ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 みんなが寝静まった夜♪
 ちょっとTwitterしてると♪
 とてもすごい♪
 ことが♪
 あったんだ!!

 なんとあのラブライブ! 西木野真姫ちゃん役のPileさんと少しだけツイートし合いました。
 なんでもギリシャ神話にご興味があるようです。
 あ、私一応Twitterやってます。
 https://twitter.com/NoTamasii
 それから新たにBCAAさんから評価☆1をいただきました。やっとこれで色が付きました。ありがとうございます。


VS39 シトリー戦 ROUND02

 立体駐車場経由で西館に行こうとしていた木場とゼノヴィアは予想外の攻撃に晒されていた。目に見えないなにかに攻撃されているのだ。

 

「木場、見えたか!?」

 

「いいや、なにも見えない! でも、なにかいる!!」

 

 優れた剣士である二人は、敵の剣気を読み取って攻撃を先読みすることが出来る。だが、この敵には姿どころか攻撃の気配も察知することが出来ない。まさに透明な敵を相手にしているのだ。

 

「……いや、なにかが大気をくぐって僕らの周囲を回っている」

 

「今、私も感じた。ということは――」

 

 二人は互いの背を向き合わせ、どこから攻撃が来てもいいようにする。そして、向かってくるなにかをゼノヴィアが察知し、イッセーから借りたアスカロンを引き抜いて斬りつけた。

 

(手応えあり!)

 

 間違いなく、今ゼノヴィアはなにかを切断した。刃が物体を切り裂く感触は間違えようもない。が、切り裂いたはずのなにかは斬ったと動じにまるで自らの意思で二つに分かれ、ゼノヴィアの左右に飛んでいくのがわかった。

 

「なっ――」

 

 驚く間もなく、左右から高速で飛来するなにかがゼノヴィアの側頭部と脇腹を強かに打ち付ける。その威力たるやゼノヴィアの身体が空中で二回転したほどだった。

 

「ゼノヴィアっ!?」

 

 木場は両手に聖魔剣を構え、どこから攻撃が来てもいいように準備する。しかし、ゼノヴィアを襲ったものとは別のなにかが木場の首をきつく締め付ける。

 

「かっ……かはっ……!」

 

 咄嗟に敵の意思を察して首を絞めるなにかの間に木場は左手を差し込んでダメージの軽減を図る。しかし、この敵の締め付けるなにかの力は、木場がいかにパワータイプでないとはいえ悪魔の腕力を大きく上回るものだった。むしろ自分の左腕が喉に食い込んで余計にダメージを与える結果になってしまっている。

 その木場を締め付けるなにかを、ようやく立ち上がったゼノヴィアが断つ。

 

「ゴホッ、ゴホッ!! ……すまない」

 

「いや、おかげで薄らだがなにか見えた。――触手だ、これは。それと、宙を舞う球体」

 

「触手と、球体……?」

 

 すると、木場の目にも足下でなにかが蠢くのが見えた。それは確かに薄くしか見えないが半透明な大蛇を思わせる触手だった。しかも、今度はそれが宙に浮き、球体へと形を変える。

 

「これは……神器?」

 

「かもしれない。透明な触手と球体を操る神器。しかし、誰が――」

 

『いいや、違うぜお二人さん』

 

 突如、二人の脳裏に知った声が響く。それは、匙の声であった。

 

「匙くん!? ということは……これは黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の禁手か、亜種禁手!?」

 

『それも違う――ちっ、やっぱ兵藤と塔城さんを相手に同時に念話で話すのは集中力がいるな』

 

 その一言を聞いて木場とゼノヴィアは驚愕した。つまり、どうやっているかはわからないが匙は一人でイッセー、小猫、木場、ゼノヴィアの四人を同時に相手していると言うことになる。

 

「いや、ブラフだ! 真に受けるな、木場!!」

 

『でもないぜ。ガラス越しに見えるはずだ。兵藤達の今の様子が』

 

 その通りだった。立体駐車場は壁がなく、モールの中がガラス越しによく見える。イッセー達がいるのは吹き抜けを挟んだ南側だが、中に誰もいないのと、丁度店がないエリアを挟むためにその姿が見える。

 そして、イッセーと小猫は匙相手に二対一で勝負している。しかも、今の木場立ちと同じく目に見えないなにかからの攻撃を受けている。

 

「神器の禁手でも、亜種禁手でもない。特殊な魔力攻撃でも誰かが透明になっている訳でもないとしたら……まさか! そんなことが!!」

 

「おい、木場……そのまさかとは、あれではないよな!?」

 

『多分大正解だ。そして――』

 

 匙の言葉を合図に、周囲にあった透明の球体が発光現象を起こしている。それも見えている距離からして感じることがないはずの規模の熱を発生しているのがわかった。

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 信じられないアナウンスが響く。しかし、それに驚く間もなく木場立ちの周囲には高熱を孕んで光る球体がいくつも並ぶ。

 この熱量をまともに食らえば球体一つ分でも一発で撃破(テイク)だ。それが二人の周囲にいくつも見える。この場を脱出しようと思っても、二人の両足は透明な触手で縛られ、身動きが一切とれない。

 徐々に球体達は距離を詰め、そして――

 

『――お前らは終わりだ!』

 

 超高熱の球体は、木場とゼノヴィアに向けて殺到した。

 

 

 

 

 

 

 イッセーは匙と殴り合いながらもなにか違和感を感じていた。どこか別のなにかに意識を取られているようなのだ。ラインと透明ななにかを操っている集中力やイッセーと小猫を動じに相手取る分には意識はしっかりこちらに向けている。

 だが、まるで他所で起きているなにかに気を取られている感覚があるのだ。

 

「小猫ちゃん、いいかな?」

 

「なんです?」

 

 一旦距離を取り、小猫と並んだイッセーは一つの提案をする。

 

「まず、俺が突貫する。小猫ちゃんはその影に隠れて、タイミングを見計らって匙に仙術の一撃をお見舞いしてくれ。アイツの集中を一瞬でいいから奪う」

 

「……まだ自信はありませんが、それくらいならやって見せます」

 

 小猫の了解を取り付けたイッセーは、左手に力を込めて匙目がけて突撃する。

 

「見え見えだぜ!」

 

 これに対し、匙は魔力弾を放って迎撃する。イッセーは籠手を盾代わりにして耐え、匙に一撃を見舞わんとする。

 

「見え見えだと言った!」

 

 イッセーは匙の見えないなにかにアッパーを決められて身体が宙に舞う。その一瞬を狙い、小猫は匙の胴体に仙術の一撃を入れた。

 これなら接触しただけで流された小猫の気が匙の気をかき乱し、バイタルに変調をきたす――はずだった。

 

「――!」

 

「仙術の対策ならしてあるさ」

 

 小猫の掌底は別の見えないゴム鞠を思わせる球体に阻まれていた。ここまで接近してようやく見えたそれは、常時匙をカバーしていたのだ。

 

「でもって、獣具の対策もする!!」

 

 そのまま小猫は透明な触手に巻き付かれ、全身を締め上げられる。ニシキヘビが獲物を締め付ける力が500kgから1tであると言われているが、この力は明らかにそれ以上。人間ならすぐさま全身粉砕骨折、中身の入ったドラム缶ですら容易く絞り上げられるだろう。

 

「ごめん、なさい……」

 

 ついに小猫が意識を手放した。

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 巻き付かれた透明な触手の中で、小猫の姿が消え、転移したのがわかる。その光景を信じられず、また己の無力さにイッセーが憤ったその瞬間――

 

『リアス・グレモリー様の騎士(ナイト)二名、リタイア』

 

 立て続けに響く無情なアナウンス。イッセーは驚きを隠せない。

 

「まさか、迎撃部隊――」

 

「いや、俺がやった。教えてやる、俺がどうやったかその身でな!!」

 

 イッセーはサバイバル訓練の中で身につけた野性的な勘で左から来た透明な触手を籠手で受け止めきる。しかし、勢いは止まらずそのまま壁まで叩き付けられ、押しつぶされそうになる。

 だが、イッセーは起死回生の一縷の希望を見いだす。

 

「……昇格(プロモーション)女王(クイーン)っ!!」

 

 そう、イッセーが叩き付けられた壁は建物中央から見てギリギリ西側、つまり敵陣だ。これならば昇格(プロモーション)が可能となる。

 

「反撃開始だぁぁぁぁ!!」

 

 女王(クイーン)が内包する戦車(ルーク)の馬力は、イッセーの鍛錬によって倍化無しで触手の剛力に対抗できるほどであった。なおも自分を押しつぶそうとする透明な触手をイッセーは根性で押し勝ち、そのまま匙に向けて肉薄する。

 

「だりゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 これが本当に神器の力無しでのイッセーの腕力なのか、と匙が驚く。そしてイッセーはそのまま匙に体当たりをカマした。

 

「がっ――」

 

 このように純粋な圧力を用いれば、小猫に対して用いた防御法は意味を成さない。その一瞬の隙をついてさらにイッセーは匙の腹部に拳をたたき込む。

 鈍い音が響き、匙はもんどりをうって倒れた。すぐさまイッセーは追撃をかけたかったが、息を切らしてこれ以上追求できなかった。

 

「へへっ……やっぱすげぇな、兵藤。流石赤龍帝だぜ……なら、種明かししてもいいかな」

 

 口の端の血を拭い、匙が立ち上がる。

 

「『事実を隠すことは戦略上有利になる。が、逆に事実を明かすことも戦術的有利に繋がる』――これ、会長の言葉な」

 

 すると、周囲に溶け込んでいた透明な触手と球体に色の濁りが入る。その触手は匙の背中化から何本も生えており、球体は中心が光り輝いて匙の周囲を守るようにいくつも漂う。

 

黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の黒いラインじゃない……まさか、お前!?」

 

「ああ、そうだ。俺は神器、黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の所有者にして『宇宙怪獣ドゴラ』の獣転人……『宇宙触腕獣の透明触手(ドゴラ・インビジブル・ハンド)』の所有者だっ!!!」

 

 衝撃だった。よりにもよって龍王をその身に宿す者が獣転人だったのだから。だが、イッセーにある疑問が浮かぶ。

 

「いや、いやいやいやいやいや! そんなのありかよ!? 神器を持ってるのにその上、獣転人!? 一人に一つじゃないのか!?」

 

「俺もそう思ったけどさ、獣転人の獣具っていうのは獣転人その者の魂の力なんだ。生まれる時に宿る神器はいわば魂の付帯物。身体に内蔵された武器と手持ちの武器の違いみたいなもんなんだよ」

 

 そう聞いたイッセーは己の股間をまじまじと見つめる。

 

「……股間のネオ・アームスト○ング・サイク○ンジェット・アームスト○ング砲と手に持ったバ○ブって感じか? 武器内蔵した人間なんて基本いないし」

 

「……なんでそんな卑猥な方向でしか理解できないんだ、お前は!? ……でもまぁ、そんなもんだ。疑問に思うならドライグに訊いてみろよ」

 

『いや、確かに……俺はこれまで元の宿主が死ねば次の人間の魂に転移していた。となれば俺が人間に宿るのはその人間の魂に寄生、というか間借りしているようなもの。魂そのものが怪獣の生まれ変わりである獣転人に神器が宿ってもおかしくはない』

 

「嘘だろ、おい……」

 

 認めたくはなかった。だが、目の前にある現象を見れば匙が言うことが事実であることがわかる。

 

「だ、だったらその光る球体はなんなんだ!? まさか獣具を二つ持ってるとかじゃないよな!?」

 

「いや、これはドゴラの別形態だ。ドゴラは宙に浮かぶ巨大なクラゲみたいな見た目なんだが、大気中で動きやすくするために球体に分裂して姿を変えるんだ。あ、そうだ。あんまり近づかない方がいいぜ。鋼鉄の扉も簡単に溶かすほどの熱を帯びてるからな」

 

 最悪である。

 獣具と神器の二つ持ち。それも能力で考えたら三つ分。怪力の触手と高熱を帯びた球状態、さらにこちらのパワーをドレインする黒い龍脈(アブソリュート・ライン)のラインの組み合わせはどう考えても強力だった。

 どこまでも伸びる怪力の触手を避けても超高熱の球状態に襲われ、隙を見せればラインでエナジードレインされる。テクニックとパワーのいいとこ取り。イッセーも自分の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)もチートであると思っているが、今の匙はそれ以上だ。|

 そんな中、匙は自笑していた。

 

「……俺はお前がうらやましい。赤龍帝で、ご主人から猫可愛がりされている上、おっぱいを触ってキスまでして……会長とできちゃった結婚する夢を一歩も進められていない俺とは大違いだ。うらやましいだよ、俺は。……お前が!」

 

 己をあえて卑下することで、匙の中の闘争心が一気に炎上するのがイッセーにはわかった。

 

「お前は順調にサクセスストーリーを歩んでいる! でも、俺はやっとスタートラインに立ったばかりだ! そんな俺が今できること、それは会長の夢を叶える第一歩を、俺が切り開くことだけだ!!」

 

 匙の闘争心に呼応して触手はうねり、球状態の放つ熱はさらに上がる。

 

「できちゃった結婚なんてバカな夢以上に、会長の力になりてぇって心底思った! 会長の夢を馬鹿にした奴らに、俺たちの本気を見せてやるんだ! そんでもって、俺は会長の造る学校でみんなにゲームを教える教師になる! 会長を支えて、死んじまった両親の仕事を引き継ぐ!! 昔俺を生かしてくれた人達と、今俺を生かしてくれている人達に、俺は報いてみせる!!」

 

 匙の身体を、ヴリトラの漆黒の獄炎が包んだ。匙の意思が、心が、ヴリトラの呪殺の獄炎の片鱗を目覚めさせたのだ。

 

「だから兵藤! 俺は! 今日! ここで! ……お前に勝つ!!!」

 

 匙の背後に巨大なクラゲのような、不気味すぎる怪物の幻覚が見える。匙のオーラがこれ以上ないくらい充実している証拠だ。

 つけいる隙など一分もない。駒価値なんて何の意味もないように思えるくらい、今、イッセーの目の前に立つ匙は強大に見えた。それは競い合う仲間である木場とダイスケ、運命が結びつけた宿敵と言えるヴァーリとも違う、違う形の『好敵手(ライバル)』。

 彼の思いなんて知るよしもなかった。まるで自分以上の夢と情熱を持っているようにも見える。事情を知っている分、彼の夢をお通ししたい気持ちもある。

 だが、イッセーにも譲れないものがある。愛する主のため。大切な仲間のため。二度と悔しい思いを誰にもして欲しくないから――

 

「……負けられるかよ」

 

 本来は大将を相手にするまで取っておくつもりだった。リアスからもアザゼルからも「使い時を考えろ」と言われていた。 ……だが、どう考えても今が()()()にしか思えない。

 後できっと叱られるだろう。逃げるという手もあるだろう。ダイスケや無事な仲間と合流して戦うという手もある。

 

「でも……でもなぁっ!!」

 

 ドライグはイッセーの意思をくみ取った。これまで高め続け、溜続けた力を解放することに決めたのだ。

 

「俺だって負けられるかよォォォォォォ!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!! 』

 

 イッセーの身に炎のように赤い鎧が装着される。それは直接攻撃に最も向いた神器の形。そして、明確なる意思の象徴。――すなわち、徹底的に全力で戦うということ。

 

「俺も部長のために全部賭けてる! 碌な才能もない俺が出来るのは匙! 今ここでお前を倒すことだけだッ!!」

 

「当然! 殺す気で来いやぁぁぁぁぁ! いざ!!」

 

 匙の腕に、ドゴラの触手が巻き付く。外部骨格ならぬ外部筋肉というということだ。

 

「尋常に……!」

 

 倍化され続け、高められた力がイッセーの左拳に宿る。

 

「「――勝負!!」」

 

 悪魔としても尋常ではない二人の脚力が床を砕き、爆発的な加速を生む。相対的に二人は自分の早さの二倍で相手と接近し、その運動エネルギーを互いにたたき込んだ。

 うなる腕、軋む骨に揺さぶれる内臓。避けるという選択肢は二人にはない。ただお互いに己の意思が乗った拳をたたき込み合う。打ち込み合うたび、イッセーはあることを思い出す。それは、特訓中の休憩時間に言っていたタンニーンの言葉だ。

 

『小僧、一番怖い攻撃というのはなにかわかるか?』

 

 わからなかった。なにかの必殺技か、それとも種族の弱点を突く攻撃か。

 

『いや、怖いのは『籠もった一撃』だ』

 

 拳とは攻撃の手段であるが同時に意思の象徴である。明確な『相手を倒す』という意思。思いを吐露するとき。意思は拳に宿る。

 

『コイツがまた厄介でな。意思が、想いが、魂が拳に宿るとき、その拳はどんな防御も通り抜ける。直接的な打撃だけじゃない。その籠もったものが届いたとき、相手がどれだけの決意できているかがわかってしまう。下手をするといかに力量差があっても届けば負ける。相手の籠もったものに負けるからだ。心が負けるんだ』

 

 そう言われてイッセーは己の拳を見つめ直していた。

 

『コイツが厄介なのは本気の奴なら誰でも放てること。対抗するには同じく『籠もった一撃』をたたき込むしかない。だが、それは『本物』にしか放てない。法則や手順があれば楽なのだがな』

 

 笑うタンニーンを前に、イッセーは悩んだ。自分にそれが理解できるのか、そして自分の相手がそれを持ち合わせていたら。そして、自分がそれを放てるのか。

 

『そればかりは実際にやってみるしかない。まぁ、経験すればすぐにわかる。若いお前なら尚更、な』

 

 事実そうだった。今、目の前の相手は『籠もった一撃』を放ち、自分も『籠もった一撃』を放っている。

 そこに言葉は必要ない。魂と魂のぶつかり合いなのだから、心で理解できる。 ただひたすらに打ち合い、受け、また反撃する。受けるたびに匙の本気が伝わり、殴るたびに自分の思いを伝える。「拳で語り合う」とはまさにこの事だった。

 痛かった。辛かった。だが、何よりも充実していた。この高揚はどんな娯楽すら超越して心を昂ぶらせる。

 しかし、同時にイッセーは冷静にならなければならなかった。匙の腕力は今放てる自分の全力の一撃よりも重たい。それは『籠もっている』のと同時にドゴラの触手のパワーがそうさせていた。

 イッセーのパワーは時間をかけて倍化し、溜めたものを消費するもの。しかし、匙の腕力は常時安定して放てる力だ。これは明らかにイッセーの方が不利である。しかも匙は腕に巻いた触手のほかにも触手を持ち、超高熱の球状態も温存している。持久戦になれば不利なのは自分だとイッセーは早々に理解していた。

 

(せめて触手だけでもなんかしないと……)

 

 一定で強大な力を扱う触手は匙が今使える武器の中で最も脅威である。それなんとか出来ればまだ勝機は作り出すことが出来る。ではこの触手をどうするべきか――

 

(まてよ、これってもしかして……そうだ、今なら出来るんじゃないか?)

 

 イッセーの脳裏にあるアイデアが浮かぶ。そして、即座にそれを実行することに決めた。

 

「即断即決!」

 

 イッセーはドロップキックで匙の腹を蹴り、距離を取る。当然、匙は憤った。

 

「逃げる気か!!」

 

 匙は触手を伸ばす。そして、球状態を追わせることも忘れない。先端に目でもあるかのように触手はイッセーを追うが、スピードに関しては騎士(ナイト)のスピードを持つ女王(クイーン)のイッセーの方が上手であった。

 匙は必死に触手を伸ばし、細かく動いて避けるイッセーを捕まえようとする。まるでイッセーは鬼ごっこをするかのように逃げていた。

 

「長さの限界を量ろうってか? どこまでもこの触手は伸びるんだ――なに!?」

 

 突如、触手の動きが止まる。いや、動けない。まるでイヤホンを取り出そうとして絡まった時のように――

 

「ま、まさか――」

 

「そう、まさかだ」

 

 匙は必死にイッセーを追っていた。そう、必死にだ。目覚めたばかりの触手を操る力で。

 

「そう、目覚めたばかり。匙、お前まだその触手を操るの馴れてないな? そりゃそうだ、誰だって急に使える腕が増えたら混乱する。もとある手で箸や鉛筆を使うのにも訓練がいるのに、だ」

 

 匙はイッセーの言うとおり、まだ獣具の扱いに慣れていなかった。もしも人間に手が増えたとき、すぐにその人間は増えた分の腕を元からある腕と連携させて動かせるだろうか? 否である。

 蛸は生まれてからあの姿であり、長い進化の時間で培った本能で腕の動かし方を知っている。烏賊ですら獲物を捕まえるときは使うのは二本の触腕といわれる捕縛用の腕だ。

 さらに、匙は球状態を自在に動かすことも出来ていない。これはイッセーが逃げている間に気付いたことだが、球状態は自分を追うとき、動きが直線的であることに気付いたのだ。たくさん出して包囲したのも狙いを付けやすくするため。恐らく木場達を襲ったときも正確に動かせたのは二・三個のはずだ。

 ラインですら使い方を探っている状態なのだから、そんなに急に持つ全ての武器を使いこなせるはずがないのだ。

 

「だから――だからなんだ! 絡まってるのなんて邪魔している柱を折れば――」

 

「それをやればルールを破ることになるぜ。今回は過度の破壊は禁止で、俺だって苦労してるんだ。今お前が暴れたらどれだけの崩壊を招く? 多分、天井崩落だけじゃすまないぜ」

 

 やられた。匙の顔にはそう書いてあった。完全に裏を掻かれた。

 

「こ、このぉぉぉぉぉ!!」

 

 匙は最後の手段として魔力弾と球状態をイッセーに殺到させた。しかし、狙いが甘かった。読みやすかった軌道は今のイッセーの機動力と運動性でも充分に避けることが出来た。

 

「透明だったらダメだったけどな、今は熱で光ってるからわかりやすいぜ!!」

 

 匙はもう一つミスを犯していた。破壊力を重視しすぎたのだ。まだ動きが直線的で読まれやすいなら、あえて熱を持たせずに透明なまみえない状態で球状態を使えばよかったのだ。

 

「……くそったれぇぇえぇぇぇぇえええ!!!」

 

 匙は迫るイッセーに触手で強化した拳を放つ。しかし、動揺した一撃は軌道を読まれ、紙一重で避けられた。

 

「――しまっ」

 

 強かった。今まで戦った誰よりも厄介だった。全てはまだお互いに未熟だったからだ。それが、運命を分けた。それはもしかした自分だったかもしれない。そう自戒を込めてイッセーは言った。

 

「俺の、勝ちだ」

 

 イッセーの『籠もった一撃』が、匙の腹部に突き刺さる。溜めていた力を全て使った一撃は、一発でトドメとなった。

 

「……かい、ちょう……おれ、やりま、した――」

 

 消えながら匙は幻覚を口にした。それは未来の自分の姿かもしれない。だからこそ――

 

「俺はもっと、強くなる」

 

 決意したイッセーの目は、まさに戦士の目だった。

 

『ソーナ・シトリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 イッセーは一旦近くのベンチで休息を取っていた。自販機を破壊し、その中のスポーツドリンクを呷る。

 よく冷えた液体はイッセーの喉を潤したが、喉の奥にあるしこりはとれない。何せ初めて友人と言える者を殴り倒したのだ。いかにゲームといえど、元一般人のイッセーには堪えた。

 だが、すぐに動かなければならない。こちらはすでにギャスパー、木場、ゼノヴィア、小猫の四人がリタイアし、相手はまだ匙一人しかリタイアしていない。ソーナ含めたまだ七人も残っているのだから、安息などもってのほかだ。

 

「……部長のとこにいかないと」

 

 連絡が付かないときはまず自陣に戻ってくること、これは事前にリアスに言われていたことだった。味方の様子も知りたい今、先決すべきは仲間との合流である。

 

「いえ、貴方はこれで撃破(テイク)です」

 

 不意に背後から聞こえた声に、イッセーは驚く。そこにいたのはソーナその人だったからだ。そしてもう二人、共に僧侶(ビショップ)の花戒桃と草下憐耶が護衛に付いている。

 

「三対一……確かにこれはキツいっすわ」

 

「いえ、貴方を倒す――いや、倒したのは匙です」

 

 言葉の意味がわからなかった。匙は自分が倒した。すでにリタイアした者がどうやって自分を倒すのか。そう疑問に思ったとき、イッセーの身体に異変が起きた。

 

「あ、れ――」

 

 急に力が抜け、膝が地面に付いたのだ。確かに疲労はしている。だが、先程の急速で体力は大分戻り、体調も整った。それなのに、なぜ。

 その応えは、花戒が持っていた。血液が入ったパックである。

 

「まさか、それ――」

 

「そうです。これは貴方の血液。匙が戦闘中に貴方にラインを繋ぎ、このパックにも繋げました。そして、自分が撃破(テイク)されてもこのパックに貴方の血液が送られるようにしたのです。匙の仕事はただ一つ、貴方の血を失血死寸前まで奪い、強制的にリタイアさせること」

 

 匙がリタイアした瞬間に残した言葉――『……かい、ちょう……おれ、やりま、した――』――これは勝利の幻覚を見ていった一言ではなかった。匙は己の任務を全うした上で三人も道連れにしていたのだ。

 

「兵藤一誠くん、貴方はすごい。みなが、リアスが注目するのもわかります。あの獣転人に覚醒した匙をもリタイアさせたのですから。しかし、貴方は勝負に勝って試合に負けた。匙の方が全体を見て動いていたのです。ここの戦術的勝利にこだわるのが、レーティング・ゲームではない。貴方は、匙に負けたのです」

 

 やられた。ここまで来ると逆にすがすがしい。そして改めてイッセーは匙元士郎という男の決意と意思に敬意を示していた。

 だが――

 

「へ、へへっ……すげぇよ、匙。お前、本当にすげぇわ。でも、でもなぁ……俺にだって、俺にだってまだ手はある!!」

 

 薄くなる意識をどうにか根性で建て直し、二本の脚でイッセーはしっかりと立った。まさか自爆覚悟で自分達を倒す気か、とソーナ達が構えるが、イッセーの狙いはそこではない。

 

「どうせここでリタイアなんだ。好き勝手にやらせて貰う! うおぉぉぉぉぉぉ!!! 煩悩解放! イメージマックス! 広がれっ、俺の快適夢空間!!」

 

 ――事の始まりは、タンニーンとの修行のさなかであった。あまりに過酷な修行と環境は、イッセーを追いつめ、唯一の楽しみはスケベな妄想をすることのみであった。そんなさなか、イッセーは思いつく。

 

 ――おっぱいとお話がしたい。

 

 通常の精神状態ではまず思い浮かばないことだ。だが、追い詰められたイッセーは違った。煩悩方面においてのみ魔力を行使することができるイッセーはかつて洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を開発し、女性陣の顰蹙を買った。

 しかし、今度は直接的被害をもたらすものではない。だが、女性にとっては最低最悪の技と言える超凶悪技だったのだ。

 

「さあ、その胸の内を聞かせてちょうだいな、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!!」

 

 乳語翻訳(パイリンガル)。読んで字のごとく胸の内の言葉をイッセーにしか聞こえない声で吐露させるプライバシーもへったくれもない精神的な意味で最悪のセクハラ技だ。

 

「じゃあまず会長さんのおっぱいさんのお話聞いちゃおうっかな~♪」

 

「は、はぁ!?」

 

「おっと、会長さん。違います、違いますよ。今貴女はこう思った。「これは読心術なのか」、と。……いいえ、これは――貴女のおっぱいの奥、胸の内を聞けるんです! 防御も妨害も無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

「「「……えええええええええええ!?」」」

 

「……青ざめたな。でははじめに花戒さんのおっぱいさん! その血液どうすんの!?」

 

「え、うそ、いやぁ!!」

 

 慌てて己の胸を腕で隠すが、全て無駄な努力である。

 

『これはね、ゲームの後でちゃんと兵藤くんに返すの! 流石にこれを捨てるって言うのも悪いし、勝手に使うのも悪いし。でもどうせなら木場きゅんと同じ戦場に立ちたかったー』

 

「なんだよ、木場目当てかよ!! アイツばっかモテやがって!! じゃあ草下さんのおっぱいさんはなに考えてんの!?」

 

「いやぁぁぁ! 止めてぇぇぇぇ!!」

 

『いや、キモい……あんなゴツい鎧着てるのにやってることは変態なんて……』

 

「なんだよそっちまで! まるでこれじゃ俺が変態みたいじゃないか!!」

 

「「「紛うことなき変態よ!!!」」」

 

「ええい、それじゃ最後に会長さんのおっぱいさん! どうせここにいるのは幻覚なんだから本物の会長がどこにいるのか教えてちょうだいな!!」

 

「え、いや、ま、ちょ」

 

『勿論ここにいるのは精神投影の幻影♪ 本物は屋上なのよ♪』

 

 意外なことにソーナの胸の奥の声は姉そっくりだった。

 

「へへっ、そうか屋上かぁ……じゃあ、あとはたの……んだ……ダイスケ……」

 

「――応ともよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 突如、吹き抜けから飛び降りてきたダイスケの登場にソーナは驚く。

 

「まさか、どうやって!?」

 

 連絡は出来ないはずだった。なのに、最高のタイミングでダイスケは現れた。物語ならご都合主義で話は付くがこれは現実。道理が合わなかった。

 

「簡単ですよ。リアスさんの指示です。なにかあれば自陣に戻ってくる手筈なのに、イッセーは帰ってきていない。そこへ木場とゼノヴィア、小猫のリタイア。それでも戻ってきていないということはイッセーが誰かと、それも因縁のある相手とこだわって戦ってる以外にないです」

 

「では、なぜすぐに兵藤くんの応援に来なかったのです!?」

 

「……男と男のサシの喧嘩に首突っ込むほど、人間出来てないんです。まだブザーも鳴っていませんでしたし」

 

 呆れた。完全にソーナの想定を超えていた。まさかリアスが効率よりも心意気を取るとは予想だにしていなかったのだ。

 

「さぁて、イッセー。安心して医務室にいきな。血は花戒(そいつ)に持たせて送る」

 

「悪い……じゃあ、な――」

 

 消えゆくイッセーがサムズアップし、ダイスケもそれに答えた。

 

『リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

「さぁて、ここは結構広いし……ちょっとは動けるな。殺さない程度に……ひねり潰す」

 

「――ッ」

 

 ソーナの幻影が消え、花戒と草下はその僧侶(ビショップ)の魔力砲撃でダイスケを攻撃する。だが、ダイスケは手にしたなにかで全てを撃ち落とす。それは鉄の短い棒――片手用のダンベルに使うシャフトだった。

 

(そうか、スポーツ用品店の!!)

 

 グレモリー側の建屋になんの店があったか思い出す花戒。そう、店内の商品を利用したのは彼女たちだけではない。だが、なぜダイスケはわざわざシャフトを使っているのだろうか。ダイスケなら鎧を身につけていないまでも籠手のみで事足りるはずだ。

 その狙いはただ一つ。

 

「あーらよっと!!」

 

 一気に跳躍して二人のそばにダイスケは立ち、シャフトで二人を殴りつける。

 

「あ゛――」

 

「う゛!」

 

 大きなダメージが二人に入るが、まだリタイアするほどのものではない。なんとか堪えようとしたが、立て続けにシャフトで殴られる。

 これでわかった。ダイスケは自分の力をセーブするためにシャフトを使っているのだ。直接殴れば余波で他に余計な破壊を生じさせかねない。だから手加減できる手近なもので少しずつダメージを加える気なのだ。

 

「イッセーを殺ったお前らは楽には逝かせねぇ。少しずつ、確実に送ってやる……!」

 

 いや、これは手加減とかではなく、なぶり殺しにするつもりなのかもしれない。なにせ動けない間に友人達を好きにやられたのだ。いかに同じ学園の生徒と逝っても憎悪の一つも人間なら湧く。

 

「させ、るかぁぁぁぁ!」

 

 草下は本来サポート向きで、攻撃は苦手だった。しかし窮鼠猫を噛む、己の拳に持てるだけの魔力を纏わせ、ダイスケに殴りかかった。だが、その腕力の差はあまりにも絶望的だった。

 

「させ、させてもらうぜ」

 

 二つのシャフトで草下の腕を押さえたダイスケは、そのまま草下の腕の上で逆立ちする。

 

「なっ――」

 

 そして手首の力だけで宙に浮き、手にしたシャフトを花戒に投げつけて倒れさせる。逆さで宙に浮いた状態のダイスケは草下の頭を掴み、身体をくの字に曲げてその反動で床に叩き付けた。

 

「――!」

 

 一瞬、草下の意識がアウトしたが、不幸にもすぐに気を取り直す。なぜならダイスケは仰向けになった草下の首の上を万力のようにじっくりと、ゆっくりと踏んだからだ。

 

「あ、が、あ――」

 

 わざわざゆっくりと力を込めるのは床を踏み抜かないため。このモールは地下に大型冷蔵施設があるため下手をすると床を踏み抜いてしまうのだ。そして、ついにダイスケは草下の首を押しつぶしにかかる。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

 運営が危険と判断したのか、草下は強制的にリタイアさせられた。次は、花戒の番である。

 

「来ないで! 来たらこの血を床に撒くわよ!!」

 

 ダイスケを脅迫する花戒。よくぞ先のダイスケのやりようを見てこういうことが出来る勇気があるものだ。

 

「この血がなくなったら大変よ? 輸血するのだって時間が――」

 

 かかると言いかけて花戒の言葉は止まった。ダイスケがその眉間に砲丸投げ用の鉄球を投擲したのだ。これもスポーツ用品店の商品である。

 すぐさまダイスケはこれも商品のスポーツ用パラコードでパックを花戒の身体に巻き付ける。これなら転送時に一緒に医務室に送られるはずだ。

 

「私を倒しても――無駄よ。ソーナ様以外の他の眷属達が全員リアス様を襲撃している頃合いだもの。結局貴方は私たちには勝て――」

 

 捨て台詞の全ては、ダイスケの鉄拳で止められた。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

 花戒が転送されたのを確認すると、ダイスケは立ち上がる。そして、モール中央南のエレベーターを見つめた。

 

「……屋上、だな」

 

 終盤(エンディング)は、近い。




 はい、というわけでVS39でした。
 獣転人は匙でした。ドレイン触手とパワー触手で相性がいいと思いましたので。高熱攻撃はドゴラの映画前半でドゴラがダイヤモンドの入った金庫を開けるのに使っています。なお、アニゴジ小説版でとんでもないことをコイツはしています。
 木場、ゼノヴィア、小猫、ほんとすまん。でも、今の君たちでウチの匙に勝つビジョンが見えんかったんや……。いつか穴埋めはするさかい。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!
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