ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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辰の契約は結ばれた。

 

 

 

 インターバルから一夜明け、特別試験は最終日に突入した。

 船内では既に試験を終えてしまった生徒たちは各々好きなように過ごしており、未だ試験中の生徒はクラスメイト同士でなにやら話し合っている姿が目撃されていた。

 各クラスのリーダーたる人物たちは残りのグループの動向について思案しているであろう。

 既に事を進めている者や、既に事を終えた者もいるかもしれない。

 しかしそれは試験の結果が出る瞬間までは分からない。

 今回の試験で最終的にどのクラスが、誰が一番利を得たのか。

 全てはまだ、分からない。

 

「わああ! また引いちゃった! 私ってババ抜き弱すぎ!?」

 

 5回目のグループディスカッションでも卯グループの光景は変わらなかった。

 今回も一之瀬が提案したトランプで一部のメンバーが遊んでいる。

 依然としてAクラスの面々は沈黙を貫いており、誰も彼らを対話に持ち込むことが出来ない以上、一之瀬の行動を咎める者はいなかった。

 真鍋達の軽井沢への接触は意外なことに無かった。

 しかし彼女らは時折軽井沢を、正確にはDクラスの面々をチラチラと見ているようだった。

 

「(どうやら()()は抑止力として機能してるみたいだな)」

 

 今の状況を観察し、綾小路は自身の計画が順調に進んでいることを認識する。

 彼には今の真鍋達の心情が手に取るように分かっていた。

 彼女たちは軽井沢に例のモノを渡した相手を探している。

 しかしそれを探る材料は何一つない。証拠は何一つ存在しない。

 当然だ。綾小路が自身に繋がるような証拠を残さないように念を入れているのだから。

 

「俺はこのままでいいのか……」

 

 そう声を漏らしたのは綾小路の隣に座る幸村だ。

 彼は落胆した様子でババ抜きをしている者たちを見つめている。

 その呟きを聞き取った一之瀬が顔をあげて幸村を見る。

 

「暗いね幸村君。ここは一緒に遊んで鬱憤を晴らすべきじゃないかな。再戦再戦っと」

 

「結構だ。そんな気分にはなれない。それより……いいのか? 一之瀬さん」

 

「何が?」

 

「このまま試験を終えて。俺は君がこのグループの手綱を握って全員との対話に持ち込むんだと思っていた」

 

 その言葉にトランプをかき混ぜる一之瀬の手が止まる。

 

「それは都合が良すぎるんじゃないかなぁ幸村君。もし本気で勝ちたいと思っているなら、誰かに頼るんじゃなく自分の力でまとめ上げるべきなんじゃない?」

 

「……分かってるさ。そんなこと」

 

 噛み締めるように、悔しさを堪えるように呟く幸村。

 その内で揺れ動く感情は己自身の無力さへの嫌悪だろうか。

 それも無理はないと綾小路は察する。

 これが普段の定期考査ならば、単に学力を測るだけの試験であれば幸村は大いに活躍できただろう。

 しかし学力が高いだけでのし上がれるほどこの学校の仕組みは甘くはない。

 人をまとめ上げる統率力、奇抜な作戦を立てられる発想力、そして作戦を確実に実行できるだけの決断力と行動力。

 そういったものが無ければどうにもならないというのはこの夏休みの特別試験で嫌でも理解できたはずだ。

 だからこそ幸村は己自身の実力が決して優れているわけではないと理解できてしまった。

 己が無力であるからこそ、今の状況でも動じない一之瀬やAクラスのメンバーに苛立ちを隠せないのだろう。

 

「(ここで折れればそれまでだ。だが、()()()()()()()いずれ力になる)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「次で試験も終わりね。綾小路君の方はどうなの」

 

 昼のグループディスカッションを終え、残るのは夜の部のみとなった。

 屋上デッキの片隅で綾小路と堀北は最後の打ち合わせをしていた。

 

「特に進展はない。このまま優待者の逃げ切りを許しそうだ。そっちはどうだ? 柚椰は?」

 

「柚椰君は昼のディスカッションの後から姿が見えないわ。でも、彼なら大丈夫よ」

 

 そう語る堀北の目には信頼の色が宿っていた。

 

「あいつから何か聞いてるのか?」

 

「……そうね、聞いてるわ。彼がこの試験で見出した()()()()()を」

 

「それを聞いて、お前は許可したのか?」

 

 綾小路の問いに対し、堀北は腕を組んで手すりに寄り掛かる。

 

「勿論初めは反対したわ。でも、一昨日彼が言っていたでしょう? 『ここからクラス単位での一発逆転は難しい』って。でも彼は難しいとは言っても()()()だとは言わなかった」

 

「柚椰の作戦は今の状況を好転させられると?」

 

「少なくとも、このまま無策に足掻くよりは賭けてみる価値はあると私は判断したわ」

 

「そうか。なにはともあれお前と柚椰がいる辰グループはこの試験の生命線だ。ここの結果次第で今後の展開も変わってくる」

 

 柚椰が立てた作戦とやらが気になった綾小路だったが、この場で追及することはしなかった。

 堀北に話を通し、彼女が了承しているのならそれは勝算のある作戦であることは保証されている。

 協力関係である自分に話を通さないのは気になるが、そもそも柚椰と表向きに協力関係を結んでいるのは堀北なのだから筋は通っている。

 ここでわざわざ自分にも話を通せと要求する必要はないのだ。

 第一、今回の試験を勝ちに行くつもりが自分には()()()()のだから……

 

「あら、他所のグループを気にするなんて余裕ね。自分のグループの方はどうなのかしら?」

 

「問題ない。既に策は考えてる。頼もしい協力者も引き込めたからな」

 

「……隠し手を講じるのなら、あまり人を増やすのは得策とは思えないけれど?」

 

 奥の手や搦め手を企てる場合、その策が漏れないようにするのは何よりも重要だ。

 協力者を増やすことは成功率を上げることに繋がるが、同時に情報が漏れる危険性も高めるというのは自明の理。

 堀北の至極当然の指摘に対しても綾小路は堂々としていた。

 

「いや、今回の試験だけじゃなく今後の為にもなる。必要なピースになると俺は判断した」

 

「……そう。思い付きでないのならいいわ」

 

「意外だな。お前は関わる人間が増えるのを嫌がると思ったんだが」

 

「あまり勝手なことをされるのは確かに不愉快だけれど、少数であることに拘れば好機を逃すこともあると考えただけよ。時として私情よりも利害を優先すべきこともある」

 

「ふっ……」

 

「……なにかしら?」

 

 生温かい目で微笑む綾小路を堀北はジトっと睨む。

 

「いや、なんでもない。泣いても笑ってもあと数時間だ。精々下手を打たないようお互い気を付けよう」

 

「言われるまでもないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 6回目、最後のグループディスカッションが始まった。

 残るグループは子、寅、卯、辰、巳の5つ。

 そのうちの一つ、辰グループの部屋には異様な空気が漂っていた。

 葛城率いるAクラスの面々は依然として部屋の片隅に固まって黙秘を貫いている。

 ここまでは今までと変わらない。

 しかしこれまでと大きく異なる点がある。それは──

 

「おら黛、テメェの番だろ。さっさと出せよ」

 

「ふむ、じゃあ……パスで」

 

「あぁ? テメェこれで3連続パスじゃねぇか。……8止めてんのテメェだろ」

 

「さぁ? そんなことを言いながら君もずっとパスじゃないか。君がパス出来るのはあと1回だよ」

 

「……どこぞのクソ野郎の所為で出せねぇんだよボケが」

 

 葛城達同様ディスカッションに一切参加していなかった龍園が柚椰と7ならべに興じているのだ。

 龍園だけでなく彼以外のCクラスの面々もどういった心境の変化なのかこの遊びに参加していた。

 事の発端はグループディスカッション開始早々に柚椰が龍園にトランプ遊びを持ち掛けたことが始まりだった。

 これまでもそのようなことはあったため堀北や平田も、他のクラスのメンバーさえ別段気にかけるようなことはなかったのだが、龍園が提案に乗ってきたことで周囲の関心は一気に引き寄せられた。

 何を考えているのか龍園は同じクラスの者たちにも参加を促し、結果彼らCクラス4人に柚椰を入れた5人で謎のゲームが始まったのだった。

 

「龍園さん……大丈夫っスか……?」

 

「あぁ? 俺の心配をするなんて随分偉くなったなぁ小田ァ」

 

 手札を減らすことが出来ていない龍園を慮ってか彼の配下である小田が声をかけたが龍園は刺すような目つきで彼を睨んだ。

 龍園の眼光に怯んだのか小田は目を泳がせて縮こまる。

 そのやりとりを茶化すように柚椰がカラカラと笑う。

 

「こらこら、自分が負けそうだからってクラスメイトを威嚇したら可哀そうだろう? クラスメイトには優しくするべきだ」

 

「ハッ、俺がクラスメイトと仲良くすると思ってんのか」

 

 龍園のその言葉に周りで見ている者も静かに同意した。

 彼が一之瀬のように明るい笑顔でクラスをまとめ上げている姿など想像できない。

 寧ろ不気味極まりないとさえ思えるほどに龍園の人間性とはミスマッチなのだから。

 

「君の在り方はよく理解しているし、寧ろ肯定的に見ているとも。上に立つ人間の在り方として、君のそれは一つの理想形とさえ言っていい」

 

「ほう。随分と好意的だな。いいのかそんなこと言って。テメェんとこのクラス委員はしかめっ面してるが?」

 

 龍園の言う通り、柚椰の言葉に平田は少し顔を顰めていた。

 平和を好む彼にとって龍園のやり方は乱暴極まりないもので、到底受け入れられるものではないのだから。

 平田だけでなくAクラスの葛城もまた、言葉を発さないまでも柚椰の言葉に眉間に皺を寄せている。

 

「多数の人間を束ねて統率する方法はいくつか存在する。一つは有無を言わせない圧倒的な魅力、俗にカリスマと言えるものを以って支配する。一つは善も悪も、全ての感情を受け入れ、その上で妥協点を探すことで結束を促す。そしてもう一つは──」

 

「反抗する奴を徹底的に潰して黙らせる、か?」

 

「その通り。勿論それ以外にも方法はあるだろうが、結局は民意によって選ばれるか、自らを選ばざるを得ないようにするかのどちらかだ」

 

「だろうな。歴史の教科書を開けばガキでも分かりそうなもんだろ」

 

「だからこそ俺は、君や一之瀬、そして坂柳を心底尊敬しているよ。見えざるシステムの存在に気づき、来たる戦いに備えて城を固めた。そこへ至る理由は違えど、それを成しえた以上、君たちは支配者としての資質を十分に備えていると言っていい」

 

「そういうテメェはどうなんだ? テメェもシステムの存在にはとっくに気づいてたんだろ? にも拘らずテメェはクラスを支配することもせず、こうしてのうのうとゲームに興じてる。一体何を考えてるのか教えてもらいたいねぇ」

 

 ともすればこの場にいる全員が気になっているであろう事象について龍園は指摘した。

 目の前の男は優秀な人間だ。

 その頭脳は各クラスのリーダー達と引けを取らないほどに高い。

 彼がその気になれば、Dクラスのリーダーになることなど造作もないことだったはずだ。

 にもかかわらず彼はそうしなかった。

 そこに一体どういった意図があるのか、それはクラスメイトの平田や堀北でさえ伺い知ることは出来ていない。

 

「君も坂柳も、俺を過大評価し過ぎているね。そもそも俺は人の上に立てるような人間じゃない。その点において、俺は君たちには及ばないと自覚しているからね」

 

「フン、そういうことにしておいてやるよ」

 

 暗にこの場で素直に話す気はないことを感じ取った龍園はそう言って会話を打ち切った。

 

「ところで、今日で試験は最終日だ。残っているグループはここを入れて5つ。設けられているグループディスカッションも今回が最後。これが終われば試験も終わることになる。となると……そろそろどのグループでも優待者が誰か明かしている頃合いだろうね」

 

 柚椰はそう言って室内にいるグループの面々を見回す。

 同時に彼らもまた、お互いの顔を見合わせて何かを窺う素振りを見せ始めた。

 試験のルール上、このメンバーと顔を合わせるのはこれが最後。

 もし結果1を目指すのであれば、このタイミングで優待者が名乗り出ることは当然と言えば当然だった。

 

「それもそうだな。おい葛城、テメェらAクラスは結果1か結果2狙いなんだろ? 優待者に名乗り出てもらわなくていいのか?」

 

 挑発的な笑みを以って龍園は問いかける。

 しかしその挑発に乗るほど葛城も馬鹿ではない。

 

「その挑発には乗らんぞ。確かに話し合いの場は今回で最後。これが終わり次第試験は終わり、30分後に解答時間が設けられている。だが、裏切ることで導かれる結果3と結果4に関してはどの時間帯でも行えるということを忘れているわけではないだろう?」

 

「確かにな。今この場で優待者が名乗り出て、全員で結果1を目指そうとしても抜け駆けする奴がいないとも限らない。このグループの優待者が誰であれ、それが他クラスであったなら裏切る可能性は十分にある」

 

 葛城が指摘したことを神崎も理解しているのか龍園を鋭く睨みつけている。

 今この場において、その裏切りを行う可能性が最も高い男こそが龍園なのだから。

 

「でも、いつまでも疑い合っていたら結局当てずっぽうで優待者を選ぶしかなくなる。先に裏切っても間違ってしまえばクラスポイントが減ってしまう。時間になって解答をしても間違ってしまえば優待者の一人勝ちだ。この試験に勝ったとは言えないよ」

 

 平田は冷静なのか、この試験が疑心暗鬼のまま終わることのデメリットを指摘した。

 全てを疑い、二の足を踏んでいれば結局は優待者が、ひいてはどこかのクラスが得をすることになる。

 それは勝ちへのチャンスをみすみす逃すことと同義だ。

 葛城と神崎もそれは理解しているのか一層難しい顔をした。

 

「ククッ、まぁお前らがこのまま運任せでやるつもりだっていうなら俺は構わないぜ? 生憎とこっちはもう随分とポイントは稼がせてもらってるからな」

 

 ただ一人、龍園だけは余裕があった。

 それがブラフである可能性はあるだろうが、そうでないとも言い切れない。

 予想を遥かに超えるペースでグループが消えていっている現状を加味すれば、龍園の言っていることが本当である可能性は十分にあるのだ。

 もし仮に、既に終了しているグループが全てCクラスの裏切りによって成されたものであったなら、Cクラスはかなりのポイントを有しているのだから。

 

「なら、念書でも書いてみるかい? ここにいる全員で結果1を目指すこと。そして決して裏切らないことを誓わせるんだ」

 

「柚椰君、それは意味がないってこの前言ったじゃない」

 

 柚椰の提案に堀北が異を唱えた。

 この試験の仕様上裏切り者が分からないのだから、たとえ契約違反をしたとしてもペナルティを課すことができない。 

 つまり契約による解答強制は事実上意味をなさないのだと既に分かっているはずなのだ。

 しかし柚椰もそれを理解しているのかさらに条件を付け加えた。

 

「大丈夫だよ。優待者の情報の真偽の確かめ方を踏まえれば、ペナルティを課す方法はあるんだ」

 

「どういうことかしら?」

 

「この場にいる全員の携帯を見せ合えばいい。そうすれば優待者の確実な情報が手に入る」

 

「! 確かに……でも、ペナルティの課し方はどうするつもり?」

 

「もし結果3が起こってしまった場合、()()()()()()()()()()()()()()、優待者が属するクラスのメンバー全員に残りのメンバーがポイントを支払えばいい。クラスポイントは上のクラスに上がるための貴重なポイントだからね。プライベートポイントで考えれば……一人当たり50万ポイントはどうだろう?」

 

「「「!?」」」

 

 柚椰の発想は堀北を始め、この場にいる者のほとんどを驚愕させた。

 彼が提案したのはとどのつまり連帯責任。

 誰か1人が裏切れば、優待者のクラス以外は全員が不利益を被る仕組みだ。

 加えてペナルティの額も額だった。

 50万プライベートポイントは結果3によって裏切り者が得るポイントと同額だ。

 つまり──

 

「裏切り者がプライベートポイントを得ても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことか……」

 

 神崎は顎に手を当て考えていた。

 この条件ならば、もし裏切り者が現れたとしても、裏切り者自身には何のメリットも生まれない。

 クラスポイントを50得たとしても、月初めに貰えるプライベートポイントは5000ポイントにしかならない。

 たった5000ポイントのために50万ポイントを払う馬鹿はいないだろう。

 万が一裏切りを強行したとしても、そのたった50ポイントですぐさまクラスが変動する可能性も低い。

 落としどころとしては上等だった。

 

「裏切り者が出たとしても本人はポイントを得ることが出来ない。それどころか連帯責任でクラスメイトにも迷惑をかけることになる。勿論試験の仕様で裏切り者の正体は分からない。でも、結果としてクラスに不利益を与え、他クラスの人間にもデメリットを齎した裏切り者の存在をここにいるメンバーは許すかな? 間違いなくその裏切り者を徹底的に炙り出すだろうね。それこそどんな手を使ってでも……さて、その裏切り者は()()()()()()()()()()()()()覚悟が果たしてあるのかな?」

 

 その言葉にこの場の空気が張り詰める。

 彼のそれは、ともすれば脅迫とも取れる言葉だったのだ。

 裏切り者はこの場にいる全員、つまり()()()()()()()()()()を敵に回すということ。

 それはクラス間の全面戦争の引き金を引くことになるのだ。

 たとえ穏健派の葛城だろうと、調和を重んじるBクラスだろうと、明確な敵の存在を放置するほど昼行燈ではない。

 ましてや龍園を敵に回すなど、想像しただけで震え上がるだろう。

 それこそ1学期の暴行事件のときと同じく、学校が観測できないタイミングで凶行に走る危険性さえ孕んでいるのだ。

 この試験の始めにその優秀さが明かされた柚椰もまた、敵に対しては何をするか分からない。

 彼の脅しは抑止力として十二分に機能していた。

 

「ふむ……確かに黛の案は良く練られているな。流石の裏切り者も他クラスを敵に回すほど恐れ知らずではあるまい」

 

「そうだな。もし裏切ればクラス間の争いを激化させる原因を作るだけでなくクラス内の不和も生む。そんな可能性を知って尚、裏切ることにメリットは感じられないな」

 

 葛城と神崎はこの提案に意味を見出していた。

 結果1を確実に導き出せる方法が見えてきたのだからこれを拒否する理由もない。

 柚椰の案に肯定的なのは平田や堀北も同じだった。

 

「ククッ、どうやら結論は出たみたいだな。それにしても、連帯責任とはテメェもエグいことを考えるじゃねぇか」

 

「この条件なら、君達Cクラスも裏切ろうとは考えないだろう? 君以外の3人の内の誰かが裏切ったとしても、まず初めに喰らうのは君の制裁になるだろうからね」

 

「まぁな。不要な争いを招いた奴には容赦しねぇ。この条件ならクラスポイントは稼げても結果的にはマイナスだからな」

 

 龍園の言葉に同じクラスの3人は震え上がった。

 もし裏切れば支配者である彼の制裁を受ける。

 その一点だけでも抑止力として十分だろう。

 Cクラスを抑えられるという点だけでもこの作戦は他のクラスにとっては必勝法なのだ。

 

「じゃあ早速契約書を作ろうか」

 

 柚椰は取り出したルーズリーフにペンを走らせる。

 

 

 

 

【契約書】

 

 辰グループは全メンバーが協力して結果1を目指すこととする。

 優待者の情報並びに本契約内容はこのグループ内のみで共有することとし、他の生徒に漏らすことは禁止とする。

 解答は試験のルールに定められた時刻である21時30分から22時以内に行う。

 グループの結果が結果3だった場合、優待者が属するクラス以外の全クラスのメンバーにマイナス50万プライベートポイントのペナルティを課すものとする。

 課せられたペナルティによって発生したプライベートポイントは優待者並びに優待者の属するクラスのメンバー全員に均等に振り分けるものとする。

 本契約に同意した後に契約の破棄は認めない。

 

 

 

 

 

「こんなところかな。全員確認してほしい」

 

 契約書を書き終えると、柚椰はそう言ってルーズリーフをテーブルの上に置いた。

 その文面に全員が目を通した。

 葛城も、神崎も、龍園も、皆契約書に記された内容を確認していく。

 そして全員が確認し終えたところで署名欄に柚椰が最初に名前を書き込んだ。

 続いて堀北と平田が、その後は葛城達Aクラス、そして神崎達Bクラス、最後に龍園率いるCクラスのメンバーが署名した。

 

「グループディスカッションが終わった後、これを先生にも見せに行くつもりだ。一応学校側の確認も必要だろう?」

 

「そうだな。無人島のときならまだしも、今回は教員の目を通させた方がいいだろう」

 

 柚椰の念の入れように葛城は感心しているのか腕を組んだ。

 

「それと、葛城と神崎、それと龍園クンは携帯のカメラで契約書を撮影してほしい。俺がこれを提出しに行く間に、勝手に条文を書き換えたとしてもすぐに分かるようにね」

 

「念には念を入れて、というわけだな」

 

「分かった」

 

「フン」

 

 3人は携帯を取り出すと契約書にカメラを合わせて撮影をした。

 これによりもし柚椰が契約内容を改変すればすぐに明るみになる。

 元の契約書を写した写真を各クラスの3人が持っていればそれは確かな証拠となりうるのだから。

 

「さて、契約は結ばれた。次は優待者の正体を明かそうか」

 

 その呼びかけに全員が携帯を取り出し、テーブルに集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数分後、最後のグループディスカッションが終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。お待たせしました。
あと2話ほどで優待者編は終了予定です。

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