そして機能は感想ゼロ……。
パーティー会場となるホテルは、グレモリー領の森の中にぽつりと立っていた。しかし、照明などで非常に目立っている。タンニーンは隣接する競技場に着陸すると、グレモリー眷属と便乗したシトリー眷属を降ろした。
「俺は大型悪魔用の会場に移動する。上流社会の空気、感じてこい」
「うん、おっさんありがとう!!」
「ここまでありがとう、タンニーン」
「いろいろとサンキューな。おっさん」
イッセーとリアスとダイスケがそれぞれに礼を告げると、タンニーンたちはその巨体を翻して飛び去って行った。
タンニーンと別れた一行は、迎えに来ていた従業員たちに案内され、リムジンに乗車する。その時、ダイスケは小猫と同じ座席列に座った。
「……なんですか」
これまで特に小猫のことを気にかけていなかったダイスケが、急に自分の隣に座ったのである。小猫の不信感は当然のものであった。
「イッセーから聞いたぜ。特訓中に倒れたこと。お前の姉ちゃんのこと」
「話したんですね、イッセー先輩……」
小猫は視線をそらすが、ダイスケは構わずに続ける。
「俺もさ、ある女の子の力になれなくて挫折してるとこなんだけどさ……案外、お前の悩みはイッセーが吹き飛ばしてくれるんじゃねぇの?」
「イッセー先輩が?」
「ああ。いっぺんアイツを頼ってみなよ。確かに馬鹿でスケベだが、それ以上に他人が苦しんでいるところは見捨てないヤツだ。俺も背中を押されたし」
「……あのヒトは頼れそうにありません」
「そう思うのも無理ないが……ま、期待せずにその時を待ってみな。「待てば、時というのは問題解決のチャンスを運んできてくれる」らしいぜ」
「……」
そして、二人の間に会場に到着するまでの間ずっと沈黙が流れていた。リムジンは会場に到着し、小猫は先に逃げるように降車した。ダイスケは後に続くに車を降り、大量の従業員に出迎えられてロビーに入る。フロントでは朱乃が確認をとり、全員がエレベーターに乗る。
「最上階にある大フロアが会場みたいね。イッセーもダイスケも、各御家の方々に声をかけられたらちゃんと挨拶するのよ?」
「は、はい部長。それはそうと、今日のこのパーティーは、魔王様が若手悪魔のためにわざわざ催されたんですか?」
「建前はね。でも私たちが会場入りしても大して盛り上がらないわ。実際は毎度恒例の行事なのよ、これは。その都度理由をつけて行われる各御家同士の交流会みたいなものね」
「その実は?」
ダイスケが尋ねる。
「お父様たちのお楽しみ会よ。どうせ、四・五次会まで近くの施設に予約を入れているわ。お父様とお母様が別行動で会場入りしてるのがいい証拠よ。私たちよりも先に入って、出来上がっているでしょうね。社交界云々は抜きで羽目を外せる数少ない機会なの」
呆れた様子で愚痴をこぼすリアスに、事情を知って苦笑する朱乃たち。つまりは政治的な場ではなく純粋な交流会なのでそこまで気張る必要はないということだ。しかし、それでもマナーや礼儀作法というものはついて回る。
「おい、イッセー、お前大丈夫か? おれはこれでも何回かジオティクスさんに連れられてこういうのに参加したことはあるけど」
「大丈夫だダイスケ。そのあたり部長のお母様にみっちり仕込んでもらってる」
エレベーターも到着し、一歩出るとすぐに会場であった。
『おおっ』
全員の視線がリアスに集中する。
「リアス姫、ますますお美しくなられて……」
「サーゼクス様もさぞご自慢でしょうな」
リアス本人は「誰も気に留めない」とは言ったが、この盛り上がりようである。しかし、そこでなぜかイッセーがにやける。
「……なんでお前がにやけてんの?」
「いやぁ、こんなに注目を集める人のおっぱいを俺は揉んだってなぁ」
「この場じゃなかったら張り倒してるわ」
みんなの憧れの人物の秘密を自分は知っている、的な優越感なのだろう。しかもそれが胸の話なのだから非常にイッセーらしい。
「さぁ、あいさつ回りするわよ。気を引き締めなさい、イッセー」
「は、はい」
こうしてイッセーの社交界デビューが始まった。
*
「存外に……疲れる」
イッセーとダイスケとアーシア、そしてギャスパーはあいさつ回りを終えてフロアの端にあるテーブル席を占拠していた。体を動かさないとはいっても、気疲れはする。そのせいでほぼ全員グロッキーであった。
「ダイスケ……お前、経験あるって言ってたけどよくそんな涼しい顔でいられるな。」
みな学生ということでドレスやタキシードではなく、着慣れた制服に参加の証の腕章を付けた格好だといっても環境が環境だ。この状況でも疲れていないダイスケがイッセーには不思議だった。
「獣転人だからかな。とくに気疲れも感じねぇや」
他の慣れている者たちはというと、リアスと朱乃は知り合いらしい女性悪魔たちと談話し、木場はここでもモテるらしく女性悪魔たちに囲まれていた。
「まあ、モテっぷりって言ったらアーシアも相当だったけどな」
「モテるって、そんな……」
事実、相当な数の男性悪魔がアーシアに“個人的に”挨拶していたのだ。その御陰で余計に気疲れしたともいえるが。そんな疲れた一同のもとへゼノヴィアが大量の料理と飲み物を持ってやってきた。
「悪いな」
「なに、このくらい。ほら、アーシアも食えはせずとも飲み物くらいは口をつけておいた方がいい」
「ありがとうございます、ゼノヴィアさん。私、慣れてないものだから本当にもうクタクタで……」
そう言ってアーシアはグラスに口をつける。それを合図に各自料理に手を付け始めたが、ダイスケが何かに気付いて立ち上がり、人ごみの中に紛れていってしまう。ややあって「ちょ、お止めになって!」という女の子の声とともにダイスケが誰かを引き連れてやってきた。
「イッセー、お前にお客さんだ」
「な!? べ、べつに赤龍帝に用などありませんわ!」
「嘘つけ、ジーっと見てたの知ってるんだぞ」
「うっ……気付いていましたのね」
ダイスケが背中を多して連れてきた少女に、イッセーはどこか見覚えがあった。そして、すぐに思い出す。
「ああ、焼き鳥野郎の妹か」
「し、失礼な! レイヴェル・フェニックスですわ!」
その少女はライザー・フェニックスの妹、レイヴェルであった。
「なーんか積もる話もあるみたいだし、俺はむこうのテーブルにあった肉の塊貪ってくるわ。あんな肉の塊、滅多にお目にかかれないからな。じゃ、ゆっくり話してこいや」
「き、気が利きますのね……ありがとう」
そうしてゼノヴィアが持ってきた料理に手もつけず、ダイスケは席から離れていく。
ダイスケは気付いていた。どうもこのレイヴェル、イッセーが気になっていると。人ごみの中からじっとイッセーを見つめていたことから分析した結論である。思えばライザーとの一件の後、イッセーとのあいだで何かやり取りしていたがその直後のレイヴェルのイッセーを見る目が一瞬のうちに変わっていた。
ああ、これはの時の啖呵で落ちたな、と結論付けたダイスケはそのまま連れてきた、ということだ。そうでなくとも、ここで上級悪魔と友好関係を広めておけば後々イッセーのためにもなるだろうし、馬に蹴られたくもないのでその場を後にしたとういことだ。
人ごみの中、ダイスケはひたすら肉を目指して前に進むが、誰かに背後から抱きつかれる。
「ダーイスケ!」
「は? ちょ、ミコト!?」
そこには古代日本の巫女装束に身を包んだミコトがいた。
「いや、なんでここにいんの?」
「あー、忘れてるー。私これでも神道勢力の重鎮だよ? 今後、三大勢力と神道勢力の話し合いがあるからそのまえの挨拶に来たの」
忘れがちだがこの残念美人は遡れば古代の皇室の家系、つまり天照大御神の系譜にして神道勢力最強の獣転人なのだ。確かにこの場にいてもおかしくはない。
「ねぇねぇ、そういえば気付いてる? なんかこの会場変なの」
「変って……まさか違法建築?」
「そうそう、ビー玉を置いたら勝手に転がって――じゃなくて! なんか誰かに見られてるみたい。邪なんだけど、敵意はないというか。それが複数」
「それ、アザゼル先生とかは知ってんのか?」
「アザくんは下のカジノで遊んでたからわかんないと思う。ミカくんとサーゼクスくんも気付いていないみたいだから私の気にしすぎかもしれないけど……ま、いっか! なにかする気はないみたいだし、見せつけるようにごちそう食べちゃおう! あっちにあったおっきいお肉とってきてあげるから一緒に食べよ!」
「おい、いいのかそれ」
「いいの、いいの。何かあるんだったら衛兵さんも動くし。あ、そういえば見たよ」
「見たって?」
「リリアちゃん。他のメイドさんと一緒に下でお仕事してた。いろんなメイド服の人がいたから、各家からお手伝いさんで出てきているのかな? お仕事お疲れ様って言いに行かなくていいの?」
まさかリリアがここに来ているとはダイスケも思いもしなかった。だが、これは好機かもしれない。これだけ多くの給仕がいるのだから、参加者が個人的用事でメイドの一人を借りても人手に問題はないはずだ。
「……教えてくれてありがとうな、ミコト」
「いいのいいの。……あの子となんかあったんでしょ。お姉さん、そういうのは気付くのとくいなんだよー。ささっ、いってらっしゃい! 私はごちそう満喫してるから!」
そう言ってミコトは料理を取りに嵐のような勢いで走って行った。
「……ほんと、ありがとうな」
ダイスケはミコトの背中に向けて小さく礼を言い、エレベーターで下に降りる。各階ごとに降りてリリアの姿を探していると、三階の招待客受付で見つけることが出来た。
「リリア」
自分の名を呼ぶダイスケに、リリアは驚く。
「ダイスケ様……すいません、今は仕事中で――」
「今じゃなくていい。時間が空いたら、君と話したいことがあるんだ――待ってるから」
その申し入れを受けるべきか受けざるべきか、リリアが逡巡していると先輩格らしい同じメイド服を着たグレモリー家所属のメイドが言った。
「リリア、休憩に入りなさい。戻ってくるのはいつでもいいから」
「え? で、でもこのリストを上に――」
「それは今すぐじゃなくて良いし、誰でも出来るわ。――いい男じゃない。逃がしたら損よ」
小声で囁かれて思わずリリアは慌てた。
「い、いえ! この方とはそういうのでは……」
「いいから行った行った! では返却はいつでもよろしいので、存分にお楽しみを♪」
なにか盛大な勘違いをされているようだが、他のメイドや執事もニヨニヨとするだけで特に咎められる様子もなかった。退路を断たれたリリアは、ついに諦める。
「……それでは、しばらく外させていただきます」
『存分にお楽しみを~♪』
これでいいのかとダイスケもためらったが、話す時間は出来た。礼を言って、近くの部屋のバルコニーを借りることにした。
「……お話って、なんですか?」
本当のところ、なにを話すべきかまだ決まってはいなかった。しかし、なにか行動しなければという使命感のようなものがダイスケを突き動かす。
「あのさ、俺――」
なんとか話を切り出そうとした瞬間、下方の地面になにか走っているのが見えた。黒猫だ。
誰かが持ち込んだペットか、とも思ったが、まさか食事も出る場でそのようなものを持ち込む非常識者はいないだろう。では純粋に野良猫か、とも考えたがホテルの従業員や警備の悪魔が誰かしらここまで来る前に気付いて追い返しそうなものだ。
つまり、何かがおかしい。
そう思っていると、それを追って小猫が走って行くのが見える。さらにややあってイッセーとリアスが小猫の走って行った方向に向けて駆け出すのが見えた。
「……リリア、アレどう思う?」
「秘密の逢い引きには見えません」
「……何かあったんだ。追おう。悪いけど、一緒に付いてきてくれるか? 念話、出来るだろ。俺は今携帯を預けているから」
「連絡係ですね、わかりました」
二人は三階のバルコニーから飛び降り、イッセーとリアスの後を追った。二人は噴水の影で周囲の様子を覗っており、リアスが偵察用の使い魔コウモリを飛ばすのが見えた。
「イッセー! 部長!」
ダイスケとリリアの登場にイッセーもリアスも驚くが、むこうもなにか察知したのだと理解する。
「黒猫を追った小猫を見たんですけど、そっちも探しているんですよね」
「ええ。様子がおかしかったものだから。でも、リリアも来てくれたのはありがたいわ。なにかあったらすぐにホテルの警備係に知らせに行ってちょうだい」
「承りました、お嬢様」
コウモリが戻ってくるまで噴水前で四人は待つ。
「……黒猫。どうも嫌な予感がするわ」
「部長、何か心当たりでもあるんですか?」
「ええ、でも当たっていないことを願うわ」
ややあって、蝙蝠がリアスのもとに返ってくる。
「見つけたのね。――森? 中に入って行ったのね?」
急いて四人はコウモリの先導のもと、漆黒の森の中を駆ける。しばらくして小猫が森の開けた場所で周囲をきょろきょろと見渡し、何かを探している姿を見つけた。一旦様子を見るため、四人は木陰に身をひそめる。
すると、森の中から不意に女の声が聞こえてきた。
「……久しぶりじゃない?」
音も立てずに現れたその女は着崩した和装で、その頭には特徴的な猫の耳が生えている。
「――ッ! ……あなたは」
小猫は驚いた表情で、そしてひどく怯え震えている。
「ハロー、白音。お姉ちゃんよ」
白音とは過去の小猫の名である。このように小猫を白音と呼ぶということは、リアスによってつけられた「小猫」という名を知らないか使わない人物、つまり、以前の小猫を知っている人物であるということだ。
「黒歌姉さま……!」
小猫がその女の名を絞り出すように言う。小猫の姉、すなわちこの黒歌と呼ばれたこの女が件の主殺しのはぐれ悪魔ということになる。その女の足元には、一匹の黒猫がすり寄ってくる。
「会場に紛れ込ませた子の黒猫一匹でここまで来てくれるなんて、お姉ちゃん感激だにゃー」
「いったい何のつもりですか?」
小猫の声には怒気が含まれていたが、黒歌は笑うだけだ。
「やーん、怖い顔しないで。ちょっとした野暮用よ。悪魔さんたちがここでどんちゃん騒ぎやるっていうじゃない? だからぁ、ひょっとしたら白音も来てるのかなって思っただけにゃん♪」
文字通り猫かぶりしているが、相手は一級のはぐれ悪魔である。油断はできない……と思っていたらイッセーが思いっきり鼻の下を伸ばしていたのだダイスケはとりあえず一発頭をはたいておく。そして追撃とばかりにリアスはイッセーの頬を思い切り抓っていた。
「黒歌、この娘っこはグレモリー眷属のかい?」
今度は男の声。ダイスケに聞き覚えはなかったが、イッセーは覚えていた。三大勢力の会議襲撃の際、ヴァーリとともに行方をくらませた孫悟空の子孫、美猴である。ここにいる、ということはパーティーをテロの標的にしているということか。イッセーから話を聞いていたダイスケは一気に緊張する。
すると、ふいに美猴の視線が四人が隠れている方に注がれる。
「そこの四人、隠れたって気配を消したって無駄無駄だぜぃ。俺っちや黒歌みたいに仙術をかじっていれば、気の流れのほんの少しの変化で分かっちまうんだぜぃ」
ばれている、ということはもう隠れる必要もない。意を決してダイスケ、イッセー、リアスの三人はリリアを待機させて躍り出る。
「イッセー先輩、ダイスケ先輩、部長……!」
「よう、クソ猿さん。ヴァーリの奴は元気かよ?」
「へへっ、まあな――お、そっちはあの時より多少は強くなったらしいじゃねぇかい。そっちの方の兄ちゃんも大分いけるクチだな」
まるで一目見ただけで相手の実力を測ったかのような美猴に、イッセーは怪訝な表情になる。
「言ったろ? 仙術だって。仙術ってのは魔力や魔法とは違ってそのものの生命力を練ったチャクラってものが根本だ。直接的な破壊力は天使の光や悪魔の魔力には劣るが、気やオーラを探知するのにすぐれてるのさ」
「しかも探知するだけじゃなくて自分や他者の気の流れを操ってどうこうしちゃうことも可能にゃん。直接生命に打撃を与えちゃえば、魔力や魔術の対処法とは違うし、使い手も少ないうえに生命の乱れを正す方法も限られるからやられた方は対外いちころにゃん♪」
探知能力に長けているうえに生命そのものを指先ひとつで左右できる。その仙術の汎用性の高さと威力に畏怖する三人。だが、問題はそんな厄介な術を扱える二人がなぜここにいるのか、ということだ。
「で、お前らなんだ。その仙術使ってテロか?」
ダイスケが単刀直入に尋ねる。が、やはり二人は余裕そうに笑むだけだ。
「テロリストのやることがテロだけって決めつけないでくれって。俺っちたちは非番さね。冥界で待機命令が出てるだけだってのにそこの黒歌がパーティー会場に見学だっつって付き合わされてるだけなのよ、OK?」
無駄に話してくれたが、どうやら嘘ではないらしい。
「でさ、美猴。この子誰?」
そう言って黒歌はイッセーを指さす。
「赤龍帝」
その美猴の言葉を聞き、黒歌は目を丸くする。
「マジ? へー、この子がヴァーリを退けたおっぱい好きの現赤龍帝なのね」
最悪の情報の伝わり方である。こういう風に仲間に伝わっているということは、禍の団全体でそういう認識をされているということだ。あまりの酷さに顔を覆うダイスケとリアス。
しかし、そんなことはどうでもいいといわんばかりに美猴はあくびをしながら言う。
「黒歌よ、帰ろうや。どうせ俺っちたちはあのパーティーには参加できないんだし、ここにいても無駄さね」
「そうね、もう帰っちゃおうかしら。ただ、白音は頂いていくにゃん♪ あの時一緒に連れて行ってあげれなかったからね♪」
「おいおい、勝手につれてきたらヴァーリの奴、怒るかもだぜ?」
「この子にも私と同じ力があるってわかったら、オーフィスもヴァーリも納得するにゃん」
「いや、そりゃそうかもしれんけどさ」
連れ帰る、という言葉を聞いた時、小猫はその身を震わせた。怯えたのだ。それに気づいたイッセーは一歩前に出る。
「この子はリアス・グレモリーの眷属で、俺たちの仲間だ。連れて行かせない」
決意ある一言であったが、二人の余裕な態度は崩れない。
「いやいや、勇ましいと思うけどねぃ。さすがに俺っちと黒歌相手にできんでしょ? 今回はその娘もらえればソッコーで立ち去るんで、それで良しとしようやな?」
それでも引き下らないのが眷属への慈愛溢れるグレモリー家に生まれたリアスである。
「この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」
「あらあらあらあら、何を言っているのかにゃ? それは私の妹。私にはかわいがる権利があるわ。上級悪魔さまにはあげないわよ」
空中でぶつかるリアスと黒歌の視線。火花を散らすかのような激しいさっきのぶつけ合いだったが、不意に黒歌は笑みを見せ、残酷に宣言する。
「もー、めんどっちいから殺すにゃん♪」
その瞬間――周囲の空間が歪んだように感じられた。
「……黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」
リアスは苦虫を噛んだ表情で言う。
「時間はさすがに無理だけどねー。結界を作る術の応用だから覚えるのは結構簡単だったにゃ。この森一帯の空間を結界で覆って外界から遮断したにゃん。だから、ここでど派手なことをしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくることもない。あなたたちは私たちにここでころころ殺されてグッバイにゃ♪」
ただでさえ人目のつかない場所の上、黒歌の術によって完全に遮蔽されてしまったことにより応援を呼ぶこともできない。いや、助けを呼んだとしても最上級悪魔クラスと呼ばれる黒歌である。増援も無駄であろう。
しかし――
「リアス嬢がこの森に入った聞いて来てみればこのような事になるとはな」
「タンニーンのおっさん!」
どうやら結界の範囲内に三人を追って偶然閉じ込められてしまったらしい。しかし、偶然とはいえこれは嬉しい増援だ。
「なるほど、どうやら宴にはふさわしくない輩が紛れ込んだらしいな」
そう言って、タンニーンは眼下の二人組を睨みつける。しかし、それにも動じない。
「おうおうおう、ありゃあ元龍王のタンニーンじゃねえかよ!? まいったね、こうなったら戦るっきゃねぇって!!」
「お猿さんはうれしそうねー。ま、私たちで龍王クラスの首二つ持ちかえればオーフィスも認めてくれるでしょ」
怯むどころか歓喜して戦闘態勢に入る美猴に、さらに殺気を強くする黒歌。
「筋斗雲!」
美猴の足元に金色の雲が生まれ、一瞬で天高く飛び上がる。そのまま手にした如意棒でタンニーンを突こうとするが――
「……俺のカウント、忘れてないか?」
脚力だけで飛び上がったダイスケが美猴の足をつかみ、そのまま地面に叩きつける。盛大な土埃と振動をたてて墜落した美猴は、口の端から流れる血の雫をぬぐいながら言う。
「……忘れてたぜぃ。こいつ、獣具の持ち主、それも結構やべぇ特訓してたって奴だ」
「あちゃー、コカビエルを追い詰めたっていう? 獣具使いには気をつけろってヴァーリも言ってたしここは――」
引くのか、とダイスケは思ったが、何やら様子が違う。
「用心棒さーん、いらっしゃーい!」
森の中から何かが高速でこちらへ向けて突っ込んでくる。銀色をしたそれは、黒歌の傍に着地した。
そのシルエットは以前見たそれとはほぼ変わらないものの、装甲の一部がダイスケの熱線を受け流しやすくなるように傾斜装甲となっている。この短い間に改良されたのだ。
「奇遇だな、宝田大助。ここでお前に会えたのはまさに僥倖だ」
自己進化した獣具を身に纏った桐生義人が現れたのである。
はい、というわけでVS35でした。
ダイスケが「おれはこれでも何回かジオティクスさんに連れられてこういうのに参加したことはあるけど」といっておりますが、これは裏設定でジオティクスが一時期ダイスケをリアスの婿候補にしようかとしていたということです。まぁ、すぐにフェニックスとの婚約話がでたので社会勉強という名目に変わりましたが。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!