縁起は悪いがキリはいい!! そんなこんなでVS02投下!
「まさか、他にも未確認の神器所有者がいたなんてね。でも、ここで殺しておけばボーナスアップといったところかしら?」
突然のダイスケの変異に驚きつつも、天野夕麻は努めて冷静に対処しようとしていた。
彼女には目的があった。その目的の果てに、イッセーの殺害があったが、それを実行した直後に現れたイレギュラーであるダイスケ。
その存在に驚きはしたものの、さりとて目的実行を中断するつもりもない。さらに、このイレギュラーに対処したとなれば、
そんな打算的な考えのもと、落としかけた光の槍を握り直す。距離としては目と鼻の先。手慣れた武器であるこの槍なら、目を瞑っていても当てる自信がある。いわば「必殺の距離」だ。
さらにダイスケの得物は両手の籠手。どう見ても極近接格闘用の武器であるから投擲武器を使う夕麻はどうあがいても有利だ。
おそらくダイスケの第一手は夕麻に近づくことだろう。そうしなければダイスケは攻撃できないのだから。そこへ槍をたたき込めばいいだけのことである。
しばしの沈黙の後、ダイスケは地面を蹴った。と、同時に光の槍が放たれる。当然のことながら光の槍は目標であったダイスケの心臓には突き刺さらず、ダイスケがそれまでいた場所のやや後方に突き刺さる。
「!?」
夕麻は驚愕していた。自分の槍は確実にダイスケを貫くと思っていたからだ。だが、ダイスケの動くスピードは槍が放たれるスピードを遙かに超え、その姿を見失う。
「ど、どこ!?」
左右に視線を配ってダイスケの姿を探す夕麻。左右にはいない。後ろにも、前方にもいない。
となれば答えは一つ、上空だ。しかし、その跳躍高度は人間の身体能力のそれを明らかに逸脱している。
「ば、馬鹿な……!?」
驚く夕麻をよそに、ダイスケは重力に任せて落下しながら右足を引き、夕麻の眼前に迫ると全力でキックを放つ。
咄嗟に夕麻は両腕をクロスさせて受けるも、その想像以上の脚力に押し負けて弾き飛ばされる。しかもこれで終わらない。夕麻は自分の腕に複数の痛みが走ったことに気づく。
「こ、これは!?」
それは小さな刃物。ダイスケが先刻購入したアートナイフの替え刃だ。それをいつの間にか夕麻の腕めがけて投げつけていたのだ。
ただの工具、それもプラスチックを加工するだけの小さな刃がいくつも自分の腕に刺さったいることに気づいた夕麻は驚愕した。自分のスペシャルぶりを自覚しているからこそ、こんな安物で傷つけられたことはまさに驚嘆すべき事実だ。
だが、ここで夕麻はダイスケとこれ以上の交戦をする意思はなかったらしい。
「……っ、何者かわからない以上、あんまり付き合うべきじゃないわね。本来の目的は遂行できたし、日を改めて対応させて貰うわ!」
そう言って夕麻は腕に刺さった刃を全て引き抜くと、光に包まれてその場から姿を消してしまった。
またもや起きた超常現象に驚きつつも、ダイスケはイッセーのことを思い出す。自分は五体満足だが、イッセーはそうではないのだ。すぐに駆け寄って状態を診る。
診れば刺し傷がある腹部から止めどなく血液があふれている。ダイスケはシャツを脱いでそれで縛ることで止血を行おうとしたが、その甲斐も無くあっという間にシャツが赤く染まっていき、赤い雫がしたたり落ちる。
「おい! 意識だけはしっかり持て! 寝るな!」
必死に呼びかけてイッセーの意識をつなぎ止めようとするが、瞳の色は無情にも薄くなっていく。そして、譫言をつぶやき始める。
「……血、の色……すげーきれーだなぁ……夕日に染まって……余計に……」
「……阿呆なこと言うな! すぐ救急車を……クソッ、なんでこの街のど真ん中で圏外なんだよ!?」
「あ、ダイスケ……この色……すげー、よく似てる……。ほら、お前も知り合いっていう、リアス……先輩……。どうせなら……お前の腕の中じゃ無くて、あの人みたいな美人に……看取られて……。」
死を意識し始めている。これは非常に危険な状態だ。しかも生を諦め始めている。本人の中で死という結末を無意識に受け入れてしまっているのだ。
万事休す。ダイスケがそう思ったとき、イッセーの握られた右手が赤く輝き出す。
その手の中に握られていたのは紙片。よく見えないが、魔術的な文様が描かれているように見える。そして放たれた光は空中に魔法陣を投影した。
陣からは召喚されたかのように人影が現れる。その人物はダイスケもよく知る人であった。
「……リアス、さん?」
それはイッセーが先ほど口走っていた名前の人物その人。なぜ彼女が突然この場に、しかも魔方陣から現れるという突拍子もない方法で現れたのか。ダイスケには理解が追いつかなかった。
「まさかこの場に貴方もいるなんてね。……もう隠し通せないと言う事かしら」
「隠す……? それに、今起きていることは……!?」
「説明は後よ。それより、そこの彼のことは私に任せない。いいわね?」
今まで見たことのないリアスの表情に押され、ダイスケはイッセーから離れる。そして、リアスはイッセーの傍で屈み、その体に触れる。
「本来死は生きとし生けるものには避けられぬ定め。それだどれほど理不尽な理由だとしても、一度そのドアを開いたら二度と戻れぬ不可転の扉。でも――」
そう言ってリアスは懐からチェスの駒のようなものを取り出す。
「貴方には、今この場で死ぬには惜しいほどの才能がある。何より、私は貴方のような存在がほしい。勿論、『人を辞める』というリスクはあるわ。でも、望むのならば私は貴方に新しい生を与えることができる。さあ、貴方はどうしたい? このまま、人としての生を全うする? それとも、人を辞めてでも、そして私の
そうリアスが問うと、イッセーは力なくだが、確かに頷いた。
「わかったわ。では、その命――私のために使いなさい。」
リアスが駒をイッセーに胸に近づける。すると駒は光の粒子となってイッセーの中に吸い込まれ、それに続くようにリアスの懐からも光が溢れて同じくイッセーに吸い込まれていく。
その反応が止むと、イッセーはすやすやと寝息を立てていた。どうやら血が止まったらしく、血溜りの広がりは止まっていた。
「まさか他の
そう言ってリアスはイッセーの額を優しくなでる。その姿はまるで母親のようだった。
そんなリアスに、ダイスケは問う。
「リアスさん。これは……」
問われたリアスの表情は、一転して暗くなる。
「……できることなら、貴方には
言いながらリアスが指を鳴らすと、リアスが出来てきたのと同じような魔方陣が地面に現れて、そこから一人の少年が現れる。
「部長、参りました」
その少年はイッセーやダイスケと同じ学年の男子生徒である木場祐斗であった。文武両道、端正な顔立ちと紳士的な振る舞いで学園では王子様と呼ばれて非常に女子人気の高い男子だ。
彼のことはダイスケも同じくグレモリー家に関わっていると言うことでよく知っていた。彼とはマンションが同じでよく顔を合わせるが、なにかと人に寄られる彼はダイスケにとっては触れざるべき人物である。
「やあ、宝田君も。部長、彼もここにいるということは……」
「ええ、そういうことよ。でも今はこっちを頼みたいの。」
指さされた方に眠るイッセーを見て、木場は察した。
「彼も、なんですね」
「ええ、すごいわよ。なにせ
「彼を自宅まで送ればいいんですね。住所は生徒会に訊きます」
「お願いね」
木場はイッセーの肩を担ぎ、その体を起こして立たせた。
「じゃ、宝田君。また後で。失礼します」
そして木場はイッセーを伴って現れたときと同じように魔方陣を通してこの場から去って行った。
残されたのはリアスとダイスケ。リアスは近くのベンチに腰掛け、ダイスケも座るように促す。それに従い、ダイスケも座った。
しばらく沈黙が続くが、リアスが切り出した。
「怒ってるでしょうね。自分だけが蚊帳の外で、身の回りに隠されていたものに関して何も教えられなかったんだから」
「……いえ。どっちかって言うと、怒る以前に混乱が激しくて何が何だかって感じです。出来ることなら、何もかも教えて貰ってすっきりしたいです。」
「そう……なら、まずこの世界のことに関して言うわ。この世界にはね、空想とされる者たち……神話存在が実在するの。神仏や天使、悪魔。数々の魔獣や神獣、霊魂に果てはドラゴン。そして、それに伴う奇跡や魔術といったオカルトも。それはさっき実際に見たでしょ」
「ええ、バッチリ。魔方陣で現れたり、人の背中に黒い翼が生えて光の槍を飛ばしてきたり」
「すんなり受け入れてくれると説明しやすくて助かるわ。そして私はその内の――悪魔よ」
立ち上がったリアスの背中からコウモリのような羽と、典型的な鏃型の尻尾がスカートから顔を覗かせる。
「……悪魔っていうのは地獄の罪人を引っ立てる存在で醜く恐ろしい見かけ……って本で読んだんですけど」
「所詮は教会が言うことよ。敵のことはけちょんけちょんに書き立てるものだわ。確かにそう言う見た目をしている者もいるけれども、基本は人間とおなじ姿よ。親しみを持って貰うためならこっちの方がいいでしょう」
「え、体裁気にするんですか?」
「というより、仕事をしやすくするためね。悪魔は人間と契約して仕事をし、その報酬を貰うの。金銭とか、宝物、後はこっちが臨む仕事をして貰うとかね。命を貰うこともあるけれど、よっぽど身の丈に合わない望みを言われたときくらいね。そんな望みを言う人間も普通いないし」
言いながらリアスは尻尾と羽をしまって座り直す。
「そして貴方が言っていた黒い翼を持つ者。それは堕天使ね。欲望に負けたり、神に逆らったことで天界を追われた天使。彼らとは冥界を二分していて、ここに神が率いる天界勢力を交えて三つ巴になっているわ。他所の神話体系からはこの三つを一括りにして「三大勢力」なんて言われることもあるわね」
「以外。てっきり堕天使と悪魔は手を組んでいるものだと。同一視されのもいますし」
「これは領土争いね。相手も元は天使だから生理的に受け付けないってのもあるでしょうし。何より天使と堕天使が共に使う光の武器、アレをもろに喰らうと悪魔は消滅するから。そうなったら死よりも悲惨よ。魂ごと消え去るんだから」
「で、天使は天使で悪魔と堕天使を邪悪として悪・即・斬と」
「そういうこと。で、貴方はどう思う?」
「なにがです?」
ダイスケの頭の上にクエッションマークが浮かぶ。
「私や私のお父様とお母様、それにお兄様が悪魔だって言うこと。普通の感覚だったら悪魔なんて人間の敵、邪悪で汚らわしい正義の正反対の悪そのもの。あまつさえそんな存在が正体を隠して自分のすぐそばにいたんだから、気持ち悪いと思うのが普通よ。というより、何もかも信じられないかしら?」
そう言って問うリアスに対し、ダイスケは首を横に振って答えた。
「まさか。この目で見たんだから何もかも信じますよ。それに見くびらないでください。悪魔だからっていって、人格まで何もかも悪だとは思いません。俺はずっとグレモリー家に世話になってきました。その間、皆さんは俺にまともな生活が出来るようにと、方々手を尽くしてくれたじゃないですか」
「体よく使うために手懐けようとした……とも考えられるわよ」
「だとしたらこんな風に説明しないでしょう。隠し続けて盲目的にいさせて、俺の力を利用した方が都合がいい。それに、ここまで手厚く俺を育ててくれません。力を伸ばすどころか、逆に抑える方法を教えてくれたんですから。それが俺を利用するためのものだったとしても、そのおかげでこうしてまともに生活できているんです。感謝しかありませんよ」
「……お父様やお兄様が聞いたら泣いちゃうでしょうね。ま、兎に角私たちは天使・堕天使とにらみ合いつつ自信の力を蓄えるために人と契約して対価を得ている……概要はこんなところね。また今度彼、イッセーと一緒に説明してあげるから。問題はここから、貴方自身の事よ」
「俺の、事……?」
「ええ。お父様からは何かあったとき、真実を告げるように頼まれているの。だからそれに従って貴方の真実を教えるわ」
そうは言っても、リアスの表情は暗い。ダイスケが自分たちの生きる裏の世界に関わって欲しくないというのが本心だからだ。その事を感じたダイスケは、リアスに向き直る。
「大丈夫です。言ってください。たとえどんな真実でも俺は受け入れます」
「……ありがとう。じゃあ、言わせて貰うわね」
リアスは微笑み、軽く深呼吸すると語り出した。
「ダイスケ、貴方は――」
*
次の日、ダイスケはその日の授業に全く集中できなかった。
リアスから語られたダイスケの身に宿る真実、
神器とは、聖書に記された神が生み出した人、もしくは人の血を受け継ぐ者にのみ発現する異能のことだ。所有者の想いと願いの強さに応えるように力を顕現させるというルールがあるとされ、所有者の精神の変化に応じて新たな機能を目覚めさせることがある。
その多くは人間社会で使用可能なレベルでしか発現せず、形としてはっきり具現化させるには一定以上の条件と力が必要とされるが、歴史に名を残した人物や有名なスポーツ選手などが自覚のないまま所有している場合もあるため、そう珍しい物ではないらしい。
だが、その異能によって他者から気味悪がられ、迫害されるケースも多いということだった。自分ももれなくそれに類するカデコリーの人間なのだと知った。幸運だったのはグレモリー家という事情を知っている人々(悪魔だが)に出会えて、しかも保護して貰ったという点だろう。それに関しては自分は幸運であるとダイスケは改めて感謝した。
これからはリアス
そもそもこの駒王町からしてリアスのテリトリーとのことだった。さらにダイスケのトレーニングを世話してくれたのもグレモリーの悪魔、生活の世話をしてくれていたのも悪魔。知らず知らずのうちにダイスケは人間以外の知的生命と第三種どころか第九種接近遭遇をしていたことになる。
そして指導されるのはダイスケだけで無く、イッセーもだ。彼も神器の所有者だった。むしろ、だから堕天使に狙われたと言ってもいい。堕天使は神器所有者を積極的に勧誘ないし能力を暴走させる事を恐れて抹殺をしているとのことだった。そしてその方針に従い、上に命令されて夕麻はイッセーを殺害されたということだ。
但し、ダイスケからイッセーのこの話をすることは固く禁じられた。彼には時間をかけて話していくとのことで、彼の方も記憶の混濁があるらしくダイスケがいたことやリアスとのやりとり(これは未だに不明。後で説明があるらしい)も忘れていて、天野夕麻のことも突然いなくなったと認識しているようだ。
その証拠に、彼は松田や元浜に「彼女のことを知らないか」と訊き回っており、携帯にあった写メやアドレスも消えていた。おそらくこれは彼女の工作だろう。殺した後に周囲の人間の認識を何らかの術で操ってイッセーを事故死だとかに処理するつもりである意思が見て取れる。
勿論ダイスケも訊かれた。だが、リアスとの約束があったのでここはとぼけておいた。
そして今は放課後。リアスの言いつけでダイスケはオカルト研究部の部室前に来ていた。
「……入りづらい」
人生で一度も部活といった活動に参加したことがないダイスケにとってここは未知の領域。悪魔の巣窟以前にコミュニケーション能力に自信のないダイスケには非常に入り辛い領域だ。
何せ基本的に他人との接触は避けてきた身。そんなダイスケが所属してもいない部活部屋にほいっと入れること自体無理なのだ。そんな葛藤をしていると――
「……入らないの?」
後ろから木場の声がして驚くダイスケ。ビクッと身を震わせて振り返った。
「な、何だよ、木場か。入るよ? 入るともさ。……でも、いいのかこれ? 入っちゃって」
狼狽するダイスケに、木場は苦笑してエスコートする。そっと部室のドアを開けてやったのだ。
「いらっしゃいませ」
「そのイケメン能力、俺にもちょっと分けて欲しいわ」
木場に誘われ、ダイスケは部室内に入った。そして、思わず顔をしかめる。
(おいおいおい、いくら何でもこりゃぁ……使っていない旧校舎だからって部室を私物化しすぎだろ、リアスさん)
部室内は元が教室とは思えないビュフォーアフターっぷりだった。
漆黒のカーテンで日光は遮られ、その代わりに室内を照らすのは木場が先ほど点けた燭台の蝋燭。壁には魔術的文様が描かれたタペストリーやらが貼られており、本棚にある本の背表紙は皆、その本が魔術やオカルト関連の本であることを示していた。
「……電気点けねぇ?」
「部長が雰囲気を大事にしたいんだって。いつもは電気も点けるし、窓も開けているんだよ?」
そう言いながら、木場は給仕場でお茶の用意をしていた。出された茶を、ダイスケはゆっくりとすする。
「……アールグレイ」
「……ごめん、それラプサンスーチョン」
「わっかんねーよ、紅茶の違いなんて。すいません、適当言いました」
普段他人とコミュニケーションをとらないからこういうことになる。そんな感じで手探りで木場と会話しているとドアが開いた。そこから入ってきたのは三人の少女。
一人は姫島朱乃。三年生で、リアスと並んでこの学園では「二大お姉様」として崇拝される美人だ。一応、リアス繋がりでダイスケは面識があるのだが、今のように軽く挨拶する程度で深くは彼女のことは知らない。
二人目は塔城小猫。こちらは一年生で、その小柄な体格とマッチしたクールロリフェイスでその筋に人気のある美少女。こっちは住んでいるマンションは一緒だが、出かけるときに顔を見る程度で、リアスの関係者だということ以外、彼女のことはダイスケは知らない。つまり、二人とも顔見知り程度で深くは知らない。
そしてもう一人はリアス。
「来てくれたわね。じゃあ、昨日の続きの説明、しましょうか」
「はい。お願いします。で、リアスさん以外の三人ももしかして――」
「ええ、悪魔よ。証拠、見る?」
「いえ、いいです。みんなリアスさんの関係者だし、大体の予測は付いていたんで」
「そう、ならこの前の話の続きをするわね。」
そうしてリアスは自分たち悪魔がどういった存在なのかダイスケに教える。
かつて魔王と神が戦い、魔王達が滅んで次代がそれまで冥界を治めていたこと。現在の政権は主戦派だった旧魔王をクーデターにより打倒した現魔王達が治めていること。そして現魔王の一柱が生み出したチェスを元にした転生システムによって他種族から有能と思われる人材を配下に治めるシステムを有していることを話した。
「それが昨日イッセーにしたこと、ですか?」
「ええ、彼は貴方と同じように神器を有していた。それで私の眷属にしたのよ。」
「って、事はイッセーはもう人間じゃなく、悪魔って事ですか。」
「転生するほか、彼の命を救う方法はなかったわ。一応、彼の了承は得たけどね。」
「そのあたりは何も言いません。善し悪しは本人が決めることですから。」
「理解してくれると嬉しいわ……あら、来たみたいね」
不意にリアスの傍らに一匹のコウモリのような生き物が現れる。
「なんです、それ」
「私の使い魔よ。彼を見張っていたんだけど……そう、もうそろそろ学校を出るのね」
その使い魔とやらが全身を使って大きく頷く。
「わかったわ。ご苦労さま。小猫、手筈通りに彼を尾行。万が一の場合は連絡と彼の護衛をよろしくね」
「……はい」
小猫が了承し、部室を後にしようとするが、ダイスケが立ち上がって彼女の前に立ち塞がり、それを止める。
「リアスさん、彼ってまさか?」
「……ええ、兵藤一誠よ」
リアスの答えを聞き、ダイスケはしばし考えてこう言った。
「リアスさん、折角色入教えて貰ってる途中ですけど、俺は塔城についていきます。いいよな塔城? よし、行くぞ」
小猫からの返事を待たずにダイスケはドアノブを掴む。
「待って。貴方まで行く必要はないわ。それに、貴方には私達のことをまだまだ知ってもらわなければならないの」
「続きはイッセーと一緒でいいんで」
「そういう問題ではないの。小猫を監視に付けるということは、彼に危険が迫るかもしれないということ。小猫にはそれを払うだけの実力がある。でも、力に目覚めたばかりの貴方が行っても足で纏いになるだけよ。それに最悪……」
そのリアスの言葉ですぐさま朱乃がダイスケの傍に立ち、ドアノブを握る手を掴む。
「貴方が無理に行こうとすれば、わたくしが全力で止めさせていただきますわ。自校の生徒が自殺しに行くのをみすみす見逃しはできませんから。」
「……すいません、行かせてください」
「あらあら。血気盛んなのはいいですけれど、勇気と蛮勇は別物ですわよ?」
朱乃の表情は一見柔らかそうだが、その目にはなんとしても止めようという決意があった。だが、それでもダイスケの気持ちは変わらない。
「ダイスケ、あなたがそこまで彼にこだわる理由は何? 友達だから?」
リアスが怪訝そうに尋ねる。
「そんな高尚な関係じゃないです。でもね……」
ダイスケはひと呼吸置き、しっかりとリアスの双眸を見据えて言う。
「俺は今まで碌に他人と接しちゃいなかった。貴女ともろくに会話もしていない。だから、ぼっちなんて買って出た苦労です。でも、そんな俺にあいつは自分から接してきた。そんなあいつがいなくなったら……馬鹿な話できるやつがひとり減っちまうですよ。」
「……随分とまあ、利己的な理由ね。」
「利己的なのは悪魔も一緒じゃないですか。」
空中でリアスとダイスケの強い眼差し同士がぶつかり合う。そしてリアスが呆れたように言う。
「……堕天使とまともにやり合えたみたいだから心配はないかしら。でも、くれぐれも無茶はしないように。小猫、何かあったらすぐに私たちを呼んで」
「……わかりました。」
そう言って小猫が先に部屋を出る。後を追おうとするダイスケだが、一旦足を止める。
「……すいません、無理言って。」
「いいのよ。」
そしてリアスに向けて頭を下げたあと、すぐさま駆け出していった。
はい、というわけでVS02でした。
本文の中の転生の下りのリアスの台詞はアレですよ、完全のオリジナルですからね。これが気にくわないからってオリジナルを嫌いにならないでくださいね。悪魔の外見に関するところも、私見交じってますから鵜呑みにしないでね。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!