艦これの方は順調で、今日からE4の輸送ゲージ攻略です。
「……なーんもやる気起きねぇ」
そう言ってダイスケは楽な格好になり、ベットの上に横たわる。
現在午後の八時時すぎ。寝るには早い時間だが、たまにはいいかとダイスケは就寝を決意する。だが、どうしても考え事が頭をよぎり、電気を消しても寝付けない。
ダイスケが考えていたのは先日に行われたリアスとライザーのレーティングゲームの顛末だ。
当日はダイスケも関係者ということで特別に来賓席で観戦することになっていた。その場にはグレモリー・フェニックス両家の関係者が並び、いかにも場違いなダイスケは浮いていた。観戦者の中にはリアスの兄でもある魔王の一人、サーゼクス・ルシファーの姿もあって、この縁談がどれだけ悪魔の社会に影響を与えるものなのかが伺える。
試合内容はといえば、実力差がありながらもよく粘った善戦と言っていいものだった。
開始早々、イッセーは合宿中に開発したという女性の衣服を剥ぎ取る『
だが、その直後に小猫がライザーの女王、ユーベルーナに撃破されてから状況は一変する。高火力の朱乃がユーベルーナにかかりきりになったことで木場とイッセーの二人で残りのライザー眷属と戦うことになってしまう。
個々の戦いそのものは着実に勝利を収めた彼らだったが、やはり多勢に無勢が仇となり続いて朱乃、木場と続けてリタイアしてしまう。その間、有利でありながらもライザーはあえてリアスとの一騎打ちを申込み、彼女はそれを受けてしまった。一騎打ちを申し込んだだけあってライザーの実力はリアスのそれを上回っており、加勢に来たイッセーも圧倒された。
ボロボロになったイッセーの姿を見たリアスは下僕が傷つく事よりも敗北を受け入れ、縁談もまとまった。
それから二日過ぎた現在、未だイッセーの意識は戻らず、アーシアが付きっきりの看病をしている。昨日はダイスケも見舞いに行ったが、その身に受けた傷はモニター越しに見るものよりも酷かった。無論、後日また見舞いに行くつもりだ。
本当は本日行われる婚約披露パーティーにも招待されていたが、全く行く気になれなかった。ライザーの勝ち誇った顔を見たくないというのもあるが、それ以上に今目を覚まさないイッセーの方が気になっていた。
そしてダイスケは考え続けている。この決着でいいのだろうか、と。
「……しゃーねぇなぁ」
こういったとき、ダイスケはいつもあることをする。両親への電話だ。
特殊な事情で両親から離れてはいるが、ダイスケはこうして定期的に連絡を取っている。安全のためお互いの住所は知らないが、こうして連絡だけは取れるようになってはいるのだ。
携帯電話のアドレス帳を呼び出し、目的の番号を入力する。固定電話の番号なので時間がかかるだろうと思っていたが、二コール目で目的の人物は出た。
『ダイスケか? 久しぶりだな。どうしたんだ』
出たのは父だった。
「うん、久しぶり。ちょっと訊きたいことがあってさ」
『なんだなんだ、金の相談以外なら何でも乗るぞ』
「そんなたいそうな話じゃないって……いや、なんとなく親父とお袋ってどうやって出会ったのかな、ってさ」
しばしの沈黙の後、父は答える。
『なんだ、好きなヒトでも出来たか。参考にしたいって?』
「いや、そういうのじゃ無くて、ちょっと知り合いが婚約云々でトラブってるからさ。身近なヒトの結婚はどんなんだったのかなって」
『そういえば、そういう話は一度もしていなかったな。――話しておくか。いい機会だ』
話によると、出会いは仕事場だったらしい。同期での入社で、歓迎会でたまたま隣の席だったことから知り合いになり、自然と距離が縮まって交際することになったそうだ。
だが、交際三年目で危機が訪れる。
父が会社の上司に見合いを勧められたのだ。相手は取引先の社長令嬢、見た目も美人で且つ先方も乗り気。おまけに出世も確約するというのだ。
どう考えても父を人身御供にしての取引先との連携強化という前時代的なやり方で、父の意思など関係無しに話は進む。何度も父は断ろうとしたが、上司の圧力で無視され、とうとう見合い前日になった。
父はこのことを苦渋の決断で母に打ち明けた。恐らく軽蔑されるだろう。地位と恋愛を天秤にかけ、互いの気持ちを無視して益をとろうとしたと思われても仕方が無い。頬の一つも張られることを覚悟していた。
だが、母の答えはこうだった。
「貴方が望むなら、私は身を引きます。だって、貴方の幸せが一番だから」
その答えを聞いた父の決断と、その後の行動は早かった。その日の夜中に辞表を書き上げ、見合いの当日に上司と社長の目の前に提出したのだ。
今回の話は身に余る光栄である。しかし、自分には自分の幸せを願ってくれるこの世で最も大切な人がいる、とブチあげた。
辛くもクビだけは免れたが、当然話は破談。結局その後母と結婚はしたが、会社内からは誰も祝われず最終的にその会社は辞することになった。
だが、後悔は無かった。再就職先は良かったし、ダイスケも生まれた。紆余曲折はあったが、結果的に幸せな家庭が出来たのだ。
『まぁ、お前が早くに親元を離れるなんて想定外もあったけど、いい人生を送れていると思うよ』
「――もし、さ。その社長令嬢と結婚していたらどうだったのかな」
『碌な結果じゃ無かっただろうな。後で人伝に聞いたが、あの人はずいぶんと男遊びが激しいらしくて、あの後結婚したが浮気浮気の連続で碌な結婚生活を送っていなかったらしい』
「うわ、結果的にギリギリセーフじゃん」
『そういうことだ。まぁ、愛のないドライな関係のままでいいっていうのならまだしも、お互いに想い合っている者同士の結婚が一番だよ。愛が無ければ、生まれてくる子供だって不幸だ』
「……そっか、そうだよね」
『お、母さんが風呂から上がったみたいだ。電話替わるぞ。母さんとも話したいだろう』
「いや、今日はいいや。ちょっとやることが出来たからさ」
『……そっか。なら、気張ってこい。彼女が出来たら、連絡くらいはくれよ』
「いや、だから俺の話じゃ無いんだって」
*
赫く沸る炎の中。
今、イッセーの意識は深淵の中にありながらも炎に照らされた空間の中にある。
『まったくもって情けないな。これでは先が思いやられる―――と言ってしまってはさすがに不憫か。お前自身はまだまだ脆弱な存在なのだからな』
まったくもって言いたい放題だ。それもまるで見てきたかのように言う。
『ああ、俺はずっとお前を見てきた。本当は分かっているのだろう?俺がどこにいるのか。俺は何者なのか』
その声はまるで心の奥底から―――否、左腕から聞こえてくるのは既にわかっていた。
『お前は人の身でありながらドラゴンであるという異常なる存在なんだ。これ以上無様な姿は見せないでくれ。そんな様じゃあ《白い奴》に笑われる』
誰だろうか。少なくとも因縁深い相手ではありそうだが。
『いずれお前は奴に出会う。奴はあのフェニックスなど足元にも及ばない強さを持っている。その時までに生き延び、勝つための経験と努力を積み重ねていくといい。そうすればお前は間違いなく強くなる』
想像できなかった。ライザー以上の相手が間違いなく自分の目の前に現れるであろうこと、そしてそんな相手と自分が対等に戦わなければならないことを。
『負けるのもいい。敗北もお前の糧となる。だが、決してそのままで終わらすな。巻き返し、ねじ伏せ、叩きのめし、見せつけろ。お前を嘲笑った者たちにドラゴンという存在がどういうものなのか刻み付けろ。そのためにも俺の力の本当の使い方を教えてやろう』
「なあ、教えてくれ。お前は一体なんなんだ?」
『ようやく訊いたな。ならば答えよう。俺は赤い龍の帝王《ウェルシュ・ドラゴン》、ウェールズの赤い龍。ドライグだ』
「ドライグ……赤龍帝の籠手に宿る者」
『そうだ。お前が望むなら、俺はいつでもお前に力を与えよう。ただし、大きな犠牲が必要だ。なに、それだけの価値はあるさ。保証しよう』
*
「あら、いいタイミングでいらっしゃいますね。ちょうど起きたところです」
ダイスケがイッセーの家に到着するなり出会ったのはグレイフィアだった。
「ああ、今は入室されないほうがよろしいでしょう。アーシアさまはずっと付きっきりで看病されていましたから、積もる話もあるでしょう」
「解りました。でも、なんであなたがここにいるんです? わざわざここに来る俺を待ってたわけでも、イッセーを看護するためにここに居るわけでもないんでしょう」
「ええ。イッセーさまに会場へ直接転移出来る魔法陣を差し上げるのと、サーゼクス様からの言伝を伝えに」
「言伝?」
「ダイスケさまにもお伝えしましょう。『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』とのことです」
それを聞いてダイスケは呆れた。つまり、サーゼクスは魔王という立場でありながら政治的に複雑な利権が絡んだ今回の婚約を不意にしようというのだ。
普通なら政治的指導者が貴族同士とはいえ婚約一件に口を出すことなどありえない。つまり、サーゼクスはいち兄としてこの婚約を阻止したいらしい。よほどリアスがライザーとの婚約を嫌がっているのを知ってるか、自分の妹が可愛いようだ。
「なるほど。つまりサーゼクスさん……魔王様の仕切りで婚約阻止に殴り込めってことですか」
「そう捉えていただいて構いません。乗るか乗らないかは当人の自由ですが」
「乗りましょう。俺も色々フラストレーションが溜まってたんです。でも、これだけははっきりと言わせていただきます」
一拍空け、ダイスケは真剣な面持ちで言い放つ。
「切っ掛けはサーゼクスさんでも、これは俺たちの喧嘩だ。サーゼクスさんの仕切りでは動かない。俺も、イッセーも、気に食わないからぶち壊しに行く。そこだけははっきりさせておきます」
「……ええ、それで構いません。それでは。転移先には迎えの者が待っている手筈になっていますので、その者が誰にも見つからないように会場までご案内いたします」
軽く会釈した後、グレイフィアはその場をあとにした。そしてダイスケが頃合を見計らってイッセーの部屋に入ろうとした時、アーシアが急いだ様子で出てきた。
「あ、ダイスケさん!イッセーさんが……」
「知ってる。グレイフィアさんから聞いた。それよりどうした?」
「それが、イッセーさんが私に貸してほしいものがあるとかで、急いで私の部屋から取りに行かないといけないんです。部長さんを連れ戻すために……」
「そうか。悪いな、引き止めて」
「はいっ」
アーシアが行ったのを確認すると、ダイスケは室内に入る。
「あ、あ、ぐあぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁああああ!!!!」
するとそこには燃える左腕を抑えて苦しみ悶えるイッセーの姿があった。その様子を見て慌ててダイスケが駆けつける。
「おい、しっかりしろ!!」
「くっ、うっ、がふっ、ううううううううううううううう!!!」
倒れるイッセーをダイスケは介抱するが、イッセーは声が漏れないように額を冷やしていた濡れタオルを噛んだ。
燃える左腕は徐々に鎮火していってはいるが、異変はすぐに見て取れた。左腕が神器を装着した時の姿になっている。いや、今まで見たのとは様子が違う。まるで生き物のような生命感があるのだ。
「……これは」
「フー、フー……ペッ。俺の腕を神器の中にいるドラゴンにくれてやった。力と引き換えにな」
噛んだタオルを吐き捨ててイッセーは平然と言い放つ。
「くれてやったって……どういうことだよ!?」
『責めてやるな。コイツに考えがあるからこそ話に乗ったんだ』
変化した左腕から声が聞こえる。それはイッセーの声でも自分のものでもないこの部屋にいるもうひとつの存在の声である。
「……誰だ」
『名を訪ねたくば己の名を名乗ってから……と言いたいがあいにく俺はお前のことはこいつを通じて知っているからな。俺はドライグ。赤龍帝の籠手に宿る者だ』
「怒ってくれるなよ。俺から頼んだ事なんだ。ライザーの野郎をぶっとばすためにな」
「怒りはしねぇよ。でも、なんだってわざわざ腕をドラゴンのものに変えたんだ。力がいるんだったら、純粋な体力を底上げしたほうがお前にとっちゃ楽だろ」
ダイスケの言う通り、ただ力が欲しければほんの少しだけ地力の体力を上げさえすれば、赤龍帝の籠手の能力でいくらでも底上げできる。
『それがな、この男なかなか面白いことを考える。もうすぐあの娘も戻ってくるだろう』
「ああ、きっとアレがあれば……野郎に一矢報いることができる」
*
「“婚約”披露宴だなんていって……これじゃあほとんど“結婚”披露宴じゃない」
今リアスは己の控え室にいる。もうすでにパーティーは始まっている時間だ。リアスの言うことはもっともだった。今のリアスの格好はほとんどウェディングドレスと言っていい衣装だった。
だが、これは自分が選択した末の結果。甘んじて受ける他ないのが、今のリアスの立場だった。
「そう言うなよ、リアス。せっかくの花嫁衣装にそんな顔は似合わないぜ?」
不意に炎が立ち上がり、中からライザーが現れる。
「いけません、ライザー様! ここは男子禁制ですよ!?」
リアスに使えるメイドの一人がライザーの侵入をたしなめるが、それを当人は気にも止めない。
「硬いこと言うなって、俺は今日の主役だぜ? いや、主役は“花嫁”の方だったな。失敬、失敬」
「まだ花嫁になったわけじゃあないわ。……一体なんなのよ、この衣装。すぐに取り替えてもらうわ」
「いやいや、それでいいのさ。グレモリー家とフェニックス家が繋がれたって、より冥界中にアピールできるだろう? そして君もそれを着ることでより諦めがつく。だろう?」
嫌味ったらしく言うライザーに、リアスは唇を噛む。
「安心してくれ。本番ではそれとは比較にならない最高の花嫁衣装を君に送るよ」
そういって再び炎の中に消えるライザー。そんな中、リアスの脳裏にあったのはイッセーのことだった。
最後まで一緒に戦ってくれた可愛い弟分にして下僕。ボロボロになってまで自分の為に戦ったイッセーのその傷ついた姿が、今でも目に浮かぶ。
(ごめんなさい、イッセー……。駄目な主で……)
そう想いに耽るリアスに、メイドが非常にも現実の時の流れを告げる。
「リアス様。お時間です」
*
「……っと、ついたな」
イッセーとダイスケが使った転移用魔方陣の光が止むと、そこは冥界の大きな屋敷の敷地の森の中だった。警備の者はここまでは巡回していないか敷地の外で警備しているらしく一人も見当たらない。
「確か迎えの者がって、グレイフィアさんは言っていたけど……」
イッセーがキョロキョロとあたりを見渡す。するとダイスケが何かを感じたらしく、森の中の一点を見つめて言う。
「――そこに隠れているのは誰だ。出てこい」
もしかしたら迎えの者とは別の第三者かもしれない。最大限の警戒をしていると――
「……その声、もしかしてダイスケ様ですか?」
ガサガサと茂みを分けて進む物音とともに、一人のメイド服姿の少女が現れる。月明かり(冥界なので違うかもしてないが)に照らされたプラチナブロンドのサイドポニーが綺麗に燦めいている。
「もしかして……リリア? リリアなのか?」
ダイスケはその少女のことを知っているらしく、すぐに警戒心を解いていた。少女の方もダイスケの姿を確認すると、一気にかけ出してその胸の中に飛び込む。
「ああ、ダイスケ様っ! ダイスケ様! お会いしとうございました! まさか、グレイフィア様が仰っていたお迎えするお客様がダイスケ様だったなんて!」
リリアと呼ばれた少女がダイスケの胸に飛び込むと、ダイスケも快く受け入れる。
「おう、久しぶりだな! 俺も迎えのヒトがリリアだなんて思いもしなかったよ!」
「グレイフィア様もお人が悪いです。ダイスケ様がいらっしゃるのならもっと華やかにお迎えいたしましたのに!」
「いや、これ一応隠密行動がメインだから。派手にされたらこっちが困る」
完全に二人の世界に入って蚊帳の外にはじき出されたイッセー。しばらくこうして話し込んでいるのでしびれを切らして少女の肩をトントンとつつく。
「あのー、もしもし? お楽しみのところ悪いんですけど、どちら様で?」
「……え?」
自分の肩をつついたのがイッセーだと認識すると、少女の顔が凍り付く。
「……い」
「い?」
「……い」
「い?」
「……イヤァァァァァァァ!!! 男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! ――ムガムゴムグムゴ!!」
拒絶の叫び。だが、すぐさまダイスケはその口を塞ぎ、羽交い締めにして抑えて黙らせる。
「リリア! ここではマズい! イッセー、兎に角離れて謝れ!」
「え、え、え? あ、あの、すんまっせんでしたぁぁぁぁぁ! なんかよくわかんないけど、すんまっせんでしたぁぁぁぁぁ!」
よくわからず二メートルほど離れて土下座するイッセー。
「むー! むー! ……す、すみません。取り乱しました」
「いや、お前の『病気』のことを失念していた俺が悪かった。イッセーも悪かったな」
「い、いや。その……この
「ああ、この娘はリリア。グレモリー家のメイドさんで、俺たちと同い年。昔、俺の生活をサポートしてくれていたんだ。リリア、コイツは兵藤一誠。俺のダチで、今回のカチコミの主人公だ」
「さ、先程はお見苦しいところをご覧に入れてしまい申し訳ありませんでした。私、グレモリー家でメイドをしております悪魔のリリアと申します」
「いえ、俺も不注意でした。すいません。……ダイスケ、さっきのって?」
イッセーの問いに、ダイスケは苦々しい表情で答える。
「ああ。この娘はな、極度の男性恐怖症なんだ。小さいとき一緒に生活していた俺は平気なんだが、他の異性にはさっきみたいになって拒絶してしまうんだよ」
「さ、最近はジオティクス様やサーゼクス様とは目を見てお話しできるくらいにはなりました! 他の使用人の男性とも視線をそらして話すくらいには……」
「でも触れたれたらアウトなんだろ?」
「うっ、それは……これから頑張ります……」
「な、なんか大変そうだな。で、どこを通っていけばリアス部長に会えるんです?」
「あ、そうでした! 私の後に付いてきてください。この迎賓館の構造は私はしっかり把握しております。私にも仕事があるので途中までですが……はぐれないようにしてくださいね」
「はい、お願いします!」
と、イッセーは敬礼しようとした。すると、振り上げた手がリリアに軽く触れる。
「「あ」」
「……い、イヤァァァァァァァ!!!」
*
冥界の名家同士の婚約パーティーとあって、会場は大いに賑わっている。会場には数々のドリンクや食事が並び、まさに贅の限りを尽くしたと言わんばかりの光景だ。
だが、所詮は婚約披露宴。本当の結婚披露宴ではこれ以上の趣向がこられるはずだ。そして社交場らしく、貴族同士の会話もあちこちで見られる。こういった場における会話は、ただの世間話ではない。お互いのビジネスの近況や、政治についての意見交換もある。さらには将来のためのコネクション作りや重要な商談につながる会話も起こる。貴族社会においては往々にして、パーティー会場が政治の場になっていたりするのだ。
そんな中、レイヴェル・フェニックスは他の眷属たちをそばに置いて、顔馴染みの貴族との談笑を楽しんでいる。
「うふふふ。お兄様ったら、レーティング・ゲームでお嫁さんを手に入れたんですのよ。結果の見えていた勝負でしたが、見せ場ぐらいは作ってさしあげる余裕はございましたわ。オホホホホ!」
実際はそこまで余裕があったわけではないのは、実際にゲームを見ていればわかるのだが、相手は中継されていた試合を見てはいないのだろう。それを聞き手の悪魔は鵜呑みにしてしまっている。
その姿をリアスの眷属悪魔として招待されている朱乃たちは遠巻きに眺める。
「これみよがしに、言いたい放題だ」
タキシードでキッチリ決めた木場が苦笑する。
「中継されていたのを忘れているのでしょう」
そこへ、ドレスで着飾った駒王学園生徒会長にして上級悪魔、そしてリアスの幼なじみにして旧友の蒼那が現れた。
「会長……」
「私は学校の関係者ということで観戦していましたが、結果はともかく勝負そのものは拮抗、いえ、それ以上のものでした。それは誰の目にも明らかです」
同じ場にいた上役たちも同様の意見だったという。世辞では無い、心からの賛辞ではあるが、おそらく今の彼らには無用になる。なぜなら――
「ありがとうございます。でも、お気遣いは無用ですわ」
朱乃のその言葉に、蒼那は怪訝そうな顔をする。
「多分、これで終わりじゃあない。僕らはそう思ってますから」
「……ええ、終わってません」
木場と小猫が言い終わると同時に、壇上に大きな火の手が上がる。ライザーの登場だ。
「冥界に名だたる貴族の皆様方! 本日は貴重なお時間をさいて頂いてのご来場に、フェニックス家を代表して御礼申し上げます」
ライザーが恭しく、会場の貴族たちに挨拶を述べる。
「本日お集まりいただいたのは私ライザー・フェニックスと、名門ゲレモリー家次期当主リアス・グレモリーとの婚約という歴史的瞬間にお立会いいただくためであります」
その言葉をレイヴェルは誇らしげに聴き、グレモリー眷属たちは厳しい視線でもって聞く。
「さあ、ご紹介いたします! 我が后……リアス・グレモリー!!!」
リアスの魔法陣が展開し、そこから純白のドレス姿のリアスが現れる。紅い光が収まり、リアスが目を開けようとした、まさにその時。
突然、非常放送用のスピーカーからノイズ音が流れる。よほどの緊急時以外は使われないものだったので、会場にいる全員が何事かとスピーカーの方に注目した。
『あー、あー、マイクの音量大丈夫? ワン、ツー……はじめまして。私、霧m』
『いや、ふざけてないで早くやれよ。俺、艦これわかんねぇし』
『わかった、わかった。……どーも、皆さん。知ってるでしょう? 宝田大助とぉ―――』
『兵藤一誠でぇございます』
『『おい、パイ食わねぇか』』
直後、衛兵の体がドアを突き破り、会場の中に飛ばされた。それが立てる騒音と土煙に、貴族たちが何事かと視線を突き破られたドアに向ける。
誰もがそこに視線を釘付けにしていた。
すべての貴族達も。
蒼那も。
ライザーも。
グレモリー眷属たちも。
そして、リアスも。
土煙が晴れ、二人の人影が見える。そこにいたのは紛れもない、ダイスケとイッセーだった。
「……イッセー!?」
リアスが突然のその登場に驚く。
俺は無視ですか、と呟くダイスケをよそにライザーが立ちはだかる。
「おい、貴様! ここをどこだと思っている!?」
それに構わず、イッセーは宣言する。
「俺はオカルト研究部の兵藤一誠! リアス・グレモリーの処女は……俺のモンだァァァァアアアア!!!」
はい、というわけでVS11でした。
今回出てきたメイドのリリア、超重要人物です。そしてヒロインです。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!