ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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鍍金の女王は最後の希望に縋る。

 

 

 

 早朝、豪華客船の中は騒然としていた。

 船内の様々な場所で生徒たちが口々に何かを話している。

 ある者たちは廊下で──

 

「なぁ、あの話聞いたか?」

 

「学校掲示板のアレだろ? 聞いた聞いた」

 

「マジなのかなぁ。だとしたらヤバくね?」

 

「だな。誰がやったのか分かんねぇけど、マジなら情報ダダ洩れってことだろ?」

 

 

 ある者たちはエントランスで──

 

「ねぇねぇ、あの話」

 

「卯グループの話でしょ? 優待者がDの誰かっていう」

 

「本当なのかなぁ。デマかもしれないよね」

 

「でも終わったグループの優待者も知ってたっぽいじゃん。確かめようがないってコメントでも言われてたけど」

 

「そうだよねー。終わった試験とはいえ優待者かどうか聞いて素直に答えてくれるとも限らないし」

 

「っていうか、そもそもあの書き込みって誰がやったんだろうね」

 

「さぁ? でもD以外の誰かなんじゃない? わざわざ自分のクラスの情報流すメリットもないでしょ」

 

「それもそうだよね。でも他のクラスなら、一体どうやって優待者を見抜いたんだろう」 

 

 

 またある者たちはカフェで──

 

「例の掲示板のヤツさー」

 

「どうせデマっしょ」

 

「だよな。実際掲示板のコメもデマって意見がほとんどだしな。試験終了のメール来てないってことは誰も真に受けてねぇってことだし」

 

「確証が得られればって思ってる奴がほとんどなんじゃね? もし情報がマジだったら自分のグループの優待者について質問するのもアリだろうし」

 

「でも他のグループの情報も持ってるとは限らないだろ。単に卯グループのことだけ知ってたパターンもあるかもだし」

 

「マジの情報通だったらスゲェ武器になりそうだよな」

 

 

 

 本来試験のインターバルとなるはずだったが、船内はざわついていた。

 船内で執り行われた第二の特別試験。

 初日と二日目を終えて試験は残すところあと一日。

 本来今日一日は試験に挑む生徒が身体と精神を休ませる日になる。

 そうなるはずだった。

 しかし今現在、生徒たちはお世辞にも休んでいるとは言えない。

 皆が皆血相を変え、ある者は面白半分で、ある者は不安に駆られて、口々に一つの話題で言葉を交わしている。

 それほどまでに彼らが関心を寄せている話題はただ一つ。

 深夜に掲示板に新たに立てられたとあるスレッドについてだ。

 特別試験に役立つ情報と銘打って立てられたそのスレッドにて投下された情報。

 それは12あるグループの一つ、卯グループの優待者がDクラスにいるというもの。

 スレッドが立てられてから早5時間。スレッドは既に300を超え、情報は瞬く間に広がっていた。

 真偽はさて置いても掲示板に試験の情報が流されたのだから無理もない。

 元より噂好きの生徒にとってそれは格好の話のネタだった。

 そして今現在、この話を知っている生徒は皆、船内を歩くDクラスの生徒達を遠目からチラチラと見るようになっている。

 噂の真偽を確かめたいと思っているのか、あるいはただ面白がっているのか定かではないが、そのような不躾な視線をそこかしこから向けられれば良い気がするわけもなく、Dクラスの生徒達は居心地の悪さを感じていた。

 

「な、なんか私たちめっちゃ見られてない?」

 

「思った。なんなの一体」

 

 レストランで軽い朝食を摂っていた篠原と松下も周囲からの視線に気づいていた。

 周りに目を向ければクラスを問わず色々な生徒がこちらを見ている。

 そんな状況では落ち着いて食事も出来ないから質が悪い。

 

「私聞いてこようかな。ずっとジロジロ見られてるし」

 

「止めとけば。聞いてもスルーされるだけじゃん?」

 

「そうかもしれないけどさぁーヒソヒソされてると気分悪くない?」

 

「好きに言わせておけばいいのよ。前の須藤君の時みたいにこっちが何かしてくるのを待ってるのかもしれないし」

 

 松下は焦れったくなってきている篠原を諫めつつ冷静に分析をしていた。

 

「何それ。今日は試験はお休みでしょ? なんで今このタイミングでやってくるわけ」

 

「さぁ? 他のクラスの作戦なんて分かんないけど。でもわざわざこっちから乗ってあげる必要はないでしょ」

 

「サバサバしてるよねー。そういうところちょっと羨ましい」

 

「ね、ねぇ二人とも」

 

 今まで会話に入ってこなかった佐藤がここで二人の話に入ってきた。

 彼女もまた二人と一緒に朝食を摂っていたのだが、ふと携帯を弄っていたら何かに気づいたらしくその画面を二人に見せた。

 

「これ見て」

 

「どうしたの麻耶。そんな血相変えて」

 

「いいから!」

 

 疑問符を浮かべる篠原を押し切り、佐藤は画面を見せ続けた。

 その様子に違和感を感じつつ、二人はその外面を覗き見た。

 

「な、何これ……!?」

 

「なるほどね……」

 

 表示された内容を見た篠原の表情が変わった。

 松下もまた、篠原ほどではないにしろ状況を理解したように眉を顰める。

 

「ヤバくない? 要は他のクラスが皆この情報が合ってるか気になってるってことでしょ」

 

「うちの卯グループのメンバー全員名前が出てるからね。しかもご丁寧に見た目の特徴まで書いてあるし」

 

「一体誰がこんなこと……」

 

 三人は今槍玉に挙げられている四人のクラスメイト達を思い浮かべ、この試験の行く末を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 8月14日 午前9時20分

 

『丑グループの試験が終了いたしました。丑グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』

 

 

 

 

 

 

 午前10時、綾小路は佐倉から呼び出しを受け、待ち合わせ場所を訪れた。

 呼び出した目的についてはまず間違いなく試験についてだと理解していたため、今更断る理由も無かった。

 

「丑グループの試験が終わったな」

 

「うん……」

 

 合流した佐倉と共に今一度学校から届いたメールを確認する。

 文面はこれまでのものと同じように簡素なもので極めて業務的なものだ。

 

「佐倉、お前が優待者だったってことは? もしくはクラス内にいたか?」

 

 綾小路の問いを佐倉は首を左右に振って否定する。

 

「私は優待者じゃなかったよ。ただ、須藤君達は、その、分からないけど……」

 

 彼女も誰が優待者かは見当がつかないらしい。

 

「考えすぎても仕方ないな。俺もグループの優待者が誰か分からないからな」

 

「うん、ありがとう綾小路君」

 

 綾小路の言葉を彼なりの気遣いと受け取った佐倉は礼を述べて微笑んだ。

 

「もしまた何かあったら教えてくれ。いつでも相談に乗るから」

 

「ありがとう。で、でもその……綾小路君も大丈夫?」

 

「どういうことだ?」

 

「えっ、綾小路君知らないの……?」

 

 話が通じないことに佐倉はキョトンとした顔をする。

 彼女が言いたいことが分からなかった綾小路もまた疑問符を浮かべていた。

 どうやら本当になんのことか分からないのだと察した佐倉はポツポツと事情を話した。

 

「私、聞いちゃったの……その、綾小路君のグループの話」

 

「俺の?」

 

「なんか、噂になってるみたいだよ……? 卯グループの優待者がDクラスにいるって」

 

「……なんだそれは」

 

 完全に寝耳に水だったため綾小路の関心は一気に引き寄せられた。

 彼は視線で佐倉に続きを促す。

 

「その……ネットの掲示板に書き込まれてたって……綾小路君の名前も出てたみたいで……」

 

「ということは博士や幸村……軽井沢の名前も、か?」

 

 佐倉はコクンと頷いた。

 

「インターバルになるこのタイミングでその情報が出回るとはな……」

 

「あ、綾小路君は、その……優待者、なの?」

 

 その問いに綾小路は先の佐倉と同じように首を左右に振った。

 

「いや、俺は違う。って言っても俺の言うことなんて信じてもらえないかもしれないが」

 

「そ、そんなことないよ! 私、綾小路君の言うことなら信じるから」

 

 綾小路の卑屈な発言に対して佐倉は強い声色で否定した。

 彼女はそれほど綾小路のことを信頼しているのだろう。

 たとえ今、この場で綾小路が実は優待者だと告白したとしても彼女はその秘密を墓場まで持っていくつもりだったのだ。

 それほどまでに佐倉は綾小路に返しきれない恩があるのだ。

 

「情報の真偽はさておいてもこの状況は不味いな……どこに行っても見られているのは居心地が悪い」

 

「だ、大丈夫……?」

 

「あぁ、確かにやりにくいが下手にコソコソすればかえって怪しまれるかもしれないからな。博士と幸村にも伝えておくよ。ありがとう」

 

「う、ううん! 私の方こそごめんね? なんか余計なこと言っちゃったかも……」

 

「いや、もし知らなかったら下手を打っていたかもしれない。俺以外の三人の中に本当に優待者がいることもありえるからな。用心しておくに越したことはないからむしろ有り難かった」

 

 そう礼を述べて綾小路は佐倉と別れた。

 その足で彼が向かったのは下の階、一般人が立ち入らないであろう最下層のフロア。

 配電設備などがあるこのエリアは必要に応じて足を踏み入れるだけで、普段人気は全くない。

 大声を出してみても反響はするものの、無人であるため誰かがやってくることもない。

 出入り口は今し方綾小路が入ってきた場所を含めて二か所。

 もう一つは非常階段に繋がっているらしく、ドア付近に積もっている埃から普段は全く使われていないことが見て取れた。

 つまりただ一つの出入り口を見ていればすべての状況は把握できるということだ。

 しかも好都合なことは他にもある。

 綾小路はポケットから携帯を取り出して確認した。

 

「電波が入らない……連絡手段はないな」

 

 時折僅かな電波が入るもののメールやチャットを送るのも一苦労で、通話はとてもじゃないが出来ない。

 これからやろうとしていることを実行するにはうってつけの条件が揃っていた。

 

「(あとは段取りを詰めていくだけだな……)」

 

 この後の行程を頭に思い浮かべながら綾小路はそのフロアを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、まぁとりあえず座って。あ、何か飲むかい?」

 

「……いい」

 

「遠慮しなくてもいいよ。ちゃんとここは奢るから。あ、すいません。アイスティーひとつ追加で」

 

 カラオケルームの一室に一組の男女がいた。

 男は部屋に備え付けられた電話で女の飲物をオーダーすると電話を切る。

 

「それで、俺に用ってなんだい? ──軽井沢」

 

 男の向かいに座る女、軽井沢恵はその問いに視線を泳がせる。

 彼女の様子に男、黛柚椰は内心ニヤリとしながらもそれを表に出さない。

 

「もしかして平田との仲で悩んでいるのかい? 俺に彼女はいないから恋愛相談には向いていないんじゃないかな」

 

「ち、違うし……今日はちょっと、その、お願いがあって……」

 

 冗談めいたことを言う柚椰に軽井沢は弱々しく否定の言葉を返す。

 そしてしおらしく、おずおずと目線を柚椰に合わせた。

 

「まず、その……この前の試験ではゴメン。誤解だったとはいえ色々酷いこと言った、と思う……」

 

 まずはそれを謝るのが義理だと思ったのか軽井沢は先の無人島での行いを詫びた。

 クラスを勝たせるために汚れ役を買って出た柚椰に対して直接ではないものの罵声を浴びせかけたこと。

 クラスが柚椰を信じる中で自分一人だけが最後まで彼を疑っていたこと。

 試験が終って誤解が解けた後も今まで謝罪しなかったことを軽井沢は素直に謝った。

 彼女の謝罪に対して柚椰は優しく微笑んだ。

 

「そのことについてはもういいよ。直接被害に遭った君が俺を疑うのは当然だよ。寧ろあの状況で裏まで読み取れる人間の方が稀なんだ。結果的に試験が上手くいったんだ。だからこの件についてはお互い水に流そう」

 

「……ありがと。アンタってやっぱ優しいんだね」

 

「清隆にはお人好しと言われているけどね」

 

 そう言って謙遜する柚椰に対して軽井沢は肩の荷が下りたのかホッと息を吐いた。

 

「それで、俺にお願いってなにかな?」

 

 柚椰が促すと軽井沢は再び深刻そうな表情を浮かべ、ポツポツと事情を語った。

 

「実は……同じグループのCクラスの人たちと色々あって……」

 

「君のグループというと……あぁ、伊吹達か」

 

 柚椰は携帯を確認しながらそうつぶやいた。

 恐らく画面には卯グループのメンバーがリストアップされているのだろう。

 それを察した軽井沢は話を進める。

 

「その中の真鍋って奴がさ、あたしが前にちょっとあった子と友達らしくて……あたしは身に覚えがないんだけど真鍋はそうだって決めつけてて」

 

「友達のために、か……でもそれは、その友達とやらを呼び出して確かめればそれで済む話じゃないか。どうして拗れているんだい?」

 

「その真鍋が狙ってたAクラスの男子があたし達が揉めてるとこに割って入って止めてくれたんだよね。だから、その男子に庇われたあたしが気に食わないんだと思う」

 

「色恋まで絡んできたか……厄介だね」

 

 軽井沢は本当のことを話さず、かなり曲解して柚椰へ事情を説明した。

 一方柚椰はそれを信じ切っているのか難しい顔をして考え込んでいる。

 

「真鍋は友達と揉めた上に、自分が狙っていた男子に目をかけられている君のことが気に入らない。でも君には揉めた覚えがない上に、そもそも平田という彼氏がいる。泥沼だね……」

 

「昨日、夜の話し合いの後に呼び出されてさ……真鍋以外にも同じCの女子二人も居て……」

 

「詰め寄られたのかい?」

 

 軽井沢はコクリと頷く。

 

「結局昨日は途中で伊吹が止めてくれて、なんとかなったんだけど」

 

「伊吹が? それはまた、意外な行動だね」

 

 思わぬ名前が出てきたと言わんばかりに柚椰は目を丸くする。

 

「なんか大事になったらめんどいとか言ってたけど……」

 

「なるほど。健のときのように学校が出張ってくると分が悪いと思ったのか」

 

「このままだと真鍋達になにかされるかもって思ったら怖くて……」

 

「確かにこのままだと不味いね……このことを平田には?」

 

 柚椰は暗に彼氏には相談したのかと問えば、軽井沢は首を横に振った。

 

「したけど、真鍋達を呼び出して話し合いをして和解するって……でも、それじゃ絶対収まるわけないって思うの……」

 

「同感だね。正直今の話を聞くと、ただの話し合いで仲直りという訳にはいかないかもしれない」

 

「でしょ? あたしもそれじゃダメだって言ったんだけど……」

 

「彼は納得してくれなかった、と」

 

「うん……」

 

 大体の事情を理解した柚椰は息を吐いた。

 

「(義理は通しても真実は語らない、か……それが自分の弱点だと理解しているが故に)」

 

 当然のことながら、柚椰は本当の事情を知っている。

 元の発端が軽井沢の自業自得であること、火に油を注いだのが彼女の強がりに起因するものだということ。

 彼女と平田の関係が()()()()()()()()()()であるということも。

 そして軽井沢恵という人間の本来の姿も全て。

 

「(()()()()()で軽井沢の過去は全て知っている。だからこそ分かるのだろう。真鍋達がこれから何をするか……)」

 

 軽井沢は()()()として知っているのだろう。

 火種を燻らせた人間が、群れで個を囲む人間がなにをするのかを。

 群れとなった人間から何が剥がされるのかを。

 

「平田は穏便に事を済ませたい。けど君は強引にでもこの問題そのものを解消したい、ということでいいのかな?」

 

「……うん」

 

 柚椰の問いに対して暫し間を開けた後に軽井沢は頷いた。

 

「分かった。それで君は何をしてほしいんだい?」

 

「真鍋達に仕返ししてほしい。もうあたしに何かしてこないようにしてほしい」

 

 頷いたことで吹っ切れたのか軽井沢はストレートに要求を突きつけた。

 それがどれだけ傲慢か理解してはいるものの、己の防衛本能に従って。

 

「仕返し、か……そうなると彼女達を抑えつける材料が必要だね。健のときと同じように、学校に提出されるとまずい何かが」

 

「脅しのネタってこと?」

 

「そうだ。二度と君に関わらせないようにするためには、彼女たちにメリットを齎すよりも、とことん質の悪いデメリットをチラつかせる方が効果的だと思うんだ」

 

「……そ、それじゃあ、あたしに何かしてくるところを押さえればそれが脅しのネタになるんじゃないの?」

 

 柚椰が本格的に協力してくれることを感じ取ったのか、軽井沢はそんなことを言った。

 つまり彼女は暗に自分を囮にして真鍋達を脅す材料を仕入れると提案したのだ。

 しかしその提案に柚椰は首を横に振る。

 

「それだと万が一の場合があるだろう? もしその場で君が傷つけられでもしたら元も子もない。君は女の子なんだ。自分を大事にしなければいけないよ?」

 

「っ! ……そ、そう? ありがと……心配してくれるんだ.」

 

 優しい言葉をかけられたことに驚きつつも悪い気はしないのか、軽井沢は髪を弄りながらそっぽを向いた

 

「相談された以上、君にもしものことがあったら平田に申し訳が立たない。なにより俺にとっても、君は大切なクラスメイトなんだからね」

 

「そっか……ありがと」

 

 自分の身は保証しつつ、ちゃんとこちらの要望も汲んでくれる柚椰に軽井沢は素直に礼を述べた。

 

「ひとまず連絡先を交換しておこう。何かあったら連絡してほしい」

 

「うん、お願い」

 

 そう言うと二人は手早く携帯を操作して連絡先を交換した。

 新たに頼れる相手が出来たことで安心したのか軽井沢は幾分晴れやかな表情になっていた。

 

「こちらも真鍋達の情報を集めてみるよ。いい情報を仕入れることが出来たら君にも教えるつもりだ」

 

「ありがと……あんた、結構頼りになるじゃん」

 

 嫌な顔一つせずにこちらの要求を飲んでくれた柚椰を容易く感じたのか軽井沢は安心しきった顔でそう言った。

 いつもの強気な口調が戻っていることからそれが窺える。

 

「じゃあもう行った方がいい。イケメンの彼氏持ちの君が密室で男と二人きりのところなんて、誰かに見られたら噂されてしまうよ?」

 

「! そ、そうね。じゃあ行くわ」

 

 柚椰に言われたことで軽井沢は今一度自分の立ち位置を思い出したのか慌てて椅子から立ち上がると足早に部屋を出て行った。

 既に平田を見限っているとはいえ、学校内では未だ軽井沢と平田は恋人という認識なのだ。

 そんな状況で彼女が他の男と密会していたなどとバレればそれこそ脅しのネタになりかねないと悟ったのだろう。

 

 

 

 

「さて……」

 

 部屋に一人残された柚椰はテーブルの下から鞄を取り出すと中に入れてあったノートパソコンを取り出して机に置いた。

 それを開き、パスワードを打ち込むとすぐにパソコンは使える状態になる。

 この旅行にも彼はノートパソコンを持ってきていた。

 持って行ける私物の制限は特に無かったため問題ないだろうと判断したのだろう。

 もし仮に違反であったとしてもバレなければ問題ないのだから。

 彼はすぐさま学校掲示板にアクセスしてとあるスレッドをクリックした。

 それは今現在最も盛り上がっている試験の情報に関するスレッドだ。

 画面に映るスレッドを眺めながら、柚椰は携帯である番号をタップして電話をかけた。

 

 

 

「恋人を頼れないこの状況で、まさか僕を選ぶとは……軽井沢恵、君はとても運が良い」

 

 この後の行程を思い浮かべながら柚椰は己を頼った少女に賛辞を送った。

 

 

 

 

 

 

 




数ある選択肢の中で最悪の選択肢を選んでしまった軽井沢でした。


お久しぶりです。実に三ヶ月ぶりの更新ですね。
四半期丸々お休みしてしまって申し訳ありませんでした。
これにて再開となりますので今一度お付き合いいただけますようよろしくお願いします。
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