ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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思惑が交錯する中、試験は動き出す。

 

 

 

 午後8時30分。2回目のグループディスカッションが始まってから20分が経過した。

 Aクラスは2度目の集まりでも話し合いには一切参加しなかった。

 葛城含め誰も彼もが腕を組んで沈黙を貫いている。

 1クラスが欠けた状態で込み入った話など出来るはずもなく、ただただ時間だけが流れていった。

 

「暇だね……あ、龍園クン」

 

「あ?」

 

「しりとりでもしないかい?」

 

「気狂ってんのかテメェ」

 

 柚椰の提案を龍園は呆れながら辛辣な言葉で拒否する。

 しかしそれですんなり引き下がるはずもなく、柚椰はヘラヘラとした態度で龍園に絡む。

 

「今の状態では、どの道話し合いなんて出来ないだろう? でもこのまま9時までじっとしているのも退屈だ。だからしりとりでもすれば良い暇つぶしになるかと思ってね」

 

「そこでいの一番に俺に声をかけてくる神経が理解できねぇな。自分のクラスの奴と勝手にやってろ」

 

「じゃあ世間話でもしようか。それならいいだろう?」

 

 しつこく絡んでくる柚椰に対して龍園は鬱陶しいとばかりに顔を顰める。

 傍で聞いているCクラスの生徒は彼がキレるのではないかと戦々恐々としている。

 

「Cクラスの優待者は把握できたかい?」

 

「「「──っ!」」」

 

 世間話と言うにしてはあまりにタイムリー。

 あまりに突拍子もなく放たれた話題にそれまで傍観していた他クラスの関心が引き寄せられる。

 皆が皆、柚椰と龍園へ一斉に視線を移した。

 

「聞かれてすんなり『はい分かりました』と言うと思うのかテメェは?」

 

「まぁそれもそうだね。でも昼のときも言ったように、君なら迅速且つ確実な情報を集められそうだと思ってね。優待者が発表されてから既に12時間が経過した。そろそろどのクラスも、自分たちが抱えている優待者が誰なのかくらいは把握している頃合いだろう?」

 

「そう言うテメェはどうなんだ? 人に聞くならテメェも情報を寄越してくれてもいいんじゃねぇか?」

 

 ニヤリと口角を上げながら龍園が尋ねると柚椰は顎に手を当て考える素振りを見せる。

 

「うん、実は正直なところ全員はまだ分かっていないんだ。だから今は、早く素直に名乗り出てくれるのを待っている状態だね」

 

「ほう。良いのか? 自分たちが出遅れていることをバラしちまって」

 

「ここでハッタリを利かせてもいずれバレることだからね。だったら素直に手の内を明かしたほうが、余計な探りを入れられなくて済む。違うかい?」

 

「まぁそうだな。だがテメェのとこの優待者が把握出来てねぇ間に他のクラスの奴らがそいつと接触する可能性があるぜ? 他クラスの優待者の情報は試験を攻略するには喉から手が出るほど欲しいからな」

 

「その様子だと、君も攻略の目星が付いたところかな?」

 

「さぁ? どうだかな」

 

 含みのある笑みを以って龍園は答える。

 その笑みは彼が何か策を隠し持っているのだろうとこの場にいる誰もが理解した。

 対する柚椰も龍園の返答に対して別段驚くでもなく、むしろ面白そうに微笑んでいた。

 そうこうしているうちに気がつけば1時間が経過した。

 今回も時間経過のアナウンスが流れるや否やAクラスはさっさと部屋を出て行った。

 

「時間だな。もうここに用はねぇ」

 

「また明日ね、龍園クン」

 

「馴れ馴れしくすんな」

 

 そう吐き捨てて龍園は取り巻きを引き連れて出て行った。

 室内に残っているのはBクラスとDクラスの面々。

 緊張が緩んだのか平田と神崎が大きく息を吐き出した。

 

「流石に2回目じゃ進展はないよね……」

 

「無理もないだろう。Aクラスは完全沈黙。Cクラスも協力する気は毛頭無さそうだからな」

 

「このまま回数を重ねたところで誰も優待者だと名乗り出ることはなさそうね」

 

 各クラスの状況を考えて堀北は腕を組んで呟く。

 

「鈴音の言う通りかもしれないね。ただ、さっきの会話で彼の方針は大体分かった」

 

「どういうことだ?」

 

 疑問を投げかける神崎に柚椰は詳しく説明した。

 

「彼は自クラスの優待者を把握している。これはほぼ間違いない。でも、彼は優待者を守る気はないんだ。むしろ教えてくれと言ったらあっさり教えてくれるかもしれないということだね」

 

「え、でも優待者を見抜かれたら裏切り者が出る危険があるんじゃないのかい?」

 

「自クラスの優待者全員を見抜かれたところで、失うクラスポイントは150。このマイナスは他クラスの優待者を3人当てることが出来れば相殺できる値だ」

 

「それはそうかもしれないが、そう上手くいくはずもないだろう」

 

「勿論これは机上の空論だよ。でも、今回の試験で得られるボーナスはクラスポイント以外にもある。それを取引材料にすれば、優待者の秘匿性は一気に下がるんだ」

 

 そこで堀北は柚椰の言ったことの意味に気づいた。

 

「──! なるほどね。正解者が得るプライベートポイント。確かに取引によって回答を強制してはいけないってルールは無かったわ」

 

「そうか! 自分のクラスの優待者を教える代わりに正解者からポイントを貰うことも出来るってことだね?」

 

「そう。裏切り者はクラスポイントを稼ぐことが出来る。そしてリークした人間はその対価としてプライベートポイントを手に入れることが出来る。クラスポイントとプライベートポイント。どちらが欲しいかによってやり用は幾らでもあるんだ。グループ内で優待者を抱えているクラスには回答権がない。なら早々に取引で事を済ませてしまえばいいのさ」

 

「黛は龍園がそれを狙ってくると?」

 

「彼は葛城とは真逆のタイプだよ。一見自殺行為に見える行動も、結果的に彼に利を齎す行動になりうる。それは無人島のときで分かっているはずだ」

 

「確かにそうね。彼がBクラスに上がる為のクラスポイントを稼ぐのではなく、プライベートポイントを取りに来る可能性はありえるわ」

 

「やはり目下警戒すべき相手は龍園ということか……」

 

 柚椰の話を聞いた神崎は今一度龍園に対する警戒度を引き上げた。

 彼がこの試験を荒らす危険性が最も高いということがここで改めて証明されたが故に。

 

「とりあえず今日のところはこれで失礼する」

 

 神崎はそう言って席を立ち、他の二人を連れて部屋を出て行った。

 

「僕たちも帰ろうか」

 

「そうね。次の話し合いは明日の昼。それまでにこちらも優待者を把握しておくべきよ」

 

「あと二人。一体誰なんだろうね……」

 

 平田たち3人ももうこの部屋に用はないため、各々自室に戻るべく部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、卯グループもまた話し合いが終わり退出する生徒がちらほらと見受けられた。

 辰グループ同様、Aクラスは話し合いに参加する気はなく時間と同時にさっさと部屋を出て行ってしまった。

 その様子に一之瀬は少し重い溜息をつく。

 

「うーん、これは大変な試験になりそうだねー。綾小路くんはどう? きつくない?」

 

「正直、俺みたいな人間はこんな試験じゃ手も足も出ない。ただ傍観するだけだな」

 

「諦めるのは早いよ。少しでも良い方向に転ぶように一緒に頑張ろ」

 

 状況を好転させるためにも一之瀬は奮起しているように見受けられる。

 

「まぁこのまま単純に話し合いを続けても、誰も素直には優待者とは認めないだろうねー。このまま平行線になるようなら、最悪Aクラスの思惑通りに動くのも手なのかもね」

 

 弱気とも取れる発言とは裏腹に、彼女の目は全く死んでいなかった。

 数多の考えが錯綜しながらも、彼女に臨戦態勢を解いた様子は全く見られない。

 

「とりあえず今日は終わりだね。二人ともお疲れ様」

 

「いえ、僕たちは何もしていませんよ。では引き上げますか」

 

 スイッチをオフにするようにBクラスの3人はリラックスするように肩の力を抜いた。

 それを証拠に3人は落ち着いた表情で部屋を出て行った。

 次いでCクラスの真鍋たちが腰を上げたところで綾小路は彼女たちの背中を追いかけた。

 エレベーター前で追いつくと、綾小路は少し遠慮がちに声をかける。

 

「ちょっといいか?」

 

 話しかけられるとは思っていなかったのか、少し警戒した様子で真鍋が振り向く。

 綾小路は元々用意していた話を彼女に振る。

 

「軽井沢と話してた件あったよな。カフェで突き飛ばしたとか突き飛ばしてないとか」

 

「それがどうかしたの」

 

 本来綾小路には興味など持っていないだろうが、話す内容には興味があるのか3人は彼を試すような視線を向ける。

 

「100%じゃないけど、軽井沢が前に別のクラスの女子と揉めてるのを見たんだよ」

 

「──! それ本当?」

 

 真鍋が距離を詰めるように強張った声で問い返す。

 それにやや萎縮しながら綾小路は小さく頷く。

 

「多分、な。その時の悪い空気っていうか、気まずい感じを覚えてたから。一応伝えておこうと思って。それだけだから」

 

 そう言うと彼はそそくさと元来た道を引き返した。

 彼の目的は一度有耶無耶となった軽井沢とCクラスとの問題を再燃させることだった。

 勿論実際にそんな現場を見たわけもなく、真鍋たちに語った話は全て綾小路の嘘だ。

 しかしそれでも効果はあった。彼はそう確信していた。

 彼はこの火種で真鍋たちが行動を起こしてくれることを期待していた。

 それで軽井沢がどう反論するのか、どう対応するのか。

 綾小路はそれを見たかった。

 思惑通りに事が運べばこれから先、彼にとって大きな利益になることを期待して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後11時。綾小路は自室に戻っていた。

 室内には既にルームメイト全員が戻って来ており、そこには高円寺の姿もある。

 

「おかえり綾小路君。随分遅かったね」

 

「ちょっとな。あぁそうだ、少し平田に聞きたい事があるんだがいいか」

 

「疲れてると思うんだけど、もし良かったら少しだけ話をしない?」

 

 ほぼ同時に、綾小路と平田の言葉が被った。

 

「うん? 僕に聞きたいことって何かな」

 

「いや、先に平田の用件を聞こうか。俺の話は後でもいいから」

 

 幸村からはピリピリとした空気が流れている。

 その様子から試験に関する話だろうと綾小路は察する。

 承諾の頷きをしてから彼はジャージに着替え、二人の傍まで足を運ぶ。

 

「幸村君の方から相談があってね。試験の報告をし合おうってことになったんだよ」

 

「そうなのか。だったら柚椰も呼んだほうがいいんじゃないか?」

 

「僕もそう思ったんだけどね……」

 

「なんでも用事があるらしくてな」

 

 平田と幸村も既に柚椰を呼ぶつもりだったのだが、どうやらここには来られないらしい。

 

「本当は高円寺君にも参加してくれると嬉しいんだけどね、断られてしまったんだ」

 

「すまないね平田ボーイ。私は今肉体美の探求に忙しいのだよ」

 

 上半身裸の高円寺は逆立ちした状態で腕立て伏せを繰り返している。

 大量の汗を噴出しながらも苦しそうな様子はなく、彼がその手のトレーニングを日常的に行なっていることが見て取れる。

 

「一応高円寺君もグループの場には姿を見せているようだよ。禁止事項に試験への不参加はその都度ポイントを差し引くと書いてあるからね」

 

 ルールに違反する行為はしていないと分かり、ひとまずは安心といった空気が広がる。

 

「実は僕のところに新しく優待者になったって連絡を貰ってるんだ」

 

「なんだって? 一体誰なんだ」

 

 急かすように問いかける幸村を抑えるように綾小路が手を挙げた。

 

「ちょっと待て。念のために紙に書くか携帯に打ち込んだ方がいい。どこで誰が聞き耳を立ててるか分からない」

 

「それもそうだね。ちょっと待って」

 

 平田は携帯の画面をつけそこに名前を打ち込んでいくと、二人に画面を向けた。

 

『巳グループ、櫛田さん』

 

 短くそう書かれた文字に二人が目を通したのを確認すると、平田はすぐにその文字を消した。

 

「なるほど」

 

「僕と同じタイミングで黛君にも教えているみたい」

 

「そうか。ならわざわざ連絡する必要はないな」

 

「優待者は各クラス3人。つまりあと1人、正体を隠してる奴がいるってことだな」

 

「うん、幸村君の言う通りだね。僕や櫛田さん以外の人に相談している可能性はあるけど。誰にも話さないで黙っていることも考えられる。人に話せばその分リスクも高くなるからね」

 

 3人が真面目に話をしている中、部屋には高円寺の鼻歌が響き始めた。

 しばらくの間我慢していた幸村だったが、一向に鳴り止む気配がない鼻歌に我慢の限界を迎えたのか椅子から立ち上がる。

 

「高円寺っ、その呑気な鼻歌をやめてくれないか! それに、真面目にしろとは言わないが最後までちゃんと試験は出ろよ。無人島の時みたいなリタイアはごめんだぞ!」

 

「仕方ないだろう? あの時私は体調を崩してしまったのだ。無理はできないさ」

 

「ぐっ……ただの仮病の癖にっ」

 

「しかしあと2日も試験が続くのは、ただ面倒なだけだねぇ」

 

 腕立て伏せを続けていた高円寺は、優雅に足を下ろし立ち上がった。

 そしてベッドに立てかけておいたタオルを首にかける。

 

「面倒なだけだと? 試験を考えようともしない癖に偉そうな」

 

「面白くもない試験を続けても意味がないだろう? 嘘つきを見つける簡単なクイズさ」

 

 携帯を掴んだ高円寺は、指をスライドさせ何かの操作を始めた。

 そして、程なくして操作を終えた直後、高円寺を含めたこの場にいる全員の携帯が一斉に電子音を発した。

 

「おい、何をしたんだ高円寺!?」

 

 嫌な予感をひしひしと感じながら幸村が叫ぶ。

 平田と綾小路は急いで携帯を取り出すと、届いたメールに目を通す。

 

『申グループの試験が終了いたしました。申グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 メールが告げた事。それは試験を終えたグループが発生したという事実だった。

 

 

「この申って、お前のグループだろ高円寺っ!」

 

「その通りだよ。これで私は晴れて自由の身になったわけだね。アデュー」

 

 携帯を放り投げバスルームへと姿を消す高円寺に、3人はただ呆気に取られた。

 

「ふ、ふざけるなよっ。俺たちが必死に考えているのに、またあいつはっ!」

 

「まぁまぁ。高円寺君も何か考えがあったのかもしれないし……」

 

「平田は甘いんだっ! あいつはただ自分が楽出来ればいいだけなんだ! 最悪だ!」

 

 頭を抱え唸る幸村に平田もどうフォローしたものかと困っている。

 高円寺の突発的な行動はすぐに全生徒に知れ渡り、平田の携帯が引っ切り無しに鳴る。

 チャットでは何があったのかを知りたがるクラスメイトの声であふれていた。

 葛城や龍園、一之瀬たちも同様に驚いているに違いない。

 初日時点で裏切り者が出るとは誰も予想していなかっただろう。

 あたふたと対応に追われている平田を傍観していた綾小路の携帯にも着信が届いた。

 

「もしもし」

 

『清隆。申グループということは、まさか……』

 

「あぁ、多分お前の想像通りだ」

 

『やはり高円寺か……』

 

 綾小路に通話を飛ばして来たのは柚椰。

 平田では混線ですぐに繋がらないと判断した上での行動なのだろうと綾小路はすぐに察した。

 

「高円寺は俺たちの前で堂々と裏切って試験を終わらせた。今は風呂に入ってる」

 

『随分優雅だね』

 

「あいつのことだから、当てずっぽうにやったとは考えにくいが……」

 

『彼はなにか言っていたかい?』

 

「この試験は面白くない。嘘つきを見つける簡単なクイズだ、とさ」

 

『彼らしいね……その言葉がどういう意味かは分からないけど、とにかく結果3であることを願うばかりだ』

 

「全くだ。案の定幸村は高円寺にブチ切れてる」

 

『あぁ……』

 

「高円寺が誰の名前を打ち込んだのか後で聞いてみようと思う。それが正解か不正解かはさて置いても、何かのヒントになるかもしれない」

 

『彼が素直に答えてくれるとは思えないけど……分かった。そっちは任せるよ』

 

「あぁ。じゃあな」

 

 通話を切って携帯を仕舞うと、依然対応に追われている平田がそこにいた。

 幸村も頭が痛いのか顔を顰めている。

 

「くそ……高円寺のせいで話し合いどころじゃなくなってしまったじゃないかっ」

 

「ちょっと出てくる」

 

 話し合いが流れてしまったことを横目に確認し、綾小路は一言残して部屋を出た。

 高円寺が試験を終了させたことにより、残るグループは11となった。

 綾小路はこの試験をどう立ち回るか考えていた。

 その結論として、今回の試験で出来る限界をある程度見てしまっていた。

 どう画策したところで、残る干支全てのグループでDクラスに勝利を齎すことはほぼ不可能だった。

 それぞれの生徒と繋がりを持っていれば手の施しようもあるが、綾小路にはその繋がりがない。

 自身が持つ携帯からは、他グループの答えに介入することも出来ない。

 それ以外の方法に手を伸ばすには時間も足りなければリスクも高い。

 

「(情報網を持っているのは平田と櫛田、そして柚椰だが……)」

 

 現状としてその3人を以ってしても自分のクラスの優待者ですら全て把握できていない。

 明らかに後手に回っている状態だった。

 

「(優待者の法則さえ掴めればまだやり用はあるが……)」

 

 今のところ法則性を導き出すための材料は揃っていない。

 決定的な要素を揃えないうちに動き出すことは悪手に成りえる以上、まだ手は出せなかった。

 休みを含めてあと3日。

 たとえ今から3人の情報網を駆使していったとしても、勝率は心許ない。

 各グループの話し合いを把握できるような状態には持っていけない。

 現状を踏まえ、綾小路は一つの判断を下した。

 

「(やはり今回の試験は目先の勝利より先に、この先動かせる駒を手に入れることが重要だな)」

 

 考えを巡らせながら当てもなく歩き続けていると、船外のデッキに辿り着いた。

 天を見上げると、満天の星空が視界いっぱいに広がっている。

 本や映像で見るものとは桁違いの規模で広がる美しい光景に思わず声を漏らすほどだ。

 都会ではまず見ることの出来ない夜景に足を止める。

 周りを見渡してみれば、少数ではあるが男女の生徒が手を取り合ったり肩を組みあったりして同じ星空を見上げているのが分かった。

 明らかにカップルばかりが集まっている。

 その事実に少し虚しさを感じながら、綾小路は引き続いて景色を堪能した。

 ただ、そんな二人組だらけの空間に、彼と同じく一人だけで星空を見上げる生徒のシルエットがあった。

 彼の気配を感じ取ったのか、その影が動き振り返る。

 

「あれ? 綾小路君?」

 

「その声は……櫛田か?」

 

 闇から浮かび上がった来た姿は櫛田であり、彼女は驚いたような顔で綾小路を見ている。

 

「一人、か?」

 

 誰かと待ち合わせをしているのではないかと思いながらもそう尋ねる。

 すると櫛田はコクンと小さく頷いた。

 

「うん、そうだよ。なんとなく眠れなくって」

 

「そうか」

 

 近づいていいものかと綾小路が思っていると櫛田の方から近づいてきた。

 

「綾小路君は一人なの?」

 

「あぁ。まぁ、ちょっとな」

 

「ふふっ、そっか」

 

「櫛田のことだから柚椰とでも待ち合わせしてるものかと思った」

 

「え?」

 

 その問いにキョトンとした顔をした櫛田だったが、やがて照れ臭そうにはにかんだ。

 

「違うよ。確かに柚椰君とこの星を見るのも楽しいかもしれないけどね」

 

「そうか」

 

「うん、時間も遅いからね。いきなりそんなお誘いしても迷惑になっちゃうよ」

 

「柚椰なら二つ返事で了承してくれそうな気もするけどな」

 

「あはは、そうかもね。じゃあ、明日は柚椰君と来ようかな」

 

 ふわりとした笑顔で櫛田がそう答えると、二人の間に沈黙が広がった。

 会話の引き出しが少ない綾小路にとってその沈黙は痛かった。

 周りがカップルばかりということもあり、なんとなく居心地の悪さも感じていた。

 

「えーと、じゃあ俺は先に戻るから」

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「眠くなってきたしな」

 

 そう嘘をつきつつ、さっさとこの場を離れようとする綾小路。

 櫛田は少し残念そうな顔をしながらも、立ち去ろうとする彼に手を振った。

 

「そっか。それじゃあまた明日。お休みなさい」

 

「お休み」

 

 短く別れの言葉を交わし、綾小路は足早にその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『午グループの試験が終了いたしました。午グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 

『酉グループの試験が終了いたしました。酉グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 

『戌グループの試験が終了いたしました。戌グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 

『亥グループの試験が終了いたしました。亥グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 

 

 

 午前1時30分。4件のメールが全生徒に一斉に送信された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。1日目にして5グループが試験終了となりました。
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