ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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彼らは拠点を決め、設備を整える。

 

 

 

「うわ……凄い……!」

 

 森の中を進み、やがて辿り着いた先に広がる景色に佐倉が感嘆の声を上げた。

 人が切り開いたと思われる道を見つけ、進んで行ったその先に。

 山の一部にぽっかりと空いた大きな穴。

 それは洞窟と呼べるものだろう。

 一見すると天然のものに見えたが、内部はしっかりと舗装されているように見えた。

 

「アレってもしかして……スポット、なのかな?」

 

「さて、どうだろうな」

 

 眼前に広がる巨大な洞窟を、佐倉と綾小路は観察していた。

 ちなみに高円寺はいつの間にか見失ってしまった。

 しかし二人の関心は高円寺よりも目の前の洞窟に向けられていた。

 もしこれが本当にスポットに指定された場所ならば、どこかにそれを記す証拠があるはずだ。

 それを確かめるべく洞窟に近づこうとしたところで、穴の奥から一人の男子が出てきた。

 

「佐倉、ちょっと」

 

「え、えぇっ!?」

 

 綾小路は即座に佐倉の腕を引き、物陰へ引き込み身を潜めた。

 突然のことで目を白黒させている佐倉を他所に、綾小路は洞窟から出てきた男の様子を伺う。

 男は入り口の前で立ち止まると、そこから動かずどこかを向いて静かに佇んだ。

 その状態から1,2分ほど男はそのままだった。

 自由行動になってからまだ1時間ほどだ。

 時間を考えると、男は迷うことなくこの場所に来たと推測できる。

 そして何より問題だったのは、男が手に()()()()()()()()()を握っていたことだ。

 男を観察していると、内部から男に向けられた声が聞こえてきた。

 その声を聞き、物陰に隠れている二人は再び息を殺し身を潜める。

 

「この大きさの洞窟があればテントは2つで十分ですね葛城さん。それにしても運が良かったです。こんなに早くスポットを抑えられるなんて」

 

「運? お前は今まで何を見ていた。ここに洞窟があることは上陸前から目星が付いていたぞ。見つかるのは必然だったということだ。それと言動には気をつけろ。どこで誰が聞き耳を立てているか分からないんだ。俺には()()()()()()()の監督責任がある。些細なミスもしないように心掛けろ」

 

「す、すみません。でも上陸前から、ってどういう意味ですか……?」

 

「船は桟橋につける前、何故か遠回りをするように島の外周を一周した。アレは生徒たちにヒントを与えるための学校側の行動だったんだろう。船のデッキから森を切り開いた道が見えていたからな。あとは上陸した桟橋から道への最短ルートを進むだけでいい」

 

 どうやら葛城と呼ばれている男は存外優秀なようだ、と綾小路は警戒を強めた。

 

「で、でもただの観光というか、景色を楽しむ配慮だった可能性はないんですか?」

 

「観光で回るにしては旋回が速すぎた。それにアナウンスの内容も妙だったからな」

 

「俺にはその、全然感じられなかったですけど……葛城さんは学校の意図を見抜いていた。それでここに洞窟があることが分かったんですね……流石です!」

 

「次に行くぞ、弥彦。スポットを抑えられた以上長居は無用だ。あと2ヶ所ほど船から見えた道があった。その先も施設等、何かがあるはずだ」

 

「は、はいっ! でもこれで結果を残せば『坂柳』も黙るしかありませんね!」

 

「内側ばかりに目を向けていると足を掬われるぞ」

 

「そうは言いますけど、警戒するとしたらBクラスくらいですよ? 特にDクラスなんて不良品の集まりじゃないですか。ポイント差を考えても無視でいいかと」

 

 船の上での一幕同様、AクラスはDクラスなど眼中にないらしい。

 脅威以前に相手にすらされていないのが現状のようだ。

 そうこうしている内に男2人は会話を終え、別のスポットを目指して歩き出した。

 彼らの足音が聞こえなくなるまで、隠れている2人はじっと息を殺していた。

 

「行ったか……」

 

 2分ほど経過した後、綾小路は顔を覗かせて確認した。

 男たちの姿はなく、周囲に人の気配もない。

 それを確認し一息ついたところで、彼は手に掛かる温もりの比重が重くなったことに気づいた。

 彼は同行していた少女を慌てて抱き寄せてからそのままの状態だったことに今更ながら気づく。

 

「悪い佐倉……佐倉?」

 

「きゅうっ……!?」

 

 綾小路が視線を移すと、そこには何故か半分意識を失って弱り切った佐倉が居た。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 思わずそう尋ねる綾小路。

 

「だだだ、だい、だいじょうぶ、ぶぶ……」

 

 体から湯気が立ち上りそうなほど顔を真っ赤にし、へなへなとその場に座り込む佐倉。

 明らかに大丈夫ではなかった。

 

「はふ、はふ、はふっ……し、死ぬかと思った……心臓が止まるかとっ」

 

「流石に大げさだろう」

 

 佐倉はズレたメガネを直しながら大きく深呼吸をして息を整える。

 

「さっきの二人組。話の内容からしてAクラスみたいだったな」

 

 綾小路の関心は先ほどまでいた二人の男に向けられていた。

 気にかかるとすれば、彼らがこの場を放棄して離れていった点だろうか。

 誰か見張り役を残すわけでもなくその場を離れた彼ら。

 スポットを横取りされる可能性も考えられたはずだ。

 にも関わらず、彼らがこの場所を離れたということは……

 

「やっぱりな」

 

 洞窟の中へ入ったことで、綾小路はその理由を理解した。

 洞窟の壁に埋め込むようにして設置されているモニター付きの端末装置。

 その画面にはAクラスの文字があり、7時間55分と表示されていた。

 つまりこれによってスポットをどのクラスが占有しているかを証明するのだ。

 このカウントが0になるまで、他クラスは一切手を出すことが許されない。

 無断でこの場所を使うことも不可能。

 だから安心して彼らはこの場所を離れたのだ。

 そして試験中、このスポットを占有し続ければ最大21ポイントが手に入る。

 不参加一名によるマイナス30ポイントを十分に補えるプラスポイントだ。

 

「アイツら、他のスポットにも目星がついてたみたいだったな」

 

「そ、そうだね。船から見て分かったって……」

 

 どうやら佐倉も混乱はしていながらも彼らの会話は耳に入っていたようだ。

 

「島に上陸する前からヒントは与えられていた。あの葛城という男はそれにいち早く気づいたってことだろ」

 

「ね、ねぇ綾小路君。じゃあその葛城、君? って人がリーダー、なのかな?」

 

 佐倉は彼らの会話からそう推測していた。

 彼女の言う通り、葛城がリーダーであるという可能性は高い。

 しかし、綾小路は腑に落ちない点があった。

 洞窟を確実に抑えるためとはいえ、Aクラスは占有権を得るためにキーカードを通した。

 そしてその現場を自分たちに見られた。

 それは自分がリーダーであることを明確に知られてしまったことになる。

 勿論、他クラスの誰かに見られているとは思わなかったのだろうが、明らかに不用心だった。

 

「(周囲を警戒する素振りを見せながら堂々とカードを持ち、会話の中で自分がリーダーと言った。用心深い奴が取る行動にしては()()()()じゃないか……?)」

 

 念のため洞窟を奥まで調べて見たが、やはり誰か人が隠れている様子はない。

 

「どど、どうしよう。すごい秘密知っちゃったね……!」

 

 極めて重要な情報を耳にしてしまい、佐倉は興奮気味だ。

 

「後で俺の方から平田に報告しておくよ」

 

 口下手な佐倉が自分から報告することは難しいだろうと思い、綾小路はそう申し出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は3時を回った。

 約束通り、探索組は一旦帰還して荷物番組と合流した。

 各々の成果を報告し合っている中、池が興奮気味にクラスに報告した。

 

「川があったんだよ! すげぇ綺麗な川! そんで近くになんか変な装置もあってさ! 多分アレがスポットだと思うんだよ!」

 

 どうやら池の班は大きな成果を持って帰ってきたらしい。

 他クラスに奪われないよう、班員の一人が川に残って待機しているらしい。

 

「それは大手柄だね。水源が確保できるのは大きいよ。じゃあ早速全員で川に向かおうか」

 

 平田の号令の下、一同は早速池が見つけたという川へと向かった。

 集合場所から歩いて20分ほどしたところに静かに流れる川があった。

 幅は10メートルほどある立派なもので、周囲は深い森と砂利道に囲まれている。

 明らかに人の手が加えられているもので、学校側が整備したものだと分かる。

 その証拠に不自然な大岩が一つあり、そこに端末装置が埋め込まれていた。

 

「どうだよこれ! すげぇだろ!」

 

 池が川を指差し、得意げに鼻を鳴らす。

 

「うん、綺麗な水に日光を遮る日陰。均された地面。ベースキャンプにするのに理想的だね」

 

「大手柄も大手柄だ。今の所、池がぶっちぎりのMVPだよ」

 

「へへっ! だろぉ~?」

 

 平田と柚椰からお墨付きを貰い、一層ドヤ顔をする池。

 周囲に他クラスの生徒がいる様子はなく、川辺の森にはスポットであることを示す立て看板が刺さっていた。

 ここを占有すれば、他クラスがこの川を利用することは出来ないようになっている。

 

「ここをベースキャンプにするのは確定として、問題は占有するかどうかだね」

 

「え、しないなんて選択肢があるのか?」

 

 平田の発言に池が反応する。

 その問いに答えたのは柚椰だった。

 

「占有は端末にキーカードを通せばそれで完了だ。だけど8時間でリセットされる上、更新をするならもう一回カードを通さないといけない。問題はこの操作をしているところを見られる危険があるんだ」

 

「黛君の言う通りだよ。端末にキーカードを通せるのはリーダーだけ。ここは森で囲まれているから、どこで誰が目を光らせているか分からないよ」

 

 平田の言う通り、この場所は全方位を森で囲まれている。

 身を隠す上でこれ以上ないほど良い条件だ。

 物陰から監視されていても気づくのは難しいだろう。

 

「じゃあ囲むようにしてやればいいんじゃねぇか? それなら外からなら誰がリーダーか分からねぇだろ?」

 

 その提案をしたのは意外にも須藤だった。

 彼の提案は、リーダーと装置を囲むように他の生徒が立つことで、外からの視界を遮るというものだ。

 この方法ならリーダーがバレるのを防げる。

 クラス一同、ここを占有する方針で意見が纏まり、占有時は須藤の案を用いることに決まった。

 

「じゃあ後は、誰をリーダーをするかだね。肝心なのはそこだ」

 

 この試験はスポットを占有するか否かより、リーダーを誰に据えるかが大きな鍵となる。

 ここでのミスは命取りになりかねない。

 その所為もあってか、誰もがその重役を避けたいと思っている中、

 櫛田が皆に集まるように言い、円を作らせると小声で話し出した。

 

「色々考えてみたんだけど、平田君や軽井沢さんは嫌でも目立っちゃうでしょ? でも、リーダーを任せるなら責任感のある人がやったほうがいいよね。その両方を満たしているのは堀北さんだと思ったんだけど、どうかな?」

 

 推されている本人である堀北は、特に表情を変えることはない。

 誰がリーダーに相応しいか冷静に見極めているように見える。

 数秒ほど思案した後、考えが纏まったのか彼女は判断を下した。

 

「分かったわ。私が──」

 

「いや、リーダーは俺がやるよ」

 

 堀北の返答を遮るようにそう言ったのは柚椰だった。

 いきなりの申し出に彼女だけでなく、クラス中の視線が集中した。

 

「いいのかい?」

 

「リーダーと言ってもやることはそう変わらない。専任の仕事は占有の更新くらいだからね。要は他のクラスにバレないように立ち回ればいいだけだ」

 

 平田に対し、柚椰はニコリと笑いながらそう言った。

 しかしいきなり割って入ってきたことに堀北がいい顔をするわけもない。

 

「ちょっと柚椰君、リーダーは私が──」

 

「鈴音は具合が悪いだろう? 可能な限り安静にしていたほうがいい」

 

 柚椰が堀北をリーダーに据えることに待ったをかけた理由は言わずもがな。

 彼女の体調不良だ。

 

「別に大したことじゃないわ。薬だって飲んでいるのだし心配には及ばないわよ」

 

「君のことだから変に気負って頑張りすぎてしまうのが目に見えるよ。いいからここは俺に任せて」

 

 大丈夫だと主張する堀北に対し、安静にしているべきだと主張する柚椰。

 お互い譲らない中、周りの生徒たちはどちらに付くかと言われれば後者だった。

 

「堀北さん体調が悪いのかい?」

 

 寝耳に水だったことで平田は驚いていた。

 他の生徒も堀北がそんな素振りを見せていなかったためか同じような反応だった。

 

「船に居たときから寒気があるらしいんだ。一応薬は処方されているみたいだけど、用心に越したことはない。だから余計な仕事はしないで、身体を休めたほうがいい」

 

 堀北の代わりに柚椰が掻い摘んで事情を説明する。

 それによって周りには堀北を心配するような雰囲気が立ち込め始めた。

 

「だから大丈夫だって──」

 

「鈴音、俺は君がリーダーに相応しくないから申し出ているわけじゃない。君にもしものことがあってほしくないから、君を心配しているからだよ」

 

「……柚椰君は心配しすぎよ」

 

「そうかもしれないね。でも、親友を心配するのは当然じゃないかな?」

 

「──っ! 柚椰君はズルいわ」

 

 柚椰の言葉が決め手となったのか、堀北はプイッと目を逸らしてそう呟いた。

 その頬は紅潮しており、柚椰の言葉が何かしら響いたのは確かのようだ。

 

「分かったわ。リーダーは柚椰君に任せる」

 

「うん、じゃあそれでいいね」

 

 堀北の了承を聞いた柚椰は平田に自分がリーダーを務めることを改めて報告した。

 その言葉を聞き、平田はすぐに茶柱先生のもとに行き柚椰の名前を伝える。

 程なくしてカードを受け取って戻ってくると柚椰にそれを渡した。

 勿論誰かに見られている可能性を考慮し、全員がそれとない動作で装置に触れて誰かわからないようにカモフラージュした。

 

 

「ねぇ黛君」

 

「なんだい?」

 

 スポットを占有し終えた矢先、櫛田が柚椰にズイズイと近づいた。

 心なしか彼女の圧は鬼気迫るようなものに見える。

 

「さっき堀北さんのこと名前で呼んでたよね? それに堀北さんも黛君のこと名前で呼んでたし」

 

 同じことを気になっていたのか、他の生徒たちも一斉に柚椰と堀北に群がっていく。

 

「そうだよ! なんかお互い名前で呼びあってたし!」

 

「黛テメェ! 抜け駆けは許さねぇぞ!」

 

 柚椰には主に男子からの怨嗟の声が、堀北には主に女子からの揶揄いが集中した。

 

「この前二人で遊んだ時に鈴音から名前で呼び合おうって言われてね」

 

「私たちは親友よ? 名前で呼び合うのは当然じゃないかしら」

 

 二人は各々事情を説明した。

 堀北はなぜか胸を張って得意気である。

 

「むぅ〜!!」

 

 しかしそんな説明で納得しない者がここに一人いる。

 そう、櫛田である。

 彼女はまるで大福のように頬を膨らませて、心底不満そうだ。

 

「じゃあ私も柚椰君って呼ぶから! 私のことも桔梗って呼んで!」

 

 堀北への対抗心か、彼女はそんな提案をする。

 

「櫛田さん、無理強いは良くないわよ。私と柚椰君は親友だけれど、貴女は彼の友達じゃないかしら?」

 

「堀北さんは黙っててよ! 私と柚椰君の問題なんだから!」

 

 何故か名前呼びに拘り、一歩も譲らない二人。

 

「黛〜! 俺は勇気を出してようやく桔梗ちゃんと呼ぶ権利を獲得したのに貴様ァ〜!」

 

 船の上で櫛田に名前で呼ぶことを了承してもらった池は嫉妬で目が血走っている。

 

「黛、堀北のこと名前で呼ぶなら俺のことも名前で呼んでくれよ」

 

 須藤は櫛田同様、何故か堀北に対抗心を燃やしていた。

 

「まぁまぁ、とりあえず一旦この話は終わりにして今後のことを話そうよ」

 

 収拾がつかないと判断した平田がそう提案する。

 

「そうだね。じゃあ健も桔梗もそれでいいかな?」

 

「お、おう!」

 

「──! うんっ」

 

 柚椰が名前で呼んでくれたことに須藤と櫛田は目を輝かせた。

 ひとまず彼らの熱は収まったと言っていいだろう。

 

「さっき待機している間にマニュアルから必要だと思うものを一通り選んでおいたんだ。それの確認と、まだ足りなかったら追加で候補に入れようと思う」

 

「そうだね。じゃあ選んだものを教えてくれるかな?」

 

 平田と柚椰を中心に、全員が集まってマニュアルを見る。

 

「まず追加のテント。1つが8人用だから最低でも追加で3つ必要だね。本当はテントの定員は当てにしたらいけないんだけどここは妥協しよう」

 

「そうだね、流石にあぶれた人を野宿させるのは良くないからね」

 

「次に調理器具一式、あと調味料。これは必須だ。あと簡易浄水器。これは今確保した川の水がそのまま飲める飲めないに関わらず必要だと思うんだ」

 

「確かにそうだね。見た限りだと綺麗だけど、万が一ってこともあるしね」

 

 柚椰がピックアップしていくものに平田は概ね肯定的だった。

 同じく男子たちも反対する余地はないためコクコクと頷いている。

 

「食料とミネラルウォーターはもしもの時に買えばいいからひとまず保留。そして食料確保のために釣竿4本。この1週間は魚メインになりそうだね」

 

「さ、流石にこの森にイノシシとかクマとかはいねぇもんな……いねぇよな?」

 

 周囲を覆う森を見回し、身震いをする池。

 

「そして簡易シャワー。これは男女2つずつで。もし男子が川で水浴びでもいいって言うなら女子に譲ってもいいしね」

 

「トイレならまだしも、シャワーなんてそんなにいるか? 余計な設備じゃね?」

 

 些か無駄な出費ではないかと男子の中から疑問が飛び出す。

 

「水に関しては川の水を使えばいいから問題ないとして、問題は回転率だと思うんだ。トイレと同様に1つのものを全員で回すのは現実的じゃない。だけど男女それぞれ1つずつの場合、これまた回転率が悪い。シャワーを使うのが夕方以降だと考えると、少ないシャワーを全員で回すとなるとどうしてもその後の時間が取られる。点呼の時間にシャワーを浴びていて遅れましたなんて笑い話にもならないだろう?」

 

「まぁ、確かにな。中学のときの修学旅行でも、風呂入ってて晩飯食いそびれた奴いたし」

 

 須藤は中学時代、そんな間抜けなことをして先生に怒られていた同級生のことを思い出した。

 他の生徒も中学時代に同じようなクラスメイトがいたのか、苦笑いをしていた。

 

「現実的に考えた最低ラインが、トイレとシャワーは男女それぞれ2つずつ。この辺りだと思う」

 

「僕も賛成かな。後のことを考えると、ここで出費を惜しむべきじゃないと思う」

 

 平田も柚椰の意見には賛成の様子だ。

 

「今言ったのを全部纏めると、大体110ポイント。これで最低限の環境が整う」

 

「いきなり100ポイント以上の消費は痛いけど……全員で生き残るためだもんな!」

 

 総額に一瞬苦い顔をした池だったが、背に腹はかえられぬと割り切った。

 

「食料が確保できれば消費は抑えられるし、スポットも賢く占有していけばプラスになる。スタートラインとしては良いんじゃないかな」

 

 平田が肯定的な姿勢を取ったことで、女子たちも賛成の雰囲気に包まれた。

 ちなみに池同様、当初は節約志向だった幸村も今は文句を言うこともなかった。

 

「よし、じゃあ今決めた物資を茶柱先生に言ってポイントで買うってことでいいかな?」

 

「「「「さんせーい!」」」」

 

 女子たちは平田の決定に賛成した。

 男子も皆納得しているようで反対意見はない。

 

 

 

 

 

 数分後、茶柱先生が業者を伴って設備の設置、並びに物資の供給に来た。

 業者が仮設トイレと簡易シャワーを設置している間、生徒たちは届いた物資を確認する。

 まず最初に浄水器と鍋を取り出すと、柚椰が全員を見回した。

 

「とりあえず物資が来たし、川の水が飲めるかどうか試してみようか。まず生で飲めるか。もし無理そうなら浄水器を使うか、鍋で煮沸してみよう」

 

「おー、なんか理科の実験みてぇだな」

 

 須藤は中学の時の理科の授業を思い出したのか、少し楽しそうだ。

 勉強嫌いだった彼でも理科の実験は楽しかったようだ。

 一同は再び川のすぐ近くまで移動した。

 

「この中で川の水を飲むことに抵抗無いって人はいるかな?」

 

 平田が全員に促したが、女子は概ね拒否感ありありといった様子で手を上げない。

 男子もアウトドアの経験がないのか、いまひとつ踏み切れない様子だ。

 

「俺小さい頃よく親に連れられてキャンプしてたから平気だぜ? 見た感じ綺麗だし、一口飲むくらいならやるけど」

 

 池がそう言って挙手をする。

 普段はお調子者な彼だが、まさかこういった場面で頼れることになるとは。

 僅かだが女子の池に対する見る目が変わった。

 

「ありがとう。じゃあまず池君が味見をして、大丈夫だったら備蓄の水として蓄えよう。もしそのままで無理そうなら飲めるように浄水するか沸騰させてみようか」

 

「オッケー! じゃあ早速……」

 

 池は川にゆっくり近づき、手で川の水を掬うと口へと運んだ。

 全員が固唾を呑む中、池が水の状態を確認し終えると全員に向き直った。

 

「うん、普通に飲める。多分学校が川の状態も管理してんじゃねぇの?」

 

「そうか。ありがとう池君」

 

 池の勇気ある行動に感謝しながら、平田は全員を見回した。

 

「じゃあ備蓄の水とシャワーの水はこの川の水を使おう。勿論、そのままが嫌って人もいるから飲み水用で浄水器を通した水と沸騰させて殺菌した水も用意しておこうか」

 

「とりあえずここで水を汲んで、テントの近くで浄水なり煮沸なりさせたほうがいいね。男子何人か、水を汲むのを手伝ってほしい」

 

 柚椰がそう促すと、須藤を始め力に自信のある男子たちが何人か名乗り出た。

 彼らがバケツやポリタンクに水を汲み終えると、一同はテントを設置した場所まで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。
リーダーは黛君に決定しました。

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