ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 あーあ、やっちまった。四日連続投稿。自分史上最速ペースです。死ぬんでねぇか、俺。
 艦これの方はE4丙の輸送ルートを終わらせました。ヒューストン、攻略中に出てくれないかな……オラッ、バタビア沖棲姫! これ以上そのオウムガイの触手引きちぎられたくなかったらさっさとヒューストン出せや、オラァ!! あくしろよ!


VS12 こっちの要求を通すときは相手が有利であるように見せろ そんでもって決闘

 

「俺はオカルト研究部の兵藤一誠! リアス・グレモリーの処女は……俺のモンだァァァァアアアア!!!」

 

 その一言に、会場は騒然となった。

 

「な、何を言っているの、あの男!?」

 

 “処女”なんて日常ではお目にかかれないどころか、口にするのも憚られる言葉を放ったイッセーに顔を赤くするレイヴェルを始め、多くの貴族たちがざわめく。

 

「イッセー……」

 

 だが、リアスは別だった。生まれて初めて受ける、身分も何も関係ないイッセーからの愛の告白。彼女にはそう聞こえていた。

 幼い頃からグレモリー家の後継、魔王の妹という肩書きだけで求婚されてきた彼女にとって、初めてイッセーは個人「リアス・グレモリー」としてみてくれているのである。それも、可愛い下僕であるイッセーが。これだけで、リアスの心は熱く燃え上がった。

 そのリアスの心を傍で見て感じたのか、ライザーは焦ってフェニックス家の私兵である衛兵たちに命じる。

 

「くっ……取り押さえろ!!」

 

『はッ!!』

 

 一斉にイッセーへ飛びかかる衛兵たち。だが、イッセーを制してダイスケが前に出る。

 

「有象無象が主役に手ぇ出すんじゃねぇよ」

 

 まずは挨拶がわりに衛兵たちの足元へ熱弾を放つ。これにより衛兵たちは進撃の足を止めてしまった。その衛兵たちを二つの影が襲う。

 

「ここは僕らが何とかするよ!」

 

「……行ってください」

 

 木場と小猫が盾になるかのようにイッセーとダイスケを阻もうとする衛兵たちに立ちはだかる。

 

「人の恋路を邪魔するものはなんとやら、ですわね」

 

 さらに朱乃が援護の雷を放つ。ルーキー悪魔の中でも名が知れた朱乃の一撃は上級悪魔の攻撃にも匹敵する。その事実を知っている衛兵たちは彼らに手を出せなくなってしまった。

 

「何をしているか! お前たち、代わりにあの侵入者二匹を引っ立てろ!!」

 

『りょ、了解しました!』

 

 代わりに立ちはだかるのはライザーの下僕たちである。その実力を知っている朱乃たちはすぐにでも手助けに行きたいが、数いる衛兵たちを殺さないように相手取るので手一杯だ。

 

「おい、お前らパイ食わねぇか」

 

 そこへこの上なく歪んだ笑顔で現れたのはダイスケである。かなり異様だがそれが結構威嚇になってたりする。

 

「「バラバラになっちゃえ!!」」

 

 最初に飛び掛ってきたのはチェーンソーの双子イルとネル。火花を散らして降り下ろされる二つのチェーンソーを籠手で握り、掴む。

 

「子供たちもおいでぇ……パイ焼くぞぉ」

 

「こ、このぉぉぉ!!」

 

「ミラ!!」

 

「ええ!」

 

 ネルの一声で、棍を持ったミラがダイスケの背後から襲いかかる。もう少しで棍が直撃する、というその時チェーンソーが握りつぶされる。

 

「辛いかい!?」

 

「「ウソ!!」」

 

 バラバラに散らばるチェーンソーの破片。その中をダイスケは後ろを振り返り、ミラを捕まえて双子に投げつける。

 

「「「キャアアア!!」」」

 

 三人仲良く壁に激突するが、これで終わらない。ダイスケは懐からゴムの代わりに鋼鉄製のバネを使った特製スリングショットを取り出した。

 何かあったときのためにと最近自作した武器である。そこから放たれるのは先日、桐生義人が殺害したはぐれエクソシストの死体から剥ぎ取った銀の弾丸だ。通常、エクソシストはフリードのように光を発射する銃を用いるが、こだわりで古風な銀の弾丸を使うのを好むものもいる。そこから剥ぎ取ったのだ。

 当然遺体は埋葬してあるが、やっていることは神聖な道具のかっぱらい。まさに神をも恐れぬ所業。ちなみに十字架などは何かに使えないかととっておいてる。

 しかしそのお陰で双子とミラは立ち上がれなくなるほどの大ダメージを受けた。

 続いて襲い掛かるのはシュリヤー、マリオン、ビュレントの兵士の三人。ゲームでは朱乃の誘導に引っかかり、木場に足止めをされたところで朱乃の雷を喰らって退場した三人だ。

 

「こっちはもっと辛いものをぉ、君たちのご主人様にぃ、食べさせられてるんだよぉ……」

 

 ダイスケのその一言の後、シュリヤーは側頭にハイキックをもらって窓の外へ吹き飛び、マリオンはアッパーで天井に突き刺さり、ビュレントは踵落としで床に埋められる。

 

「ニィ、リィ、美南風! 行きなさい!!」

 

 ユーベルーナの指示で三人が突撃する。まずはニィとリィと呼ばれた猫耳の双子がダイスケの両側面から攻撃する。イッセーにしたのと同じように、まず足を潰そうとしてローキックを当てる。

 

「残さず食えよっ」

 

 逆に二人の脚の骨が折れた。その痛がる彼女たちの襟首を掴み再び投げる。投げられた二人は美南風と呼ばれた十二単姿の少女を巻き込んで壁を突き破って退場。ついでに銀の弾丸もたたき込まれる。

 

「コイツッ! イザベラ!」

 

「わかっている、雪蓮!」

 

 今度は戦車二人の拳のラッシュ。だがそれも全て受け流される。

 

「そうだ、お前らも食えよぉ……」

 

 ダイスケは二人の渾身の拳を弾くと、代わりに交互に一発づつボディーブローをたたき込む。銀の弾丸を指に挟んで握った状態で。

 

「でぇ、それが終わったらフェニックス家の実家へ行くんだぁ……!!」

 

 それはガードする暇もなく、イザベラと雪蓮のボディに叩き込まれる。弾頭は当然クリーンヒットし、銀のダメージをもろに受けた。

 

「おたくらのとこだったら急がねぇとな!!」

 

 二人はレイヴェルの横を突っ切って壁に激突し、沈黙。

 

「いくぞ、シーリス!」

 

「わかっている!」

 

 剣を構えて向かってくるのは騎士のシーリスとカーラマイン。それぞれ大剣と炎を纏った短剣が得物。だが、それに関係なくダイスケは両手を広げて構える。

 

「パイ焼いたらすぐ行くぞぉ……。パイが腐らねぇうちにな……」

 

 連射される光弾。一発一発の威力は低いが、騎士二人は間合いの外から浴びせられる熱弾の雨を受けて崩れ去る。

 

「調子に乗るなァァァァ!!!」

 

 ユーベルーナがダイスケに特大の炎を放つ。もはや周りの被害など関係なくなっている。だが、炎は直撃することなく熱線にかき消される。そのまま熱線はユーベルーナに直撃し、沈黙させた。

 

「……ライザーさん、今行きますよぉ……パイを届けにね」

 

 ダイスケは言う。その眼前にいるレイヴェルは恐怖でへたりこみ、ライザーの表情は既に怒髪天を付くかのようだ。

 だがそれも致し方ないだろう。せっかくの自分の晴れの舞台が乱入者二名によってぶち壊されてしまったのだ。これを怒らないものはいないだろう。そしてそのライザーを守るように下僕たちが立ちはだかる。

 

「貴様ら……何が目的だ!?」

 

「さっき言ったことをもう忘れてるか。ならイッセー、もういっぺんこの若年性痴呆症に聞かせてやれ」

 

「……お前からリアス部長を奪い返しに来た」

 

 イッセーの言葉でその場にいる貴族たちがざわめく。一介の下僕悪魔が主の婚姻の邪魔をし、あまつさえその主をもらい受けようというのだ。彼らの常識からすれば正しく異常である。だが、それだけでは済まなかった。

 

「上級悪魔の婚姻に下僕風情が口を挟むなどと……」

 

「いや、下僕思いで有名なグレモリーのことだ。主を思ってこその行動なのではないか?」

 

「よもやゲームに不正でもあったのか……?」

 

 あらぬ噂が立ち始めたことのよりライザーは苦虫を噛み潰したような表情になる。当然、ライザーがリアスに勝ったのは実力故のことでありそれそのものには不正はない。

 だが、リアスを挑発することで自分に圧倒的有利な方法で婚姻を認めさせ、どうあがいても婚姻を成立させられる状況へ誘導したのは事実。不利であるのにも関わらず勝負を受けたリアスにも落ち度はあるが、これは明らかに悪意ある誘導である。

 そういった打算が暴露されれば、その足元を掬おうとする政敵に攻撃をする隙を与えることにもなりかねない。焦るライザーは怒鳴り散らす。

 

「き、貴様ら! ここがなんの場所なのかわかっているのか!?」

 

 その言葉にイッセーとダイスケは不敵に返す。

 

「だからせめて学生服で来ましたよ?」

 

「花京院だって「ガクセーはガクセーらしく」って言ったし?」

 

 当人の焦りにも関わらず茶化されたとあってはなんとか平静を保とうとする努力も水の泡。ついに堪忍袋の緒が切れる。

 

「ふざけるんじゃあない!! 表へ出ろ! 徹底的に叩きのめして―――」

 

「いやいや、彼らは私が招待したのだ。手荒なことはよしておくれ、ライザー君」

 

 上位悪魔かつ72柱の一柱であるライザーを君付けで呼ぶ者。真紅の髪を流し、グレイフィアを伴ったその男は……

 

「お兄様!?」

 

「サーゼクス様!?」

 

 リアスとライザーの言葉でイッセーは会得する。この男こそリアスの兄であり現魔王の一角を担う『サーゼクス・ルシファー』その人だと。そしてもう一人、赤髪の初老の男性が現れる。リアスとサーゼクスの父にしてグレモリー家現当主ジオティクス・グレモリーだ。

 

「久しぶりだね、ダイスケ君。見ないうちにずいぶんとやんちゃになったようだ」

 

「お久しぶりです、ジオティクスさんにサーゼクスさん。こんな状況で無ければちゃんとした挨拶をしたかったんですが、今はこれで勘弁してください」

 

 ダイスケが二人に深々と頭を下げるのを見て、イッセーも慌てて頭を下げる。

 

「いやいや、先日のゲームのときはろくに挨拶も出来なかったからね。今も今だし、後でゆっくり話す機会を作ろうじゃ無いか」

 

「うむ、君やご家族の近況も訊きたいところだ。ところでサーゼクス、彼らはお前が招待したということだが、どういうことかな」

 

「そ、そうですぞサーゼクス様! このような狼藉を働く者どもを貴方が呼び寄せるなど!」

 

「うむ、ライザー君。どうも彼らは先の決着に異存があるようでね。結婚式に「異議あり!」と乗り込まれるよりもいいだろうから来てもらったんだよ」

 

「さ、サーゼクス様! そ、そのようなご勝手は……!」

 

 関係者であろう、慌てふためく中年の男性悪魔をサーゼクスはスッ、と出した右手で抑える。

 

「先日のレーティングゲームは非公式戦ながら実に面白かった。数や経験で圧倒的に不利な妹が格上の相手に互角以上に立ち回ったのは実に素晴らしかった」

 

 しかし、とサーゼクスは続ける。

 

「先程も言ったようにゲーム経験のない妹が、フェニックス家の才児であるライザー君と戦うのは少々分が悪かったかな、と」

 

「……私には、サーゼクス様が『この間の戦いの結果は解せない』とおっしゃっているように聞こえますが?」

 

「いやいやライザー君、その様な事はないよ。魔王とはいえまだまだ若輩者の私があれこれ言っては旧家の顔が立たない」

 

「ならばサーゼクスよ、お前はどうしたいのだ?」

 

「父上、私は可愛い可愛い妹の婚約パーティーはド派手にやりたいと思うのですよ。しかし、この婚姻に主の下僕が異を唱え奪いにやって来る。前代未聞の花嫁をめぐるドラゴンとフェニックスの戦い。これほど面白いドラマはないでしょう」

 

 確かに余興としてみれば十分に面白い展開だろう。一人の女をめぐって伝説に刻まれる神獣達が争い合うという場面はなかなか見れないものだ。

 

「ですがサーゼクス様、既に決まったこの婚姻をたかが一人の下僕の我侭で反故にされるような事があれば、これはグレモリー家、ひいてはサーゼクス様への信用問題につながりますぞ!」

 

 また別の悪魔がサーゼクスに噛み付く。この婚姻にはグレモリー・フェニックス両家だけでなくそれに連なる多くの貴族の利権にも関わる大きな事案だ。実を言えば話が纏まった時点でリアスがライザーのもとへ嫁ぐのは決定事項のようなものだったのだ。そこへ絡む富の動きも計算されたもので、ここで保護にされれば多くの損失を産んでしまう。それが彼らには恐ろしいことなのである。

 だが、そんな事情などどうでもいいダイスケがサーゼクスに変わって反撃する。すっごく悪い顔で。

 

「考え方を変えましょうよ。あのゲームはリアスさんが負ける前提で組まれたゲームで、最初からリアスさんを結婚に追い込むためにわざと戦力差があるまま不利な戦いをさせた。そんな風に言いふらされたら信用を失うのはグレモリー家とフェにニックス家です。だから後に禍根を残さないように、そして下々の意見を受け入れる度量を、そしてイッセーの異議を受け入れることによって公平性を見せられるんです。そうすれば痛くない腹を探られずにすむし、両家の公正さを内外に示すことも出来る。ここでイッセーとライザーさんを戦わせることで一挙両得出来るんです。こんなうまい話は無いですよ。そもそも、あんな一方に不利なゲームをマッチングした方がダメだったんですよ。その分をここで挽回できると考えたら安いもんでしょう?」

 

「だ、だが――」

 

「考えてもみてくださいよ。一回ライザーさんはイッセーに圧勝してるんですよ? なら別に不安要素はないでしょう。こっちは不満を解消できる。そちらは公平性を見せられる上、決着を文句が出ない形にまで持って行ける。ここで少し譲歩するだけで勝ったときのリターンはでかいですぜ? しかもレートはそっちが上だ。賭けにしては相当有利な条件ですよ、そちらは」

 

 ゴマをすりながらダイスケは文句を言う貴族にすり寄っていく。ダイスケが敵意を見せていないのも相まって、「あれ、これむこうの要求に乗った方がよくね?」と言う空気ができあがる。

 

「まあ、そういうことさ。さあ、他に彼らの要求を飲めないという方はいらっしゃらないのかな?」

 

「……」

 

 魔王の一言に会場にいる全悪魔が文句を言えなくなった。ダイスケのへりくつをサーゼクスが承認した問うことは、それがサーゼクスの狙いということでもあるからだ。それを決闘の了承と受け取ったサーゼクスはイッセーとライザーに向き直る。

 

「二人共、お許しは出たよ。ライザー、私とリアスの前で今一度その力を見せてはくれないかな?」

 

「あ、ちょっと待ってください。戦うのはイッセーだけです」

 

「ほう、いいのかね? 兵藤一誠くん」

 

「構いません。ここは俺ひとりの力で部長を勝ち取ります!」

 

「解った。ライザー君、異存はあるだろうが……やってくれるかな?」

 

「……サーゼクス様に頼まれたのであれば断れるわけがございません。このライザー・フェニックス、身を固める前の最後の炎をご覧に入れましょう!!」

 

 こうして婚約発表会は一人の女を巡る戦いの場へと変貌したのである。

 

 

 

 

 

 

 急遽作られたバトルフィールド。それはさながら古代ローマの剣闘士たちが命をかけて戦ったコロッセオ。だが、ここで賭けられるのは命ではない。一人の女の未来だ。

 円形の観客席には貴族悪魔たちが好奇の目で中央にいるイッセーとライザーを見守る。観客席にはグレモリー眷属をはじめ、蒼那やリアスの傍らにはサーゼクスもいる。反対の位置にはフェニックス家の関係者たちと眷属たち、そしてレイヴェルが固唾を飲んで見守っている。

 

「万が一って時には俺も加わっていいって言われてるけど、大丈夫だよな?」

 

「ああ、勝つ算段はもう打ってある。お前のお陰でな」

 

「じゃ、俺は観客席で適当に食い物でも食いながら見てるから」

 

 そう言ってダイスケは先ほど会場から失敬したローストビーフの大皿を持って席へ向かう。

 グレモリー眷属が固まって座っている席から少し離れた位置に座り込むと、そこへ大柄で短い黒髪に紫の双眸をもつ若い悪魔がやってダイスケのとなりへ座り込んだ。

 

「どちら様で?」

 

「いや、先ほどのやりとりで君たちのことが気になってな。なかなか面白いものを見せてもらった」

 

 外見でわかる年齢は二十代ほどだろうか。ここにいる以上どこかの名家の出の者なのだろうが、それにしては他の貴族たちには無い快活さや芯の奥から沸き起こるような力強さを感じる。

 

「なぁに、軽く齧った知識を振り絞ってハッタリかましただけですよ」

 

「それでお偉方を黙らせたんだから大したものだ。俺はその手のことは苦手でな、見習いたいよ」

 

「口八丁で生きていけるほどそっちの世界は甘くないでしょうに」

 

「確かにそうだ」

 

 ライザーと同じ貴族だというのにまったく嫌な感じがしない、それどころかなかなか好印象を持てそうな青年だ。その証拠に基本的に他人にはとっつきにくいダイスケが自分でも不思議なほど打ち解けている。

 

「実は俺も先の試合は見ていてね。サーゼクス様の仰る通り、リアスは不利ながらもよく戦ったと思う。だが、あの下僕悪魔はまだまだ実力的にはライザー氏には程遠い。君も加勢に行ったほうがいいのではないか?」

 

 事実である。イッセーの実力はライザーのそれと比べて天と地の差がある。それを二日の間で埋められないとは思うのは普通だ。

 ライザーが持つフェニックスの力は生来からのものであり、神滅具を持っているとは言え一ヶ月ほど前に悪魔に転生したばかりの元人間とは比較にならない。まだダイスケが助太刀をしたほうが勝算はあるのにも関わらず、あえて一人で立ち向うのを見ているだけでは見殺しにするようなものではないかとも見えてしまう。

 

「大丈夫ですよ、あいつは勝ちます。なんていったって今のあいつは誰よりも“飢えて”いる」

 

「飢えている……とは?」

 

「見ていればわかりますよ。「はじめッ!!」よし、うまくやれよ……」

 

 レフュリー役の悪魔がはじまりの合図を出した。

 始まりと同時に炎の翼を広げるライザー。その姿はまさに敵を燃やし尽くさんと翼を広げる炎の鳥そのものだ。そして相手の出方を見てから動こうという余裕の見て取れる。

 恐れを抱いたものならば途端に震え縮み上がったであろう余裕と威圧を込めた姿だが、イッセーは恐れずに声高々に叫ぶ。

 

「部長ォ! 昇格の許可をください!!」

 

 リアスが頷くと変化はすぐに訪れた。溢れ出るその膨大なオーラは“騎士”でも“僧侶”でも“戦車”でもない、全駒最強の“女王”のものだ。

 

「部長ッッ! 俺は木場みたいに剣の才能はないし、朱乃さんのような魔力の天才じゃありません! 子猫ちゃんみたいなパワーはないし、アーシアみたいに癒しの力はない上、ダイスケみたいな悪知恵は働きません!!」

 

 その言葉に、ダイスケは「オイ」と突っ込む。

 

「それでも、それでも俺はあなたのために……最強の兵士になってみせます!! 輝け、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ァァァアアアア!!」

 

 そして神器に眠るウェルシュ・ドラゴン、ドライグの声が響く。

 

『Welsh Dragon over booster!!!!』

 

 真紅の閃光が包んだイッセーのその姿はまさに龍の姿をした鎧の戦士。神器が持つ、使用者を格段に強化し、戦場のパワーバランスをも崩しかねないこの形態は『禁手(バランスブレイカー)』と呼称される。

 

「禁手だと!? もうそこまでに至っているのか!!」

 

 ダイスケの隣の青年も目の前にしたライザーも驚愕するが、その実はまだ完全な代物ではない。イッセーが自身の体を鍛え上げ、ドライグと契約を交わしたことでようやく使うことができる限定的な禁手だ。

 せいぜい持って十数える間ぐらいしか使えないだろう。だが、今のイッセーにはそれで充分であった。

 

「一発、喰らえよ!」

 

 イッセーが巨大な魔力の塊を放出する。その大きさはこの闘技場の半分も埋めてしまうほどである。

 

「でかい!」

 

 流石にこれを喰らえばライザーもタダでは済まないのだろう。正面から相手取るのを諦め、回避行動に出る。

 

「……なるほど、上手い」

 

 青年が呟く通り、ライザーは素早く被害範囲から逃れるが、青年が言っていたのはライザーに対してではなかった。

 

「捕まえたぜ!」

 

 柄にもなくイッセーはあえて避けさせ、回避する方向を一方に絞るように魔力の塊を放ったのだ。そして背中のブースターが展開し、爆発的な推進力でライザーを捕まえる。

 

「オォラァァ!!」

 

 背中のブースターをさらに全開にして、自分もろとも地面に激突する。そしてイッセーは馬乗りになった状態でライザーの腹に左の一撃を加えた。

 

「ガハッ!!」

 

 ライザーが吐血する。確かに強力な一撃ではあったが、ここまでのダメージを負うはずがない。

 

「へへっ、アーシアからこいつを借りれてよかったぜ!」

 

 そう言ってイッセーは握られた左手の中をライザーに見せる。

 

「じゅ、十字架!?」

 

 驚愕するライザーとともに、観客席にいる悪魔達からも悲鳴が上がる。

 

「十字架が悪魔の苦手なものだってことは、この前のゲームでわかってた。そこで十字架の力を神器で増幅させて殴ってやったってわけさ!! あんたを見れば上級悪魔にも効果テキメンってことが証明されたな!」

 

「馬鹿な!! お前も悪魔なんだぞ!? いかにドラゴンの鎧を身につけていても―――」

 

 そこでライザーはようやく異変に気がつく。全身が鎧姿なのでわかりづらいが、左腕だけが生物的な脈動と生命感があることがわかる。

 

「まさか……神器に眠るドラゴンに力と引き換えに左腕を支払ったのか……!?」

 

「ああ、そうさ。お前をぶっ飛ばすためだけにな。だから俺の左腕は本物のドラゴンの腕だ。十字架だって掴める」

 

「なんということを……! そんなことをすれば二度と元の体には戻らないんだぞ!!」

 

「それがどうした。俺なんかの腕で部長を取り戻せる力が手に入るんだ。こんな安い取引はないぜ」

 

 ライザーは初めて、目の前の取るに足らない存在と規定していたイッセーに恐怖を感じた。そして一旦イッセーの拘束からのがれ、態勢を整える。

 

「……それでおれに勝てなかったらどうするつもりだ!?」

 

「そん時はまた別のところを差し出すまでだ。心臓だろうが脳だろうが、部長のためなら惜しくはねぇ」

 

 冷徹な声でイッセーは告げる。目の前にいるのは間違いなく一介の下僕悪魔。だが、その魂は生物の頂点たるドラゴンのそれだった。

 

「……悔しいが認めるよ。お前は強い。肉体だけでなく、その心もだ。だが! だからこそ!! お前は俺が倒す!!」

 

 もはやその表情に傲りも嘲りもない。ライザーのその顔は強敵とあいまみえた強者の勝負に対する真摯なものであった。

 

「飢えたものが勝つ……なるほど、確かにあの下僕は相当な覚悟で挑んでいるらしい。だが、傲りと嘲りを捨てた者も強いぞ? 果たしてあの下僕は勝てるのかな」

 

 青年の言葉を裏付けるかのようにライザーの炎の翼が再びはためく。先程よりも火力がアップしているようで、下の方の席にいる悪魔たちは急いで障壁を貼っていることから恐らく簡単に人の骨まで焼き尽くされてしまうだろう。

 その炎はドラゴンにも有効らしく、すぐ傍で相対しているイッセーも苦しんでいるらしかった。しかし、怯むことなくイッセーが左手をライザーに向けられると腕の鎧の一部がスライドして“何か”が飛び出る。

 

「大丈夫ですって。何て言ったって―――」

 

 飛び出した“何か”は真っ直ぐライザー目掛けて飛んでいくが、はためいた炎の翼のひと振りで全て弾き飛ばされる。

 これでイッセーのこの土壇場で出してきた切り札を潰したと確信したライザーであったが、その刹那に“何か”は破裂した。爆裂音と同時に立ち込める煙。それは単なる目晦ましかとも思ったが、すぐにライザーの体に変調が起きる。

 

「ガハッ!? ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 突然ライザーは咳き込み、口の端からは血が垂れる。その反応はまるで猛毒ガスを吸った時の人間の反応のようだ。

 

「貴様……何をした!?」

 

 するとイッセーは黙って足元に落ちている金属片らしきものを見せる。それはあるスプレーの缶の破片だった。

 

「制汗スプレー!?」

 

 思ってもみないものにライザーは驚く。その間にも苦しげな咳を吐き続け、炎の勢いも弱くなってきている。

 

「知ってるか? その制汗スプレー、汗の臭いの元の菌を抑えるために銀が入っているんだ。とは言っても、イオン化されたやつでそれほどの量はないんだけどな」

 

 銀の抗菌作用は有名で、これを利用した衛生商品や清掃品は多く存在し、古くから毒にも反応しやすいということで中世ヨーロッパでは毒殺防止のために銀食器が多用されていた。しかし、それら科学的使用法以前にもっと多く使用されていた方法は装飾品と、魔除けである。

 古くから銀は洋の東西を問わずに魔除けとして用いられ、狼男退治や吸血鬼退治の物語に銀製の武器が登場する。これほどまでに邪なる者に対する絶対的武器として古くから用いられてきた物質である。比較的少量の、それもイオン化された銀でも十分に効果はあるのである。

 

「ガフッ……しかし、なぜお前には何も効果がない!? まさか、貴様呼吸器系の臓器まで……」

 

「いや、お前が起こした炎で生まれた上昇気流で俺のとこまで届かなかっただけだ。もっともこれはダイスケの入れ知恵で、必要だったらそうしたけどな」

 

 これはハッタリでもなんでもない、本心である。ここで勝つためであれば残った右手だろうが、心臓であろうがドライグに本当に差し出すつもりでいる決心だ。

 

「―――飢えている方が勝つ」

 

 ダイスケが言っていることはこれである。今のイッセーにあって、ライザーにないもの。

 それは勝利に対する飽くなき努力とすべてを得るために全てを差し出す覚悟。生まれた時からフェニックス家の血と力で満足していたライザーには今現在持っていないものだ。

 

「おい、貴様わかっているのか!? この婚約は悪魔の未来のために重要なものなのだ! お前のような何もわからない小僧がどうこうする様なことじゃあないんだぞ!?」

 

 目的の為に自分を捨てることも厭わない覚悟に恐怖する。それはこれまで自分の進む道に対した障害がなかったライザーにとって初めて目の前に現れた壁。それも大した壁ではないと思っていたはずなのに途端に越えられないほど巨大になったのだから余計に恐怖を感じる。

 

「難しいことはわからねぇよ。でもな、お前に負けて意識を失いかけた時、覚えていたことがある。……部長が泣いていた。お前が泣かした。そしてそれは俺も同罪だ!! だがらこそ、俺はお前をぶっ飛ばす!! 理由なんて―――」

 

 イッセーからポケットからアシーアからもらった聖水入りの小瓶を左手で取り出す。既に赤龍帝の籠手の能力で効果を倍にされた特製品だ。それを瓶ごと握りつぶして腕に纏わせる。

 気づけばいつの間にか鎧は解除されており、イッセーに限界が訪れていた。だが、それすら構わず歩みは止まらない。この時がライザーにとっての最大の巻き返しのチャンスだったが、恐怖の所為で全く動けずにいた。

 

「それだけで十分だ!!!」

 

 渾身の一撃がライザーの顔面を貫く。砲撃のような一撃でライザーは吹き飛ばされる。聖水の効果もあり、その炎と闘争心は完全に潰えた。

 

「……やばい、死んじゃったか?」

 

『いや、単にグロッキーしたってだけだ。ただ、そいつの心は別だ。たとえその身が不死身でも、心まではそうはいかないのさ』

 

 その証拠にライザーは弱々しい息をしているが、立ち上がる気配はない。

 

 そこに、ライザーを庇う様に人影が一つ。レイヴェルだった。無言にイッセーを睨み、何かを訴えようとしている。その足は恐怖に震えているが、最後の矜持と勇気で立ちふさがったのだろう。

 足を震わせながらも強い視線で睨むレイヴェルに、イッセーはドラゴンの左手を向ける。

 

「文句があるのなら、いつでもかかってこい。その度に俺は何度でも戦ってやる!!」

 

 その迫力に押されたのか、彼女は道をあけた。そしてイッセーはリアスの前に立ち、最も彼女に向けて言いたかった言葉を放つ。。

 

「部長、帰りましょう」

 

「……イッセー」

 

 リアスは、その言葉を受け入れる。そして、その隣にいるジオティクスにイッセーは深く頭を下げたあと、ハッキリと言い渡した。

 

「部長を、俺の主であるリアス・グレモリー様を返していただきます。ご迷惑をおかけして申し訳御座いません。ですが、約束通りに部長は連れて帰らせていただきます」

 

 彼は何も言わず、ただ静かに目を瞑る。本当ならサーゼクスにも礼を言いたかったのだが、いつの間にか姿を消していた。

 またいつか会った時に、必ず礼を言おう。そうイッセーは心に誓う。そして懐からグレイフィアから預かった魔法陣を展開する。すると、そこから一頭の幻獣が現れた。

 

「グリフォン……」

 

 リアスが呟き、グリフォンは鷲の翼をはためかす。

 その翼の動きで、これで逃げろというグレイフィアの意思に気づいたイッセーは、リアスの手を取り共に騎乗した。そのままグリフォンはひと鳴きすると、遥か上空へ舞い上がる。

 

「みんな、部室で待ってるからな!!」

 

 イッセーはそう言い残すと、リアスと共に飛び立った。

 

「あー……俺、どうやって帰ればいいんだ?」

 

 非正規のルートで侵入したダイスケは、イッセーたちを見送っておいて思い出したように悲観にくれる。

 しかも他のメンバーはダイスケを置いて先にトンズラしているのだからひどい話だ。

 

「それなら心配いらん。俺が正規のルートで君を返そ――「ダイスケ様! こちらです!」――おっと、君にも迎えがいたか」

 

 見ればリリアがコロシアムの出入り口付近で手を振っている。

 

「じゃあ、そういうことなんで失礼します」

 

「ああ、だがその前に――」

 

 そう言って青年は懐から二枚の紙片を取り出してダイスケに差し出す。

 

「これは我が領土への無制限通行証兼転移魔方陣だ。これでいつでも俺のところに遊びに来てくれ。君と、あの兵士(ポーン)の兵藤一誠の分だ」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ、いいものを見せてくれた礼だ。単なる従兄妹の婚約披露宴だったはずがこうも胸躍らせる場面に遭遇することができたのだからな」

 

「従兄妹?」

 

「ああ。自己紹介が遅れたな。俺はサイラオーグ・バアル。リアス・グレモリーの母方の従兄妹になる」

 

「なかなか似てない従兄妹っすね」

 

「まぁ……色々とな。彼女の見た目は大分グレモリー家の特徴も入っているからな。さあ、ゆくがいい」

 

「はい。お世話になりました。この礼はいつか必ず、精神的に」

 

「気長に待つよ。また会おう」

 

 その言葉を背に、ダイスケはリリアを追って会場を後にした。

 

「そうだな。いずれあの赤龍帝と共に……」

 

 

 

 

 

 

「フェニックス卿。今回の婚約、このような結果となってしまい申し訳ない。無礼を承知でお頼み申したいのだが、今回の縁談は……」

 

「グレモリー卿。頭をお上げください。純血の悪魔同士ということで確かにいい縁談だったが、どうやらお互い欲が強すぎたようだ。元々、お互いに純血の孫がいるというのに、なおも欲したのは私の悪魔ゆえの強欲か。はたまた先の戦で地獄を見たからか……」

 

「いえ、私もリアスに自分の欲を重ねて過ぎてしまったのです」

 

「しかし、兵藤くんといったか。彼には私からも礼を言いたかった。ライザーに足りなかったのは敗北という経験だ。フェニックスの血の力を過信しすぎていたのです。そのような者に、もともと今回の縁談は身に余る話だったのですよ。そして、フェニックスの限界を学べただけでも今回のこの話はよい結果を運んでくれました」

 

「……そう言っていただけるとありがたい」

 

「あなたの娘さんは良い下僕を持った。これからの冥界は退屈しないでしょうな」

 

「私もそう思います。……しかし、よりにもよって私の娘が赤龍帝を拾うことになろうとは」

 

「赤が目覚めた、ということはやはり白の方も」

 

「ええ、赤と白が出会うのも時間の問題でしょう。そして……考えたくはなかったが、ダイスケ君の宿す存在はやはり……」

 

「先ほど冥界の神器研究院から連絡がありました。最も観測されてはならない存在の波動を関知した、と。タイミング的にはダイスケ君がこの冥界に現れたのと同時です」

 

「私も連絡を受けました。……神もあのような形でしか封じることが出来なかった『数多の怪し獣の王』。今、この世で目覚めたのが不幸か。それとも彼に宿ったことが幸運だったのか……見極める必要がありますな」

 

 

 

 

 

 

 ダイスケはリリアと一緒に冥界の列車の中にいた。サーゼクスとジオティクスの計らいで動かしているもので、冥界と人間界を行き来する列車らしく、しかもグレモリー家専用の物らしい。

 これならダイスケは追っ手におわれること無く安全に人間界に帰れると言うことだ。

 

「でもすごかったです。まさか転生したての方が上級悪魔の方に機転で勝っちゃうなんて」

 

「当然、うちのイッセーだぜ? 普段馬鹿でエロだけど、やるときは決める男よ」

 

「ダイスケ様も強かったです。眷属の方々をみんなやっつけちゃうなんて」

 

「いや、あいつら弱かったぜ? 何であんなのにみんな苦戦したんだ?」

 

 本気で不思議がっているダイスケの様子を見て、リリアはクスクスと笑う。

 

「まぁ。そんなことをお仲間の皆様方に聞かれたら大変ですよ?」

 

「いや、本当に手応えが無かったんだよ。銀の弾丸だっていらなかったくらいなんだ。……なんなんだろうな、これ」

 

 言いながらダイスケは右手に籠手を出現させてまじまじと見る。

 

「……こいつを使うたび、自分が自分で無くなるような感じになるんだ。正確には、考え方が変わるって言うか……。どうしても相手を徹底的に叩きのめさないと気がすまなくなる。それが嫌だから親父とお袋とも離れる決心をしたのに。なんだか、俺……」

 

 表情が暗くなっていくダイスケ。しかし、その籠手の付いた右手にリリアはそっと手を添える。

 

「大丈夫です。なにがあっても、ダイスケ様はダイスケ様です。この私が保証します。だって、貴方は私が知る限り最も優しいヒトだから。……そんな貴方が、酷いことになるはずありません」

 

 そのリリアの微笑みに、ダイスケはなんだか救われたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私も若い頃は妻とあんな風に……懐かしい)

 

 そしてそれをグレモリー家専用列車車長レイナルドは隣の車両で見ていたのである。

 めっちゃニヨニヨしていたのである。




 はい、というわけでVS12でした。
 ダイスケの論破見たかった方々ごめんなさい。そんなに他人に敵意を見せない人間になったので無理矢理丸め込む方向になりました。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 

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