艦これの方は前半戦は終了。攻略中のヒューストン堀は叶いませんでした。多分明日か明後日から後段作戦に突入します。
ここからが本当の地獄だ……!
その日のオカルト研究部の定例会が行われたのは、イッセーの家の部屋だった。
この日はたまたま旧校舎の大規模な清掃が業者により行われているため、急遽イッセーの部屋で行われることとなったのだ。因みに、今この場にダイスケの姿はない。野暮用とかで来るのが少し遅れるらしい。
しかし、その定例会もイッセーの母のとある差し入れでなあなあで中断された。イッセーの過去の写真をオカルト研究部の全員に見せたのだ。
これは効果てきめんで、リアスなどは幼いイッセーが風呂上がりに全裸で牛乳を飲んでいる姿を見て「小さいイッセー可愛い。可愛いイッセーハァハァ」とかなりヤバイ状態になっていた。
そこへ、ダイスケが入ってくる。
「すんませーん、遅れましたー……ってイッセー、お前何塞ぎこんでんの?」
「過去の恥ずかしい写真を見られたら、誰だってこうなるよ……」
ちらりと視線を移せば、そこには幼少期のイッセーの赤裸々な写真の数々が散らばめられたアルバムがあちらこちら。
「……なるほどね。確かにこれはキッツイわ」
と言いつつもダイスケは足元の一冊を拾い、ある写真に注目する。
「おばさん、何なんですか。このイッセーがorzの姿勢になってるの。しかも地面に白い牛乳らしい液体が見えるんですけどこれ」
「あら、なかなかいい写真を見つけたわね! これはダイスケ君には『イッセーリバース事件』の事を話さなければならないわね……」
「リバースって吐いたんですか。どこのヤスケンですか」
嬉々としてイッセーの母は息子の黒歴史を語り、皆がそれを一言一句聞き逃すまいとする姿はイッセーの心を粉々に砕く。
母とダイスケから十字砲火を受ける結果となったイッセーは、ただただ二人を呪うしかなかった。
「なんで母さんは余計なもの持ってくるんだよ……。そしてダイスケはどうしてピンポイントで一番ヤバイのを見つけるんだよ……」
「ダイスケ君はともかく、いいお母さんじゃないか」
「どこがだよ!!」
意気消沈するイッセーに、慰めの言葉をかける木場。その手にはイッセーの母が持ってきた方のアルバムがある。
「でも、こんな家族がいるって、とてもいいことだよ」
「そういや木場、お前ん家って……?」
そのイッセーの疑問の言葉に、木場からの回答はなかった。その代わり、木場の視線がある写真に止まったとき急に木場の声のトーンが変わった。
「ねえ、イッセー君。この写真だけど……」
その写真は、洋風の内装の家の中に幼いイッセーと友達であろう亜麻色の髪をした子供が一緒に写っているものだった。
「ああ、これか? その男の子は近所の子でさ、昔はよく一緒に遊んだんだ。小学校に入る前に、親の転勤で海外に行っちまたんだ。名前は確か……」
「……この剣の方に見覚えはある?」
木場が興味を惹かれたのは、イッセーと共に写っている子供の方ではなかった。その後ろの壁に立てかけてある、鞘に収められているロングソードの方に目が行っていた。
「いや、ガキの頃の話だから、あんまり……」
だが、イッセーの言葉は既に木場の耳には入っていなかった。その目は長年探し求め続けていた“ナニカ”をようやく見つけたような目だった。
「これはね……聖剣だよ」
*
球技大会が近づいているある日の昼休みの屋上。そこには今、イッセーとダイスケしかいない。
ダイスケはイッセーに、昨晩に起きたはぐれ悪魔討伐の顛末について聞いていた。そして、木場がその場で不覚を取ったことと、昨日木場が見入っていた聖剣と木場との関係も聞いた。
それは文字通り、胸糞の悪くなる話だった。
聖剣。それは、神による祝福を受けた対アンチキリスト的存在に対する絶対兵器。それに触れただけで邪なる存在はたちまちその身を焦がし、消滅させる。
代表的なものは、アーサー王の『エクスカリバー』、ローランの『デュランダル』、聖ゲオルギオスの竜退治で有名な『アスカロン』。また、イエス・キリストを処刑したローマ兵、ロンギヌスがキリストの死の確認のために脇腹に刺した所謂『ロンギヌスの槍』も聖剣をはじめとした対アンチキリストの聖具として有名だ。さらに、これは神滅具の代表選手でもある。
だが、誰にでも扱える代物ではない。聖剣に対する適正を持つ者のみが扱えるものであり、実際に使いこなせるものが現れるのは数十年に一人なのだという。そして木場は、エクスカリバーと適応するために人工的な調整を受けた者の一人だった。
これは教団の一部が行っていた『聖剣計画』と呼ばれるものの一端だった。だが、木場は聖剣に適応できなかった。それどころか、同時期に養成された者たちも皆適応できなかった。
それを知った計画の遂行者たちは、木場ら被験者たちを『不良品』として処分した。木場は、その虐殺の中で生き残った唯一の人間だった。それをリアスが拾ったのだ。
正直な話、食事中にするものではない。だが、同じオカルト研究部の仲間としてイッセーもダイスケも知る必要のある話として、イッセーからダイスケに教えるようにリアスは言った。だから話したのだ。
「しっかし、あれだな。そういう話聞いてると“隣人愛”ってなんなんです? って言いたくなるな」
「部長も言ってた。教団の人間は悪魔は邪悪な存在だっていうけど、本当に邪悪なのは種族云々じゃなくそういう行いのほうだって」
「まあな、確かにリアスさんのほうがよっぽど人間味が溢れてるよな。悪魔なのに」
食事を終え、屋上から階段で下に降りていく二人。昼食を済ませたら、オカ研のメンバーは全員部室に集まることになっていた。
部活動対抗の球技大会のための最後のミーティングを行うとのことだった。
リアスはライザーとの一件以来、彼女は勝ち負けに関しての強いこだわりを見せるようになっていた。あの時の状況は、確かにリアスたちにとって劣勢だったのは確かだ。それでも負けたという事実ののものが、彼女のプライドを傷つけた。だからこそ、どんな勝負事にも積極的に勝ちを狙うようになっていった。
「おう、お前ら今日も部活の集まりか?」
松田が購買で買ってきたパンが入った袋を持って、二人とすれ違う。松田の隣には元浜も一緒だ。
「ああ、球技大会に向けて猛練習中」
「かー、オカ研がボール競技かよ。でもさ、お前らんトコって文化系なのに全員身体スペック高いよな」
「まあ……いろいろあるからな」
「しかしな、イッセーよ。お前最近変な噂が流れているから気をつけろよ」
突如として、眼鏡をくいっと上げながら元浜が切り出した。
「あ? なにがよ」
「美少女を取っ替え引っ変えしている可能性ならぬ性欲の獣イッセー。駒王学園に大お姉さまの秘密を握り、毎夜毎夜の鬼畜変態プレイを強要し、「ふふふ、普段は気品あふれるお嬢様が、俺の前では卑しい顔をしおって!このメス○タが!!」と罵っては乱行に次ぐ乱行」
「はぁぁぁぁあああああ!? なんじゃ、そりゃあああああああああああ!?」
あまりに酷い風説に某ジーパン刑事なみの叫び声を上げるイッセー。
「まだ続きがあるぞ。ついには学園のマスコット塔城小猫ちゃんのリータボデーにまでその毒牙が向けられる。小さな体には収まりきらない激しい性行為は天井知らず。まだ未成熟の青い果実を貪る一匹のケダモノ。「先輩……もうやめてください……」と切ない声を上げるも性欲の野獣の耳には届かない。そして、ついには転校したての一人に天使までもが餌食となる。転校初日にアーシアちゃんに襲い掛かり、「日本語と日本の文化をこの俺が放課後の特別補習でその体に叩き込んでやろう」と黄昏時に天使は堕天していく……。ついに自分の家の中に囲い、狭い世界の中で繰り返される終わりのない調教。鬼畜イッセーの美少女食道楽は止まらない……とまあ、こんなところか?」
「……え、マジ? 俺そんな風に見られてるの?」
チラリと廊下を見渡せば、そのイッセーに向けられる視線はなにか形容し難い汚物を見るような目であることに気づく。
「まあ、俺たちが流してるんだがな」
「そうそう」
松田と元浜が悪びれた様子もなく堂々と告白する。まあ、最近の同類だと思っていたイッセーの近況に嫉妬してこのデマを広めたのだろう。
本当に友達かどうか自信がなくなった二人に対し、イッセーは躊躇することなくその腹にボディーブローを叩き込む。
「痛いぞ、鬼畜」
「そうだそうだ、俺たちに当たるなこの野獣め」
「因果応報だ!! おい、ダイスケ!! このバカ共を置いて……ってあれ?」
すぐ隣にいたはずのダイスケの姿が見当たらない。すると、先ほどボディーブローを受けたふたりがイッセーの背後を指差す。
そこには涙を必死にこらえ、嗚咽を抑えようと奮戦しているダイスケの姿があった。
「かわいそうに……ちょっと女子を接点が出来たからってすぐに肉欲に負けて手を出すなんて!!」
「お前は俺の普段をよーく知ってるだろうが!」
ほんとにコイツも俺の友達なのか、と自信を無くしていくイッセー。どうやら男は、周囲の女の子の人口が増えるたびに男友達の人数が減っていくらしい。
だが、今までのダイスケなら「へー」とか「ほー」で済ますのだが、最近はこんな風に馬鹿話に乗ってくる。これまでと違って努めて他人とのコミュニケーションを図ろうとしているのだろう。まあ、方向性は間違っているが。
「因みにイッセーと木場のモーホー疑惑も流している。これがまた、一部の女子にうけててなぁ」
「きゃー、受け? 攻め? どっちぃ?」
「お前らそのうち呪い殺すぞ!?」
ついにホモ疑惑まで流されたイッセーは、いい加減この二人との付き合いをやめようかと本気で考え始める。そんなイッセーを無視し、元浜はまだ嗚咽し続けるダイスケに申し訳なさそうにある話をする。
「それはそうと宝田よ、本当はお前を巻き込む気は毛頭なかったのだが……実は非常にまずいことになっててな」
「うっ、うっ……へ? なに?」
嘘泣きをやめたダイスケが元浜の言葉に興味を持つ。
「実は、木場とイッセーとのホモ疑惑を流すのには成功したがな、何故かいつの間にかお前を交えての三角関係になってきてるんだ」
「……はい?」
そこに松田も追加説明を加える。
「いや、お前って木場とおんなじマンション住まいって接点があるだろ? そしたら木場×イッセー×ダイスケの図式が学園のソッチ系の女子たちの間で出来上がっちまったんだよ。なんか、オカルト研究部が「新手のホモ集団」なんて言われているらしくてなぁ」
「……巫山戯んなぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
今度はダイスケが激怒する番だった。こっちはイッセーのように美味しい目にあっているわけではない。それなのになぜこのような仕打ちを受けねばならないのか。
身の危険を察知した松田と元浜はその瞬間その場から逃げ出す。
結局この日、ダイスケはオカルト研究部のミーティングには参加しなかった。新たに生まれた“敵”を排除しに行くために……。
*
外はすっかり雨模様。球技大会が終わったあとだったのが幸いだった。部活対抗ドッヂボール戦は、オカルト研究部の優勝に終わった。だが、一つ問題が起きた。
木場が試合中に物思いに耽っており、完全に足でまといになっていた。ボーとしていた木場をかばおうとしたイッセーが、股間に剛速球を食らってしまうというアクシデントが起きたくらいだった。
確かに、何度かチームに貢献した瞬間はあるにはあった。だが、終始ボケっとしていた。あまりの酷さに、思わずダイスケが木場の頭にボールを当てるという事件も起きたが、我関せずといった具合だった。
無論、リアスも試合中に何度も木場に注意していたが、それも無視しているようだった。そして、オカルト研究部のもの以外がいなくなった体育館に、乾いた音が響く。
「どう?少しは目が覚めたかしら。」
リアスは柄にもなく、かなり怒っていた。木場に対し、頬を張ったのだ。だが、それでも木場は無言、無表情のまま。
普段とあまりにもかけ離れた木場の様子に、皆困惑している。が、突然いつものイケメンスマイルになる。
「もういいですか? 大会も終わりましたから、球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の活動まで休ませていただいてもいいですよね?少々疲れてしまったので、普段の部活動の方は休まさせてください。先程は申し訳ありませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」
「おい、木場。お前最近変だぞ?」
「……イッセー君には関係ないよ」
イッセーの心配して言った一言にも冷たく返す。
「あのな、関係ないって言ってもそんな不安定な様子を見せられれば誰だって心配したくなるぞ」
競技中にキレて木場の顔面にボールを当てたダイスケまでもが心配する。が、その言葉に木場は苦笑で返す。
「心配? 誰が? 誰を? 利己的な生き方が悪魔の生き方だよ? まあ、主に従わなかった僕が悪かったんだとは思っているよ。君にボールを当てられた件もね」
少しは言っておいた方がいいのか。イッセーとダイスケは柄にもなく思う。普段であれば、二人が無茶を言うなりやるなりして、それを木場が落ち着かせるのがいつもの三人の関係だ。
だが、今では立場が完全に逆になっている。そこでダイスケが見かねたように切り出す。
「ライザーとの一戦を忘れたのか? あの時の反省を生かして、チーム一丸になっていこうとしている矢先だろう。そんな中でお前はその二の轍を踏むつもりか? お互いに補い合わなきゃダメなんだ。……俺自身は悪魔じゃないけど、一応は仲間だろ?」
その言葉に木場は表情を曇らせる。
「……仲間、か」
「そうだ。俺たち、仲間だろ?」
イッセーが木場に続いた。だが、木場はそれに同意しなかった。
「君たちは熱いね。……イッセー君、ダイスケ君。僕はね、自分の“基本的”なところを思い出していたんだよ」
突如としての自分語りに、イッセーもダイスケも驚きを隠せない。
「基本的な……こと?」
「ああ、そうさ。僕が一体、何のために生き、何のために戦っているのかをさ」
「……部長のために、じゃあないのか?」
少なくともイッセーはそうだった。命を拾ってくれたリアスのため。それが今のイッセーの生きる最大の理由だった。
そして、それは木場も同じなのだと信じていた。身勝手なまでに。
「違うよ。僕は復讐のために生きている。部長から聞いているんだろう? 聖剣エクスカリバー……それを僕を生かしてくれた同志たちの為に破壊するのが僕の生きる、そして戦う理由だ」
*
「天使・堕天使・悪魔の三つ巴の戦争に乱入して逆ギレとはねぇ……最強のドラゴンなのにバカなの? 死ぬの?」
『だから今、こうして体をバラバラにされた上で封印されているんだ。若さの至りだったんだよ』
「これが若さか……って? お前、自分が赤だからって言っていいセリフじゃあないぞ? 金色でもダメ。元カノに機体の四肢もがれるからな」
『……相棒よ、お前の友人が言っていることが理解できんのだが』
「ああ、それは無視してやって。本人もそれを分かって言ってるから。その分悪質なんだけど」
「わかってるじゃないか。で、いずれライバルの『白い龍』と戦う運命と……終わったな。このままだと確実に死ぬわ、お前。赤いのってだいたい白いのに負けるもん」
『それは言えてる』
「そんなあっさり!? せめてもう少し強くなってからだと嬉しいんですけど!? ていうか、ガンダムネタ引っ張りすぎ!」
「あ、フラグ立った。こりゃ近いうちに確実に遭遇しますわ。良くてアクシズに乗って二人仲良く行方不明だ」
『今回の目覚めは案外短かったな……』
「なんでお前らそんなに息ピッタリなの!?」
木場と喧嘩別れをしてしまった次の日の放課後、オカルト研究部の部員に緊急招集がかかった。教会のエクソシストが、この駒王町を取り仕切っている悪魔であるリアスに会談を申し込んできたというのだ。
その部室へと至る道すがら、イッセーからドライグの事を聞いていた。そして昨日、帰宅すると家に二人のエクソシストが、それももう片方はイッセーのアルバムに写っていた子供が成長した紫藤イリナであっり、イッセーの母と談笑していたことも聞いていた。
「だけどさ、リアルにあるんだな。「お、お前女だったのか!?」ってやつ」
「大抵そういうのってフラグだよな。っていうか、なんでお前にばっかりフラグが乱立してるんだよ。ユニオンじゃねえんだぞ」
「いや、それフラッグね。ハムさんが大好きな方の。ていうか、本当にガンダム好きだな」
そうして、二人は部室の扉を開く。既に他のメンバーは揃っており、後は教会の人間が来るのを待つのみであった。
昨日喧嘩別れのように別れた木場もいる。しかし、心中穏やかではないだろう。自分が最も嫌う者たちがやってくるのだから、本人達がいなくとも腸が煮えくり返っているだろう。
「二人共来たわね。先方はあと十分後ぐらいに来る予定だから、くれぐれも衝突なんかしないようにね。特にダイスケ。あなたにはライザーの時の前科があるんだから」
そのリアスの言葉に、ダイスケは「へーい」と誤魔化すように適当に答える。ソファに座り込んで部室内にあった今日の新聞を広げているのは余裕があるからなのか、それとも空気が読めないだけなのか。
それとは反対に敵対勢力の者がやってくるということで、部室内は緊張に包まれる。もう、その扉の向こうにいるかもしれない。そんな気の張った状況にさすがのダイスケもちょっとは気が引き締まる。
「そろそろね……」
リアスの言う通り、時計は約束の時刻を告げる。それと同時にエクソシストの少女が二人、部室内に入ってきたのだった。
*
やってきたのは先にイッセーの家にも現れたプロテスタントで亜麻色の髪をツインテールにした紫藤イリナ。そしてカトリックで緑のメッシュを入れた短髪のゼノヴィア・クァルタだった。本当ならばもう一人いるそうだが、そちらは既に探索を開始しているとのことだった。
それらを説明した上で紫藤イリナはかのように語りだした。
「この町を訪れた神父が次々と惨殺されているのは既に聞いていますね? それに関する話なのですが……先日ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会に保管管理されていた聖剣『エクスカリバー』が奪われました」
そこで、イッセーはある疑問を抱く。
キリスト教内にいくつかの派閥があるのは知っている。だが、エクスカリバーがなぜそれぞれの施設に保管されているのか?と。
「イッセー、エクスカリバーそのものは現存していないの」
リアスがイッセーの心の中を見たかのようにその疑問に答える。
「ごめんなさいね、私の下僕に悪魔になりたての子がいるから」
その言葉の意味を察したのか、イリナが説明をはじめる。
「イッセー君、エクスカリバーは大昔の三つ巴の戦争で折れたの」
「今はこのような姿だ」
そう言ってゼノヴィアは、傍らに立てかけている布に巻かれた長い物体を解き放つ。そこに現れたのはひと振りのロングソード。
「これが、エクスカリバーの七つになった片割れ、『
その瞬間、その場にいた悪魔が全員、生理的な嫌悪感と恐怖を感じた。悪魔になったばかりのイッセーにも、それがいかに危険なものなのかが直感でわかった。
「戦争で砕け散った刃を集め、錬金術によって新たな姿となったのさ」
自分の聖剣を紹介し終えたゼノヴィアは、再び布で剣を包む。よく見ればその布には、何らかの呪文が記されている。どうやら普段はそうして封印しているようだ。
イリナも懐から長い紐を取り出す。すると、その紐は生きているかのようにうねうねと動き出した。そして皆の前で紐はその姿を日本刀へと姿を変える。
「私の方は『
イッセーは先程と同様に、その剣に恐怖を感じる。
「イリナ……悪魔にわざわざ喋る事ではないだろう?」
「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても、今回は信頼関係を気づくのが重要よ? この場ではしょうがないわ。それに、教えたからといって悪魔の皆さんに遅れを取るなんてことはないわ」
相当腕に自信があるのだろう。これだけの悪魔を相手にしても、負けるはずがないというだけの修羅場をくぐってきたということだろうか。
だがそれよりも、イッセーには気掛かりな事が一つあった。木場のことだ。あれだけエクスカリバーに恨みを持つ木場が、果たして今、この場で自分を制御で来るのだろうか。恐らく、木場にとってもここで二本ものエクスカリバーと遭遇しようとは夢にも思っていないだろう。
それが今目の前にある。今の木場の心中は、イッセーには察して余りあるものだろう。ただ、木場が軽率な行動を取らないよう祈るだけだ。
もし、万が一のことがあれば、犠牲を出さずに済む方法はないだろう。
「それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこの町に関係があるのかしら?」
そのリアスの問いにゼノヴィアが答える。
「カトリック本部に残っているのは私のを含めて二本。プロテスタントのもとにも二本。正教会も二本。残る一本は三つ巴の戦争の末に行方不明。その内、各陣営にあるエクスカリバーが一本づつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだ、というわけさ」
「……どうして、私の縄張りはイベントが多いのかしら。それで、その犯人は?」
額に手を当ててため息を吐くリアスにゼノヴィアは目を細め、答えた。
「
「今では偽書に認定されたとはいえ、聖書の一部にもその名が記された堕天使が犯人とはね……」
その出てきた名に、リアスは苦笑する。
コカビエル。
最後の審判やノアの方舟の話が載っている『エノク書』。その6章にその名が刻まれている堕天使の内の一人。エノク書によれば、人間に天体の兆し、つまり占星術を教えたのがコカビエルだという。
聖書にも出てくる大物堕天使が犯人とは、もうかなり話が大きくなってきている。ならば、教会側は何故グレモリー眷属とコンタクトを取ったのか?そのような身内の恥は、内々に処理しそうなものだが。
「実は、先日からこの町にエクソシストを秘密裏に送り込んでいたのだが……ことごとく始末されている。恐らく、コカビエルの手の者によるものだろう」
ゼノヴィアのその言葉に、イッセーは驚いた。まさか自分たちの住む町で、そのような惨劇が裏で起こっていようとは。
「ちょっと待てよ、これ今日の新聞だけどどこにもこの地域で殺人があったなんて書いてないぞ」
そういうダイスケが持つのは部室に置いてあった今朝の朝刊だ。その新聞には、確かにどこも駒王町で殺人が起きたことは載っていなかった。
「普通の殺人事件ならな。だが裏の世界の者が関わればどんな証拠も残らない。だから世の人間たちは神の存在を身近に感じることもない」
「裏の世界に関わる表で起きた事件は決して明かされることはない……今回のようにね」
ゼノヴィアとイリナの言葉がこの世界に入ってきたばかりの二人に響く。
ならばやはり、彼女らの求めているのは事件解決のための協力の要請だろうか。そのような事件の被害が一般人に及ぶようなことがあれば、土地を取り仕切るものとしてグレモリー眷属が動かざるおえないだろう。
だが、彼女たちが求めているのは違っていた。
「私たちの依頼、いや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに、この街に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。つまり、そちらにはこの件に一切関わるな、と言いに来た」
「あら、随分な言い様ね。牽制のつもり? まさかとは思うけど、教会側は私達が堕天使と組んで聖剣をどうこうしようとしているとでも考えているいるの?」
ゼノヴィアの注文に、さしものリアスも不機嫌になる。わざわざ自分の領土にずかずかと土足で入ってきた敵が、「自分たちにやることに手を出すな。ついでに、他の組織と組んだら許さないよ?」と好き勝手に行っているのだ。上級悪魔であるリアスに、喧嘩を売っているとしか思えない。
だが、ゼノヴィアはリアスの怒りを我関せず、とばかりに淡々と続ける。
「上は悪魔と堕天使を信用してはいない。聖剣を除ければ悪魔だって万々歳だろう? 双方に利益があるんだ。手を組んでもおかしくはない。だからこそ先に牽制球を放つ。堕天使と組むものであれば、教会側はこの街にいる悪魔をひとり残らず完全に消滅させる。たとえ魔王の妹が相手でも、ね。私の上司からの伝言さ」
「……私が魔王の妹だと知っているのならば、あなたたちも相当上に通じている者たちのようね。ならハッキリと言わせてもらうわ。私は、悪魔は絶対に堕天使とは組まない。グレモリーの名にかけて誓うわ。そして、魔王の顔に泥を塗るような真似は、絶対にない!!!」
両者の強い視線が拮抗する。だがゼノヴィアはフッと笑い、リアスとの間にできた緊張を解く。
「それが聞けてよかった。一応、この町にコカビエルが三本のエクスカリバーを持ち込んだいることを伝えておかねば、何か起きた時に私が、そして教会本部が各方面に恨まれる。三竦みの状況にだって影響を及ぼす。魔王の妹ならば尚更だ」
その言葉で、リアスの表情は少々緩和される。
「正教会からの派遣は?」
リアスの問いに、ゼノヴィアが答える。
「奴らは今回はこの話を保留にした。仮に私とイリナともう一人の協力者が奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った一本を死守するつもりなのだろう」
「ではたったの三人で? 三人だけでコカビエルを相手にするつもりということなの? 無茶というより無謀ね。死ぬつもり?」
「ええ、そうよ。」
「私もイリナと同意見だ。できるだけ死にたくはないがな。それに、我々の協力者は異教にも手を貸してはいるが実力者だ。遅れはとらない」
そのイリナとゼノヴィアの言葉に、リアスは呆れ果てて嘆息を漏らす。
「―――っ。死ぬ覚悟でいるのいうの? 自己犠牲もここまでくると自殺願望ね」
「私たちの信仰をバカにしないで頂戴。ねぇ、ゼノヴィア」
「まぁね。それに、上はエクスカリバーが堕天使に利用されるくらいなら、全て消滅してしまってもいいと決定した。私たちの役目は、最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くす事。そのためなら死んだっていい。それが我々の“殉教”だ」
ダイスケはここまで黙って聞いていたが、正直彼女らの言葉を聴くのにうんざりしてきていた。リアスの言うとおり、これは自己犠牲や殉教ではなく手の込んだ自殺だ。
相手は強力な堕天使の幹部。それをせいぜい十数年しか生きていない若造が聖剣を振り回して行っても、勝ち目はない。返り討ちにあうのがオチだ。恐らく、教会側も彼女らを捨て駒に送ってきたに違いない。作戦の成功も、あわよくばの域だろう。
そこへ来て、この二人の自己陶酔化した信仰心。恐らくこの二人は、信仰のために死んで天国に行けるとでも考えているのだろうが、自殺はキリスト教にとっては大罪だ。天国に行ったつもりで地獄に堕ちればいいのに、とダイスケは心密かに思った。
「果たして、それは二人だけで可能なのかしら?」
「ご心配なく、リアス・グレモリー。ただで死ぬつもりはないさ」
リアスの問いかけに、ゼノヴィアは不敵に笑う。
「あら、自信満々ね。秘密兵器でもあるのかしら?」
「それはそちらのご想像にお任せする」
そのやり取りの後、しばしの間静寂が室内を支配する。イリナがゼノヴィアにアイコンタクトを送ると、二人は立ち上がった。
「それではそろそろお暇させてもらう」
「あら、お茶は飲んでいかないの? お茶菓子ぐらいは振舞わせてもらうわ」
「いや、結構」
リアスの厚意を受け取らず、二人はこの場を後にしようとする。が、二人の目がある一箇所に惹きつけられる。
「……兵藤一誠の家で見かけた時にもしやと思ったのだが……『魔女』アーシア・アルジェントか?」
ゼノヴィアの言葉に、アーシアは身を震わせる。イリナもそれに気づいたのか、アーシアをまじまじと見てくる。
「ああ、あなたが一時期噂になっていた『元』聖女の『現』魔女さん? 悪魔をも癒す力を持っていたらしいわね? 追放されて、どこかに流れたとは聞いていたけど、まさか悪魔にまで堕ちていたとは思いもしなかったわ」
「あ、あの、私は……」
狼狽するアーシア。
「大丈夫よ。あなたのことは上には伝えないから安心して。でも、『聖女アーシア』の周囲にいた者が貴方の現状を知ったら相当ショックを受けるでしょうね」
「しかし、転生悪魔か。『聖女』と祭り上げられていた者が、堕ちるところまで堕ちたな。まだ我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア、悪魔になった彼女がまだ信仰を持っているわけがないでしょう?」
「いや、その者から信仰の匂い……いや、香りがする。抽象的な言い方だが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を捨てきれない者がいる。それと同じ匂いがするんだ」
「あら、そうなの? アーシアさんは悪魔に堕ちた今でも、主を本当に信じているのかしら?」
「……捨てきれない、だけです。ずっと、それしか知らなかったものですから……」
そのアーシアの震える声を聞いてゼノヴィアは破壊の聖剣を解き放ち、アーシアの眼前に突き出す。
「そうか、それならば今ここで私たちに斬られるといい。神の名のもとに断罪してやろう。今ならば主も、罪深いお前に慈悲を与えてくださるだろう」
その時、イッセーの中で形容し難いほどの怒りがこみ上げてくる。アーシアに近づくゼノヴィアの前に、イッセーは立ちはだかろうとする。
だが、そのイッセーの前に立ちものが一人。
「……いい加減にしろよ? この腐れ狂信者共が」
ダイスケだった。
「黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって。アーシアがどうして魔女なのか言ってみろよ。先攻ぐらいは譲ってやらァ」
「……悪魔は神と敵対する者。それを癒すということは、アーシア・アルジェントの力は主の『愛』の力によるものではない。よって、魔女と断罪するのだ」
そのゼノヴィアの言葉を皮切りに、ダイスケの徹底口撃が始まる。
「ハッ!! キリスト教信者が聞いて呆れるな。アーシアの力が「主の『愛』の力によるものではない」? 他人を癒す力そのものがアーシアの隣人愛を体現するものだろうが。その力の出処がなんであれ、アーシアが行ってきたことは『隣人愛』よる行動そのものだ。イエス・キリストが全人類の原罪を背負ったようにな」
「悪魔を癒す力のどこが『隣人愛』だって言うのよ」
よせばいいのにイリナも参戦する。
「そもそも、お前たちは悪魔の存在を誤解している。悪魔はな、表面上敵対してはいるが神の作った世界の一部で天使と同じ神の力の執行者なんだぞ? いま、この現在でもな」
その言葉に、ゼノヴィアとイリナは呆れる。
「悪魔は神の絶対的な敵対者だぞ?」
「あなたこそ私たちの信仰を理解していないんじゃあないの?」
「忘れたのか? 主はこの世界の『創造主』だ。すべての存在が主によって生まれてきている。悪魔もその一つだ。おっと、悪魔は主の創造したものとは違うなんて言うなよ。そんなことを言ったら、主は『世界の創造主』じゃあなくなるぜ?」
言おうとしたことが阻まれ、二人は思わず口を閉じる。
「聞けば悪魔は神に対して戦争を起こしたという。だが、考えてみろ。創造主に制作物が勝てるか? 自分達の全てを把握している上、自分達を生み出した存在である以上自分達に勝てる力量差は本来無いんだ。だが、神とってはどうだ。こんなあっさり勝てるような奴相手に勝って自分の権威が示せるか? だから俺は考えた。神は自ら自分の絶対的敵対者になるように悪魔を育てたんじゃ無いかってな」
これを教会関係者が聞いたら卒倒するだろう。だが、この世界の根幹をダイスケが解体していく様はイリナとゼノヴィアには止められない。完全に話に引き込まれている。
「そして、悪魔の力はより強大になっていく。絶対の創造者である神に近づくことによって、自然とそれを制する神も力を増す。だが、あっさり神が勝ってはその権威は下がる。かといって神に匹敵する存在になってはいけない。その点にキリスト教の脆弱な点がある。ゾロアスター教のような完全な二元論なら、こんなことは起きないんだろうがな。」
そのことを踏まえた上で、とダイスケは続ける。
「アーシアが行なってきた癒しの行為は、どんな者も平等に行われていた。お前達も知っている通り、本来敵対しているはずの悪魔にもその力は振るわれた。文字どおりの『隣人愛』の体現だ。そのことが一体どう信仰に反する? それに対してお前たちはどうだ。悪魔だがら、魔女だから断罪する。馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか言わない。やってることはヤクザ同士の抗争、いや、チンピラの喧嘩だ。お前らと比べれば、アーシアの方がよっぽどより良い信仰者の姿だ」
自分たちが知っている以上のことを言われ、なにも反論できなくなってしまったゼノヴィアとイリナ。だが、ダイスケの口撃は止まらない。
「そもそも、お前らは俺たちに手を出すなと言いに来たんだろ? それなのにアーシアを殺そうとする? 自己矛盾も甚だしいな。自分に都合のいいことだけ正当化しようなんて、信仰者以前に人として終わってるわ。いい加減、死ねよお前ら。ていうか、今すぐ死ね」
あまりにも散々な言われように、思わず二人は目頭に涙が溜まってくる。先程まで彼女らに怒りを感じていたイッセーまで、二人に同情してしまっている。
アーシアもダイスケを止めようとするが、初めて見るダイスケの一面に戸惑い、先程以上に狼狽している。
「……私たちの信仰心を……よくも!!」
先程まで冷静だったはずのゼノヴィアは怒りを顕にし、イリナも顔を真っ赤に染め上げて身を震わせている。
「何が信仰心だ。自己陶酔と狂信の塊が。言っとくがな、お前らのやろうとしていることは信仰のための自己犠牲でも、殉教でもない。自棄っぱちの自殺だ。あ、そういやキリスト教じゃあ自殺は大罪だったか。お前ら揃ってゲヘナでもハデスでもどっちでもいいから地獄に堕ちればいいのに」
そのダイスケの言葉がトリガーになったのか、とうとう二人の怒りが爆発した。
「悪魔側との衝突は避けるようにとの通達だったが……貴様だけは絶対に許さん!!!!」
「神に代わって、この異端者に神罰を与えてあげるわ!! アーメン!!」
とうとう戦闘態勢をとる二人。
「おーおー、口喧嘩で負けたと思ったらリアルファイトですか。それが敬虔な信徒のやる事なんだね。初めて知ったわ」
ここまで追い込んでおいてまだ刺激するダイスケ。それをリアスが制しようとする。
「ダイスケ、もういいから―――」
ダイスケを止めようと動くリアスだったが、そこに木場が介入してきた。
「ちょうどいい。僕も相手になろう」
これまで見せたことのないような特大の殺気を放ち、木場は魔剣を携える。
「誰だ? 君は」
「君たちの先輩だよ。もっとも、僕は失敗作だそうだけどね」
はい、というわけでVS13でした。
正直ね、このときのゼノヴィアとイリナは殺されても仕方なかったと思うの。だって自分から約束反故にするようなことしたんだもん。
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それではまた次回。いつになるかは分かりません!!