ハイスクールD×G 《シン》   作:オンタイセウ

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 これにて第一巻分のお話はおしまいです。
 それと先日から艦これのイベントが始まりました。多分ペースは落ちると思いますのでご了承ください。
 ヒューストン! 早く来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!


VS08 「燃やしてもいい教会がない? だったら一から造って燃やすか!」byク○ガの監督

「……カマ、キラス?」

 

 なぜかダイスケはその名を知っていた。

 

「ダイスケ、貴方アレを知っているの!?」

 

「い、いえ……知らないはずなんですけれど、なぜか名前が浮かんできて……ミニラをいじめた? 地面に叩き付けて? ――なんだ、なんで俺はアレを知っているんだ!?」

 

 リアスはダイスケに問うが、当のダイスケは混乱している。身に覚えのない記憶がいくつも脳内の奥底から沸き上がってくるのだ。

 それに目もくれず、目の前の巨大な蟷螂は戦闘態勢をとった。

 

キキィィィィィィィィィ!!!

 

 ダイスケがカマキラスと呼んだそれは、車のブレーキ音のような甲高い声を上げる。そしてカマキラスは、まるで自動車が突っ込んでくるかのようなプレッシャーを与えてきながらダイスケめがけて飛びかかってきた。

 

「あ、危ねェ!!」

 

 寸でのところでなんとか避けるが、ダイスケのワイシャツの脇腹部分が切り裂かれ、白地の布に赤い染みが出来ていた。滲むような痛痒感を左手で抑えるも、結局のところ気休めでしかない。それに予想以上に傷口が痛むので思わずかがんでしまう。

 横を掠めていったカマキラスは着地し、すぐさま第二波攻撃の準備を整えている。

 

「だ、ダイスケさん、血が!!」

 

 傷を癒そうと近づくアーシアだが、空いているダイスケの右手が止めるように訴える。

 

「ダメだ! お前はイッセーか部長のそばにいろ!!」

 

「ダイスケの言う通りだ、俺の後ろに―――」

 

「させると思ってるの!?」

 

そこへ光の槍を手にしたレイナーレが襲いかかる。

 

「お、お前!!」

 

 槍を左手の籠手で受け止めるも、イッセーはそのレイナーレの勢いに押されてしまう。

 

「例えここで失敗しても、聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持つこの小娘さえいれば後でいくらでも挽回できる!! さあ、アーシア! 私のところへ来なさい!!!」

 

 鬼気迫るその表情に、アーシアは怯える。

 

「貴女……この期に及んでまだ!!」

 

 そのレイナーレの足掻く様を見て激昂したのはリアスである。手には漆黒の闇の如く、それでいて美しく澄み渡る魔力の塊が生まれている。

 後はそれを放ちさえすればリアスが持つ力によってレイナーレは跡形もなく吹き飛ぶだろう。

 

「待ってください! ――俺がやります!!」

 

 だが、それをイッセーの懇願の叫びが遮る。

 

「イッセー……?」

 

「お願いです。俺の手で夕麻ちゃん……いえ、レイナーレとの決着をつけさせてください!!」

 

 それは、過去との決着をつけるということでもある。

 レイナーレによって絶たれた人間としての生、そしてリアスから授かった悪魔として始まった生。その二つの生の始まりと終わり、そして胸の奥に秘めていた『天野夕麻』への気持ちの区切りをつけたいと思っているのだ。

 当然、自身で決着をつけたとしてもイッセーの心の奥に何らかの傷跡を残すのは必至だろう。だが、ここでリアスに決着をつけてもらっても自身の胸の奥に大きなしこりを残してしまうのであろうから、せめて自分の手で決着をつけようというのだった。

 

「……わかったわ。朱乃、この娘を連れて協会の外へ出るわよ」

 

「ええ。さあ、こっちへ!」

 

 朱乃によって手を引かれ、アーシアは階段を登る。

 

「行かせるな!!」

 

 レイナーレの命令でカマキラスは目標をリアスたちに向け、一気呵成に飛び掛らんとする。

 

「させない!!」

 

 しかし木場が持ち前の瞬足で先回りし、手にした大振りの魔剣でカマキラスの突撃を受け止めた。

 そのまま押し返そうと腕に力を込めるが、体格差からくる馬力の違いによって徐々に木場は押し返される。

 

「……慣れないことしないでください。」

 

 すかさず小猫がカマキラスの腹部を掴んで引き剥がしにかかる。

 本来なら木場は技で相手を翻弄するタイプであり、力比べは得意ではない。そこでパワー自慢の戦車である小猫が助太刀に来たのだ。

 

キキィィィィィィィィィ!!!

 

 それでもカマキラスは先へ進むことをやめない。四本もある脚を交互に使って小猫を振り払い、なかなか近づかせない。

 木場たちが抑えているおかげでアーシアを無事にリアスたちの手によって教会の外へ脱出させることはできた。であれば、後はレイナーレとの決着をイッセーが付け、この巨大昆虫を駆除するだけである。

 

「木場、塔城! 無理に抑えなくていい! この地下室からこいつを引き剥がすぞ!!」

 

 そう言ったダイスケの目的は一つ。カマキラスとレイナーレを分断することだ。

 無論、その他の伏兵も警戒しなければならないが、彼女の配下のはぐれ神父たちは手筈通りに義人が片付けている。

 それにこのタイミングで虎の子を出したということは、カマキラスが最後の切り札であると自ら語っているようなものだ。

 ルーキー且つ神器が目覚めたばかりのイッセーをそれなりに戦闘経験を積んでいるであろうレイナーレにぶつけるという不安要素もあるが、部下想いのリアスが戦うことを許したのならば勝つ算段があるとみていい。

 

「つーわけでイッセー! お前は確りそいつとケリつけろ! このデカブツは任せろ!! 舌噛むなよ木場ァ!!」

 

「え? ちょ、うわっ!!」

 

 するとダイスケは走り出してカマキラスの脚の一本を掴み、木場と小猫が組み付いているのを無視して一気に階段を駆けだす。

 どうやら踏ん張りは効いても引きずられるのは苦手らしく、ダイスケの人間業とは思えない怪力で二人の悪魔込みで地上へ連れ出された。

 

「へへっ……これでやっと一対一だな」

 

《Boost!!》

 

「ちっ……でもこれで対等になったとでも思ってるの? 前にも言ったけど、その左手の龍の手(トゥワイス・クリティカル)は持ち主の力を単に倍にできる程度のもの。一を倍にしても二になるだけでは百には到底届かないのよ?」

 

 事実である。

 自力で劣るイッセーがいかに力を強化しても元より大きな力を持つレイナーレに届くはずがない。だが、それはイッセーが矛を収め、尻尾を巻きて逃げるか無残に殺されていい理由にはならない。

 

「なあ、俺嬉しかったんだよ。夕麻ちゃんが告ってくれた時、バカみたいに心の中で飛び上がっちゃてさ」

 

「ええ、あの様子は本当に滑稽だったわ。童貞丸出しの青臭い餓鬼が騙されてるとも知らずに「こちらこそよろしくお願いします!」ってさァ」

 

「勿論、経験なんてないからデートコースもお決まりみたいなパターンになっちゃって」

 

「あれは本当に退屈だったわ。盛った猿みたくすぐにホテルにでも連れ込んでくれれば誰の目にもつかずに殺せたのに、ド定番のショッピングだの喫茶店だの人目につくとこばかりでやりづらくてしょうがなかったわ。あ、ひょっとしてあの娘にもあんなことしたの? あの娘なら喜んだでしょうね。「こんなに楽しいこと初めてです!」とか言っちゃってさ。生い立ちは本当に哀れな子だもの、初心な田舎娘には楽しめたんじゃない?」

 

「……俺、本当に君のこと大切にしようって思ってたんだ。夕麻ちゃんを絶対幸せにしようって、本気で考えてたんだ」

 

「ああ、そういえば『天野夕麻』って名前、夕方にあなたを殺そうって思ったからそうしたの。素敵でしょう?」

 

「夕麻ちゃん……」

 

「今は夜になったけど、ちゃんと今度は殺してあげるから。その後にはあの娘も一緒にあの世に送ってあげるから待ってね、イッセー君」

 

「……レイナーレェェェェェェエエエエエエ!!!!」

 

《Boost!!》

 

「悪魔風情が私の名を呼ぶなぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 怒りの爆発と同時にイッセーは駆け出し、レイナーレに殴りかかる。対するレイナーレは憎悪と共に光の槍を何本も投げつける。

 はじめの数本は悪魔になったことによる反射神経と動体視力の強化のお陰で叩き落とすことができた。だが、すぐに追いつかなくなり腕やら太ももやらに光の槍が掠めていく。

 当然ながら傷が痛む。しかも悪魔にとっての猛毒である“光”が傷口に染み込んでいっているのだから並の痛みではない。これでイッセーは足を止めるわけにはいかなかったが、レイナーレの策にはまってしまっていた。

 イッセーの肉に槍が掠めたのはイッセーが避けたからでも、レイナーレが狙いを誤ったからでもない。わざと小さな傷を与え、イッセーの体にダメージを少しづつ、しかし確実に与えていくためのものであった。

 

「くっ……!」

 

 痛みと光の効果で一瞬、イッセーの足が遅まった。それを目聡く気付いたレイナーレはイッセーの両腿に向けて一本づつ光の槍を投げつける。

 

「ぐあぁ!!」

 

 うち一本は払うことができたものの、もう一つがイッセーの左腿に突き刺さった。その結果、レイナーレを目前にしてイッセーは倒れてしまう。

 

「あははははは!!! 散々カッコつけておいてザマァないわね!!」

 

 言いながらレイナーレは倒れたイッセーの顔を蹴り上げる。

 

「グゥッ……!」

 

《Boost!!》

 

 実際には顔の痛みよりも光の影響を受けた傷口の方が圧倒的に痛みは強く、蹴りの方は今は軽く叩かれた程度にしか感じない。だが、精神的な痛みは顔への蹴りの方が圧倒的だった。

 相手はいかに痛めつければ心を折ることができるのか熟知しているのである。

 

「ハッ!! なにが「ケリは自分の手で付ける」よ! そもそもアンタみたいな下等悪魔が私に勝てるわけないじゃない!!」

 

 侮蔑の言葉とともに、何度も蹴りが倒れるイッセーに向けられる。殺したいのであればすぐに止めの一撃を放てばよいものを、わざわざただの蹴りに留めているのは敗北感を植え付けたいだけである。

 

「たかが上級悪魔の下僕の分際で、他の連中みたいに私を馬鹿にするからこうなるのよ!! いいえ、お前だけじゃない! 聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)さえ手に入れれば、私を馬鹿にした連中だって見返せる!! 勿論アンタの主も、宝田大助もよ!! 私を馬鹿にした奴らはみんなみんなアンタみたいに地面に這い蹲らせて命乞いさせながら殺してや……な、なにすんのよ!!」

 

 調子に乗って訊いてもいないことも語り始めたレイナーレの足をイッセーが掴む。当然ながらレイナーレは抵抗するが、掴んだ右手は決して離そうとしていない。

 

《Boost!!》

 

 先程鳴ったのと同じ声がイッセーの左腕から聞こえてくる。

 

「バカじゃないの!? いくら一を倍にしても所詮は二なのよ!?」

 

 いくら罵声を浴びせても、もはやイッセーの耳には届かない。なぜならもう、彼の頭の中は怒りでいっぱいで余計な情報は一つも入ってこないのだから。

 

「知らねぇよ……俺は馬鹿だから頭を使うのは苦手なんだ」

 

「離せ!! 離せッ!!」

 

 足首を掴む手を振り解こうと顔を蹴るなり背中を踏みつけるなりと抵抗はしているが、その気配は微塵もない。むしろイッセーの手に掛かる力は強くなる一方だ。

 

《Boost!!》

 

 再び聞こえた強化を知らせる音声ほほぼ同時にイッセーの目がレイナーレの目を見つめる。その目にはこれから行うことを「絶対に実行させる」という明確な、そして強い意志が見えた。

 そしてその意志の灯火は原因不明の恐怖をもたらした。

 

「―――ヒィっ!!」

 

 先程まで虫けら同然にしか見ていなかった者の目にレイナーレは怯える。

 

《Boost!!》

 

 もはや数秒前の余裕は微塵も感じられない。その姿はまるで蛇に睨まれた蛙か、はたまた鷹に狙われた野鼠のように怯えきっている。

 いや、もっと言えば『龍の逆鱗に触れた』といった感覚が適当なのだろうか。

 

「―――でもなぁ、馬鹿な俺でもお前なんかにアーシアも部長も殺させちゃいけねぇってことぐらいはわかるんだよ!!!」

 

 足を掴んでいた腕に渾身の力が込もり、一気に引かれる。人体というのは存外に不便なもので、二足歩行という進化をたどった結果として非常にバランスの悪い形状になってしまっている。

 四足歩行の動物以上に重心が高いので、足を掬われるととたんに転倒してしまうものだ。その原理に漏れずレイナーレの体は恐怖に震えていたこともあって簡単にバランスを崩し、倒れてしまった。

 すかさずイッセーはレイナーレの腹の上に馬乗りになる。これで完全に形勢逆転してしまった。

 

「なんでよ……なんでこんなことが出来るのよ!? 光の毒はとっくに全身を駆け巡っているというのに!!」

 

「ああ、痛ェよ。正直もう倒れそうだ。でも―――」

 

《Burst!!》

 

「なあ、神様……いや、俺は悪魔だから魔王の方がいいか。いるよな、魔王ぐらい……頼む!! なんでもいいからコイツをぶっ飛ばす力を俺にくれぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!」

 

(これは倍化の力じゃない!ここまでのパワーは龍の手(トゥワイス・クリティカル)では到底生み出せない!!)

 

《Explosion!!》

 

 爆発した。

 イッセーの中で渦巻き、怒りによって煮詰められたパワーが拳の一撃となって顕現する。

 

「そうか!! これは十三の『神滅具(ロンギヌス)』の一つ―――!!!」

 

 この刹那の間にレイナーレは悟った。

 自分は愚かしい間違いを犯していた。

 兵藤一誠という人間の表面上の部分のみを見てこの少年の実力を判断していた。

 それがすべての過ちの始まりであった。

 そもそも、自分が戦える相手ではなかった。

 そう、真の愚者は自分だったのだ。

 その絶望を胸に抱きながら、レイナーレの肉体と魂は文字通り霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間、ノリと勢いだけで行動しては必ずポカをする。それぐらいダイスケにもわかっていた。それがこの現状の最大の原因である。

 今現在、ダイスケたちが礼拝堂の中で相対しているカマキラスは、どうやらなんらかの改造を施されていたようだった。

 まず、信じられないほどに体が硬い。昆虫の外骨格は基本的にキチン質で出来ており、一定の力を加えれば破壊できる。だが、このカマキラスの外骨格は木場の剣でもまともに傷をつけられない。カッターナイフで岩を切り裂こうとしているのと同じような状態なのだ。

 ならばと小猫が魔力による攻撃を試してみたが、当たる寸前に霧散してしまった。どうやら身体機能だけでなく対魔力措置の強化改造まで施されているらしい。

 イッセーに対して格好をつけた手前、この小康状態は非常に我ながら情けないと思うところがあった。今はカマキリの『動いたもの以外は餌と認識しない』という習性を利用して物陰に隠れてやり過ごしているのが現状だ。

 

「おい、どうする!? 自衛隊ってこういうとき有害鳥獣駆除で動いてくれたっけ!?」

 

「さすがにわかんないよ!」

 

 外へ出ないように礼拝堂内で押さえつけるので手一杯なダイスケは、思わずそんな素っ頓狂な提案をし木場に即刻却下される。

 打撃も斬撃も果ては魔力攻撃も通じない相手なら生物として逃れえぬ弱点を付くのが得策だろう。恐らくやれるとしたら『加熱焼却』という手段だ。

 だが、それを実行できないというジレンマがある。最悪の場合、外のリアスと朱乃に助けてもらうという手もあるが、万が一レイナーレの配下の残党でも残っていたらと思うとそれはできない。

 アーシアに危険が及ばないようにするのにあの二人ほど頼もしい存在はいないのだから。つまり、今この場にいる三人でなんとかしなければならない。

 であれば、この三人で何ができるのか?

 カマキラスの弱点をどう付けば良いのか?

 そこでダイスケはあることを思いついた。脳裏に過ぎったのはカマキリの習性、この教会という建物の構造的特徴、そしてそれらをすべて動員した戦い方である。

 当然ながら失敗する可能性もあることは重々承知だ。

 

「……でもやらないよりはマシか」

 

 こうここで吹っ切れた。

 もし、この作戦がダメになってもまた別の案をその時に思いつけばいいし、最悪力技でゴリ押しという手もある。そう考えることで迷いを消した。

 

「塔城! 礼拝堂の上に上がれ!!」

 

「……いきなりどうしたんですか?」

 

 攻め手を倦ねいていた小猫は疑問に思った。

 

「教会の鐘の中にコイツを閉じ込めるんだ!! 足止めは何とかする!!」

 

 突然の提案に戸惑う小猫。だが、やはり現状を考えれば何らかのアクションをとったほうがいいと思ったのだろう。

 

「……すぐに戻ります」

 

 了解すると小猫はすぐに見つからないように礼拝堂の外へ出ていった。

 

「頼むぞ。木場、なんでも良いから奴の前脚を汚してくれ。お前の神器ならどんな事でもできるだろう。」

 

「何をするんだい?」

 

「カマキリっていうのはな、前脚の鎌が汚れるのを極端に嫌うんだ」

 

「なるほど、そういうことなら……」

 

 手にしていた光喰剣を捨てて、木場は新たな魔剣を生み出す。それはまるで漆を塗ったかのような黒く濡れ光る刀身の剣だった。

 

「アドリブで創った黒泥剣(コールタール・ペインター)。これならッ……!」

 

 言うが早いか、木場はその自慢の瞬足で一気にカマキラスへ近づく。当然ながらカマキラスはそれに反応した。

 カマキリの鎌の一撃の速さはおよそ1/50秒であること考えれば捕まえられる可能性もあるが、木場は抜け目なく何合も打ち合った末に見つけた鎌の射程の一歩前に来る。

 

「喰らえ!!」

 

 一閃される魔剣からは黒く照らつくコールタールが伸びる

 

キシィ!?

 

 明らかな動揺の叫び。真っ黒に濡れた己の腕を見てカマキラスは驚く。汚れに汚れた捕捉肢の汚れを落とそうと必死になって舐めるが、コールタールが固まっていてなかなか取れない。

 それでも習性に従い汚れを舐め取ろうとするも、突如として天井が崩れた。落ちてくる瓦礫に混ざり、青銅でできた鐘楼がカマキラス目掛けて落ちてくる。慌てて逃げようとするものカマキラスの足元に何かが散らばる。

 それはバラバラに崩された礼拝堂内にあった長椅子だった。

 

「木場、悪いがお前も手伝ってくれ!」

 

「……やろうとしていることが読めたよ。どうか捕まりませんように……」

 

 自分たちがやろうとしていることが完全な犯罪行為であることに気が付いた木場だが、よもや止めるわけにもいかない。そしてダイスケは拳で長椅子を叩きつけ、木場は剣で長椅子を木片に切り裂いて蹴り飛ばしていく。

 それらはカマキラスに対しては牽制程度にしかならない木礫でしかない。だが、木屑は徐々にその周囲に積もっていく。

 

「崩せ!!」

 

 ダイスケのその言葉が合図となり、天井が崩落する。

 そして瓦礫と共にこの教会の鐘楼にあった鐘がカマキラス目掛けて落ちてくる。

 

「……ぶっ潰れよ」

 

 どこかの黄色い吸血鬼のようなセリフを呟きながら。小猫は巨大な鐘と共に落ちてくる。

 普通であればこの程度は簡単に避けられただろう。だが、飛んでくる木端と汚れた前脚に気を取られて完全に反応が遅れている。結果、逃げ遅れてしまい、鐘の中に閉じ込められてしまった。

 鐘の上に乗っていた小猫は落着と同時にぴょんと飛び降り、文字通り猫のように綺麗に着地する。

 

「でかした! 後は解るよな、木場ァ!!」

 

「ああ、行くよ!」

 

 丁度鐘を挟み込むように相対している二人はそれぞれの武器を構える。木場の手には現在、炎を操る魔剣炎燃剣(フレア・ブレンド)が握られており、ダイスケは右手を構えている。

 そして木場は地面に剣を突き立て、ダイスケは掌から蒼い炎を噴射した。突き立てられた炎燃剣(フレア・ブレンド)は地面に散らばった木屑に次々と着火させ、蒼い炎は直に鐘を焼いていく。

 当然ながら鐘の中は蒸し焼き状態になっており、中で藻掻き苦しむカマキラスが鐘の内側を叩く音が響く。だが、炎の勢いは止まることはない。

 

「おわッ! なんかスゲェことになってるな!?」

 

 その場に現れたのは決着をつけ終え、地下から傷だらけの体を引きずってきたイッセーである。熱気が傷口にしみるのか、ひどく辛そうな顔をしている。

 

「生きてたか……って酷い傷じゃないか!? 塔城、ここは俺たちに任せてイッセーを連れて外へ避難しててくれ」

 

 何も言わずに、小猫は傷だらけのイッセーを支え、外へと歩き出す。

 

「ハハ、悪いね……」

 

「……怪我人は黙って」

 

「……はい」

 

 そのやり取りと二人が聖堂から出て行ったのを確認すると、二人はさらに火力を上げた。

 聖堂の中の様子はまさに地獄絵図である。周囲は煙で覆われ、燃えるものすべてが炎で焼き尽くされている。

 悪魔である木場は別として、どうして神器を持っていること以外はただの人間であるダイスケが平気でいるのかは謎だが、当人はそのことに全く気付いていない。意識の先は常に鐘の中に閉じ込められているカマキラスの生死についてだけ。

 やがて経過と共に徐々に中を叩く音は弱まり、ついには何の反応もしなくなってしまった。

 

「なあ、奴は死んだかと思うか?」

 

「……だと思う。でも、念には念をいれよう」

 

 そして、止めとばかりに炎燃剣(フレア・ブレンド)を木場は投げナイフのように鐘に投げつけた。炎燃剣(フレア・ブレンド)が突き立つと、聖堂の鐘はフライパンの上のバターのように溶けて崩れる。

 もはやそこに、巨大な昆虫の亡骸の姿も形もなかった。

 

「……終わった」

 

 安堵からダイスケはがっくりとその場に座り込む。すると、思い出したかのように切り裂かれていた脇腹が痛み出した。

 それほど戦いに集中していた、という事になるのだろうか。一息ついたのは木場も同様で、燃え盛る炎のなかで冷静にあらゆる炎を打ち消す氷の魔剣、炎凍剣(フレイム・デリート)のひと振りよって一瞬で炎を鎮火させた。

 兎にも角にも、この長い一夜の事件はついに終わったのである。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

「……風呂入って寝たいっす」

 

 煤だらけのダイスケと木場は、笑顔のリアスに出迎えられた。そこには皆無事に居た。どうやらレイナーレの手下の残党については杞憂に終わったらしい。

 見ればイッセーはアーシアの神器による治療を受けており、痛々しい傷のほとんどは見事に塞がっていた。

 

「ありがとうな、アーシア。助けるつもりのはずが、逆に助けられちまった」

 

「そんなことないです。あのままでは、私は本当に死んでしまうところでした。でも、イッセーさんたちに助けてもらって本当に嬉しかったです。だから―――」

 

 すべての傷を治癒し終えたアーシアは皆に向かって言う。

 

「―――こんな私を助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

 小さな頭が流れるような金髪とともに下げられた。これを見て、ようやくこの一件が片付いたとイッセーは胸をなでおろす。

 

「そういえば部長。俺の神器、形が変わっちゃってるんですけどなんなんですかね?」

 

 見れば確かにほんの数分前と比べて圧倒的に存在感が増している。比較的シンプルであった先のデザインと比べても全体的にビルドアップしていた。

 

「なんか、レイナーレが神滅具(ロンギヌス)とか言ってたんですけど、わかります?」

 

「“神滅具《ロンギヌス》”ですって? それにその赤い龍の波動……そう、そういうことだったのね!」

 

 答えにたどり着いたリアスは、まるでクリスマスの朝に自分宛のプレゼントを見つけた子供のように輝いている。

 

「これはとんでもない拾い物ね……ねぇ、イッセー。あの堕天使、貴方の神器を龍の手(トゥワイス・クリティカル)と言っていたんじゃない?」

 

「はい。持ち主の力を倍加するだけのありふれた物だって……」

 

「なるほどね。でもこれはもっと凄い物よ。あなたの神器は持ち主の力を“十秒ごとに”倍加させ、魔王や神をも滅ぼす力を齎すと言われている一三種の神滅具の一つ……『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』」

 

「そんな、神をも滅ぼすという代物が彼に……!!」

 

 驚いているのは朱乃だけではない。事情を知らないイッセーとダイスケだけが置いていかれているだけで、他の物は皆一様に驚いていた。

 

「どんなに強力でもパワーアップには時間が必要だから、決して万能ではないけどね。相手が油断していたから勝てたようなものよ。肝に銘じておきなさい、イッセー」

 

 はぁ、とイッセーは自分の左手をまじまじと見つめる。

 まさか自分の身にそんなとんでもない力が宿っているとは思いもしなかったが、結果的にこの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のお陰で命拾いをした。

 

「……どのくらいすごいもんなの?」

 

 いまいちその凄さを実感できないダイスケは木場に問う。

 

「そうだね、僕やアーシアさんの神器と比べても格が違うね。君に分かりやすく言うなら、戦闘機一機と戦略核兵器くらい違うかな」

 

「相当ヤバイじゃねぇか!! そんなもんこの性欲の権化に使わせたら何しでかすかわからんぞ!?」

 

 この時思いついたダイスケの想像するイッセーの姿は、力を利用して世界中から美女を強奪したり、自分以外の男どもを皆殺しにして好きなように女をとっかえひっかえする極悪非道イッセーであった。

 

「おい! 今一体なにを想像した、お前!?」

 

「お前がオーマジオウ以下の史上最低最悪のハーレム魔王になる姿」

 

「どんな極悪人!? つーか、お前の想像しそうなことはしねぇよ! 流石に!!」

 

「……正直、信じられないですね」

 

 小猫とダイスケの痛い視線がイッセーに突き刺さる。

 

「まあ、そうなる前に私がイッセー君を調教するという手もありますわね」

 

「やべぇ、なんでかしらんけど朱乃さんが滅茶苦茶頼もしく見える」

 

「すいません、俺のMは開花させないでください……!」

 

 そのやりとりの様子を笑って見つめるリアスだが、気がかりなことが一つあった。

 

「……ねえ、貴女はこれからどうするつもりなの?」

 

 リアスが尋ねるが、これはイッセーも心配していたことだった。

 

「まだわかりません、でも、皆さんとはお別れしなければならないかもしれません」

 

「―――なんでだよ!? 俺たちと一緒にいればいいじゃないか!!」

 

 イッセーが大声を上げる。

 

「また似たような奴らがアーシアを狙うかもしれないんだ。そうしたら、今度は本当に死んじゃうかもしれないんだぞ! 俺たちと一緒にいようぜ、な!?」

 

 その言葉に、喜びの表情を浮かべるアーシアだが、悲しげに首を横に振る。

 

「イッセーさん、私はどこまで行ってもクリスチャンなんです。生まれた時からこの道しか知らないし、今更ほかの生き方も見つけられません。そんな人間がイッセーさんたちの世界にいってもお世話になった皆さんに迷惑をかけてしまうだけです」

 

「で、でも……」

 

「勿論、助けていただいたお礼は一生をかけて必ず返させていただきます。でも……やっぱり教会の人間と悪魔は一緒になっちゃいけないんです。そしたらまたあの時と同じようなことに……」

 

 イッセーは思い出す。アーシアがなぜこの地に訪れたのか、なぜ協会を追放されたのか。

 本来交わってはいけないものがかかわり合いを持ってしまったために、今回の事件の切っ掛けの一つが出来てしまった。そのことを考えれば、早々ににアーシアはイッセー達悪魔との関わり合いを絶ったほうが後々波風が立たなくて済む。

 だが、そこから先は死ぬまで孤独の道だ。教会からは迫害され、堕天使から神器を狙われる日常が待っている。そう思うと、イッセーはどうしても伸ばした手を引きたくはないだろう。

 しかし、どうしても抗えない大きな壁が立ちふさがる。それは長い歴史の中でどうしようもない程大きく育ってしまった壁。ただの一個人が抵抗してもどうとなるものではない。そのことを考えると、自然とイッセーの伸ばした手も躊躇いがちになってしまう。

 

―――アーシアの言うとおりなのか。

 

 一瞬、諦めかけたイッセーだが、そこへ救いの手が差し伸べられる。

 

「ねえ、貴女お礼はするっていたわよね?」

 

「は、はい、グレモリーさん」

 

「じゃあ、これは知ってる?」

 

 そういうリアスの手に握られていたのは赤い僧侶(ビショップ)の悪魔の駒である。それを見たイッセーは何かを悟る。

 

「ぶ、部長! まさか……!?」

 

 驚くイッセーにいたずらっぽい笑みで返すリアス。

 

「これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)という上級悪魔が他者を眷属にするために使うものよ。これを用いて契約すれば、他種族を悪魔に転生させることもできる……イッセーみたいにね?」

 

そこでようやくアーシアもリアスが何を言おうとしているか理解したらしい。

 

「あの……それって……!」

 

「貴女の神器の力はとても魅力的なもの。それを私の手のうちに置いておけるのならこれほど嬉しいことはないわ。お礼がしたいというのであれば、貴女の力と命を私に預けてくれないかしら。勿論、貴女の意志は尊重するわ」

 

 突然現れた第二の選択肢に戸惑うアーシア。だが、この選択肢ほど魅力的な選択肢があるだろうか?

 

「……いいんですか? 私が、イッセーさんのそばにいても……?」

 

「それも貴女の選択次第よ」

 

 もはや迷うことなど、アーシアの中にはなかった。

 

「……私、悪魔になります。いえ、私を皆さんと、イッセーさんと一緒の所に居せさてください!!」

 

 そのアーシアの瞳には涙が浮かんでいる。だが、これは悲しみの涙ではない。

 なぜならこんなにも晴れやかな表情をした者が、悲しみの涙を流すはずがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございまーす」

 

 日曜だったが、イッセーは部室を訪れていた。

 

「おはよう、イッセー」

 

 既に部室にはリアスがいた。手にティーカップを持っている。

 

「ちゃんと来たのね。傷はどう?」

 

「アーシアのお陰で、俺もダイスケの傷も完璧に治りました」

 

 イッセーがリアスの向かいのソファに腰掛ける。

 

「ふふ、僧侶(ビショップ)として早速頑張ってくれたわけね」

 

「あの、部長。眷属ってこれからも増えていくんですよね。残っている悪魔の駒は、戦車と騎士が一つずつと、後は兵士が七つ……。ということは、俺と同じのがあと7人ふえるってことですか……?」

 

「え?」

 

 紅茶を飲むリアスの手が止まり、一瞬だけ戸惑う。が、一度溢れ出したイッセーの不安がそれに止まることなく流れ出てくる。

 

「いや、仲間が増えていくのは嬉しいっすよ? でも、ダイスケの奴も転生したりして、ライバルが増えていくのはなぁ……なんて。って、何言ってんだよ俺」

 

 ふとイッセーが不安に俯いた顔を上げると、リアスの意表を食らった顔が見えた。

 

「い、いや! 冗談すよ、冗談!!」

 

 イッセーの不安がなんなのか理解したリアスは、ティーカップを受け皿の上に置く。

 

「私の兵士はイッセーだけよ」

 

「え? あの、それって……」

 

 リアスは立ち上がり、イッセーの座るソファーの肘掛に腰掛ける。

 

「悪魔の駒を使って人間を転生させるとき、その人の能力や才能によって消費する駒の数が変わってくるの」

 

「え、じゃあそれって……って、うわ!」

 

 流れるような動作でイッセーの背後に廻り、リアスがその背中を腕の中に収める。無論、その豊満なバストがイッセーの背中に柔らかく当たっているのは言うまでもない。

 

「あなたを転生させたときに持っていた悪魔の駒は、戦車、騎士、僧侶が一つずつ。そして兵士が八つ。その八つの兵士の駒を全て使わなければ、あなたを転生させることができなかったの」

 

「お、俺一人に八個も使ったんですか!?」

 

 顔を真っ赤にしているイッセーをよそに、リアスは続ける。

 

「そんなポテンシャルを持つ人間なんて滅多にいないわ。だから、私はあなたに賭けた。神滅具を持つあなただから、今回のような事があったわけだし、その価値があったの」

 

「俺の神滅具……赤龍帝の籠手」

 

「それと、ダイスケが眷属にっていう話だけど、それはないわ。安心しなさい」

 

「え!?」

 

「昔ね、試してみたのよ。寝ているあの子に駒が反応するかどうかね。そしたら、何度やっても駒が反応しなかった。いえ、彼の肉体自身が駒を撥ね退けたと言った方がいいわね。」

 

「そんなことがあったんですか……」

 

 取り敢えずダイスケがライバル候補に成りうる可能性が消えたことにイッセーが胸を撫で下ろすと、リアスがイッセーの顔を引き寄せた。

 

「な、な、な、な……!」

 

「紅髪の滅殺姫と赤龍帝の籠手。紅と赤で私たちの相性はバッチリね?」

 

「え? あ、ああ、そうっすね……」

 

「最強の兵士を目指しなさい。だって、私の可愛い下僕なんだもの」

 

「最強の兵士……なんていい響き!! 部長、俺……」

 

 部長のためにも、自分の野望のためにも頑張ります! と言いかけた時だった。

 イッセーの額になにか柔らかいものが触れる。なんだろうと顔を上げると、リアスがイッセーの額に口付けをしていた。

 口付け。

 接吻。

 キス。

 一瞬、何が起こったのかわからなくなった。

 完全なる思考停止。

 またはthe world(時よ止まれ)。

 脳内のCPUが再起動し、状況の把握に数十秒かかる。その演算処理の途中に、唇が離れた。

 その一連の動作から、イッセーはようやくリアスが自分の額にキスしたのだと理解した。

 

「ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、部長!? これは一体!?」

 

「あなたが強くなれるように、という意味のおまじないよ。励みなさい、イッセー」

 

「うおォォォォ!! 部長! 俺頑張ります!!!」

 

 またイッセーのスケベ根性に火が付いた。だが、今回はそれだけではない。自分のことを期待してくれる人がいる。その期待に応えたいという、純粋な向上心も芽生えたのだ。

 

「と、あなたを可愛がるのもここまだでにしないと。私とあなたが新人の子に嫉妬されてしまうかもしれないから」

 

「へ、嫉妬?」

 

 すると、背後から視線を感じて振り返る。

 

「い、イッセーさん……そ、そうですよね。リアスさん……いえ、リアス部長は素敵な方ですし、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね……。ああ! ダメダメダメ! 邪なことを考えては! 主よ、私の罪深い心をお許しに……はぅわ!!」

 

 祈るアーシアが突然頭に痛みを感じ、そこを押さえてしゃがみ込む。

 

「お、おい! 大丈夫か、アーシア!?」

 

 イッセーが心配になって駆け寄り、バランスを崩したアーシアを支える。。

 

「急に頭痛が……?」

 

「当たり前でしょ、あなたは悪魔になったのだから。神に祈る悪魔はいないわ」

 

 リアスが呆れてアーシアに教える。

 

「そうでした……私、悪魔になっちゃたんでした……」

 

「後悔、してる?」

 

 その問いにアーシアは明るい顔で答える。

 

「いいえ。どんな形であれ、イッセーさんや皆さんと一緒にいられるのですから」

 

「アーシア……あれ? そういえばその格好……」

 

 イッセーがあることに気がついた。アーシアが駒王学園の制服を着ているのだ。

 

「あ、似合っていますか?」

 

「……ってことは、この学園に?」

 

「はい! リアス部長の計らいで!」

 

「前に言ったでしょう、私の父はこの学校の経営に携わっているからこのくらいなんてことないわ」

 

「……流石、貴族。やることが半端じゃない……」

 

 改めて権力というものの持つ力に圧倒される。だがそのお陰でアーシアと共にいられるのだから悪いことではない。

 それについては本当に感謝しきれないが、これからの長い悪魔としての生涯をかけて還していこうとイッセーは誓う。

 

「おはよう、イッセー君」

 

「おはようございます、イッセー先輩」

 

 木場と小猫が入ってきた。

 

「おう……ってあれ? なんで名前呼び? 昨日は苗字で呼んでただろ」

 

 突然の変化にイッセーは驚く。その疑問に木場が答えた。

 

「うん、やっぱり仲間になったわけだしね。堅苦しい苗字呼びはやめにしようって小猫ちゃんと決めたんだ。勿論、ダイスケ君のこともね」

 

「……木場先輩が言うから仕方なく、です」

 

 小猫がボソッと不服そうに呟く。やはりまだどこか気恥ずかしいものがあるらしい。

 

「そうだな……改めてよろしくな、木場、小猫ちゃん!!」

 

「あらあら、青春していますわね」

 

 そこへ朱乃が何かを押して入室してきた。その何かとは―――

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

 介護用のリフトに逆海老反りで吊るされているダイスケだった。

 

「だ、ダイスケェェェェェエエエエエエエ!? お前、なんでこんなうらやま……ゲフンゲフン、ひどいことに!?」

 

「それはもう、昨日の独断専行が原因ですわ。上手くいったから良かったものの、死者を出してしまう可能性も十分にあったのですから」

 

「朱乃に頼んで正解ね。本人もすっかり反省しているみたいだし」

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

 同じうわごとの繰り返しである。よほどひどい責めを受け続けたのであろう、完全に憔悴しきっている。

 

「すげぇ、あいつがたった一夜で……」

 

「あ、あの、リアス部長、大丈夫……なのでしょうか?」

 

「心配しなくても大丈夫よ。朱乃だって手加減はできるもの」

 

 つまり、手加減をしてコレである。本気を出したときのことが恐ろしくて堪らないイッセーだが、突然だれかの携帯が鳴った。

 

「あの、朱乃さん。俺の携帯が鳴ってるんですが出てもいいでしょうか……?」

 

「ええ、いいですわ。でもこれからアーシアさんの歓迎会ですから早く帰ってきてくださいね」

 

 そう言うと朱乃は複雑に絡み合う荒縄を一瞬にして解き、ダイスケを解放する。

 

「……ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」

 

「いや、早く行けよ」

 

 イッセーのツッコミを背に受けて、ダイスケは部屋を出る。

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

『おい、声がおかしいことになって変なことを口走っているが大丈夫か?』

 

「……桐生義人、か?」

 

『ああ、先日は世話になった。』

 

 まったくもって意外すぎる人物からの電話だった。しかも、ダイスケは携帯電話のアドレスを教えた覚えはない。

 

『突然電話して悪かった。ああ、番号はこっちで勝手に調べさせてもらったから気にするな』

 

「気にするわ。個人情報ダダ漏れじゃねぇか。……それで何の用だよ」

 

『アーシア・アルジェントについてだ。彼女、悪魔になったのだろう?』

 

「知っているのか?」

 

『いや、単なる予想だ。彼女が置かれた状況を考えれば、それが一番良い道だからな』

 

 またもやダイスケは予想を裏切られる。堕天使上層部直轄のエージェントなら「即刻抹殺すべき」などど言うかと思ったからだ。

 だが、悪魔側の人間の企てに協力するような男ならばその程度のことは瑣末なことなのかもしれない。

 

『俺に今回の指令を与えた方も今回の決着に納得していたよ。むしろその方がほうが幸せだろうと。』

 

「へぇ、随分と心が広い御方だな。」

 

『俺もそう思う。だが、このとこは他言無用だぞ。あくまで個人的な意見だ。俺たちは未だ対立中なのだから』

 

「わかってるよ。むしろ俺が感謝したいくらいだ。お前がいてくれて本当に助かった」

 

『お互い様さ。言いたかったのはそれだけだ、じゃあ、また会おう』

 

 それだけ言い残し、義人は電話を切った。まさか敵対者から感謝される事態が起きようとは。

 アーシアの身の上を聞いたときは教会側はおろか堕天使勢力にもに殺意さえ覚えたものだが、こういう人物がいるのならまだ救いはあるのかもしれない。

 そう思って携帯を閉じようとした時、メールが受信されていたことに気付く。

 

「イッセーから?」

 

 その内容はただ一言、「はよ来い」だった。

 

「……馴れないけど歓迎会、いっとくか」

 

 いい加減他人と距離をとるのも卒業かな、と思うダイスケであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、今は対立中の三大勢力。だがいずれはこの状況を打開するためにもアザゼル殿達は和平の道を選ぶだろう。……だが、そうだとしても俺は……アイツと……!」

 

 いずれ、その銀は黒との対決を臨むのである。

 




 はい、というわけでVS08でした。
 流れは変わってもやってることは変わっていなかったので結局お仕置きされるダイスケなのでありました、チャンチャン。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!

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