ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 前作から二人目のリストラです。
 その分どこに行ったのか、皆様是非ご考察ください。
 あ、あと例の復讐の件ですが、相手が勝手に自爆してましたwwwwwこっちが手を下す必要も無くwwwww
 マジザマァwwwwwwザwwwマwwwァwww


VS07 掌大回転180°

「すべては、レイナーレ様の御為にって……何おかしなこと言ってるんだよ、ダイスケ!?」

 

「あら、わからない? まぁ、下等で下賤な悪魔なら理解できないでしょうねぇ――マインドコントロールよ」

 

 不敵にレイナーレがせせら笑った。それを見て木場はダイスケの身に何が起きたのかすぐに理解した。

 

「木場、マインドコントロールって――」

 

「……堕天使はね、神器持ちの人間をイッセー君のように排除したりすることもあるけれど、それは自分達にコントロールできない場合や当人が神器を扱えない場合だ。所有者に素質がある場合は勧誘して自勢力に引き込むんだよ。それこそ買収、色仕掛けとなんでもござれだ。どうやら今回は当人の意思も無視する最低の手段を用いたようだよ。」

 

「それで……洗脳したって言うのか?」

 

 木場が怒りを込めてうなずく。その様子にイッセーはしばし呆然としていたが、徐々に怒りがこみ上げてきた。

 何せダイスケは高校入学以来の友人。その友人が自分の意思と関係なく、自我を壊された上、自分を殺し友となったアーシアを我欲のために殺そうという女にいいように使役されているのだ。これで怒り心頭に達さずに何で怒れというのか。

 

「ふざけるな! お前はどこまで他人を馬鹿にしてその大切な者まで奪おうとする!!」

 

「――チッ、五月蠅いわね。ダイスケ、貴方があの口を永遠に閉じさせなさい。ドーナシーク達は見ているだけでいいわ。お友達同士が無残に殺し合うサマを見届けてあげましょう」

 

「かしこまりました」

 

 舞台からダイスケが飛び降りると、他の三人の堕天使達は脇に引き下がる。イッセー達からすれば相手をする人数は一人に減ったが、その相手がダイスケでは先ほど以上に戦えなくなる結果となった。

 

「どうする、木場……!?」

 

「……なんとかして気絶させる程度に留めよう。そうすれば――!?」

 

 突然の殺気に木場は反射的に剣でガードする。直撃したのは青白い炎の塊、いや正確に言えば熱弾だ。

 立ち上る熱量はただ事ではない。この熱量では平均的な下級悪魔クラスの防御力なら一撃で葬り去られる威力だ。

 木場は実力から言えばすでに上級クラスの一歩下ほどには届いているが、スピードを生かした戦闘スタイルである特性上どうしても防御力には難がある。これをまともに食らえばダメージは避けられない。

 

「……下がって、木場先輩」

 

 迫るダイスケから庇うように小猫が前に出る。小猫の特性である戦車(ルーク)なら防御に関しては心配は無い。その判断から小猫は木場の前に出た。

 だが、ダイスケの武器は先ほどの熱弾だけではない。左腕のラウンドシールドを前面に押し出して小猫に体当たりしてきたのだ。

 

「!?」

 

 いかに盡力に優れていると言っても体格差から来る質量差だけはカバー仕切れなかった。

 はぐれ悪魔バイザーが相手の時は明確な力の差があったからカバーできた。だが同等、もしくはそれ以上の力にぶつかられるとさすがに押し負けてしまう。

 

「小猫ちゃん!? ――ダイスケ、止まれぇぇぇぇぇ!!!」

 

《Boost!》

 

 その二人の間に割り込むようにイッセーがダイスケに殴りかかる。勿論、神器で己の力を倍増させて。

 それを虚ろな目で確認したダイスケはイッセーの方に向き直り、紙一重でイッセーの左の拳を躱したと思ったら掌底を胸にたたき込んだ。

 

「――!」

 

 見た目からは想像も付かないほどの鋭い一撃。胸の中の空気が一気に押し出され、意識はフェードアウト仕掛ける。それでもイッセーは根性で気を取り戻し、交わされた左の拳を手刀に替えてダイスケのうなじを狙って振り下ろす。

 テレビや漫画でよく見る相手の意識を刈るためにやる首筋への手刀を行おうとしたのだ。だが、その手も捕まれた上イッセーはダイスケに胸ぐらを掴まれる。

 

(っ! しま――)

 

 イッセーはこの態勢からどうなるのか知っている。過去に一年時の体育の授業で体育教師に授業の一環でされたことがあるからだ。

 予想通りダイスケは重心を下げてから全身を伸ばし、その勢いでイッセーを背中から地面にたたきつける。背負い投げだ。

 受け身をとれなかったイッセーの背中に鋭い痛みが広がる。今度ばかりはすぐに復旧できなかった。何せぶつけられたのは地球の大地そのもの。先ほどの掌底とは威力は比較にならない。

 

「宝田君!!」

 

 木場が片刃の魔剣を生み出して、その峰でダイスケを狙う。木場の剣術の技能は一線級だ。当然その剣捌きの速度たるや年齢に見合わぬ練度で放たれる。

 だが、来るとわかっているのならばその剣の軌道を予測して防げばいい。勿論口で言うより実践は難しいが、それを可能にするのがダイスケの身体能力。

 しかも面積が広いラウンドシールドがあるのならばガード範囲も当然広くなり、今のようにたやすく防御できる。

 

「でも、これで終わりじゃないッ!!」

 

 勿論防がれても木場がここで一撃を与えるのを諦めるわけはない。空いた片手に刃を潰し、紫電を纏った魔剣が生み出される。

 ダイスケをなるべく傷つけないために即興で生み出した麻痺を目的とした魔剣、『紫電潰刃(スパークスタンエッジ)』だ。出力としては身体能力が優れるダイスケ用であるため市販のスタンガンやテイザーガンを越えている。

 それが懐に潜り込むようにダイスケの腹に突き刺さる。常人なら振れた瞬間に昏倒する威力の電撃がダイスケに流れた。

 基本的にこういったスタンを目的とした武器は接触させるだけで充分だ。だが、木場の本能が告げている。ダイスケに対しては決して油断してはいけない。底知れない何かを感じるのだ。

 その証拠にダイスケは電撃に苦しむ様を見せるどころか平然としている。徐々に木場の顔に焦りの色が浮かぶ中、ダイスケは木場とイッセーの胸ぐらを掴み、壁へと向かって投げつけた。

 

「「ウワッ!!」」

 

 同時に壁にたたきつけられて、イッセーと木場は呻く。それを一瞥した小猫はダイスケに対し近接戦を挑む。

 イッセーは言わずもがな素人、木場は防御力に難のある騎士(ナイト)だった。パワーとタフネスに優れるダイスケには似た特性の戦車(ルーク)である自分が相手した方がいいと判断したのだ。

 

「眠ってください」

 

 小猫の拳が正確にダイスケの鳩尾に迫る。だが、がっしりとダイスケの掌で小猫の拳が止められる。

 手加減はしていた。だが、確実にダイスケを眠らせるだけの威力を込めた正拳だったのだ。それをいとも簡単に止められた。

 訊けばダイスケは極力自分の力を使おうとしない正確であるらしい。洗脳された今は恐らくそのリミッターが完全に解除されているのだろう。でなければここまで悪魔である自分達が、それも三名のうち神器を有しているのが二名いるこの編成で神器を有しているこのチームが翻弄されいている理由が見つからない。

 そう思考した小猫の突き出された拳をダイスケは握り、そのままイッセー達とは別方向に投げ飛ばす。

 

「――キャァ!?」

 

 壁に激突し、転がる小猫。すると倒れ伏す三人のそばに堕天使達がそれぞれ三人ずつついて下手な動きが出来ないように目を光らせる。

 当のダイスケは祭壇へと跳躍し、装置を挟んでレイナーレの逆位置に付く。

 

「なっさけない。力に目覚めたばかりの人間に悪魔が三匹掛かりで翻弄されるなんてね。ま、私の目に狂いが無かったということの証左かしら」

 

「――お褒めいただき光栄です」

 

 どうしようも無くなってしまった。

 今の状態ではイッセー達は堕天使相手に満足に相手することもかなわず、ダイスケも人質に取られたような形になった今ではろくな抵抗が出来ない。

 おまけにダイスケそのものをどうにかしようとしても、手加減していては相手にならない。やるのなら本気でかからなければならないが、それでは誤ってダイスケを殺める可能性がある。

 

(せめて……せめて俺もまともに動ければ……!)

 

 自分の不甲斐なさに歯噛みするイッセー。それを罵倒するようにアーシアを拘束する装置の出力が上がり、光が漏れ始めた

 

「あ、あああああああ!!」

 

 それと同時にアーシアが更に苦痛の叫びを上げる。

 

「さあ、見るがいいわ!! この私が至高の堕天使へと昇華する瞬間を!!!」

 

 レイナーレの宣言と同時に装置の放つ輝きとアーシアの悲鳴は最高潮に達する。

 そして遂に、その時が来てしまった。

 

「あ……アーシアァァァァァああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーたちがアーシア救出のために出立したのと同じ時刻の旧校舎裏手の林。その少し前に出て行ったリアスと朱乃がここにいた。

 否、正確に言うとこの場にいるのは彼女たち二人だけではない。

 

「あなたね? ダイスケのメールにあった“説明役”というのは」

 

 二人の目の前にはローブ姿の男が一人。

 

「ああ、奴に頼まれてきた。詳しい話は道すがら話す。俺はお前たちの転送術を利用できないはずだ」

 

「そうね。でもその前に」

 

「――なんだ?」

 

「私たちを呼び出したのは本当にダイスケなの? 貴方が私たちを待ち伏せするために彼の携帯を使ったとも考えられるのだけど」

 

「確かにそうともとれる。だが……」

 

 そう言って男が振り向く先の地面に何かがある。それは倒れている人間であった。

 数は一人や二人ではない。数十人単位のローブをまとった人間の死体が散らばっている。

 

「待ち伏せするのに味方になる者を殺す奴がいると思うか?」

 

「……確かにいないですわね。」

 

 朱乃が思わず顔をしかめて答える。彼女は生粋のサディストであるが、人の死をなんとも思わないサイコパスではない。

 故にこの男の異常性というか浮世めいた部分を仄かに感じていた。

 

「まあ、こいつらはある意味処断されて当然のことをしでかしていたような連中だった。遅かれ早かれ“我ら”が処断していた。」

 

「あら。貴方は、はぐれエクソシストではないの?」

 

「ああ。詳しい話は後にするが……自己紹介だけはしておこう、グレモリー。俺は桐生義人。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の使いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうことなの?」

 

 その大人の女性らしい風貌の女堕天使、カラワーナの呟きは、この場にいるほぼ全員の気持ちであった。

 確かレイナーレの言う通りならアーシアはもう絶命し、その身に宿す神器である『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は堕天使たちの手に落ちているはずであった。

 が、しかし。

 

「いたた……すごく痺れました……」

 

 アーシアが辛そうな声で呟く。ふるふると子犬のように顔を振り、先ほどの痛みを体から抜こうとあがいているさまが実に小動物らしい仕草だ。

 だが、どこからどう見てもアーシアは痛がっているだけで命に別状がないように見える。

 

「あ、アーシア……貴女、なんともないの?」

 

 レイナーレは想定外のできごとにまだ対処しきれていない。

 

「は、はい。なんだか感電したみたいになっただけで特に体に不都合は……あ、でもちょっと肩のコリがほぐれた感じはあります」

 

「ど、どういうことなの……!?」

 

 アーシアの命を奪うどころか肩こりをほぐしてしまうという本末転倒な結果。こうなれば装置其の物の欠陥の可能性を考えなければならない。

 無論、混乱しているのは堕天使たちだけではない。

 

「な、なあ、木場。何が一体どうなっているんだ?」

 

「……さあ、流石にそこまでは……って、まさか!」

 

 木場はその時、この状況の元凶が誰なのかを悟った。

 だが確定したわけではない。あえて大人しく注視する事で状況の転換を見極め、逆転の機会を窺う。

 

「れ、レイナーレ様! 一体どうなってるんスか!?」

 

「おい、ミッテルト! そこの小娘から注意を背けるな!!」

 

「まさか……装置の不具合!? そんな、『神の子を見る者(グリゴリ)』の研究機関からわざわざ持ってきたものなんだぞ!?」

 

 堕天使たちの混乱の中、ただひとり異常なまでに冷静の人物がいる。

 ダイスケである。

 

「レイナーレ様、早急に儀式の継続を」

 

「やりたくっても、装置が壊れてるのよ!!」

 

「では早急な装置の復旧を」

 

「そうしたくっても故障箇所の見当がつかないんだから、手のつけようがないのよ!!!」

 

 あたふたとしているレイナーレをよそに、ダイスケは装置の傍らに立つ。

 

「では古式の修復技法(斜め45°の一撃)で修復いたします」

 

「そんな馬鹿なことが―――!?」

 

 途端に、レイナーレの胸に嫌な予感が起きる。

 思えばここまでこの男が自分たちになぜこうも簡単に自分達の手に落ちたのか。一度しか相対していないが、こんなに簡単に同行できるような人間では無かった。それがなぜ拘束して洗脳したのち、さしたる抵抗も示さなかったのか。

 だがそれに気付くのにはあまりにも遅すぎた。

 

「―――こんなふうにな!!!」

 

「―――待てぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

 

 レイナーレの制止も虚しく、ガントレットに備えられた四本の爪が装置を構成する巨大な十字架を破壊する。

 凄まじい音ともに十字架が破壊され、アーシアが解き放たれた。同時にダイスケの裏拳が迫り来るレイナーレの横っ面を捉える。

 しかもただの裏拳ではない、熱弾の発射を推進力にした裏拳だ。

 

「ガハッ……!」

 

 その一撃はレイナーレの意識を一瞬刈り取ったばかりか、祭壇の下へと勢いよく叩きつける結果となる。

 アーシアの方を見ればやはり怪我一つない状態であるとわかるが、その姿は薄い布一枚を纏っただけというなんとも危険な姿であるため、ダイスケは来ていた制服の上着を掛けてやる。

 

「あっ、すいません、わざわざ」

 

「イイって。さあ、こっから飛び降りるぞ」

 

「え? ……きゃぁぁあああ!!」

 

 そう言うとダイスケは小柄なアーシアを小脇に抱えて3mはある高さの祭壇から飛び降り、状況がつかめずに呆然と立ち尽くすドーナシークの眼前に降り立つ。

 

「なッ……!?」

 

「まずは一匹。イッセー、受け取れ!!」

 

 同時にダイスケはアーシアをイッセーに投げつける。

 

「は!? いや、ちょ、危ねぇ!!」

 

 慌てながらもしっかりとキャッチするイッセー。そのすぐ目の前ではダイスケが鋭い爪をドーナシークの腹に突き立てていた。

 

「カハッ……! き、貴様ぁぁぁぁ!!!」

 

 ドーナシークはせめて傷の一つでもと光の槍を構えるがその手も、足も、腹も、ダイスケの放った光弾に打ち抜かれていく。もはや断末魔の叫びを上げることもできず、さらに放たれた止めの一発によって頭部を吹き飛ばされた。

 一方を見ると木場とカラワーナがそれぞれ魔剣と光の槍を持って切り結んでいる。だが、木場が持つ剣は先にフリードとの戦いでも使用した光喰剣(ホーリー・イレイザー)だ。すぐに闇の触手が槍へ、そしてカラワーナの腕へと絡みつく。

 

「クッ、外れな……グァァァァ!!」

 

 遂に闇がカラワーナ本人を“喰い”始めた。

 

「堕ちた天使らしく……闇に飲まれて消えるがいい!!」

 

 そのセリフとともに、もうひと振り生み出した光喰剣をカラワーナの腹に突き立て―――

 

(シャ)ァッ!!」

 

 腹から頭へ振り上げて一刀両断にした。その遺骸は残ることもなく、全て光喰剣によってチリ一つ残らず喰い散らかされた。

 別の一方を見れば小猫がミッテルトを相手に関節技を決めている。

 

「こんのぉ……離せ!」

 

「……離せと言われて離すバカはいない」

 

 掛けている技は関節技としては実にポピュラーな腕挫ぎ十字固め。

 ミッテルトは解こうともがいているが、見事に技が決まっているのと小猫と腕力に差がありすぎるため一ミリも動けずにいる。

 

「小猫ちゃん!」

 

 そこへ木場が手にしていた剣をひと振り、小猫にパスする。渡したのは短剣状にした光喰剣(ホーリー・イレイザー)

 それをミッテルトの肝臓がある辺りに過たず突き立てる。

 

「ガハッ……!」

 

 人体で言えば急所、それも大量出血してもおかしくはない箇所だ。そこへ肉体そのものを蝕むような魔剣が突き刺さったのだからひとたまりもない。

 抵抗できなくなったミッテルトはそのまま塵へと消えていった。

 

「さて……形勢逆転だな、レイナーレサマ?」

 

 ダイスケがイッセー達を背に不敵に笑う。

 

「貴様ら……よくも!!」

 

「よくもじゃねぇだろ。こんだけされて当然のコトやってきたんだ。これで借りの半分をやっと返せたってとこだぜ。さあ、本格的にペイバックタイ―――」

 

「「「―――じゃねぇ!!!」」」

 

 ゲシッ!!とダイスケの背後から三つのヤクザキックが見舞われた。

 

「おうふっ!?」

 

 折角格好良く決めようとしていたところを味方に邪魔される。それも悪魔の筋力から繰り出された蹴りなので、ダイスケは地面にキスするどころかカーリングの石のように滑っていく。

 

「なにすんの!? 折角決めようとしてたのに!!」

 

「んな事ァ、どうでもいいんだよ!! お前、なんでワザワザマインドコントロールされるフリなんてまどろっこしい真似した!?」

 

 イッセーの叫びは全員の心の代弁である。

 

「いや、そもそもさ、こいつら堕天使がなんで悪魔が拠点にしているような土地で活動してんのか気になったのよ」

 

「……それで内情を探るために?」

 

 小猫の言うことはあたっている。時系列を見直してみれば、堕天使たちの目的や行動に最も近づいていたのは意外にもイッセーである。

 だが、ダイスケは不幸にもその現場に居合わせていなかった。かといってリアスに訊こうにも敵陣営の内情を知っているとは思えない。

 そこへダイスケへのレイナーレの拉致、誘拐からのマインドコントロールだ。

 幸運にもマインドコントロールはかけられてものの数秒で解けたのだが、自身の身の安全と、レイナーレ達の目的を知るためにあえて操られていた振りをしていたのだった。

 さらに、ここで懐深く潜り込めばイッセーたちよりも比較的安全に情報を引き出し、リアスに伝えることができる。

 

「だから裏切るふりをしたっていうの? じゃあ、あの神器を取り出す装置が故障したのはやっぱり君の仕業なのかい?」

 

「モチのロン」

 

「ま、待て!! なんでこの間まで一般人だったお前にこの装置のことがわかる!?」

 

 レイナーレの言う通りである。これまで悪魔だの堕天使だのに全く関わり合いのなかった人間に、どうして堕天使の最新技術の塊をどうこうできたのか。

 

「ああ、そら単純明快」

 

「あなたたち堕天使の中にも元々内通者がいたのよ」

 

 この場にそれまでいなかった者の声が響く。

 

「部長!!」

 

「ええ、よく頑張ったわね」

 

 リアスが慈愛の笑みをイッセーに向けながら階段を降りてくる。その後には朱乃も続く。

 

「良かった……部長も朱乃さんも無事だったんですね!!」

 

「ええ、何事も無く五体満足ですわよ、イッセー君」

 

 二人が無事な様子を確認すると、イッセーは胸をなでおろす。

 だが、それの満足していない者が一人。

 

「奴らめ、しくじったか……!」

 

 レイナーレである。臍を噛む彼女の前に、リアスが立つ。

 

「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー公爵家の次期当主よ」

 

「貴様、グレモリー公爵家の娘か!?」

 

「ええ、短い間だけどよろしく」

 

 自分が相手にしていた存在の大きさに驚くレイナーレ。だが、驚く以前にイッセーは何がすごいのか理解できていなかった。

 

「えっと、ダイスケ。公爵ってどのくらいエライんだ?」

 

「解り易くいうと、王様の次の次ぐらいに偉い。昔の日本で言うと、伊藤博文とか、徳川慶喜とかわかりやすいな」

 

「……えええええええええ!? そんなに偉いの!?」

 

 リアスが貴族であることは知っていたイッセーだったが、まさかそこまで位の高い人物だとは想像だにしていなかった。

 そこへさらに事情をよく知る木場が追加情報を与える。

 

「まあ、まだ爵位の第一位継承者なんだけどね。でも、部長自身も有名人でその実力から『紅髪の滅殺姫(べにがみのルインプリンセス)』なんて呼ばれているんだ」

 

「滅殺……!? そんなにすごい人の眷属になったんだな、俺」

 

 その二つ名のインパクトに震えるイッセー。それを他所に木場が話の軌道修正をするためにリアスに問う・

 

「そういえば部長、内通者とは一体?」

 

「これ、覚えてる? 私達が部室を出る前に受け取っていたメール」

 

 朱乃は手にした通信端末の画面を皆に見せる。そこには確かにメールの文章が見える。

 

「通知はダイスケのアドレス。そしてこれには『連中が何をしようとしているか解かりました。使いが来るから旧校舎の外で待っていてください』とあるわ。そしてメールの通りに使いが来たの……大勢のはぐれ神父を皆殺しにしてね」

 

「はー。あいつ、そんなに強かったんですか」

 

「え、そのあいつって?」

 

「はぐれ神父の中に神の子を見張る者(グリゴリ)のエージェントがまじっていたの。名前は『桐生義人』」

 

「グリゴッ……!? そんな、なんで!?」

 

 思いもしない正体の獅子身中の虫の存在を知り、驚愕するレイナーレ。だが、これにはアーシアも驚いていた。

 

「どうしてそんな方がいらっしゃったんですか?」

 

「それは君がいたからだよ、アーシア・アルジェント」

 

 その答えの詳細を知っているを知っているのはダイスケだ。

 

「聞いた話によれば、アーシアは悪魔をも癒す力があったから教会を追放されたんだよな」

 

「……はい。その後、行くあてがないところをレイナーレ様に拾われたんです」

 

「らしいな。実はその時点からあいつは君の……というか、君を拾ったレイナーレの行動を監視していたんだよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「ああ。あいつの関心事は『神器を持っているであろう教会からの追放者がどのような行動をとるか』だったんだ。万が一、世の中に悪影響を及ぼそうと行動するつもりなら処断するつもりでいたんだ」

 

「そんな勝手な理由殺そうっていうのかよ!?」

 

 イッセーが怒りで声を荒げる。

 アーシア本人からその過去を聞いているから彼女への思い入れも人一倍であるし、なによりその身勝手な行動を人として許せなかった。

 

「だけど、事前の素行調査やら追放された後の行動からその可能性はないってかなり最初から判断していたんだとさ。第一、神器っていうのはその存在だけで世の中をひっくり返す可能性がある代物なんだ。人間社会で言えば核兵器。そのぐらい警戒して当然さ」

 

 やや納得できない感があるものの、イッセーはそのことをなんとか飲み込む。それを見届けてからダイスケは話を続ける。

 

「そんな折、レイナーレ達がアーシアを引き込んだ。もともとこいつらは上の命令で神器持ちを堕天使陣営に引き込んだり、力を勝手気ままに使おうとする奴らを処分して神器を管理する為の下っ端だったんだ。でもいろいろと上を出し抜いて行動しようとしてることに気づいたから、何をしようとしているのか潜入捜査していたんだと。」

 

 どうやらレイナーレ達は最初から上層部からは信頼されていなかったらしい。その事にショックを受けるレイナーレだが、かまわずダイスケは話を続ける。

 

「そこへこいつらの中に入ってさんざん引っ掻き回してやろうとしていた俺にバッタリ遭遇。お互いに利害が一致したから協力することにしたんだ。俺はレイナーレ達へ報復するため、桐生義人はアーシアを、ひいてはアーシアの神器をレイナーレに渡さないため……後は知っての通り、今に至るってわけさ。そうそう、装置の方は桐生義人が術式を変えて発動したら痺れるだけにしれくれたんだ。俺だけだったらただぶっ壊すだけで芸がなかったから本当に助かったぜ。まあ、あいつの方は用事が済んだから部長と朱乃さんをここに連れてきた時点でお役御免で帰っていったんだけどな。あいつとしてはこの一件を勝手に暴走した部下が勝手に悪魔に喧嘩売って死んだことに出来るからな。自分の手を汚さずにすむ」

 

「なるほどね。あなたの話で彼の事情もだいたいわかったわ。でも、どうしても気になることがあるのよ」

 

「なんですか、リアスさん」

 

 おそらくリアスが尋ねようとしていることはこの場にいる全員が疑問に思っていることだろう。

 

「―――なんでここまで回りくどい方法を採ったの? 堕天使たちに捕まったのはしょうがないとして、捕まったら捕まったで大人しく私たちの助けを待てばいいし、装置だってただ壊すだけでよかったはずよ。どうしてここまで複雑な状況にしたの?」

 

「そりゃあ、決まってるじゃないですか……練りに練ったこいつらの計画を最後の詰めでグッチャグチャにしてやるためっすよ」

 

 そういうレイナーレに対して笑うダイスケの口元は不気味につり上がっているが、その目は決して笑ってはいない。

 

「至高の堕天使? そんなもんのために一体何人の人間の人生を狂わせた? あまつさえ俺のダチを生き返れたとはいえ殺しやがったんだ。それ相応の報いは受けてもらうぞ……外道が」

 

 何より異常性を感じるのはその笑の中に明確な怒りと殺意が込められている。そのアンバランスさがレイナーレに言いようのない恐怖を感じさせた。

 いや、レイナーレだけではない。この中でダイスケをよく知るイッセーですら、普段と全く違うダイスケの変容ぶりに恐れおののく。

 おそらく神器のせいだ。普段抑えている凶暴性や暴力性が神器を展開することでにじみ出てきている。極力他人を傷つけまいと努力しているダイスケをここまで変容させているこの神器に封じられた存在は一体何なのか――リアスは考えるが、今はその答えは出ないだろう。

 

「く、狂っている……!!」

 

「狂っていて結構。最後に俺らの人生を弄んでくれたお前をブチのめせるんだったらな」

 

 ダイスケは怒りをその右手に力を込めた。するとその渦巻く激情に答えるように、神器の各所に配されたスリットから青い光が漏れ始める。

 そして渾身の一激をレイナーレに叩き込もうとしたときであった。

 ダイスケはレイナーレが何かを握っているのを見つけた。それは、一振りのダガーだった。

 

「本来はこうするべきでは無いけれど……事ここまで及べばこうするしか無いわ!

 

 すると、レイナーレは意を決したかのように目を見開き、そのダガーの刃を握って割ってしまう。直後、刃の破片から濃い翠の閃光が溢れ、同時に大きな地響きが鳴り響く。

 地震かと思ったが、どう考えても原因はレイナーレだろう。

 

「テメェ、何しやがった!?」

 

「フフフ……アーハッハッハッハ!! これで封印が解ける……。万が一の為に用意しておいた切り札を切ってやる!!」

 

 翠の閃光は徐々に形を成していく。光が空中で形となって固定されていき、一体の巨大な生命ととなった。

 すらりと伸びた胴体、巨体を支える細長くも力強い四本の脚、三角の頭にギラリと光る複眼、そして見る者に死を意識させる命を刈り取る形の両手の鎌。

 

「私の計画を邪魔し、アザゼル様やシェムハザ様へ近づく道を閉ざした奴らを切り刻みなさい、蟷螂の王よ!!!」




 はい、というわけでVS07でした。
 今作では怪獣の扱いが前作とは異なります。まあ、前作でもそんなに設定を明かしてはいませんでしたが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!

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