はじめに白目となったダイスケ目がけて突撃したのはガバラだった。これはガバラの方が勇敢であった訳でも赤いドラゴンが怯えていたからと言う訳でもない。
同じ怪獣であるが故に相手の能力を把握しやすかったというだけだ。証拠に赤いドラゴンは探査魔力術でのアナライズ中であり、対処法のラーニングのまっ最中で少々処理が遅れていた。これは白目に出す怪我これまで初めて見たタイプの適正性目であったがためだ。なので、一旦わざわざ自らから先陣を切って突撃してくれたガバラを生け贄にして情報収集に集中する事にしたのだ。
ブォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!
ガマと猛牛の鳴き声の合成音のような唸りをあげてガバラは突撃する。10m以上の巨大な体躯に見合わぬスピードは、それに伴った運動エネルギー量を増し、叩き付ける拳の威力も増加させる。当然、電撃も纏わせた拳はインパクトと動じに周囲の瓦礫も粉砕する。
ダイスケは拳の下敷きになった。当然この光景を見ている誰もが叩き潰されたものと思う。だが、ガバラの拳の下からあの昏く深い底から響くような声が聞こえてきた。
「……この程度で小生を殺せると思うたか。舐めるなよ、小物がぁッ!!」
ダイスケは右利きだった。つまり、ガバラの拳を左腕で支えているというこの光景はダイスケにとってこの拳が本気で受けるほどのものではないという事を示している。
ガバラはもう一度殴りつけようと伸ばした腕を引こうとした。だが、動かない。白目のダイスケが腕を掴んで離さないからだ。ガバラは必死に腕を引こうとするが微動だにしない。どう見てもスケールの差と実際の腕力差が間違っているとしかいいようがない。
自分の腕力がガバラよりも勝っている事を確認した白目のダイスケは、その腕を半回転分捻った。するとそのトルクはガバラの腕の骨の構造強度を大きく逸脱して剪断、つまりは骨折させた。
ブォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!?
あまりの痛みにガバラは苦悶の叫びを上げるが、白目のダイスケは一向に手を離さない。
「ほう、痛めたか? なら痛みの原因を取り去ってやろうか」
いいながらダイスケはガバラの腕を引っ張る。するとその腕はいとも容易く引きちぎられてしまった。
ブォ、ブォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!?
白目のダイスケの拘束からは脱したが、その代償はあまりにも大きい。あまりの痛みにさしもの凶暴なガバラも戦意を完全に喪失してしまった。這々の体で逃げだそうとするが、白目のダイスケが見逃すはずがない。
背中の背びれが青白く発光し、白目のしたのマスクのクラッシャーが大きく開く。大地は鳴動し空気は震え、この世の全てがその力の解放に怯えているようにリアス達には感じられた。
「――去ね」
死の宣告と同時に青白い熱線は放たれる。その一撃はガバラを背中から押し、遙か10km先まで信じられないスピードで加速させる。そしてガバラの肉体が限界に達した瞬間、大爆発が起きた。
その光景たるやどう見ても水爆の爆発。空気の震えがややあってここまで伝播し、その威力のほどが覗え知れる。ガバラの肉体は文字通り粉砕され、その魂は天に昇っていった。
だが、それだけの事をしでかしても白い目のダイスケの破壊衝動が収まる気配がない。その白目は次のターゲットとして赤いドラゴンを捕らえる。
「……聞こえるぞ、貴様の怨嗟。いや、
白目のダイスケは赤いドラゴンに飛びかかり、そのまま拳の応酬になる。その衝撃は神殿を大きく揺らし、ここまで持っているのが奇跡と思えた建物の構造的限界を大きく超えようとしていた。
その証拠に天井は崩落を初めて瓦礫が次々とリアス達の頭上に落ちてくる。なんとか避けてはいるものの、次に落ちてくる瓦礫は大きすぎて避けられそうもない。かといってここで大きな攻撃で瓦礫を砕いたら白目のダイスケの気を引いてしまうだろう。
どうしたものかと思案に暮れていたその時、声が聞こえた。
「障壁を張ってください! 下手に動かないで!!」
その声に従い、リアス達は一カ所に集まって頭上に障壁を張る。瞬間、天井が落ちてきたが、それは横合いから噴出された紫色の液体によって空中で溶かされた。
「石の天井板は私の強酸性に調整したべーレム毒で溶かしました。毒液は踏まないように気をつけて」
声の主はダイスケが倒したディオドラの
「すいません、手伝ってください。私だけでは抱えきれなくて」
ミゲラが連れてきていたのは、気絶している生き残ったディオドラの眷属達だった。
「確かに、見捨てるのは残酷ね。連れて行きましょう。祐斗、朱乃、小猫、手伝ってあげて。私は落ちてくる礫をなんとかするわ。」
目の前で起きたショッキングな出来事にもかかわらず、リアスは努めて冷静であろうと努力していた。指示に従って木場達はディオドラの眷属を抱えて崩落する神殿から脱出した。
すると間一髪、最後にリアスが神殿から抜け出した瞬間に大崩落が始まる。轟音を立てて石材が倒れ、砕け、何もかもがその形と役割を終える。
せめてあのバケモノと化した二人が泊まってくれれば幸いである。だが、そんな淡い希望もすぐに崩れた。倒壊した瓦礫の中でまだあの化物二匹は戦っていたのだ。
見れば二匹の周囲に瓦礫が落ちていない。これは恐らくぶつかり合う拳の衝撃波で落ちてきた礫が皆吹き飛ばされた結果なのだろう。すり鉢状に開けた崩落跡地のせいでこの二匹の戦いが剣闘士の決闘のようにも見えてきた。
激しい拳や熱線の応酬は見る者の心を凍り付かせる。熱線とビームの撃ち合いはまさに呪わしい力のぶつかり合い。空中で衝突した赤と蒼のエネルギーの塊は大爆発を起こす。
勿論赤いドラゴンとゴジラの戦いはこれではこれで終わらない。壮絶な殴り合いに発展し、爪が、拳がお互いの肉と血を抉る。
「うぎゅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「力に飲まれたのは己の不徳だろうが!! 己の生に不満を持つとはずいぶんと贅沢な奴め!! 小生らのように望まぬ戦いで散った訳でもなかろうに! 他人のために戦ったのに忘れ去れた訳でもなかろうに!! あぁ、恨めしやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
この二人を止めなくてはならないとは思う。が、この二匹の戦いに介入すれば死は確実。どうしようもない。
「ミゲラさん、でしたね。同じ獣転人ならアレがなんなのかわかりませんか? 止める方法は?」
木場がミゲラに尋ねる。
「……あのドラゴンの神器の
ミゲラの質問に、リアスは「ええ」と応えた。
「その時にずっとダイスケさんの意識の裏でゴジラの意思は表に出る機会を覗っていた。戦いの中なら暴れられますからね。その中で気を失うのを狙い、表に出て暴れているのでしょう。いわば、今の彼はゴジラに意識を乗っ取られている」
「ではなぜゴジラの意思はヒトの言葉を?」
朱乃がミゲラに尋ねた。
「伊達にこの世界の始まりから人の世を見てきた訳ではないはずです。きっと獣転人の意識の裏で人間の事を見てきたのでしょう。それにしてもダガーラだって永い刻の経過で眠ったままなのに……なんと恐ろしく強い生命力なんでしょうか」
「あ、そうだ! ディオドラが言っていた核弾頭! アレの事を伝えないと!」
忘れかけていた重要案件の事を思い出すギャスパー。それにミゲラは応えた。
「烈一号型核弾頭の起爆は大規模
それを聞いて一堂は胸を一旦なで下ろした。だが、目の前の二匹に関してはどうしようもない。恐らくアザゼル達本隊が来てくれなければ対応の一つも出来ないだろう。
「困っているようだな。」
リアス達が思案していたその時、ヴァーリの声が聞こえる。声の方向を見ればいつの間にかヴァーリをはじめとして美猴、そしてコールブラントと
三名ともすでに名の知れた禍の団構成員である。そのためリアスたちはすぐに戦闘態勢を取る。
「戦りあうつもりはない。ただ赤龍帝の覇龍を見に来ただけだ。そのついでに別の面白いものも見れたがな。とはいってもあれは共に中途半端な状態のようだ。アレがこの強固なフィールドの中で起きたのは幸いだったな。人間界であれが起きていたら都市が一つ消えてなくなっていただろう。」
状況をつかんでいるらしいヴァーリにリアスは問う。
「……二人とも、元に戻るの?」
「兵藤一誠のほうは完全な覇龍ではないから戻る可能性もある。しかし、止められなければ命を消費し続けて自滅する可能性がある。いずれにしろ彼自身の命が危険だ。宝田大助のほうは……済まんがどう手をつけていいかわからん。下手に手を出してさらに凶暴になってもらっても困る」
すると、美猴が一人の少女を抱えて木場に歩み寄る。
「このお嬢ちゃん、お前らのとこのだろ」
それはアーシアであった。見たところ気絶はしているが目立った外傷はない。そのアーシアを木場が美猴から受け取る。
「アーシア!」
「アーシアちゃん!!」
リアスと眷属一同がアーシアの下に集まる。その無事な様子に皆涙ぐんでいた。
「でも、どうしてあなたたちが?」
木場の疑問にアーサーが答えた。
「私たちはちょうどこのあたりの次元の狭間を調査していました。そこに彼女が飛び込んできたんですよ。ヴァーリが見覚えがあるというのでここまで連れてきた次第です。ですが運が良かった。私たちがあそこに偶然居合わせなければ彼女は次元の狭間の『無』に当てられて消失するところでした」
「……単なる気まぐれだ。助けようと思って助けたわけじゃない」
そのアーサーの説明でリアスたちは会得した。
「よかった……本当によかった……!」
アーシアの無事を確認したゼノヴィアが安堵でその場に崩れ落ち、ひたすら涙を流した。そのゼノヴィアに木場はアーシアを託す。
「――あとはイッセーとダイスケだけど」
リアスが二人の方向に視線を向ける。二匹の怪物はまだ瓦礫の上で不毛な争いを続けている。
「アーシアの無事を教えればイッセーだけでも止められないかしら」
「無理だ。死ぬぞ。まあ、止めはしないが」
そっけなく言うヴァーリに朱乃と小猫が詰め寄る。
「頼める間柄ではないというのは承知しているけれども、それでもお願い。彼らを助けるのに手を貸して。赤龍帝と対となる白龍皇の貴方ならば彼らを抑えることもできるのではなくて?」
「……私からもお願いします。私たちも全力を尽くします。ですからどうか……」
取りつくしまもないように見えたヴァーリであったが、しばし顎に手をやって考える。
「そうだな、兵藤一誠に関して言えば彼の何か深層心理に大きく影響を与える現象を起こせばいいと思うが……」
「なら、おっぱいでも見せりゃあいいんじゃね?」
美猴が頭を掻きながら適当そうに言う。正直、グレモリー眷属のだれもがそう一瞬考えたが今はまじめな場面である。誰も指摘できなかった。
「だとしてもあの状態ではな。ドラゴンを鎮めるものと言えば歌だが、赤龍帝と白龍皇の歌なぞこの世には――」
「――あるわよぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
*
「あー、やっと着いたー。って、なにあれ!? アレが今のイッセー君とダイスケ君!? 聞いてはいたけどとんでもないことになってるじゃない!!」
「イリナ、どうしてここに?」
ゼノヴィアが聞くと、イリナは悪魔が用いる立体映像機器を地面に置いた。
「二人が危険な状態になったのは観戦ルームやこのフィールドで戦っていたお偉い方々にも把握されているの。で、このままではいけないとルシファーさまとアザゼルさまが秘密兵器を私に持たせてくれたわけ! ちなみに転送してくれたのはオーディン様よ! すごいわよね、北の神さま! そんでもってこれが、その秘密兵器! いざ、起動!!!」
イリナがボタンを押すと空中に大きな映像が投影される。そして始まったのは――
『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』
元気良く宣言した鎧姿のイッセーの周りに、子供たちが集まってくる。
『おっぱい!』
「おっぱいドラゴンの歌」
作詞:アザ☆ゼル
作曲・企画:サーゼクス・ルシファー
ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん
とある国の隅っこに
おっぱい大好きドラゴン住んでいる
お天気の日はおっぱい探してお散歩だ☆
ドラゴン ドラゴン おっぱいドラゴン
もみもみ ちゅーちゅー ぱふんぱふん
いろいろなおっぱいあるけれど
やっぱり おっきいのが一番大好き
おっぱいドラゴン 今日も飛ぶ
(以降はご自分でお確かめになってください)
・
・
・
・
―― な ん だ こ れ は
大方イッセーが皆に隠れて撮影していたものはこれのことなのだろう。どうやら子供番組用のPVらしい。それにしても作詞、作曲、企画、振り付けがとんでもないことになっている。三大勢力和平後の最初の合作がこれでいいのだろうか。
「うぅ、お、おっぱい……」
しかし、物は悪いが効果はあったようでイッセーが初めてまともな言語をしゃべった。いや、常識的に考えて決してまともな単語ではないが。
「良かった、反応したわ!」
「……こ、こんなところでも『やらしい赤龍帝』……。
素直に歓喜するリアスとこんな状況でも平常運転なイッセーに頭痛が起きた小猫である。そして効果があったことを確認したイリナはついにリピート再生のボタンを押した。
延々流される教育番組用なのに教育上よろしくない歌がイッセーを狂気と平静の間で苦しめさせ、ダイスケもといゴジラも「……なんだ、これは」と白い瞳をぱちくりとさせて呆然としている。
「そうだわ、リアス! あなたの乳首をここで使いましょう!」
朱乃がこの空気に呑まれたのかとんでもないことを口走る。
「あ、朱乃!? 何を言っているの!?」
「イッセー君はあなたの乳首で禁手に目覚めた。なら、きっとその逆も可能なのではなくて? まず、ヴァーリの力で今のイッセー君の力を半減させ、そして貴方の乳首を触らせるの。ほら、見て!!」
朱乃が指差すイッセーの姿は、リアスの方向を向き、まるで何か押すスイッチを探しているような姿であった。
「ぽ、ぽちっと、ぽちっと、ずむずむいやーん……」
「今のを聞いた? イッセー君は今、あなたの乳首を求めているわ。ふふ、私じゃないっていうのが悔しいわね……。でも、イッセー君を救うにはこれしかないわ」
「……俺は別にかまわんが、リアス・グレモリーの乳首は兵藤一誠の制御スイッチか何かなのか?」
美猴がそれを聞いて「いいね、スイッチ姫ってか!?」と大笑いする。それを一度キッと一睨みしたリアスは朱乃に問う。
「で、でも! わたしがイッセーを制御する役割だとして、誰がダイスケを抑えるの!?」
そこへ、ひらりと一人舞い降りる人影があった。それは獣具を展開したヒメであった。
「あやつは妾に任せよ。あの白目と戦った記憶ならある。まぁ、あの時は死んでしまったが……死ぬ気ならなんとか止められるはず」
「だめよ! 死ぬ事が前提なんて! お兄様達の応援も来るはず、それまで私たちでなんとかしのぐの!」
己の死を受け入れかけているヒメをリアスが止める。その言葉に、ヒメは優しく微笑んだ。
「なぁに、あやつにはミコトを救ってもらわねばならん。死ぬ気とは言ったが死ぬつもりはない。それに……もうすぐ奴が来る」
ミコトの言葉からややあって、フィールドの空気が一変した。それまで無風だったのに、突然強い風が吹き始める。次第に雨粒が落ち、天候の変化などないはずのフィールド内に暗雲が立ちこめてきた。
そしてリアス達の側に落ちる雷。その黄金の稲光が落ちた地点に、一人の男が立っていた。男はスラヴ系で、スラリとしていながら鍛えられた肉体がある事が背広の上からでもよくわかる。無造作に調えられた金髪とその顔立ちはビスクドールを思わせる流麗さを際立たせていた。
ヒメの姿を確認すると、男はようやく口を開く。
「……お前も来ていたか。最珠羅の獣転人。誰かは知らないが、お前が何者なのかは私にはわかるぞ」
「妾も貴様の魂の元の持ち主とは一度は共闘し、一度は死闘を繰り広げておる。誰かは知らんが妾も主の魂の事はよくわかるぞ、魏怒羅。アレに惹かれてきたか?」
「今この世が壊されては私の計画は破綻する。それに、俺の中のギドラとは違う魏怒羅がヤツを止めろと五月蠅いのでな。アレさえなんとかすれば、魏怒羅は大人しくすると言ってくれている。ならあれを止める以外の手はあるか?」
「……どうやら良からぬことを考えてるようだの。貴様を動かすのはあの
「私を動かすのは私だけだ。何より私の目的は奴らのような矮小なものではない。もっと大きな
「救済を真面目に語るヤツには基本的に禄なヤツはいない。だが、今は貴様に頼るほかは道はないだろう。……やってくれるか?」
「無論、私の目的達成のためには今この世に滅んで欲しくはない。手を貸す」
どうやら金髪の男は手を貸してくれるらしい。だが、それに疑問視を持つのはヴァーリだ。
「お前、曹操の所にいるヴァーシリー・コロリョフだな。基本的に表に出ないという貴様がなぜ今更ここにいる?」
ヴァーシリーと呼ばれた男はヴァーリに応えた。
「無論、己の目的達成のため。さっきからそう言っているが?」
「これまでアンタは禍の団上層部の戦線投入依頼を悉く蹴ってきた。てっきり金だけを出して世界が滅ぶ様を見たいだけなのかと思っていたが……アンタの言う救済とはなんだ?」
「今はただ、全てを救うとしか言いようがない。そこに至る手段はまだ確立されてはいないのだから。だが、ただ一つだけ言えるのは「俺は決して嘘は言わない」ということだ。今この状況を解決するためにお前達に助力する事は嘘偽りないし、これからもその姿勢は揺るがない」
「……わかった。但し、俺の獲物の赤龍帝にどさくさ紛れで手を出すなよ」
「安心しろ。いずれ彼も、お前も、纏めて救う……さて、そこの転生天使の娘。ぼさっとせずにこちらを手伝え」
「……え? なんで私がそっちを?」
まさかの指名にイリナが驚く。
「まさか気付いていないのか? まぁいい。この娘にはこっちの手伝いをさせる。そっちはそっちで上手くやれ、白龍皇」
「え、ちょ、ま、いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヴァーシリーはイリナの後ろ襟を掴むと、リアス達の止める言葉も聞かずに飛翔した。重力を無視した飛翔で弧を描き、着地する寸前でヴァーシリーはなんとイリナを白目のダイスケに向けて放り投げる。
「うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
イリナは背中からダイスケに激突し、地面に転がる。ついたほこりを払いながらイリナはヴァーシリーに抗議した。
「ちょっと! なにするんですかいきな、り……?」
イリナは気付いてしまった。背後から刺さる鋭い視線。今までいくつも修羅場をくぐったがこんな濃密な殺気は感じた事がない。恐る恐る後ろを振り向くと、そこに悪鬼がいた。
「……ほう、お前は
「えっと、私、貴方と面識ありましたっけ……?」
ダイスケは知っているが、こんな白目のダイスケは見た事がない。そのことイリナは言っていたが、白目のダイスケからするとこの言葉は誤魔化しにしか聞こえなかったようだ。
「白を切るか、地の獣。ならばあの時のように爆散してみるか? 思い出せるかもしれんぞ?」
完全に白目の興味はイリナに向かった。その裏でリアス達はイッセーの気を引く作業をしていたがそんな事イリナには関係ない。ただただ目の前の悪鬼に震えていた。
「いや、ホントになにも記憶がないんですけれど……!?」
白目のクラッシャーが展開して背びれが発光しはじめる。先程の熱線の威力はイリナもこのフィールド内の別の戦場で見ていたから知っている。それが自分に向けられているのだから戦いた。
そして容赦なく放たれる一閃。大地は砕け、大気が揺さぶれる。この二度目の熱線によるキノコ雲はオーディン達にも見えて戦慄させたという。
どう考えても熱線はイリナに直撃し、彼女は砕け散ったかのように思えた。しかし。
「な、なにあれ……! あんなの喰らった死んじゃう……ってあれ? なんで私こんな所に?」
イリナがいたのは白目の真後ろ2m。いつの間にかここまで移動していたのだ。しかもイリナは腰から下が地面に埋まっている。まるでここまで地中を掘削してきたようだ。そこでイリナがある事に気付く。
「――なに、このグローブ?」
イリナの両手にはいつの間にか大きなグローブが装着されていた。その形状はまるで猛獣の手。爬虫類の皮膚のような表面に、背には蛇腹のような突起が続いている。
「……ようやく目覚めたか、
そのヴァーシリーの一言で、ようやくイリナは状況を把握した。
「え、嘘……私って獣転人だったの!? って、あぶなっ!!」
上半身を間抜けにも出しっぱなしだったイリナを白目が踏み潰しにかかる。だが間一髪でイリナは地中を掘削して難を逃れる。
逃げてばかりではない。イリナはまるで食事中に周面をはねるボラのように地中から飛び出してまた潜行する動作を繰り返す。その間、技と白目のすぐ側から現れて爪で引っ掻くヒットアンドアウェイの攻撃も織り込んで翻弄する。
「鬱陶しいぞ、地蟲ぃぃぃぃぃ!!!」
「おっと、地面だけではないぞ」
ひらりと舞ったヒメが、手にした扇を逆手持ちのシミターに変形させて斬りかかった。その流麗で隙も無駄もない動きが白目を翻弄する。
さらに周囲を舞う黄金の鱗粉が白目の視界を遮り、プリズム効果でヒメの姿が何重にも見える幻影が現れた。
「またか羽蟲!! それほど小生の恨み晴らしを邪魔したいか!!!」
「当然の事! お前のやろうとする復讐は復讐ではない! ただの八つ当たりよ! もうあの世界ではないのだ!! その身体、ダイスケに返せ!!!!」
「なにを、我が
放たれる熱線。しかし、その熱エネルギーは鱗粉を発火させ、粉塵爆発をもって己の身を焼いてしまう。当然ヒメは高速でこの場を離れており、なんの被害もない。
己を焼く炎に包まれながらも、白目の意思は揺るがない。
「……忘れ去られた者達の想いを、小生は背負っているのだ。恨みが晴れねば成仏も出来ん。それがあの者達への報いか!? それが我らへの手向けか!?」
「そのお前の想いだけで、お前が抱えるその魂達は救われるのではないか」
瞬間移動してきたヴァーシリーが白目に問う。
「お前一人でもその者達を思うものがいる。いや、少なくともお前が思う以上に彼らの事を忘れていない者達もいるはずだ。その者達を巻き込む権利は、お前にはないはずだ」
「……貴様、金色かぁぁぁぁぁぁ!!!」
すぐさま白目はヴァーシリーに殴りかかるが、目にも止まらぬ流れるような動きで避けられる。そして交錯した瞬間にヴァーシリーは手にした電撃を纏う直剣で腹を斬りつける。
「少なくとも、今の魂の持ち主はお前ではない。どうやら真の主が動き出したみたいだぞ?」
「な、に?」
*
ダイスケが気付いたとき、彼はいつの間にか高価そうな椅子の上に座っていた。目の前には大きな円卓が一つあり、室内はグレモリーの屋敷の大広間のように煌びやかだった。
円卓にはダイスケが座っているもの以外にも椅子があり、使用者の好みを反映したであろう様々な形をしている。数はダイスケのものをあわせて14。他にもここに来るらしい事がわかる。
その一つには鎖がかけられており、鎖は途中で大きな力で引き千切られた痕跡がある。相当な力を一瞬でかけたのだろう、剪断面は熱で赤く光っている。もしもこんな芸当が出来る者がすぐ側にいるのならかなりの脅威だ。ダイスケは椅子から立って周囲を警戒する。
すると、不意に部屋のドアの最も大きな者が開かれた。
「やぁ、待たせたね。他の連中はもうちょっとしたら来るから、その間にコーヒーでも淹れてあげよう」
そう言って茶道具を乗せたカートを引くのはビスクドールか宝塚の男役トップを思わせる麗人、いや男装の美女だった。確かに男性的な出で立ちだが、礼服の下の肉付きや全体のラインは女性のもので、声も低くないハスキーなものだった。
その麗人はダイスケのすぐ側に近づき、円卓の上にコーヒーを淹れる道具を広げていく。
「アメリカンじゃない、本物のフレンチローストだ。あんな薄めた紛い物とは違う本物の深い味わいを堪能させてあげよう」
その手つきは喫茶店のマスターのように手慣れたもので、見とれるような流麗さがある。だが、ダイスケは慌てて麗人に尋ねた。
「あ、あの、ここは一体どこなんですか? 俺、他の場所にいたはずなんですけど……いや、その、不法侵入とかではなくてですね!?」
「ふふっ、慌てなくて良いよ。強いては事をし損じる。まずはこれでも飲んでおくれ」
差し出される一杯のコーヒー。確かに麗人の言葉通り、心地良いコーヒーアロマが鼻腔を通って快感を感じる。試しに一口飲んでみると、香り以上の心地よいほろ苦さとバランスの良い酸味が口の中に広がっていく。
「お、美味しい……」
「それは良かった。我ながら上手くいったという自負があったんだけどね」
自分も一口流し込み、流すような目で麗人はダイスケを見つめる。
「他の連中はこういう嗜む心を持っていなくてね。君とは気が合いそうだよ。そう、とても……ね……」
すると麗人はカップを置いてダイスケの上に自分の掌をそっと重ねる。
「え? あ、あの……」
動揺したダイスケはカップを慌てて皿の上に置く。すると慌てたせいかコーヒーの飛沫がダイスケの掌の上に溢れる。
「これはいけないね」
そう言うと麗人は、なんとコーヒーを溢した側のダイスケの手を取って口元に持っていき――黒い染みを舐め取った。
「!?」
まさかに見ず知らずの美人にこんなことをされると思っていなかったダイスケは大層驚いた。相手は苦手な大人のオンナ。しかし、堕天使の嬢達のような妖艶さとは違う耽美な色気がダイスケには新鮮だった。これをもし年頃の少女がされれば同性相手でも一発で意識する相手になる。
「ごめんごめん、勿体なくてね。でもそれ以上に……」
そう言いながら麗人はダイスケの腕をぐっと引いてその顔を自らの眼前に引き寄せた。
「君の味を見てみたかった」
(なに、この少女マンガ的展開ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?)
頭がフットーしちゃいそうだよぉぉぉぉぉぉ!!!! とダイスケは顔を真っ赤に染める。
もう何が何だかわからなかった。
はい、というわけでVS48でした。
白目は覇龍と基本的に同程度の脅威と思ってください。ただ、理性と狂気が共存している分白目の方が危険ですが。
新獣転人、その名は自称天使紫藤イリナ! 獣具は
そして新キャラ、ヴァーシリー・コロリョフ。ロシア人の獣転人で、超大金持ちです。そして察しのいい方はもうおわかりでしょう……この男は、ヤツです。
ダイスケは今一体どこにいるのか? そしてこの男装の麗人の正体は? 多分この男装の麗人の正体を知ったらみんな驚くぞ!! なんでよりによってコイツ!? となる事請け合いです!
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!