ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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王は宴に招待し、彼は地中を掘り起こす。

 

 

 

 特別試験二日目の朝。

 蒸し暑さに寝返りを打とうとしたところで、それが出来ずに綾小路は目を覚ました。

 彼が寝ていたのはテントの中。

 クラス全員が寝れるだけのテントを購入しているため、Dクラスは皆テントの中で夜を明かすことができた。

 しかし、あくまでテントの定員とクラスメイトの数に鑑みての最低数しか購入していないため、テント内は少々窮屈だった。

 寝返りを打とうとすれば隣の奴と当たる。背中には隣で寝ている奴の体が触れ、体温を感じる。

 ただでさえ暑い真夏日に、他人の肌から感じる体温は不快指数を上げていた。

 綾小路は同じテントで寝ている他のクラスメイトを起こさないようにゆっくりとテントから出る。

 

「ふぅ……」

 

 窮屈なテントから出てほっと息を吐く綾小路。

 彼はそのままテントの前に山のように積まれている荷物に近づいていく。

 Dクラスは男女それぞれ、テントの前に全ての荷物である鞄を纏めて置いている。

 テントの中を可能な限り広く使うために荷物は外に置くことになっていた。

 辺りを見渡し誰も居ないことを確認すると、彼は一つだけ色の違う荷物を見つけて近づいていく。

 彼が目をつけたのは、昨日このクラスにやって来た伊吹のカバンだ。

 鞄は各クラスごとに色が異なるためすぐに見分けがつく。

 迷わずそれに手を伸ばし鞄を掴むとゆっくりとチャックを開けた。

 もしこの現場を押さえられれば言い逃れは出来ないな、と内心不安に思いながらも中を物色する。

 中にはタオルや替えの服、下着など基本的に皆と同じものが入っている。しかし──

 

「これは……」

 

 伊吹の鞄の中から出て来たのはデジタルカメラ。

 底面には貸出用のシールが貼られている。

 おそらくポイントで購入したのだろう。

 綾小路はデジカメの電源を入れて中身をチェックする。

 デジカメが使用された痕跡はなく、データは何も入っていなかった。

 一通り物色を終えた後、荷物を戻してテントへ戻ろうとした。

 

「おはよう綾小路君。トイレかい?」

 

 寝ていた平田がいつの間にか目を覚ましていたらしく、テントから出てきていた。

 

「あぁ。悪い、もしかして起こしたか?」

 

「ううん、ちょっと蒸し暑くて起きちゃっただけだよ。それにしても……8人用を8人で使うとやっぱり狭いね」

 

「まぁな。柚椰の言っていた通り、テントの定員は当てにならないな」

 

「そうだね。って柚椰?」

 

 平田は綾小路が柚椰を名前で呼んでいることに気づいた。

 

「あぁ。昨日アイツと少し話すことがあってな。その流れで名前で呼び合うことになった」

 

「そうなんだ。なんかいいよね、友達と名前で呼び合うってさ」

 

「平田も言ってみたらどうだ? 柚椰なら多分すぐにOKしてくれると思うぞ」

 

「じゃあ後で僕も話してみようかな」

 

 微笑みながら話していた平田だが、やがてその顔つきは真剣なものへと変わった。

 

「僕たちが昨日までに使ったポイントは110ポイント。高円寺君がリタイアしてしまったから、それも含めると140ポイント消費したことになる。残りは160ポイント。今日入れて試験はあと6日。ポイントがどれだけ残せるかとか、何事もないといいなとか色々考えちゃうな」

 

 彼はテントの近くに腰を下ろし、マニュアルを取り出して状況を確認していた。

 

「大変だな。クラスのまとめ役も」

 

 綾小路は平田の心労を慮りながら彼が開いているマニュアルを覗き込む。

 見辛くならないように平田がマニュアルの位置を調整する。

 

「ううん、好きでやってるだけだから。それに、黛君も協力してくれてるからね。僕はクラスの皆が幸せでいてくれればそれで満足なんだ。でも、試験が始まる前のときもそうだったけど中々難しくて。僕一人の力じゃ今のこの形にはなってなかったと思うんだ」

 

「あぁ、トイレのゴタゴタのことか」

 

「うん。あのとき黛君が上手く皆を誘導してくれなかったら、僕はあの問題を先延ばしにしてたと思う。でも先延ばしにすればするほど、池君と篠原さんを中心にクラスが分かれてしまっていたと思うんだ」

 

「Aクラスを目指したい生徒とDクラスのままでかまわない生徒で意見は分かれるからな。平田はどっちなんだ?」

 

「難しい問題だね……上のクラスを目指すって気持ちは大切だし否定するつもりはないよ。でも、そのために誰かが我慢をしたり、無理をするのは間違ってると思う。だから……ごめん、すぐに答えは出ない、かな」

 

 綾小路の問いに少し謝りながら平田は薄く笑う。

 

「綾小路君はAクラスを目指したい人? それとも学校生活が楽しければいい人?」

 

「どちらかと言えば、学校生活優先だな。Aクラスに上がれるとは現実的に考えてない」

 

「そっか。僕も簡単なことじゃないってことは感じてるよ。僕たちのクラスは纏まってきているけど、最初の1ヶ月の失敗がやっぱり大きいからね」

 

 平田の言うことは尤もだった。

 上位クラスであるAクラスは今尚その地位を確たるものとしている。

 であるが故に努力しても差は簡単には縮まらない。

 1000ポイント近くの差を埋めるのは、本当に大変なことだった。

 一つ上のCクラスに追いつき追い越すことすら困難だというのが現状だ。

 

「焦る必要はないと思う。今はまず、Dクラスが一丸となってこの試験を乗り切ること。そうすれば、ゆっくりと次の目標が見えてくると思うんだ」

 

 そこまで言うと、平田はマニュアルを閉じて立ち上がった。

 

「良かったら一緒に顔を洗いに行かない?」

 

「あぁ。分かった」

 

 二人は近くの川へ顔を洗いに行くことにした。

 ビニールに包んだ自分の荷物からタオルを取り出して準備をする。

 平田はついでにマニュアルを鞄にしまっているようで時間がかかっていた。

 彼からチャラチャラとプラスチックが擦れる音がする。

 よく見ると彼の鞄にはアクセサリーが付けられていた。

 

「それ、軽井沢からのプレゼントとかか?」

 

「え、うん、そうだよ。よく分かったね。って、なんとなく分かるかな」

 

 ハートマークの入ったアクセサリーを見れば流石に想像は容易いだろう。

 

「へぇ、平田は愛されているんだね」

 

 平田でもなく綾小路でもない声がいきなり響いた。

 

「うわっ!? っと、黛君か」

 

「やぁ、おはよう」

 

 いきなり聞こえた第三者の声に平田はビクリとしながら振り向く。

 その声の主が柚椰であると分かるとすぐにホッとしたように息を吐く。

 綾小路もいきなり現れた柚椰にキョトンとしていた。

 

「柚椰も起きていたのか」

 

「うん、思いの外早く目が覚めてね。少しこの辺りを散歩していたんだ」

 

 どうやら柚椰は綾小路よりも早く起きて辺りを歩き回っていたようだ。

 

「黛君も顔洗いに行かない?」

 

「あぁ、顔を洗いに行くところだったんだね。じゃあ一緒に行くよ」

 

 柚椰はさっさと自分の鞄を掴んで中からタオルを取り出した。

 それから三人で川へと向かうと、そこに思いがけない人物がいた。

 

「こんなところで何やってるんだ」

 

 Bクラスの生徒、神崎がDクラスのベースの様子を伺うようにこちらを見ていた。

 少し遠くにも男子生徒が立っており様子を伺っていたが、おそらく彼と同じくBクラスの生徒だろう。

 

「1日経ってどうしたかと思ってな。少し様子を見に来てみた。良い場所を抑えたな」

 

 綾小路に尋ねられた神崎はそう言ってベースキャンプを見た。

 素直に感心しているらしく、特に裏のある発言ではなさそうだ。

 

「確か君は……Bクラスの神崎君、だよね?」

 

 平田は神崎に見覚えがあるようで、しっかりと名前も覚えていた。

 

「驚かせてしまっただろうな。すまない、気を悪くしないでくれ」

 

「大丈夫、気にしてないよ」

 

「そう言ってもらえると助かる。それと……」

 

 神崎は平田と綾小路と一緒にいる柚椰に視線を移した。

 その視線に気づき、柚椰はふわりと微笑む。

 

「やぁ、初めまして。黛柚椰だ。よろしく」

 

「神崎隆二だ。一之瀬がいつも世話になってる」

 

「いやいや、この前はBクラスにお世話になったじゃないか」

 

 直接会うのは初めてであるため、二人はお互いに軽く自己紹介をした。

 

「神崎。Bクラスはどこでキャンプしてるんだ?」

 

 昨日の話し合いでBクラスのベースキャンプに行くことになっていたからか、綾小路がそう尋ねる。

 すると神崎は嫌な顔一つせずに答えた。

 

「ここから道なりに浜辺に戻る途中に折れた大木があるだろう。そこから南西に森に入って進んだ先にBクラスが滞在するキャンプ地がある。大木から入れば迷うこともないだろう。必要なら来ても構わないぞ」

 

「そうか。じゃあ機会があれば」

 

 神崎は最後に微笑むとその場を去っていった。

 彼と一緒にBクラスの男子たちも去っていく。

 

「Bクラスも近くに拠点を構えたみたいだね」

 

「そうみたいだな」

 

 柚椰と綾小路は神崎が齎した情報を聞き、後で訪れてみようと考えていた。

 

「とりあえず顔洗って戻ろうか」

 

 平田がそう締めると三人は川で顔を洗い、ベースキャンプへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の点呼も無事に終わり、Dクラスは自由行動へと移る。

 平田はクラスメイトたちに指示を出し、ポイント節約のために物資調達へ乗り出す。

 勿論全員が全員出払っているのではなく、男女含め数人はベースキャンプに残っていた。

 

「桔梗、少しいいかな?」

 

「え? うん」

 

 柚椰は櫛田に声をかけると森の近くまで呼び寄せた。

 

「なにかな?」

 

「このあとの動きについて指示を出しておこうと思ってね」

 

 その言葉に櫛田はすぐにあることに思い当たる。

 

「……もしかして、伊吹さんのこと?」

 

「おや、どうしてそう思うんだい?」

 

「だって、たまたま近くを通りかかった山内君たちに拾われてここにきたっていうのは怪しいもん。初日で仲間割れしてクラスを追い出されたっていうのもちょっと不可解だし。柚椰君は気づいてるんじゃないの? 伊吹さんがスパイだって」

 

「ふふっ、やはり君は有能だね」

 

 櫛田が既にそこまで感付いていることに柚椰はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「確実な証拠はまだ揃っていないけど、彼女がスパイだということはほぼ間違いないと思っていていいよ」

 

「やっぱり。じゃあ柚椰君が頼みたいことは()()()()()()()かな?」

 

「正解。君にはあたかも自分がDクラスのリーダーであるように振舞ってもらう」

 

 そう言うと柚椰は櫛田の手にキーカードを握らせた。

 

「この後の動きとして、まず君は必ず複数人で行動すること。リーダーは他クラスに知られてはならないから、キーカードを持った君が一人で行動することはご法度だ」

 

「うん、分かった」

 

「本来のリーダーである俺が単独で動き回り、君は必ず集団で行動する。こうすれば俺がリーダーだと疑われる可能性は低くなるからね。彼女はおそらく君のグループにリーダーがいると誤認するはずだ」

 

「じゃあ伊吹さんは私のグループで面倒見た方がいいかな? その方が撹乱させやすいでしょ」

 

「そうだね。彼女をここに一人で置いておくよりは、一緒に行動しておいたほうが油断させやすい」

 

「分かった」

 

「それと、君がキーカードを持つのは朝の点呼から夜の点呼の間。夜の点呼が終わり次第カードは逐一俺に返してもらう。方法は今やったようにこっそり手に握らせるだけでいい」

 

「え、ずっと持ってなくていいの?」

 

「寝込みを襲われないとも限らないからね。夜は俺が持っていたほうがいい」

 

「あ、それもそうだね。でも、そんなに頻繁にカードの受け渡しをしてたら伊吹さんに見られちゃう危険があるんじゃない?」

 

「それでいいのさ」

 

「え?」

 

 櫛田はキョトンとした顔で頭に疑問符を浮かべた。

 

「万が一現場を見られたとして、彼女は俺たちがリーダーを撹乱させるためにカードを渡しているという情報しか手に入らない。俺か桔梗、あるいは俺たちと親しい誰か。本当のリーダーが誰かなんてことは分からないんだ。リーダー当てを失敗すればマイナス50ポイントのペナルティ。これは生徒一人がリタイアするよりも重いマイナスだ。だから彼女はただキーカードを受け渡す現場を見ただけでは情報を流すことは出来ない」

 

「あ、そっか。リーダーを知るためにはキーカード自体を見るか占有する瞬間を見ないといけないもんね」

 

「その通り。キーカードを用いた占有はリーダーにしか行えない。日中キーカードを持っている君は占有が出来ない。つまり君と一緒に行動している彼女はスポットを占有する瞬間には絶対に立ち会えないんだ」

 

「残る危険はキーカードを見られるか盗まれるか、だね」

 

「君がキーカードを見られるなんて失態は犯さないと信じているし、夜は俺がキーカードを持っているから盗まれる心配はない。彼女がリーダーを知ることはまずありえないのさ」

 

 柚椰の作戦を一通り聞き終えると、櫛田はキーカードをジャージのポケットにしまった。

 

「柚椰君の作戦は分かったよ。じゃあ、私はこれからリーダーの演技をすればいいんだよね?」

 

「あぁ。演じるのは君の専売特許だろう? 期待しているよ」

 

「演じるのが得意なのは柚椰君もでしょ。もう……」

 

 櫛田はぷぅっと頬を膨らませながらジト目で柚椰を睨む。

 

「この作戦は俺と君の二人だけのものだ。誰にも言ってはいけないよ」

 

「勿論。柚椰君との秘密は守るもん」

 

「じゃあよろしく頼むよ」

 

「うんっ」

 

 そこで会話を打ち切り、二人は別れた。

 ちょうどその時である。

 

「何だよお前ら!」

 

 ベースキャンプに池の怒号が響き渡った。

 待機していたクラスメイトは何事かと声のする方へ視線を向ける。

 そこには二人の男子生徒がニヤニヤしながら立っていた。

 二人に見覚えがあるのか、伊吹は苦い顔を浮かべるとテントの陰に隠れる。

 男子二人の名前は小宮と近藤。つい先月須藤と揉めた相手である。

 

「お前ら朝は何食ったんだ? 草か? それとも虫か? ほら、スナック菓子でも食えよ」

 

 小宮はそう言ってポテチの袋を開けて一枚取り出すと池の足元に放った。

 明らかにおちょくっているとしか思えない行動に池の顔がどんどん強張る。

 周りで事の成り行きを見ていたDクラスの面々も皆不快感を顔に滲ませていた。

 

「龍園さんからの伝言だ。夏休みを満喫したかったら今すぐ浜辺に来いってよ。遠慮せず来た方がいいぜ。この馬鹿みたいな生活が嫌になる夢の時間を共有させてやるってさ」

 

 言いたいことは言い終えたのか、二人はそのまま去っていった。

 

「夢の時間を共有させてやるって、どういう意味だろうね」

 

 去っていく小宮たちの後ろ姿を見ながら平田が綾小路に尋ねた。

 

「さぁ。ただ、様子を見に行ってみてもいいかもな」

 

「そうだね。Cクラスがどういった風に試験に臨んでいるのか、偵察してみる価値はありそうだ」

 

 いつの間にか柚椰も話に加わってきていた。

 

「柚椰、Bクラスを偵察する前にCクラスの方に行ってみないか?」

 

「うーんそうだな……いや、ここは時間を有効に使おう。君は鈴音を誘ってCクラスの偵察に行ってくれないかな。俺は先にもう一つの用を片付けようと思う」

 

 綾小路は柚椰が言わんとしていることを察した。

 

「伊吹を見つけた場所の調査か」

 

「うん、Bクラスの偵察は一緒に行く約束だからね。そちらを先にやっておくよ」

 

「分かった。悪いな」

 

「気にしなくていいよ」

 

「二人は伊吹さんをスパイだと疑っているのかい?」

 

 二人のやりとりから大まかな事情を察したのか平田がそう尋ねる。

 

「あぁ。まだ確証はないけどな。だが、伊吹を見つけた場所にもしかしたら手がかりが残っているかもしれない。そう思ってな」

 

「そっか。このことは皆には内緒にしておいたほうがいいよね」

 

「そうしてもらえると助かる。わざわざ不安材料を投下するメリットはないからな」

 

「確かにそうだね。じゃあ僕もこのことは秘密にしておくよ」

 

 綾小路からの頼みを平田は二つ返事で了承した。

 

「じゃあ俺は一足先に行ってくるよ。何もなかったらそのまま辺りを探索しておくね」

 

 柚椰はそう言うと森の中に入っていってしまった。

 その後、綾小路はテントで休んでいる堀北に声をかけ、Cクラスのベースキャンプへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路と堀北がベースキャンプを出発した頃、柚椰は伊吹を見つけたとされる場所に到着した。

 詳しい場所は事前に綾小路から聞いていたからか、彼はまっすぐこの場所にたどり着くことができた。

 しかし、いくら場所を聞いたからといって広い森の中でそうすんなりと目的地を把握できるものだろうか。

 

「ふむ、ハンカチか」

 

 伊吹が座っていたと思われる場所、そのすぐ側にある木の枝に結び付けられている水色のハンカチ。

 それを解き、手に取って触れればハンカチが女物であることはすぐに分かった。

 恐らく伊吹が自分が居た場所を見失わないように結んでおいたのだろうと柚椰は推測する。

 

「わざわざ目印を付けるということは……と」

 

 この場所にはいくつか気になる箇所が存在する。

 木の根元付近に生えている草はある一定の範囲の部分だけが”寝ている”。

 恐らく人が座った跡だろう。そしてその相手は言わずもがな伊吹だ。

 次に気になるのはそこから少し離れた地面。

 一部分の土だけが濃く、()()()()

 手で触れてみるとその部分だけが柔らかい。

 周りの地面は固く、人の手が長らく加わっていないことが分かる。

 

「(確か清隆は澪ちゃんの爪に土が付いていたと言っていたな)」

 

 考えられる可能性は一つだった。

 柚椰は土の色が変化している部分を手で掘り起こしてみる。

 10センチほど掘ってみると、土の中から口を結んだビニール袋が出てきた。

 袋には何かが入っているらしく、わずかに重い。

 彼は結び目を解き、袋の口を開いた。

 

「へぇ……」

 

 中に入っていたものは無線機だった。

 通信手段を封じられているこの試験において、これを使うためにはポイントで購入するしかない。

 その証拠に無線機の底部には貸出し用のシールが貼られていた。

 

「なるほど。リーダーが分かり次第、無線機で報告する手筈ということか」

 

 伊吹の作戦を把握した柚椰はニヤリと笑みを浮かべる。

 そしてそのまま彼は無線機の電源を入れると、無線機を口へと近づけた。

 

 

 

 

「あー、あー、龍園クン、聞こえるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、柚椰は無線機をビニール袋に戻し、元あったところに埋めてその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。もう2019年も終わりですね。
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