ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 ハーメルンでの将来の夢はいつかコラボ小説を書く事です。
 あ、サブタイトルは気にしないでください。


VS44 信じて送り出した主人公が堕天使美女に好き勝手されてパンツ一丁全身キスマークまみれで帰ってくるなんて……

「みんな集まったわね」

 

 リアスは自分の眷属とダイスケが集合しているのを確認すると、記憶メディアらしきものを取り出した。

 

「これは先日までに行われた若手悪魔の試合を記録したものよ。もちろん私たちとシトリー眷属の試合の記録もあるわ」

 

 今日は眷属とダイスケで試合のチェックをすることになっていた。その試合の解説役であるアザゼルがスクリーンの前に立って言う。

 

「お前ら以外にも若手悪魔たちは試合をした。大王バアル家とグラシャボラス家、大公アガレス家とアスタロト家。それぞれがお前らの対決後に試合をした、その記録映像だ。ライバルの試合だからよく見ておけよ」

 

『はい』

 

 全員が真剣にうなずく。

 

「じゃあまずはサイラオーグ……バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

 プロジェクターが起動し、スクリーンに映像が投影させる。すると、すぐに期待感とわくわく感は消し飛ばされる。

 サイラオーグはまさに、圧倒的『力』を見せていた。グラシャラボラスのゼファードルの持ち駒はすでに三人を残してサイラオーグの眷属にすべて撃破されてしまった。

 その三人の眷属はサイラオーグとゼファードルを一騎打ちさせるために動いているようだが、一切手の内や得物を見せていない。まるで遊ぶように、そして己と相手の限界をギリギリで愉しみながら試しているようにも見える。

 サイラオーグと接触しても、例え数の優位があろうが決して手の内を見せずに撤退する。

 

「俺はこの三人が獣転人じゃないかと踏んでるが、どうもわからん。このゲームでもゼファードルが逆転を狙ったサイラオーグとの一騎打ちをさせるために動いていただけだ。しかも積極的に相手をリタイアには追い込まず、まるで試すかのような雰囲気だ」

 

 しかもよく見れば手加減しているようにも見える。ゼファードルが一騎打ちにこだわったというのが理由だろうが、その力量から見るにサイラオーグとも十分に戦えるはずなのに、だ。

 試合内容を見直すとゼファードルが三人の眷属の望み通りサイラオーグに一騎打ちを挑む。

 そこからは一方的だった。ゼファードルのあらゆる攻撃がはじかれ、徐々に追い詰められていく。そこへ、サイラオーグの拳の一撃が入る。幾重にも張られた防御術式を難なく突破し、その拳はゼファードルの腹に突き刺さった。

 桁違いの破壊力である。何せよけられた拳の拳圧で周囲の建物を吹き飛ばすのだ。一度でもまともに食らえば致命傷だろう。

 

「凶児と呼ばれ忌み嫌われていたゼファードルがこうも……これほどものなのかサイラオーグ・バアル」

 

 木場もその光景に驚愕し、目を細める。なにせ騎士(ナイト)である彼の動体視力でいま起きたことのすべてを視認することができなかったのだ。戦慄もする。

 

「リアスとサイラオーグは(キング)なのにタイマン狙いすぎだ。基本的に(キング)は動かずとも駒を進軍させて勝利を得ればいいんだからよ。(キング)を取られりゃ負けなんだぜ? バアルの血筋は血の気が多いのかね。」

 

 アザゼルが嘆息しながら言う。それに対し、リアスは顔を赤くしていた。ライザーとの一戦のように思うところがあるらしい。

 

「ゼファードルの強さってどれくらいなんですか?」

 

 イッセーの問いにリアスは答える。

 

「映像ではああ見えたけど、彼自身は決して弱くはないわ。とはいっても、本当の次期党首が事故死しているから彼は代理参加なのだけれど」

 

 朱乃が続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム開催委員会が出した下馬評のランキングでは一位はバアル、二位はアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がシトリー、六位がグラシャラボラスでしたわ。王と眷属を含めた平均で比較したランクです。それぞれ一度試合をして覆りましたけど」

 

「しかし、このサイラオーグさんは抜きんでているってわけですね」

 

 イッセーの言葉にリアスはうなずく。

 

「ええ、彼は正真正銘の怪物よ。ゲームに本格参戦すれば「すぐにランキングに食い込んでくるのでは?」といわれているの。逆に彼を倒せば私たちの名は一気に上がる」

 

「あのー、ひょっとしてライザーより強かったり……?」

 

 イッセーは恐る恐るリアスに訊く。

 

「実際にやってみないとだけど、贔屓目抜きで見てもサイラオーグが勝つでしょうね」

 

「ま、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られたものだ」

 

 アザゼルが術を展開して宙にホログラフを投影する。そこに記されたサイラオーグのパワーの値はグラフの枠を飛び越えていた。何せ天井にまで届きそうなのだ。

 

「だがサイラオーグは全開なんて出しちゃいなかった。本気の「ほ」の字もな」

 

 アザゼルの言葉にイッセーは戦慄する。何せ素の拳で禁手化した今のイッセー以上なのだ。神器も、伝説級のドラゴンの力もなしで、である。

 

「やっぱ、天才なんですかねぇ」

 

 ぼそりとイッセーはそういうが、アザゼルは否定する。

 

「いや、あいつはバアル家始まって以来初めて滅びの力を継承できなかった純潔悪魔だ。滅びの力が継承されたのがグレモリーに嫁いだヴェネラナ女史が生んだ兄妹のほうさ。そして奴は家の才能を引き継ぐ純潔悪魔が決してしないことをして力を手に入れた」

 

「本来しないもの?」

 

「凄まじいまでの修行と鍛錬だよ。尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純潔悪魔なのさ。あいつには自分の肉体しかなかった。だからそこを愚直なまでに鍛え上げたのさ」

 

 そしてアザゼルは皆に語りかけるように続ける。

 

「奴は何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けてきた。華やかに彩られた貴族社会の中で泥臭いまでに血なまぐさい道を歩いているやつなんだよ」

 

 だからか、とダイスケはひとり納得する。初めてサイラオーグに会った時、彼からえもいえぬ裏打ちされた自信のようなものを感じられた。

 

「才能のないものが次期当主に抜擢されることがどれほどの偉業か。敗北の屈辱と勝利の喜び、天と地の差を知っているものは間違いなく本物だ。ま、強さの秘訣はほかにもあるんだがな」

 

 そして映像が終わる。サイラオーグの勝ちである。最終的にゼファードルは物陰に隠れおびえながら投了した。

 その姿を誰も笑えなかった。

 映像が終わり、しんと静まり返った室内でアザゼルが言う。

 

「先に言っとくがお前ら、ディオドラと戦ったら次はサイラオーグだぞ」

 

 全員が驚くが、アザゼルは頷くだけ。しかし、リアスは怪訝そうにアザゼルに尋ねる。

 

「少し早いのではなくて?ゼファードルの方と先にやるのだとばかり思っていたのだけれど」

 

「いや、奴はもうだめだ。サイラオーグに心身に恐怖を刻み込まれた。もう戦えない。サイラオーグに精神まで断たれてしまったんだよ。だから残りの五人どうしで戦うことになる。グラシャボラスは……ここまでだ」

 

 映像にはアザゼルの言葉を肯定するように恐怖に震えるゼファードルの姿があった。

 

「お前らも十分気を付けろ。あいつは本気で魔王になろうとしている。そこに一切の躊躇も妥協もない。決して呑まれるな」

 

 実際に映像越しではあるがそれを体験した一同は頷いた。そこから一呼吸置き、リアスは言う。

 

「でもまずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も見るわよ。こちらも注意しないといけないわ。なにせ大公家のシーグヴァイラ・アガレスが負けたのだから」

 

「え、あのガンダム姐さん負けたんですか!?」

 

 一番驚いたのはダイスケであった。何せ個人的に連絡先を交換して時折ガンダム談義に花を咲かせるほどこの中で一番親交が深いのである。

 

「そんな話一切してなかったんだけどなぁ……」

 

「え、あなたそんなに彼女と仲良いの?」

 

「そりゃそうっすよ部長。俺のガンダムネタに食いつけるほどの相手と仲良くしないわけないですって」

 

「……ダイスケ先輩のガンダム談義についていけるって相当ですよ」

 

 この中でもサブカルに明るい小猫が若干戦慄している。なにせダイスケのガンダムネタといえば時折不意打ちでコアなところを突いてくるものだから小猫ですら反応に困る時があるくらいなのだ。

 それはさておき。

 

「私たちを苦しめたソーナたちは金星、さっきのランキングで二位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけれど、事前のランキングなんて所詮は予想。ゲームが始まれば実際は何が起こるのかわからないのがレーティングゲームよ」

 

 レーティングゲームとは、ただ眷属どうしを王がぶつけ合って戦うものではない。その試合ごとにルールや対戦方式は異なっており、そのたびに同じチーム同士が戦っても勝敗の結果は変わる。

 例えば、グレモリーとシトリーが戦ったルールでは建造物のむやみな破壊は減点対象となる。こうなると高火力ぞろいのグレモリー眷属にとってはかなりに縛りになってしまうが、戦術に優れるトップを持つシトリーにとっては自身の戦術を個々に発揮できる。

 強力な眷属をそろえれば勝てるというものでは決してないのだ。

 

「そうだとしても、まさかアガレスが負けるなんてね」

 

 リアスが言いながら次の映像を再生する。舞台は大規模プールが主体となったテーマパークを模したもので、観覧車がいきなり壊されたためグレモリー対シトリーの一戦のように大規模な破壊を制限されたルールではないようだ。

 そこへアザゼルの説明が入る。

 

「注目すべきはまず、シーグヴァイラの女王(クイーン)、アリヴィアンだ。奴はちょっと事情があって明かせないが特殊な種族で獣具、『機械猩猩の催眠輝目(メカニコング・ヒノプシス・アイ)』の獣転人だ。本当は人型種族じゃないんだが、その特殊性でヒト型のカデコリーなんだろうな」

 

 ダイスケの記憶にない怪獣の名前が出たが、その能力はわかりやすく瞳から放たれる催眠パターン光波が相手を強制的に眠らせ、錯乱させ、同士討ちをさせるものだった。これによりかなりの数のアスタロト眷属が混乱に陥れられたが、ただ一人眷属で効果がない者がいた。

 

「ミゲラさんか」

 

「そうか、ダイスケは一緒にテストを受けていたな。彼女はアスタロト眷属の女王(クイーン)、ミゲラ・サンタクルス。獣具『深淵獣の毒海潜行鎧(ダガーラ・ヴェノム・ダイバー)』の獣転人だ。催眠が効いていないのは恐らく元の怪獣がよほど力がある怪獣だからだろう。ダイスケと一緒で全身鎧がデフォなのは水中潜航能力を持つ怪獣であるが故か? 興味が尽きんぜ」 

 

 アザゼルが獣具の機能に興味を向ける中、スクリーンではミゲラの猛攻が始まる。はじめにアガレスの騎士(ナイト)の一人が突貫をかけるが、その勢いのままミゲラは捕まえた後水中に引きずり込む。そのままアガレスの騎士は浮き上がってこず、リタイアとなる。

 報復を計るのはアガレスの兵士(ポーン)三名。遠距離からの魔力砲撃に、ミゲラは為す術無しに見えたが、その兜のマスクが開き、ダイスケのようなビームが放たれる。その威力たるや兵士(ポーン)三人はおろか後方にいたアガレスの戦車(ルーク)までも巻き込んでリタイアにした。

 そんな激戦の中、手っ取り早く決着を付けるためにシーグヴァイラとディオドラの一騎討ちが始まった。

 

「だから、(キング)はもうちょっと自重しろって……」

 

 アザゼルが頭に手をやって言うが、これは記録映像。指摘しても詮無い事だった。(キング)同士がにらみ合い、互いに駆け出して交錯した。

 ややあってシーグヴァイラが倒れ、リタイアとなって勝負に決着が付いた。ディオドラの方はといえば、涼しげに笑うだけで傷一つついていない。

 

「下馬評のランキング、いくらあてにならないっていってもどうなっているんです、これ。実力査定できていないじゃないですか」

 

「イッセーの言う事も確かよ。でも、下馬評が出てから時間があったから、その間に実力を上げてきたか隠していたんでしょう。無い話ではないわ」

 

 そう言いながらリアスが記憶ディスクを取り出そうとしたまさにその時、部室の片隅に転移用の魔方陣が展開された。その文様を見た朱乃がぼそりと呟く。

 

「これは――アスタロトの」

 

 そして一瞬の閃光が輝いた後、そこにはさわやかな優男の姿があった。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

 

 

 

 

 部室のテーブルにはリアスとディオドラ、そして顧問としてアザゼルも座っていた。

 そして普段はこういう時、朱乃やリリアが茶を淹れるのだが、今日に限ってダイスケが茶を淹れると自ら率先してお茶汲みになっている。

 ほかの面々はライザーの時の一件のように部屋の片隅で待機していた。

 

「粗茶ですが」

 

 ごとり、と来客であるディオドラに先に湯飲みを置くダイスケ。

 

「……指が入ってるんだけど」

 

「そうですか?」

 

「いや、そうですか、じゃなくて五本の指全部入ってるんだけど」

 

 ディオドラの言うとおり、ダイスケの右手の指すべてが湯飲みの内側に入り、内側から支えるというかなり器用なことをしている。もちろん嫌がらせだ。

 最初はいい主だと思っていたのが、アーシアの一件で「あれ、コイツ……」と評価が変わったからこその手の込んだ嫌がらせである。きっと指の汗が全部溶け出して茶はしょっぱくなっていることだろう。

 

「では部長と先生にも」

 

「いや、交換しないのかい?」

 

「それではこれで」

 

「いや、交換……まあいい」

 

 飲まなければいい、という判断をしたディオドラは、優しげな笑みを取り繕ってリアスに言う。

 

「リアス・グレモリー、単刀直入に言います。僧侶(ビショップ)のトレードをお願いしたいのです」

 

 トレードとは、(キング)同士が駒となる眷属を交換できるシステムのことだ。ただし、なんでも交換できるというわけではなく、交換できるのは同じ駒、そして同格の駒価値の眷属ということになる。 

 この場合の僧侶とはもちろん――

 

「いやん! 僕のことですか!?」

 

 そういってギャスパーが身を守るポーズをとるが、すぐにイッセーとダイスケが両サイドから頭をはたく。

 

「「なわきゃねーだろ」」

 

 思えば逞しくなったものである。ちょっと前なら「ひぃぃぃぃぃ僕のことですかぁぁぁぁぁ!?」と言ってダンボール逃げ込んでいたものだが、冥界での特訓の成果かこんなボケを見せるようにもなった。

 ふざけた話は抜きにして、ディオドラのほしい僧侶とは十中八九アーシアのことだろう。不安げなアーシアはイッセーの手を強く握る。明らかに口にはしていないがいやだ、という態度だ。

 

「僕が望むトレードしたい僧侶は――アーシア・アルジェント」

 

 ディオドラはためらいもなくそう言い放ち、優しげな視線をアーシアに送る。それにしてもずいぶんと直球な手段に出たものである。

 

「こちらが用意するのは――」

 

 自分の下僕が載っているであろうカタログをディオドラが出そうとするが、それをダイスケがひったくる。

 

「なにをしてくれるのかな? 君は」

 

「いえね、部長はもともとトレードなんてする気ゼロだろうから一応客観的な目で見れる自分がチェックしようかと」

 

 そう言ってパラパラとページをめくり、ダイスケは「はぁ……」とわざと大きなため息をつく。そしてリストをぱたんと閉じ、ディオドラの足元に放り投げる。

 

「だめだ、これじゃあだめだ。話にならない」

 

「……僕の眷属を侮辱するのかい?」

 

「結果的にそうなりますねぇ。なんせどいつもこいつもアーシアと交換するだけの目立った特徴も能力もない。なのに獣転人のミゲラさんが入っていないっていうのがね。戦力的に見てもおいしい思いをするのはそっちだけじゃあないですか。こっちは友達と別れなきゃならないってのに。それに何より、同じ眷属連中が受け入れようとしないでしょう。どうです、部長?」

 

「そうね、私としても受け入れがたいわ。それにはっきり言っておいたほうがいいわね。私はトレードをする気は一切ないの。それはあなたの用意する僧侶が釣り合わないというのではなくて、単純にアーシアという存在を手放したくない」

 

「……それは彼女の神器? それとも彼女自身のことですか?」

 

「両方よ。私はあの子を妹のように思っているから」

 

「――部長さんっ!」

 

 アーシアは口元を手で覆い、その双眸を潤ませていた。リアスが自分のことを「妹」と家族同然に思ってくれていることがうれしかったのだろう。

 

「一緒に生活してる仲ですもの。情が深くなって離れたくないっていうのは理由にならないかしら? 私はそれで十分だと思うのだけれど。それに求婚しようという女性をトレードで手に入れるというのもどうなんでしょうね。あなた、求婚って言葉の持つ意味が分かっているのかしら?」

 

 自身も婚姻絡みでひと悶着あった身だ。最大限配慮をしているがディオドラに対して怒りを感じているのは間違いない。

 しかし、ディオドラはその笑みをやめない。

 

「――わかりました。今日はこれで失礼させていただきます。けれど、僕はあきらめません」

 

 ディオドラはそういって立ち上がり、アーシアの元へ歩み寄る。当惑するアーシアの前で跪き、その手を取ろうとしていた。

 

「アーシア、僕は君を愛している。大丈夫、運命は僕たちを裏切れない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても、僕はそれを乗り越えるよ」

 

 わけのわからない気障なセリフを吐くと、そのままアーシアの手を取って甲にキスしようとする。

 

――プチッ

 

 イッセーの中で何かが切れた。気が付けば、イッセーはディオドラの肩をつかみ、アーシアから引きはがしていた。

 

「……放してくれないかな。薄汚いドラゴンに触れられるのはちょっとね」

 

 間違いない、これが本性である。その言いようにイッセーは頭に血が上り殴りかかりそうになる。が、しかし。

 パァン!と何かをはたいたような音が部室に響く。

 

「そんなこと……言わないでください!」

 

 アーシアがディオドラにビンタしていたのだ。

 ビンタされたディオドラの頬は赤くなっていたが、その笑みがやむ様子はない。ここまで来ると裏に何かあるのかと思ってしまうほどだ。

 

「なるほど、わかったよ。――ならこうしよう。次のゲーム、赤龍帝の兵藤一誠を僕が倒そう。そうしたら、アーシアは僕に応えてほしい――」

 

「――お前なんかに負けるわけねぇだろっ」

 

 面と向かって言うイッセー。これでわかりやすい形になった。

 

「赤龍帝、兵藤一誠。僕は君を倒すよ」

 

「ディオドラ。アスタロト、お前が薄汚いって言ってくれたドラゴンの力、とくと見せつけてやるよ!」

 

 その時、アザゼルの携帯が鳴る。いくつかの応答の後、アザゼルは告げる。

 

「ちょうどいい、ゲームの日取りが決まったぞ。――五日後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメですっ、こんな時間に出歩くなんて!!」

 

「いや、だからアザゼル先生も一緒なんだって。もうすぐ先生が迎えに来るからさ」

 

「リリアちゃんの言うとおりだよ。それにアザゼル君だったらどんないかがわしい所にダイスケを連れて行くかわからないんだからね」

 

 その日の夕方、ダイスケはアザゼルと話をするために外出する準備をしていた。一応教師で人間界での保護者的立場の一人であるアザゼルが一緒なので、行くところさえ間違えなければこの時間の未成年の外出には問題は無いはずだった。

 だが、アザゼルのキャラクターを知っているリリアとミコトからしたらとんでもない話である。

 

「そのお話、家で出来ないんですか? お茶や軽食くらいは出します」

 

「そうそう、せっかくリリアちゃんがいるんだからなにも外でなんて……」

 

「いや、これは俺としてもなるべく内密にしたい相談なんだ。核心がある訳でも無いし、懸念の段階の話なんだ。お前らに聞かせて余計な心配をかけたくないし、聞いていて不愉快になるような話なんだ。わかってくれ」

 

「「うぅぅぅぅ……」」

 

 二人はまだ納得しきっていない。だが、無情にも玄関のチャイムが鳴る。

 

「ダイスケー、来たぜ」

 

「あ、はーい! じゃ、そういうことだから、晩飯は食べてくる。多分ちょっとは遅くなるから先に寝ちゃっててくれ。風呂掃除は最後にやる俺がするから。じゃ!!」

 

「「あーっ! 逃げた!!」」

 

 脱兎の如く携帯を握りしめて玄関に向かったダイスケは、急いで靴を履いてアザゼルになにも説明せぬまま一緒に走らせた。歩きに切り替えたのは家から直線距離5㎞を超えてようやくだった。

 

「お前よぉ、同居人に外出の話くらいはしておけよ」

 

「しました。しましたよ。しましたけど、過保護というか、なんというか……」

 

「今度言っておくか。「男には盗んだバイクで激走したくなるときがある」って」

 

「わかってくれるかなぁ……」

 

 住宅地から幹線道路に出た二人はタクシーを拾い、街中に向かった。タクシーが向かう先は歓楽街。最近ここは堕天使がヤクザから隆盛を奪い、健全営業且つサービスアップというある意味矛盾する成長を遂げていた。

 タクシーが止まったのはとある店の前。店名は「ダウンフォール・ヘヴン」。誰が経営しているのか知っている者ならすぐにわかる店名だった。この店は駒王町の中で最大級のサービスを誇る超高級店。階層が上がるにつれてサービス内容がグレードアップするが、一階の大衆向けエリアでも新宿歌舞伎町一番街の有名店にも劣らない充実ぶりである。

 

「いや、誰がこんなとこ連れてけっていったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ファミレスの個室で充分だろうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

「なに言ってるんだ、他所だと盗聴の危険がある。赤イ竹の一件を思い出せ。ここなら土地選びから設計、施工まで俺の指揮で管理してきたとこだ。おまけに店員は皆堕天使で、口は非常に堅い特に信頼できるのを選りすぐりで集めている。なんの気兼ねなく相談できるぜ」

 

「……そういうことなら仕方ないか」

 

「まぁ、ほとんど俺の趣味なんだがな。行くぞ」

 

「……はーい」

 

 その接客たるや店前からすごかった。何人もの顔立ちのいい堕天使の男たちが並んで頭を垂れ、階段を歩くものの気分はまさに王様気分。中に入ればスーパーモデルが裸足で逃げ出す超絶美女たちが店内で「いらっしゃいませ!」と明るく出迎えてくれる。

 その一階入り口の反対にあるエレベーターで通されたのは最上階のEXVIPルーム。本来なら他神話勢力の主神クラスを想定した滅多に使う予定がない超特別室だ。

 

「「黒い○帳」やぁ……「嬢○」やぁ……こんなんマンガや小説でしかしらねぇ……」

 

「お前、その年でチョイスが渋いな。ま、座れや」

 

 ダイスケが座るように促されたソファーもとてつもなかった。人工では無い、本物のレザーで暗い店内の照明を受けて妖しく光を反射している。そして気付いてしまった。床が鏡になっているのだ。煌びやか、というのもあるがこれでは――

 

「おっと、気付きましたかい、ダンナ。へっへっへっへ、そこは嬢が来てからのお楽しみ~」

 

「見ない! 絶対見ない!!」

 

「「「「「「いらっしゃいませ、アザゼル様、宝田様。本日は私たちがお相手させていただきます」」」」」」

 

「イヤァァァァァァァ! ドレスがかなり透けてるぅぅぅぅぅぅ!! 床なんて反射する上スカートだから見られないぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 目を両手で覆うダイスケの反応を見て堕天使嬢のテンションが上がる。

 

「いやん、かわいいぃ! アザゼル様、この子、教え子のお一人ですか!?」

 

「さぁさぁ、私の肩を抱いて。こういうとこではこれが礼儀よ? 勉強しないとね。それとももっと別の事、ベッドの上で勉強しちゃう?」

 

「い、いえ、後が怖いので遠慮しましゅぅぅぅぅぅぅ……」

 

 ダイスケの周りには奇しくも美人や美少女と呼べる女性が多くいる。リアス達は勿論、ヴェネラナやグレイフィアも美人だし、ミコトなど江戸時代の『古今貞女美人鑑』に別格とされたほどの美女だ。リリアだってサキュバスであるが故に超絶美少女と言っていい。

 だが、目の前の女たちは別のベクトルの美しさだ。ナチュラルなものではない、男を惑わしていかに金を絞るか。堅い男も堕落させるような、危険な毒のような美しさなのだ。免疫の無いダイスケなどは当然堪ったものではない。

 

「こういう所のポ○キーってねぇ、中身は同じなのにすごく高いのよぉ? はい、あーん」

 

「人間の未成年だからお酒はダメね。じゃ、こういう場所ではおなじみのオ○ナミンC出してあげるわ」

 

「は、はいぃぃぃぃ……じゃなくて! この状態じゃ話せるもんも離せませんよ、先生!」

 

「安心しろ。ここ嬢は接客だけでなく情報収集用のスパイとしても働いている。何かあったとき、こいつらプロに調べて貰う事も出来る。なぁ?」

 

「「「「「「はーい、私たちプロでーす!」」」」」」

 

「……信用できねぇ」

 

「あら、なら試してみる? 私たちがこのカラダでどうやって情報を集めるか……」

 

「この状態だと聞いていない事も聞き出せちゃいそうだけど……?」

 

 ダイスケの頬と胸板に怪しく手が伸びる。それに対してダイスケはただ震えるばかり。それをアザゼルが止める。

 

「おいおい、童貞相手にいじめすんな。腹も減ってるだろう、つまみじゃなくガツンとした食い物持ってこさせる。食いながら話聞くぜ。――おい」

 

「「「「「「了かーい」」」」」」

 

 ややあって肉料理と飲み物が提供され、その頃にはダイスケもようやく場の空気になれてきた。やっとこれで本題に入れる。

 

「ディオドラのことだったな。奴のなにが気になる?」

 

「はい、それが――」

 

 ダイスケはまず、夏休み中にミゲラから聞いたディオドラに拾われるまでの経緯を話した。その時点までは嬢たちも「あら、いい貴族のお坊ちゃまね」と感心していた。が、その態度は豹変する。

 それは、アーシアが教会を追放された経緯と、ミゲラの経緯がよく似ているのではないかという話だ。これまでアーシアが助けた悪魔が何者なのかはわからなかった。しかし、夏休み終わりにその悪魔がディオドラ本人である事が発覚したときダイスケの中である疑念が生まれた。

 

「似すぎているんですよ、この二つの事例。「聖女」と祭り上げられた敬虔なシスターが、悪魔を助けた事によって追放されてって……アーシアは俺たちと出会いました。けど、もしかしたら、ミゲラさんと同じようにディオドラはアーシアを……いや、ディオドラの眷属は見る限りみんな女だった。もしかしたら、全員同じ経緯でディオドラに引き取られたんじゃないかって。ディオドラは、自作自演の事故を起こして「聖女」に助けられ、追放された聖女を自分の物にするいわば「釣り」をしてるんじゃないですか?」

 

「……だとしたらその貴族、余程のシスター萌えで性的倒錯者ね。汚れのない者を自らの手で汚し、所有物にする。もしこれが本当ならゲスの中のゲスね」

 

「悪魔の貴族の道楽としたらたいしたタマよ。なにせ実に悪魔らしいわ。私たち堕天使が聖職者や転身を誘惑する事があってもあくまでも戦いだった。でもその男の所業が本当なら……悪魔の中でも淫獣と言ってもいい奴よ」

 

 その言葉を聞いてダイスケは安心した。彼女たちはいかに相手を堕落させる存在と言っても、その行動を戦いの一つとしてやってはならない一線というか誇りをもって堕天使の仕事をしている女性(ヒト)達なのだ。ただの淫乱や売女ではない、誇りを持って自分とは違う戦場で戦う戦士達なのだ。

 

「そうだな、もしもそうなら天界との外交軋轢にも繋がる。……ディオドラの周囲を洗ってみよう。実はさっきイッセーからヴァーリと接触したって言う報告があってな。奴曰く「ディオドラには警戒しろ」との事だったそうだ。――まずは本人の交友関係に眷属の出自。ディオドラ個人の出入り業者もアジュカに頼んで調べて貰おう。明日からやってくれるか、お前達?」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 その言葉は先程の水商売用のものではなかった。まさに選りすぐりのエージェントの声だった。それにダイスケは安心し、立ち上がる。

 

「すいません、じゃあお願いします。経費なんかは出世払いで、俺はこれで――」

 

 ダイスケが別れの台詞を吐いてそそくさと退出しようとしたその時、ダイスケの肩と腕が多くの嬢の手で捕まれる。

 

「あら、出世払いなんてとんでもない。今、ここで払っていってもいいじゃない」

 

「い、いや、俺そんなにお金持ってないし――」

 

「お金ならお仕事だからアザゼル様にきちんと払ってもらえるわ。今アナタに払ってもらうのは――」

 

「「「「「「――カ・ラ・ダ」」」」」」

 

「……え゛」

 

 そこへアザゼルがショットグラスでウイスキーを呷りながら言う。

 

「こいつらの相手はいつも俺みたいなおっさんとかだからなぁ。お前さんみたいな若くて初心な男の相手は珍しいんだよ。俺だって部下の精神衛生管理はしなきゃならん。――まぁ、玩ばれてこい。俺はここで飲んでるから、お前達はホテルに送ってやる。ああ、ファーストキスと童貞喪失だけは勘弁してやってくれよ。そいつには()()()()がいるんだから」

 

「「「「「「はーい! 自重して遊びまーす!」」」」」」

 

「いや、ちょ、ま、やめて、ああああああ、転移陣作るなぁぁぁぁぁ!!! 待って、止めて、あ、そこはダメ、やめ、き、気持ちよくなんか、ああ、うっ! 待って、まだそこ敏感、んはぁ! 悔しいっ! でも感じちゃう(ビクンビクン)……ま、ちょ、や、助け――」

 

――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

 

 裸にひん剥かれ、嬌声を上げながらダイスケは嬢達と共に転移陣の光の向こうへ消えていった。

 

 

 

   ・

   ・

   ・

    ・

 

 

 

 現在深夜二時、リリアとミコトはずっとダイスケの帰宅を待っていた。夕食は心配ないとして、アザゼルがどこへダイスケを連れて行ったか問題だ。しかもこの時間、明日も金曜で学校があるというのにあまりにも帰宅が遅い。

 

「アザゼル君、ダイスケにお酒飲ませなきゃいいんだけど」

 

「お酒ならまだいいですよ、ミコトさん。もしも堕天使の風俗なんかに連れて行かれたら……」

 

「い、いやぁ、ダイスケはそこの所しっかりしてるよ? 信じて待とうよ、ね?」

 

「……だと良いんですけど」

 

 リリアがそうため息をついた瞬間、玄関のドアが開かれる音がした。急いで二人は玄関に走っていく。するとそこにはパンツ一丁で全身キスマークまみれ、精神が抜けた状態で玄関に服を持って突っ立ているダイスケがいた。

 

「な、なにその格好にキスマーク!?」

 

「ま、まさかダイスケ様、本当に……ダイスケ様?」

 

 リリアがダイスケの異変に気付く。完全に精神が抜けて死んだ魚のような目になっていたダイスケの目に二人の同居人の姿が映った瞬間、大粒の涙がとめどなく溢れ出したのだ。そして力なく二人の側に歩み寄り、二人に抱きついてさらに大泣きした。

 

「こわいぃぃぃ……おとなのおんなこわいぃぃぃぃぃぃ……こわかった、こわかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ままぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 その後リリアとミコトが二人がかりで落ち着かせてダイスケの身体を洗い、ベッドに寝かしつけて添い寝で就寝させるまで幼児退行したままだったという。




 はい、というわけでVS44でした。
 ゼファードルの眷属三人が本気を出していなかったのには理由があります。多分この六巻分の最後に明らかに出来ると思います。
 実はアリヴィアンの獣具はヴァーリに与える予定でした。相手に使わず自分のマインドリセットに使わせる予定でしたが、イッセーもヴァーリも獣転人にするのを止めたのでこうしました。ということで、活動報告のアンケートはこれにて終了です。後で更新します。
 あ、一応ダイスケは今回ズタボロにされましたが最後の一線は越えていませんよ。まぁ、トラウマは植え付けられましたが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!
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