ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 もうすぐ2019年が終わろうとしています。この投稿後、私は近所の寺に除夜の鐘つきに行く予定です。
 あ、あと活動報告で書いた問題は解決しました。結局1/60のエクシアを買いました。


VS23  授業参観でテンションが上がるのは小学校低学年まで

 高校生が最も嫌がる学校行事とはなんだろうか。

 まず挙がるのはテストだろう。ただでさえ自分が試されるという緊張感があるのに、それに加えて積み重ねを考慮すれば将来の人生設計にも関わってくる。これほど恐ろしい学校行事はないはずだ。

 だがそれとは別のアプローチで少年少女の心を抉ってくる行事と言えば……授業参観である。

 誰しも「家での自分」「学校での自分」とを分けており、それぞれの場に合わせたキャラクターで生活している。だが授業参観はそんなオフィシャルとパーソナルの境界線をたやすく破壊してくる。普段学校で悪ぶっている奴が母親に「たーくん」何て呼ばれているところを見かけられたら赤っ恥もいいところだ。

 そして教室内ではどの生徒もこれから親がやってくる、ということで嫌そうな顔をしていた。だが、皆の心持ちが重いのはそれだけではない。この駒王学園の授業参観には中等部の学生が授業の見学にも来れる。さらにその保護者も見学可能な、いわば「公開授業」なのだ。

 未来の後輩の目の前で誰も恥をかきたくないので、皆が余計な緊張をしてしまうのも無理はなかった。ところが、今日のダイスケたちの公開授業である科目の英語はいつもとどこか違っていた。

 

(なんなんだ、この授業……)

 

 思わずダイスケは心中で疑問を吐露する。何せ目の前にあるのは英語の教科書と辞書ではなく、一塊の紙粘土。小学生の図画工作でもないというのになぜ高校生である彼らの机上に粘土があるのか。

 それはすべてはこの英語教師の言葉から始まった。

 

「いいですかー、先ほど皆さんに配った紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でも、人でも、何でも構いません。今、皆さんの脳裏にあるものを自由に粘土で表現してください。そういう英語もあります」

 

(((いや、どこの星にもそんな英語は無ェよ!!!!)))

 

 ほぼすべての生徒の心の声である。だが保護者や中等部の生徒たちの目の前である手前、誰もそんな突込みはできない。

 

「レッツトライ!!」

 

 サムズアップを決めて授業開始を宣言する教師。これが普通の授業時間で行われていたら総員から紙粘土の飛礫を受けているであろう。しかし、面目上おとなしく目の前の紙粘土をいじるしかない。授業参観という特別な状況である以上に単位がかかっている。理不尽ながらも数人ずつ紙粘土に手を出していく。

 

「なかなか難しいです……」

 

 そんな中、率先して紙粘土をいじっているのはアーシアだ。根が真面目で天然な所があるためか、こんな目的不明の授業内容にも真摯に向きあっている。その直向きさには半保護者のイッセーのみならず誰もが心の中で感涙を流す。

 

「アーシアちゃーん、頑張ってー!」

 

「アーシアちゃーん、かわいいぞー!!」

 

 微妙な空気の中でアーシアに声援を送り、自分達の息子をスルーしてデジカムを回すのはイッセーの両親だ。その両親の行動にショックを抱きつつ、イッセーも紙粘土に向き合う。

 ついに全員が観念して紙粘土をいじり始めるが、ただ一人ダイスケは手を付けられずにいた。

 

(いやいやいやいや、みんな手ェ動かしてるけど、いきなりやれって言われても何も思いつかねぇぞ!)

 

 目の前にいきなりビートた○しが出てきて「皆さんには殺し合いをしてもらいます」と言われても何もできないのと同じ理屈だ。さらに単位がかかっているというプレッシャーのせいで余計に手が震えていて使い物にならない。普段釣りの糸結びやプラモデル作りで手先の器用さに自信はあった分余計に焦りが生じる。

 しかしダイスケが手を出せずにいる中、ある一人の作品が完成する。

 

「こ、これは……!」

 

 課題を突き付けた張本人ですら言葉を呑んだそれは、イッセーが無意識の内に作り出したリアスの裸体像であった。

 普段見ているということもあるが、女体に対する飽くなき欲求がこの作者本人も驚くほどの完成度を誇るまさに芸術品といっていい偶像が完成させたのだ。

 

「す、すげぇ……3000出す! 俺に売ってくれ兵頭!!」

 

「いや、俺は4500出すぞ!!」

 

「そ、そんな……噂通りエロ兵頭がリアスお姉様と……私は8000出すわ!!!」

 

 すぐさまその場がオークション会場に成り果てる。それほどイッセーが作ったリアス像の完成度は凄まじかったのだ。まぁ、現実の方のフィギュアもこれくらいの完成度があればいいのにと思ってしまうほどの出来だから仕方がない。

 

「す、素晴らしい! 私のみ込んだとおりだった!!」

 

 そして英語教諭は自分の担当科目を完全に忘却の彼方にすっ飛ばして感激している。だが、騒ぎはそこで終わりではなかった。

 

「ふっふっふっ、イッセーくん。これを見てもその余裕を保ち続けることが出来るかな!?」

 

 授業中にもかかわらず(すでにオークション騒ぎで授業の体を成していないが)ミコトが仁王立ちでイッセーに宣戦布告する。

 

「さぁ、どうだ! これがわたしの魂の形!!」

 

 そう言って彼女が天高く持ち上げたのは本物かと見まがうほどの1/6ダイスケ像であった。だがやはりただの姿を模した像では無い。イッセーのリアス像と同じく生まれたままの姿だったのだ。だがそこには裸であるといういやらしさは全く無い、さながらミケランジェロのダビデ像のようであった。

 普段から彼女のダイスケへのラブコールを聞いていたクラスメイト達だが、さすがにこれにはドン引きした……かと思ったが、女子たちは興味津々のようであった。

 

「え、嘘……ミコトさんってそこまで行ってたの!?」

 

「っていうかこの大きさ……」

 

「いや、さすがにこれはミコトの幻想入ってるわよ。私の見立てではこれくらいね」

 

 男女関係に興味津々の者、股間に存在するモノの大きさに目を奪われる者、そして紙粘土で約原寸大のブツを作る桐生とそれぞれの反応を見せる。

 

「えー、いつも抱きついているときはこんな感じだよ?」

 

「いやいや、それは勃○してるんだって。平常サイズじゃないと、こういう像は」

 

「そうかなぁ、前にお風呂に突撃したときこれくらいだったけどなぁ」

 

「ミコト、思春期の男の戦闘態勢への移行スピードなめない方が良いよ。ちょっとした興奮材料ですぐ戦闘態勢になるもんだから」

 

 ダイスケのナニのサイズを巡ってミコトと桐生が論争をおっぱじめる。

 だが、係争の中心にいるはずのダイスケは取り残されて焦っていた。まだ何も出来ていないのである。

 

(クソッ!! このままじゃ単位が……!)

 

 間接的に自分の裸を曝されているにもかかわらず、彼の関心事はその一点のみである。普段だったらミコトの作品を即座に叩き潰しにいくつところだが、そんな余裕すら今のダイスケには無いのだ。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 自分の作り上げたいものを形にできた彼女たちと何もできない自分。その差はただ単に対象への想いの強さだ。強く思えるからこそ、無意識に手が動いたのだ。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 強く思い描けるもの、それは今のダイスケの心の中には無い。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 

(いや、まてよ……!)

 

 ふと脳裏によぎったのはある知識。やはり英語の授業に何の関係もないが。

 それは彫刻の技術によって仏像を作り上げる仏師。彼らは材料であるその木を見て、どのような仏像を彫る検討をすることはないのだという。木を見て感じた仏の形を木に彫り込むのだという。材料は違うが石工も石の声を聴いて感じた形を彫り込むのだそうだ。つまり、物体そのものに宿る“仏性”を引き出していくのだ。

 当然ながらダイスケにそんな器用なことはできない。だが、感じた何かを紙粘土に投影していくことはできるはずだ。そう自分を信じ、身を瞑ってダイスケは紙粘土を手に取る。

 すると、「声」が聞こえてきた。

 

―――怪獣映画を創ろうと思うですよ。原水爆によって蘇った、太古の恐竜が暴れるっていう。

 

―――やりましょう。私も原水爆には反対です。でも、怪獣は大蛸にしませんか?

 

 全く知らない男たちの声だ。だが、なぜか彼らが何者なのかダイスケにはどこか心の奥で理解できていた。

 

―――あれ、あなたは映画監督だったんですか? 月形さんの知り合いだから映画業界の人だと思ってたんですが。

 

―――ええ、そうなんですよ。でも、まさか今までタダ酒を飲ませてもらった人と映画を撮るとは。頑張りましょう、大蛸の映画。

 

―――大きい爬虫類でしょう?だからやるって言ったんですよ、私。

 

 ダイスケは目を瞑りながらも、紙粘土の向こうから聞こえてくる声に耳を傾けながら手を動かす。

 

―――名前は……『ゴジラ』でどうでしょう。陸で最も力強いゴリラ、海で最も力強いクジラを合わせたってことで。

 

―――ゴジラ……いいじゃないか。とても強そうだ。

 

―――よし、大蛸の名前は『ゴジラ』でいこう!

 

―――爬虫類ですよ?

 

 聞こえてくる声に従い、感じたままに手を動かしていくことで紙粘土が形を得ていくのが見なくてもわかる。

 

―――こんなのはどうだろう。頭の形をきのこ雲に似せるんだ。

 

―――モデルはティラノサウルスがいいな。ここに背びれを付けるとそれっぽくならないか?

 

―――私はやっぱり蛸がいいな。

 

―――これで決定だって製作会議で決まりましたよね?

 

―――……ゴジラ、これで完成です。さあ、次は着ぐるみだ!

 

 はっ、となってダイスケは目を開く。すると目の前には、無意識の内に自身の手が作り上げたゴジラの像が完成していた。

 

「……これが俺の、心の中で生まれた形」

 

 教師の言葉が正しいのであれば、きっとそうなのだろう。イッセーがリアスの像を作り上げたように、自身がその身に宿す怪獣の王の姿が最もダイスケの心の中を占めるものなのだ。

 

「ダイスケくん、それは……?」

 

 教師が興味深そうにダイスケが造った像をまじまじと見つめる。

 

「こ、これは……まるで恐竜を思わせる生物だが、この直立した姿から察するにそうではない。しかし、獣でありながら人間にも似た姿は見た人にある種の不気味の谷にも似た印象を与え、間違いなくこれを恐怖の対象としてみるだろう。それでいて信仰の対象になるような自然の畏敬と雄大さを兼ね備え、ドラゴンや龍といった幻想生物とは異なる現実味を与える……素晴らしい! これはまさに破壊と神性の象徴! ダイスケ君、特別単位をあげましょう!!」

 

「よ、よっしゃぁぁぁぁ! なんかよくわかんないけど単位取れたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ……なにやってんだこいつら。

 

 

 

 

 

 

 昼休み時間の廊下に起こる大量のフラッシュとシャッター音。廊下の一角に人だかりが出来、完全に通行の邪魔となっている。さながら人間がモデルになった動脈硬化の図のようだ。

 だれも好き好んでこんなに人口密度が高いところに来たくはないが、オカ研一行はこの場にいた。理由は、自販機に飲み物を買いに行ったイッセー、アーシア、ダイスケが偶々自販機の前でリアスと朱乃に出会ったところから始まる。

 そこへこれまた偶然、木場が通りかかった。

 

「あら、祐斗。あなたもお茶?」

 

 リアスが尋ねると、木場が廊下の先を指さした。

 

「いえ、魔女っ子が撮影会をしていると聞いたので気になって」

 

 撮影会? 魔女っ子?

 およそ学園生活に似つかわしくない単語の羅列に全員がポカンとなった。さすがに気なってきてみればこの有様。先頭にいるイッセーとダイスケは思わず顔をしかめる。

 

「おいおい、なんでうちの学校内にこんなにカメラ小僧がいるんだよ」

 

「まるで夏と冬の祭りの風景みたいだな……」

 

 カメラを持った男どもの熱気で、気のせいかこの廊下の一角だけ湿度が高いような気がする。下手したら上空に熱気で雲ができているのではないだろうか。晴海時代のように。

 人込みをかき分けた先に、イッセーとダイスケにとって見覚えのある格好が飛び込んでくる。深夜に放送している、ミルたん絶賛のアニメ『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』の主人公のコスプレをしている美少女だ。

 彼らが普段見ているのはイッセーのお得意様、心は乙女、肉体は世紀末覇王のミルたんのコスプレ姿だった。いつもは鍛え上げられた圧倒的密度の筋肉美を彩る薬味にしか見えなかったその衣装も、美少女が着ることでここまで印象が違ってくるものなのかとダイスケは思う。

 カメラ小僧となった生徒たちに囲まれ、要求を受けるままに次々とポーズを変えていくコスプレ魔女っ子。その度にフリフリのスカートが翻り、白い聖域が見え隠れ。ついついもっと見えないかと凝視してしまう。

 人垣をくぐり抜けてきたリアスがイッセーの隣に到着。

 

「イッセー、どうな……ブッ!!」

 

 普段のリアスからは想像も出来ないリアクション。その様子を見たイッセーは驚きを隠せない。

 

「おうおうおう! 天下の往来で撮影会たぁ、いい度胸じゃあねえか!!」

 

 狼狽するリアスをよそに、匙が生徒会役員としての責務を果たすべくやってくる。

 

「今日は中等部から授業見学に来ている生徒もいるんだ! ほら、公開授業の迷惑になるから散った散った!!」

 

 他の生徒会員にも促され、カメラ小僧たちが解散していく。イッセーが匙の仕事っぷりに関心しているうちに、いつの間にやらその場にはオカ研メンバーと匙たち生徒会員、そして件の魔女っ子が残された。

 

「はい、あんたもとっとと帰る……ってもしかして父兄の人? それにしてもTPOを弁えてくださいよ。勝手に学園内をコスプレ会場にされたら困りますよ」

 

「えー、だってだって、これが私の正装なんだもん☆」

 

 匙の注意にもコスプレ少女は可愛らしいポーズで聞く耳持たず。その聞き分けのなさに匙もさすがに苛立つ。すると、匙はその場にいるリアスの存在に気づく。

 

「あ、リアス先輩。ちょうど良かった。只今魔王様と先輩のお父上様に学園のご案内をさせていただいていたところでして」

 

 匙が振り返った先には、ソーナに先導されたそれらしき赤髪の男性2名。

 

「どうしました? サジ、問題は迅速に解決なさいといつも……」

 

 ソーナの視線がふとコスプレ魔女っ子に行ったとき、言葉が止まる。その表情は、まるでインキーしたと知った某北海道のテレビ局のディレクターのように口をあんぐりとあけたものになった。

 

「わーい☆ ソーナちゃんみーつけた☆」

 

 周りを気にせずにソーナに抱きつくコスプレミルキー。

 

「あれ? なんか似てね……?」

 

 イッセーの言う通り、二人の顔立ちはよく似ていた。片方は厳格な顔立ちで、もう片方は快活そうなので一瞬わかりにくいが確かに似ているとダイスケも思った。

 そこへいつの間にやらそばに来ていたサーゼクスがミルキーに声をかけた。

 

「やあ、セラフォルー。君も来ていたのか」

 

「うん! 妹のためならいつでもどこでも駆けつけるよサーゼクスちゃん☆」

 

 ……はい?

 一瞬、ダイスケ、イッセー、匙の思考がシンクロした。サーゼクスにタメ口+魔王の妹であるソーナが妹の公式から出る答えは唯一つ。だが、心のどこかで「そんなわけない」と思っている。

 だって、おかしいもの。

 コスプレ少女じゃん。

 威厳もクソもないよ?

 そう思う三人に、リアスは残酷な現実を告げる。

 

「……信じられないでしょうけど、このお方がソーナの姉君、そして魔王のお一人でいらっしゃるセラフォルー・レヴィアタン様よ」

 

「「「……え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!???」」」

 

 三人の絶叫が廊下に木霊する。

 なにせ、三人の予想とは全くかけ離れていた、というか予想の斜め上すぎた姿だったのだ。無理もない。女の魔王といえば、一般的なイメージならフェロモン漂う官能的かつ妖艶な美女を思い描くだろう。

 だが、現実はコスプレ美少女。確かに美人であることには変わらないが、イメージとのギャップがありすぎる。もうちょっと大衆の持つイメージも大切にして欲しいものだ。

 

「……セラフォルー様、お久しゅうございます」

 

「あーリアスちゃん☆ おっひさー☆ 元気にしてた?」

 

 可愛らしい声で返事をするセラフォルー。やはりこのキャラのままでいくのか。

 

「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」

 

 困惑しながらも答えるリアスだが、当の本人はそんなこと気にもとめない。

 

「うん☆でもね、ソーナちゃんったらひどいのよ? 今日の事ずーと黙ってたんだから! お姉ちゃん、ショックのあまりに天界あたりにでも攻め込もうとしちゃったんだから☆」

 

「いや、そりゃ黙ってるだろ。こんな姉が相手じゃ……」

 

「ダイスケ、シッ!!」

 

 ダイスケの言葉は正論だが、個人的理由で天界に喧嘩を売ろうという人物が相手だ。リアスがすぐさま口止めする。

 

「ん? そこの彼、なんか言った?」

 

「いえ、なにも!!!」

 

 慌ててフォローを入れるリアス。こんなところでシスコン発揮された上で戦闘でもおっぱじめようものならたまったものではない。

 

「ゴホン! ……イッセー、新人悪魔なのだからご挨拶なさい」

 

 そのリアスの言葉で放心状態から回復したイッセーは慌てて自己紹介をする。

 

「は、はい! お初にお目にかかります! リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)をさせていただいています、兵藤一誠です! よろしくお願いします!!」

 

「はじめまして☆ 私、魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ 気軽に『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

(い、言えねぇぇぇぇえええええ!!!! 言えるわけねぇぇぇぇえええええ!!!)

 

 イッセー心の叫びである。一下僕悪魔が魔王相手にちゃん付けで呼ぶなど時代が時代なら不敬罪だ。

 

「ねぇねぇ、サーゼクスちゃん。ひょっとして彼が噂のドライグちゃん?」

 

「そう、彼が赤龍帝を宿す者、兵藤一誠君だ。そして、その隣にいる彼が……」

 

「ああ、今評議会ですったもんだの大騒ぎ、古い悪魔のおじさまたちがどーするこーするって大騒ぎしてる子かぁ」

 

 セラフォルー自身に悪気はないのだろうが、その言葉がダイスケの胸に刺さる。

 

「あ、あの、サーゼクスさん。俺の立場、そんなにマズいことになってるんですか? ただでさえ命狙われてるのに?」

 

「まぁね。ただ君に宿る者を知っているのはどうも大王といった古参の悪魔ぐらいの者でね。私たちの世代になると知らない者も多い。父上も又聞きでしかゴジラの名を聞いていないそうだからね」

 

 苦笑いするサーゼクスだが、正直笑えない。各神話にはそれこそ一撃で世界を滅ばせる力を持つ者もいる。下手をしたらそんな連中に知らないところでコカビエルのように恨みを買っているかもしれないのだ。

 

「だが、安心したまえ。少なくとも私が魔王の座にいる内は、君を全力で守らせてもらう」

 

 不安に思っていたダイスケだが、サーゼクスは真剣な顔でハッキリとそう言った。

 

「……不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 

「サーゼクス様。ダイスケの立場ってそんなに危ういものなんですか?」

 

 イッセーがサーゼクスに問うと、少し苦々しい顔をする。

 

「ああ。と言っても彼自身にはの咎もない。それなのに彼を恐れたり恨むというのなら理不尽というものだろう」

 

「そして、そのような理不尽から若人を守るのは我々大人の努めだ。いつでも頼ってくれたまえ」

 

 そう言って身を乗り出してきたのは見覚えのある赤髪のナイスミドル。ジオティクスだ。

 

「ぶ、部長のお父さん!?」

 

 そういえば、イッセーにとって顔を見たのは前に会ったのは婚約披露パーティをぶち壊した時にチラリと見た程度。挨拶も出来ていなかった。そしてイッセーにとってはあの時最も迷惑をかけてしまった人の一人だ。

 

「あ、あ、あの! あの時は本当にすいませんでした!!」

 

「いやいや、謝ることはない。君達のおかげで私たちは過ちを犯さずに済んだ。礼を言うのはこちらの方さ」

 

 どうやらそこのあたりのことは心配しなくても良さそうだ。イッセーはほっと胸を撫で下ろす。今度はダイスケがジオティクスに話す番だ。

 

「ジオティクスさん、このたびの両親の件、本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいか……」

 

「気にしないでくれたまえ。何の咎もない人々を守ろうとするのは当然のこと。それに、君には娘やその眷属が世話になっている。イーブンだと考えてくれ」

 

 だが、そんなわりかし真剣な話をしている横で、しょうもない争いが起きていた。

 

「ねえ、ソーナちゃんどうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくのお姉さまとの再会なのだから、もっともっと喜んで☆ なんなら「お姉さま!」「ソーたん!」って抱き合いながらの百合ん百合んな展開でもいいのよ、お姉ちゃんは!!」

 

「お、お姉さま。ここは学び舎であり、私はここの生徒会長を任せられているのです。いくらお姉様でもこのような行動と格好は容認できるものではないかと……」

 

「えー!! ひどい! ひどいわソーナちゃん! あなたにそんなこと言われたらお姉ちゃん悲しい! それに、お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーちゃんも知ってるじゃない! 私のリリカルでマジカルな魔法で天使も堕天使も滅殺しちゃうんだから☆」

 

 語尾に☆を付けるような内容ではない。その様子を見ていたイッセーがあることに気づく。

 

「な、なあ、匙。この前コカビエルが襲来してきたときに会長はセラフォルー様を呼ぼうとはしてなかったけど……仲が悪いからってわけじゃないんだな」

 

「ああ、その逆だ。聞いた話だと、セラフォルー様は妹である会長を溺愛しすぎているから、何しでかすかわかんないってさ。自分の妹が堕天使に殺されるってわかったら、即戦争だよ。あの時はサーゼクス様を呼んで大正解だったんだよ」

 

「外交担当の魔王がそれでいいのかよ。私情で戦争勃発とか最悪じゃねぇか」

 

 ダイスケの言葉にサーゼクスも苦笑するが、まだまだ姉妹の諍いは止まらない。

 そしてついに、ソーナがたまらなくなってきてしまった。

 

「も、もう、耐えられません!!」

 

 顔を俯かせて、ソーナはその場から逃走する。

 

「あ! 待って! ソーナちゃ「待て」――ぐぇ!」

 

 セラフォルーはソーナを追いかけようとするが、ダイスケがその首を即座に掴んで引き止める。

 

「げほっげほっ! な、何するの!? ソーナちゃんを追いかけなきゃならないのに!!」

 

 セラフォルーは先ほどまでの表情から一転、真剣な顔つきでダイスケを睨む。

 

「気持ちはわかるけど、今はそっとしておいてあげなさいよ。そんなんだから避けられるんだって」

 

「避けられてないもん!!」

 

「どう見たって避けられてるだろ。過度なスキンシップは距離を離すだけだぞ」

 

 ダイスケのその言葉でリアスは一瞬ビクッとなる。

 

「い、イッセー? ひょっとして、私の今までのスキンシップは迷惑だったかしら……?」

 

「いえ!! 常に感謝感激の極みです!!!」

 

 イッセーの間髪いれない答えに、ホッと胸をなでおろすリアスだが、ダイスケとセラフォルーの争いはヒートアップし続ける。

 

「君には私がどれだけソーちゃんのことを愛しているのかわからないわよ!! 私たちのことを知りもしないくせに!!」

 

「ああ、知らないね!! だけど、会長のことも考えろよ!? 思春期なら誰だって知り合いの目の前で家族に抱きつかれたくないわ!! 大体、その格好なんだよ? それで魔法少女になったつもりか? 俺から言わせればまだまだだね!!」

 

「はぁぁぁあああ!? 君が、私の魔法少女道を語るの!? 魔法少女のまの字も知らなさそうなのに!?」

 

 方向性がおかしくなってきているが、頭に血が行っている二人が気がつくはずもない。そのままさらにヒートアップしていく。

 

「俺の知り合いに見た目は世紀末覇王の魔法少女がいるけどな、あっちの方がよっぽどお前より魔法少女になんたるかがわかってたわ!!」

 

「な、なんですって!? なんでそんな世紀末覇王より私の方が下なのよ!?」

 

 ああ、ミルたんのことか、とイッセーは思い当たる。だが、あの筋肉ダルマといっていいあの人物にセラフォルー以上の魔法少女らしさがあっただろうか?精々その衣装と言動だけだ。

 

「教えてやるよ。あんたのそのスカートだ!」

 

「なっ! このフリフリのスカートのどこがいけないって言うのよ!」

 

 セラフォルーの言う通り、ひらひらのスカートのどこがいけないのだろうか、とイッセーは思う。むしろ、ミルたんの方にこそスカートを履くのをやめてほしいくらいである。

 

「あんたのそのスカートなぁ……中が見えちゃうんだよ!! 魔法少女は絶対に……パンチラはしない!!!」

 

 その一言で、まるでマンガのように『ガーン!!』とショックを受けるセラフォルー。

 言われてみれば、魔法少女アニメは低学年の女の子が観るもの。思いつくどの作品も、そこのあたりを意識してパンチラシーンは作られていないはずだ。やったとしても深夜枠のアニメくらいなものだ。そして、あのミルたんもイッセーの記憶の限りでは一度もパンチラをしたことがなかった。……されても困るが。

 

「そ、そんな……! そんな大事なことに気付けなかった私って……。これじゃあ、ソーナちゃんに合わす顔がないわ……」

 

 だったら、そこ格好をやめろよと言いたいが後が怖いので誰も言えない。

 

「いや……それに気付けたんなら、それだけで上等さ……」

 

 崩れ落ちるセラフォルーの肩に手を置くダイスケ。なんで、こんないい話風に持っていこうとするのか、当事者を除くその場にいた全員が思ったが雰囲気的に誰も指摘できない。

 

「ほら、このメモにそのミルたんの住所が書いてあるからいろいろ教えてもらいに行ってきな。会長とも、時間を空けてから会ったほうがいい」

 

 スッと手渡されたメモ書きを見て、セラフォルーの表情は明るくなる。

 

「ありがとう! 私行ってくる!!」

 

 言うが早いか、すぐさまセラフォルーはその場から立ち去った。

 

「ふう……これで面倒なのはいなくなったな。匙、会長のところに行ってフォローしてやってくれ」

 

「お前、まさかこのためにセラフォルー様に喧嘩売ったのか……?」

 

 あたぼうよ、と答えるダイスケにイッセーは驚愕する。

 下手したら、魔王の一柱を相手に大立ち回りしなければならなかったのだ。よくもここまで持ち込んだものだ、と感心せざるおえない。

 そして、匙はチラリとサーゼクスを見る。すると、サーゼクスは頷いた。

 

「行ってあげなさい。自らの主の元に」

 

 その一言を受け、匙はサーゼクスとジオティクスに深く一礼し、ソーナの後を追っていった。

 

「しかし、よくもあそこまでうまく彼女とソーナ君を引き離せたね。下手をしたら、この場で彼女と即戦闘だよ?」

 

 関心したかのようにサーゼクスが言う。

 

「まあ、最悪首に縄くくってでも止めに行きましたよ。アレじゃ会長が不憫で不憫で」

 

「それだけはやめて頂戴……!」

 

 リアスが切羽詰った顔でダイスケに懇願する。

 

「リーアたん、お前も中々大変そうだね」

 

「お兄様!?」

 

 イッセーはこの時わかった。ああ、魔王ってみんな変わった人ばかりなんだな、と。




 はい、というわけでVS23でした。
 ダイスケは流石にシトリーとは関わりがありません。だからセラフォルーも知りませんでした。そういうことでです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!
 そして皆様、よいお年を! また来年、元旦にお目にかかりましょう!

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