ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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彼らは試験の仕組みを考察する。

 

 

 

「そりゃあ、テメェがAクラスをボロカスに負かした張本人だからに決まってんだろ?」

 

 1回目グループディスカッションの場で、龍園は衝撃の事実を暴露した。

 Dクラスの勝利に柚椰が関わっていることを知っているのは、Dクラスの生徒と龍園、そして伊吹だけだ。

 しかし龍園が言いたいのは単にDクラスが勝った理由ではない。

 Aクラスを負かした、つまり彼らの成績が振るわなかった原因だと言うのだ。

 当然寝耳に水だと言わんばかりに室内がざわつく。

 

「どういうことだ龍園……」

 

 一番驚いているのはやはり葛城だった。

 驚倒を前面に押し出したような表情は、普段の彼らしくない。

 そんな葛城を龍園は鼻で笑う。

 

「ここにいる奴らは全員知っておいて損はねぇぞ。そこのクソ野郎が先の特別試験で何をしてやがったのか。これから3日は嫌でも顔を突き合わせるんだからな」

 

 ニヤニヤと笑う龍園に一同の関心が向く。

 

「何故Aクラスの敗因に黛が関わっていることをお前が知っているんだ。先の試験ではCクラスは早々にリタイアしてたんじゃないのか?」

 

 一同を代表して神崎が問う。

 

「ククッ、分からねぇだろうから順を追って説明してやるよ。まず俺は試験開始直後に葛城とある契約を結んだ」

 

「──っ! 龍園」

 

 内容をバラされたくなかった葛城は思わず止めに入る。

 

「契約には内容を漏らしてはいけない、なんて項目はなかったぜ? なら俺がここで暴露しようが契約違反にはならねぇはずだ」

 

「くっ……!」

 

 ぐうの音も出ない正論に葛城は口を噤む他ない。

 

「俺たちCクラスは300ポイント全てを使って早々に試験を切り上げる方針を取った。

 だが、その内の200ポイントはAクラスが使う物資を代わりに購入するために使ったのさ。これで葛城は自分のクラスに当てがわれたポイントを使わずにまんまと物資を手に入れたってわけだ」

 

「なるほどな……他クラスが購入した物資を提供してもらう形ならポイント消費を抑えられるってことか」

 

 初めて知ったAクラスの作戦に神崎は素直に感心していた。

 

「でも、それだとAクラスにしかメリットが無いよね? メリットが無い契約を君が結ぶとは思えない」

 

「聡いな平田。俺がAクラスに求めたのは毎月のポイント献上だ。物資の提供ともう一つのある条件を満たした場合、Aクラスは毎月プライベートポイントを俺に渡すって契約だ」

 

「そうか、それで君と葛城君は契約を結んだってことなんだね?」

 

 平田を始めとする生徒の視線が葛城に集中した。

 この場にいる彼以外のAクラスの生徒は皆彼の派閥に属する生徒なのか、その内容に驚いてはいない。

 事前に内容は知らされていたのだろう。

 もしこの中に坂柳派が一人でもいればこの場で言い争いに発展していたかもしれない。

 

「それで、もう一つの条件っていうのは何なんだい?」

 

「それはな、BクラスとDクラスのリーダーの情報を提供するって条件だ」

 

「「──!」」

 

 龍園の言葉に神崎率いるBクラス、そして平田と堀北はようやく気づいた。

 特別試験中に両クラス共Cクラスの生徒を一人ずつ保護した。

 後になってその生徒がスパイだということが分かったのだが、それはAクラスとの契約のためだったのだと気づいたのだ。

 

「お前たちのベースキャンプに送り込んだスパイは俺がリーダーを知るためでもあったが、葛城に情報を渡すためでもあったわけだ。結果、俺はリーダーを知るに至ったわけだが……葛城、テメェは何かに気づかねぇか?」

 

「なに?」

 

「俺は試験6日目の夜にテメェに情報を渡した。それで契約は成立し、俺はこれから毎月テメェらAクラスからポイントを貰うことが出来る」

 

「……あぁ、Dクラスの情報を得た以上、契約は果たした。契約内容にはBとDどちらも情報を得た場合とは記載されていなかった」

 

「そうだな。だが……俺はDクラスのリーダーは()()()()()()()()()

 

「──! お前……まさか」

 

 何かに気づいた葛城は龍園を睨む。

 ただならぬ雰囲気に室内の空気がピリついた。

 

「そうだ。俺はBクラスのリーダーの情報を持っていた。だが、テメェには教えなかった。何故だか分かるか?」

 

「……」

 

「正確には教えなかったんじゃねぇ。教えられなかったのさ」

 

「どういうことだ?」

 

「俺はテメェと契約を結んでから情報を提供するまでの間に、別の人間とも契約を結んでいた。本来Aクラスに渡すはずだったBクラスの情報をくれてやる代わりに、Aクラスの情報を提供してもらう契約をな」

 

「なんだと……!?」

 

「──っ、柚椰君、貴方まさか」

 

 困惑する葛城を他所に、いち早く真相に気づいた堀北が柚椰を見る。

 彼女のその反応に口角を上げながら龍園は詳細を明かした。

 

「そう。俺は黛と契約したのさ。どういうわけかコイツはAクラスのリーダーを知ってやがったからな」

 

「……まぁ、葛城との契約をバラしたから俺のことも言われるだろうとは思っていたけど、随分と呆気なくバラすね龍園クン」

 

 暴露されたにも関わらず柚椰はどこか面白そうに笑っていた。

 

「黛はAクラスの情報を持って俺にコンタクトを取りに来た。コイツが提示した取引内容は『Aクラスの情報を提供する代わりにBクラスの情報を提供してもらう』こと。ただし、取引で使った情報は他クラスとの取引に使ってはいけないという条件付きでな」

 

「情報のトレード……しかもその条件は」

 

「あぁ、コイツは俺とテメェが密約を交わしていたことも見抜いてやがった。だからそれを踏まえた上での条件を提示したってわけだ」

 

「……じゃあ、黛君は最終的に全てのクラスのリーダーを知ってたってことかい?」

 

 平田が問うと、皆の視線が柚椰に向いた。

 

「そうだね。俺は最終的に全クラスのリーダーの情報を持っていた。協力関係を結んでいたBクラスの情報もね」

 

「だが解せないな。先の試験でDクラスと俺たちBクラスの点差は僅か22ポイントだった。もし俺たちのリーダーが誰か知っていたなら、もっと点差は開いていたはずだ」

 

 神崎は試験結果を覚えていたためか不審な点に気づいた。

 彼は試験終了時の自分たちのクラスの残りポイントを把握していた。

 それを踏まえても先に明かされたことと点数とが一致しなかったのだ。

 彼のその問いに答えたのは龍園だった。

 

「そりゃあそうだろ。なにせコイツは()()()使()()()()情報をわざわざ取引で貰ったんだからな」

 

「どういうことだ?」

 

「気づかねぇか? 俺と黛が結んだ契約の条件は情報を使った他クラスとの取引の禁止。これで葛城はBクラスの情報を手に入れることが出来なかった。これが何を意味するか」

 

「──! まさか……」

 

「ククッ、Aクラスが情報を得ていればお前らBクラスは2クラスからリーダーを当てられてマイナス100。だがお前らとDクラスは協力関係だったらしいじゃねぇか。その前提と、先の取引の条件での情報の占有性を考えれば結論は自ずと出てくる。要はコイツはテメェらBクラスを守るために、こんな頭のおかしな取引を持ちかけてきやがったのさ」

 

「……本当なのか、黛?」

 

 神崎が問うと、柚椰はコクリと頷いた。

 

「BクラスのベースキャンプでCクラスのスパイを見つけた段階で、俺はAクラスの情報しか持っていなかった。もしAクラスに情報が渡ればBクラスはマイナス100ポイントが確定する。だから俺はまず一之瀬にAクラスのリーダーを教えた。この情報を開示するにあたって、俺は彼女に対価を求めなかった。つまり、一方的に俺が教えただけのことである以上、龍園との契約違反にはならない。その後、龍園との取引が成立すればBクラスの情報は龍園と俺しか知らないことになる。でも俺はBクラスのリーダーを当てにいくつもりは最初からなかった。だから、BクラスはCクラスにリーダーを当てられたマイナス分を、Aクラスのリーダーを当てたプラス分で確実に相殺出来る。5日目に俺が一之瀬にスポットの情報を教えたのは、スパイに確実にBクラスの情報を手に入れてもらうためでもあったんだ。Cクラスがリーダーの情報を掴んだかどうか分からなければ手の打ち用がなかったからね」

 

「それでわざわざ未占領のスポットの情報を教えたのか?」

 

 神崎は5日目にベースキャンプで一之瀬が言った新しいスポットのことを思い出した。

 

「明確な隙を作っておけば、取引のタイミングも掴めるからね。確実にBクラスがプラスマイナスゼロに出来るように場を整える必要があったということさ。まぁ占有によるボーナスポイントは無くなってしまったけど、最悪のケースは回避させることができたんだ」

 

「だが、俺が言うのもおかしな話だが所詮は口約束だろう。書面に起こしたわけでもない協力関係を守る必要があったのか? 全てのクラスを出し抜いて自分のクラスを勝たせることも十分可能だったはずだ」

 

「これまでもBクラスには色々と世話になっていたからね。ここで裏切ったらそれこそ恩を仇で返すことになるだろう? 試験中も物資を提供してもらっていたから、目の前の脅威を叩いて潰すくらいはさせてもらっただけのことさ」

 

「……すまない、恩に着る」

 

 結果としてクラスが救われたのは確かなため、神崎は素直に礼を述べた。

 

「俺は元々葛城にくれてやる情報を渡すだけでAクラスの情報が手に入り、最終的に全てのクラスのリーダーを知ることが出来る。なんのデメリットもねぇ取引だから乗ったってわけだ」

 

「結果、AクラスはB,C,Dクラスからリーダーを当てられてマイナス150ポイント。さらにDクラスのリーダー当てを間違えてマイナス50ポイント。合計でマイナス200のペナルティを喰らってしまったわけだね」

 

 そこで葛城は先ほど龍園が言ったある言葉が引っかかった。

 

「待て龍園、さっきお前はDクラスのリーダーを当てなかったと言ったな? 何故だ」

 

「決まってんだろ。Dクラスのリーダーがコイツだったからだ。考えてもみろよ。俺とテメェの密約を見抜き、自陣に入り込んだ他クラスの人間がスパイだと見抜けるコイツが、みすみすリーダーだとバレるようなヘマをすると思うか? 何か裏があると考えるのが当たり前だろうが」

 

「……では、お前はそれに気づいていながら俺にはその情報を教えなかったというのか」

 

「俺がコイツの罠に気づいたのはテメェにリーダーを教えた後だ。尤も、気づいていてもわざわざ教えてやる義理はねぇだろ? 契約違反さえ犯さなければ俺はポイントが手に入るからな。テメェらAクラスが負けようがどうでもいい」

 

「ふふっ、君らしいね龍園クン」

 

「言ってろ。葛城、これで理解できたか? テメェらAクラスを嵌めたのが一体誰だったのか」

 

「……あぁ、Dクラスで最も警戒すべき相手が誰なのかはよく理解した。だが、その上で今一度宣言させてもらう」

 

 そう言って葛城は険しい表情で柚椰を見た。

 

「黛、お前が油断ならない相手であることは理解した。だが先の試験のように上手くいくとは思わないことだ。結果的にこうしてお前の実力が明かされた以上、俺たちAクラスは勿論他のクラスもお前を警戒することになる。お前の動きを具に監視する者さえ現れるかもしれん。精々気をつけることだ」

 

 宣戦布告と忠告を行う葛城に対して柚椰はカラカラと笑った。

 

「ふふっ、穏健派の君らしいね。ご丁寧に忠告するなんて。でも、俺ばかり警戒していると足を掬われるかもしれないよ? それだけ今回の試験は一筋縄ではいかない。守るも攻めるもね」

 

「ククッ、その口ぶりだとテメェはもうこの試験の算段を立ててるようだな」

 

「さぁ、どうだろうね」

 

 問いに対して意味ありげな返答をする柚椰に龍園はニヤッと口角を上げる。

 

「なら質問を変えるぞ。今回の試験、テメェはどのクラスが有利だと思う?」

 

「「「──!」」」

 

 その質問に周りの関心が一気に引き寄せられた。

 先ほどの話で柚椰が暗躍していたのは白日の下に晒された。

 彼が優秀であること、そして油断ならない人間であることはこの場にいる全員が理解した。

 その上でなされた龍園の質問は全員の関心を引くには十分過ぎた。

 柚椰の見解はこの試験の攻略において役立つかもしれないと誰もが思ったのだ。

 全員の視線が集中する中、柚椰は暫し考えた後に見解を述べた。

 

「今回の試験、まず一番有利なのはCクラス。つまり君だね」

 

「ほう、どうしてそう思う?」

 

 自分が最も有利だと言われたことに気を良くしたのか龍園は心なしか機嫌が良さそうだ。

 逆に神崎や葛城はどうしてCクラスが有利だと言ったのか分からず不可解そうな表情を浮かべている。

 

「この試験で重要なことは当然ながら優待者の存在だ。どのグループにも優待者が1人いる。グループは全部で12。単純に考えればどのクラスも3人の優待者を抱えることになる」

 

「そうだな。学校側が特定のクラスに優待者を偏らせることはしないだろう」

 

 葛城もその点は考えていたようで腕を組んで頷く。

 

「どのクラスも自分のクラスが抱える優待者を把握するのがスタートラインだ。まずこの時点でCクラスが圧倒的に有利になる」

 

「どういうことだ? 何故その時点でCクラスが有利になる?」

 

 神崎はどういうことかと首を傾げている。

 

「それは優待者の持つ選択肢の多さが関わってくるんだ」

 

「選択肢の多さだと?」

 

「まず優待者以外の人間が試験中にやることは何があるかな?」

 

「それは勿論、グループ内にいる優待者を特定することだろう?」

 

「そう。じゃあ優待者は試験中に何が出来る?」

 

「グループ内の全員に優待者であることを明かすか……あるいは最後まで隠すか、だな」

 

「その通り。優待者は全員でプライベートポイントを貰うか、自分だけが貰うかを選べる。まずこの時点で優待者は選択を迫られるんだ。試験終了まで誰にも優待者であることを明かさず、誰にも見抜かれることがなければポイントは自分だけが貰うことが出来る。貰える額が額だからね。黙ってさえいれば一気に自分だけ懐が潤う。それこそ同じクラスの同じグループの人間にさえ黙っている可能性がここで生まれるんだ」

 

「だが、結果2で優待者が貰えるポイントは結果1の半分だぞ。どうせなら全員で結果1を目指したほうがメリットは大きいんじゃないのか?」

 

 Aクラスの一人がそう問いかける。

 しかし柚椰は首を横に振った。

 

「こういう発想で動く人間は、そもそも全員で協力してポイントを貰うなんて考えないんだ。自分だけ、自分一人だけが甘い蜜を啜れればそれでいいと考える。相手がクラスメイトだろうが関係ないんだ。何故ならこの試験は、終わった後も優待者が誰だったかなんて発表されないからね」

 

「なるほどな……つまり同じクラスの中でも優待者だと素直に名乗り出ない可能性があるってことか。だが、それで何故Cクラスが有利だと思うんだ?」

 

「優待者だと一発で分かるものが一つだけあるだろう?」

 

 そこで神崎があることに気づいた。

 

「──! そうか、学校からのメールだな?」

 

「そう。学校からのメールは弄ることも削除することも禁止とされている。つまり携帯の中にそのまま残しておかなければいけないんだ。だから携帯を確認すれば、誰が優待者なのかは簡単に把握することが出来る。勿論こんなことは常識で考えればしてはいけないことだけど……君ならやるだろう? いや、もうやるつもりだったかな?」

 

 柚椰はそう言って龍園を流し目で見ると、彼は不敵に笑った。

 

「ククッ、テメェと俺は考え方が似てるらしいな。まぁ、やり用はいくらでもあるとだけ答えておくぜ」

 

「予想通りの返答をありがとう。と、まぁ本人がこんな感じだから察せられると思うけど、強引にでも確実な情報を集められる点で彼は有利だということだよ」

 

「そうね。携帯を見せることに文句を言うクラスメイトを黙らせるくらいはやってのけるでしょうし」

 

「俺を理解してくれてるようで嬉しいぜ鈴音」

 

「貴方のやり方は悪い意味で有名になっているだけよ」

 

 ニヤニヤしながら見てくる龍園をバッサリ切り捨てる堀北。

 鬱陶しいとでも言うような態度は取りつく島もない。

 

「つまり自分のクラスの優待者を知る上で、確実に情報を集められるCクラスが有利だということか」

 

 一通り話を聞いた葛城は考え込むように腕を組んだ。

 柚椰の見解は概ね納得できるものだったようで、彼もまた何か思うところがあるらしい。

 それは他の面々も同じのようで、神崎は手を顎に当てて考え事をしていた。

 各々が考えを巡らせている中、1時間が経過したことを知らせるアナウンスが船内に響いた。

 

「時間のようだな。では俺たちは先に失礼する」

 

 アナウンスを聞くや否や、Aクラスの面々が揃って退出した。

 後に続くように龍園率いるCクラスも部屋を出て行く。

 

「俺たちも失礼するぞ」

 

 Bクラスも退出するつもりなのか神崎がそう言って席を立った。

 

「うん、じゃあまた夜にね」

 

 席を立った神崎に平田が別れの挨拶をした。

 それに対して微笑んだ神崎だったが、一転して真剣な表情になると視線を柚椰へと移した。

 

「黛、先の特別試験でBクラスを守ってくれたこと、改めて感謝する」

 

「気にしなくていいよ。今回はたまたま上手くいっただけだ。次はどうなるか分からないからね」

 

「フッ……一之瀬がお前を気に入っている理由が分かった気がするよ。じゃあな」

 

 最後にそう言い残して神崎たちは部屋を出て行った。

 室内にはDクラスの3人だけが残った。

 

「私たちも帰りましょう。考えを纏めておく必要があるわ」

 

「そうだね。どのクラスも今回のグループディスカッションの感触を報告し合うだろうから」

 

 先んじて退出した3クラスの雰囲気から、平田はこの後彼らが取る行動を察していた。

 

「平田、清隆から聞いてるかもしれないけど、作戦会議は君たちの部屋でやることになったんだ」

 

「うん、話し合いの前に聞いたよ。僕も幸村くんもそこは大丈夫。高円寺くんは……」

 

 平田は申し訳なさそうな顔をしたが、無理もないと柚椰は微笑んだ。

 

「まぁ高円寺は一人で何かしらやると思うよ。部屋にも寝に帰ってるだけだろう?」

 

「うん、まぁね。日中はほとんど船内の施設で過ごしてる感じかな。たまに他のクラスの女の子と談笑してるのは見るけど、基本は一人で過ごしてるかな」

 

「彼も彼なりにこの試験を乗り切るだろうさ。攻略法はいくらでも思いつくだろうからね」

 

 その意味ありげな口ぶりに堀北が反応する。

 

「もしかして、柚椰君も既に攻略法を見出しているの?」

 

 そう問いかけると柚椰はふわりと微笑んだ。

 

「さぁ。今はまだなんとも言えないな。ただ、6回あるグループディスカッションは、なにも優待者が誰かを探るだけのものじゃないということは確かだね」

 

「どういうことだい?」

 

「それについては部屋で話そうか。平田、今からクラスにメールを回して優待者だったかどうか聞いておいてほしい。桔梗にも同じことを頼んでおく。君は女子に、桔梗は男子に聞いてもらいたい」

 

「分かった。じゃあ早速メールしておくよ」

 

 平田は携帯を取り出すとメールを打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後2時30分。綾小路と平田の部屋に一同が集った。

 当初の面子である綾小路と堀北と柚椰以外にも平田と幸村、それと櫛田もいた。

 櫛田は柚椰が呼んだのだろう。それを証拠に彼女は柚椰の隣に腰を下ろしている。

 

「じゃあ早速始めましょう。夜までにクラスの方針を固めるべきよ」

 

 堀北の号令で話し合いが始まる。

 

「まず他のクラスの情報だ。葛城は今回の試験、グループディスカッションでは沈黙を貫いて裏切り者の発生を防ぐ方針みたいだね。そしてそれは他のグループにいるAクラスの生徒にも徹底させてるようだ」

 

「あぁ。卯グループにいるAクラスの奴らもそんな感じだった。だからAクラス全員に同じ指示が出されてると考えていいと思う」

 

 綾小路は自分のグループにいるAクラスの雰囲気を思い浮かべながら見解を述べた。

 

「私のグループも同じかな。全く会話に参加しない感じっていうか」

 

 櫛田のいる巳グループも同じ状態らしい。

 

「どうやらAクラスは先の試験での失敗をここでなんとしても補うつもりみたいね。でも、そうだとしても攻めを放棄して守りに入るだなんて底が知れるわ」

 

 堀北は葛城作戦が弱気な姿勢に映ったのか鼻で笑っている。

 そしてその発言に柚椰も同意する。

 

「同感だね。彼は他クラスに出し抜かれることを恐れているようだけど、裏切り者の本質に気づいていない」

 

「裏切り者の本質、って?」

 

 意味を分かりかねた櫛田が問う。

 

「そうだ、さっき黛君が言ってたグループディスカッションの目的ってのは結局なんなんだい?」

 

「そうだね、そのことも含めて話そうか。前置きをしておくと、これは俺の個人的な見解だから鵜呑みにはしないでほしい」

 

 そう前置きした後、柚椰は自分の見解を語った。

 

「まずグループディスカッションの目的についてだ。全部で6回あるこれの目的の一つはグループに潜んでいる優待者を見つけること。これは誰もが分かることだね?」

 

「あぁ、顔を突き合わせて会話をする中で優待者を炙り出すってことだろう?」

 

 幸村がそう言うと柚椰は頷く。

 

「そう。でもここに裏切り者の存在を仮定すると別の目的が出てくるんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「まず、この試験で裏切り者と呼べるのはどんな行為をした生徒かな?」

 

「えーっと……試験が終わる前に優待者当てをしちゃう人、だよね?」

 

 柚椰の質問に櫛田が答えた。

 他の面々も同じ答えなのか頷いている。

 

「そうだね。優待者の名前を打ち込んだメールを学校に送る。それが正解不正解に関わらず、その時点で結果3か結果4が確定する。葛城が恐れているのは、これによってクラスポイントが変動することだ。自分のクラスの優待者が当てられてしまえば、一人につきマイナス50ポイントだからね」

 

「無人島でのリーダー当てと同じペナルティだね。各クラスに3人優待者がいると考えると最大で150ポイントもマイナスになってしまう。葛城君はこれ以上クラスポイントを減らされたくないってことだよね」

 

「そう。だから彼はなんとしても自クラスの優待者を守るために奔走するはずだ。でも、だからこそ彼は疑わない。自らのクラスに属する優待者が、絶対に自分たちのクラスに協力することを、ね」

 

「──! なるほど、そういうことね」

 

 柚椰の言いたいことが分かったのか堀北は難しい顔をした。

 綾小路も同じ結論に至ったのか何やら考え込んでいる。

 

「鈴音と清隆は分かったみたいだね。そう、葛城は気づいていないんだ。()()()()()()裏切り者になる可能性をね」

 

「どういうことだ? 優待者には回答権がないはずだろう。それにそれは優待者と同じクラスの人間にもだ」

 

 幸村は意味が分かりかねているようで眉間に皺を寄せている。

 

「簡単なことだよ。つまり優待者自身が他のクラスの人間にこっそり名乗り出るんだ。『自分が優待者だ。早く学校に報告してくれ』とね」

 

「どうしてそんなことをする必要があるんだ? 優待者が当てられた場合、ポイントが貰えるのは正解者だけだろう。それに当てられればクラスポイントがマイナス50。クラスにとってデメリットにしかならないじゃないか」

 

「Aクラスは二人のリーダー格が派閥争いをしていることは知っているだろう? その前提を踏まえれば理由は明白だ」

 

「葛城を失脚させるために、もう一人のリーダー側にいる優待者の生徒が裏切るってことだな?」

 

 綾小路のその発言に幸村は唖然とした。

 自分が従っているリーダーのために自分のクラスの足を引くというのだから当然だろう。

 なまじDクラスには表立った派閥争いがないためか理解できないといった顔だ。

 

「もしかしたら葛城派の中にも、既に彼を見限っている生徒がいるかもしれない。そういった生徒にとって、この試験の仕組みは実に動きやすいものなんだ。裏切ったところで学校は名前を公表しないのだからね」

 

「そういうことか……Aクラスも一枚岩じゃないってことだな」

 

 理解出来ないが可能性としては確かにあり得ることだと幸村は納得したようだ。

 

「だからこそ、今のAクラスは狙いやすいってことだな?」

 

「そういうことだね」

 

 綾小路の問いかけに柚椰はコクリと頷いた。

 

「でも問題は他のクラスよ。今回の試験ではBクラスも自分たちのことで手一杯でしょうし、そもそもこの試験は協力して乗り切れるものじゃないわ」

 

「うん……柚椰君の話を聞くと簡単な人狼ゲームじゃないってことだもんね」

 

 堀北と櫛田は揃って難しい顔をしている。

 普段馬が合わない二人だが、何故か息ぴったりである。

 

「とりあえず、まずは俺たちのクラスにいる優待者が誰か把握することからだね。二人とも、優待者が誰か分かったかい?」

 

「うん、さっきメールで確認したけど、南君が優待者だって。午グループだよ」

 

「僕の方はなんとも……皆自分が名乗り出ることを躊躇してるのかもしれない」

 

 櫛田は一人優待者の情報を得たようだが平田の方は収穫なしといった結果だった。

 

「残る優待者は二人……早く名乗り出てほしいわね。優待者が分からないと守りようがないわ」

 

「そうだね。でも、もしかしたら時間が経てば名乗り出てくれるかもしれない。分かり次第このメンバーで共有しよう」

 

「うん」

 

「分かった」

 

 平田と櫛田は頷き、引き続いて優待者への呼びかけを行うことになった。

 

「だが、問題は他クラスの優待者をどうやって知るかだぞ。さっき黛が言ったことを踏まえても、Aクラスの奴が素直に教えてくれる保証はない。それにBとCにいる優待者を知るのは容易じゃないだろ」

 

 幸村がそう言うと一同は再び考える姿勢を取った。

 するとそこで堀北が挙手をした。

 

「ねぇ、これは私の推測だけどいいかしら?」

 

「うん、聞かせてほしい」

 

 柚椰が促すと彼女は自分の立てた仮説を語り始めた。

 

「朝に私と綾小路君と柚椰君は一緒に優待者かどうかのメールを受け取ったわ。そこで柚椰君は言ったわよね? 優待者はランダムで選ばれているわけじゃないかもしれないって」

 

「うん、言ったね」

 

「もし、もしもよ? 学校側が考えた上で優待者が誰か選んでいるのだとしたら……その選出方法には何かしらの法則性があるんじゃないかしら?」

 

「なるほど。つまりどのグループにも共通した法則がある、ということだね?」

 

「えぇ。もしこれが本当だとして、法則が何か分かればそこから芋蔓式に他のクラスの優待者を知ることも出来ると思う」

 

 その仮説に皆一様に頭を捻った。

 

「堀北さんの推測が当たっていたとしたら、優待者の情報がある程度手に入れば法則性に辿り着けるかもしれないね」

 

 櫛田は堀北の推測を踏まえてこれからの方針を示唆した。

 その発言に綾小路も同意する。

 

「あぁ。その為にもせめて自分たちのクラスにいる優待者くらいは早いうちに知っておく必要があるな」

 

「そのためにも残り二人の優待者には早く名乗り出てほしいわね」

 

 堀北のその呟きに一同は揃って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。
優待者当て編がどれくらい長くなるのか検討がつきません。
一体何話になるのか分からない...
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