の実力に自信を持つのはいいけど、相手との戦力差を考えろよな!」

 

 俺は一人で走りながらこの様な事態を引き起こしたスキンヘッドの先輩に向かって不満を口にする。追手の魔族達の動きが予想以上に速かったせいで、今俺はさくらや他の対魔忍の先輩方とはぐれてしまったのだ。

 

「大体! 何で偵察をするのが突入する直前で一回だけなんだよ! こういうのは事前に何回も偵察をして情報を集めてするべきだって、報告書に何度も……げっ!?」

 

 スキンヘッドの先輩だけでなく、依然として出たとこ勝負で任務を行わせる対魔忍の上層部への不満を口にしながら走っていると、運悪く袋小路に迷い込んでしまった。そして壁を登って逃げようとすると、俺が来た道から十人程のオークがやって来て逃げ道が塞がれてしまう。

 

「ゲヘヘ……。見つけたぞ」

 

「あの雄豚と似た様な匂いがする……。服は違うがお前も対魔忍だろう?」

 

 オーク達が何やら嫌な気配を感じさせる声音で話しかけてくる。そしてオーク達が言う雄豚というのは、恐らく捕まったあのスキンヘッドの先輩の事だろう。

 

「グフフ……。それにしても中々可愛い顔をしているじゃないか」

 

「そうだな。あの雄豚は趣味じゃなかったが、こいつならヤレそうだ」

 

 ……………!?

 

 今のオーク達の言葉を聞いた瞬間、俺はかつてないほどの悪寒を感じた。この悪寒は一体何かと思った俺はオーク達を見て、悪寒の正体に気づいた。……気づいてしまった。

 

 

 俺を見るオーク達の視線にある「熱」が籠っており、更に全員が股間を膨らませている事に。

 

 

 ここまで言えばお分かりだろう。つまりこのオーク達は俺を性の対象と見ていて、あのスキンヘッドの先輩同様の事をしようと考えているのだ。

 

「………」

 

 オーク達が俺を性の対象に見ているのを知って、俺の中で「プチン……!」と何かが切れる音がして、俺はある行動を起こした。

 

「観念しな。大人しくしていたら命までは……!?」

 

「な……!? か、体が動かねぇ!」

 

 俺の元へ来ようとしたオーク達の動きが一斉に止まる。オーク達は何故体の動きが止まったのか分かっておらず、自分達の体に細い「蜘蛛の糸」が絡まった事に気づいていなかった。

 

 そう、オーク達の動きが止まったのは電磁蜘蛛の糸によるもので、退却を開始した時から俺の所に帰ってくる様に電磁蜘蛛に指示を出していたのだ。いや、本当に間に合って良かったよ。

 

 そしてオーク達の動きが止まったのを確認した俺は、電磁蜘蛛に次の命令を出した。

 

「ん? 何だこれは? ……蜘蛛か?」

 

「だがこの蜘蛛、光っていないか? 何故?」

 

 オーク達がようやく電磁蜘蛛に気づくがもう遅い。電磁蜘蛛は俺の出した命令を実行するべく、その前段階としてその体を光らせていた。

 

 俺の電磁蜘蛛は最大で三キロメートル先までの遠隔操作能力と、電磁波を用いる様々な能力を持っている。そしてその中には「周囲の電磁波を吸収して電気に変換、そしてそれを増幅して放出する」というものがある。

 

 通常の出力では精々スタンガン程度の威力しかないのだが、今のような電力源が大量にある街中で最大出力を出せば、落雷が直撃したくらいの威力を出せる。しかしそれをすると、それによって生じる熱量と衝撃に電磁蜘蛛の体が耐えきれず吹き飛んでしまう言わば(電磁蜘蛛の)自爆技である。

 

「喰らえ。『集雷獄』」

 

 集雷獄。それが電磁蜘蛛を使った技で、俺が唯一名前をつけたものである。

 

 俺が技の名前を呟いた瞬間、電磁蜘蛛から強大な雷が発生して視界が光で白く染まった。そして次の瞬間、光が収まると十人程のオークは全員、電磁蜘蛛と一緒に消滅しており、地面には焼き焦げた後しかなかった。

 

「誰も見ていないよな……」

 

 俺は周囲を見回して目撃者がいないのかを確認する。

 

 集雷獄という技は俺の切り札で、この技の存在は誰にも、それこそ最近一緒に任務を共にしているさくらにも知らせていない。遠距離からの敵の暗殺が可能な集雷獄の存在が知られたら、これから先俺は偵察任務だけでなく暗殺任務にも駆り出されるのは確実な為、絶対に知られるわけにはいかないのだ。

 

 その為俺は周囲に今の目撃者がいないのかを確認してこの場を去ったのだが、逃亡中で周囲への集中力がいつもより欠いていた俺は、今回の任務に同行していた対魔忍の先輩の一人が遠くから一部始終を見ていた事に気づいていなかった。

 

 その後、対魔忍の先輩の証言によって俺の電磁蜘蛛が暗殺にも使える事が知られるようになり、俺の下に偵察任務だけでなく暗殺任務もやって来るようになるのだった。

 

 ……誰か助けて。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。