福神と死神が!   作:十握剣

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伽籃菜(カラナ)となっていますが、花の名前は『カランコエ』と言います、花言葉は『幸福を告げる」「あなたを守る」「おおらかな心」「た くさんの小さな思い出』なのです!
一護にぴったりだと思いこの花の名前にしました!

伽籃菜はカランコエを中国名にしたらこうなりました(´Д`)
中国語でなんて読むのか分かりませんが(照)

文章が可笑しいかもしれません┐('~`;)┌


Round零壱「伽籃菜─あなたを護る─」

 ザサッザサッと草の上を歩きながら近寄る銀髪の男、男の顔には不気味な程に微笑む表情(かお)、そして身体の隅々まで舐め回させる蛇のような細い目。

 

 正に『蛇に睨まれた蛙』のようだった。

 

 動けば間違い無く襲い掛かる、そんな思考を巡らされてしまうその銀髪の男は真っ直ぐに一護の前まで歩いて来た。

 

「市丸・・・・・ギン───なのか・・・・?」

 

 一護は黒い着物装束にして死神の衣装服でもある『死覇装』を揺らしながら勢い良く立ち上がる。たんぽぽと金色姫は目の前の銀髪の男に恐がり、一護の後ろに隠れる。

 

「いや、違うでぇ、僕は君の知っとる市丸ギンや無い、僕は市丸ギンの霊子(れいし)で造り上げられた人形の市丸キンや」

 

 なんともお茶らけた雰囲気で市丸は腰に手を着きながら一護に微笑んで言う。だが逆に一護はその理由を聞いてゾッと総毛立つ。だが市丸はすぐに、

 

「ウソウソ、嘘やって、僕は正真正銘の市丸ギンやでぇーっ♪ 信んじたー?」

 

なんの悪びれも無い市丸の嘘に一護は直ぐにこめかみに皺を寄せ、市丸に言い寄る。

 

 

「おい、此処は一体どこなんだ? 何でオレは死神になってる? 何で死んだ市丸(あんた)が此処に居る? てか帰れるのかコレッ!?」

 

「最後のが本音っぽいわな」

 

 多少ゆるんだこの場の空気にずっと一護の後ろに隠れながらチラチラと見ていたたんぽぽと金色姫は市丸の目と合う。

 

「おぉー、これはこれは、養蚕(ようざん)を伝えた神様に・・・・・」

 

 市丸は金色姫を見て、そして隣に居る眼鏡を掛けた女の子を見た。

 

「んー・・・・? あっ、福の神のたんぽぽちゃんやないの?」

 

 ビクッと何故か名前を呼ばれて震え出すたんぽぽ。

 

「君ンとこの上司から聞いた話なんやけど」

 

 たんぽぽは自然と一護の死覇装を掴んでいた。まるで市丸の言葉自体が刃物のように突き立てられたように震えて臆する。

そして市丸はぐいっとたんぽぽの前まで顔を寄せ、細い目が見開き、市丸の蛇のような紅い瞳がたんぽぽを写す。

 

「可哀想ォに、幸運にした人間が自ら不幸に転じたやて?」

 

 ガクンッ! と一護はすぐに倒れそうになった小さなたんぽぽを支えた。一護の手からも感じるほどにたんぽぽは震えていた。一護は何故たんぽぽがこんなに震えているのか知らないが、すぐに一護は市丸を睨んだ。

 

「てめぇ」

 

「まぁ待ってーな、それは僕も予測しといてなかったわ」

 

 驚くほどに苦しそうな顔で涙を流すたんぽぽ。

 その横に金色姫も心配そうにたんぽぽの手を握ってあげていた。

 

「たんぽぽは、福の神として人間を幸運にしねえどいげねぇんだ」

 

 そしてポツリと金色姫は呟くような小さな声で喋る。

 

「だがたんぽぽが助けた人間は目の前の幸運だけに飽き足らず悉(ことごと)く欲に目を眩ませ、破滅の道に走ってぐ・・・・・」

 

 金色姫はたんぽぽを撫でながら一護に言う。

 

「たんぽぽは、優し過ぎんだ」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 たんぽぽは一旦金色姫に任せ、一護は市丸に連れて行かれていた。一護が行こうとした時に、たんぽぽは潤んだ瞳で『また・・・また! 会えますかっ!』と聞かれ、一護は困惑していたので完全にはっきりとした返事が出来なかった。だが変わりにたんぽぽの緑の丸い帽子越しで何回か撫でると少しだけ曇りを無くした笑顔で一護を見送ってくれた。

 

「神々が暮らす神界“たかまがはら”や」

 

 そう言って説明をする市丸の後を追う一護は意思がまったく付いていけないでいた。

 

「『高天原(たかまがはら)』だと?・・・・・天津神や国津神が住んでるって話の」

 

 市丸はまさか知っているとは思わなかったのか、振り返って一護に聞いた。

 

「なんや、知っとるん?」

 

 そう、一護は死神の力を無くしたとは言え、やっぱり死神に関連する話に興味があったので高校の図書室で『日本神話』や『神器』などを読んでいたりしていた。だがどっぷりとハマる訳も無い。一護も未練がましくしている自分が嫌だったのか、授業などで図書室を使う時以外では読まなかった。

 

「まぁ、神界なんやからその天の神様や国の神様も()るとは思うわ、実際にまだ僕は見て無いんやけど・・・・・」

 

 そう言って市丸はひらひらと手を揺らして『行くで〜』と《たかまがはら》を進んで行く。一護は怪奇過ぎるこの神界に戸惑いながらも市丸の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 市丸は藍染に殺された。

 

 

 

 その事は一護は理解している、目の前で死んで逝く市丸(アイツ)を見たのだから。

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 一護はハッと気付く。

 

「あんたの───」

 

「んー?」

 

 市丸は一護の方に振り向くと、驚いている顔をした一護が市丸の服を見ていた。

 

「んー、この恰好?」

 

 市丸の今の恰好は虚圏(ウェコムンド)に居た時と同じ白装束の着物だった。

 

「なんやこの世界に来たらこの服だったんよ」

 

 そんな市丸の言葉に一護は反応する。

 

「“この世界”・・・だと・・・・?」

 

 市丸は一護の反応を楽しむように微笑んだ後、また《たかまがはら》を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんでここは何処だ」

 

 市丸の後を付いて行った一護はいつの間にか地獄の如し場所に連れられていた。

 

「死神の住む『死神界』や」

 

「死神界ッ!? なんだそりゃ!」

 

「どうやらそーいう所みたいやで死神界(ここ)

 

「尸魂界じゃねぇのか!?」

 

「違うなァ〜、なんかちゃうみたいやでここは。当て字も無いでぇ〜」

 

「おいテメェ、当て字とか言ってんじゃねえぞ。必死に考えてああなったんだよ・・・・・」

 

「ぶっちゃっけ虚圏(ウェコムンド)とか酷いやろ、“こけん”でエエやん」

 

「やめろォォ! お前になんの権利があってそんな否定的な言葉を吐く!」

 

 二人が(主に一護)騒いでいると、いつの間にやら大きな広場に出ていた。周りは薄暗く、『う゛ぁぁぎゃぁぁっっくぅぅ!!』という呻き声や『うわきゃぁぁぁあああ』という叫び声などが聞こえるが図太い一護は無視して市丸を睨む。

 

「ここ何処だよ。本当に説明しろ、何でオレは『死神』になってんだ? そしてこの世界はなんだ!?」

 

大声を出して市丸に質問する一護なのだが、ヌウッと何か黒いモノが上から見ているのに気付く。頭上を確かめるとそこには骸骨の顔の骨面が一護を目で捉えていた。

 

「うおっ!!」

 

さすがに一護も驚く、だが声の反響で反応したのか骸骨の顔の骨面が綺麗に半分に取れ、素顔を露(あらわ)になった。

 

「切る切る♪」

 

可愛らしい女の子の顔で物騒な言葉と共に現れた。

 

「あの大きくてシスターのような恰好をしたのは僕の上司の苺(いちご)姐さんや」

 

「へ、へぇえ〜・・・・“いちご”ねえさん」

 

苺と呼ばれた巨体なシスターに一護は狼狽えていた。

 

「因みに苺姐さんは同じ名前だった死神は何故か次々と行方知らずになっとるんや、発見した時には何故か首と胴体がお別れしとるし首なんて“スパッ”と綺麗に切れとるし。あっ、苺姐さんキレとる?」

 

「切れて無いっスよ〜♪」

 

笑顔で市丸の振りに応じる苺だが、一護はガクガクと震えていた。

 

「そんでなぁ苺姐さん、この子の名前なんやけど───────」

 

スバッと市丸の肩を掴んで苺から距離を置く。

 

「(テメェごらぁ、理由とか聞けると思って付いて来てみれば何だこりゃあ? “偶然”俺の名前が一護(いちご)ってだけで首を切られる事に進んじゃってんだこれはぁ〜??)」

 

小声で話す一護に市丸は至極面白そうに微笑んだまま答える。

 

「(だから言ったやろぅ? 君の名前は今日から『伽籃菜(カラナ)』や、そう名乗りィ)」

 

そこでようやく市丸が一護に対して呼ぶ名前が『伽籃菜』なんだな、と思った一護だが反論の異議を唱えようとするが、

 

「反論するんなら言えばエエやろ?」

 

そう言って一護は振り返る。

 

「ふっふ〜ん〜ふふ〜ん♪ たらら〜っらっら〜♪」

 

死神の持つ鎌を綺麗に研いでいた。

 

「無理」

 

「なら名乗りィ」

 

クソッ、畜生っ! と地面を殴り付ける一護に市丸は苺と着々と話を進める。

 

 

 

 

どうやら一護は『霊的神災』というものに巻き込まれていたらしく、無意識の内に神界に繋がる通路を渡っていたらしい。これは本当に稀な事で霊的神災が起きても大抵は人間など気付かないでやり過ごしていたのだが、一護は生まれながらして高い霊力を持っていたのが災いとして我が身に招いたらしい。

 

だがそこで一護は気付く、一護にはもう霊感が塵一つ無くなっている筈で、それで死神になれないと答える。

だが元々死神になる程に高かった一護の霊力はあの技術開発局の創設者でもある浦原喜助(うらはら・きすけ)でも気付かない程に微々とく残っていたのだ。

 

だがそれは“視える”程強く無く“感じる”程強く無い。

 

霊的神災は一護の霊力に反応して招かれた。

 

『王鍵』を作りだそうとした藍染を倒した一護の霊力である。神界が反応しない訳が無く、そして同時に『崩玉』によって神の如く強さを持った藍染と戦ったあの“空間”に反応しない訳がどこにも無く。必然的のように一護をまとわりつくように反応していたのだ。

 

死神と虚(ホロウ)の境界を破壊し超越者となった一護。

 

その死神と虚を低列と見なした強さを誇った藍染惣右助。

 

その二人によって『霊的神災』が反応した。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

市丸はどうやら事前に苺から聞いてらしく、一護に説明していった。

この世界が神界なのだ、とまだ十分に理解していない一護だったが渋々分かっていくよう徐々に努力をしていくことを決意。

 

「・・・・それじゃあこの『死覇装(ふく)』は何だ? 死神の感覚・・・みたいなものも感じる・・・・」

 

「あぁ、それは君ン中に極僅かに残っとった霊力で作られたみたいやねぇ。神界に居ると徐々に回復していくらしいわ。──────要らない力も一緒にな・・・」

 

そう市丸が言うと薄暗いこの広場から声が聞こえてきた。

 

「いちごー、持ってきたー」

 

「もってきたー♪」

 

「襲(おそ)い、じゃなくて遅いよー! 架梨(カリン)に幽子(ゆず)ー」

 

やって来たのは小さな、さっき会ったたんぽぽと金色姫と同じような背丈の二人の女の子が、超特大の大岩を運んで来た。大岩には札が貼ってある。

 

は、何あれ? と一護が思っていると同時に苺が言った名前に反応した。

 

「夏梨(カリン)に遊子(ユズ)だって!?」

 

「うん? だれ?」

 

「知らない神様だ!」

 

ドスンッッ!! と大岩を一護の目の前に置くと二人は直ぐに苺に隠れるように一護から離れた。

そして薄暗いので顔がまともに見れない。

 

「まぁ、伽籃菜(カラナ)くん。君は一度“完全虚化”になってもろうわ」

 

ボソッと市丸の口からとてつもない事を聞いた一護。いつの間にか背後に回った市丸に一護は直ぐに振り返ろうとすると、市丸は死神の移動歩法である『瞬歩』で近寄る。

 

「まずその岩に張り付いててもらうわ」

 

ズダンッッ! と物凄い衝撃を当てられた。

護挺十三隊八番隊隊長を務めている京楽春水の技の一つである『撞指(つきゆび)』を食らったのだ。人差し指と中指を相手の背中に付け、そのまま相手を弾き飛ばす技だ。

 

(がはっ!?)

 

いきなりのことで一護は受身を取れずに大岩にぶつかる。

 

「縛道の三十・・・《嘴突三閃(しとつさんせん)》」

 

そして市丸は左手で三角形を描き、各頂点にできた3つの嘴で一護の双肩と腰を大岩に張り付けた。

 

「さぁ、“相棒”がお待ちかねや」

 

一護は目の前には市丸の掌がかざされ、意識が一瞬にして薄れていった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そこは暗い夜の空に天を衝(つ)かんばかりの摩天楼の群れた世界。

 

一護はその夜空にひょっこりと現れた。

 

「────って、またぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!?」

 

そして一護は抵抗虚しく落ちていく。

 

だが一護が落下する場所に丁度良く漂って浮いていた摩天楼にドガァアンッ!! と落下した。

 

「ぶはあっ!!」

 

普通は死ぬであろう衝撃だったが、一護の身体は何処も怪我など無かった。

 

「クソッあの微笑み野郎」

 

一護は頭に降りかかった摩天楼の砕けた粉を振り払う。

 

そして同時にこの場所は見覚えがあった。

 

「ここは、オレの・・・・────」

 

 

 

 

 

 

 

「精神世界だ」

 

 

 

 

 

 

 

バッと一護は声のする方を向く、だが。

 

「うん? あれ、居ねぇな」

 

声のする方向を向くが誰も居ない夜空が広がっており、夜空から照らす満月が浮いている数々の摩天楼を覆う。

 

「今の声は確かにアイツの声だと思ったんだが・・・・」

 

一護はポリポリと頭を掻きながら辺りを見渡すがやはり“アイツ”が居ない。

 

「・・・・・・・・・・何期待してんだオレは」

 

確かに死神のような霊力が少しずつだけ戻っていく感覚を感じていたとは言え、もう二度と“アイツ”には会えない。

 

 

 

 

 

藍染を倒す為に。

 

 

 

 

一護は横になって浮いている摩天楼を眺めながら手を宙にかざす。

 

 

出来ることなら、

 

会いたい。

 

話したい。

 

戦いたい。

 

教えてもらいたい。

 

 

 

『戰(たたかい)』とは何かを教えてもらった己の分身にして片割れ。

 

そして最後の最後まで味方として、戦友(とも)にして、その死神の力が無くなる寸前まで一緒に戦ってくれたアイツと、また会いたい。

 

 

一護がそんな風に一人黄昏ていると、

 

 

 

 

「おい、一護」

 

 

 

 

フッとまた声が聞こえた。

一護は直ぐに反応するが目の前にはやはり居ない。

 

 

「ふっ」

 

一護は鼻を鳴らしてまた黄昏に浸ろうとしたその時、

 

「いつまで格好つけているつもりだ、馬鹿者が」

 

ガンッ! と一護の頭に物凄い衝撃が走った。

 

「ぎゃああああああ頭がぁぁぁぁ!!!」

 

一護は頭を押さえながらのたうちまわる。

 

だが一護はすぐにガバッと頭を上げる。

 

「声がしたらもっと周りを詮索せんか、不用心過ぎる。それではお前がすぐに怪我をする切欠(きっかけ)になるのだぞ」

 

 

そんな説教染みた言葉で話している者は漆黒のコートに身に包み。片手には今まで一護と苦楽を共にしてきた分身、片割れ、相棒が握られており。その握っている人物こそが、一護の相棒。

 

 

「天鎖・・・・・斬月、か?」

 

コートに着いてあるフードから見えた表情(かお)は、口を少しだけヘの字にさせて笑う『天鎖斬月(とも)』が居た。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

外では一護を大岩に張り付けたまま市丸は胡座をかいて、膝に肘を着いて待っていた。

 

「ねぇねぇ、金盞花(きんせんか)」

 

「んー? 何やねん苺姐さん」

 

『金盞花』と呼ばれた市丸。藍染を殺す為に棄ててきた己の部隊。護挺十三隊三番隊。その三番隊の隊章にして矜恃である隊花(たいか)は“金盞花”だった。

 

金盞花の持つ花の意味は“絶望”。

 

市丸自身もこの花の名を呼ばれる度に、厚かましいと思えた。だが正にこの花の名は市丸に似合うかもしれない。

別に藍染に殺された事で絶望に満ちている訳では無い。

 

だが市丸は絶望を教えることが出来る。

絶望とは何かを見てきた。

その耳で聴いてきた。

 

あの藍染惣右助(かみ)を殺す為だけに磨き挙げた鎗で体験した。

 

その絶望(できごと)を教える事ができるかもしれない。

 

それに、三番隊に居た時の記憶を留めておきたいと、また思ってしまったが、やはり厚かましいと市丸は微笑みを溢した。

 

「その子どうすのー?」

 

苺の片手の大きな指を掴んでいる架梨と幽子も市丸の返事を待つ。すると市丸は変える事無い微笑みで苺の質問に答える。

 

「どうするも───・・・・」

 

「・・・?」

 

「どうするも何も、なーんも無いですわ。」

 

「「えっ」」

 

思わず声も漏らしてしまった架梨と幽子。だが市丸は続ける。

 

「この子おもろいんですわ、敵だったヤツを庇うようにして突っ込んで来たりして。例え敵だろうと殺そうとはしない死神。ね? おもろい子や・て思うても可笑しく無いやろ? そんでそんなおもろい子がもし────────────」

 

クスクスと笑う市丸は本当に不気味で、マイペースな苺もこの男に少しだけペースを崩される時がある。

 

無能な部下は切り捨てる。

 

それが苺の考えでもある、だが逆に『無能では無く万能だったら?』と聞かれれば捨てる筈も無く、ずっと置いておく。

ははは♪ と満面な笑みを浮かばせる苺と相手を気持ち悪くさせるような微笑みを浮かばせる市丸。ある意味二人は上手く噛み合っている上司と部下の関係を築いていた。

 

 

そして二人が薄暗い広場で笑い合っている空間がかなりキツイ双子死神の架梨と幽子は互いに身を寄せながら震えていると、一護を張り付けていた大岩が砕けた。

 

「死んだ、死んだ?」

 

苺は嬉々とした顔で砕け散ったその場を見ると、一護はさっき着ていた黒い着物が長くなっており、一護の側には漆黒のコートに見に包んだ人物も立っていた。

 

「なんや、具現化したんか」

 

そう言って市丸は微笑みながら立ち上がる。

 

「な、なんだ。斬月と会った瞬間に戻った」

 

一護は今までに無い早い帰還に驚いていると、

 

「そら時間が勿体無いからやで〜」

 

「うおぉうっ!!」

 

一護は背後から聞こえた声にびっくりして跳ね上がる。

 

「い、いきなり声掛けてくるんじゃねえよ! つーかさっきはよくもいきなり突飛ばしやがったなぁ、あ゛ぁ?」

 

「うひゃァ、不良(ヤンキー)は怖いわァ」

 

市丸はわざとらしくビビると一護はますますこめかみに皺を寄せる事に。

 

「ま、おふざけも大概やで」

 

「・・・・・・・・・・てめぇ」

 

殴り掛かろうとする一護を抑える斬月。市丸はそんな一護を横に苺と向き合う。

 

「苺姐さん、有能な部下も一人ぃ欲しくありませン?」

 

まさか、と苺の側に居た架梨と幽子が市丸に問いただす。

 

「きんせんかっ! まさかあなたはそのひとを・・・・・」

 

「そのまさかや、架梨ちゃ〜ん♪」

 

市丸は架梨に微笑み掛けると苺の後ろに回るように逃げる。そして苺は笑みを消さないでずっとにこやかにしていた。

 

「この子苺姐さんの部下してくだぁさい♪」

 

「むむむー?」

 

市丸の微笑みに不満を覚える苺。それもその筈、前まで人間あった一護を同じ死神(どうぎょうしゃ)としてくれだと?

 

「あ、そんなら試験をさせてもエエですよ」

 

「いや何勝手に決めてんだお前はッ!?」

 

一護はまた市丸に殴り掛かろうとするが再び斬月に止められる。

 

よっし、それじゃあー☆

 

と考え始める死神・苺ちゃん。素顔はきっと可愛いのであろうが顔半分は髑髏の仮面なので怖さが断然に勝っている。

一護は同じ名前だけで首を胴体と別れさせちゃう苺の試験を固唾を飲んで待つ。そして苺は目をクワッと見開き、そして告げる。死神となる試験の内容は、

 

「名前を教えて♪」

 

「あっ・・・? それが試験?」

 

一護は簡単過ぎるに試験に少し安堵の息を漏らし、そして自分の名前を口にしようとする。

 

「オレの名前はいち───って、あぶねっ!!!!」

 

と素直に名前を教えようとした一護の目の前には苺に合わせた死神の大鎌が突き刺さっていた。

 

「伽籃菜(カラナ)だ! オレの名前は伽籃菜!!」

 

「オッケー♪(ニコッ)」

 

ヌズッと突き刺した大鎌を抜いて、一護の仮の名を苺に言うと笑顔でグーと親指を立てられた。

 

笑顔が怖い。

 

 

「判定は?」

 

「合格でオケー♪」

 

「速ッ! そして軽いな判定っ!」

 

一護は半分やけくそ気味に苺に食って掛かるが、逆に苺は何故か一護を指差して笑っており、何も通じない。

 

「じゃ死神として頑張ってねー♪ 無能だとクビ切りだからねー! ふたつの意味で☆」

 

「やべぇよ怖(こえ)ぇよ、普通に怖ぇよ・・・・・」

 

一護はそんな苺をビビりながらも再び死神に戻った。

 

「またお前と居られるとは、な」

 

「斬月、若いままなんだな」

 

斬月は天鎖斬月の状態で若い青年のままだった。

 

そしてずっと待っていた市丸は白くて長い着物を靡(なび)かせるようにして一護に言う。

 

「そんなら、修業しよか」

 

「はっ・・・?」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

17ヶ月、意外と一年は過ぎてしまい。戦闘の意識が薄れた。と市丸は言っており、死神界のとある修業場で鍛えるらしい。

だがそんな事より一護が一番気になっていて、一番重要である『帰路』と『時間』である。

 

『帰路』の方は霊的神災を調査して行って判明させる気らしい、苺はやる気はあるらしいのだが『殺(や)る殺(や)る♪』と笑顔で言われて、ありがとうの言葉が出なかった。普通に喉に詰まった。

 

『時間』の方は時空が歪んだ通路を渡って神界にやって来た。つまり戻る時、時空を自在に操る道具を見つければ一護は無事に帰れる。と市丸が教えてくれた。

それまでの間はこの世界の死神として働け、との事。

 

『働かざる者、食うべからず』

 

 

正にその通りである。

 

 

 

市丸と双子死神である架梨と幽子も一緒に修業場に向かう事。

理由はその修業場で“刃禅(じんぜん)”を行うからだ。死神の武器にして半身、斬魄刀(ざんぱくとう)との対話の為に尸魂界の開闢(かいびゃく)から何千年とかけて編み出された形。

具現化した天鎖斬月と直接の実戦鍛練が出来るのだが、精神世界で行う修業とまた違った“視線”で鍛練できる。

敵が居る訳でも無いのでそこまで深く修業をする必要も無いのだが、こっちの世界の死神の仕事は結構ハードなので鍛えるしかないのだ。その仕事内容はまだ聞かされていない。

 

 

苺とさよならをした後すぐに市丸に修業場に連れて行かれてしまい、数日間修業に明け暮れた。

架梨と幽子は死神道具(しにがみアイテム)「治癒蟲(チューチュー)ネズミ」で傷ついた一護を治す手伝いをしていた。

そして同時に架梨(カリン)と幽子(ユズ)が一護の妹である夏梨(カリン)と遊子(ユズ)に瓜二つだった。

狼狽する一護だったが双子はすぐに一護が優しく、強い死神だと理解して本当の妹のようになついた。

 

 

そして月日が流れる中、一護は記憶の中にあの福の神の女の子を思い出していた。

 

 

『また・・・・また! 会えますかっ!』

 

 

 

弱々しく泣いていた、たんぽぽ。

 

一護は市丸との修業を抜け出し、再びたんぽぽと会う為に《たかまがはら》に居た。

 

 

 

 

相変わらず平和な所で、卑弥呼みたいな恰好をした女性を弥生時代の装束をした男性が追い掛けていたりと自由だった。

 

(あれ、神様なのか・・・・)

 

完全に信じきれていない一護は疑い眼差しで見ている。そして一番最初に会った神様、福の神のたんぽぽと会った場所まで辿り着く。

 

すると《たかまがはら》に流れる河川に一人、まん丸の緑帽子を微かに揺らして泣いている女の子が俯せになっていた。

 

一護は鞋(わらじ)から草の感触を感じながらゆっくり泣いている女の子、たんぽぽの隣に座る。

 

たんぽぽは特に驚いた感じをしないで隣を見る。潤んだ瞳が一護を捉えた。

 

一護はたんぽぽを見て『よぅ・・・』と呟くとすぐにたんぽぽは泣きながら一護に抱き着いた。

 

「ううぅぅ・・・・わあああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「だはあぁぁぁぁぁあああッッ!!?(またかっ!?)」

 

ドゴォンッ! と一護の溝に填(は)まった。広がる死覇装に一護の腹部で泣き上げるたんぽぽ。金色姫から聞いた話だとすれば、人間の欲深さに醜さがこの女の子を苦しめているのだ。

 

幸運にした人間が自ら不幸に転じる。

恐らくこれから何十回、何千回と見てくるかもしれないその人間の愚かさ。優しいたんぽぽには辛いかもしれない。苦しいかもしれない。だが一護はこうやってたんぽぽの頭を撫でる事しか出来ない。

 

だがそれは今日だけ。

 

“刃禅”を行うのだ。具現化した斬月と数日の間でみるみる感を取り戻していく一護に市丸は最終段階で精神世界での修業に乗り込むことを一護に伝える。『最後の月牙天衝』の修得方を知っている一護だが、今回は色々と様変わりしたらしく斬月本人もどうなるか予想出来ないと言っていた。

 

“刃禅”を行うと何年と掛かるらしく、死神化した一護なら数百年や数千年軽く生きられるので時間について安心なのだが、たんぽぽと会えなくなってしまうのだ。

 

この絶望という圧力に押し潰されそうになって、一人苦しんで泣いている女の子を一護は無視して修業に打ち込めるのか。

 

一護という人間、もとい死神を知っているなら皆はそろって『無理』と自信満々に答えるだろう。

 

一護自身も知っている、放っておける筈が無い。

 

だが市丸に、

 

『早(はよ)う帰りたいんなら僕の言う事聞いてもらうでぇ、しゃァないやろ』

 

と微笑みながら返事をしてきたのだ。

 

だが一護は、自分より他人を優先する・・・・・とまでいかないがやはり放っておけない。

 

ならば、一護は考えた結果、

 

 

「なぁ、たんぽぽ」

 

一護は泣いているたんぽぽに言う。

 

「人間は、馬鹿ばっかだと思う」

 

一護は成仏出来ないで泣いてる幽霊の女の子を知っている。車に轢かれて死んでしまったのだ。

運転していたのは酔っ払いの男。白昼堂々と飲みながら運転していたのだ。

女の子一人轢いても飲み続けたあの男を、一護は人間として見れたか。

 

「人間は己(じぶん)の欲に溺れる奴なんかそこら中に居やがる」

 

轢かれた女の子は、誕生日を迎える日だった。母親と一緒に誕生日プレゼントを買いに行くんだ、と轢かれた近辺に霊となって泣きながら一護に伝えた。

 

「それは死んでも欲に溺れる奴も居る」

 

死んだ女の子は轢いた男を深く恨み怨念を纏い、強くなって悪霊となり《虚(ホロウ)》となった。

まだ死神の力を手に入れたばかりの一護にとって、その虚となった女の子を斬る事が出来なかった。

 

「でも・・・・・でもよ。馬鹿な人間でも、自分で仕出かした馬鹿な行為を、気付く心を持ってんだ」

 

虚となった女の子は泣きながら周りを傷つけ、一護は苦渋の判断で両断する。だが女の子は報われずにまだ現世にしがみついて残っていた、だが、轢いてしまった男は霊となって見えない女の子の前で土下座をして泣きながら謝っていた。

償わせてください、男は血を滲ませた道路の上に額を押し付けながら、謝っていた。周りから受ける罵声、それでも謝り続ける男。

 

愚行を犯し、それに気付き悔恨(かいこん)する人間。

 

そんな男を見て、恨んで仕方なかった女の子は、いつの間にか成仏していた───。

 

一護はどんな風にその光景を“視て”いたのだろう。

 

気付いて欲しい。

 

 

自分がやる全ての行動に、どんな繋がりを通しているのかを。

 

 

「幸運にした奴が、不幸になっていったのは、ソイツの周りに気付かせてくれる奴が居なかっただけじゃねえのか? 不幸になっていくソイツを正してくれる奴が居なかっただけじゃねえのか?」

 

話を聞いてくれているたんぽぽを撫でながら話す。

 

「別に今度は周りの奴ら気付かせないのが悪い!・・・・・って訳じゃねえ。ただそうやって支えてくれるような奴が居なかったのが、人間の弱い所を醜くさせた。だから欲に溺れる」

 

真っ直ぐに、一護は話す。

 

「ただな」

 

一護の意思を。

 

「『自分が変わった分だけ世界は変わる』・・・・良いことも悪いこともな」

 

 

霊が視えていた時の世界。

 

死神の力を手に入れた時の世界。

 

死神の力を無くした時の世界。

 

霊が視えなくなった時の世界。

 

 

「・・・『自分が変わった分だけ世界は変わる』・・・・・?」

 

たんぽぽは一護の言葉を首を傾げながら復唱する。

 

「言葉だけじゃ分かんねえと思う、思うけど、たんぽぽがその言葉の意味を知る事を祈ってるぜ」

 

ポンポンと頭を軽く叩いて立ち上がる一護。

そんな一護の長い死覇装の裾を掴み、たんぽぽはまだ潤んだ瞳で一護に聞く。

 

二回目だったのか一護は予想したように振り返る。

 

「伽籃菜だ」

 

「えっ?」

 

「オレの名前は伽籃菜(カラナ)・・・らしい」

 

「えっ、らしい?」

 

困惑するたんぽぽだったが、一護もまだ戸惑っているので苦笑いを浮かばせてまた頭を撫でて誤魔化すしかない一護。

 

「オレが護ってやる」

 

「えっ!」

 

「また押し潰されそうになって苦しくなる時があったら、オレが護ってやるよ。たんぽぽ」

 

だから頑張れよ、と一護はそう言って死神が住まう死神界に戻っていった。

 

 

「死神さん、伽籃菜って名前なんだ・・・・」

 

たんぽぽは黒衣に身に纏った死神の後ろ姿を見て微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しい死神さんなんて、可笑しいなぁ・・・」

 

 

 

クスクスと笑うたんぽぽの顔は、曇りが無くなり、晴天の下に蕾から開花した綺麗な蒲公英(たんぽぽ)に咲てくれていた。

 

 




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