私はぁ……神だァァァァァァァ!!!(どこかの壇黎斗)
課されたデータ収集テストを驚異的スピードでこなし、ダイスケは予定より一日早くグレモリー本邸に戻ってきた。そして、リリアのことを尋ねるためにグレイフィアを探す。
荷物を取りに来たメイドに自分の荷物を預け、すれ違う使用人達全てにグレイフィアの居場所を尋ねる。そして向かったランドリー室でグレイフィアは別途のシーツを広げて干していた。
「あら、どうされました? 特訓の方は?」
「全部こなしてきました。……リリアのことを訊くために」
「ダイスケ様、その事は――」
「決めたんです。どんな秘密があったとしても、俺はそれを受け入れるって。あいつは嫌かもしれないけど、俺は知りたい。それで、出来るなら一緒に背負いたい。独りよがりだってわかってるんです。それでも、俺は――」
必死にグレイフィアを説得しようとするダイスケ。その必死な様子を見て、グレイフィアはため息をつく。
「――わかりました。あの子には恨まれるでしょうけど、貴方に話しておきましょう。但し、この仕事が終わってからです。全て終わったらゆっくり話しましょう」
「……はい! 手伝います!」
ダイスケも手伝ったことで作業は三十分ほど終わり、グレイフィアは自分の部屋にダイスケを招いた。ダイスケは小さな部屋の中の椅子に座り、グレイフィアはそこに紅茶の入ったポットとカップを持ってやってくる。
「一応訊いておきます。この話は聞いていて不愉快になる話です。それでも本当に――」
「わかっています。……お願いします」
そしてグレイフィアが語ったのは今から8年前の出来事であった
グレモリー家に限らず、どこの有力悪魔も人間の願いを対価を払って貰うことで叶えている。働くのはその悪魔の眷属だが、中には性的な目的に悪魔を召喚しようとするものいる。
眷属悪魔の中には主、または別の者と交際している者もいたり、主が眷属にそう言う仕事をさせるのを嫌がる悪魔がいる。そんなとき、その家に所属するサキュバスが代行出動する場合がある。リリアは、そんなグレモリー家に所属するサキュバスの一人であった。
リリアは元々孤児で、偶然ヴェネラナが保護して育てていた。やがて九歳の時にサキュバスであることがわかり、リリアは恩を返すために進んでサキュバス業を請け負うことにした。
丁度、サーゼクスの元に性的な依頼が舞い込み、保有する眷属はほぼ男でグレイフィアも内縁の妻であったことからこの一件がリリアの初仕事となった。依頼内容も「十代以下の幼女がいい」ということだったのでリリアが率先して手を上げたというのもある。
その時のリリアの気合いの入りようといったら目を見張るほどで、サキュバスの先輩達は皆笑顔で見送ったのだという。
しかし、いつまで経ってもリリアが帰ってこない。依頼主に連絡を入れても応答がなく、リリアを強制帰還させようとしても術式が反応しない。これを緊急事態と判断したサーゼクスは即座にレスキュー部隊を派遣した。
リリアを発見したのはとある人間界の山奥にあった研究施設だった。遮蔽魔術が施されており、発見は困難を極めたが、リリアの魔力の痕跡を辿ることでようやく施設を特定できたのだ。
そして突入したレスキュー部隊が目にしたのは凄惨な光景だった。小さなリリアの肉体に痛々しい切開と縫合の跡が残り、電極針が何本も刺された状態で保護液槽の中に寝かされていた。繋げられた心拍計には弱々しい反応が映されており、危険な状態だということがわかった。
そう、召喚主の目的は性的倒錯を発散させるためのものではなかった。悪魔を知識欲求を満たすために召喚し、人間なら死んでしまうような実験行為をして愉しんでいたのだ。小さな幼女の悪魔を求めたのも発育前の悪魔がどういう構造をしているのか調べるためだけ。ただそれだけだったのだ。
召喚主であった男は即座に収監され、現在も冥界の刑務所に厳重な懲罰の元に管理され、保護されたリリアもすぐに治療を受けて傷跡からなにから全て治癒し、回復した。
しかし、心はそうはいかない。よほど恐ろしい目に遭ったのだろう、以降は極度の男性恐怖症になってしまい、サキュバスとしての仕事は無理と判断、ヴェネラナ付きのメイドに配置換えになった。しかし、本邸で仕事をするにも嫌でも他の男性悪魔と顔を合わせることになる。これでは仕事にならない。
そこで、丁度同じ時期にグレモリー家に保護され、北欧の別邸で預かっているダイスケの世話係するのはどうかとジオティクスが提案したのだ。同い年ならばまだ拒否反応が出ないのではないかということで、リハビリも兼ねてダイスケ付けとして派遣されることになる。
初めのうちは他の年上のメイドに離れないよう、そしてダイスケとも目を合わせることのないようにして仕事をしていた。しかし、ダイスケは幼いながら、そして客賓でありながら率先して家事の手伝いをしていた。
黙々と作業し、怯えるリリアの仕事も黙って手伝う。さらに、リリアが困ったときにはすぐに駆けつけてダイスケは彼女を助けた。
その姿を見た結果、自然とリリアは男性としてはダイスケだけに完全に心を開くようになったのである。
「……そういう……ことだったんですか」
手に持ったカップの中の紅茶は、すでに人肌の温度まで冷めていた。その壮絶なリリアの過去に、ダイスケは茶を口に入れることを忘れ、ただカップを玩ぶだけだった。
「彼女は三日前から仕事に復帰しています。会って話してみますか?」
「……とりあえず、謝ってはおきたいです。俺は気にしない、なんてなにも知らずに言っていましたから。自分で探して話します。」
そう言ってダイスケは手にしたティーカップを一気に呷る。
「ごちそうさまでした。話してくれて、本当にありがとうございました。失礼します。」
カップを受け皿に置き、ダイスケはその場を辞した。そして、リリアを探して城内を歩き回る。
恐らく男性が縁のないような仕事があるところにいるはず、と思ってダイスケは思いつく限りの所を探し回る。キッチン、洗濯室、ヴェネラナやリアスの部屋がある棟周辺とひたすらすれ違うもの全員に尋ねながら歩き回っていく。
そして、ついに廊下でリリアの姿を見つけることが出来た。
「リリア」
呼び止めると、その声に気付いてリリアはビクッと震えて振り向く。
「ダ、ダイスケ様……?」
「調子悪いって聞いたから、さ。仕事できるくらいは元気で良かった。」
「あ、あの、先日は急に立ち去って申し訳ありませんでした。バスケットやポットも片付けを押しつけてしまって……」
「いいんだ。猊下も「すまなかった」って仰ってたからさ。……それより、この前は迂闊に「気にしない」とか言って、ごめん。なにがあったのかはグレイフィアさんから聞いた。……辛かったよな」
その言葉を聞いてリリアは顔を伏せる。
「……グレイフィア様からお訊きになったのですね。私の、男嫌いの理由。ごめんなさい。もし貴方に知られたら――この関係が壊れるのかと思って」
その声は徐々に震え、涙が溢れそうな声色になっていく。
「だって、私は男を淫らに誘うサキュバスで、傷だらけにされた過去があって、それなのに自分に良くしてくれたヒトに自分を守ってくれるんじゃないかって――そんな矛盾している自分が情けなくて――」
廊下に一滴ずつ、小さな雫が落ちていく。
「きっと私は、貴方の影に隠れて生きることを望んでいたんです。それで、「貴方だけ特別だ」みたいな態度を貴方にとって……男性に恐怖していながら、貴方に勝手に期待していたんです。淫魔の本能と本性で」
リリアは顔を上げて、無理に作った笑顔をダイスケに向けた。
「わたし、これからは貴方に縋って生きるようなことはやめます。男の人はやっぱり怖いけど……それでも、ここの仕事ならこれまでもなんとかやってこられたんです。自分一人で生きて生きるように頑張ります。ですから――私と貴方は、これからはただのメイドと客人です。……失礼します、仕事がありますので」
そう言ってリリアは廊下の先へ消えていく。
どれほど彼女が怖い思いをしたのか理解していたはずだった。そんな彼女が自分を支えにして生きていたこともわかった。なのに、それを捨てる選択をした彼女を止められなかった。
なにも言えなかった。なまじ、彼女のことを知ってしまったから。
彼女を助けようとするには、ダイスケには人生経験というものがなかった。だからこそ、自分の無力さをダイスケはひたすら悔いた――
*
今日は特訓の成果の報告のためにグレモリー邸に集合する手筈になっている。先日一番乗りしたダイスケは他にすることもないので本邸前で待ちぼうけていた。
不意に巨大な影が現れ、ダイスケの目の前で着陸する。それは巨大なドラゴン、タンニーンだった。その背には上半身裸のイッセーが乗っていた。
「おお、ダイスケ! 先に来てたんだな。」
スッとタンニーンの背から飛び降りるイッセー。その姿は以前より精悍になった印象を受ける。
「おう。にしても、お前筋肉付いたな」
「まぁな。聞いてるかも知れないけど紹介するよ。タンニーンのおっさんだ。おっさん、こっちは宝田大助。話してたろ、ゴジラの獣具の持ち主」
「ああ、よろしくな。俺はタンニーン。いずれお前の力も見てみたいものだ」
「……その時はお手柔らかに」
タンニーンの口の端からちらりと炎が見えたのはきっと気のせいだろう。
「それはどうかな。――俺はこれで失礼する。魔王主催のパーティーには俺も出席する。その時にまた会おう、兵藤一誠、そしてドライグと宝田大助」
「うん。今日までありがとうな、おっさん! 会場でまた!」
『相棒が世話になった。感謝する、タンニーン』
タンニーンはイッセーとドライグを一瞥すると、イッセーたちを自分の背に乗せて会場入りする約束をし、飛び去って行った。
『誇りあるドラゴンが自ら他人を背に乗せようとはな。甘い龍王だ』
「でもいいヒトだと思う。なんていうか、ドラゴンッ! って感じがしてさ。同じドラゴンでも元人間のひょろい俺と神器の一部じゃ違うって」
飛び去って行ったタンニーンを憧れの存在を見るかのような目で見送るイッセー。
「まぁ、俺からしたら同い年で比べればお前はほんとにすごいと思うけどな」
「な、なんでよ?」
「そりゃあアーシアも、部長も、姫島先輩も支えてるだろ? 聞いたぜ、倒れた小猫の見舞いにも行ったって」
「支えるって……我武者羅にやった結果が今に繋がってるだけだって。小猫ちゃんについても、眷属仲間だから当然だし」
「我武者羅にやって今がこうなってるのがすごいんだって。俺が同じことしても……」
「……なんかあったのか?」
ダイスケは、首を横に振る。
「……俺じゃだめだ。だめだったんだよ。お前みたいに出来るんじゃないかって思ったけど、俺は……」
「ダイスケ……?」
普段のダイスケからは想像もできない自信のなさが見えて驚きが隠せないイッセー。何か言わなければ、と口を開いたその時、木場の声が聞こえてくる。
「やあ、久しぶり……ってなにかあった?」
不穏な雰囲気を察した木場が尋ねる。
「まぁその、ちょっとな……」
「……? ――それにしてもイッセー君、いい体になったね」
イッセーの半裸を熱の篭った視線でまじまじと見る木場にイッセーは危険を感じ、一歩引き下がる。
「や、やめろ! そんな熱が篭った眼で俺を見るなぁっ!!」
「そ、そんな、筋肉が付いたねって言いたかっただけなのに……。僕って肉が付きにくいから純粋に羨ましいだけだよ。ダイスケ君もなんだか前と違うし。まあ、今はちょっと気落ちしているみたいだけど」
「……まぁな、ちょっと自分の至らなさに自己嫌悪をというかなんというか……ってなんだアレ!?」
ダイスケの視線の先にはゆらゆらと全身包帯ぐるぐる巻きで歩くミイラの姿があった。ちらりと見え隠れする青い髪でそれがゼノヴィアであるとすぐに気付けた。
「おぉ、イッセーと木場とダイスケか」
「おぉ、じゃねぇよ、お前の登場のせいでシリアスな雰囲気消し飛んだぞおい。何がどうしてそうなったんだよ」
「聞いてくれるかダイスケ。実は修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いていたらいつの間にかこんな風になっていてな」
「いつの間にかもなにも予想された結果だよな。修行した結果がミイラってなんなんだよ」
「失敬なイッセー、私は砂に埋もれて永久保存されるつもりはないぞ」
「そういう意味じゃねぇよ! ――でもゼノヴィアのオーラ、前より静かで厚みがあるっていうか……っていうか、木場とダイスケのオーラも濃くなっている気が……」
あれ、これって修行の成果?と首を傾げるイッセー。そこへアーシアはその場にいる者たちの名を呼んで駆け寄ってくる。
「みなさーん! お久しぶりで……ってイッセーさん!? なんで上半身裸なんですか!?」
「見慣れてるからいいだろ?」
「見慣れてるとかの問題じゃないです! 何か着る物をとってきますから!」
実際、家でイッセーの裸など見慣れているはずのアーシアが恥ずかしがって急いで本邸に駆け込んだ。おそらく公衆の場で上半身裸であることが恥ずかしかったのだろう。アーシアが服を取りに行った後、姿を現したのはイッセーが最も会いたかった人物、リアスである。
「みんな、お疲れ様」
「部長ぉぉぉぉぉぉぉ会いたかったスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
目にもとまらぬスピードでリアスの傍へ駆け寄るイッセー。それをリアスは愛おしそうに抱き寄せる。
「イッセー、逞しくなったわね……胸板が少し厚くなったかしら」
久しぶりの感触に、興奮度はいきなりマックス大変身のイッセー。女っ気ゼロの殺伐とした生活を送っていたので感動もひとしおなのである。
「さあみんな、入って頂戴。身支度を整えたら修行の結果報告会をしましょう」
*
小猫とイッセーの距離がいつもより若干遠い中、イッセーの部屋にて報告会は開かれた。
禁手への未到達。イッセーにとっては情けない限りの結果ではあった。しかし、禁手という現象そのものが稀有のものである以上、致し方がないであろうというのがリアス並びに眷属たちの見解だった。
しかし、何より注目を浴びたのはイッセーとダイスケの特訓前半のサバイバル生活っぷりであった。ゼノヴィアや木場も野外で鍛錬をしていたものの、生活の拠点はグレモリー家の所有する山小屋やロッジであった。
とにかく二人の野生児っぷりにみんな引いた。
「あれ、俺屋根も布団も何もない、でかい葉っぱ一枚で寝てたんだけど……」
「バカだな、お前。寝床は自分で作るものだぞ。木の枝と葉っぱでシェルター作ってさぁ」
「いやいや、俺飲み水沸騰させて殺菌消毒してたよ?」
「情弱だな、水はミズゴケを絞るんだ。それか動物の血で代用が基本だろ」
「それぐらいなら俺だって冥界産のウサギとかイノシシ解体したぜ?」
「勝った、俺ミノタウロス。気分的には殺した人間をさばく猟奇殺人者の気分だったよ」
「残念、俺なんて元龍王のドラゴンに隕石クラスの威力の炎を吐かれ続けてひたすら逃げてましたー」
「それだったら俺も……あ、これ言えねぇんだった。兎に角この世のエラーに切り刻まれまかれましたー。十秒に一回は大量出血か四肢切断ですー」
小学生のように互いに自慢するサバイバルの内容に、ただただ引いているグレモリー眷属+主たち。アザゼルなどは自分で指示しておいて引いているのだからひどい話だ。
「自分で指示しておいてなんだけど、お前らよく耐え続けたよな。ホント。イッセーなんて途中で逃げ出すだろうって予想してたんだが、よく山に順応できたよな。ダイスケもアレ相手によく目標達成できたよ、ほんと」
「えええええええええ!? そんな予想建ててたの!? 必死になって俺サバイバルしてたのに!?」
「ちょっと待てオッサン。なんか「これでダメだったら殺す」みたいなこと言われたんだけどあれはなんだったんだよ」
「だから驚いてるんだって。逞しすぎだぞお前ら。完全に想定の範囲外だ」
「「よし、ちょっと表に出ろヒゲ」」
完全に今の言葉でトサカに来た二人。すでにアザゼルもヒゲ呼ばわりである。
「大体出発の時点で俺は拉致されてるからね!? 知ってるか? タンニーンのおっさんの手の掴まれ心地! 命も掴まれてるって感じるから!」
「まだいいだろ、俺なんてここから特訓場まで徒歩だぞ、徒歩」
「なにか!? 寝てる時も奇襲されるのがマシってか!? お前みたいな回復能力のない俺が何度死にかけたか! ブレスが、山火事が襲ってくるんだぞぉぉぉ!!」
PTSDにでもなったのか、涙を流してイッセーは訴える。
「かわいそうなイッセー……さ、こっちに来なさい。耐えきったご褒美に抱きしめてあげるから」
「部長ぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
リアスの胸に飛び込むイッセーは何とも幸せそうである。まるで怪我して泣いて親にあやされる子供だ。
「だが、出発前よりもずいぶんと体ができてきている。この分ならいざ禁手に至ったって時にもだいぶ鎧を維持できるだろう。なんというか、もっと劇的な変化が必要だったんだろうな。ドラゴンと接することでそれが得られると思ったんだが。本当だったらもう一か月……」
「無理! さらに一か月なんて俺は部長欠乏症で死ぬ!!」
子供の用にイッセーはリアスの胸の中でいやいやと首を振る。ほんとに子供か。
「本当に辛かったのね。あの山には名前がなかったけど、「イッセー山」と名付けましょう」
「まあいい、報告会はこれで終了。明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」
アザゼルの一言で報告会は終わりとなった。
*
五大龍王、という概念がある。
これは地母神ティアマト、西海龍王敖閨が息子
本来は六大龍王であったが、タンニーンが悪魔に転生したため五大龍王となったのだ。
一つはレーティングゲームで多くの実力者たちと戦うため、そしてもう一つが――
「ドラゴンアップルという果物があってな。そのためだ」
イッセーとダイスケはタンニーンの頭上にてパーティー会場のホテルに向かう道すがら彼の話を聞いていた。彼の後ろには従者のドラゴンたちが十体連なり、グレモリー眷属と同行するシトリー眷属をその背に乗せている。
「その名の通りドラゴンが食す果実だが、ドラゴンの仲間にはこれしか受け付けないというものもいる。しかし、人間界の者は環境の激変で絶滅してしまった。もはや冥界にしか実らないものとなってしまったんだ。そこで俺は悪魔に転生すると決めた」
「……なんでそこまでする必要が?」
「宝田大助よ、ドラゴンというものは暴力そのもの。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。ドライグとアルビオンが神器に封印されたのがいい例だ。ただで果実を分け与えてくれるものではない。だから俺は悪魔となり、のし上がって上級悪魔となり、そして果実の木が生える区画を頂戴したのだ。上級悪魔以上となれば魔王から冥界の一部を領土とさせてくれる。そこに目を付けたのだ」
「じゃあ、餓えかけたドラゴンたちはおっさんの領土に?」
「ああ、おかげで彼らは絶滅を免れることができた。それに人工的に栽培する方法も研究させている。特別な果実故困難だろうが、それでも未来につなげることができるのなら続けていくさ」
淘汰されるはずだった種族のために、誇りを捨てて未来につなげたタンニーンに、イッセーは素直に感動していた。
「――いいドラゴンなんだな、おっさんは」
「いいドラゴン? ガハハハハハ! そのように言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの賛辞とは恐れ入る! しかしな、同族を守りたいと思うのは人間も悪魔もドラゴンもみな同じ。俺はそれに倣い、力なきドラゴンを救いたいと思ったにすぎんのだ」
「ノブリス・オブリージュってやつか」
ダイスケが言う。
「ひとくくりにすればそう言える。ただ、そこまで崇高なものじゃない。お前たちの心のどこかにもあるものだ」
しかし、イッセーは首を横に振る。
「いや、それでもすごいよ。俺はただ、やみくもに上級悪魔になってハーレム眷属を作りたいって思っているだけだ」
「俺もだ。俺が強くなりたいのはただ、守れる者を力で守りたいって考えてるだけ。だからそれ以上なんて……。だから俺はリリアにも……」
「ダイスケ……いや、それを言ったら俺もか」
お互いに何があったのか、すでに一部だが教え合っているからどうしてダイスケが気落ちしているのかイッセーにはわかっていた。イッセーはダイスケがリリアと何があったのかを、ダイスケは小猫が猫魈であり、力を暴走させはぐれとなった姉と自分が同じようになるのではないかと苦悩しているということを知った。
しかし、お互いにかける言葉が思いつかない。そこへ口を開いたのはタンニーンであった。
「いや、若いうちはそれでいい。雄であれば雌や富を求めるのは必定。己の場を守ろうとするのも本能だ。それが動く原動力となるのならばそれでいいではないか。しかしな、兵藤一誠、宝田大助。二人ともそこを最終目標にするのはもったいないぞ。強くなれば雌も寄ってくるし、守りたいものを守ることも自然とできる。それ以外のなにかを見つけてみろ。平穏を望むのもいい。強さを目指してみるというのもいい」
タンニーンは続ける。
「それにな、宝田大助。誰かを自分だけの力で救うというのは存外苦行だ。だからこそ、時を待つというのも手だ。以外と待てば、時というのは問題解決のチャンスを運んできてくれるものだ。若いお前たちは、今できることをがんばればいい。……若いお前たちにはまだわからんかもしれんが」
その言葉を聞いた二人はお互いに顔を合わせる。最初に切り出したのはダイスケだった。
「……なぁ、俺はリリアをどうにかすることができるかな」
「――大丈夫だよ。俺も俺でなんとか小猫ちゃんと向き合ってみる。だからお互い足掻いてみようぜ」
「……ああ、だな」
イッセーは冥界に来てから様々な目標を持つ悪魔に出会った。ゲームでの優勝を目指すリアス、魔王を志すサイラオーグ、同族を救おうとするタンニーン。そして、出立前に聞いた匙の教師になりたいという夢。
どうやら匙はソーナの夢の手伝いをしたいらしく、そして共に教育に従事していた両親の影響もあって教師を目指すことにしたらしい。
誰もが、立派な目標を持っている。もちろん、イッセーの目標は上級悪魔となってハーレム眷属を作ることだが、それ以外にできることがないか、真剣に考えようと誓っていた。
ダイスケも、匙の話は聞いていた。転生前の少々やんちゃだったらしい彼の前評判は耳にしていたが、変われば変わるものである。
自分ができることとはなにか。それを考えながらも二人はタンニーンとの談笑し、いつの間にか会場に到着していた。
はい、というわけでVS34でした。
実はリリアの秘密はこれだけではありません。まだまだ裏があるヒロインです。
あとダイスケは何でも出来るチート主人公ではないので、すぐにリリアのお悩み解決なんて出来ません。不器用なヤツです。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!