福神と死神が!   作:十握剣

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Round4「届かぬ心意(ことば)」

白麗々(しろれいれい)しく純白な着物を市丸は居心地良く着こなしながら、またもや悠々閑々と遊歩して裏路地に張り付けていた伽籃菜(カラナ)もとい黒崎一護の元に戻ると、そこには意気消沈として項垂れる一護、そしてそれを心配しながらも無言で横に佇む美青年の斬魄刀【斬月】。

 

市丸は隣に並んで立つ己の半身にして片割れの斬魄刀【神鎗】に流し目を送ると、美しい女性の姿に具象化した神鎗がクスリと妖艶に笑う。

 

「君はそうやってずっと沮喪(そそう)しているつもりかい?」

 

黒いニーソックスを張るように美しい白い脚を前に一歩踏み出す。

 

「いや、テンションが下がってるだけかい?」

 

銀灰色の長髪を靡かせ、一歩一歩ずつ一護に近寄る神鎗に何も反応を示さない一護。

それをずっと市丸と同じように、瞑ったような瞼の間(はざま)から一護を見つめる神鎗。

 

そして近付くにつれ、神鎗は何かに気付いた。

 

(おや・・・・?)

 

美麗な顔立ちから分からないような微笑みを浮かばせていた神鎗に、顔を疑問色に少しずつ変色させていった。

 

斬魄刀(カタナ)が主に近寄ってるのに、・・・・何の反応もしない?)

 

神鎗は斬月を不審に思いながら顔を見てみれば、そこには心配していると思った斬月の顔が全然違う顔色になっているのを気付いた。

そして直ぐに意気消沈して、顔を伏せていた一護が、いきなり顔をグンッ! と上げたと思えば。

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!」

 

「・・・・・───ッ!」

 

かなりの大音量を撒き散らしながら一護は叫んだ。そしてそれを合図に斬月は何処からか己の本当の姿である黒刀の『天鎖斬月』を片手に握り、一護を捕縛していた鬼道の一種、縛道の六十一『六杖光牢』を斬り伏せた。

 

そして勢いに乗った一護はすぐに斬月を『天鎖斬月(かたなじょうたい)』のまま、元々着ていた黒衣を靡かせて仏女津市の夜空に駆けて行った。

 

そして耳をキーンとさせていた神鎗の傍らまで近寄って、飛んでいった一護の後を眺めていた市丸。その市丸を睨むように神鎗は両手で両耳を押さえながら言う。

 

「ギン、お前知ってて私に行かせたな? あ~ぁ・・・耳が・・・・」

 

ケラケラと声を出して笑う市丸に神鎗は横蹴りを食らわせた時には、見事に一護は夜の空の中に溶け込んでいた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

たんぽぽに仕留められない標的はない・・・。

・・・終わりだよ桜市子という人間も、これがたんぽぽのやり方だぁ。

アイツは桜市子の大切なものから狩っていくんだよ。

 

そう呟いて見ていたのは、福の神の一人である、蚕神(かいこがみ)の金色姫だった。

 

たんぽぽの|仰え役(リミッター)として何回か一緒に仕事をしていた金色姫だったが、今回の仕事に少し疑問に思う所が多数あった。

 

上司が下した命令も疑問の一つ、いや、疑問と思うまでも至らない。そう下した命令の意味は分かっていた。

 

だが金色姫が疑問に思ったのは一つでは無いのだ。

 

(まさか、まさかあの死神様が人間界さ来てだ?)

 

何百年と前にたんぽぽと一緒に会った、黒い着物を着たオレンジ髪の青年。

 

疑問に思うのはまずたんぽぽの荒れ方だ。

 

いつも幾つかの対処方で仕事を請け負っていたたんぽぽだったが、今回やろうとしているケースは初めてでは無かったが、かなり“残忍なやり方”をしようとしているのは金色姫は分かっていた。

 

周りにある大切なものから狩っていく。

 

実際問題これは福の神として見過ごせない、いや見過ごしてはいけない事だ。

 

だがたんぽぽの経緯を知り、そして福の神(なかま)からどんな風に思われているのかを知れば、金色姫は胸を締め付けられそうになった。

 

そんな風に金色姫はこの任務(しごと)がどう転ぶか、ゆるやかに見守ろうとしていると、何やらたんぽぽから作戦を聞かされて、一緒にいた巨女二人を使って只今現在作戦を実行していた。

 

 

標的の桜市子の大切なもの。

 

『仲間』の除去だ。

 

 

 

民家の屋根から見下ろしていた『蚕』の文字を可愛く刺繍した毛糸帽を被り、赤くて長いマフラーをしている金色姫は目下で繰り広げている茶番劇を見ていた。

 

石蕗恵汰(つわぶき・けいた)か)

 

桜市子の同級生にして、両親不在で夜中に働くバイト戦士だ。

まずはたんぽぽはそこから〝潰して〟いくのだ。

 

たんぽぽと一緒に茶番劇を演じていた巨女二人が戻ってきた。

 

「もう!! あたち達はたんぽぽの見張りでしょん!」

 

「何でこんなことまでしなきゃいけないのん!?」

 

「ノリノリだったでねぇか」

 

石蕗恵汰に取り入れする為に茶番劇を演じていたのだが、結構な乗り気でやっていた巨女二人に金色姫は呆れながら言うと、長髪の方の巨女が質問してきた。

 

「でも金色姫ん、たんぽぽが桜市子の周りから襲ってくってのは聞いたけどん・・・・・アイツ何をやろうとしてるのん?」

 

あの少年を狙ってるのよねん? と聞いてくると金色姫は作業服のポケットに両手を突っ込みながら言葉を濁しながら伝える。

 

「バイオレンス女の考えてることなんざ知るかよ、ただオイラは何度かアイツの見張り役さやらされてっけど、アイツは・・・・たんぽぽは・・・・・狙った獲物は徹底的に潰す、そして、桜市子(えもの)が大事にしているものも徹底的に潰す」

 

 

その時、金色姫は桜市子と共に居たあの石蕗恵汰の妹弟を見ていたたんぽぽの目に、ゴミを見るような冷徹な眼差しをしていたのを思い出し、眉間に皺を寄せ、冷や汗を流していた。

 

「たとえ・・・・・たとえそれが人でも物でも・・・女でも子供でもな」

 

 

 

 

 

上手く石蕗家に取り入れたたんぽぽは巧い具合に誘導(人によってカルト信者が通販売りに来た感じに)し、すぐに変化は訪れていた。

 

 

柄の悪い連中(変装した巨女二人)から救ってくれた石蕗にお礼をしたい、と言って石蕗家にまで向かい、福の神道具(アイテム)「叫べ!! 幸フクロウ」を使ってひと鳴きした後に、あ~っという間に貧乏生活を余儀なく脱した石蕗家。

その石蕗家一同が移り住んだ場所はと言うと、

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「「「おわあああっすっげええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」

 

これが石蕗ん家!!? と叫ぶ石蕗の同級生たちは叫びながら平野を思わせる程の広さに敷地内を駆け回っていた。

 

ここまでの経緯を話せばどうなるのかと言うと、福の神様でおられるたんぽぽが道具(アイテム)を用いて、石蕗家に福をもたらした、と実に簡単明白な話なのだが、誰が言ったかこの言葉、

 

 

 

『良い話には裏がある』

 

 

 

人間、幸福(よく)に溺れればこの先に起こる不幸(てんまつ)を伏せてしまう。

 

 

自分の幸せさえあれば、他人なんてどうでも良い。

 

いや、違う、皆平等に幸せがあるのが一番なんだ!

 

皆“平等”に幸せだと?

 

 

 

 

平等(ソレ)を不幸と思う者はどうすれば良い?

 

平等にしなければ不幸になる者はどうすれば良い?

 

平等とは何かを考え、幾度も思考を巡回し、億を超える思考を巡らせた者が、それで平等に至る考えに持てなかった者はどうすれば良い?

 

平等だけに捉えただけじゃない。

 

『幸福』に至る話の例えで“平等”が出てきただけである。

 

何が『幸福』で何が『不幸』なのか、それを判定するのは生命の息吹が掛かる前から存在していたと言われる《神》だけか。

 

その神でさえ間違えたことがあった。

 

 

─────平等な幸福エナジーと不幸エナジーの偏りだった。

 

 

 

判定以前の話である。

 

 

 

平等別け隔てなく不幸エナジーと幸福エナジーの配分。

 

 

もう一度言う“皆平等な幸せ”。

 

 

 

 

“平等”?

 

 

 

 

 

「じゃあ、桜市子はどこに“平等”と言える場所があるんかいのう」

 

 

仏女津市の夜は意外にも快適な温度となっており、中々快適に良い夜風が吹き抜けていた。

 

豪華屋敷と化した石蕗邸には同級生たちがどんちゃん騒ぎを起こした後が残り、騒ぎを起こしていた石蕗の同級生たちは静かに寝静まっている。

 

勿論、石蕗の同級生には目的(ターゲット)である桜市子も入っている訳で、皆と一緒に夢想郷へと旅立っている。

 

そして、この石蕗邸にやってきたのは桜市子だけでは無く、原作題名にもなっている貧乏神こと紅葉ちゃんが屋敷の屋上にて物珍しいモノを発見していた所だった。

実はこの屋敷に入る前から気になっていたのだ。

 

 

そして、その様子を伺うかのように遥か上空から眺めている“死神”一人。

 

「皆、均(ひと)しく平等均等~♪ ほな、桜市子ちゃんの幸福エナジーは平等均等に分けられてんのかな~♪」

 

まるで鼻唄もついでに付加するかのように、死神は空を遊歩する。

 

「おもろいやん、どう均衡を鎮める《福の神》さん」

 

目下に見えるまた新たな展開が繰り広げられていた。

 

「よっ、こいしょ、と」

 

 

死神は、純白のような着物を着て、不気味に微笑む男性は口の端を上がる所まで上がらせた。

 

「~~・・・───・・・・・・・・・・♪♪♪♪♪」

 

黙る訳でも無く、鼻唄う訳でも無く、笑う訳でも無い。

 

死神は、市丸ギンはただ“眺めて”いた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「あたちは金山彦ん!!」

 

「わたちは金山姫ん!!」

 

「「二人揃って〝金山神(かなやまがみ)〟んっ!!!!」」

 

ザサッ! と豪奢に立てられた屋敷の前にポーズを決めて降り立ったのは小柄でとても可愛らしい美幼女の二人。

だが二人が持つモノによって、可愛いだけに収まらず、“不思議”も付録として付いてきた。

 

二人が持っているモノとは、平均身長の大人より大きそうに見える巨大な鍛治道具(可愛いらしい施し)を片手で持っていた。

 

鉱山の神として名高い日本の神様だ。

八百万の神々の母神とも言える『イザナミ』の嘔吐物から化生した神であり、神名の“金山”から鉱山を司る神として祭り上げているが、鉱業・鍛治など金属に関連してくるもの全ての技工を守護する神としている。

 

そんな有名で、日本に鉱業を司っている神様、金山姫と金山彦は目の前に現れた桜市子(ターゲット)を上手い具合に連れて行く為、排除する対象となった貧乏神・紅葉と対峙していた。

 

 

ザッ! と降りたのは二神(ふたり)だけでは無く、もう一神(ひとり)。

 

「───でまぁ、オイラが“蚕神(かいこがみ)”の・・・金色姫だ・・」

 

長い赤いマフラーと『蚕』の一字を可愛く刺繍してある毛糸帽子を被って全身毛糸まみれの女性、金色姫は二神と一緒に紅葉と向き合うように対立。

 

蚕神とは簡単に言ってしまえば生糸・繊維産業の守り神として知られている。

 

繊維産業会社にでも行けば日本の社長たちが綺麗に平伏す想像がつくのだが、金色姫もとい数神(すうにん)は『どうでもいい』考えなので現代までそうきているのだろう。

 

そんな日本で有り難過ぎる正真正銘『福の神様』である二神を前にして紅葉はなんとも気ダルそうに鼻くそをほじりながら自己紹介を待っていた。

 

 

「あらあら、これはまぁ名高い神ではありませんか? 最近赤字大国なんて不名誉な名前を被らせてしまった日本の為にももっと産業復帰してくださいな」

 

「身も蓋もねぇ!!」

 

そう言って腕に纏わせていた生糸を鋭い矢の如く射抜く。

 

ヅゥンッ!! と地面をまるで針で布に通すかのような柔らかな動作で突きささった。

 

「わ~“糸も簡単に”とはこの事ですね、蚕神サマ」

 

「馬鹿にしぐさって!」

 

続々と金色姫は全身から生糸を巧みに紅葉を対象に連射する。

 

だが当の紅葉は変なアクションを付け加えながら避けていた。

 

 

────余裕。

 

 

金色姫の脳裏にはこれしか思い浮かばなかった。

 

だが、これで良い。

 

金色姫は視線を紅葉から外す事も無く、静かに紅葉を追撃する。

 

金色姫の追撃を軽く往なしていた紅葉に金山神の二神(ふたり)も加わり攻撃の隙間を埋まらせる。

 

「あぁん! 避け過ぎよアンタ!」

 

「当たりなさいん!!」

 

 

ヴォンッ!! “風を切る音”では無く“風を抉る音”が紅葉の耳に届くと、さすがに余裕の色が薄くなる。

 

(一回でも当たれば死にますね、まぁ“人間(ヒト)”ならばですが・・・・)

 

紅葉は微笑みを浮かばす事もなければ、変に真面目な顔になる筈も無く、知略を巡らせるように脳内にあるキーワードを結びつけていく。

 

まず、《福の神》が三神(さんにん)も降り立つ話は余り聞いたことが無く、しかも降り立った場所がこの『仏女津市』だという事に間違い無く“桜市子”関連なのは紅葉は瞬時に理解した。

 

たとえ桜市子本人に関わらない話、となっても最終的に、原点的に桜市子になるのが分かった。

 

それだけ桜市子の幸福エナジーが問題なのだ。

貧乏神は『不幸エナジー』を担う仕事だとすれば福の神は『幸福エナジー』を主とする仕事だ。

 

だとすればまず間違い無く高確率に桜市子に関することだ。

 

そして────

 

 

 

ヒョイヒョイ、と避けていた紅葉だったが、ふと背後から『敵意』を感じてヒトダマに変化した。すると紅葉が立っていた場所に緑掛かった流星の如し、ズガッ!! と地面を何かが抉らせた。

 

そして紅葉は探りを入れるように再び口を開く。

 

「あぁ、ということはあなたが福の神ですね」

 

地面を抉ったのは緑色に統一された魔女のような格好の福の神・たんぽぽが紅葉を敵意丸出しで睨んでいた。

 

「惨いことをしますね、あなた。石蕗くんに一体何の“怨み”があってあんなことを」

 

紅葉は頭を掻きながら、背に聳え立つ屋敷の屋根に置いてある福の神道具「幸フクロウ」に親指を指す。

 

「あの屋根の上に飾ってある悪趣味な梟(フクロウ)型の石像・・・・アレは福の神|道具(アイテム)の一種、あなたが本当に福の神ならあれがどういう道具(アイテム)か知っている筈でしょう?」

 

そう、あの福の神|道具(アイテム)「幸フクロウ」は人間に定められた限りある幸福エナジーを前倒しにして使う道具(アイテム)なのだ。

 

なので、今現在、石蕗兄妹弟に訪れた幸運は10年分か20年分か、残量がどれくらいなのか全く持って分からないが、消費した幸福エナジーの量に相当する不幸が彼らに降りかかるのはもはや避けられない。

 

あの道具は福の神や、少し人情がある死神などが使う道具であり、今際(いまわ)に立った人間に少しでも良い思い出を残してあげる為の神具だ。

 

人間を愛してるが故に創られた道具が、使う神によってこんなにも残酷な使用にも変化するとは、あの道具を創作した神はひどく痛ましい。

 

そして紅葉の言うことを知ったのか、たんぽぽはゆらゆらと揺らぐようにして氷のような表情に腹話術で人形に感情移入させ、喋る。

 

「あの道具(アイテム)の効力? 知ってる知ってる、何の場面で何の意図で使うかも理解しているよ~? でもそんなの分かってて使ってるに決まってるじゃん、そもそもあんな兄妹弟(きょうだい)のことなんてどうでも良いし~・・・・・それに10年20年の不幸が降りかかったからどうだっての~?」

 

まだ使う意味が分からない状態で使用したなら、後から理解させ、そして改心といかせられたかもしれない。たとえ浅はかな考えでどうしようもない愚かな行為だとしてもそう出来たかもしれない。

 

だがこの神は、しかもこの『福の神』は“知ってて使ってる”と吐いたのだ。

 

ゆっくりと吟味すること無く数秒とも言わない、瞬く間に答えた。

 

紅葉は感情を爆発させる訳でも無く、同情する訳も無く、悲しむ訳も無かった。

 

「それなりにいい夢見れたんだから別に良いじゃ~ん」

 

黒縁メガネの双眸(そうぼう)から、漆黒に溺れた『絶望色』の視線が紅葉を捉え、そして紅葉もこれだけは言える事を使い魔である熊谷の腹から注射を取り出しながら言う。

 

 

 

 

 

「まあ外道♪」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

ヒュウヒュウと夜風が上空を吹き抜けて行く中、椅子に座るかのように空中に腰掛ける銀髪白装束の死神、市丸ギンは微笑みを浮かばせていた。

 

目下では昔からからかって遊んでいた紅葉が福の神三人相手に苦戦を虐げられていた。

 

「そんで君が到着かいな、伽籃菜(カラナ)ァ~」

 

市丸はそう言って顔を向け、視線を後ろにしてそこに立っている者に話し掛けた。

 

「・・・・・市丸、」

 

黒い刀を携えて、黒衣を纏いし死神。

 

伽籃菜こと黒崎一護だ。

 

ざっと数日しか会っていなかったが、一護にとってこの石蕗邸に辿り着くまでどれ程の労力を用いたか市丸は知らないが知られたくない。

 

だから一護は少し不機嫌声で市丸に話し掛けようとした、だが、

 

「彼処にたんぽぽちゃん居(お)るよ」

 

ピクンッ、と反応してしまう一護、そしてその反応を待っていたのか市丸は嬉しそうに不気味に微笑む。

 

一護は何を企んでいるか分からない市丸を放っておくのは不味いと思えたが、やはり一番の目的はたんぽぽだった。

 

生憎と市丸は邪魔をしてこなそうなので、警戒は怠らないようにしながら市丸の前から瞬歩で居なくなった。

 

「相変わらず、優しい子や」

 

そう呟きながらも、市丸はゆっくりと腰を上げていた。

 

 

 

 

 

 

ズギャアァアン!!!!

 

 

思いきり地面に叩きつけられた物体は、先ほどやっと戦いに身を投じた紅葉だったのだが、福の神の癖に妙に戦闘が上手い三人に相変わらず怠惰フルスロットルの紅葉が愚痴を零す。

 

そして同時に自分に巻き付かれた糸に気付き、糸の根源である金色姫がボコボコにした紅葉の使い魔・熊谷を片手に吊しながら説明する。

 

「もがくだけ無駄だぁよ、その糸は神さんの力を抑え込む特殊な生糸でこさえてあるだで、自力で出ることはでぎんぞぇ」

 

ポイッと投げられた熊谷は目を回しながら紅葉の前に落とされる。

 

「たんぽぽの標的の周囲(まわり)から狩ってくってやり方ではねぇが、お前ぇに邪魔されっと困っからな、悪いが仕事が終わるまで大人しくしててけろ」

 

紅葉は金色姫の発言で推測から確信へと変わった。

 

“標的の周りから狩っていく”

 

紅葉と石蕗の関係性は無に等しいと考えるだろうが、相手は神、しかも『福の神』だ。

 

幸福(ラッキー)ガールにして奇跡(ラッキー)を味方にしている人物、桜市子だ。

 

そしてやっと紅葉は頭に引っかかる“何か”に気付いた。

 

 

《福の神・たんぽぽ》

 

 

 

───!!

 

 

紅葉が気が付いたのをたんぽぽが理解すると両手のぬいぐるみを巧み扱いながら嘲笑うかのように喋る。

 

「『福の神界がどうして桜市子の幸福エナジーを!?』とかぁ思ってる~? 大正解(ピンポンピンポン)~♪」

 

カタン、とたんぽぽの厚底型の下駄を鳴らしながら、綺麗な黒髪長髪を靡かせて生糸に巻き付かれた人魂(ヒトダマ)形態の紅葉を見下す。

 

二三何かを紅葉に言葉を吐き付けていったたんぽぽが後始末を金色姫を任せて帰ろうと回れ右をしたその時だった。

 

 

目の前に、オレンジ色の髪をした青年。

 

 

死神代行では無く、正式な死神となった黒崎一護が立っていた。

 

 

たんぽぽは一瞬にして時が止まったのを理解した。

 

 

頭の中が真っ白になったのだ。

 

 

凄い、さっきまでずっと幸せそうにしていた連中を見ていて苛立ちが破裂しそうになっていたのに、一瞬にして露として消えた。

 

「─────・・・・・た・・・・・」

 

一護は戸惑ったような眼差しをして、だが確りと名を呼ぼうとした、だが、

 

「───ぐぁ!!?」

 

横凪ぎに一護の身体が斬られ、そして鋸(ノコギリ)の如く削り流されて敷地内に建てられた塀に衝突する。

 

(なぁ・・・・・ろぉ!!)

 

一護は直ぐに黒刀【天鎖斬月】で弾き返す、すると一護を襲ったのは、何回目か辿るとまだ数回しか受けていない事を気付かせる長く延びた白刃。

 

白刃が戻る場所には、悠々と微笑んでたんぽぽの前に立っている銀髪に白装束に身に纏っている死神。

 

市丸ギンが居た。

 

 

「ハッ、結局邪魔すんのかよ。何か企んでよォ」

 

一護は以外に深く斬られた左肩に手で抑えながら市丸に叫ぶ。

だが市丸は微笑むだけ答えない。

 

その反応に一護は苛立ちを向上させる。

 

「市丸・・・・・アンタにはこの世界に来て色々世話になったし、アンタの目的も悪い事じゃなかった事は分かってる。だが、“今は何の目的”で邪魔してんだ?」

 

カチャッ、と一護は手で天鎖斬月を右手で握り、水平にして構える。

 

次に攻撃してきたら、戰(たたか)う。

 

一護は、天鎖斬月に霊力を注ぎ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

死神様が怪我をした!!

 

 

その事は理解した、だがまだ身体は理解していない。

 

たんぽぽは放心してるかのようにただ立って、目の前の光景に飲み込まれていた。

 

そして目の前に立っている、目前に悠々と立っている銀髪の男に急に声を掛けられた。

 

 

「やぁやぁ、どうもどうも、こんにちわ、じゃないわな。今晩わ、や」

 

ニコっと微笑む目の前の男に、たんぽぽは一瞬にして“飲み込まれた”。

 

ガクンッとたんぽぽは崩れるように重力に従って地に膝を着く。

 

「あッ、これ紅葉ちゃんやない、奇遇やねぇ~。奇遇やからここはボクが預かわせてもろうわ~」

 

ヒョイッと丸くなったヒトダマ紅葉を片手で拾い、不気味な微笑みで残りの神に断りを入れようとする。

金色姫は金色姫で一護の登場に驚いていたのだが、目の前の銀髪の男に霊圧を当てられ息苦しそうに跪く、金山姫も金山彦も同じように涙目になりながら跪いていた。

 

そして市丸もそれに満足したのか、糸も簡単に霊圧を消して金色姫達を楽にしてあげる。

 

滝のように汗を流すたんぽぽ、金色姫、金山神の三神に市丸は一瞥しながらポインポイン、と紅葉ヒトダマを弾ませて開口する。

 

 

「紅葉ちゃんは分かったんやないの? この子の事」

 

貧乏神界でも噂が広がっている《福の神・たんぽぽ》。

 

仔細(しさい)の限り、たんぽぽは、

 

 

 

 

「この子は、“落ちこぼれ”の福の神や」

 

 

 

 

 

バヅゥン!! とたんぽぽは市丸に向けて一身を込めた拳撃を繰り出したが、難なく市丸は【神鎗】で受け止めた。

 

 

たんぽぽは歯を思いきり軋めさせ、目には涙が溜まっていた。

 

実力なんてさっきので一瞬にして分かった。

 

勝てない。

 

でも、死ぬ程ムカついた。

 

たんぽぽが市丸にパンチを繰り出せた時点で驚愕だ。

そして市丸は、この抵抗が嬉しかったのか、極上の微笑みでたんぽぽに話し掛ける。

 

「おもろい子や」

 

ゾォッ! とたんぽぽはまた滝のように冷や汗が流れ出た。

 

市丸はちょっとした動作でも気を失いそうになる程に、この福の神は追い詰められた。

 

何に追い詰められた?

 

この市丸(おとこ)の『殺気』にだ。

 

いや、実際たんぽぽが受けているのが殺気なのか殺意なのか、はたまた敵意なのかそれでも何でも無い“何か”なのか理解していない。

 

 

(なん・・・・・だ、コイツ)

 

意識が朦朧としてきた。

 

もう何もかもムカつく。

目の前の男がムカつく。

目の前の男の強さがムカつく。

役に立たない金色姫たちがムカつく。

目の前の男を殴れない自分がムカつく。

 

たんぽぽが何故こんなに苛立つのか、それはやはり、過去の心傷(トラウマ)からだった。

 

 

 

そしてたんぽぽが必死に涙を溜めた睨みを市丸に向け放っていると、良い具合に面白い展開になった事を快くした市丸は満足そうに【神鎗】を鞘に収めた。

 

「今回はただのちょっかい出し、何にも邪魔して無いやろ~?」

 

黙ったまま市丸を睨み続けているヒトダマ紅葉を片手に、市丸は喋り続ける。

 

「君の狩(や)り方、褒められるような事やないけど、とォても効率がエエと思う」

 

空いている手で紅葉の頭を撫でで、生糸をなぞる。

 

「切り札全てを封じ、友達(たいせつなもの)を脅迫の道具」

 

想像するように、妄想するように、夢想するように、理想を掲げるかのように市丸は脳内で映し出した光景に口の端が衝け上がる。

 

「さぞ、爽快やろう~♪」

 

さてと、と市丸が呟けば、撫でていた手で再び斬魄刀の柄を握る。

たんぽぽたちは一瞬にして警戒をしたが、相手は自分たちでは無い事が分かった。

 

市丸の背後に立つ青年。

 

 

萱草(かんぞう)色の髪に、柄まで真っ黒な黒刀。

 

 

黒崎一護。

 

 

 

市丸は対峙するように一護と向き合う。

 

 

「市丸・・・・・・・・・・退けよ」

 

真剣の如く、研ぎ澄まされた剣のような声張りで市丸に言葉を掛ける、だが市丸は残念そうな顔で、

 

「ダメやなぁ、ダメやで伽籃菜。そこはわざわざ声掛けて、しかも分かりきった事を再確認してては、殺れんで、やっぱり」

 

ビュッ! と白刃が煌めく。

 

 

「君は、甘いわ」

 

ズサッ、と白い着物が揺れ、袖から垂れた手を脇腹まで移動して、【神鎗】を構えれば、嫌でも一護は直ぐに防衛に入るが“遅かった”。

 

 

 

「射殺せ・・・・・“神鎗”」

 

 

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