ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:夏葉真冬

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彼らは島にて試験を課せられる。

 

 

 

船から降りてきたDクラスの面々に、すかさず担任である茶柱先生の言葉が飛ぶ。

 

「今からDクラスの点呼を行う。名前を呼ばれたものはしっかりと返事をするように」

 

同時に整列するよう指示され、クリップボード片手に全クラス一斉に出席確認が行われた。

先生たちも生徒と同じジャージに身を包んでおり、夏休みというよりは合宿に近い雰囲気がある。

それでも多くの生徒に緊張の色はない。

 

「あー、早く自由時間にならねぇかなー。海は目の前なんだぜ」

 

池が面倒くさそうにつぶやく。彼と同じく、大半の生徒は早く海で遊びたくて仕方ないだろう。

程なくして高身長の教師が前へ出てくると、準備されていた白い壇上に上がる。

彼は英語を担当しているAクラス担任、堅物と生徒の間で有名な真嶋先生だ。

プロレスラーのような体格で一見すると体育会系だが、英語以外の教科を担当していたこともあるほどの優秀な教師だ。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。

 しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

「いるんだよなぁ、病気で旅行に参加できない奴。かわいそ」

 

先生に聞こえない程度の小声で池が呟く。

真嶋先生が無言で生徒たちを見つめる中、作業着に身を包んだ大人たちが、少し遠くで特設テントの設置を始めているのが見える。

彼らの傍には長机とその上に置かれているパソコンなどもある。

およそこのロケーションには場違いな光景に生徒たちも徐々に困惑の色を見せ始める。

空気が変わることを待っていたかのように、真嶋先生から冷酷な一言が発せられた。

 

「ではこれより──本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

「え、特別試験って?どういうこと?」

 

その当たり前の疑問は池だけでなく、ほぼ全てのクラスで等しく巻き起こった。

ただの旅行だと思っていた生徒たちに襲いかかった不意打ち。

学校側の善意による夏休みのバカンス。そこにはやはり裏があったのだ。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。

 君たちはこれから1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。

 なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを言っておこう」

 

「無人島で生活って.......船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

BかCクラス辺りから、当たり前の疑問が飛び出す。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由なく認められていない。

 この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある。

 スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯2つ。マッチ1箱を支給する。

 それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自1つずつ配布することとする。

 特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

以上ということは、それ以上のものは一切配布されないということだ。

 

「はぁっ!?もしかしてガチの無人島サバイバルとか、そんな感じ!?

 そんな滅茶苦茶な話聞いたことないっすよ!テント2つじゃ全員寝れないし!

 そもそも飯とかどうするんですか!あり得ないっす!」

 

全員に聞こえるほど大きな声で池が騒ぎ立てる。

しかし彼と同じようなことを他の生徒も思っているのか、誰も彼も意味が分からないと言った顔で真嶋先生を見ていた。

彼らの不平不満の声と表情に対して、真嶋先生を始め教師陣は至って平然としていた。

 

「安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だ。

 しかし、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。

 今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。

 時にはキャンプファイヤーでもして友人同士語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」

 

真嶋先生のその言葉に、生徒たちはこれまでとは違った困惑を見せる。

 

「え?自由がテーマってどういうこと?バーベキューもできるって......

 んんっ?それって試験って言えんの?ヤベ、頭混乱してきた」

 

試験でありながら遊ぶのは自由と言われ、生徒たちは疑問が次々吹き出していく。

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。

 そのポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

真嶋先生は別の教師から数十ページほどの厚みを持った冊子を受け取った。

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できる物のリストが全て載っている。

 生活で必需品と言える飲料水や食料は言うに及ばず、バーベキューがしたければ、その機材や食材も用意しよう。

 海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている」

 

その言葉にだんだんと生徒たちの表情が穏やかなものへと変わっていく。

 

「つまり、その300ポイントで欲しいものが何でも貰えるってことですか?」

 

「そうだ。あらゆるものをポイントで揃えることが可能になっている。

 計画的に使う必要はあるが、堅実なプランを立てれば無理なく1週間過ごせるように設定されている」

 

つまりポイントを上手く使えば、当初の予定通りのバカンスが堪能できるということだ。

 

「で、でも先生。やっぱり試験って言うんだから難しい何かがあるんでしょう?」

 

未だ楽観視できないのか、池がそう質問する。

 

「難しいものは何もない。2学期以降への悪影響もない。保障しよう」

 

「じゃあ本当に、1週間遊ぶだけでもいいってことですか」

 

「そうだ。全てお前たちの自由だ。

 もちろん集団生活を送る上で最低限のルールは存在するが、守ることが難しいものは何一つない」

 

やたら自由を強調する真嶋先生だったが、その真意は未だ分からない。

しかし生徒たちは徐々に試験という単語へのプレッシャーから解き放たれているように見えた。

生徒たちの緊張が解れつつある中、再び真嶋先生が口を開く。

それは、この試験の全貌。これによって得られるプラス面についてだ。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で夏休み明けに反映する」

 

その言葉に、生徒たちの間に激震が走る。

間違いなく今日一番の驚きを与えたことだろう。

定期テストのように学力を計る試験は、基礎学力の高い生徒が集まる上位クラスが必然的に有利だった。

だが今回の試験は違う。

クラス間にあるハンディキャップを感じさせない。Dクラスにも勝ち目のある試験だった。

 

「1週間我慢したら、来月から俺たちの小遣いも増えるってことだよな!?」

 

ポイントを使わず、島での生活を耐え忍ぶことが出来れば、そのポイントがクラスポイントになる。

つまりそれは、月頭に支給されるポイントが増えるだけでなく、クラス間のポイント差も埋まるということだ。

Dクラスにとってはこれ以上ないチャンスと言えるだろう。

 

「マニュアルは各クラス1冊ずつ配布する。

 紛失した際は再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。

 また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。

 特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える。

 そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

真嶋先生の説明にAクラスの生徒たちは動揺した様子を見せなかった。

しかし、他クラスの生徒は開始前からAクラスとの差が30ポイント縮まったことに驚いている。

真嶋先生が説明を終えるのと同時に解散宣言がなされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解散後、生徒たちはクラス毎に集まり、担任の先生の指示を仰ぐ。

クラスポイントを大量に増やすまたとないチャンスに皆浮き足立っている。

 

「今からお前たち全員に腕時計を配布する。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。

 許可なく外した場合にはペナルティが課せられるのでそのつもりでいろ。

 この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えている。

 万が一に備え、学校側に非常事態を知らせるための手段も搭載してある。

 緊急時には迷わずそのボタンを押すように」

 

業者の人間が茶柱先生の傍に支給品を次々積み上げていく。

それはおそらくDクラスに支給されるテントや腕時計だろう。

箱を取り出し、生徒一人一人に腕時計が配られる。

 

「あのー、佐枝ちゃん先生?緊急時ってことはですよ?

 この島ってなんかヤベェ生き物とかいたりしないっすよね......?」

 

池が不安そうにおずおずと挙手をした。

 

「仮にもこれは試験だ。結果を左右する可能性のある質問には答えられない」

 

「いやいやいや!クマとかいたら死ぬでしょ!他にもヤベェ虫とか蛇とか!」

 

「流石に大丈夫じゃないかな?それでもし生徒が危険な目にあったら大問題だ。

 腕時計は単に僕たちの健康管理が目的じゃないかな?」

 

平田が池の心配を和らげるようにフォローする。

彼の言う通り、腕時計は生徒の状態を把握するためのデバイスであると考えるのが妥当だろう。

腕時計が生徒全員に行き渡ると、各々好きな方の腕にはめていった。

 

「これって付けたまま海とか入って平気なんすか?」

 

「問題ない。完全防水仕様だ。

 万が一故障した場合は試験管理者がやって来て代替品と交換するようになっている」

 

腕時計の仕様について一通り聞き終えると、今度は平田が挙手をする。

 

「茶柱先生。僕たちは今からこの島で1週間生活するとのことですが、

 ポイントを使わない限り全て僕たちで何とかしなければならないということでしょうか」

 

「そうだ。学校は一切関与しない。水も食料も、お前たち自身で用意してもらう。

 足りないポイントにしても同様、解決方法を考えるのも試験の一環だ」

 

その言葉に男子よりも女子の方が戸惑いを見せる。

寝床が確約されていないからだろうか。

 

「大丈夫だって。食料は魚でも捕まえたり森で果物探せばいいじゃん。

 テントだって葉っぱとか木とか使ってさ。最悪体調崩しても我慢すりゃいいし」

 

300ポイントを温存する気満々の池は楽観的な様子だ。

しかし現実はそう甘くはない。

一人で生き残るだけならまだしも、30人以上の人間が集団で生活しなければならないのだ。

食料や水を確保するだけでも容易ではないことは明らかだ。

 

「残念だが池、お前の目論見通りに行くとは限らんぞ。お前たち、マニュアルを見てみるといい」

 

平田は茶柱先生の指示に従い、受け取ったマニュアルを開いた。

 

「最後のページにマイナス査定の項目が載っている。まずはそこに目を通せ。

 それはこの特別試験において非常に重要な情報になる。生かすも殺すもお前たち次第だ」

 

「平田、俺にも見せてー」

 

「うん、いいよ」

 

右肩から顔だけ出して覗き込んできた柚椰に平田は見やすいようにマニュアルの角度を変えた。

平田の肩に顎を置き、マニュアルを覗き込む柚椰。

そんな柚椰を受け入れて一緒にマニュアルを読む平田。

Dクラスの女子人気1位と2位の美男同士の絡みに一部の女子たちが少しざわついた。

彼女たちの興奮を他所に二人は該当箇所を見つけて読み始める。

 

「えーっと、なになに?『以下に該当する者は定められたペナルティを課す』」

 

「『著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント』」

 

「さっきAクラスが喰らったペナルティがこれかな」

 

「そうみたいだね。でも、他にもペナルティに該当する行為があるね」

 

平田の言う通り、他にもマイナスを喰らう行為がいくつか存在していた。

 

「『環境を汚染する行為を発見した場合、マイナス20ポイント』。

 木切り倒したりとか川汚したりはアウトってことか」

 

「『毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合、一人につきマイナス5ポイント』。

 これは気をつけないとね。遅れてもダメみたいだ」

 

「『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損を行なった場合、該当生徒の所属クラスは失格。

  該当生徒のプライベートポイントは全没収』か。厳しいねぇ」

 

「でもこれは当然のルールじゃないかな。

 あくまでこの試験は自分たちの力で生き抜くことが目的なんだよ」

 

平田は4つ目のルールはあって当然のものだと受け止めているらしい。

 

「残り3つは生徒に無理をさせないための抑止力の面が強いだろうね。

 具合悪いのに我慢した結果悪化してリタイアしたらマイナス。

 木を切って使うとか、海や川に汚れたものを流すとかもマイナス。

 点呼を設けることで野宿させないようにする。

 ポイントをケチってバカなことしないようにするためのルールってことだろうね」

 

柚椰の考察に同感なのか平田は頷く。

 

「この試験は我慢大会をさせるつもりじゃないってことかもしれないね。

 生徒が取り返しのつかないことになったときに損をするのは学校側だから」

 

一通りペナルティを把握したので、柚椰は平田から離れた。

彼が離れたことで平田もマニュアルを閉じる。

それを見計らって茶柱先生が再び生徒たちを見渡す。

 

「二人が読み上げたように、ペナルティはいくつか存在している。

 池、お前が無茶をするのは勝手だ。

 だが、もし10人の生徒が体調不良に陥りリタイアすることになった場合、それまでの我慢と努力は全て泡と消える。

 一度リタイアすれば試験中に復帰することは出来ない。強行するときはそれを覚悟しておくといい」

 

我慢で乗り切る手を封じられ、それを想定していた一部の生徒が困惑する。

1ポイントも使わないという作戦はこれでほぼ不可能となった。

しかし逆に考えれば、他クラスが同じことをしてくる可能性も消えたということだ。

この試験は如何に効率よくポイントを使い、節約して1週間を乗り越えるかが鍵になりそうだ。

 

「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないってことじゃない?」

 

一通り話を聞いた篠原がそんなことを言った。

 

「最初から妥協する戦い方は反対だぜ。やれるところまで我慢すべきだろ」

 

「気持ちはわかるけど、体調を崩したら大変だよ」

 

「萎えること言うなよ。まずは我慢あっての試験じゃねぇの?」

 

平田が諌めようするが池はポイントを可能な限り使わないという方針を推し続ける。

 

「うーん、黛君はどう思うかな?」

 

池の言うことも尤もだと思ったのか、平田は今度は柚椰に話を振る。

彼が意見を求めたため、周りの視線が柚椰に向けられる。

当の柚椰は平田が持っていたマニュアルをいつの間にか手にとってパラパラと捲っていた。

 

「俺?そうだなぁ......

 ポイントを惜しんで次々人が倒れるくらいなら消費を惜しまない方がいいだろうね。

 最低でも住環境と水回り、トイレとかシャワーとかは惜しむべきじゃない」

 

クラスメイトを一通り目で見回しながら柚椰はそう言った。

その発言に篠原を始め女子たちはホッとしたような表情になる。

反対に池やポイントを節約したい生徒たちは不満そうだ。

 

「あ、テントとか調理器具も揃えられるんだね。水と食料もある。

 それにデジカメとか無線機とか......あ、花火とかもあるじゃない。

 これって欲しいときは先生に言えばいいんですか?」

 

「あぁ。その都度私に申し出れば誰でも申請可能だ」

 

「だってさ」

 

茶柱先生から返答を得ると、柚椰はマニュアルを閉じた。

 

「茶柱先生、答えられることであれば教えてください。

 仮に300ポイント全てを消費してしまった後にリタイアする者が現れた場合はどうなるのでしょうか」

 

堀北が挙手をし、回答を求める。

 

「その場合、リタイアする人間が増えるだけだ。ポイントは0から変動しない」

 

「つまりこの試験でマイナスに陥ることはない、ということですね?」

 

その問いに茶柱先生は肯定する。

先ほど真嶋先生も試験による悪影響はないと言っていたがそれは事実らしい。

 

「支給テントは1つが8人用の大きなものになる。重量が15キロ近いから運搬の際は気をつけるように。

 また支給品の破損、紛失に関して学校側は一切手助けしない。

 新しいテントが必要な場合はポイントを消費することを覚えておくように」

 

「僕からもよろしいですか先生。この点呼というのはどこで行うのですか?」

 

「担任は各クラスと共に試験終了まで行動を共にする決まりになっている。

 お前たちでベースキャンプを決めたら報告してくれ。

 私はそこに拠点を構え、点呼はそこで行う決まりだ。

 それから一度ベースキャンプを決めた後、正当な理由なく変更はできないのでよく考えて決めるように。

 これらは他クラスも同様の条件だ。例外はない」

 

監督責任ということで、先生も生徒たちと共に1週間過ごすということだ。

勿論、学校側である先生は生徒の手助けなどはしないだろう。

 

「続いてトイレの説明をする。大事なことだからよく聞いておくように」

 

先生はそう言うと、積み上げられたものの中から1つの段ボール箱を掴んだ。

それを開け、中に入っているものを取り出すと、それは折りたたまれた段ボールだった。

 

「佐枝ちゃんせんせー、なんすかそれ?」

 

池が思わず尋ねる。

 

「簡易トイレだ。各クラス1つずつ支給されるものだから大切に使うように」

 

その説明に戸惑ったのはクラスの女子たちだ。

 

「もしかして、私たちもそれを使うんですか!?」

 

声を大にして篠原が質問する。

彼女の表情からはそんなものを使うなんてあり得ないといった感情がありありと浮かんでいる。

 

「男女共有だ。だが安心しろ。着替えにも使えるワンタッチテントがついている。

 誰かに見られるようなこともないだろう」

 

「そういう問題じゃなくて!段ボールになんて絶対無理です!」

 

女子からのブーイングをスルーし、茶柱先生は簡易トイレの使い方について説明を始めた。

段ボールを組み立て、付属していた青のビニール袋をセットしてその中に白いシートを入れる。

どうやらその白いシートこそ優れものらしく、汚物を固める薬品がついているらしい。

それにより汚物を見えなくすると同時に臭いを抑制する効果があるらしい。

使用後は同じシートをその上から被せることで1枚のビニールで最大5回まで使えるようだ。

このビニールとシートに関しては無制限に支給されるものらしい。

説明を聞いた女子たちは絶句していた。

あまりに日常とかけ離れた行為に適応できないようだ。

 

「無理に決まってます!絶対無理!」

 

篠原だけでなく、ほぼ全ての女子が一斉に拒否する。

その様子を黙って見守っていた池が不機嫌そうに言う。

 

「トイレくらいそれで我慢しようぜ。揉めるようなことじゃないだろ」

 

「ふざけないで。男子には関係ないでしょ。段ボールのトイレなんて絶対無理」

 

言い争う池と篠原。

二人の喧騒を放っておき、茶柱先生は話を進めようとする。

 

「やっほ〜」

 

しかし背後から聞こえてきた声に、茶柱先生は一気に不機嫌そうになった。

声の主は彼女の背中に勢いよく抱きつく。

 

「......何してる」

 

「何って、スキンシップよ。どうしてるかなーって思ったから」

 

Bクラスの担任である星之宮先生が何故かやってきた。

彼女は上機嫌でスリスリと茶柱先生の二の腕を撫でる。

 

「佐枝ちゃんの髪っていつ触ってもサラサラよねー」

 

「暑い。鬱陶しい。離れろ」

 

「も〜つれないなぁ」

 

冷たくあしらわれているにも関わらず、星之宮先生は笑顔を崩さない。

その光景を少し離れたところから綾小路と柚椰は見ていた。

 

「美人女教師のスキンシップは絵になるね。そう思わない?」

 

「それは否定しないが、いいのか?池たちを放っておいて」

 

綾小路は離れたところで未だ言い争っている池と篠原を指で差した。

平田に意見を求められたときと同様、柚椰も仲裁に入るものだと思っていたようだ。

 

「んー、いいんじゃない?好きに騒がせておきなよ。

 なんかまだルール説明が終わってないみたいだしさ」

 

「お前って、たまに酷いよな」

 

あっさり放置の意を述べた柚椰に綾小路は苦笑いした。

しかしすぐに表情を引き締めると、真剣な声色で柚椰に話しかける。

 

「黛、あとで少し時間取れないか」

 

「ん、いいけどどうしたの?」

 

「話したいことがある。()()()()だ」

 

ここでは詳しく話すつもりはないのか、とにかく重要であるということしか言わなかった。

 

「いいよ。じゃあ後でね」

 

「あぁ、頼む」

 

「あっ。綾小路くんと黛くんじゃない。久しぶり〜」

 

星之宮先生はどうやら茶柱先生から今度は二人にターゲットを変えたようだ。

彼女はホワホワした雰囲気で男子二人に近づいていく。

 

「夏は恋の季節。

 二人とも、好きな子に告白するならこういう綺麗な海の前とか効果的かもよ〜?」

 

「海は綺麗でも、クラスにそんな余裕はないんで」

 

「でも案外カップル誕生するかも?ほら、池がキメるとか言ってたし」

 

軽く受け流す綾小路と、何故か乗ってくる柚椰。

美人教師に絡まれていることで、周りの視線も自然と二人に集まってきた。

 

「じゃあじゃあ、二人もこのチャンスをモノにしなきゃ──」

 

「おい。いつまでここにいるつもりだ。いい加減戻れ」

 

遮るように現れた茶柱先生が星之宮先生の着ているジャージの首元を掴んだ。

イタズラした猫を掴むようなその行為に一部の男子が吹き出す。

 

「う〜、分かったわよぉ。じゃあね〜」

 

悲しげな顔をしながら、星之宮先生は素直に自分のクラスの場所へ帰っていった。

 

「さて、喧しいのがいなくなったので、これより追加ルールについて説明する」

 

星之宮先生がいなくなったことで、茶柱先生が説明を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。
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