ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

30 / 50
 すいません、この話いる、この話いるとなってこんだけ長くなりました。
 あと、今回からいろいろ出てきますが、この作品のテーマは『心』です。
 今思いつきました。


VS29 (ココロ)の記憶

「敵が飛び道具というのはやはりキツいな、木場!」

 

「全部デュランダルで吹き飛ばしておいてよく言うよ!」

 

 木場とゼノヴィアはその頃、オーラノイドとそれらが扱う兵器を相手に最前線で戦っていた。敵の能力は、まだこのときは完全に把握してはいなかったが、それが神器の力を人工的に再現したものであることは二人は勿論、三大勢力側の兵士達は理解していた。

 特に多かったのは木場の神器と対を成す聖剣創造(ソード・ブラックスミス)を再現したであろうオーラノイドで、敵戦車も特大の聖剣を砲身から撃ち出して攻撃してくる。なによりも数が多いことが脅威だったが、兵士一人一人の練度は別にして疑似神器能力はオリジナルには及ばないのが幸いだった。そのお陰で動ける三大勢力所属の兵士達も戦えていたが、このままでは数に押し切られてしまうことは明白であった。

 せめて援軍がきてくれれば――そう木場が願った瞬間、神は亡くとも奇跡は起きた。日本呪術式の転移陣が木場達の背後に現れたのだ。恐らくミコトが応援に呼んだ日本政府の宝東会がよこしてくれた援軍だ。いかに表を取り仕切る人間の政府と言っても当然裏の世界にも通じている。日本古来の呪術集団の五代宗家に通じてその協力を得ているということもミコトは言っていた。ということはそれに属する術者の援軍が来る、と木場は考えていた。

 しかし、実際に来たのはオリーブドラブの迷彩服を着た、公開されたメディアで見慣れた自衛隊員達。手にした銃はガトリング銃を小型化した見慣れないものであったが、到底一般の武器を持つ者たちが紛い物ながら神器能力を有する戦闘集団と戦えると木場たちには思えなかった。

 

「いけない! 貴方たちでは――」

 

「撃ち方よーい、射撃開始!!」

 

 木場の忠告も無視して隊員達は射撃を開始する。その見慣れぬ銃から放たれたのは、実弾ではなく光弾で、呪術的防御をすり抜けて敵を薙ぎ払っていく。その意外な力に敵も味方も驚いた。

 しかし、相手は戦車も有する混成機甲師団。歩兵の集団では相手にならないのは目に見えている。やがて敵戦車が自衛隊員達の姿を捉え、無慈悲に砲撃を加える。放たれるには様々な能力を持った聖剣。炎が、暴風が、雷が、氷が無残に自衛隊員達を薙ぎ払い、バラバラに引き裂いていく。

 これが、純粋な技術と異能の技術の絶望的な差。科学の限界に縛られた技術では、世界の深淵を引き出すオカルトの力には及ばない。その事をむざむざと見せつけられた木場は、口の端を噛んだ。

 結果は見えていた。なのに、止められなかった。守ることが出来なかった。戦えないとわかっていたはずなのに。むしろ、彼らをここに送り込んで無駄死にさせたこの国のトップ達に木場は怒りを抱く。

 

「知らないというのは……こうも!」

 

 ゼノヴィアも同じ心境だった。こうならないために自分は剣を取ったというのに。目の前で無謀に戦った者たちを守れずに死なせてしまった後悔は計り知れない。その後悔が、怒りに変わる。その精神の高揚が彼らの剣に伝わる。

 怒りと断罪の念を込めて木場とゼノヴィアは各々の剣の柄を強く握ったが、そのとき異常な光景が目の前で広がっていた。

 目の前の一人の斃れ臥す兵士の手がピクリと動く。死後の反射行動と思ったが、どうも違う。全てのバラバラの死体となった自衛隊員達の亡骸が蠢いているのだ。ある死体は千切れた肉片同士が繋がり、またある死体は完全に消失した部分が再生をして行っている。

 

「そ、そんな……!」

 

「き、木場。私は夢を見ているのか!?」

 

 ものの数秒で彼らは再び元通りになり、銃を構える。その光景には木場立ちのみならず赤イ竹の構成員も驚いた。何しろ目の前でゾンビのように死人が生き返ったのだから。そんな中、一人の蘇った自衛隊員がこう叫んだ。

 

「この国を守る最後の砦、舐めるなァ!!」

 

 そう彼らは常人ではない。彼らは自衛隊内でも裏の事件に対応するための特殊部門、「特生自衛隊」だ。そこに所属する隊員は、ほぼその全てが獣転人なのである。勿論、先天的なものではない。後天的に能力を移植されているのだ。

 彼らの持つ怪獣の能力は過去の世界に現れた『フランケンシュタインの心臓』を持つ人工怪物、『フランケンシュタイン』、『サンダ』、『ガイラ』のものだ。これらの人工の怪獣はよほどのことでもない限り死なない不死身の肉体を持っていた。その怪獣達の魂が転生した者たちが自衛隊内にいたのである。当然、この能力は極秘裏に研究され、これら獣転人の細胞を他者に移植することでこの力を与えるということが判明した。

 当初は人権的見地からこの研究は廃棄されることになっていた。いかに極秘の部隊とは言え、この国の国民に人を捨てさせるという選択肢を与える訳にはいかない、という宝東会の意思であったが、現場は違った。彼らは進んで獣転人になる移植を望んだ。この国の防人としての使命感がそうさせたのである。

 そして陸上部隊には地上活動に優れるサンダの能力を、海上部隊には水中適応力に優れるガイラの能力を、他の指揮官や部隊にはもれなくフランケンシュタインの能力を与えることになった。これにより、特生自衛隊は対異能戦闘集団のなかでも異例な集団となたのである。

 死なない兵士ほど戦場では恐ろしいものはない。いくら殺しても数を減らせず、なだれ込む勢いを削ぐことも出来ない。そして、何より彼らには「戦えない人々の代わりに戦い、この国を守る」という信念がある。信念を持った不死の軍隊に、テロリストの集団は恐れるほかなかた。

 当然練度も特生自衛隊の方が上。その結果は語るまでもなく、赤イ竹の強襲部隊の壊滅であった。

 

 

 

 

 

 

 自分の頬を打ち抜く拳。初めは何が起きたのか理解できなかったが、ややあって自分が見下していた存在に痛烈な一撃をお見舞されたのだという事実を徐々に認識していった。

 当然感じるのは痛みだったが、ヴァーリ・ルシファーにとってはこれ以上ない歓喜を呼ぶものであった。

 自分を殴ったのは兵頭一誠という、つい先日までこの裏の世界を知らずに安穏と生きてきた同い年の少年。ただ彼は普通の同年代の少年少女と違っているのはとてつもなく強く、大きな存在を宿しているという事。

 その名は赤龍帝(ドライグ)。神に匹敵しうるこの世界において最強格の内の一角を担うドラゴン。そしてヴァーリにはそれの対となる白龍皇(アルビオン)が宿っている。

 対をなすこの二つの存在は、出会えば必ず雌雄を決さんと拳を交え、いずれかが斃れるという定めを持つ。

 そして先代ルシファーと人間の女である母との間に生まれ、類稀なる魔力の才を持って生まれたうえに人の血が流れていることにより神滅具を宿したヴァーリは、育ての親であるアザゼルからも「歴代最強の白龍皇」になりうると太鼓判を押される程の才覚があった。

 そんな境遇に生まれれば、自然と己の限界を試し、自分がどこまでいけるのかと考えるのは必定。覇を求め己の力と技術を研鑽し、いずれ来るであろう運命の日に向けて着々と経験を積んできた。

 しかし、今代ぶつかるであろう赤龍帝の器である兵藤一誠の事を知り、彼は落胆してしまった。

 自分とは違い、ごくごく平凡な家庭に生まれ、ぬるま湯につかっていた只の思春期の少年。同年代でありながら、環境が違えばこうも変わるものかと悪い意味で感心し、そして兵藤一誠という赤龍帝にほとんど興味を失ってしまったのだった。

 何せどう考えてもイッセーはヴァーリよりも弱い。目覚めたばかりで少し才能がある子供と百戦錬磨の戦士が戦うように結果は見えている。いったい彼が一角の戦士として成長するまでどれだけに月日を待てばよいのだろうか?

 だからヴァーリは己のフラストレーションを発散させるための機会を得るために禍の団の誘いを受けた。旧魔王派などどうでもいい、世界の敵として世界中の強者(つわもの)達相手に無謀とも思える戦いを挑む。そんな日々の方が魅力的に映るのは彼の性格上仕方のないことだった。

 だが、運命の紅白対決の機会は意外にも早く訪れた。

 これまで親代わりになってくれていたアザゼルには悪いとは思ったが、彼の求める平和というやつはどうにも性に合わないから致し方ない。それに一度研究家であるアザゼルと拳をを交えてみたかった。

 取りあえず圧倒して押しては見せたが、この後の展開はヴァーリにも読めない。何せ相手を徹底的に観察・解析し、最高の対抗策を練って応じるのが神器研究者としての一面を持つアザゼルの戦い方だ。だからこそ胸がときめく。兵藤一誠との紅白対決よりも、だ。

 なのにアザゼルはカテレアなどという血統によってしか物事を推し量れない小物を相手にし、自分にはアザゼルが作ったサポート器具を持ってようやく禁手に至れるイッセーをぶつけてきた。

 ヴァーリからすれば、まだ熟れる前の青い果実を売りつけられたようなものであり、何故アザゼルはこのようなことをしたのかが理解できない。

 力の使い方を知らない、ただ拳を前に突き出すことしか戦いの術を知らない素人を相手にして何が楽しいのだろう。自分の動きを止めようとしていたハーフヴァンパイアの停止結界の邪眼は面倒だから呪術で封じてはおいたが、その彼らはそういった対策もしていない。

 どいつもこいつも、己の力の使い方を知らない間抜けにしか見えない。なのに、一丁前に力は持っているというのがもどかしい。

 無味無臭の土壌で育ち、日陰に隠れた華。これほどもどかしく、焦燥を募らせるものがあるだろうか?

 だから、その華を鮮やかにするためにヴァーリはイッセーのために一つの提案をした。

 

「そうだ、君の両親を殺し、君は復讐者になるというのはどうだ?」

 

 無味無臭の平凡な土壌にイッセーの両親の血を滴らせ、赤龍帝兵藤一誠という存在をその名の通り赤く紅く朱い復讐鬼という存在に昇華させる。そうすればきっと、この平々凡々の環境の中で育った隠れた華を色鮮やかにし、特別な世界で生まれ育った自分とようやく同じステージで戦うことができるはずだ。

 そう思っていた。が、しかし。

 

「――殺すぞ、この野郎」

 

 不意打ちで放たれる殺気。

 本当にこれが格下の相手なのかと思ってしまうほど、ヴァーリは気圧される。

 

「俺の家族を、日常を、お前なんかに壊させるかよ!!」

 

 イッセーが吐露する、ヴァーリが軟弱と唾棄したモノへの親愛。直接拳を交わしたわけでもないのに、言葉だけで巨大な拳を眼前に突き付けられたかのようなプレッシャーが襲い掛かってくる。

 そして爆発的に増幅したイッセーの龍の気を孕んだオーラが、いかに先ほどのヴァーリの何気ない提案が彼を激昂させたかがよくわかる。

 イッセーがついに突撃し、殴打を見舞う。しかし、突き出される拳の一撃一撃は軌道を読むのも容易く、ヴァーリにとって脅威になるものではない。いかにパワーを上げたとはいっても、力の使い方が下手なのだ。

 なるほど、兵藤一誠という人物のこの直情さはヴァーリよりもドラゴンという生物との相性はいいだろう。だが、戦う頭ができていなければそれも意味を成さない。

 そうヴァーリに思わせたこの不意打ちのタイミングでイッセーの左腕の籠手から刃が突出し、斬撃を繰り出す。龍殺し、ドラゴンスレイヤーと称される聖剣の内の一振り「アスカロン」である。元来、悪魔でドラゴンであるイッセーにとっては最悪の劇物のような代物だが、事前に調整されミカエルからイッセーに護身用として進呈されたものだ。

 当然これは半悪魔であり白龍皇であるヴァーリにとっても渾身一擲の大ダメージを与えられるであろうが、やはり単調な動きであるイッセーの一太刀は余裕で躱されてしまう。それでも、それでもとなおもイッセーは追い縋る。

 しかし、いずれ限界が訪れる。

 今のイッセーはアザゼルからもらった腕輪によって特例状態で発現している禁手に至っているに過ぎない。それが無ければライザーと再戦した時のようにあっという間に禁手は解除されてしまう。

 そしてその腕輪にも使用限度がある。綱渡りの状態でかつ全力を出さなければならないという苦しい状況なのだ。勿論、問題はそれだけではない。

 

「長剣でその使い方はアウトだろうに!」

 

 イッセーのアスカロンの使い方をわかりやすく言うならばインドの短剣ジャマダハルだ。これはパンチの要領で刺突を行う特殊な形状の短剣だが、これはリーチが短い短剣の刃だから有用な武器となる使い方だ。

 ジャマダハルを近接戦で用いる際、必要になってくるのは一撃必殺となりうる刺突力であり、斬撃は二次的な用い方となる。そうなると取り扱いやすいのは長い刃よりも短い刃となる。短いリーチの刃であるからこそ、取り回しがきくのであり、刃が長ければ腕に想定以上の負荷がかかるうえに取り回しも悪い。

 当然拙いイッセーの技術ではただ振り回すだけの扱いになる上、特異な形状のせいで余計な体力を浪費することになる。世界の刀剣の歴史上に、ロングソードの刃が付いたジャマダハル状の刀剣が同じくインドのパタぐらいしかないことが、イッセーのアスカロンの扱いが間違っているという事の証左だ。

 それらの要素の帰結として、大振りの一太刀は容易に躱される。躱しきったヴァーリはカウンターに大量の魔力弾を撃ち込んでいく。

 一発一発がその大きさから想像できない破壊力を生み出し、イッセーの鎧の各所が剥がされていく。衣服や装備に隠れて見えないが、着弾か所の直下の肌には痛々しい痣や傷ができているだろう。

 今のイッセーからすれば必殺の一撃といい破壊力がその体を宙に浮かすほどの衝撃を与える。吹き飛ばされたイッセーの表情は、まさに己を圧倒する大いなる存在を眼前にした者の目。そして戦意を失い絶望した敗者の目。それは見たヴァーリは勝利を確信し、背中の羽から魔力のジェットをふかして突貫、トドメの一撃を食らわせようとする。

 そして充分な距離まで接近したヴァーリは勝利を確信し、宣言する。

 

「これで当世の紅白対決は――」

 

 ――俺の勝ちだ、と続けようとした時、異変が起きた。突如としてイッセーの瞳に闘志が復活したのだ。

 空中で体勢を整えると、突き出ていたアスカロンの刃を格納。そしてドライグに命じる。

 

「ドライグッ! このままアスカロンに譲渡だ!!」

 

『承知!』

 

《Transfer!!》

 

 ヴァーリからはさんざん言われたが、イッセーも自分に剣の才が無いことは先刻承知していた。だが、それでも自分なりに使える方法を考えることはできる。

 増幅された力がイッセーの指令通りに格納されたアスカロンに浸透し、効果が表れる。その龍殺しの聖剣独特のオーラが格納している籠手の外まで迸る程に強められる。それはまるで、隔離してもその外へ死のエネルギーを放つ放射性物質のように。

 イッセーの考えを理解したヴァーリは、とっさに全身をカバーできるだけの大きさの光の障壁を展開する。しかし、それでもイッセーの拳は止まらない。

 一撃。

 苦も無く障壁を砕いだイッセーの拳は、見事にヴァーリの顔面に突き刺さる。その威力は白龍皇の兜のマスク部分をガラスのように容易く砕き、その奥のヴァーリの表情が見えるほど強烈であった。

 

「――?」

 

 自分の頬を打ち抜く拳。初めは何が起きたのか理解できなかったが、ややあって自分が見下していた存在に痛烈な一撃をお見舞されたのだという事実を徐々に認識していった。

 当然感じるのは痛みだったが、ヴァーリ・ルシファーにとってはこれ以上ない歓喜を呼ぶものであった。

 自分を殴ったのは兵頭一誠という、つい先日までこの裏の世界を知らずに安穏と生きてきた同い年の少年。ただ彼は普通の同年代の少年少女と違い、どうしようもないほどに熱い。

 一種の感動を覚えていたヴァーリだったが、イッセーはすかさず次の手に出る。殴りぬいた姿勢をすぐさま戻し、すかさず白龍皇の力の根源である光翼に手をかける。

 

「何を――?」

 

 ヴァーリが疑問を感じたその一瞬、突如として膨大な量の力の奔流が自分の体内を突き抜けていくのを感じた。そして光翼から噴出するエネルギーと、体内に蓄積されているエネルギーが異常をきたしていることが分かった。

 

「お前の神器の大本はここだろう!? そしてドライグが教えてくれた、ここは吸い取った余剰エネルギーの排出口も兼ねてるって! だからこうしてやるんだよ!!」

 

 イッセーが狙ったのは鎧の機能の暴走。本来過剰分のエネルギーを排出すべき個所から赤龍帝の籠手の能力で増加したエネルギーを強制的に流し込むことで、エンジンを吹かしている車のマフラーを塞いだ時のような反応を狙ったのである。

 ため込んだ力を白龍皇の吸収の能力も利用して流し込んだせいでとてつもない脱力感がイッセーを襲うが、その分効果も絶大だった。赤龍帝の鎧と同じく白龍皇の鎧には各所にコンデンサの役割も果たす制御用の宝玉が各所に配されているが、それらが制御不能を示す異常な光の明滅を起こしているのだ。

 

『いかんッ! ヴァーリ、一度体勢を立て直せ!!』

 

 鎧の機能がオーバーロードを起こしたことに気付いた白龍皇の鎧に宿るアルビオンが主に警告をかける。ヴァーリはその言葉の通りにイッセーに向き直ってから防御の構えをとった。

 だが、その防御も無視してアスカロンの龍殺しの力が相まったイッセーの拳の一撃がすべてを突き崩す。防御のために構えた両腕が装甲ごと貫かれ、易々と鋭い一撃がヴァーリの懐に入った。そしてその口の端から漏れるせき込みと同時に出た鮮血は、ヴァーリにとって大ダメージであることを示す。

 

「ハ、ハハッ、なんだい、やればできるじゃぁ――」

 

 また一撃。

 歓喜の笑みを浮かべたヴァーリの頬に、アスカロンの加護が無いイッセーの右拳が突き刺さる。

 

「……この一発だけは俺自身の拳で決めたかったからな。お前にとっちゃ味気ないかもしれんが、殴らせてもらった」

 

 自分の両親をバカにし、あまつさえ自分のエゴのために殺害しようとした分、ということである。しかし、ヴァーリの鎧の破損個所はいつの間にか元の状態に修復されている。

 

『大本である神器の所有者を叩かん限り終わらんよ。腕輪のこともある。どうにかして一発逆転、乾坤一擲の策が必要になるが……お前何かよからぬことを考えているな?』

 

 ドライグの言うとおり、イッセーにはある策があった。

 それは、目の前に転がるヴァーリの鎧の一部だった宝玉。

 それは、神器の「主の思いに応じて強くなる」という特性。

 それは、神が不在の世界という、非常にアンバランスになった世界の法則。

 成功させられる可能性は十分ある。しかし、そうでない可能性だって同じだ。もし叶わないのなら――

 

『――俺も、お前も死ぬかもしれん。なにせ前例がない。成功しても死んだほうがマシだというほどの苦痛が来るだろう。それでもお前はベットするのか?』

 

「俺はまだ部長とベットインしていないんだ。ここで死ぬつもりは欠片もない!! 苦痛がなんだ、部長の処女を貰うためにも、目の前のクソ野郎をブッ飛ばすためにもいくらでも耐えきってやらぁ!!!」

 

『フハハハハハハハハ! おもしろい、おもしろいぞ、我が相棒! 脆弱なお前がそこまでの覚悟を決めたのなら、二天龍と称されたこの俺も覚悟を決めなければな!! やってやろう、相棒! 否、兵藤一誠!! いつでも来い!!!』

 

 目の前の()()()()が何を思いついているのか、ヴァーリには理解できなかった。

 すると突然、イッセーは自分の右手の籠手についていた宝玉を自ら破壊し、そこへすぐさま拾った白龍皇の宝玉を嵌め込んだのである。

 

「あ、っ? ―――ああああああああああああああああああ!!」

 

『ぐぉおおおおおおおおおおおおお!?』

 

 苦しみからの絶叫。人間なら生涯発することがないだろう叫びと、装甲越しにでも伝わるイッセーとドライグの苦悶。

 

「まさか、取り込む気か? アルビオンの能力を?」

 

 ヴァーリはそう口にはしたが、信じることはできなかった。なにしろドライグとアルビオンの能力は正反対。プラスとマイナスが合わさればゼロになるように、ともに共存させて己のものにしようとするのは無理がある。

 それに一人の人間が所有できる神器の数は一つだけ。いかにその身を悪魔のものに転生させようが、神が生み出した強力無比な力を一つの肉体に二つも宿すのは器たる肉体を自らキャパオーバーで破壊するようなものだ。

 

『無謀な……元より交わることのない水と油、プラスとマイナス、陰と陽。それらが合わされば文字通り無だ。勝機が無いからと自棄に走ったか、赤いの?』

 

『そうとは限らんぞ、白いの? 俺はこの相棒を通して見てきているんでな――バカも突き抜ければ得られるものがあると!!』

 

 全身を突き刺すような痛みが頂点を迎え、イッセーは声にならない叫びを上げる。しかし、つぎの瞬間には二次曲線的に痛みは引いていき、イッセーは息も絶え絶えになりながら、しかし誇らしげに自身の白く変化した右腕を見せつけた。

 

「へへっ、さしずめ白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)ってところか? まあ、白龍皇ってついてても、もう俺のものなんだけどな。しかもちょっと不恰好だけど」

 

『その代わり、お前の生命そのものが大きく削られた。一万年は生きる命が、今じゃこの無茶のせいでその十分の一ほどの時間しかお前には残っていない』

 

「べつにいいよ。一万年も生きるなんて何すりゃいいんだかわからなくなっちまう。でもやりたいことも一杯あるから、それくらいが俺の身の丈に合ってるさ」

 

 冷静に自分の命がすり減ったことを納得し、受け入れるイッセーに対してアルビオンは狼狽し、眼前で起きた事実を受け入れられずにいた。

 

『バカな……いくら神が身罷り、世界を支える《システム》に穴があったとしても、相反する力が一つの場所で共存するなど有り得ないぞ!!』

 

「いや、アルビオン。事実は事実として受け入れるべきだ。兵藤一誠は俺とは違う意味でイレギュラーであり、そしてこれから強くなる強者だ。だから――」

 

 ヴァーリはぐっと拳を構え、敵意をイッセーに向けて放つ。

 

「この力を使う!!」

 

『Half Dimension!!!』

 

 カッとヴァーリの瞳が開かれた瞬間、彼の異能のパワーソースである光翼が力強く羽ばたき、全身に配された宝玉が光を放つ。

 すると異変は起こった。周囲の空間が歪み、ヴァーリを中心に徐々に広がっていく異界の中で彼は見せしめのように眼下に広がる木々に手をかざす。すると、一瞬で木々は半分の大きさにになっていく。

 

「兵頭一誠、これで俺も君に対して少しは本気を出した! これで俺が勝ったら、君と君の大切のものすべてをハーフサイズに仕上げてやろうじゃないか!!!」

 

 ヴァーリの高々とした宣言。しかし、慣れないイッセーの頭はその言葉の意味をよく理解できていなかった。

 

「は、半分って……具体的にいうと?」

 

『そうだな、相棒にもわかりやすく言うなら……白龍皇のあの力は自由自在にあらゆるものを半分にするというものだ。さっきの木々のように、ピンポイントで特定のもの、特定の部位を半分のサイズや量に変えることができる』

 

「……もっとわかりやすく言うと?」

 

『相棒の大好きなリアス・グレモリーや姫島朱乃の豊満なバストのサイズをピンポイントで半分にするといってるんだ、あいつは』

 

「……はい?」

 

 イッセーにはその言葉が理解できなかった。いや、意味は理解できていたが、なぜそのような悲劇が起きなければならないのかが理解できなかった。

 バスト。

 乳房。

 おっぱい。

 あらゆる言葉で存在し、イッセーの生きる最大の原動力となる素晴らしき女体の神秘、神聖にして不可侵の聖遺物が、頭のおかしいバトルマニアの自分本位のその場のテンションで破壊される。

 許されない。

 許さない。

 認められない。

 認めない。

 

「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 大切な両親を殺すと言われただけでも許せないと思っていた。だが、そこへさらにイッセーの生きがいを汚すと宣言したヴァーリの言動はもはやイッセーにとって万死に値するものである。

 その証拠に、イッセーの身体から発する赤いドラゴンのオーラはこれまで見たことのないレベルにまで高まっている。

 

『なあ、相棒。力の使い方がうまくなってくれることに関しては俺も素直にうれしいと思う。だが、その動機はいくらなんでも……』

 

 非常に渋い声を出すドライグ。彼の言い分も正しいだろう。何せ自分の神すら屠る強大な力が、乳房への執着がトリガーとなって発現しているのだから。

 

「うるせぇっぞ!! ンな悠長なこと言ってる場合じゃねぇんだよ!! もう、本格的にトサカに来た!! あの野郎、ぜってぇゆるさねぇええええええええええええええええ!!!」

 

 感情の高まりは神器の力の高まりと同義。それは宿主の神器を扱う技術の向上も意味するが、動機があまりにも不純なのでドライグは実に複雑そうな声を上げた。それとは反対に激昂しつつも早速白龍皇の籠手でヴァーリの半減の力を吸収し、且つ赤龍帝の力で増幅して己のものとするイッセーはそういう技術的観点では冷静に処理していた。

 しかし、それも自分がこの世で最も愛する女性のバストを暴虐の白龍皇から守るために必死で、そっちの意味では頭に血が上っているというまさに「平静と情熱の間」の極致にイッセーはいた。

 

「お前だけは、お前だけは許さない! 部長のあの見事なおっぱいを半分にするだなんて! 絶対に手前ェをぶっ壊してぶっ倒してやる、ヴァリィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!》

 

 力の高まりと同時に、イッセーの周囲の空間が爆ぜる。そして彼のその身には過去に例がないほどの強力なオーラがまとわれていた。それを見て笑うのはカテレアとの戦いを終えてすぐにイッセーの元へと向かったアザゼルである。

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!! なんだよ、そりゃ!? 主サマのお胸のピンチで成長して強くなる赤龍帝なんて聞いたことないぜ! こいつは傑作だ!!! アッヒャッヒャッヒャッ!!」

 

 アザゼルは腹を抱えて、ここが戦場であることを忘れさせるような抱腹絶倒の姿を見せるが、イッセー本人は真剣である。なにせ最近スキンシップは増えてもいざそこから先へと踏み込めないイッセーだ。まだ彼は主の胸の真髄を味わってはいない。

 それを体験する前に壊そうというのだから、これはイッセーにとっては夢を、人生の目標を奪われるのと同義。

 ああ、こいつとは絶対に分かり合えない、とイッセーは思う。ダイスケですらある程度は話には乗ってくれるが、ヴァーリは違う。そしてあまつさえ破壊しようという決定的に分かり合えない相手にイッセーはオーラが乗った指を突きつける。

 その威力たるや、ヴァーリにダメージはないものの、余波でその後方の雑木林の一部が吹き飛ばされるほどである。

 

「俺のリアス・グレモリーに手を出してみろッ! 二度と転生できないくらい徹底的にぶち壊したらぁ、この半分マニアがァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 乳を愛する男の絶叫で雲が晴れ、隠れていた月が顔を表す。もうここまで来ると本物だ。

 

「女が理由で強くなる……こんな奴は初めてだ!」

 

 だろうね、ともしここにダイスケがいたなら同意するだろうが、その想像もする間もなく、イッセーは高められた力をまず筋力に変えてダッシュし、一気に肉薄する。そして位置エネルギーを溜める振り子のごとく腕を引いて―――

 

「これはリアス部長の分!」

 

 ヴァーリの腹部にイッセーの右拳がめり込む。もちろんヴァーリも避けようとはしていた。しかし、神速で動くヴァーリの動きすら、今の乳で高みに立ったイッセーには牛歩のように感じる。

 そしてすかさず直接白龍皇の籠手でヴァーリから溜めていた力を奪い取る。

 

「カハッ……!」

 

 よもや自分の力が自分の脅威となって降りかかるとは夢にも思わなかったヴァーリは、思わず肺から空気を逃がしてしまう。が、これでイッセーの猛追が止まるわけがない。ただの一撃で満足するはずがないのだ。

 

「これは100越えの朱乃さんの分!」

 

 今度は左拳でヴァーリの右顔面側へのフック。この一撃が白い兜のマスクを割った。

 

「これは成長途中のアーシアの分!」

 

 うずくまりかけているヴァーリの背中にある光翼を改めて手刀で薙ぎ払うように破壊。そしてそのまま腹に膝蹴りを当ててその身を高く蹴り上げる。

 

「これは綺麗に整ったゼノヴィアの分!」

 

 イッセーもこれに合わせて高くジャンプし、最後の仕上げにかかる。

 

「そしてこれが……半分にしたら本当に何にもなくなっちまう小猫ちゃんの分だァァァァァァ!!!」

 

 重力と神器能力のブーストによる全身を使った猛タックル。二つの物理的力と怒りの力が合わさったタックルが、ヴァーリを地面にめり込ませた。

 そのあと拳を何発も入れてやったが、それでもまだイッセーの怒りは収まらない。さて、どうしてくれようかと思案した矢先、ヴァーリは再び立ち上がる。

 

「おもしろい……本当に面白い」

 

 口の端の血をぬぐいながら、ヴァーリは不敵に笑う。

 

『ヴァーリ、奴の半減の力の解析は済んだ。俺の力との対照検証で対抗できるぞ』

 

「わかった。ならあのイレギュラーはもう怖くはないな。俺は純粋にぶつかればいい」

 

対策がとれたところで、ヴァーリは構えつつも真剣な表情でアルビオンに問う。

 

「なあ、アルビオン。今の彼が相手ならば、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使う価値があるんじゃないか?」

 

『いや、それは下策だ。そんなことをしたらドライグのほうの呪縛も解かれてしまうぞ』

 

「それならなおのこといいよ、アルビオン。―――『我、目覚めるは覇の理に―――」

 

『やめぬかヴァーリ! わが力に翻弄されるのが貴様の本懐ではあるまい!?』

 

 必死に止めようとし、ヴァーリに怒ってたしなめるアルビオンの必死さにイッセーは覇龍(ジャガーノート・ドライブ)という言葉に懸念を感じた。だが、それでも向こうが何か仕掛けてくる前に決着をつければいい。そしていざ、攻撃を仕掛けようとしたまさにその時、月光をバックにイッセーとヴァーリの間に割り込むように一人の男が舞降りる。

 気配は一切感じなかった。しかし、その京劇に出てきそうな中華風の鎧を着込んだ男は確かにヴァーリをかばうように今そこにいる。

 

「迎えにきたぜぃ、ヴァーリ。ずいぶんとやられてんなぁ」

 

「……何の用だ、美猴」

 

「それゃないだろう。仲間のピンチに遠路はるばるこの島国の一地方に急いでやってきたんだぜぃ? なーんか他の連中が本部で騒いでてようぅ、北のアースガルズと一戦交えるから、こっちが失敗に終わったんならさっさとそっちに行けってよう」

 

 すると、さらにそこへボロボロな銀色の鎧を着込んだ者が空から舞い降りる。マスクが格納されて見えたその顔は、桐生義人だった。

 

「……そうか。お前もか、義人」

 

 ヴァーリの傍らに立った義人の姿を見て、残念そうにアザゼルは言う。

 

「申し訳ありません、アザゼル殿。ですが、俺は――」

 

「いや、お前に宿る者を知りながら、お前の心にまで気が回らなかった俺の落ち度だ。気にすんな」

 

 アザゼルの言葉に、義人は深く頭を下げる。

 

「なぁ、カテレアのほうは勝手にドジっておっ死んじまっただろ? なら観察のお前らもお役御免、俺っちと一緒にまずは帰ろうや」

 

「……わかったよ、なら仕方がない」

 

 勝手に話が進み、帰ろうとするそのさわやかそうな中華青年にイッセーは指をさして尋ねる。

 

「お、おい! いきなり出てきてなんなんだよ、お前!?」

 

「ん、俺っちかい? 俺っちは美猴てぇのよ。はじめましてのこれからよろしくな、赤龍帝」

 

 肩書も何もなしに名前だけをいう男を前に、イッセーの頭の上にはクエッションマークがいくつも浮かんだ。そのクエッションマークを消し去ったのはアザゼルである。

 

「美猴ってのは斉天太聖、闘戦勝仏の最初の名だ。そんでもんってお前にも一発で分かるように言うなら、そいつは西遊記の孫悟空の末裔だ」

 

「は、はい!?」

 

 イッセーが驚くのにも無理はない。なにせ目の前のこの男が誰でも知っている西遊記の孫悟空の血を引いているというのだから。

 

「まあ、正確に言えば孫悟空が美猴王時代に作った子孫で、その力を受け継いだ猿の妖仙なんだがな。しかし世も末だな、伝説の名を継ぎし者が世界ぶっ壊し団の禍の団に御入会とは。いや、「白い龍」と孫悟空なら相性はいいのか? 立場は逆みたいだがよ」

 

「ははっ、そいつは言えてらぁな。だが俺は俺、初代は初代さね。俺っちは自由気ままにふらりふらり筋斗雲のごとしってな! そんじゃ、あばよ」

 

 そういってヴァーリをそばに寄せると、足もとにタールの沼のようなものが現れて三人の姿がみるみると沈んでいく。幻術かはたまた仙術か妖術か、正体は測り兼ねるもののイッセーはあわてて追いかけに行く。

 

「おい、手前ェ! まだ終わっちゃ……『パキン!』―――へ?」

 

 急いで追おうとするも、聞こえた何かが割れる音でその歩みを止める。すると、ほぼ同時にイッセーの禁手化が強制的に解除されてしまった。

 

「これで、終わり……? ウソだろ!?」

 

 アザゼルが渡した神器安定化の腕輪がこのタイミングで使用限度を超えてしまい、自壊してしまったのである。

 追う手段も、戦う手段も喪失してしまったイッセーは、もはやただ黒いタール状の物体が消え去るのを黙ってみるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ダイスケは傷ついた身体をリリアとヒメに支えて貰いながら、本陣になっている新校舎に向かっていた。見ればサーゼクスやミカエル、そしてアザゼルが、迷彩服を着た集団相手に何やら口論している。

 

「だ、ダイスケ! 今はマズい!」

 

 ダイスケに気付いたイッセーが引き返すように支持するジャスチャーをするものの、それに気付いた迷彩の集団がダイスケに銃を突きつけて取り囲んだ。

 

「ゴジラの獣転人だな?」

 

「……そうですけど、貴方は?」

 

「宝東会旗下、特生自衛隊所属の黒木という。悪いが、君の身柄を拘束する」

 

 なるほど、ミコトが言っていたことがこれで体感できた。彼らが旧世界の、それもゴジラと戦った者たちの転生者なければここまでダイスケに明確な敵意を剥けることは出来ないだろう。

 

「貴方もゴジラと戦って殺されたクチですか」

 

「いや、幸運なことに私はゴジラとの戦闘で死ぬことはなかった。だが、その脅威はこの魂に刻み込まれている。そして、ここにいる隊員達はみな同類だ。中にはゴジラに殺された記憶を持つ者もいる」

 

 それを証明するように、銃を構える彼らの表情は一様に傷だらけのダイスケに対して恐怖していた。なにも知らない者からすれば、手負いの者にすることではない。だが、彼らはダイスケの魂のルーツを知っている。そのルーツはまさに破壊と滅びの権化、恐れない方がおかしいのだ。

 

「君には悪いが宝田大助君、君の身柄を拘束させて貰う。今後、君の身柄は日本政府が宝東会の名において管理することになる」

 

 その黒木の言葉を合図に、複数の自衛隊員が専用に作ったと思われる拘束具を持ってダイスケに近づくが、サーゼクスとヒメがそれを制止する。

 

「待ちなさい! 彼は現在我がグレモリー家で身柄を預かっている。いかに国籍はそちらにあると言ってもこれは人権無視の暴挙だ!」

 

「話が違うぞ、人の子らよ! 彼の者と接触し、意思を確かめた時点で妾が彼の者を監視し、庇護下に置くというのは欺瞞であったのか!?」

 

「サーゼクス殿、これは人権以上の問題です。彼の中の力をこのまま目覚めるに任せれば、この地球に甚大な被害を与えるのは必定。そしてヒメ様、これは実際に彼の力を見た我々の意思です。あの時の状況とは違います――連行しろ」

 

 拘束具がダイスケに迫る。それを阻止しようとダイスケを知る者達が一様に彼を庇うように盾となって両者はにらみ合いとなった。まさに空気は一触即発。そんな中、一人の老人の声が響く。

 

「待ちなさい、黒木特佐。拘束の判断は私が見てからでもいいだろう」

 

 老齢であることがわかる声であったが、しかしハッキリと聞こえる通った声。その声に、黒木が振り向き驚いた。

 

「新堂会長! なぜここに!?」

 

「なに、君は信用できるがいささか勇む嫌いがあるからな。他者の評価を気にせず、正しいことを実行しようというのは評価できるが、それでは敵を作るだけだよ黒木特佐」

 

 そう言いながら柔和な表情で新堂はダイスケに近づく。

 

「サーゼクス殿、彼に少し確認したいことがあるのです。よいですかな?」

 

「……彼に危害を加えないのであれば」

 

 サーゼクスに会釈すると、新堂はダイスケの前に立つ。

 

「宝東会会長、新堂靖明だ。よろしく、宝田大助君」

 

 そう言うと新堂はダイスケに右手を差し出す。その右手をダイスケは戸惑いながら握り返す。その瞬間、ダイスケの脳裏にあるイメージが流れ込んできた。

 まずは、南海の孤島の密林。傷つき、横たわる自分の傍らに目の前の老人が若い姿と軍服に身を包んで立っていた。彼の後ろには部下と思われる兵士達が百人ほど並び、自分に対して感謝の眼差しを送っていた。

 そう、自分は彼らを結果的に助けたのだ。たまたま彼らの敵であった者たちがこの島を大いに荒らしたため蹴散らしただけであったのだが、それでも彼らは自分に感謝していた。

 風景と時は変わり、今度は燃えさかる街にそびえる一つの高層ビルの前。その最上階に今と変わらぬ姿の老人がただ一人自分に視線を向けていた。先の風景から今はずいぶんと時が経った。そして、彼も変容していた。

 彼が作り上げた物はまさに傲慢の塔。ひとリの人間が持つには有り余るその力は本来の国の有り様を超え、人の良心から逸脱した物だった。

 なぜこうなった。あの真摯な眼差しを持ったお前が、今はただ力を振り回す怪物。これじゃ、お前は俺と変わらないじゃないか。

 そんな自分の悲しみを理解したのか、彼は介錯を頼むように目をうるわせて頷く。そして、彼は青い閃光の中に消えた。

 

「――そうだ、俺は……貴方を」

 

「……思い出したようだな」

 

 流れ込んだ過去の記憶からダイスケは今に戻る。そして、大きなショックのせいで新堂の手を握ったまま崩れ、膝をついていた。

 

「これはいったい……なにをしたのです」

 

「心配は無用、サーゼクス殿。ただ、転生者である私に触れたことで旧世界の記憶が蘇っただけのこと。立てるかな、君」

 

 手に力を入れて、ダイスケを立たせる新堂。しかし、ダイスケは立てなかった。涙に震え、新堂に縋る。

 

「自分だって……同じじゃないか。人間が憎いのはわかる。でも、その力を無辜の人間にも向けた自分だって同じ怪物じゃないか。貴方を断罪する資格なんてないのに……!」

 

 そのダイスケの言葉に、新堂は首を横に振る。

 

「それでも、私はあの時救われたのだよ。君に救われたあとの私は力の意味をはき違え、増長し、そして国を誤った方向に導いてしまった。もはや贖罪の道も絶たれた私を、君は罪ごと消してくれたのだ。だから、あの時はあれで善かったのだよ」

 

 そう言いながら、新堂はその老齢に見合わぬ力強さでダイスケを立たせる。

 

「そして今解ったよ。そうやって痛みと悲しみを感じる心がある君なら、その身に宿ったゴジラの力を誤った方向には使わないだろう。だな、特佐?」

 

「は、しかし……」

 

「私たちが警戒していたのはゴジラの獣転人がその力に溺れ、無秩序な破壊をこの世にもたらそうとするような輩であったときだ。彼ならその心配はないだろう。何かあれば、私が責任を持って腹を切る。それで良いだろう」

 

「最高意思決定者である貴方がそう言うのであれば、甘んじて受け入れましょう」

 

「ありがとう、特佐。そういうことです、せーゼクス殿、アザゼル提督、ミカエル殿。貴方方が和平を望むのなら、喜んで宝東会は日本政府を代表して協力します。宝田君についても貴方方にお任せいたします。よろしいですか?」

 

 新堂の問いに、サーゼクスは頷く。

 

「そういうことであれば、私個人としてもありがたい。二人もよろしいか」

 

「ええ、天界としては全く問題ございません」

 

「堕天使としても問題はない。さて、話し合いのつづきと片付けといこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦20XX年七月某日。

 ミカエル、アザゼル、サーゼクス・ルシファーの三名の三大勢力各代表、そして会談開催地の国家を代表した新堂の立ち会いにより、和平協定が結ばれる。

 以降、天使、堕天使、悪魔間での抗争は基本的に禁止事項とされ、協調体制が結ばれることとなる。

 なお、本協定は会談場所となった駒王学園から名をとって『駒王協定』と呼称されることが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんなこんなで今日から俺がこのオカルト研究部の顧問となった。気軽にアザゼル先生と呼べ」

 

「いや、その「そんなこんな」を詳しく説明して欲しいんですけど。なんであんたここにいるのよ」

 

 お前は魔力等で片付けできないからと帰宅させられ、後に何が起きていたのかさっぱりなダイスケが返す。

 アザゼルは一言であっさりと済まそうとしていたが、実際には一言では済まないほどの多くの出来事があった。まず、イッセーはあることをミカエルに頼んだ。アーシアとゼノヴィアが神に祈る時に、ダメージを負わないように頼んでいた。もともと敬虔な信徒であった二人は、普段から何かあるたびに祈る癖がある。そのせいで日常的に頭にダメージを負っているのだ。

 ダイスケからすれば祈らなければいい思えるだけの話だが、当の本人たちからすれば大問題である。そのことに関して、イッセーは普段からアーシアと生活している分心配していたのだろう。この事をなんとかできないものかとミカエルに相談したのだった。するとミカエルは二人に「神が不在だと知った今でも、祈る気持ちは変わらないか?」と聞いた。無論、二人の答えは是である。それを受けて世界を管理する“システム”の一部を少々弄って解決してくれることを約束してくれた。

 このことに関してダイスケは非常に感心した。普通であれば「祈らないように気をつけろよ」というだけで済まそうものだが、よくぞイッセーはミカエルに直談判したものだなと心密かに感心したのだ。

 次にあったのが事後処理だ。これが一番大事である。突如として現れたテログループ“禍の団”に関する情報収集に各方面への警戒の要請。

 それに呼応した各神話勢力への協力の要請と同盟の締結への始動。そして、各地に潜んでいるであろう怪獣と、獣具保有者の探索である。ただ、ただでさえ人目につかない秘境に潜んでいるであろう怪獣の探索は非常に困難である。故に、これに関しても各神話勢力の協調が採られることとなった。さらに、木場たっての願いにより、聖剣に関する非人道的な実験も今後決して行わないことも確約された。恐らく世の中少しはマシになるようになってきた、ということだろうか。

 

「まあ、禍の団なんて連中が出てくるような世の中だ。これでようやく釣り合いが取れたってことだろうさ」

 

 ダイスケの心中を察したかのようなアザゼルの一言である。確かに一つの勢力の内輪がうまくいくようになったくらいで世の中そうそう良い方向にはいかないだろう。だが、世の中の膿がある程度一箇所に集まる状況になっているのは確かだ。この膿をなんとかすれば少しはより良い世の中にはなるだろう。

 

「俺がこの学園に滞在する最大の理由は、この学園にいる未成熟な神器保有者を正しく成長させるとこだ。まあ、俺の神器マニア知識が世のため、人のためになるってことだ」

 

「ってことは、最終的に俺はもう一度ヴァーリと戦うことに……?」

 

「その通りだイッセー。っていうか、お前らオカルト研究部が将来的な禍の団に対する抑止力になりうると各方面から期待されている。特にダイスケがこちら側にいるっていうのが大きいな」

 

「すいません、自分記憶の限りでもライバル候補多すぎで抑止力になれそうにないんですけれども。いずれ殺されそうなんですけど」

 

「知ってるさ。でもその分、お前に注目が集まって俺としては助かる。ついでに強くなればいいじゃん」

 

 全世界の神々相手に大暴れした者というだけで、メカゴジラ以外の存在しうるライバル候補にプラスして敵が多い(かもしれない)ダイスケからすれば悪夢だろう。

 

「まあまあ、いざって時は私もいるよ?」

 

「すいません、その時は何卒……」

 

 笑顔で助力を申し出るミコトに、ダイスケは五体投地をするかのごとき勢いだ。

 

「だが、問題は連中の規模だ。ヴァーリが自分のチームを持っているっていうのは間違いない。解っているのはヴァーリ、美猴と数名。ほかの構成員の事も考えると集団戦になる可能性も出てくるな」

 

「じゃあ、ヴァーリ達はまたここへ徒党を組んで攻め込んで来るってこと?」

 

 リアスの問いに、アザゼルは首を横に振る。

 

「いや、三大勢力のトップを一度に討つ集まる絶好の機会を逃した以上、ここにはもう用はないさ。奴らの当面の相手は天界と冥界だ。まあ、冥界は悪魔と堕天使が手を組んでるし、天界には天使たちだけじゃなく居候している神獣たちもいる。赤と白の雌雄を決するのはまだまだ先。しばらくはこの学園も平和だろう」

 

「静かな戦争状態ってことね……」

 

「まあ、まだ小競り合いの規模、そしてお互いに準備期間ってとこだ。お前ら全員が大学部を卒業する時分でもなければ本格的な抗争は起きないさ。学生生活を満喫できる時間はあるから安心しな」

 

「そうっすか……」

 

「まあ、イッセーよ。お前は頭が足りないんだから、深く考えるな。お前の敵はあくまで白龍皇ヴァーリだ。それを忘れなきゃ十分だ。だがダイスケ、お前は違うぞ。どこのどんなやつがお前の敵になるかわからないんだからな。まあ、白昼堂々と怪獣王を奇襲しようっていうバカはいないだろうけどさ」

 

 言われなくとも、ライバル候補は山ほどいるゴジラである。イッセー以上の警戒と鍛錬が必要になるだろう。まあ、その分経験値が増えると考えたほうが幸せだろう。

 

「それとだ、イッセー。今回勝てたのはヴァーリが油断してくれてたのと、アスカロンがあったおかげだ。それと、取り込んだ白龍皇の力も鍛錬しなけりゃ使えんぞ。それからスタミナもだ。これはグレモリー眷属全員に言えることだ。あのヴァーリだって禁手を一ヶ月は持たせられるんだからな」

 

「一ヵ月!? 俺なんてまだほんの数秒なのに!?」

 

 ヴァーリとの実力差というものを改めて思い知らされたイッセーだが、よくよく考えれば今回は眷属の半分が役立たずとなる結果に終わっている。

 戦えたとしてもダイスケは偶然のご都合主義的に発言した能力で一時的な勝利をしただけ、イッセーは敵の油断のおかげで勝ち、木場とゼノヴィアは自分の能力の研さんの至らなさを痛感させられている。あまつさえ一名は自身の能力を使いこなせていない所為で足でまといにまでなってしまった。

 

「まあ、現状は酷いにしても、それを正すために来たんだ。大船に乗ったつもりでいろ。そのためには自分の力がどのようなものなのか知り、受け入れることから始まるわけだが――」

 

 言いながらアザゼルの視線は朱乃へ向かう。

 

「なあ、朱乃。まだ俺たち堕天使が……いや、バラキエルの奴が憎いか?」

 

「……許すつもりはありません。母はあの男のせいで殺されたのですから」

 

「――まあ、いまはそれでいいだろうさ」

 

 事情を知っているイッセーが複雑な表情に変わる。ダイスケも以前の折檻のさなかに父との確執があるらしいことは聞いていた。

 だが、それ以前に自分の事で手いっぱいになるダイスケからすればそれは朱乃に惚れられているイッセーが思い悩むことである。折檻の恨みもあるのですぐ気にしないことにした。

 

「それからな、他に襲ってきた連中いただろ。あいつら、やはり赤イ竹だったよ。ダイスケ関連で聞いてるだろ、連中のことは」

 

「ええ、お兄様からね。……なにかあったの?」

 

「ああ、連中が神器擬きの武器を使っていたのは覚えているだろう。あれを所持していた戦闘員ほぼ全員が捕縛後死亡した」

 

 全員死亡、という言葉に全員が騒然となる。こういう場合考えられるのは機密保持を目的とした自害だ。そこまで団結が強いということなのかと戦慄したが、どうやら違うらしい。

 

「死亡した原因はあの神器擬きだ。あれは脊髄に直接人間のオーラを変換する装置と、変換したオーラを増幅する装置が埋め込まれているんだが、それらが血液汚染を引き起こすんだ。その結果、フルで戦えるのは二時間ちょっと。それ以上は臓器不全で死亡確定だ。戦車には血液浄化装置があったが、それも壊されればおじゃんさ」

 

「……信じられねぇ。なんでそこまでして」

 

「ダイスケよ、奴らの目的は聖書通りにこの世が終わることだ。それを信じるためなら命を投げ出す。これは殉教を超えて狂信だよ。そういう奴らがお前を狙っている。だからこそ――」

 

「――強くならないと、ですね」

 

 イッセーの一言に、全員が頷く。いずれ来る戦いの日々に決意を新たにした一同には、まずは夏休みが待っていた。




 はい、というわけでVS29でした。
 まさかの量産獣具ですが、これはオリジナルの怪獣が人間を元にした怪獣だから親和性が強いのです。他はこうはいきません。ちなみに出てきたのは「
不死人造人の心臓(フランケンシュタイン・ハート)」、「
山野の不死人造人(ガルガンチュア・サンダ)」、「
海洋の不死人造人(ガルガンチュア・ガイラ)」の三つです。出しにくいフランケンシュタイン系怪獣を出す苦肉の策です。多分ゴジラクロス物にはそうそうでないです。
 新堂の記憶に対するダイスケの言葉は、彼が人間だからです。魂はゴジラとはいえ、彼自身はゴジラですから人間の視線に立っているのでああいう発言をしました。だからこの作品は他のゴジラクロスとは全く違います。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。