ようこそ人間讃歌の楽園へ 作:gigantus
「ん、出ないか……」
図書室を出た柚椰はすぐさま櫛田に連絡を取ろうとした。
しかし2、3回かけても一向に繋がらない。
電源を切っているのか、あるいは着信に気づいていないのか。
居所が分からない以上、彼女を探しに行くしかなかった。
(彼女の性格上居るとすれば人の居ない、誰にも見られていないところ、か)
居場所に大体の見当をつけた柚椰はひとまず一番可能性の高い場所へと向かう。
するとすぐに道中で櫛田と思われる後姿を発見した。
彼女は校舎の中へと入っていき、上の階へと続く階段を上っていった。
(やはり屋上か。あそこには学校が仕掛けたカメラはない)
この学校には夥しい数の監視カメラが仕掛けられている。
しかし、一部の部屋や場所には仕掛けられていない。
その内の一つが屋上だ。
柚椰の予想通り、櫛田はどんどん階段を上っていき、ついに屋上の扉の前で立ち止まる。
彼女の後姿を
「あー……ウザい」
櫛田が発した声は、彼女のものとは思えないほど低かった。
「マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに……」
まるで呪詛を唱えるかのように、彼女はぶつぶつと暴言を呟く。
「自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。お前みたいな性格の女が勉強教えられるわけないっつーの!」
櫛田の罵声の矛先は、言わずもがな堀北だった。
「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ!」
(この光景を池に見せたら卒倒するだろうな……)
暴言を撒き散らす櫛田の姿を見ながら柚椰はぼんやりとそんなことを考えていた。
クラスのアイドルであり、誰にでも優しい少女の裏の顔。
彼女が絶対に誰にも見せたくないであろう顔。
櫛田は堀北を心底嫌っているのだろう。
堀北が櫛田を嫌っているように、いやそれ以上に櫛田は堀北を憎悪している。
では、何故櫛田は嫌いであるはずの堀北がいる勉強会に参加したのだろうか。
提案したのは柚椰であるが、断ることも当然出来たはずだ。
にも関わらず彼女は二つ返事で了承した。
疑問は今日の勉強会のことだけではない。
そもそも櫛田は、何故嫌いであるはずの堀北に近づいたのか。
幾度となく遊びに誘い、友達になってほしいと声をかけた理由は何だ。
(嫌いであるはずの人間に近づく理由……
柚椰がある一つの可能性に気づいたとき、櫛田が屋上の扉を思いっきり蹴り開けた。
誰もいない学校に、その音は大きく響き渡る。
予想外に大きな音がしたためか、彼女は一瞬身を固くして息を殺した。
そして誰にも見られていないか確かめるために彼女は後ろを確認したが──
「やぁ、思っていたより元気そうでなによりだったよ」
そこには手を上げてニッコリと笑顔を浮かべている柚椰が居た。
まさか柚椰が居るとは思わなかったのか、櫛田は目を見開いた。
「ま、黛君、なんで……?」
疑問を口にした櫛田の声は少し震えていた。
「今回頑張ってくれた君を労うのと、あと心配だったからね。堀北に酷いことを言われていたから、もしかしたら傷ついているかと思ったんだ」
「そうなんだ……」
つかつかと櫛田が階段を下りていき、柚椰の前まで来た。
「今の、もしかして聞いてた……?」
彼女が尋ねているのは、間違いなく先ほど彼女が吐いた暴言のことだ。
「まぁね」
「そっか……」
柚椰があっさり肯定したことで櫛田は俯いた。
「黛君にだけは聞かれたくなかったなぁ……」
そう呟く櫛田の声は少し涙ぐんでいた。
彼女は本当に柚椰にだけは自分の本性を知られたくなかったのだろう。
「別にいいんじゃないかな? 誰彼構わずに良い顔をしていればストレスも溜まるだろう。たまたまストレスを発散しているところを俺が聞いただけだ。それに、君に裏の顔があるということはとうに知っていたよ」
「え……?」
一瞬何を言われたのか分からなかったのか櫛田は固まった。
そしておずおずと、怯えながら柚椰に尋ねる。
「い、いつから……?」
「バス停で会ったときからだよ。君が底抜けの善人ではなく、社会的ステータスに拘る人間だということは気づいていた。本性は承認欲求の塊で、利己的な人間だということもね。前に目がいいと言っただろう? 高円寺を分析したのと同じように、君に関してもとうに本性は見抜いていたんだ」
「うそ……」
自身の本性が目の前の男に筒抜けだったという事実に櫛田は打ちひしがれていた。
しかしすぐに我に返ると柚椰を恐ろしい形相で睨みつけた。
「このこと、誰かに話したら許さないから」
「話すと言ったら?」
詰め寄られていながらも柚椰は至って冷静に返した。
「今ここで、黛君にレイプされそうになったって言いふらす」
「でもそれは冤罪になるんじゃないかな?」
「大丈夫、冤罪じゃないから」
そう言うと櫛田は柚椰の手を掴み、自身の胸元へと当てた。
要は柚椰に自分の胸を揉ませたのだ。
「おや」
「これで指紋、べったりついたから。証拠はある。私は本気よ、分かった?」
自分を使うことで、櫛田は柚椰の弱みを作ったのだ。
万が一柚椰が秘密をバラしたなら、制服の指紋を証拠に警察へ突き出すということだろう。
完全に柚椰の生命線を握ったと確信したのか櫛田は強気に脅しをかける。
「確かにこれを証拠として出せば、俺は完全に犯罪者だ……でも──」
刹那、柚椰は恐ろしいほど強い力で櫛田の手を振り払うと、そのまま彼女の首を掴んだ。
そしてその勢いのまま、階段の壁へと彼女を押し付ける。
「──この程度で俺を嵌めようだなんて、随分と思い上がったね。
「あっ……! がっぁ……!?」
まさか首を絞められるとは思わず、櫛田は柚椰の手から逃れようと必死にもがく。
しかし、彼女がいくら力を振り絞っても柚椰の手はビクともしない。
「上着の左右のカフスボタン。ネクタイピン。胸ポケットに挿してあるボールペン。これが何を意味しているか分かるかい?」
「ぁっが……?」
「俺が今、
「──っ!?」
柚椰にそう言われるや否や、櫛田は彼がポケットに挿しているボールペンを取ろうとした。
しかし柚椰は櫛田の首から手を離すと、彼女が伸ばした腕を素早く掴み、そのままもう片方の手と合わせて再び壁へと押し当てた。
頭の上で両腕を拘束されたことで、櫛田は完全に自由を失っている。
「言っただろう? 本性に気づいていた、と。君が罵詈雑言を並べ立てる前に俺はこれらを起動していた。だから君の本性も、今君が仕掛けたトラップも、しっかり記録されている。脅迫をするならその場凌ぎの浅知恵ではなく、念入りに下準備をしてやるべきだ」
「くっ……!」
「君のことは良い友達だと思っていたけど、こちらに牙を剝くのなら仕方がない。本来であれば歓迎するところだが今は時期が悪い。生憎と、こんな素晴らしい箱庭から早々に退場するわけにはいかないんだ。今の映像を学校にもクラスにも……いや、ネットを介して全生徒にばら撒いてあげよう。二重人格の、虚言癖の、薄汚い尻軽女として余生を楽しむといい」
柚椰の目は本気だった。
どこまでも冷徹で、どこまでも容赦が無い。
櫛田はその目を見て黛柚椰の本性を垣間見た。
自分なんかとは比べ物にならないくらいの恐ろしさを、底深い闇を目の前の男は秘めていると。
「お願い、消して……なんでもするから……」
完全に打つ手が無くなったのか、櫛田は力無くそう懇願した。
しかし彼女の懇願にも柚椰は心を揺らさない。
「君が何かメリットを齎してくれるとでも言うのかい? 広い交友関係以外に自慢できることなどない君が」
「なんだってするから! 身体だって好きにしていい! 黛君の言うことならなんでも聞くから!」
「手となり足となって動くと?」
「動くから!」
「……いいだろう」
柚椰はひとまず矛を収めたのか櫛田の拘束を解いた。
身体の自由が利くようになると、櫛田は力が抜けたのかその場にへたり込んだ。
「おーい、大丈夫かい?」
「よくそんな何事も無かったかのように言えるよね!?」
先ほどの雰囲気は何処へやら、柚椰はいつも通りのテンションに戻っていた。
あまりの切り替えの早さに流石の櫛田もついていけていない。
「ふふっ、怖がらせて悪かったね」
「まさか黛君にまで裏の顔があるなんて思わなかったよ……」
カラカラと笑う柚椰に櫛田はもう言い返す気力も無い。
「じゃあ、これからよろしく頼むよ」
「ちょっと待ってよ!」
あっさり帰ろうとする柚椰を櫛田は大声で呼び止める。
「具体的に私は何をすればいいの……?」
「ふむ、ひとまず今のところは何もないよ。いつも通り過ごしてくれて構わない」
「えっ!? じゃ、じゃあ動画と録音データは……?」
「あぁ、部屋のパソコンとポケットの端末にバックアップで入っているよ。心配しなくてもブラフではないから安心するといい」
「そんな……じゃあどうすれば消してくれるのさ!」
先ほどの脅しが嘘ではないと知って櫛田は絶望した。
そしてどうすればデータを消してくれるのかを尋ねた。
「方法は2つ考えている。1つは君が俺の仕事をこなしてくれる度に動画か音声のどちらかを一つ消す。もう1つは、データ全てを君が
「買い取るって……一体いくらなら売ってくれるの?」
「1つあたり50万。元データが各デバイス4つで、バックアップがそれぞれ2つずつ。締めて600万だね」
「600万って……そんなの払えるわけないじゃん!」
「だったら借金だね。俺の仕事をこなして返済してもらうしかない。あぁ、ちゃんと契約書は書いてもらうよ」
「どう転んでも黛君の言うこと聞くしかないってことなんだね……」
逃げ場が無いと分かり、櫛田は今度こそ逆らう気が無くなったようだ。
「どちらがいい? 好きなほうを選んでいいよ」
「……じゃあ最初のほうで。借金は気持ち的にもなんか嫌」
「あぁ分かった」
櫛田は柚椰との契約を受け入れた。
彼女が同意したと分かるや否や、柚椰は踵を返した。
「じゃあ俺はこれから夕食を食べに行くけど君はどうする?」
「一緒に行くっ!」
不機嫌さを隠そうともせず、櫛田はそう言って柚椰の後ろをついて行った。
学校を出た柚椰と櫛田はその足で施設内に設けられているファミレスに入った。
店内は空いており、二人は待たされることなくテーブル席に通された。
「何が食べたい? 好きなものを頼んでいいよ」
「えっ、奢ってくれるの?」
「せっかくだからね。気にしないで好きなものを食べるといい」
「やったっ!」
店の中だからか櫛田はいつも通りのようだ。
周りから見れば、二人は仲睦まじいカップルか何かに映るだろう。
もしDクラスの誰かに見られたら、明日の話題は確定してしまう。
櫛田はニコニコしながらメニューを捲り、注文する料理を決めていく。
「じゃあ……エビとホタテのクリームパスタとプリンアラモード。あとドリンクバーも」
「俺は……ハンバーグとライスでいいか」
注文を決め終えると、柚椰はテーブルのボタンを押して店員を呼ぶ。
そして店員に注文を伝え、十分ほどで料理が運ばれてきた。
二人は手を合わせ、各々料理を食べ始める。
「それで、改めて聞くけど黛君は私に何をさせたいの?」
料理の美味しさに頬を綻ばせながらも、櫛田は改めて柚椰にそう尋ねた。
柚椰は切り分けたハンバーグを口に運んでゆっくりと咀嚼する。
「そうだね……とりあえず俺が君に求めているものは情報かな。君の人脈を駆使して得た情報を俺に流してもらう」
「情報を? でも黛君なら自分の力で集められるんじゃ……っていうかポイントのときみたいに自分で気づくんじゃないの?」
「学校のシステムに関しては一通り調べはついた。君に本格的に動いてもらうとすれば、それはこれから先に来るであろう試験のときだ」
「試験? それって定期テストのこと?」
「いや、定期テスト以外にもクラスポイントに影響を与えるイベントがある。これはほぼ間違いないと言っていい」
「それはどうして?」
「学力の良し悪しだけでクラスが決まるわけじゃない。それは君の大嫌いな堀北がDに居ることでいい加減気づいているだろう?」
「それはそうだね……っていうか外でそのこと言わないでくれない?」
人目を気にしてか、櫛田は軽率な発言をする柚椰を睨んだ。
彼女に睨まれて柚椰はカラカラと笑った。
「これは失礼。話を戻すけど、定期テストで計れるのは学力だけだ。なら、他のスペックはどうやって計るというんだい? バカだが運動は出来る須藤を学校はどう計る?」
「なるほどね……体育祭とか身体を使う試験ってことか」
「そういうことだね。要は普通では考えられないような試験も存在するということだ。恐らく生徒個人だけではなく、クラス全体の評価を決める試験もね。そうなった場合、他クラスにまで広がる君の交友関係は間違いなく役に立つ」
「私にスパイになれってこと……?」
「それもそうだが、同じDクラス内にも網を張っておいたほうがいい。今現在Dクラスはお世辞にも統率が取れているとは言えない。試験を円滑に進めるための緩衝材、これは今日やってもらったようなことだね。そしてクラス間で流れる情報の把握。櫛田桔梗という人間の価値を使ったクラスメイトの懐柔。やってもらうことは山積みだね」
「人遣い荒いなぁもう……でも、私に拒否権はないもんね」
柚椰の要求の多さに苦笑いしながらも、櫛田は了承する他無かった。
「君の価値を俺は凄く高く買っているんだよ? 少なくとも君は、堀北や他の者よりよほど有能だ」
「──! そ、そうかな? 私、堀北さんより使える?」
櫛田は意外そうに、けれど嬉しそうにそう聞き返した。
彼女は誰かに褒められるということに心底弱いのだ。
「あぁ、誰彼構わず喧嘩売るようなことを言う堀北とは違って協調性もある。チームプレイで事に向かう上で、一番有能なのは君のような人間だよ。俺に言わせれば、堀北より君がDにいることの方が意外だね」
「えへへ……なんか照れちゃうな~」
櫛田は照れくさそうに、恥ずかしそうに笑う。
結果的に従属する立場にあるものの、柚椰から褒められるのは悪い気はしないようだ。
「でも、それを言うなら黛君もじゃない? 友達も多いし、頭もいいし運動も出来る。なんでDクラスなのかな?」
櫛田は以前堀北がしたのと同じような疑問を投げかけた。
彼女もまた、柚椰が何故Dクラスにいるのか不思議でならないらしい。
「……まぁ、君になら構わないか。俺の言うことを聞いてくれるわけだからね」
「ほんとっ!? 聞かせて聞かせて!」
まさか素直に教えてくれるとは思わなかったのか、櫛田は上機嫌で柚椰に尋ねた。
ニコニコしながら聞いてくる彼女に柚椰はそっと耳元に口を寄せた。
「過去に色々とあってね。それが学校側にバレてしまった。以上」
「なにそれー!? 凄いザックリじゃん! ズルいよもっと詳しく教えてよー!」
あまりにいい加減な回答に櫛田は口を尖らせて不満を口にする。
もっと凄いものを期待していたからか、肩透かしもいいところだったらしい。
「詳しく知りたいならここでは無理だね。君の裏の顔と同じだ」
「裏の顔あるのは黛君もじゃんか!」
自分の本性と一緒にされたからか櫛田はプンスカと怒り始める。
「分かった分かった、今度教えてあげよう」
「今度っていつ?」
はぐらかそうとする親に聞く子供のように櫛田は間髪入れずに聞き返した。
「作戦を本格的に動かすときにだ。俺の部屋なら誰にも聞かれないだろう」
「! まさか部屋に連れ込んで私に何かするつもり……!?」
「自分で胸を揉ませた人間の台詞ではないね」
「それはもう忘れてよ! あ、あのときは焦ってたっていうか……!」
まさか先の出来事を掘り返されるとは思わず、櫛田は真っ赤になって慌てていた。
大胆な行動に打って出たものの、彼女はその手のことにあまり耐性がないらしい。
「とにかくちゃんと教えてあげるから、今は諦めてほしい」
「ぶぅ~」
ここで聞き出すことは出来ないと知り、櫛田はぶぅたれている。
可愛くない女子がやれば悲惨な光景だが、彼女がやると様になっている。
柚椰は櫛田が美少女であると改めて理解した。
「っていうか黛君、さっき学校に居たとき私のこと名前で呼んだよね?」
「あれ、そうだったかな?」
「桔梗って呼んでたよ?」
「あぁ、つい癖でね。真剣だったからか無意識に言っていたかもしれない」
「ふーん、そっかー。黛君は無意識に女の子のこと名前で呼んじゃう人なんだー」
そう言いながら櫛田はプイッと顔を逸らした。
表情と声色から判断するに、彼女は何故か不満そうである。
「桔梗、君は可愛いね」
「ひゃいっ!?」
名前呼びと可愛いと言われたことの相乗効果からか櫛田の顔が一気に赤くなった。
「い、いいいきなり何さ!?」
「なんだ、故意に呼ばれたいんじゃなかったのか」
「そういうことじゃないよ! 全く、黛君はもうちょっと女心ってものを──」
「俺のことは名前で呼ばないのかい?」
「はいぃっ!?」
今度は頓珍漢なことを言われ、変な声を出す櫛田。
「な、なんで私が黛君を名前呼びしなきゃいけないのさ!?」
「俺が呼んだんだから今度は君の番だよ。ほら、呼んでみて」
「うぅ……ゆ、柚椰君?」
櫛田はおずおずと、上目遣いで恥ずかしそうに名前を呼んだ。
彼女のその仕草は、恐らく他の男子ならば一瞬で恋に落ちるであろう。
「うん、なんだい?」
「うー、冷静なのがなんかムカつくなぁ……」
一切表情を変えない柚椰のリアクションに櫛田はどこか釈然としないようだ。
そんな彼女の不満そうな顔を見て柚椰は笑った。
「とりあえず、今俺が君に求めるものは一つ。Dクラスの中で確かな地位を築いてもらうことだ」
「すごい何事も無かったかのように戻ったね……」
櫛田は照れないどころか何事もないように話を戻す柚椰に苦笑いした。
「今現在Dクラスの女子で台頭してるのは君と軽井沢の二人だ」
「あー、あのウザいバカギャルでしょ。自分が女王様みたいにふんぞり返りやがってマジムカつくわ。しかも私にポイントまで集りにきやがって……」
軽井沢という名前を聞いて櫛田は顔を顰めて毒を吐く。
「本性出てるよ」
「はっ!? ……て、てへっ」
我に返ったのか既に本性がバレているにも関わらず櫛田は取り繕った。
そんな彼女を他所に、柚椰は本題に戻った。
「話を戻すよ。櫛田、早めに軽井沢を蹴落としてトップに立ってもらいたい。上に立つ資質は君のほうがあるはずだ。それは君自身も分かっているだろう?」
「そりゃね、あんなのより私のほうが可愛いし性格もいいし」
櫛田は自信たっぷりに自分の良さをアピールする。
「前者は同意するけど、後者は少し口を挟みたくなるね」
「普段の姿はってことだよ。本当の私は黛君しか知らないし」
「そうだね。そして本当の俺も、今のところ知っている生徒は君だけだ」
「──! ……ってことは私たちは同じ秘密を共有する仲ってことかな?」
櫛田は自分と柚椰の関係性に名前をつけた。
そしてそれは柚椰にとってもしっくりくるものだった。
「そうなるね。持ちつ持たれつというところかな」
「えへへ、じゃあ似たもの同士協力しないとね」
「櫛田が望む働きをしてくれれば、データの消去は勿論、出来る限りのことはするよ。今食べている夕食のようにね」
「へぇー、じゃあデートとかもしてくれるんだ?」
櫛田は面白そうに、けれど若干の期待を含ませて尋ねた。
「櫛田が望むならね。噂されてもいいなら構わないよ」
「そっか、じゃあ考えとくねっ!」
そう言って櫛田は満面の笑みを浮かべた。
こうして二人の奇妙な協力関係が結ばれた。
あとがきです。
黛君、櫛田ちゃんを従えるの巻。