「お、おおおおおおお、お前一体……!?」
素っ裸のままで妙齢の女の前に出るわけにもいかないので、ダイスケはとりあえず自分の上に被さっていた布団で下半身を隠し、同じく全裸の少女に手近にあった白い布を投げ渡す。
「と、とりあえず、それを羽織れ」
「んー、これ使っていいの?」
もちろんダイスケは相手の姿を見るまいと適当に投げたものなので、それがなんなのかわかっていない。だが、何も無いよりはマシだろう。
「き、着たか?」
「うん、着たよ」
これで一安心、と思ったがそうは問屋が下ろさない。
「ブゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!」
渡した正体不明の白い布で大失敗。ダイスケが投げ渡していたのは脱ぎ捨てられていた状態でそこにあった脱ぎ捨てられていたワイシャツだった。
つまり、彼女は現在所謂「彼シャツ」の状態だったのだ。シャツが切り刻まれているのでその白く若く瑞々しい素肌が当然のように覗き見え、しかも結構いいスタイルなのでボディーラインが白地のシャツで強調されてなかなか……ゲフンゲフン。
兎に角そんな格好で可愛らしく「キョトン」とした顔で見つめてくるからその破壊力は半端ではなかった。
「ねぇ、どうしたの? なにか、この格好まずかった?」
「いや、ちょ、その格好で近づくな! もっとマシなの探すから!!」
「えー、別にこれでいいよ?」
「俺が良くない!!!」
無邪気に近づいてくる女をなんとか押しのけようとしていると、部屋のドアがノックされる。
「ダイスケ様! お怪我は大丈夫ですか!? リリアです! リアス様からこちらのホテルに来て看病するように申し遣ってきました!」
なんと最悪のタイミングでリリアが来た。リアスのしてくれた余計なお世話でさらに面倒な状況になってしまったので今ばかりはリアスを恨む。
「あ、い、い、今行く!!!」
「あ、ちょっと」
彼シャツ状態の女の静止を振り切り、彼女に渡していた自分のシャツを剥ぎ取って、慌てて周囲に散らばっていた自分の衣服も着てドア前に来るダイスケ。
「ダイスケ様、大丈夫なんですか!?」
「だ、大丈夫! すぐ開けるから!」
部屋の構造上、ベットのある空間は入り口からは見えない。多分あの女はリリアに見つからずに済むはずだ。もし見られたら何を言われるかわからない。
こうなったらリリアに自分の無事な様子を見せて安心して貰ってとんぼ返りして貰うほかない。心配してきてくれたのはよくわかるが、今はだめだ。
「よ、よう、リリア。カチ込みの日以来だな」
「だ、ダイスケ様、シャツに血が付いていますよ!?」
「あ、ああこれ? 大丈夫、この下の傷はほら、治っているから。うちの
嘘である。正直なところ、何で治ったのか自分でもわからない。
「この通り、俺は無事だから帰っても大丈夫だ。」
「え? で、でも」
「いいからいいから! 帰ってジオティクスさんやヴェネラナさんによろしく伝えておいてくれ!」
玄関で立つリリアの肩を掴んで無理やりドアの外へ出そうとする。それにリリアはは困惑しながらもされるがままに従う。そして、あとちょっとで出て行ってくれるというそのとき。
「ゴジくん、その娘、誰子ちゃん?」
背後に聞こえてくるまだ若干眠たげな声。恐る恐る振り返るとすぐ後ろに件の女の姿があった。最悪なことに、ダイスケが着ていたシャツを剥ぎ取ったお陰で全裸である。
だが、もっと衝撃を受けているのはリリアの方だった。
「……あの、そのヒト誰ですか?」
完全に目からハイライトが消え、返答次第ではただではおかないという意思を明確に伝えるリリア。だが、ダイスケ本人が事情を知らないのだから返答のしようがない。
そんな事情もお構いなしに女はダイスケの腕に抱きつく。
「私はね、ミコト! ゴジくんとラブラブなんだ!」
今ダイスケですら初めて知った情報があるが、リリアが最も気になったキーワードがひとつ。
「ラブ、ラブ……?」
「うん! わたしね、前世からゴジくんとラッブラブなの!」
朝っぱらから胃がもたれる。おかげでダイスケもリリアもフリーズ状態。
「な、な、な、何言ってんの!? 前世!? あんたアレか、流行のヤンデレか!?」
「ヤンデレ? なにそれ? っていうか、その娘大丈夫?」
「へ?」
見ればリリアはブルブルと震え、医療用品が入ったボックスの持ち手を握る手に力が入っている。
「り、リリア、さん?」
しばしの沈黙。そして――
「ダイスケ様の……」
「はい?」
「ダイスケ様の……バカぁぁぁぁぁぁ!!!」
ダイスケの顔面に投げつけられるボックス。
正直理不尽だし訳わかんないけど、これは受けとかないと後からもっと怒るな、とダイスケが諦めたその時、ボックスが空中で静止する。
「……小娘、癇癪はいいが病み上がりにするものでは無いぞ」
すると、茶髪だった女の髪が純白になり、指を二本ボックスに向けている。
「念動……力?」
リリアが呆けて言う。
「そんなものよ。まぁ、入れ。そなたらもいろいろ妾に尋ねたいであろうからな」
*
「じゃあねー、二人のこと教えて貰ったからわたしの自己紹介しよっか。私はミコト。
「命って……日本神話の神様の方なのですか?」
リリアが尋ねるが、服を着たミコトは首を横に振って否定する。
「ううん。わたしはね、斎王っていうの。斎宮でもいいからスマホで調べたらすぐ出るはずだよ。なんて言ったってわたし、立派に歴史に載ってるもん!」
そう言われてダイスケはスマホですぐに検索する。すると出てきたのはとんでもない情報。
「えーと、倭姫命。第11代垂仁天皇の第4皇女にして初代斎宮である。ヤマトタケル伝説で日本武尊に草薙剣を与えた人物。伊勢の地に眠る……ちょっとまて、垂仁天皇っていつの……約二千年以上前!?」
「に、にせっ……え、じゃあイエス・キリストよりも年上って事ですか!?」
「うん。天界に言ったときはむこうから挨拶してくるよ」
「ガチの神代の人物……しかも日本書紀って……」
外見からしてちょっと年上かと思っていたが、実際はその想像の遙か斜め上をK点越えしていった。
「で、なんでそんな人がここに?」
「そうです。そんな日本神話体系の重要人物がこの街で起きていた事件に天界側から関わっているなんて……」
リリアからすれば本来敵対関係にある勢力に協力しているのがミコトだ。口は割らないだろうが、訊いてみる。
「それはね、わたしがいろんな神話体系のところをボランティアでおたすけしにいってるから。なんていうか、わたしの前世の関係で困っている人を見ると放っておけなくって……あ、他の神様達からはちゃんと認められてるから、心配はしないで」
あっさりバラした。拍子抜けしてリリアはガクッとなる。
「そんな、この国の自衛隊派遣じゃ無いんですから……」
「でもそんなもんだよ? さすがに悪魔さんのところは体裁が悪いから行ってないけどね。で、今回もミカくんが「日本で困ったことが起きたから力を貸して欲しい」って言ってきたからいいよ! って」
「「軽ッ!」」
多分ミカくんとは大天使ミカエルのことだろう。天使の中でも最上位の存在をこのように呼ぶとは大物かはたまた何も考えていないのか。
「で、その……さっきから言ってる前世って? 誰かの生まれ変わりなの?」
ダイスケの質問にミコトは「えっ」と目を見開く。
「え、うそ、わかんない? わたし、『モスラ』だよっ」
「モス、ラ? リリア、わかるか?」
「いえ、そんな神話存在や人物は聞いたことが……」
その二人の様子を見て、ミコトの両目に涙がにじみはじめ、決壊した。
「うえぇぇぇぇぇぇん! ゴジくん、わたしのことやっぱり忘れてるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「え、あ、ちょ、え!?」
突然の号泣にダイスケもリリアも慌てる。涙を拭くティッシュはあるか、隣の部屋に聞こえていないかとあたふたするが、ミコトはグズグズと鼻をすすりながらダイスケを睨む。
「……いいもん、無理してでも思い出してもらうから!」
そう言うとミコトはダイスケに飛びつき、自分の額をダイスケの額にくっつける。すると――
同胞が人間の作った業火に焼かれた――
復讐を誓った――
街を焼いた――
何かによって自分が滅ぼされた――
だがまた自分はいた――
目の前のコイツにも出会った――
多くの同じような存在と戦い、時にはこの星を守るために憎かった人間も助けた――
歴史から消された――
だが人の業がまた自分を呼び起こした――
その代わり、いないと思っていた同胞に会えた――
宇宙から来た自分と戦った――
かつての因縁が同胞を奪い、そして決着を付けた後自分は消え去った――
かと思うとまた自分は生きていて、なんかこれじゃないって多くの人から悲しまれた――
自分の力を取り込もうとした身の程知らずを焼いた――
人間の何でも吸い込む力をかき消した――
忘れ去られた者たちの為に彼の国を滅ぼそうとした――
同胞を取り戻そうとその同胞と戦った――
侵略者との
この星のバランスを守るために戦った――
究極の進化を遂げるために必死に生きた――
地球を喰らう異次元の神に喰われかけたがそれでも打ち破った――
まだまだ記憶が溢れてくるが、その全てがダイスケの記憶だった。全てを体験し、全てが自分の魂に刻み込まれている。
そう、自分は――
「ゴジ、ラ……『
「思い出してくれたぁ!!」
歓喜のあまり、ミコトはダイスケに抱きつく。
「ちょっとまて。俺は……人じゃ、ない?」
「ううん、わたしと一緒で今は人。でも、魂はあなたはゴジラで、わたしがモスラ。前世や、生まれ変わりっていうのはそういうこと」
ダイスケが自分と同じ「話を理解できていない側」だと思っていたリリアが、ダイスケの様子を見て困惑する。
「ダイスケ様、どうしたんです!? 何をされたんですか!?」
「……だ、大丈夫。思い出しただけなんだ。俺が何者なのか……いや、俺自身の魂のルーツがどこにあったのか思いだしただけなんだ」
「それって……?」
「ごめん、何でそうなったのかとか、詳しい説明は俺にも出来ない。でも、俺の力の由来だけはわかった。それだけだから、心配しないでくれ」
「大丈夫。きっとリリちゃんにもわかるときが来るから」
「はぁ……」
正直なところ納得は出来ないが、今はダイスケが納得しているということで納めることにするリリア。だが、気になる点はまだある。
「では、先程の突然の貴女の変異は一体? それもモスラというのに関係あるのですか?」
「それは――妾から説明した方が良いな」
再び変身するミコト――ではなくヒメ。
「妾はな、天照大御神の残滓が生み出したもう一つの人格よ。名も別名の「
「そういえば、倭姫命は斎宮だって……」
先にダイスケがスマホで調べていたことの内容を思い出すリリア。それにヒメは首肯する。
「ミコトはの、初の斎王――つまり人間の神の依り代よ。神を己に憑依させ、神託を授け、神の意志を代行する。それを先例が無いのに実行したのじゃ。その結果、天照の力の残滓は残り、それがモスラの魂と結合して妾が生まれた。その所為かもっぱら戦は妾の仕事よ。見ての通り、ミコトの性格では闘争は無理なのでな」
だがの、とヒメは続ける。
「神を降ろすことでモスラの魂の強度が上がり、その結果人の範疇を超えた生命を得てしまった。おまけにゴジラよ、お前と今度こそは仲良くすると言ってさらに親和性を高めてな。ついにはモスラの記憶と自分の記憶が混在するようになってしもうた」
「ゴジラ――つまり、俺と?」
「主も垣間見たであろう。ゴジラとモスラは出会うたびに基本的にぶつかり合う。共闘など片手で数えるくらい。その記憶が見えるのが悲しいのよ。本当は仲良く出来るはずだと。すれ違うのは巡り合わせが悪いだけだと。なまじ仲睦まじい記憶があるから余計にそう思う」
「引っ張られすぎたのか……魂の記憶に」
「その点、主は幸運ぞ。ゴジラの人への怨念たるやもはや超一級の呪い。人の業を全て背負うのと同じじゃ」
「ああ、それはさっきわかった……」
先程垣間見た記憶のことだ。もしも物心つく前からアレに触れていたらダイスケに人の心は芽生えなかったはずだ。あの記憶はそれほどまでの深淵だったのである。
「それらを踏まえて主に頼みがある」
「頼み?」
「……ミコトとは仲良くしてやってくれ。妾はモスラの戦いの意思を司るが、ミコトはモスラの優しさを継承しておる。お前と仲良くしたいのも、その過去を知った上で恨み続ける無間地獄から抜け出して欲しいだけなのじゃ。怨嗟が怨嗟を生む、永遠の虚無から、な」
「……」
「それが果たされれば、きっとミコトも妾もようやく逝ける。人の心のままで、一人永い時を生き続けるのは存外苦行ぞ? じゃからせめて主が生き続ける限りは、どうかミコトの願いも受け入れてやって欲しい……」
それだけを言い残し、ヒメはミコトに主導権を受け渡す。
「……あはは、なんかヒメちゃんが無理言っちゃったね。別に気にしなくていいから。だって、わたしの独りよがりなだけだもん」
無理をしてミコトが笑っていたのはダイスケにもリリアにも理解できた。そしてダイスケが頭を掻きながら言う。
「……まぁ、何回もの生の内で半分以上も出会ってる腐れ縁みたいなもんだもんな。大概そのたびに戦ってるみたいだし」
「でもね、とっても仲が良かったときだってあったんだよ? その時は万単位でラブだったんだもん。きっとあのときみたいに出来るって、わたし信じてるんだ」
「万単位って……日ですか?」
「ううん、年」
それを聞いたリリアは気が遠くなりそうだった。悪魔でも生きて大体一万年。その悪魔の一生の数回分仲が良かったというのだからたしかに可能性を感じるのも無理は無いだろう。
だが、ミコトが突然神妙な顔つきになる。
「それで、相談なんだけど……」
「「そ、相談?」」
身構えるダイスケとリリア。先程の話の流れからするに、きっと大事な相談に違いない。どんなことを言われても驚かないように心の準備をしていると――
「実は事件解決したらすぐにこのホテルを引き上げることになってて……でも、ゴジくんを見つけたから多分この街にもうちょっといなきゃで、でも支給されたお金がもうホテル代ぐらいしか無いから……どこか泊まれるとこ紹介して?」
*
結局その日はダイスケは学校を休んだ。ミコトと話し込んだせいでチェックアウトの時刻、つまり11時ギリギリまでホテルにいたからだ。
試しにイッセーに連絡を入れてみたが、どうやらダイスケ以外のオカ研メンバーは全員出席できるほどに回復したようだ。それに関しては喜ばしかったので良しとする。
だが、問題はミコトである。今はとりあえずホテルを出て町中のチェーン店の喫茶店で時間を潰している。ちなみにリリアはグレイフィアから用事が終わればすぐに戻るように言われていたらしく、名残惜しそうに帰って行った。無論ミコトのことは報告しなければならないらしいのだが。
それはともかく、ダイスケ一人でミコトが抱える問題を解決しなければならない。だというのに目の前のミコト本人は結構のんきだ。
「ねぇねぇ、ゴジくんのコーヒーちょっと貰っていい? 甘いの飲み続けたらなんか口の中甘ったるくなっちゃった」
「え? あ、うん。いいぞ」
これからどこに彼女を泊めさせようかと悩んでいるのが馬鹿らしくなってくるほどの脳内ふわふわ加減だ。記憶の中のモスラがみんなもふもふふわふわしていたのでそれが人格に影響しているのだろうか。
「あのさ、どっかの神社に泊まるって出来ないのか? 日本神話関係の横の繋がりとかさ」
「あのね、以外と神道って縦社会だよ。神社ごとに管轄してる神様が違うから手続きとかめんどっちいの」
「八幡神社とか稲荷神社とか全国にあるじゃん。そこ行けないのかよ」
「八幡神社は前に「同じ蛾繋がりだから」って頼みにいったら「お前の前世とかウチ関係ない」ってはねつけられちゃった。稲荷神社の方は前にウカちゃんから借りた乙女ゲー返すの忘れててね。借りパクだーって、しばらく全国の稲荷神社への立ち入り禁止されちゃってるの。もしも入ったら使いの狐ちゃん達が吠えて吠えて……」
「日本の神様、乙女ゲーしてんの!? しかも結構なメジャーどころが!」
自国の宗教の神様の意外すぎる私生活に驚くダイスケだが、この分だと神道関係に助力を乞うのは無理だろう。
もはや、こうなったら最終手段をとるほかない。
「……授業も終わってる時間だし、そろそろ掛けてみるか」
*
「やあ、ヴァーリ。報告は終わったのか?」
「ああ。後の処理はアザゼル達がやる。もう俺の手から離れたよ。……で、訊きたいのは奴のことなんだろう」
「まぁ、な」
冥界にあるグリゴリの施設前で、彼ら――ヴァーリと義人は待ち合わせしていた。彼らは共に堕天使に優秀な神器使いとして拾われたという共通点が存在していたのでそれなりに交流がある。
そんな仲の片方が仕事で駒王町に出向くということで、義人はあることを頼んでいた。ダイスケが、どんな様子であったかだ。
「奴は本格的に目覚めたらしい。まぁ、デビューは事前の負傷のせいで華々しいものとはいかなかったみたいだが」
「……そうか、あのとき感じたあの感覚。やはり――」
「コカビエルくらいの相手なら目覚めるのには丁度良いのかもしれないとは思っていた。だが、まだあの様子では完全に目覚めたというわけでは無いようだ。それでもお前は、奴と戦いたいか?」
「俺の中の魂が、『奴を倒せ』と五月蠅いんだよ。初めて出会ったあのときから、その声が止まない。そして、俺自身も奴との戦いを本能的に望んでいる。不完全だろうが――もう我慢できそうに無い。そう言うヴァーリはどうなんだ。運命の宿敵に出会えたんだろう?」
それを訊いたヴァーリはつまらなそうに言う。
「俺の場合はお前ほどアレと戦いたいと思っているわけじゃ無い。確かに因縁もあるし、決着は付けたいところだが……今の状態ではな。いっそお前から宝田大助を奪った方が楽しめそうだ」
「それをしたら俺は本格的にお前の首を獲りに行くぞ」
「冗談さ。まあいい。今日はお互い苦労する因縁を持つ者同士、一杯やろうじゃないか。怒らせた分奢る」
「……ラーメンのことだよな?」
「当然。俺の言う一杯とはラーメンに他ならない。今日は東京に行こう。新宿にコオロギラーメンなるものがあるらしくてな……」
「おい、それは本当に喰って良い物なのか!? 衛生とかはどうなってるんだ!」
そう言いあいながら二人は転移陣の光の向こうへ消えていく。余談だが、コオロギラーメンは名前と食材のインパクトに反し絶品だったらしい。
*
「おぉ~、ここがゴジくんのお家かぁ。……なんかこざっぱりしてるね」
「おい、頼むから荒らすなよ」
結局、ダイスケは自分のマンションの部屋にミコトを泊めることにした。その方が安上がりだからである。
勿論リアスからの許可は電話で貰っている。何でも怪我の治療をしてくれたことに対して報いるためだとか。その際に駒王町にあるグレモリーが経営するホテルに泊めても良いと言われたが、ミコトが「タダで泊まるのよりゴジくんのところいった方が安上がりだから」と遠慮したからこういうことになったのである。
「じゃ、これから晩飯作るから。適当に寛いでくれ」
「えー、手伝うよ。料理したこと無いけど」
「だったら余計に手はださんでくれ。その方が俺が安心する」
ダイスケはリビングにミコトを座らせて調理に入る。とはいっても非常に簡単な料理だ。買ってきた豚肉をはじめとしてキャベツやジャガイモ、にんじんタマネギを適当に切って鍋にぶち込み、煮込んでとどめにコンソメブロックを入れるなんちゃってポトフ風スープだ。
ダイスケはこれを数日に分けて食べるのと、後でシチューやカレーに変えるつもりなので量は多い。よってその分調理時間はそれなりにかかる。その間リビングの方から「あ、ガンプラ!」と言う声や「バキッ」と言う何かプラスチックが折れるような音、そして小さな「あ゛」と言う声が何度か聞こえた。
それをダイスケは額に青筋を浮かべながら聞いている。鍋の火加減を見なければならないことと、彼女は曲がりなりにも自分達の命の恩人であるという事実からダイスケはぐっとこらえているのである。当然、後から神道勢力にはリアスを通して壊されたガンプラの弁償金を払って貰うつもりだ。
「よーし、ちょっと表にd……じゃねーや、メシできたぞ」
そう言いながらダイスケはリビングの机の上に鍋をドンと置く。鍋から漂うスープの香りがミコトの鼻腔をくすぐる。
「んはぁ、いいにおい!」
自分のスープ皿を受け取るとミコトは楽しげにスープをすくう。
「じゃぁ、いっただきまーす……なんか普通だね」
「当たり前だ。野菜と肉切ってぶち込んで市販のコンソメの素を入れただけだからな」
「でもおいしいよ! この街にきて一番温かい料理かも!」
「なんだ、ずっと冷たい料理ばかりだったのか」
「そうじゃなくて……ゴジくんの優しいところが溶け込んでるっというか?」
「……アホ言わないでさっさと食ってねるぞ」
「はーい」
そんな会話をしながら二人は食事を続けた。片付けも済むとあとは風呂に入って寝るだけだ。
ダイスケは先にミコトに風呂に入らせて自分はイッセーにメールして明日の時間割変更が無いか聞く。
「――そっか、変更は無いか」
その情報を受け取ったダイスケはそそくさと鞄に明日必要な教科書やノートを入れる。そして今日出ていた課題を終わらせるために机に向かった。
「ゴジくーん、お風呂上がった……なにしてるの?」
「あ? 宿題だよ。学生だからやっとかないと」
頭をタオルで拭きながらミコトが部屋に入ってくる。そして、ダイスケの肩越しから机を覗く。
「……なによ」
「ん? ちょっと気になってね。 ささっ、お気になさらずつづきをどうぞ」
そう言われたのでダイスケは宿題に向き直るが、じーっと見られているから気になってしょうがない。
「なんなんだよ」
「あ、ごめんね。わたし、学生なんてやったことないから物珍しくって」
いわれてみれば、彼女は二千年以上前の生まれ。その頃には今のような義務教育の学校や高校は存在していない。
皇族であるから学ぶ機会はあっただろうが、それはあくまでも神道の儀式に必要な知識。どんな風にでも生きられるになることを目標とした今の教育と違い、生き方が制限される知識だ。
斎王の役目を終えても、彼女はずっと他の神話勢力を良心から手助けしてきた。きっと、そこに彼女が責任から開放されて自分のために使う時間はなかっただろう。
そこへダイスケがゴジラの力を宿し、しかも目覚めさせた。きっと良心からまた自分を犠牲にするはずだ。
なら、自分が彼女のためにしてやれることとは――
「……リビング行くぞ」
「え、なんで?」
「あっちの机の上に方が横に座ってみられるだろ。邪魔しないんなら、いくらでも見てくれて良いから」
「……! うんっ!」
「それから、さ」
「なぁに?」
「ゴジくんって呼ぶの、やめてくれ」
「ど、どうして?」
「俺には宝田大助っていう名前がある。確かに俺の魂はゴジラだ。でも、それでも俺は俺なんだ。だから、俺の名前を呼んでくれ」
「……うん、わかったよ「ダイスケ」!」
「いきなり下の名前かい……」
そうして二人は深夜までリビングにいた。宿題が終わったのは零時半ごろだったが、その後いつの間にか二人はその場で眠ってしまっていたのだった。
*
「んぁ……ここで寝ちゃったか」
窓から刺す朝の日差しを浴びてダイスケは目覚める。時計を見るといつも起きているのと同じ時刻だったので特に慌てはしない。
しかし、隣にいたはずのミコトがいない。ダイスケの肩に毛布が掛けられていたので彼女がやってくれたのだろうが、本来寝る予定だったベットの上にも彼女の姿はなかった。
すると、勉強机の上に小さなメモがあることに気付く。
『ちょっと出かけます。ちゃんと帰ってくるから心配しないでね』
勝手に授業に使うノートをちぎられていたのでイラッときたが、ほっと胸をなで下ろす。どうやら何か緊急事態が起きたという訳ではないようだ。
それを確認したダイスケは軽くシャワーをして、いつものように学校へ出かけた。
はい、というわけでVS20でした。
乙女ゲーネタのところ、なにが元ネタかわかる人いるかな? 多分いつもと毛色が違うからわかんない人が大多数だと思う。
あと、このエクスカリバー編が終わったら間違いなく更新ペースが落ちます。ちょっと新しいキャラとか考えないといけないので。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!