ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 先日の艦これ秋イベE5のまっ最中に鈴谷がよく頑張ってくれてくれましてねぇ。思わずキスしようとしたら何かおかしい。透明な壁みたいなのが僕らを遮るんです。
 そんな、鈴谷は俺のこと嫌いなのか? そう思った瞬間に気付きました。





 あ、鈴谷はモニターの向こう側にいるんだった……。


VS17 ごめん、今回はそんなにオリジナル要素無いんだ

「私は幼い頃から聖剣という存在に憧れていてね。聖剣を持つ英雄の英雄譚に幼少の頃から心躍らせていたが、自分に適性がないと知ったときは絶望したよ。だが、適性がない自分のような者でも聖剣を使えるようにならないか、そう思ったのが研究を始めたきっかけだったのだよ。かつての憧れをこの手に掴むために」

 

 木場祐斗にとって同志を皆殺しにした元兇であるバルパーが語りだす。本当ならば今すぐにでも斬りつけてその口を閉じてやりたいところであったが、今の融合しかかっているエクスカリバーの不安定かつ強力な力がバルパーの管理を超え暴発してしまう可能性があるために迂闊に手を出せないでいた。それを向こうも承知しているのだろう、とめどない殺気を放つ相手に滔々と、そして自己心酔するかのようにバルパーは語り続ける。

 

「研究を進めていくうちに私は聖剣を扱うには先天的に得たとある因子が必要だとわかった。だが、適性があるものとして集めた子供らは扱えるだけの数値がある因子を持ってはいなかった。そしてあるとき私は思いついた。『適正値が低い適性者の因子を抽出し、一つにすれば人工的に聖剣の適合者を作れるのではないか』とね」

 

 そのうちの一人が祐斗であり、そして死んでいった仲間たち一人ひとりだったというわけだ。まるで油を取るために磨り潰される胡麻の一粒のように自分たちは扱われていた。そのことを知った木場の胸中は計り知れないものがあるだろうが、バルパーはお構いなしだ。

 

「その自分の妄想のために……僕や同胞たちを殺したのか!? 適性がなかったからではなく!?」

 

「その口ぶりからすると……そうか、あの実験の生き残りか。このようなところであいまみえるとは……これもまた聖剣が呼び込んだ数奇な運命ということか。だが、一つ言っておく。これは妄想ではなく理論だ。夢見がちな自分に酔った哀れな者の妄言などでは決してない。そしてこれが―――」

 

 言いながらバルパーは懐から光り輝く球体のようなものを取り出した。それもただの光ではなく、纏っているのは聖なるオーラの光だ。それは実験に関わっていた木場も知らないものであったが、ゼノヴィアだけが心当たりがあるようだった。

 

「まさかと思っていたがそれは……!」

 

「ほう、流石破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の使い手だけあって見識が広い。そう、これはお前たち聖剣使いが祝福を受けるときに与えられるものと同様のものだ。」

 

「だが、私たちだってそれが多くの犠牲の上に成り立つ代物だなんて聞いてはいない!!」

 

「それもそうだ、聖剣使いの少女よ。お前が目にしたのは私の研究から得たデータをベースに被験者が死なぬようにされた改良品だ。よりにもよって、ミカエルと教会の奴らは私は異端者として追放しておきながら研究成果だけはしっかりと享受したのだ。まあ、被験者を殺さない分私よりは人道的なのだろうがな。くくくく……」

 

 自分を否定したもの全てを嘲るようにバルパーは嗤う。

 そして自分が否定したものによって自分たち聖剣使いが成り立っているいることを知ってしまったゼノヴィアは悔しげな表情を浮かべた。

 

「ああ、そうだ。ついでに言っておくがの因子はそこの魔剣使いが死んだ時のものだ。三つほどフリードに使ったがね。これは残りだ」

 

「ウヒャヒャヒャヒャ! ほかにこいつを与えられた奴らもいたんだけどさぁ、俺以外みんな体が耐え切れなくておっ死んじゃった!! で、生き残ったご褒美にこのエクスカリバーも使わせてくれるってさ!! うちのボスってばマジで太っ腹!!!」

 

 まるで最高の玩具をこれから買い与えられる子供のようにフリードは歓喜する。

 

「ああ、いいぞ。フリード、エクスカリバーの統合が済んだらすぐにでもそれで遊んでくるといい。戦争前の肩慣らしだ」

 

「そしてその統合の瞬間ももうすぐだ。そうすればまずはこの街を破壊しよう。因子の結晶も量産体制にすぐにでも入れる。あとは世界中の聖剣をかき集め、最強の聖剣使いの軍団を作り上げる。そうなればいずれ完全体になったエクスカリバーを用いて私を断罪したミカエルとヴァチカン相手にわたしの研究成果を見せつけてくれよう」

 

 共に天使を憎み、共に戦争を欲し、そして己の力を見せつける。立場は違えどこの三者は同類だ。そして最悪の同盟関係にあるとも言える者たちだ。

 バルパーなどはこれから起こるであろう凄惨な未来に思いを馳せて恍惚の笑まで浮かべている。だが、木場はその反対に憎悪と怒りでその端正な顔立ちを歪ませる。

 

「もうこれに用は無い。材料の同胞のよしみでくれてやる。手慰みにでも使うがいい」

 

 そう言ってバルパーは木場の足元へ手にした結晶を放り投げる。バルパーにとってはもはや興味が失せて無用の長物だったのだろう。だが、木場は転がり込んできたそれを慈しむように両手で拾い上げる。

 

「―――みんな……」

 

 その木場の表情に、今は怒りの色は見えない。むしろ、いま手にした結晶に残る、かつての同胞のぬくもりを一つたりとも感じ逃さぬようにと悲哀に満ちたものとなっている。

 

「僕は、僕は……ッ!」

 

 敵を目の前にしても一太刀も浴びせることのできない自分への怒り、そして結晶の中に眠る多くの命のかけらに対する憶いが相まって、木場のその瞳から涙が一筋流れ出ていく―――まさにその時だった。

 結晶から光が放たれ、徐々にそのカタチを崩していく。溢れ出た光は少しずつ形を得ていき、まるで人影のようになった。その人影は因子に残っていた元の持ち主たちの魂のかけらなのであろうか。そう思わせるように無数の小さな人影たちは木場の周囲を取り囲んでいく。

 それは実験のはてに殺されていったであろう少年少女たちの姿であろうことは、その姿を知らないダイスケやイッセーにも理解できた。

 

「この場に存在する様々な力が閉じ込められていた思念を呼び起こしたのか。それとも木場くんの思いが通じて彼らが解放されたのでしょうか……」

 

 感慨に耽りながらも、朱乃は冷静に分析する。

 きっとそれは両方正しいのだろう。だが、きっと後者の力が大きかったのだとダイスケは信じたかった。

 自分を取り囲む幻影たちに、木場は懐かしくも哀しげな表情を浮かべる。そして懐かしい姿を目にしたことで、ずっと心の奥に引っ掛かっていた思いが溢れ出す。

 

「僕は……ずっと、ずっと思っていたんだ。僕だけが生き残って本当に良かったのかって。みんなにだって夢はあった。みんなにだって生きたい思いがあった。それなのに、僕だけが生を手に入れていいのかって……」

 

 すると、木場のすぐ目の前にいた少年の幻影が微笑みながら語りかける。声には聞こえない。だが、何を言っているのかは心で感じた。

 

 イインダ――

 キミダケデモ――

 イキテイテ――

 イキテ――

 イキテ――

 イキテ――!

 

「―――!!」

 

 一筋だった涙が、大きな流れとなる。

 ただひとり生き延びてからずっと抱いていた不安と疑問、それらすべてが一言で洗い流されていく。すると少年少女たちが同じようなリズムで口を動かし始める。はじめは動作しか見えなかったが、徐々に胸の奥底から響く音に変わっていく。

 

「……聖歌」

 

 アーシアの呟きの通りだった。かつての長く苦しかった実験体としての日々。それを乗り越えていくためにみんなで心の支えにし、歌った聖歌。

 もはや涙で口もまともに動かなかったが、木場も彼らとともに歌いだす。もはやその顔に悲しみの色はなかった。声にならない声が耳では聞こえない、それでも心に響いてくる歌声に混ざり、一つになる。

 

『僕らは一人ではダメだった―――』

 

『私たち一人ひとりでは聖剣を扱える因子は足りなかった。でも―――』

 

『みんながひとつになれば、きっとだいじょうぶ―――』

 

『憎まないで、受け入れて―――』

 

『怖くなんてない―――』

 

『たとえ神がいなくても―――』

 

『たとえ神が見ていなくても―――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――一つなんだ」

 

 幻影たちの魂は天に昇り、ひとつの光の大きな柱となって木場へ降りてくる。神々しくも優しい、そして悪魔ですら優しく包み込む光が木場を包み込んだ。

 その光景は、意味をすべて理解できていないイッセーの心をも強く動かし、自然に涙を流させていた。

 

『相棒よ』

 

「な、なんだよ! こんな時に!!」

 

 折角いい雰囲気になっていたところをドライグの野太い声が邪魔をする。ムードをぶち壊されたイッセーは怒り心頭だ。

 

『あの騎士(ナイト)は“至った”ぞ』

 

「だから、なにが!?」

 

『神器の力の糧は所有者の想いだ。だからこそ当人が成長すれば神器も強くなる。だが、それとは別の領域があるのだ。その想いが、そして願いが変えようがないこの世界の『流れ』に逆らうほどの強さを得たときに神器の力は転じ、そして至る。それこそが―――』

 

 イッセーの中のドライグは不敵に嗤う。

 

『―――真の『禁手(バランス・ブレイカー)』だ』

 

 

 

 

 

 

 ほんとうは今あるもので十分だった。

 どのような形でも生きる。それこそが巡りあった主の願いであり、自分の本当の願いでもあり、命を賭して救ってくれた同胞たちの願いだった。

 

「みんなが復讐を望んでいないのは解っていた。エクスカリバーへの憎悪だって忘れても良かった。でも―――」

 

 木場は立ち上がる。涙をぬぐい去り、先程まで潤んでいた目には確固たる意志の炎が宿る。

 

「行け、木場ァァァ!! お前はリアス・グレモリー眷属の騎士(ナイト)で、俺たちの《剣》なんだ! あいつらの想いと魂、無駄にすんなァァァァアアアアア!!!」

 

「やりなさい、祐斗! 自分の過去と決着をつけるのよ!! 貴方は私の大切な騎士。エクスカリバーになんか絶対に負けないわ!!」

 

「祐斗くん、信じていますわよ!」

 

「ファイトです!」

 

「……先輩、私たちだってついてるんですからね」

 

「うん、まぁ無理はすんな」

 

 木場に仲間たちの声援が届く。最後辺りダイスケにかなり適当な声援を送られた気もしなくはないが、その全てが彼の背中を押した。

 

「うひゃひゃひゃ!!! なーに泣いちゃってるの!? クッソうぜぇ聖歌なんか聴かせてくれちゃって!!! 俺、あれマジで聴いてるだけでジンマシン出てくるんっすよ。ここでてめぇを切り刻んで心の燻蒸消毒させてもらうぜ!! この四本統合の無敵のエクスカリバーちゃんで!!!」

 

 フリードが既に統合を終えたエクスカリバーを陣から引き抜く。もちろん扱えるのは木場の同志たちの因子が所以だ。これ以上彼らのためにも悪用させるわけには行かない。

 そのためにこそ―――

 

「―――僕は剣になる」

 

 木場の前に、神々しくも禍々しい二つの力が合わさったひとつの力場が生まれる。そこへ両の手で剣を握るように手を突き出すと、ひと振りの剣が生まれた。

 ほかの誰でもない、木場だからこそ出来た芸当。元より持ち合わせていた才能と、仲間たちから譲り受けた因子と命があったからこそ魔と聖の力が溶け合っていた。

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。僕とみんなの力の結晶、刀傷としてその身に刻め!!!」

 

 木場が目に止まらぬスピードでかけだすと、まずは一太刀目を入れる。フリードも防御できた分流石というべきなのだろうが、それは木場も想定していた事態である。木場もその事実に感心するが、それだけでは済まさず手にした聖魔剣の魔のオーラでエクスカリバーの聖なるオーラを徐々に侵食させていった。

 

「ッ! 本家本元の聖剣に影響を与えられるのかよ!?」

 

「それが真のエクスカリバーだったらできなかったさ。でも、その中途半端なものじゃあ僕と同志たちには勝てない!!」

 

「チィ!」

 

 フリードは舌打ちをすると木場を押し出してその反動で後方へ一旦下がる。

 

「伸びて切り刻めェェェェェ!!!」

 

 エクスカリバーは刀身を分裂させて蛇のようにくねらせ、無軌道に且つ神速をもって木場に襲い掛かる。それぞれ“擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》”と“天閃の聖剣《エクスカリバー・ラピッドリィ》”の特性である。

 だが、その斬撃の全てを木場は防ぎ、いなし、躱していく。フリードは常に全開の殺気を迸らせながら敵に向かっていくが、全てに対して吹っ切れて冷静になった木場にはあまりにもわかりやすく単調な攻撃だった。

 

「なんでだよ!? なんで通じねぇぇぇぇぇぇ!? 無敵の聖剣様だろうがよ!!! ……ならコイツも追加だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 木場を襲っていた無数の刀身が掻き消える透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の能力である。確かにこれでは“普通”は避けきれないだろう。

 だが、やっていることは先ほどと同じ。いくら見えない攻撃といえども殺気を隠せていなければ姿が見えているのと同義である。

 

「―――ッ!?」

 

 四振のエクスカリバーすべての攻撃が見切られて驚愕するフーリドは、ショックのあまり戦いの最中であるにもかかわらず足を止めてしまう。

 

「よぅし、そのまま足を止めていろよ」

 

 横合いからゼノヴィアが乱入してくる。左手にエクスカリバーを逆手でもって右手を宙へ挙げた

 

「このまま君に出番を取られては教会の剣士の名折れ、加勢させてもらうぞ―――ペテロ、パシレイオス、ディオニュシウス、聖母マリアよ。使い手たる我に応じよ!」

 

 突如としてゼノヴィアの頭上の空間が歪む。そこへ宙へ掲げられていた右手を突っ込むと、その空間の歪みからゼノヴィアはひと振りの大剣を引きずり出した。

 

「この刃にやどりし四柱の聖人の名において、我は開放する……デュランダル!!!」

 

 デュランダルとはフランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄、ローランが持つ聖剣。その名の意味は「不滅の刃」であるという使用者であるローランも「切れ味の鋭さデュランダルに如くもの無し」と語る、まさに最強クラスの聖剣である。

 その巨大な頭身には悪魔は近づいただけで浄化されそうなほどの強力な聖なるオーラがまとわれている。これはこの剣の黄金の柄の中には、聖ペテロの歯、聖バシリウスの血、パリの守護聖人である聖ディオニュシウスの毛髪、聖母マリアの衣服の一部と多くの聖遺物が納められているからである。

 そんな聖遺物の塊のような聖剣であれば、嫌でも最強の称号が与えられるという代物が何故エクスカリバーの使い手であるゼノヴィアが持っているのか。。

 

「馬鹿な、デュランダルだと!?」

 

 誰よりも驚いていたのは聖剣研究のエキスパートであるバルパーだ。

 

「ありえない、今現在でもデュランダルを扱えるのはただ一人と聞く。それに私の研究でもデュランダルを扱う領域にまで入っていないのだぞ!?」

 

「残念だったね。私は元々現在のデュランダルの所持者だ。エクスカリバーの使い手も兼任していたに過ぎない。そして私は数少ない天然物の聖剣使い。貴様の因子結晶がなくとも、私は元から聖剣に祝福されているんだよ!!」

 

 自分の想像を超えた存在を前に、バルパーは絶句する。だがこれは致し方ないだろう。自分が誇った研究以上の存在を目にすれば、誰であれこれまで抱いていた自身の歩みへの誇りもたやすく崩れ去るというもの。

 

「さぁて、コイツは使い手の言うこともまともに聴かないじゃじゃ馬までね。普段は異空間に収納していて使うチャンスも滅多にない。仮初とはいえエクスカリバーの使い手であるフリード・セルゼンよ、簡単に死んでくれるなよ!!!」

 

 言うが早いか、圧倒的な破壊のオーラを纏った斬撃がフリードを襲う。いつもの軽口を見せる間も無く、一瞬にして枝分かれしていた刀身が粉々になり本体のみが現れる。

 

「……所詮は折れた刃か。木場祐斗、もう私が出る幕ではないらしい。幕引きを頼む」

 

 虚しげなゼノヴィアの嘆息を背に受けて、木場は一気にエクスカリバーへと詰め寄る。

 その速さに、茫然自失のフリードは咄嗟に防御の構えを取るものの時すでに遅し。一閃の下に、エクスカリバーもろとも切り裂かれた。

 儚い金属の破断音が木場の胸中へ染み渡る。束の間の復活を見たエクスカリバーも、遂に再び元の破片の姿へと引き戻されていった。そして同時に、木場の人としての死から続いてきた因縁も、ついに断たれたのである。

 

「―――みんな、見ていてくれたかい? 僕らは……エクスカリバーを超えたよ」

 

 聖魔剣を握り、木場は天を仰ぐ。人生における最大の目標を果たしたことでこれ以上ない充実感に満たされるものと考えていたが、実際にその胸に去来するものは言いようのない喪失感であった。悪魔としての永い生で完遂しようとしていた目的の果てに自分は何を目標に生きていけばいいのか。

 

「ば、馬鹿な……有り得ない!聖なる力と魔なる力はプラスとマイナス、水と油以上に混ざり合うことないものなのだぞ!!それが、それがなぜ……!?」

 

 いや、やるべきことはまだあった。自らの、そして同胞たちの人生を狂わせた元兇である目の前の男。この男を生かしたままでは間違いなく自分と同じ境遇になるものがまた現れてしまう。

 

「バルパー・ガリレイ。お前の野望と因果、僕が断ち切る! 覚悟しろ!」

 

 聖魔剣を正眼に構え、仇敵を討つ覚悟を固める木場。だが、バルパーは思考を巡らすのに必死で木場が自らを討たんと歩み寄ってくるのに気付いていないようだった。

 

「そうか! それぞれのバランスがすでに崩れているのだとしたら説明はつく! つまり、魔王だけでなく神も既に―――」

 

 何かの結論に達したらしいバルパーの胸を光の槍が貫く。刺さった角度から見るに、槍を放ったのはどうやらコカビエルらしい。槍を突き立てられたバルパーは口と傷口から大量の血を流し、グラウンドに突っ伏す。木場は急いで駆け寄って脈を見るが、既にバルパーは絶命していた。

 

「バルパー……お前は実に優秀だったよ。その結論に達したのもお前が真に優秀だったからこそだったのだろうが、お前自身はもう必要ないのだ。俺は最初から一人で十分なのだよ」

 

 学舎の時計台に腰掛けるコカビエルが嘲笑う。

 

「……もうお前に手は残っていないぞ、コカビエル」

 

「ああ、そうだな。だがそれがどうした? 俺は最初から一人でも良かった。バルパーと組んだのは兵隊を作る手段が欲しかっただけだ。だがそれもあまり期待は出来そうにない。それでも―――」

 

 コカビエルの全身から放たれる強大な殺気。本人はその場からひとつも動いていないというのに、その場にいる全員がその殺気に圧倒され、膝をついてしまう。

 

「どうだ? これが俺一人とお前達との“戦力差”だ。言っておくが今のは本気の十分の一も出してはいないのだぞ? それで戦えるのか? 特にデュランダルの使い手よ。お前の先代とは一度やりあったことがあるが、本気のさっきを受けても平気だったのだ。せっかくのデュランダルだというのにその調子でいいのか?」

 

「クッ―――!」

 

 ゼノヴィアが悔しげな表情になる。事実、先ほど放たれた殺気で充分に投資を殺がれてしまっているのだ。それでもゼノヴィアはデュランダルを構える。

 

「例えそうだとしても、神の御名においてお前の勝手を許すわけには行かん!」

 

「……闘志を削がれてもなお俺に立ち向かうか。そこのグレモリーの小娘もそうだが、お前達はよくやるよ。信じる者は共にとうに亡いというのにな」

 

 一瞬、その場の空気が凍りついた。

 リアスたちが信じるものである真の魔王が先の大戦で喪したことは全員が承知の上だ。だからこそ魔王という肩書きは選ばれし統治者としての称号となり、その内の一つをリアスの兄であるサーゼクスが継いだ事も周知の事実だ。

 だが、ゼノヴィアと悪魔であるが経験なクリスチャンであるアーシアが信じるのはキリスト教、ひいてはアブラハムの宗教における全能にして唯一の存在である“神”だ。コカビエルの言うとおりであれば、その唯一神すらこの世にいないということになる。

 

「ああ、そうか、そうだったな!! お前達が知らないのも無理はないか! ならちょうどいい、教えてやろう。先の大戦で身罷ったのは四大魔王だけではない。神も死んだのさ。」

 

 衝撃が走る。

 それもそうだ。この場にいるすべての者は何らかの形でその神の影響を受けている。それどころかその存在を信じ、生きる糧にしている者もいるのだ。誰もがコカビエルの言葉を信じることはできなかった。

 

「まぁこの事実が人間の間で広まれば世界中は大恐慌だ。人間は何かを信じなければ生きてはいけない存在なのだからな。リアリズムとかいう宗教を信じない者達もいるにはいるが、それだって自分たちの主義という人工の神のようなものを崇めているようなもんさ。そんな弱い人間どもが壊れないように各勢力のトップたちは神の死という事実をひた隠しにし続けているのだよ」

 

 確かに信じる者が既に存在しないと知れば、人は容易く心を壊すだろう。死んだという神を信じる者、つまりアブラハムの宗教の信仰者は現在の世界の人口の約半数である。それら全員が信じるものを失い、恐慌に落ちればどのような大惨事が起きるか。規模は想像できなくとも世界中が大いなる混沌に陥ることは誰の目にも見えている。

 

「あの戦の後、残ったのは神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外はほどんどいなくなった堕天使だった。疲弊どころではない、絶滅の危機だ。どこも人間に頼らなければ存続できないほどに落ちぶれた。今の世界があるのは神が残した世界の運行を司る“システム”のお陰さ。それさえあれば神への祈りも、祝福も、悪魔祓いもある程度は機能する。ミカエルの奴はよくやっているよ」

 

「嘘だ……嘘だ―――」

 

「そんな……それじゃあ、神の愛は―――」

 

 中でも衝撃が大きいのはともに敬虔な信者であったゼノヴィアとアーシアだ。ゼノヴィアは手にしたデュランダルを落としそうなほどに疲弊し、アーシアに至っては涙も出ないほどに心が打ち砕かれていた。イッセーがその身を支えるものの、今にも彼女は崩れ落ちそうだ。

 

「先程の特異な禁手も神がいないからこその現象だろうな。力を統括するのがただ粛々と処置していくだけのシステムならバランスが崩れることもある。そこまでこの世界は脆い柱の上に成り立っているのだよ」

 

「……なら、何故貴方は戦争にこだわるの!?世界がそこまで来ているのであれば、もう戦争どころではないでしょう!?」

 

「グレモリーの小娘よ、だからこそだ。誰がこの世界の頂点であるかを決めなければ、この振り上げた拳はどこへ下ろせばいい!? 戦争以前に、あの“王”のこともあるというのにアザゼルの奴は「決着は付けない」と言いやがった!!! 我ら堕天使こそが至高であると世界に示し、導かねばならんのだ!!! 真の強者が強さを示して何が悪い!!! それだというのに神器なぞにうつつを抜かして、人間どもに頼る堕天使に何の意味がある!!!」

 

 憤怒の形相のコカビエルから先程とは比べ物にならない圧倒的な怒気と殺気が溢れている。だが、その理由はあまりにも身勝手すぎた。

 

「俺は再び戦争を起こす。たとえ俺ひとりでもあの戦の続きを遂げてやる!!! 我ら堕天使こそが至高であると悪魔どもにも、天使どもにも見せつけていずれあの“王”さえも超えてやるんだ!!!!!」

 

 なんと矮小で身勝手な理由で世界を滅ぼしかねない選択を採るのだろうか。だが、相手は世界をどうこうしようという魔王や天使の長を相手取ろうという存在。その力は本物だ。

 信じていた世界が仮初のものであったというショックと、戦う相手の圧倒的強さに誰もが戦う意思を失いかけていた。

 ただ一人を除いて。

 

「……巫山戯るなよ」

 

 ダイスケである。

 つい先程までの木場が起こした奇跡と世界の真実に圧倒されていたダイスケであったが、コカビエルへの純粋な怒りで立ち上がったのだ。

 

「……何が堕天使が至高だ、何が神は死んだだ。そんなもん、世界の半分にとっちゃ関係ないんだよ。そのままそっとしておけばいいのに、なんでテメェの我侭で今俺たちが生きている世界が迷惑を被らなきゃならないんだ」

 

「……人の子よ。それが人の定めだ。大きな力には逆らえず、ただ世界の流れに身を任せるしかなく、雑多で小さな一つ一つの存在でしか有り得ないのが人間だ。現に今でも自分を超える大きな力には抗えない。自ら作り出した力であってもだ」

 

「そうだな。だけどその雑多で小さな一つ一つの存在のなかには俺の大切なものがある。お前の好き勝手で、それをお前なんかに壊させるわけにはいかないんだよ!!!!」

 

 コカビエルと比べても、ダイスケの怒りの理由は矮小なものであろう。結局それは至極個人的なものであるからだ。だがそれはイッセーたちにとっても同じであった。

 彼らにもこの街には大切な存在がいる。イッセーには両親と親友たち。アーシアには自分を受け入れてくれたイッセーたち。あえて全ては上げないが、それらの彼らにとって大切なものはすべてこの大きな世界に寄って存在している。この大きな世界を守らなければ、小さな存在である身近なものすら守ることはできないのだ。

 その事を、彼らはダイスケが立ち上がった姿を見て遂に悟った。

 

「そうだよな……勝てる勝てないの問題じゃあない。ここで動かなきゃ、なんにもならないよな」

 

 イッセーが立ち上がる。

 

「……神を信じていた僕らの祈りは無駄たったのか、なんて思っていた。だけど、今ここで折れたらそれこそ本当に全ては無意味になっちゃうな」

 

 木場が弱々しくも聖魔剣を構える。

 

「お兄様が来てくれるまで、なんて考えていたけど……ダイスケに心で負けちゃあ上級悪魔として情けないわよね」

 

 いつもの自信にあふれた瞳ではないが、リアスの目に再び闘志が宿る。

 

「なら私も圧倒されている場合ではありませんわね」

 

 余裕の無い朱乃ではあったが、リアスを助けるという意志は戻った。

 

「……もとより、私の居場所はここなんです。わたしだって……!」

 

 小猫がその小柄な体にいま一度闘志を流し込むように気合を入れた。

 

「……信じていたものがなかったことは辛いです。でも、ここで私が立ち上がらなきゃ誰がみなさんの怪我を治すんですかッ!」

 

 心の支えを失いながらも、アーシアは立ち上がっていく仲間のために心を無理にでも奮い立たせた。

 

「悪魔に身を窶しても信仰を捨てなかったあの娘が自ら立ち上がったんだぞ……現役信徒の私が遅れてなるものか!!」

 

 まだ心の震えは止まらないが、アーシアが自らを奮い立たせた姿を見てゼノヴィアが歯を食いしばって再びデュランダルを構えた。

 正直な話、誰も本当に立ち直れたわけでも迷いを断ち切ったわけでもない。コカビエルに対する恐怖だって未だに抱いている。だが、それでも立ち上がらずにはいられなかった。

 

「……実力差を見せつけられても、世界の真実を見せつけられてもなお立ち上がるか。―――面白い。サーゼクスとミカエルの前にまずはお前たちとの“戦争”だ!!!」




 はい、というわけでVS17でした。
 さいきんグレンさんとの意見交換をしているのですが、奇跡が起きました。こんな偶然ってあるのかっていうくらいのが。皆さんにご覧に入れる日が楽しみです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 

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