ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 「ゴジラのサンタクロース」っていう歌、皆さんご存じです? どうか街を歩くリア充どもをゴジラサンタの熱線で焼き尽くして欲しいです。
 この前無事に艦これの秋イベをクリアしました。ヒューストンもデ・ロイテルもドロップしたので言うことないです。
 あとこの前地元のイベントで生のアイドルと写真撮って握手してきました。ガンダム好きなのですっごく話できました。


VS22 誰がどこで話を聞いているかわからない

 ここは駒王町のそれなりに規模がある漁港の突堤だ。ところどころに点いている街燈が集魚灯のような働きをするのでなかなかいい釣りスポットになっている。

 そこに今、月の光に照らされながらイッセー、ダイスケ、そして本日の依頼人の男の三人が釣り糸を垂らしている。

 

「釣れない……」

 

「ここで諦めるなよ。釣りっていうのはナンパと同じだ。したことないけど。いかに地道に魚にアピールして食わせるか、これよ」

 

「悪魔君、友達の言うとおりだぞ。ここはじっと待って回遊してくるタイミングを待つんだ」

 

 最近、イッセーに常連の顧客ができた。それがこの男だった。見た目はチョイ悪系が入った三~四十代ぐらいだろうか、何の仕事はしているのかはわからないがこの男とにかく羽振りがいい。なにせ、最初の依頼が「暇つぶしに酒の相手をしてほしい」とうもので、もちろん未成年なので飲みはしなかったがほんの数時間ほど相手をしただけでとる有名画家のリトグラフを報酬として渡してきたのだ。

 はじめは想像以上の値打ちモノが報酬として出てきたのでイッセーも驚いた。しかもそれにとどまらず、ゲームの相手だとか買い物に付き合えだとかどう考えてもハードルが低い依頼でぽんぽんと報酬として高価な絵画や貴金属類、はては骨董品を報酬として支払う。ここまでされたら何者なのかという疑念もどこかへ吹き飛んでしまう。

 そして、今回の依頼が夜釣りに付き合うという内容だった。

 

「あれ? ビクってきたのについてないぞ?」

 

 仕掛けを引き上げたイッセーが情けない声を出す。

 

「お前、当たってすぐに引いたろ。そういう時はな、ちょっと待って確実に針を飲み込ませろ。そんで、籠の中のアミも随時チェックだ」

 

 アドバイスするのは趣味が釣りのダイスケである。

 当のダイスケはルアー釣りでのアジング。それに対し、イッセーと依頼主はサビキでのアジ狙いだ。

 

「はっはっはっは、悪魔くん。こうやるんだ」

 

 そう言ってアゼルがリールを巻いて竿を上げると、サビキの針がアジでほぼ満員になっている。

 

「うわ、すっげぇ!!」

 

 たまらずイッセーが驚いた声を上げる。

 

「おお、型はマメアジだけど、数すげぇ」

 

「どうよ、伊達にこれだけに長い時間かけたことがある俺ではないさ」

 

 ダイスケに答えながら、依頼主はアジを一匹ずつ針から離していく。

 

「そういうお前さんはどうだい? アタリがないんじゃないか?」

 

「うーん、今のところジグヘッドでやってるんだけど、レンジが深いか、まだ遠くにいるみたいっすわ……キャロシンカーに変えよう。」

 

 そう言ってダイスケは柔らかい樹脂製のワームと呼ばれるルアーとジグヘッドという重り付きの針を仕掛けから外し、タックルボックスから、キャロライナシンカーと呼ばれる錘を取り出す。そして仕掛けを作り直し、小さな針を結んで再びワームを付ける

 

「何それ?」

 

 イッセーが興味を惹かれ、ダイスケに聞く。

 

「これな、さっき付けてたジグヘッドより重いんだよ。だからより遠くに飛ばせるし、深いところへも早く仕掛けを沈ませることができるんだ」

 

 そのダイスケの説明の通り、キャロシンカーの仕掛けは先ほどのジグヘッドの仕掛けよりも遠くに飛んだ。

 

「へぇ、アジ釣りひとつにもこんなにやり方があるもんなんだ」

 

「だろう、悪魔くん。まあ、効率はこっちのサビキ仕掛けのほうが圧倒的にいいんだが」

 

 そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、終了の時間を迎える。

 本当なら朝日が見えるまでやり続けたいところだが、イッセーとダイスケには学校があるのでもうお開きだ。

 釣果はイッセーがアジを二十尾釣り上げたのに対して、依頼人はは五十六尾。そしてダイスケはたった十尾。ただし半分以上が二十五~三十cmの良型だったので本人は大満足だ。

 

「いやー、楽しかったよ。いつも一人でやるんだがね、たまにはだれかと一緒にやるのもいいもんだ」

 

 短時間ながら十分な釣果を得た依頼人はは満足げだった。そして既にイッセーも代価の宝石類を頂戴している。

 

「くっそー……結局二十匹かよ……」

 

 イッセーが悔しそうに呟いたのを依頼人は聞き逃さない。

 

「お? だったら今度は勝負するかい?」

 

「もちろんすっよ!!」

 

 イッセーは息巻くが、ダイスケはそれを見て呆れる。一朝一夕で釣りの技術は身につくようなものではないからだ。

 

「よし、それじゃあ今度呼ぶときは釣り対決ってことでいいかな? 悪魔くん、ダイスケくん。……いや、赤龍帝と怪獣王」

 

 その一言で、イッセーとダイスケは咄嗟に依頼主の男と距離を取る。

 

「おお、いい反応だ。だが、俺が何者なのか気付けなかったのは残念だったな」

 

 両手を広げて「やれやれ」というジェスチャーをする。それがふたりにはまるで自分たちの隙を悠々と突かれたように感じてしまうのだ。

 

「あんた……一体、何者だ!?」

 

 イッセーのその問いを待っていた、と言わんばかりに依頼主は口の端を少し吊り上げる。

 

「―――アザゼル。堕天使どもの頭、総督をやっている。よろしくな、赤龍帝の兵藤一誠、そして怪獣王、宝田大助」

 

 その予想外の回答に、沈黙が訪れた。

 

「「は?」」

 

 というより、二人にはイマイチ現状がつかめていない。

 堕天使の総督がなんでわざわざ? っていうか、自分から顔を見せるってなんなの? そんなに暇なの? なんて思っているほどだ。

 

「いや、だから堕天使の総督なんだって」

 

「「……」」

 

 またも訪れる沈黙。だが、それはイッセーとダイスケによって破られる。

 

「「痛い痛い、痛いよお母さーん! ここに頭怪我した人がいるよぉー!」」

 

「……張り倒すぞ、お前ら。」

 

 思わぬ反応に、つい威厳もカリスマもかなぐり捨ててカチッとなってしまうアザゼル。だがアザゼルは言葉で納得しないなら、その目に焼き付かせるまでだ、と行動する。

 

「なんなら証拠を見せてやろう……」

 

 その途端、アザゼルの背中から12枚の漆黒の翼が現れる。

 

「どうだ、この12枚の漆黒の翼! まさに堕天使って感じだろう!!」

 

「「……」」

 

「どうだ、びっくりしすぎて声も出ないってか?」

 

「「痛い痛い、痛いよお父さーん! 絆創膏持ってきて、人ひとり包み込めるくらいのー!! しかもこの人自作の羽根とか付けてるよー! 痛いにも程があるよー!! 正露丸もってきてー!! 歯の奥に詰めるからー!!!」」

 

「お前ら打ち合わせでもしたのか!?」

 

 否、仲がいいからこその阿吽の呼吸というやつである。

 

 

 

 

 

「冗談じゃないわ」

 

 リアス・グレモリーは怒っていた。それはもう、なまら怒っていた。隣にイッセーを侍らせ、頭を撫でている状態で。

 

「確かに、近々この町で三大勢力のトップ会談が行われるわ。でも、だからと言って堕天使の総督がなんの断りもなしに私の縄張りに無断侵入した挙句に正々堂々と営業妨害をしてただなんて……!」

 

 全身を怒りで震わせながらも、イッセーの頭を優しく撫でる手は止まらない。

 

「しかも私のイッセーにまでちょっかいを出すだなんて、万死に値するわ!!!」

 

「あの。俺も狙われてたんですけど、そこは無視ですか」

 

 撫でられているイッセーとは対照的に、リアスはダイスケに対して何の心配もしていない。

 イッセーは猫のように可愛がられ、ダイスケは部室の隅で突っ立っているあたり、扱いの差が見える。

 

「大丈夫よ。この前の事を見たら、貴方に関してはもう何も心配しなくても良いかなーって」

 

「えぇ……」

 

 他の眷属もイッセーのことを心配してはいたが、ダイスケに関しては誰も心配していなかった。正直泣きたくなった。

 

「ダイスケは心配して欲しかったんだよねー。なんだったらいつもみたく私がぎゅーってしてあげるよ?」

 

「いや、気持ちはうれしいけどさすがにいいわ……。って言うか誤解を招く言い方すんな。いつも勝手にミコトが俺のベットに潜り込んでくるだけじゃねぇか」

 

 そう言ってダイスケは抱きつこうとするミコトを制しているが、それは無視してリアスはイッセーの可愛がりを続ける。

 

「アザゼルは神器に強い関心を示しているというわ。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手を狙って接触してきたのね……。でも大丈夫よイッセー。あなたは絶対にこの私が守ってみせるわ」

 

「でもやっぱ、俺とダイスケにアザゼルが近づいてきたってことは、神器を狙ってきたってことっすよね? ……やっぱり、命に関わる危険があるってことなのかな」

 

 話が進まない現状を流石に変えようとしたイッセーが言う。そのイッセーの不安を聞き、木場が答える。

 

「確かにアザゼルは神器に対する造詣が深いとは聞くね。そして、有能な神器所有者を集めているとも聞く。でも、大丈夫だよ。……僕がイッセーくんを守るからね」

 

 その木場のセリフは、まさにお姫様を守る騎士の様だった。それにしたって男が男に対して使う言葉と視線ではない。

 

「いや、あの……気持ちは嬉しいんだけどさ、それは真顔で男に向かって言う言葉じゃあないぞ……」

 

「真顔で言うさ。君は僕を助けてくれた。大きなリスクを背負ってまで助けてくれた、僕の大切な仲間だ。その仲間の危機を救えないで、グレモリー眷属の騎士は名乗れない」

 

 言いたい事はわかる。だが、この言い方ではは学園に蔓延る腐女子グループからすれば格好のネタにされる。この態度が他の場で表に出なければいいのだが。

 

「きっと禁手に至った僕の神器とイッセー君の赤龍帝の力があれば、どんな困難でも乗り越えられる。……ふふっ、ほんの少し前まで、こんな暑いセリフは吐かなかったんだけどね。キミと付き合っていると自分のキャラクターまで変わってしまう。でも、不思議と嫌じゃあないだ……。キミを見ていると、胸がすごく熱くなってくるんだ」

 

 熱っぽい視線でイッセーに訴える木場。こんなのどこからどう見たってBでLな小説とかゲームのそれだ。

 

「き、木場……お前、キモイぞ……。いや、ちょ! 近づくな!!」

 

 尻をガードするように逃げるイッセー。このままでは一部女子達の噂が現実のものとなってしまう。それだけは避けたい。

 

「そ、そんな……! イッセーくん、僕はただ……!」

 

 まるで愛する女性に避けられたかのような木場の姿に、イッセーもダイスケも口をあんぐりと開けるしかない。美少女が好きな男に縋り付く姿は中々クるものがあるが、それがイケメンとはいえ男子なら話は別。それこそ一部の女子にしか需要はないだろう。

 かつてのクールなイケメン木場くんがどこへやら。人間(悪魔)変われば変わるものだ。

 

「しかし、どうしたものかしら……。堕天使側の動きが見えない以上、迂闊に動くことはできないわ。しかも相手は堕天使の総督。下手な手は打てないし……」

 

 あくまで相手はちょっかいをかけてきただけ。これに過剰反応すれば、三隅の関係を崩すことうけあいだ。そこのところ、リアスは意外と厳しい。

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス」

 

 突如として、この場の誰でもない声がした。その声の出処を全員が見つけた時、そこにはリアスそっくりの紅い長髪をした男がにこやかに立っている。

 イッセーもその顔には見覚えがあったが、誰だったか思い出せない。すると朱乃たちがその場で跪き、ダイスケは会釈し、新人悪魔たちがその様子を見てポカンとなる。

 

「お、お、お、お兄様!?」

 

 その人物が何者なのか気付いたリアスが慌てたように立ち上がる。リアスが「お兄様」と呼ぶ人物はただ一人。現魔王サーゼクス・ルシファーその人だ。

 サーゼクスが現れたとあって、新人悪魔三人が慌てて跪く。

 

「彼は先日のコカビエルのような早まったことはしないよ。悪戯好きではあるけどね。しかし、総督殿は意外と早い到着だったな」

 

 サーゼクスの後ろには銀髪のメイド、グレイフィアが控えている。サーゼクスの女王であるから当然か。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ているのだから。それと、ダイスケ君に用事があってね。と、その前に――」

 

 サーゼクスの視線がミコトへ移る。

 

「倭姫命殿ですね。先日は妹のリアス含め、彼らが貴女のお陰で命拾いをしました。心から礼を言わせて欲しい」

 

 そう言うサーゼクスはミコトに向けて頭を垂れた。

 

「いいよいいよ、ミカちゃんの頼みを聞いた結果だし。特に気にしなくても。それに感謝するのは私の方。お陰で楽しい学園生活送れてるから」

 

「それを聞いただけでも何よりですよ」

 

(ぶ、部長。ミコトさん、あのサーゼクス様相手にいつもの調子を崩さないってすごくないですか?)

 

(お兄様、確か彼女よりも年上な気もするけど……魂の方のモスラって言うのがよっぽど古い存在なのかしら)

 

 悪魔関係者なら誰もが自分の方が下手に出るサーゼクス相手に平常運転のミコトにグレモリー眷属の誰もが内心驚いていた。まぁ、流石にミコトの実年齢には怖いので誰も触れないが。

 

「そういえば俺に用事ってなんです?」

 

 尋ねるダイスケの声に、それまでいつもの温和な表情だったサーゼクスの顔が一転して真剣なものに変わる。

 

「ダイスケ君。君、そこのゼノヴィア君ともう一人いたエクソシストの紫藤イリナ君に結構なことを言っていたみたいだね。」

 

「……確かにそうですけど。――まさか、それが天界の方で問題になっているんですか?」

 

 自分の言っていたことが原因で今回の三大勢力の会談に何か影響が出たのか。そう思ったダイスケは珍しく焦る。

 

「いやいや、ミカエルは一個人の見解にどうこう言うほど心の狭い男ではないよ。だが、問題はそれを盗聴していた連中でね。」

 

「盗聴!?」

 

 一番驚いていたのはゼノヴィアだ。何せあの場でダイスケの罵詈雑言を浴びせかけられた張本人の一人だ。だが、流石に盗聴までは身に覚えがない。

 

「ゼノヴィア君に咎はないよ。悪いのは各エクソシストの思想調査にかこつけ、戦士服に盗聴器を仕込んだ()()さ」

 

「お兄様、()()とは?」

 

 尋ねるリアスにサーゼクスから目配せされたグレイフィアが一冊の資料を手渡す。

 

「『赤イ竹』……ですか?」

 

「ああ、彼らは教会系の原理主義過激思想組織とでもいったほうがいいのか……いや、原理主義など生ぬるい。信仰が暴走したテロリスト集団だよ。赤イ竹の目的は全ての他宗教と科学文明を第三次世界大戦において核の炎で滅却し、自分達の理想とする世界を作り上げることだ。そのためならば、コキュートスに落ちることもいとわない。さらに名前の由来もすごい。赤はストラの色で「火、愛、殉教」、竹は英語の花言葉で「loyalty(忠誠、忠義)・strength(強さ)・steadfastness(不動)」となるその名の意味は――」

 

 

 

 

 

 

 どこかの国の、どこかの街。いや、どこかの辺境にあるかもしれないその施設。そこは大聖堂然とした趣があり、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 これだけの大工事、一体どれほどの人件費を重ねたのか。いや、彼らは工事に人件費など払っていない。全て現地の異教徒を強制労働させ、あげく殺した。彼らからすれば神に祝福されるはずのない異教徒達が、自分達に酷使されることでようやく神の国への扉を開いたという認識なのだ。それが彼ら『赤イ竹』だ。

 その血塗られた大聖堂に多くの構成員が集い、長である「総司令」と呼ばれる人物が現れるのを待っている。そして彼らがそれほど待つことなく、白い頭巾で顔を隠した総司令が眼帯を付けた冷徹そうな男を伴って壇上に上がる。

 総司令が階段を一段一段上がるごとに、構成員達は一列ずつ胸の前に横一文字に手を握った腕を置く独特な敬礼のポーズを取っていく。これは自身を殉教の十字架に見立てる行為だ。

 そして、総司令が眼帯の男と共に壇上に上がる頃には全員がかの敬礼のポーズになっていた。総司令はマイクの前に立ち、同志達に言葉を掛ける。

 

「……諸君、日々の任務ご苦労である。全ては来たるべき全異教徒の滅却の日のため、その殉教の志を捧げて欲しい」

 

 構成員達が敬礼の姿のまま傅く。が、「しかし!」と総司令は声を大にし、全員が再び顔を上げる。

 

「我らの前に、奴は現れた! 我らが信ずる神を愚弄し、あまつさえ悪魔どもを我らと同じ神の使徒と言ったあの男! 宝田大助である!」

 

 総司令の背後のスクリーンに、でかでかとダイスケの顔が投影される。それを見た構成員達の表情は一気に憎しみに満ちたものへと変わった。

 

「しかもさらなる事実が発覚した。奴はあのゴジラをその身に宿した者である! そう、過去に一度我らの宿願を粉みじんに粉砕してくれた、あのゴジラだ!」

 

 その情報は驚きと共に伝播し、大きなどよめきが起きる。

 

()()()()あの場にいた者も、いなかった者もかの革命的怪物のことは知っているであろう! 奴が、再び我らの前に現れたのだ! ……だが恐れることはない。我らはあのときとは違う! 我らの有する力があれば、必ずや奴をコキュートスに落とすことも出来るであろう! その時のために、是非とも力を貸して欲しい!」

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」

 

 大聖堂に響く鬨の声。それはまさに(いくさ)前の空気である。

 

「まずは奴の実力を測る機会を作る。そこで滅せるならそこまでのこと。我らはその機会を待ち、威力偵察を行うこととする。かの組織と連合を組むことによって作戦行動も容易になるだろう。その時、奴の力を見て、諦めを抱いてしまった者は思い出して欲しい。我ら『赤イ竹』の名の意味を!」

 

 そして構成員達は声をそろえて大合唱する。

 

「「「「「「『殉教の忠誠』、『忠義の核の火』、そして――『不動の殉教』!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「……『殉教の忠誠』、『忠義の核の火』、そして――『不動の殉教』さ。中には神器所有者もいるという情報もある」

 

「そんな……そんな連中聞いた覚えが……」

 

 身内にそのような者たちがいたことにショックを受けるゼノヴィア。だが、サーゼクスの情報はこれでは終わらない。

 

「無理もない。なにせ枢機卿にも構成員がいると言うことだ。教会内部に巣くわれては天界だって察知するのは難しい」

 

「ですがお兄様、なぜそんな連中がダイスケを……まさか、あのときのダイスケの言葉を盗聴して!?」

 

「その通り。彼らはダイスケ君をDEAD限定の指名手配として、さらにその家族も対象にしてきた。金額は米国ドルで1億、だったかな。まあ、その大きすぎる金額が動いたことで容易に察知できたのだがね」

 

 その言葉を聞いた途端、ダイスケは近くの壁を殴った。当然、壁は抜けて隣の部屋が丸見えになっている。

 

「だがご家族の方は安心してくれて良い。グレモリーの本城で匿うことになった。悪魔の拠点の冥界、それも公爵家の城にいられては流石に彼らだって手は出せない。お父様の方には現在の職を辞していただいて、こちらの方で人間界の文化を教えていただく教師をして貰うことになった」

 

「すいません、俺のせいで……」

 

「確かに無警戒ではあった。だが、個人の意見を言えない世の中は不幸な世界だ。それを強いる彼ら赤イ竹が悪い。当然、天界は天界で動くだろうが私も弟同然の君を守るために手は尽くす。君は気にせず日常を生きてくれて良い」

 

「タダでさえ迷惑掛けてるのに……本当にすいません!」

 

 ダイスケは頭を床にぶつける勢いで頭を下げて謝る。しかし、サーゼクスはそれを制するようにいう。

 

「そういうときは「ありがとうございます」の方が嬉しいかな。なに、これでも魔王だ。人間に支えられて生きている分、せめてこれくらいのことを出来ねば。では、せっかく全員そろっているのだから、コカビエル襲撃の際の詳しい状況を直に聞いておこうか。会談の時の報告のリハーサルだと思ってくれ」

 

 そうしてその場はコカビエル来襲時の詳しい状況説明の場と変わったが、ただ一人、ダイスケは己の迂闊さと『赤イ竹』という組織に対する怒りを一人燃やしていたのだった。

 

 

 

 

 

「あーあ……せっかくの藻が繁殖した水が……塩素も抜けきってたのに……水を供給すれば酸素だって……」

 

 今日は休日であったが、グレモリー眷属とプラスアルファは登校していた。プール清掃のためである。

 リアスが生徒会からプールの先行独占使用を条件に請け負った仕事だったが、ダイスケ一人が渋々やっていた。ダイスケ本人としては藻が繁殖したプールを釣り堀に変える計画を生徒会に進言するつもりだったのである。

 それが目の前で水が抜かれ、自分の手で藻をこそぎ落とさせられた。それがダイスケにはとても辛かったのである。

 

「まぁまぁ、魚持ってくるのも維持するのもお金かかるんだから、諦めよ?」

 

「うぐぅ、俺の野望……」

 

 皆がプールではしゃぐ中、ダイスケはプールサイドで体育座りでイジけ、ミコトがそれをなだめている。

 他の者たちはプールサイドにイスを置いて日光浴したり、思い思いのコースで泳いだり、小猫とアーシアはイッセーに見て貰って泳ぎの練習をしたりしている。

 

「そんなことより泳ごう! せっかく着替えたんだもん」

 

 そう言うミコトはパレオの可愛らしい水着だ。プールで泳ぐと聞いて先日急いで買ったばかりの新品である。

 

「ねぇねぇ、良いでしょ、この水着。授業じゃ使えないけど」

 

「……うん、いいんじゃない? かわいい」

 

 その適当なダイスケの返事にミコトは頬を膨らませ不機嫌になった。

 

「ふーん……えい!」

 

「へ? は? どぅわ!!!」

 

 突然ミコトはダイスケを引っ張ってもろとも水中へ。しかもよりにもよって落ちたのが学校のプールの最も深い箇所。

 驚いたダイスケは溺れかけるが違和感を感じる。

 

(あれ、なんか……去年プールに入ったときより水中で動きやすい?)

 

 本来人間は陸上の生き物だ。突然ハプニングで水に入れば自然と呼吸するために顔を水上に出そうとするが、自然と落ち着いてまず体勢を整えようとするのが今のダイスケだ。

 しかも元から水の中で生きる生き物であるかのように、全く水中にいることに対する恐怖が湧いてこない。むしろ安心するくらいだ。そしてゆっくりとダイスケとミコトは浮上する。

 

「ぷはっ……ミコト、お前なにした?」

 

「なにもしてないよ? ダイスケの魂が、つまりゴジラが本来生きていたところが水の中だったってだけ。わたしも泳ぐのは得意なんだよ」

 

 と言うことは、先程の感覚は魂に刻まれたゴジラの水の中にいたときの感覚と言うことだ。それがダイスケにはとても心地よいことに感じたのである。

 

「釣りするのも良いけど、水の中は泳ぐのも気持ちいいんだよ。だから、今はみんなと一緒に楽しもっ」

 

「わーったよ。迎合すりゃいいんだろ?」

 

 もはや諦めたダイスケは、そのままミコトと一緒に皆の輪の中に入っていって思いっきり楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

「いやー、泳いだ泳いだ。そういやイッセー、お前ゼノヴィアと途中抜けてたけどなにしてた?」

 

「え? いや、うん。特になにも?」

 

「……ふーん。まぁいいや。なぁ、コンビニ寄ってアイスでも買わないか?」

 

「いいね。僕も行こうかな」

 

「……泳いだ後はアイス、これは鉄板です」

 

 そんなことを言い合いながら、生徒会への報告書作成のために残ったリアスと朱乃を除いた一同は校門を出ようとする。その時、彼らの背後で突如声が聞こえた。

 

「運動後の糖分、塩分、タンパク質の摂取にはラーメンが良いぞ。プールで冷えた体も温まる。まぁ、ラーメン味アイスが出るのなら俺はそれでも良いが」

 

 不意に聞こえたその声に、一同が振り向く。そこには白髪の一人の少年がいた。しかし、問題は誰も彼が背後にいたことに気がつけなかったことだ。ダイスケですらその存在に気付くことが出来なかったのである。

 ただ、一人だけは例外であった。ミコトである。

 

「あ、ヴァーくんだ。この間ぶりだね」

 

「なんだ、赤龍帝の方は気付いてくれなかったか。彼女の言うとおり、俺は白龍皇。名はヴァーリという」

 

 本人の名と宿す神器の名を聞いたとき、イッセーの中で生まれた意識が赤龍帝の籠手に伝わる。その感覚が蓄積された因縁を刺激して痛痒感を伴って左腕が反応していた。

 あれだけ手も足も出なかったコカビエルを、ダイスケとヒメが既にある程度のダメージを与えていたとはいえ反撃する機会も与えぬままに秒殺した男である。そんな男が目の前にいるという事実に場の緊張の度が高まるが、ミコトは落ち着き払っている。

 

「今日はどうしたの? あ、ダイスケと喧嘩するならだめだよ。これから一緒に帰るんだもん」

 

「ふむ、それはそれで面白そうだが、今日は俺の将来のライバル君の様子を見に来ただけさ。だから別にみんなそこまで緊張しなくていい」

 

 本人はそう言うが、とてもとても信じられたものではない。

 

「だけどふいに気が変わって赤龍帝の彼に何かするかもしれない。たとえばここで呪いの一つでもかけてみたり――」

 

 そう言いながらヴァーリは人差し指をイッセーに向けるが、ほんの一瞬のうちに木場とゼノヴィアに剣で制止させられた。その喉元に向けられた刃からは凄まじい剣気が放たれている。

 

「何をするつもりかわからないけど、流石にこれは冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

「ここで赤龍帝との決戦を始めさせるつもりなら全力で止めさせてもらうぞ、白龍皇」

 

 怒気を含む木場とゼノヴィアの声。だが、ここまでの殺気を向けられてもヴァーリは平然としていた。

 

「やめておけよ。震えているじゃあないか」

 

 言うとおりだった。

 二人の剣は、目の前の強者を相手取ることへの恐怖とプレッシャーで細かく震えていたのだ。

 

「いや、震えているからと言って恥じることはない。それは君もだよ、赤龍帝。自分より各上の相手に恐怖を抱けるのは今の己を知っている証拠。そういう者こそ強くなれる。もっとも、コカビエルごときに手を焼いた今の君たちじゃあ俺には勝てない。でも――」

 

 ヴァーリが視線を移した先にはダイスケとミコトがいる。

 

「怖いのは君達みたいに何かわからない存在ををその身に宿す者ものだ。君らも知ってる桐生義人とも軽く手合わせしてみたが底が知れない。今やり合えば俺は勝てはするだろう。だが、その代わりのもっと恐ろしいナニカが顕現しそうだ」

 

 恐らくヴァーリは何らかの情報を持っているということだろう。だが、たとえそれがダイスケ本人が一番欲する類いのモノであってもこの場では教えてはくれなさそうだ。

 

「だとしても、だ。それでもまだまだこの世界の強者には届かない。あのサーゼクス・ルシファーだって十本の指には入らないんだから面白い。だが、それでも頂点に立つ者はいる。不動の存在が」

 

「―――まさか自分だっていうんじゃないよな?」

 

 イッセーの問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「まさか。そこまで俺は傲慢じゃないさ。いずれわかることだ……リアス・グレモリー、彼らは貴重な存在だ。時が来るのに備えて十分に育ておくといい」

 

 そのヴァーリの言葉の向かう先には、その存在を察知して文字通り飛んできたリアスの姿があった。そして、どうしていいかわからずに狼狽しているアーシアを除いた全員が臨戦態勢をとっている。

 

「白龍皇、どういうつもり? 堕天使とつながっている以上、これ以上の接触は――」

 

「『二天龍』に関わったものはみんなろくな生き方をできていない。――貴女はどうなるんだろな」

 

「―――っ」

 

 何もかも見透かしたかのようなヴァーリの言葉に、リアスは息を詰まらせる。

 

「だが、覚悟は固めておくといい。赤龍帝共々、みんな力を蓄えておけ。……退屈しのぎにここへきていただけだったが、君達に会ってみることができて良かったよ。」

 

 そう言いたい事全てを言い尽くすと、ヴァーリは踵を返してこの場を立ち去って行った。姿が見えなくなるまで誰も張りつめた糸を緩ませることはできなかった。それどころか、胸に去来する大きな不安を皆が隠しきれていない。

 忌諱したい大きすぎる濁流の中に、放り込まれた気がした。

 




 はい、というわけでVS22でした。
 やっと出せました、グレンさん原案の敵組織「赤イ竹」。こんな登場でよかったですかね?
 あと再開したからといって以前のペースは期待しないでください。各キャラ設定の修正や再構築、文章の修正に差し込みとやることが一杯なので。味方がごっそり減ったのと、敵方の事情が大分変わってきています。特にキングギドラ持ちの奴の行動原理が変わっていたり。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 

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