「さぁっ!! どこからでもかかって来い!!!」
「ああ~もう立ち上がるのも面倒臭くなってきた・・・終わったら起こしてくれます?」
「えええええええええっ!?」
出鼻挫いてんじゃないわよバカ神! ともう既に敵を前に大の字で寝始めた貧乏神を起こす桜市子。貧乏神のこの時たまにやる気が無くなるのには度々驚かされる。
「・・・・あのさぁ・・・勘違いしてるみたいだから確認しとくけど・・・君らまさかたんぽぽを倒せば戦いは終わるとか思ってないよね・・・?」
カランコロンと下駄を鳴らす福の神・たんぽぽ。漆黒の長い髪が風に揺られて舞っている。
「福の神界が消し去りたいのはお前の幸福エナジーなんかじゃない・・・・お前が大量の幸福エナジーを持っていたという『事実』だ。分かってる・・・? ここで仮にたんぽぽを退けたとしてもいずれ第2第3の
一切の表情が動くことなく腹話術のみで話す福の神の鉄面に、内心気味を悪く思いながら市子は力強く鼻で笑ってやる。
「はっ! ジョートーよ! 私を消したいんだったら消しゴムでも何でも持って来て見なさいっての!─────って言うか・・・・アンタがやらかしたことは、そんな
手に込められた力で、どんどんと白くなるほどに力強い意思を表す。
「覚悟・・・しなよ・・・・・・・・・私の大切な人たちに手を出したらどういう目に合うか、その体に叩き込んでやるっ!!!」
ふざけるなっ! と今言われた言の葉以外にも神の耳に届く言魂。だがそんな言の葉など万年幾度と聞いてきたことかと、小娘を見下ろして決意するたんぽぽ。
「あっそ・・・だったらやってみなよ」
ぷにゅっと柔らかい音が聞こえるかと思うほど、豊満な胸から取り出すのは刀の『柄』。それもヌイグルミの両手と合わす四本の『柄』。
「やれるものなら・・・やってみなよ・・・言ったからには・・・・やってみなッ!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ええオッパイしとるよなたんぽぽちゃん」
「・・・この死神は恥ずかしげ無く言う辺りが変に男らしくてムカつくわん!」
そう話し込むのは市子たちから少し離れた場所の所。これから戦闘となる場所を眺めるには最適な場所を陣取っているのは常に微笑を浮かばせる死神・金盞花こと市丸ギンと、鍛冶と製鉄の神である金山神・金山姫が静かに鎮座している。 金山姫の新たな
『君はもう見とれ』、この流水は見て愉しむものだ。と市丸は微笑んで胡座をかいていた。そして、よく見てみれば近くには意識を失っていた金山彦の姿もあった。
それもあったせいか成り行き上この死神と一緒に静観する流れにへと捕まってしまった。
「取り敢えず鍛冶道具を体内に戻してフォームチェンジさせるわん」
「えぇー」
「何よん!」
「いやいや駄目やろそれは、そのまんまが一番可愛いて」
「ふん! 男はやはり見た目で女を判断するのねん!」
確かに見た目だけで判断するのはいけないことだと思うかもしれないが、やはり鍛冶道具である
「・・・確かに身軽なのはこっちの小さいままの方が何かと利点かもねん」
「うんうん。こっちの方がええって」
「そう・・・・だったら
金山彦よりも長い金髪である幼女の金山姫の頭を優しく撫でる市丸の姿は、どこか優しげな兄に見える。だが、細い眼差しから見える
「ボクら一気に仲良うなったと思わん? ええ傾向やねぇ」
「死神と仲良くなってもねぇん」
例え同じ神だとしても《死》を司る神にはやはり壁を感じる。それは他の神たちも同様だが、大抵は気になんてしない。神は自分勝手で気まぐれで悠々自適で身勝手だ。《死》すらも簡単に受け入れる神だっている。
「でっ? 何を見ようとするの。たんぽぽの言うように、福の神界が消し去りたいのは大量の幸福エナジーを保持していた『事実』。それを抹消しなければ第2のたんぽぽが来るだけよん。福の神には色んな
と言うより今回だって死神が手伝いをしてくれている筈なのだ名目上。だがその手伝いする死神が目の前で傍観を決め込もうとしているんだから金山姫は再び溜め息が溢れてしまう。福の神だからといってこうなんども溜め息を吐いていたら幸が逃げていくのを感じざるえない。
気絶している金山彦を膝枕して上げていると、胡座をかいた膝に、肘を突いた腕に掌に広げた顎を乗せたまま答える市丸は何処か愉し気に、
「今回はあの娘らが先に説くみたいやし。静かに、神らしく、何もせずに傍観しながら愉しもうて、とボクは単にそう思っただけや」
「その巻き添えを食らったのかしら、わたし達」
クツクツ、と喉から笑う白い死神にまたも不気味に思いながら、金山姫はたんぽぽと桜市子たちに目を向ける。
「あぁ。それと気になったのがあるのだけれど・・・・」
「うん? なァんや?」
「わたし達・・・・
そうなのだ。自慢や自信などでは無く、当然自分たちは『神』なのだ。いくら傍観を決め込もうと思っていても他の連中は監視やら何か対策をしなければ安心してあのハチャメチャに闘っている三人を見ていられない筈なのだ。それなのに対し先程から自分たちを見つけられていない。“見えていない”かのように感じとれるのだ。
「あぁ。そんなら簡単や」
「・・・なにをしたのかしらん」
「あーかんたん簡単。ボクらを見えなくする術を
はぁ? 当然のように金山姫は市丸に向けて怪訝な眼差しを向ける。
神ともなれば確かに人間から視認出来ないような技や術は沢山あるが、この男はそれが出来るらしい。それを詳しく聞こうと金山姫が身を乗り出した瞬間、ガツンっ! と頭を打つ。
「あ痛っ!」
「縛道の七十三〝
そう言って市丸は指を微動させれば、薄い壁のようなものが金山姫でも視認出来るくらいに出現した。
《倒山晶》、逆三角錐の中に対象を入れ、隠してしまう補助系の縛道であり、他の鬼道なども組み合わせることで隠すことを可能とする鬼道だ。
これは死神の主要な戦闘術のひとつであり、『鬼道』と呼ばれる呪術。言霊を唱えて霊圧を制御し、多様な技を発動する。『鬼道』の中でも攻撃に特化したものを『
だが、そんな『鬼道』は市丸や一護が元居た世界での死神が使えることであり、
「・・・死神専用の術かしらん? もうぶっちゃけると、何でも出来るのか死神は・・・・」
「あぁ~これなぁ。これはボクくらいしか出来ひんねぇ。
「そういえば、貴方はその彼と戦っていたんじゃないのん? 成り行きで今一緒に居るけどん。大丈夫ん?」
そう言った瞬間だった。ザザッ! と黒い何かが目の前に広がる。
「てめぇ。市丸・・・・」
「来るの遅かったわ。金山姫ちゃんと一緒に安全圏で見とってるでぇ」
「鬼道で隠れてんな!? 声聞こえねぇよ! 見えねぇよ! 今だって何も無ぇところに話しかけてんだぞ俺!」
恐らくズバ抜けた才能による天然ものの『霊圧探知』で市丸の位置座標などが分かったのだろう。確実にそこに居るという自信の現れか、市丸の位置を確実に見抜いて睨んでいる。
金山姫はこの瞬時に、彼が隣に座る死神・金盞花・・・いや、真名が市丸であろうその死神と並ぶ強者なのだと理解した。
「ど、どうするのよん?」
「
(こ、こいつ何処までが本気なのかしらん!?)
調子を崩さないこの男に戦慄を覚えながら、目前で空中に立っている青年に目を向ける。
オレンジ色の髪に、眉間には皺。だが整えられた顔がとても男前で、体つきも筋骨が少し目立ち、雄々しさが肌から伝わる。だが、不良に見えるのは仕方ないだろう。髪染めてるから。
そんな目の前から動かない一護を観察していた金山姫だったが、すぐに別のことで意思が戻る。
「ほぉら。動いてきたで。一護」
その市丸の言葉を発した瞬間、まるで何か気付いたように、一護は漆黒の着物、霊界・
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『何かに気付いたか、一護』
そう聞こえてきたのは、妙に年若いというのに老熟したような低い声。未だに卍解状態である黒刀『
そして、一護も斬月から言われたことは目前で起きていることに全てが語られた。
『・・・・あの貧乏神が何やら手を貸したらしいな。この
目の前で起きている光景は、桜市子という『幸福エナジー』を大量に保持している少女と、一護が助け出したいと願う
『フム。近代の男児はあのような格好の
斬月はまたも刀ながらにして奇怪な溜め息を吐き、一護と共に空を走る。
『何やら、この仏女津市という都市に集う人間の『不幸』とやらをあの者らの『幸福』とやらで何かするらしいな』
「・・・何で分かんだよ。そして『~やら』でとかじゃ分からねぇぞ」
『とにかく、遊戯らしきことをやっているのだろう。それくらい観て察しろ一護』
つまり一目見ただけで洞察したらしい。己の半身に、一護はここまで頼れる存在が有り難くて仕方なかった。だから、どんどんとスピードを落とし一護も無闇に突っ込むことを止める。
『早計よ。お前は深く考えずに突っ込む。よく観察せよ。よく思考せよ。さすれば必ず糸口を見つける』
「糸口、きっかけか? だけど・・・」
たんぽぽと対決している桜市子を相手させたまま考えるのも気が引ける一護だったが、斬月からまたも諫言を受ける。
『このままお前が突っ込んだ先にあるものは何だ? 今はあの娘子が相手し、悪いと気が引けているのが今のお前の心境なのだろう』
最早隠し事は出来ないな、と苦笑しながら一護は上空から眺める。
『だがそこはお前が気に病む必要性が皆無であり、無駄だ。もっと先だ。先を考えよ、一護』
「先だと?」
『お前はあの福の神を助けるのだろう?』
一護は天鎖斬月の柄を握り返すことで応える。斬月もそれを理解し、主の行く末を確かめる。
『では、お前に問う。何ゆえに
「なに?」
『何ゆえに助け、あの福の神を救うのだ?』
【救う】
一護の脳裏に浮かぶ言葉は、余りにも聞き慣れない言葉。だが、霊感があり高校生であった一護にとって、彷徨う霊たちを成仏させるかを考えていたあの頃を思い返していた。
長い年月。それれもう時間を拘束させない『神』だからこそ軽く思う感覚は、一護を無意識の内に感じさせていた。だから長い間たんぽぽと会うことも無く、悩みを聞いてやれなかった。だからあそこまで歪んでしまった。一護が居たら解決出来た、とまで高尚な考えなんて持っても、考えてもいなかったが、でもやはり一緒に居てやりたかったと一護は思う。
独りは人も神も病んでしまう。
負の感情を吐き出せない。ずっと心根に留まってしまい腐らせる。だからたんぽぽがあんな風な考えを抱いてしまったんだ、一護はある程度の事情を前もって市丸から聞いていたのだ。
確かに端から見たらこれは『救おう』と躍起に頑張ってるように見えるかもしれない。だが、一護が抱いていた考えはそうじゃない。
「斬月のオッサン・・・・じゃねぇか。─────斬月。お前分かってて俺に言わせようとしてんだろ?」
一護は黒い刀身を輝かせる天鎖斬月を目前まで移動させて、小さく笑みを零した。
そして同じくして、貧乏神の紅葉が用意したこの先の展開が、一護が望むものだった。
「見届けるぞ。俺が情けなく自分のことしか考えてなかったこの結末を、しっかりと、見届ける。オレはアイツを知りたいんだ」
斬月はその主の言葉の意味に、重き想いに、最高の切れ味でもって応えることを意を決した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
突如として貧乏神が引き起こした勝負。紅葉が同僚の綾目から借りた(奪った)貧乏神
そんな中、対決していた二人の決着を、『エナジースプリンクラー散布っぷ』によって不幸に陥った人間を救いまくる。という不幸エナジーを祓う勝負をすることになっていた。他人の幸福エナジーを勝手に使える貧乏神
この勝負を出された時、たんぽぽは目に見えるほどに動揺していた。己の幸福エナジーを使われる・・・いや、
勝負の流れは、歴然だった。桜市子は片っ端から不幸に陥る人達を奇跡的な『幸福』によって不幸を払い、救っていき。たんぽぽは幸福エナジーを行使することに苦痛を味わうほどの抵抗感で、汗を流し、この勝負を始めた貧乏神に悪態と睨みを働かせるだけで、一向に幸福エナジーを使おうとはしなかった。
ただ一つだけ、不幸で陥った心臓病の発作で倒れ伏した祖父に駆け寄って泣きじゃくる子供のお願いを前にして、たんぽぽは幸福エナジーを使おうと、道具を使おうと杖を振り上げるも、ブルブルと手が震え、大量の汗と
とうとう現実を見ることを拒絶するかのように、苦しそうに、閉じたくなくても、閉じないと駄目だと自分自身に言ってるかのように、瞳を閉じてしまったたんぽぽ。
────なにを、やっているんだ、私は・・・・
たんぽぽの心境を他所に、その目の前の不幸を払うかのように脇から現れた対戦相手である桜市子がその祖父と孫の不幸を祓い、見事に解決させてみせた。
そして、勝負は決まってしまった。
※
神界《たがまがはら》の蚕神たちが住まう区域、その近くの河川敷で、涙を流したまま下を向いて歩いて行く小さな福の神の女の子が居た。
その子は、いつも泣いていた。一体何に泣いているのか。後から知ることになるが、蚕神の金色姫は、心配そうに眼差しでそれを見ていたのを思い出していた。
「・・・・・・・・・む・・・こ・・・ここは? そうか・・・あの忍者娘にやられて気を失っ・・・・・・・・・」
気が付いた金色姫は、市街地の真ん中で寝ており、周囲の人間は何故か何も反応せずに通り過ぎている。派手な破壊痕跡が残るというのに何も無い。無反応と無関心。何も気に留めない。
恐らく死神の仕業だろう、と金色姫は考える。こういう神技はあの男神は使えたのを福の神の長・
そんな事を考えるくらい脳が復活してきた金色姫は、目の前からやって来る人物に驚く。
「死神、さま?」
「怪我してねぇか?」
余りにも、この死神さまが敵意が無かった。
「怪我は、してねぇ」
「そうか」
「・・・死神さま、それよりも」
金色姫は僅かに残った生糸で薄着の服を着込み。直ぐに歩く。だが、忍者娘から受けた攻撃が以外と効いていたのか足元がふらついてしまった。
(ぐぁ・・・)
「・・・大丈夫では、なさそうだな」
ガシッ! と、しっかりと一護に掴まれ、体勢を整わせてくれる。その腕はとても太く、強く、暖かかった。そして、脳裏に浮かぶのは泣き顔の幼きたんぽぽ。もし、あの幼いたんぽぽがこの優しくも強い立派な腕で掴んでいたなら、たんぽぽも・・・、
考えただけで、金色姫は自然と涙腺が弛んでしまう。
「うぐぅ・・・ふぐぅぅぅ」
「・・・・・・・・・」
「
「・・・・・・・・・」
「そうすりゃ・・・そうすりゃぁ、たんぽぽも、」
いや違う。と、心の中で呟いた。
たんぽぽはいずれは曲がってしまっていただろう。他の神よりも、人間に情を移してしまったから、金色姫や金山神
だから、この死神は悪くないというのに、やはり怒りを吐き出したくてこの死神をわるく言う。
「・・・・・・・・・あぁ」
「・・・ッ!・・・・」
それなのに、この死神はゆっくりとして、静かに肯定してくれて、金色姫の話を聞く。金色姫は一護に顔を向ければ、そこには一切の迷いの無い瞳でたんぽぽの居る方向にへと向いている。
「だから、はやくたんぽぽの所に行くぞ」
力強い一護に支えて貰いながら、金色姫とその先にへと向かった。
戦いの跡を追いながら、一護と金色姫はたんぽぽが居る公園にまで移動していた。
そこに映っていたのは、
(あぁ・・・たんぽぽ)
たんぽぽの慟哭だけが、響き渡った。