人非人(にんぴにん)。
人道を踏み外し、畜生道を我が道の如く歩む人。
それが人非人らしいのだが、では神の場合はどうなのだろうか。
今まさに福の神であるたんぽぽたちが行なっている行為は非道と言っても過言じゃない行動。
だが、それを善(よ)しとする神が居た。
【死神】
だが、死神もそれぞれだ。
死して後に良からぬ方向に逝かぬよう導く事が死神の主とする仕事。
だが死した後が仕事なのか、と聞かれればそれだけでは無く、悪霊の退治、死期が近しい人間の監視及び導く為の守り手ともなる。
話が反れたが、死神だからと言って非道畜生を好む訳が無い、だが、やはり、死神の中でも、もがき苦しみながら死ぬ人間を恍惚として好む死神も存在する。
市丸ギンはその部類に入るか否かと聞かれれば、微妙な所であり、全く持って難しい判別だ。
ただやはり、個として、市丸は畜生の深い底まで残忍に、残酷に、残虐に、残念なほどに冷酷になれる。
大切な者の仇を取る為ならば。
市丸は、市丸ギンはたった一人の幼馴染みの為に数百年掛けて復讐に身を焦がした。
大切な者の為に、霞んでしまいそうな道程を力強く踏み抜いてきたのだ。
その強固たる市丸の意思の強さに一護はどれ程に理解していたか。
分からないだろう。
だが分かろうとしてくれただろう。
市丸がこの世界に来て、数百年たった。
色々な仕事をした。
そしてまた数多く学んだ。その学んだ経験から市丸はある考えで、福の神界から遣わされたたんぽぽ達に接触したのか。一護は知らないだろう。
市丸も気が回るくらいの余裕なんて絶対にある筈なのだが、敢えて一護に気を回さず、ぶつかり合い、そして今の状態に至る。
「彼を治さなくて良いのですか」
そう呟いたのはヒトダマ状態、つまりはボールような球体になった可愛いらしい紅葉が豪奢に作られた長椅子にポテッと置かれたまま座していた。
紅葉が居る場所は仏女津市に最近建てられた最高級マンションの一室。
部屋の中に滝が流れ、和装に整えられてある作りであり。広さは余りにも馬鹿広い。
そんな水気溢れるマイナスイオンに身に包み、よちよちと小さく小さく歩みながら紅葉は未だに目を回して気絶している使い魔・熊谷に巻かれた生糸を口でくわえる。
紅葉が言った彼とは勿論、斜め斬りされ、刀傷が痛々しく残っているのに、血痕は一滴も無い胸から脇腹まで斬り抉られた伽籃菜(カラナ)こと黒崎一護だ。
その黒崎一護の胸の傷跡を衝けさせた本人、市丸ギンは竹で作られて珍妙な形に垂れた椅子に座り、微笑みを浮かばせて答える。
「死神はな、万能な身体なんやでぇ。毒も聞かへんし、酸素も要らん」
「聞いてませんよそんなこと」
「いやいや、だからな、傷つこうがそこの子は何年か立てば綺麗に治るんや」
「結局放置ですよね? わたしゃあそんな事聞いたんじゃ無いんですふぉ! ふがぁー!! くぉんな糸(いほ)噛(ふぁ)み千切(ふぃに)ってふぁんよー!!」
市丸は堂々と脱走を試みている紅葉たちを眺めながら、一護を斬った時の事を思い出していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
市丸の取った行動は至極単純だった。
一護と対峙していた市丸だったのだが、直ぐに市丸は方向転換してたんぽぽ目掛けて【神鎗】の狂刃が放たれたのだ。
「───────ッッッ!!?」
反応出来ない程の迅(はや)さ。
そう、目を瞑る暇も無かったたんぽぽだったが、直ぐに視界が黒へと変色したのに驚いていた。
変わりに感じた反応は、顔に滴(したた)った真っ赤な鮮血。
そこにあったのは、たんぽぽを庇った一護の血だった。
「────ッ!!」
声が出なかったたんぽぽだったが、身体は動いた。
倒れそうになった一護を抑えようと前に出るが、両手に嵌まったヌイグルミが掴んだのは金色姫が放った生糸だった。
「離れろ、たんぽぽっ!!」
金色姫も色々な事態が起きすぎて思考がグチャグチャになっている中、不思議と冷静な判断力でたんぽぽを引き寄せる。
何故!!? と言わんばかりに金色姫を睨むたんぽぽだったが、直ぐにたんぽぽを抱えて二、三歩下がる。
理由は再度一護を見た時に理解した。
倒れそうになった一護の背中から、白刃が貫いていたのだ。
金色姫が引き寄せなければたんぽぽもあの白刃の餌食になっていただろう。
一護は白刃を抜かれ、よろめきながら倒せそうになった瞬間、握っていた【天鎖斬月】が刀から具現化した若い天鎖斬月になり、一護を受け止めた。
「市丸ギン・・・・・・・・・・貴様ァ」
斬月は静かなる、だが烈火の如き怒りを殺気と共に放ちながら市丸を睨む。
だが、重傷を負った主が息苦しくなっているのが一番に脳内を染めていた。
瞬歩のような高速歩法でその場を離脱した一護たちに、残された者たちは、間が気持ち悪い程に静かに経つ。
市丸はいつの間にか戻した元のサイズの【神鎗】を、血が着いた鋒を払い鞘に収め、不気味な微笑みを向けながらたんぽぽ達に伝える。
「さっきも言ったけど、邪魔なんて一切考えてないから安心しィ、この貧乏神っ娘はボクが預かるから後は好きにやりィ」
何を勝手な事をっ!! とたんぽぽが再び怒りに任せて戦闘に入ろうとするが、ガチンッと金山神の二人に抑え込まれた。
「その言葉、信じろっでが? 『死神』さんよぉ」
金色姫が言った言葉にたんぽぽの動きは止まった。
じゃあ、コイツは───。
「死神が死神を貫くようなイカれた輩を信じちゃあ福の神やっちゃいねぇぞ?」
そうだ、この銀髪はあの死神様を容赦無く貫いたんだ。
だが市丸は慌てる様子も無く、寧ろつまらなそうに溜め息を吐きながらたんぽぽ達に背を向け、言葉を送る。
「なら行動で示すんが一番やろ、見ててみ、感じてみ。ボクは手ぇ出しまへん」
そう言って気絶してる熊谷を広い上げ、ヒトダマ紅葉を弾ませながら夜闇の中に消えて行った。
白い着物を着ているにも関わらず綺麗に夜闇に溶け込んだのだ。
やっと消えた死神に金山神の二人はやっと声を出す。
「もう何よあれん! バリバリ危険(ヤバイ)わん!」
「・・・・ア、アレが死神なのねん、気持ち悪さが残ってるん・・・」
青白くなっていた金山姫を心配そうに金山彦が背中を摩ってあげていると、金色姫はたんぽぽと向き合った。
たんぽぽは苛立ちを表に出す訳でも無く、静かに顔に着いている一護の血をぬいぐるみを外して指でなぞる。
赤い血。
今たんぽぽの脳内にある言葉は一つだ。
『何を今更・・・・・』
思考回路がグチャグチャになってきたたんぽぽを正そうと金色姫はマフラーを口に押しあてながら言う。
「気にするで無ぇたんぽぽ、“今は桜市子だ”」
言葉を強調する、しなければたんぽぽが暴走しそうだったからだ。
そして金色姫も混乱している、何故あの死神様が今更?
金色姫の言葉を受けたたんぽぽは、未だにふらつきながらも、双眸には直ぐに桜市子(ターゲット)の狩り立てに視線を向けていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
市丸はすぐに死神界が手配した超豪華なマンションに足を運び、ヒトダマ紅葉と熊谷を部屋に放り投げ、さて一護を拾って来るかと息巻いた瞬間に、部屋の奥から呻き声が聞こえたのだ。
市丸は麗々しく白い着物を揺らして奥に行けば、そこには斬月によって綺麗に応急措置を受けていた黒崎一護が横になっていた。
「あ~あ~ぁ~、君何に乗ってんのやぁ、ソレ高かったんやでェ」
市丸は一護の下に敷かれてある黒い生地で手触りが心地よいカーペットに人差し指を指しながらそう言い放った瞬間に、ドガァッ!! と広間から繋がる階段から降りてきた救急箱片手の斬月に飛び蹴りを受けてしまった。
「ふざけるなよ市丸ギン、貴様を斬り刻まなかった事に素直に喜んでいろ、うつけが」
そう言って斬月は上半身裸だった一護に服を着せてあげる。
「イケメンがイケメンの服を着せ変えてますよ熊谷、これ写真撮ったら何万円ですかね」
器用に熊谷は足で字を書き、ノートを紅葉に見せ、内容に紅葉が『うぇッ!? そんなにするんですか!? 市子の着替えを盗撮した値段より高いですよソレ』と本気で驚いていたのが数時間前くらいだった。
現在はさっきと変わらぬ状態、熊谷に巻かれた生糸を必死に噛み千切ろうとする紅葉に、市丸が傍観し、斬月は少し安静になってきた一護の世話を焼いている。
こうしてる間にも、『幸フクロウ』の効力は未だに発動しているまま、着々と石蕗家に訪れる“不幸”が近寄っており、その不幸が丁度先ほど“起こった”ばかりだった。
お金持ちとなり、自分の時間を手に入れた石蕗家の妹と弟たち。
石蕗恵汰(つわぶき・けいた)もそうだったのだが、分相応に考える変に真面目な石蕗は変わり行く妹弟(きょうだい)に少し困惑しながらも、幸せそうな妹と弟の顔に何も言えず終いだったのだが、急に変わってしまった姉と兄に寂しくなっていた末っ子の弟である石蕗宙汰(つわぶき・そらた)の気分転換に外食に向かおうとした。
だが、宙汰が向かった場所は楽しいレストラン等では無く、無機質に心音を響かせる機器がある病院だった。
『良い話に裏がある』
幸福エナジーを使い尽きてしまったのか、宙汰を襲った『不幸』な出来事。
兄、石蕗と一緒に横断歩道に居た宙汰だったが、幼児だったが故に外には興味深いモノがそこら中にありふれていた。
道を尋ねられていた石蕗はちゃんと宙汰に側に居る事を伝えた後に、懇切丁寧に道程を教えていると、宙汰はヒラヒラと円舞するように飛んでいた蝶に目を奪われ、夢中になってテコテコと遅々として追い掛けてしまう。
不幸にも、誰も小さな宙汰が赤信号の横断歩道に歩み進んでいる事に気付かなかった。
不幸にも、バイクに乗っている男性は人だかりで曲がろうとしている車線の横断歩道の状況に意識が向いていなかった。
不幸にも、そう、不幸にも曲がった先には何故か丁度良く綺麗に轢(ひ)ける位置に歩いていた宙汰が居たかだった。
楽し過ぎて
不安になるんだよ
分相応ってもんがあんだろ・・・
その内・・・
その内ツケが回ってくるんじゃねぇかとか考えると
不安になるんだよ
※
宙汰が轢かれる場面に、桜市子も居た。
危ないと分かっていたのに、早く注意すれば事故に遇わなかったのに。
石蕗と、石蕗家の長女である梨香(りか)も自分を責めた。
遊び呆けて家族を放ったらかしにした姉を許して、いつもどうりにちゃんとするから、いつもどうりに一緒にご飯を食べて、一緒にお布団で寝ようよ宙汰。
泣き叫ぶ梨香。
俺があの時ちゃんと宙汰の手を握っとけば良かっただけの話じゃねぇか、俺がちゃんと宙汰を抱っこしてれば良かった話じゃねぇのかよ。
無人の屋敷で己の馬鹿さ加減に殺気立ち暴れ泣く石蕗。
桜市子の幸福エナジーは周りの幸福エナジーを吸い寄せたものなのだ。
貧乏神である紅葉から酷く何度も言って伝えてくれていた。
だから『要石』を付けて幸福エナジーを制限している、にも関わらず起きたのだ。
周囲に不幸が。
市子は直ぐに自分が引き起こしたことだと直感したのか、大事な時に紅葉が居ないことに気付き同時に、紅葉が居なければ何も出来ない事を理解する。
だがそれだけで諦める桜市子ではない。
自宅に戻った市子は直ぐにまた外に出掛ける。
貧乏神探しである。
そっちが来ないならこっちからの発想で、『招き猫』であるタマちゃんの力で紅葉探索。
タマと共に紅葉を探していると、石蕗家が住む屋敷に辿り着き、辺りを探して見ていると、屋敷の庭に生えてある林の根本に幸福エナジーを抜き取る注射器を発見する。
(アイツ、やっぱり石蕗邸(ここ)の近くにいるんだ!)
だがすぐに市子は紅葉が言っていた言葉を思い出していた。
(確かアイツ、金欠で幸福エナジーを奪う注射器を持って無いって、言ってたような・・・・まさか、アイツに何かあったの?)
そしてすぐに他のことにも意識が向いた。
そういえば桃やボビーはどうした?
だが市子はすぐに宙汰(そらた)を救うことに考えが向いた。
(とにかく、これで宙汰を助けられる! 待っててね宙汰!)
市子は一秒でも早く宙汰を助ける為に石蕗邸の塀を軽々く乗り越えて、病院に向かおうとした瞬間だった。
『招き猫』であるタマが突如総毛立つようにして吠えたのだ。
「え? どうしたのタマちゃん?」
そう呟きながら路上から向かってきた三人の人影に目が向いてしまった。
やって来たのは福の神界から舞い降りた神、蚕神・金色姫と金山神の金山姫と金山彦だった。
そして金色姫は簡単な自己紹介をして、そして簡単に済ませるべく回りくどい真似はせず、単刀直入に告げた。
「オイラ達(たづ)と一緒に神界に来て貰おうか」
「・・・は? きゅ・・・急に何を言い出すのよ・・・・ワケわかんない!」
貧乏神以外で会った神は多数居るが、目の前の神は“今までのとは違う”雰囲気を漂わせていた。
これは本気のヤツだ、と。
そして市子は虚勢を張るが金色姫と金山神の二人に隠れていた、もう一人の神が前に踏み出した。
「ちょっとちょっと~! 空威張(からいば)りもイイ所(とこ)でしょそれって~」
カランカラン、と下駄の音が市子の耳に届いた瞬間だった。
ゴウゥッ!!!! と黒い拳撃が市子の目前に放たれた。
「ちょっ!?」
市子は咄嗟に札と柳で出来た木刀「蘇民将来」で拳撃を止めてみせた。
(お、重っ!?)
鉄球でぶつけられた衝撃を市子はなんとか身の力で耐えた。
「ほほほ、凄いね~い。じゃも一発いっとく?」
やっと止めた拳の横から白い一撃が放たれた。反応が出来なかった市子はそのまま煉瓦で出来た塀に投げ飛ばされる。
「かはっ!?」
呻き声が出て息が苦しくなった。脇腹を思いきり殴られた。
「時間切れもあるけどさ~、ちょっと気分的にブルーなんだわ。だから終わらせるね~ん」
その突如の猛攻を放ったのは《福の神》のたんぽぽだった。話し方は大変ふざけているように聞こえるが、それは両手にはめたヌイグルミが喋らせる腹話術だった。黒縁メガネを掛け、長い黒髪を靡かせた緑の女性、たんぽぽはヌイグルミを動かしながら説明する。
「神界に来てもらうって話も遠回しに伝えているようなもんだからこのたんぽぽちゃんが読者にも分かるよーに順を追って話そうか?」
そう言いながらたんぽぽは巧妙に両手のヌイグルミの衣装をチェンジしながら説明する。
死神もそうであったが、ひとくくりに福の神にも色々な仕事があり。
一つは幸福エナジーの生成。
二つは貧乏神どもが集めたエナジーの回収と管理、と多々仕事が沢山あるのだ、そんな仕事の中に一つ、生まれゆく人間の魂に幸福エナジーを配分するという部署のようなものがあるのだ。
ベルトコンベアを流れる空き缶に果物を詰めていく作業と考えれば分かりやすいだろうか。人間界に向かう魂に幸福エナジーを分けていく作業。
まるで人間と同じような仕事をするんだな、と思えば、神も人間と同じく失敗(ミス)を仕出かしたのだ。
大変な失敗(ミス)。それは、『異常な量の幸福エナジーを持って生まれてしまった人間・・・桜市子』だったのだ。
職務怠慢・管理ミスとエナジー配分部署は今更になって大慌て、不幸中の幸いだったのはこのスキャンダルが福の神のお偉方の耳に入っていなかったこと、そこでエナジー配分部署が下した決断。それが『桜市子という人間そのものの“抹消”』だった。
次々と説明されていく中で、市子は理解できたことがあった。それは今、目の前にいる神たちは・・・自分を“消し”に来たんだと。
「お前の言い分もあるだろうが残念ながら拒否権はないよ・・・・事故に遭ったと思って諦めな。それにお前だってこれ以上見たくないだろう」
「えっ」
「“身近な人間が傷つき悲しむ姿”をさ・・・・」
「な・・・何て言った・・・・・? あんた今・・・・」
「よ~~く考えろ~? ある日を境に姿を見せなくなった仲間たち、ほんの数日で幸福が絶頂から不幸のドン底へたたき落とされた仲睦まじい兄妹弟(きょうだい)。これらの事象が全て偶然と割りきれるほどお前の脳ミソは単純な作りなのかな~? 成績優秀なんだろ~?」
長く伸びた髪を妖艶に靡かせて言うたんぽぽに、市子は純粋に【怒り】が身体を染め上げ、その怒りの矛先を目の前の福の神に向かう。
「じゃあ宙汰があんなことになったのも・・・・全部・・・!! あんたが・・・!!?」
「気付いた~? でもまぁ気付いた所で時すでに遅しってヤツでさぁ。もう遅いんだけどね~、なかなか楽しめたよ・・・“お疲れさん”」
最後の言葉が引き金だった。
「ふざけるなああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
市子は抜き取った幸福エナジーをタマに預け、蘇民将来を思いきり握り締め、たんぽぽに攻め込んだ。
ただの女子高生が神に挑むなどあり得ない話なのだが、この桜市子(イレギュラー)はそれを意に介さない幸福(ラッキー)を持っている。そこまで自分の幸福(ラッキー)を信じているし、何よりこの目の前に立っているこの女神が許せなかったのだ。たとえラッキーが身に無かったとしても市子はたんぽぽに殴りかかっていただろう。
だが今回はそうはいかない。
「はい、ど~ん!」
市子の一撃を身体を捻らせて避け、すぐさま追撃のパンチを市子の降り下げてがら空きになった脇腹をズンッ、と容赦無く貫く。『かはっ・・・』と一瞬呼吸が止まるが相手は容赦はしない、殴っていない方の白いヌイグルミを嵌めた手で蘇民将来を掴み、再び市子を煉瓦の塀にぶち当てる。
「倒そうとか敵う相手とか思ってたら正直心外だ。こちとらたんぽぽは“お前を仕留めるために、お前相応の匹敵する量の幸福エナジーを持たされて”来てるのさ!!」
蘇民将来を抱くにヌイグルミを使って掴んでいた手で無情にへし折るたんぽぽ。そして市子の首を掴み、宙に浮かばす。
「幸福エナジーの量が同じなら勝負を分けるのは個々の実力だ・・・・・とは言えあくまで互角、逃げられても困るのでぇ~~」
おりゃ、と市子の首に豊満な胸の谷間から何かを取り出し、ガチャンと嵌める。
「こんな物で何を・・・・!!?」
市子もされるがまま、とはいかず無理矢理その首輪のような物を取り外そうとするが、
「きゃう!!?」
バヂッバヂヂッ!! と身体がまるで電流が流れるように走り、電撃の痛さに市子は怯んでしまった。
市子に取り付けられた首輪は福の神
この状況を打開したい、ここから逃げ出したいと考え幸福エナジーが叶えてやろうとすればする程に、望みが大きい程受ける強さも大きくなる代物。
「無理に外そうとすればハジけ飛ぶよ?」
口を動かず、ただ淡々に片手のヌイグルミを操って爆発するジェスチャーを送る。
「な・・・・さっきから滅茶苦茶なことばかり言って! あんたたちは・・・あんたは結局何者なのよ!?」
「だから福の神だってば───ああ! そう言えばちゃんとした自己紹介してなかったね」
「福の神・・・・? あんたのどこが福の神なのよ! あんたたちの世界じゃ人を不幸にするのが福の神だっての!?」
「んな訳ねーじゃん! すんごい思考回路してんねー? たんぽぽはね・・・・特別なんだよ」
たんぽぽの目には何も、人を見る目では無かった。
「福の神なんて人(神)種は大体にして人間を幸せにするのを生きがいにしてる“おめでた~い頭”した連中の集まりなんだよ、それ故に他人を不幸にするのを極端に嫌がる奴が多い・・・・だってそうでしょ? 福の神がそれやっちゃったらアイデンティティーを保(も)てなくなるかさら~」
両手のヌイグルミを突き出しながら前屈みになるような姿勢で更に言葉を吐く。
「ところが・・・・そんな福の神の中にもたんぽぽのようにごく稀に・・・他人の不幸なんて屁とも思わない奴もいるんだ。そしてそんな輩には得てして厄介事処理を任されるのさ。普通の福の神なら目を背けたくなるようなことも平気でやってのけられるからね」
だからたんぽぽは任されてきたのだ、福の神界において都合の悪い人間・・・またはその他の神を・・・そんな奴らを不幸のドン底にたんぽぽは沢山に、大量に、そして最悪な方法で叩き落としてきた。
などという任務のケースは今回が初めてだったらしい。
その事を告げた辺りに、様子を伺っていた招き猫・タマが人型になってたんぽぽに襲い掛かる、だがたんぽぽは見向きもせずにそれを往なし、蹴りを一発腹部に放った勢いを殺さず、塀に蹴り飛ばした。
ドンッ、と小さな体なだけに勢いが激しく、容赦の無い衝撃がタマを襲い意識を削ぐ。
たんぽぽは犠牲者が増える一方だ、と市子に言いながらタマに止めの一発を拳に力を入れて放とうとする、だが。
「やめろぉおおおおおーーーーーっ!!!!」
市子は涙を溜めながらたんぽぽに掴み掛かりながら止める、そしてそれと同時に激痛の電撃が身体に奔(はし)る。
バヂバヂッ、と電流が流れると市子は『ぐあっ・・・!』を身を抱え込むようにして電流に対抗する。
「『やめろ』? それは違う。たんぽぽがやめるかやめないか決めるのは“お前だ”」
市子はたんぽぽに顔を向けばやはり無表情のまま腹話術を使って話す。
「お前の返答次第では・・・そうだな、今度“空手家親娘、山で遭難”もしくは“某財閥一家を乗せた旅客機、不慮の事故”な~んてことが起きたとしても何ら不思議じゃないよね・・・?」
「────ッッ!?」
「それともお前・・・まさかまだ知恵を絞れば何とかなるとか、誰かが助けに来てくれるとか思ってやしないよな・・・・・?」
そして徐々にと、追々と追い込み、告げる。
「無駄だよ」
ただ無情に、
「たとえこの状況を打開できたとして、果たして以前と同じように暮らしていけるかな・・・どう思う? あの石蕗という男が・・・・弟に降りかかった不幸がお前を狙ったとばっちりだと知ったら・・・・どう思うかな?」
考えさせる、敢えて【最悪な想像】を考えさせてどれだけ酷く惨めなことになるか想像させる。
「他の仲間はどう思うだろう? 今までと同じようにお前と接してくれるかな?」
無理だ。
「お前が一言たんぽぽに従うと言えば全部元通りにしてやっても良いんだ。そりゃまあ、ここで人生終わりってのも可哀想な話だけどさ・・・・もう十分じゃない? 多かったでしょ? 幸福エナジー・・・・それなりに人生を謳歌してきたんだしさ、それなりの人生楽しめたよ。うん」
許される筈が無い。
でも、何で?
だって、だって私は・・・
これから・・・
夏休みで・・・
皆と一緒に・・・
楽しいこと・・・
・・・・いっぱい
・・・・いっぱい・・・・
「あぁ・・・・・それとも“自分一人だけ消されるのは嫌かい”? えっ? ならたんぽぽは別に構わないよ? どうせなら友達と一緒に逝きたいよね? 本当に大丈夫だよたんぽぽは、今ブルーな気持ちだけど残業する元気ぐらいあるからさ~」
わ・・・・私
私は・・・・・
皆を・・・・・
「行・・・・く、言う通り・・・・・に・・・するから・・・・皆には手を・・・出さない・・・で・・・・」
市子の瞳には、もう絶望しかなかった。
※
「・・・・素直な子じゃん。辛い選択を迫って悪かったね・・・・・・・・・・行くぞデブ!! 引っ張って来いソイツ」
たんぽぽは何処か虚ろな瞳になりながらも腹話術で金山神の二人に指示を出して先に移動するたんぽぽ。
金山神の金山彦が多少同情の念があるのか、優しく立たせるようにして市子を歩かせる。
そして一番の良心の持ち主であろう金山神の金山姫が同情より哀れみが強く、市子の心境を考える。
(選択・・・? こんなの選択じゃないわん・・・・切り札は全て封じられて友達を強迫の道具にされて・・・・・この状況で・・・この娘に何が出来たと言うのん?)
金山姫もゆっくりとよろよろと歩く市子の歩幅を合わせて歩いていった。
金山神の二人が移動していった後、一人だけ残った金色姫は倒れているタマに一瞥し、そして目の前に放って置かれた幸福エナジーのカプセルに目を向かわせれば、
「あっ、なァんや。もう行ってもうたんか。肩透かしや」
金色姫にとって決して聞きたくなかった声が背後から聞こえた。
金色姫はすぐに振り返って臨戦体勢に入る。
目の前の男、銀髪に細い目、そして目立つ白い着物を着た男性。
その者の名は金盞花(きんせんか)、真の名は市丸ギンという死神だった。
「・・・一つ聞きたいんですけど死神サマ? オイラ達(たづ)の邪魔はしないんじゃながったんですかい?」
「邪魔なんてしないよ~? 言ったやん、邪魔はしませ~ん、て」
微笑みを絶やさずにそう言ってきた金盞花こと市丸ギンは“瞬歩”で金色姫の背後に移動した。
(なっ────!?)
金色姫はすぐさま市丸から距離を置く、そして経験からか金色姫はすぐにその場から居なくなった。
だが市丸はそれでも自分の『間合い』にまだ入っている金色姫にまた微笑みを浮かばせてしまった。
「いやぁ、やっぱり若い娘をからかうのはおもろいわ~」
そう言って市丸は多少意識がある招き猫のタマに幸福エナジーが入ったカプセルを足で軽く蹴って寄せて上げた。
「・・・・泣いたらアカン。泣いても意味が無いからや。だから早(はよ)う届けてあげな。それがあの娘の願いやろ?」
ポン、と俯いているタマの頭に手を置いて市丸は言う。
「それに“早めに終わらすに限る”や」
その声を聞いてから、タマの耳にもう何も聞こえなくなった。
というより市丸の気配が無くなっていた、タマは何とか身体を起こすとそこは石蕗邸の近場では無く、宙汰が入院している病院にへと移動してあったのだ。
ニャンと!? とタマが猫の鳴き声を小さく漏らすと、目の前には幸福エナジーのカプセルが置かれてある。タマはしっかりとそれを両手で掴めばすぐさま宙汰が眠っている病室にへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
タマを移動させた市丸ギン、移動法は『瞬歩』では無く自分と対象を移動させる技の《千反白蛇》を使ったのだ。市丸の技であるこれは長年使い続けた甲斐もあり、少ない白布だけでも移動を可能としたのだ。
そして市丸が居る場所はと言うと、
「かぁ~これは良い豪邸に住んでらっしゃるわ~」
石蕗が住んでいた屋敷に来ていた。
ただ市丸一人だけでは無く、
「豪邸まで“ごう丁(てい)”寧に案内してもらいありがとうございますよ、金盞お兄さん、と・・・・」
「へぇぇ~中々な駄洒落(だじゃれ)やねぇ?」
「ええそうですねありがとうございます、きっと読者の方には不評のオンパレードですよまったく!!」
ヒトダマからヒトガタになっている紅葉が使い魔の熊谷と共に石蕗邸の玄関前に広がる場所に立っていた。
「用件を話しては如何ですか? わざわざ私を助けたのは用件を話す為でしょう?」
紅葉は巻かれてある包帯の手を市丸に向けて言うと、市丸は微笑みながら紅葉と向き合う。
紅葉は少しこの市丸ギンという男に苦手意識があるのだ。昔から貧乏神界やらに遊びにきては紅葉の奇策やらを簡単に見抜き、しかも戦いに関しても神相応の実力を持っている。
そんな市丸ギンを前に紅葉は思わず冷や汗を流してしまう。
(まったく、微笑んでいるばかりだから何を考えているかまったく読めません。一体何を考えているのです?)
そんな事を思っていると、市丸が口を開く。
「ボクなぁ、福神(あっち)側に着こうと思ってん」
「・・・・はぁ? 空言なら他所でお願いしますよマジで」
ハッハッハ、と市丸は笑っていれば紅葉は何気なく臨戦体勢に入る。
「空言やないの?」
「まぁ空言には違いありませんが言葉は言葉ですよ、【言霊】には力があるので・・・・ねぇ」
「色々と聡(さと)い子や、感か何かかい?」
「そんな所(とこ)です・・・・」
熊谷から注射器を取り出し、地面を一蹴りして一気に市丸との間合いを詰める、が、
「アカンて、それは」
「うっ!?」
だが目前に迫った時、市丸が少し霊圧と殺意を紅葉目掛けて放てばいとも簡単に怯んで後方に下がった。
「奇策無しに挑むんは君らしくあらへんやん、で次はどうするん?」
カチャリ、と脇に差してあった己の半身にして片割れ、斬魄刀を抜く。
「挑んといて、ボクからは追撃無いと思うとったんか?」
市丸がまったく不気味極まり無い微笑みで静かに足を前に突き出した、改めて刀片手に微笑んで歩いて来る相手が怖いというより“不気味”と感じた、紅葉は冷や汗を垂らして待ち構えていると。
「あああああああぁぁぁぁぁ!!? 居たじゃねえかよ紅葉お姐様!」
対峙している脇から物凄い大声量で叫んだのは、犬神にして紅葉との縁がある桃央(ももお)だった。後ろから大きな体躯をした黒人僧侶のボビーが両手にギプスを巻いてあり、桃央と一緒にやって来たらしい。
どうしてちょうど良くこのタイミングで来たと言うと、
(あの招き猫ちゃん・・・・・なるほど“そういう事”かい)
市丸はそのボビーの肩にちょこんと乗っている小さな猫耳を生えた女の子に気付き、何故あの『怠(だる)い』が口癖の紅葉が積極的に挑んできたのか推測した。
「ほらほら~♪ 死神様がこんなに姿を見られて良いんですか~?♪ 私ィと~変な誤解されちゃ~うゾ☆」
きゃるん☆ と可愛く下を出して身体を捻らせながらそう言ってくる紅葉に市丸は内心共に本当に微笑んでいた。
(まぁ確か死神が大勢見られようが関係あらへんが、まぁ得も無いわな・・・・・まったく、こっちは気分次第で戦うか戦わないかなのに、この子は一か八かでやったのかい)
紅葉は確か確信は無かったのだが、昔からからんで来るこの市丸ギンをただ邪険にしてきた訳では無く、ちゃんと“|対峙した(こういう)時”の為に観察と洞察をしてきたのだ。そして一か八かの賭けで今の状態になっている。
(ここでボクが退くゆう事も、案外“信頼”して賭けたんやろか。まぁどっちにしたって・・・・おもろい)
ニヤリと微笑んだ市丸に紅葉も返すように微笑む。
「んだテメェは紅葉お姐様に何微笑んで・・・・んだ・・・」
「おおそうじゃそうじゃ! いきなり現れていきなりレギュラー取って挙げ句の果てにキーキャラクター的な立ち位置に居ようとは許し難し!!」
「止めろ坊さんっ! “この神(ヒト)”はやべぇ!」
紅葉と微笑み合っていたのが気にくわなかったのか、桃央が市丸にガンを飛ばしながら文句を言おうとしたが、相手が市丸だと気付けばすぐにボビーを抑えて引かせた。
「あらあら? 中々な霊感を持っとる外人さんや。珍しいわぁ~。あっ、ボクの名前は金盞花と言います、宜しゅう」
市丸は恬淡(てんたん)に挨拶を済ませると、人差し指を石蕗邸の一角に突き出すと、
「じゃあ、これだけお節介させたら行くわ」
そう言って、唱える。
「破道の四・・・『白雷』」
ズビュンッッッ!! と白い閃光の雷が屋敷の一角を貫いた。
「ホ、ホッゲェェェ!!────ブツンッ!!」
その貫いた一角とは、石蕗兄妹弟たちを襲った『幸福』と『不幸』を呼ぶ福の神|道具(アイテム)『幸(こう)フクロウ』だった。石像は“白雷”で見事に貫かれ、閃光により溶かれた穴に広がる赤い液体が滴ると同時に叫び鳴いた直後完全に停止した。
「ほな、さいなら」
そう告げて市丸は瞬時に瞬歩で居なくなった。
そして居なくなった瞬間に、石蕗邸の周辺にて変化が起きた。
ズズズズゴゴゴゴゴガガガガガガガッッ!!!!
突如、地盤沈下に地割れに地震。余りにも急に過ぎる出来事に桃央とボビーは混乱し、ギャーギャーと騒ぎ桃央を盾に安全ヘルメットを被りながら避難するボビー。
「ギャアアアァァァ!? 何やってんのォあの銀髪!!?」
地割れする地面をヒトダマ形態になって避ける紅葉。
(くぅ! あとで蓄積された不幸エナジーを吸い取ってから破壊しようとしたのにィ!? それやらなかったら行き場の無くなった石蕗兄妹弟の不幸エナジーが暴発するに決まってるでしょぉぉが!!)
※
数分が経った後、やっと治まった地割れだったが。
行き場の無くなった不幸エナジーが暴発したことにより、地盤沈下で見事に屋敷が崩壊していた。
(((あ~あ~・・・・・)))
紅葉、桃央、ボビーの三人は崩壊した石蕗邸を見ながら、
『知ぃ~らね、自分関係無いし知ぃ~らね』
と見事に他人事を突き通す事を心に決めた。
そして紅葉はこの後どうするか怠(ダル)そうにしながら頭を掻いて振り替えれば、
「い・・・家が、何じゃこりゃ!?」
この石蕗邸の家主にして、福の神・たんぽぽの計画に家族を犠牲(いけにえ)にされた石蕗恵汰(つわぶき・けいた)だった。
「・・・ワオ・・・・」
紅葉の脳裏には、さっきまで居た銀髪の死神が後ろから語りかけるように聞こえてきた。
紅葉は舌打ちをしながら、頭を掻き、聞こえた言葉を口にして後から後悔した。
「『不幸が、不幸を呼ぶんやで?』ですって? ケッ、このッ・・・死神がぁぁぁっ!!」
責任転化は紅葉の専売特許だったのに、逆にやられればこんなにも不愉快になるとは思わなかったのか、紅葉は天(そら)に向かって叫ぶのであった。
貧乏神が!の作者でもある助野嘉昭さんは日本神話とか詳しそうですよね、異剣・天之尾羽張は自分のユーザーネームも同じ『十握剣』と同じ刀のようですよね(´Д`)
『古事記』の神産みの際に伊邪那岐命が息子であり日本の火の神様として有名な火具土神を斬首した刀が十握剣と描かれてんスよね(+_+)
カッコイイ男神出して欲しいなぁ原作キャラ(;´д`)ゞ!