ようこそ人間讃歌の楽園へ   作:gigantus

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狂王と女王は思考する。

 

 

 

「ほらこの前の試験で貰ったポイント。半分はアンタの取り分なんだろ?」

 

 そう言って携帯を差し出したのはCクラスの伊吹澪。

 彼女は一週間前に行われた特別試験で50万プライベートポイントを勝ち取った。

 自身が属していた卯グループの優待者を見事に当て、結果3を出した裏切り者こそが彼女だった。

 そしてその彼女にそもそも優待者の情報を与えた者こそ彼女が今相対している男、龍園翔だ。

 龍園は伊吹に優待者を教え、結果3を出すことを指示した。

 そしてそれによって発生するプライベートポイント50万の内、半分の25万を回収するということも事前に伝えられていた。

 故に伊吹の今の行動は龍園が言ったことであり、なんらおかしなことではない。

 にもかかわらず、龍園は伊吹の携帯をチラリと見ただけでそれを受け取りはしない。

 

「あぁ、それか。別にお前が持っていても構わねぇぞ」

 

「は? いいの?」

 

「お前が後先考えずに散財する馬鹿だとは思ってねぇからな。それに、お前には無人島のときに色々したからな。ささやかなお詫びの気持ちだ」

 

「お詫びとかアンタが言うと気持ち悪いんだけど」

 

「ハッ、あの試験で得られるプライベートポイントに関しては、いざという時のための貯金だ。だからすぐに回収するか後でするかの違いでしかねぇんだよ。たとえ後で回収するときに嫌がろうが黙らせればいいだけの話だ。その点に関して、お前は心配いらねぇからな」

 

「あぁそういうことかよ……」

 

 要はあくまで自分に預けているだけで、必要とあればすぐに差し出させるつもりなのだと理解した伊吹は眉間に皺を寄せて龍園を睨んだ。

 龍園はどこ吹く風といった様子で彼女の眼光を意に介していない。

 

「プライベートポイントという保険も重要だが、俺の一番の狙いはクラスポイントだった。あの試験でBクラスとの差は50まで縮めた。その背を完全に捉えたってことだ」

 

「Bに上がるのも時間の問題ってことか」

 

「その通りだ。だがそれ以上に重要なのはAとBの差だ。その差は80。その差は小さなファクターひとつで簡単にひっくり返る」

 

「つまりここから先は私たちだけじゃなくAとBも簡単にクラスが入れ替わるってこと?」

 

「あぁ。だが、Aに関しては()()A()()()()()()()()()、の話だがな……」

 

 龍園が脳裏に浮かべるのはAクラスに控えているもう一人のリーダー。

 否、龍園は知っている。

 Aクラスの真のリーダー、本当の王こそこれから出張ってくる少女だ。

 坂柳有栖。

 一学年の頂点。Aクラスの女王。

 彼女はここから先、Aクラスを束ねる者としてその手腕を遺憾なく発揮してくるだろう。

 それは自分だけでなくどのクラスのリーダー格も理解しているはずだ。

 完膚なきまでに叩きのめされた葛城も、平和主義の一之瀬も。

 そして今回自分が手を組んだあの男も……

 

「(テメェが坂柳と繋がっていやがったことは見抜いてるぜ、黛……!)」

 

 柚椰が今回自分に協力を持ち掛けたのは、自クラスの惨敗を回避するため。

 表向きの理由はそうだろうが、当然そこに裏があることを龍園は見抜いていた。

 自分がAクラスを狙っていたのと同じように、柚椰もまた葛城を狙っていた。

 葛城は一番崩しやすい壁であり、自分や柚椰にとって非常に相性が良い。

 堅実な結果を求めることは確かに安牌かつ定石だ。

 だがそうであるが故に、葛城は搦め手に弱い。

 非情、卑怯、外道。

 そうした手段を講じた作戦が面白いほどに嵌まることを龍園も柚椰も知っていた。

 蹴落としやすい敵がいるなら集中的に狙うのは当然のことだ。

 しかし、だからこそ誰も疑わない。

 セオリーの裏に隠された見えざる影に気づかない。

 

「(坂柳は黛を利用して事を動かそうとした……()()()()()()())」

 

 それが意味することは二つ。

 ここから先は今までのように簡単な展開にはならないということ。

 そして事を動かすファクターとして、今後も柚椰の存在が大きくなるということだ。

 彼をどう利用するかで試験の難易度が大きく変わることは今回の特別試験二つで坂柳も理解しているはずなのだから。

 だがそれは切り札としては有用でも、決して頼みの綱にしてはいけないことも理解している。

 強力な手札は使えば使うほど、その強さに無意識の内に頼ってしまう。

 たとえどんな状況でも、その手札を切りさえすれば状況を好転させられると考えてしまう。

 それは思考の放棄であり、戦略の単純化を招く。

 黛柚椰という存在は、切り札として使えはしても決して頼りにしてはならない。

 毒を以て毒を制し続ければ、いずれその毒に芯から芯まで浸かってしまうことになるのだから。

 

「今後、Aクラスは強くなる。そして一之瀬もいい加減本腰入れてくるだろうな。だからこそ……次に狙うのはDクラスだ」

 

「Dクラス……確かにAとBに比べたらやりやすいだろうけど……」

 

「あぁ。お前の懸念材料は黛だろ? だが心配には及ばねぇ。()()()()

 

 伊吹の懸念を先んじてかき消すすようにニヤリと笑う龍園。

 Dクラスという存在は、本来は全クラス中最も欠点の多いクラスだ。

 個々が欠点を抱え、それが一か所にかき集められたクラスこそがDクラス。

 普通であれば真っ先に狙い撃ちされる対象であることは言うまでもない。

 しかしそう簡単にいくほどDクラスの実態は甘くはない。

 落ちこぼれの集団であるDクラスを束ねる平田洋介。

 男女問わず、クラスを問わず幅広い交友関係を持ち、アクシデントに対して柔軟な対応が出来る櫛田桔梗。

 Dクラスの精神的支柱はこの二人だ。

 二人は言わばDクラスを守る盾。

 だがその盾は他のクラスのそれに比べれば強度は劣る。

 

「平田は雑魚だ。櫛田に関してもやり様はある。Dクラスの盾は壊そうと思えば簡単に壊せる。だが、Dクラスの真価は攻撃にある」

 

「攻撃……要は矛ってことか」

 

「あぁ。俺は7月に黛にしてやられたあの日以降、Dクラスの情報を徹底的に洗った。そして今回の優待者当てでガラクタ共の中にいる矛は絞り込めた」

 

「アンタが夏休み前から動いてたのはそのためか」

 

「あぁ。生徒の情報も教師にポイントさえ払えばある程度は手に入るからな」

 

 Dクラスの盾が平田と櫛田ならば、矛とは誰のことを指すか。

 一人は圧倒的才能を以て、いち早く試験を攻略した高円寺六助。

 決して他者と足並みを揃えることはせず、常に唯我独尊の態度を崩さない。

 しかしそのスペックは同学年の中でも群を抜いていることは調べがついていた。

 扱いはこの上なく難しいが、Dクラス最強の矛は間違いなく高円寺だった。

 そしてもう一人、まだ結果らしい結果は出せていないが洞察力に秀でた堀北鈴音。

 夏休みに入るまでは成績こそ優秀だが別段気にかけるほどの人間ではなかった。

 気が強く、自信過剰の女。それが夏までの彼女に対する龍園の評価だった。

 その認識を改め始めたのは無人島で邂逅したときだ。

 Cクラスが試験のルールを逆手に取った戦術を企てていることを彼女は断片的にも見抜いていた。

 彼女の名前をはっきりと覚えたのはその瞬間だった。

 伊吹の報告ではその後も無人島での生活において、彼女が起こした火種によるクラスの不和を防いだと聞く。

 対応に動いたのは櫛田だが、そのきっかけを作ったのは堀北らしい。

 その一点だけでも堀北がただ勉強が出来るだけの優等生ではないことは理解できた。

 不測の事態に対して動揺することなく事の裏まで読めるということは簡単なことではない。

 優待者当てでも自クラスの明確な勝ち筋こそ見出せていなかったようだが、他クラスの思惑については概ね把握している素振りがあった。

 さしずめ堀北はDクラスの頭脳と言ったところだろうか。

 まだ華々しい成果こそ上げていないが、いずれ思わぬ番狂わせがあるかもしれない。

 そういった期待も含めて、龍園は彼女を気に入っていた。

 

「Dの矛は高円寺と堀北だ。だが高円寺はあいつらが扱えるようなタマじゃねぇだろうな。だから攻撃要因は堀北のみ。アイツがDの頭脳であり、Dが他クラスと戦うための武器だ」

 

「それじゃあ黛は? 攻撃も防御も、寧ろアイツの方がDの要じゃないの」

 

「確かにアイツはDの中じゃ何もかもが飛び抜けてやがる。基礎スペックもどうやら高円寺より上らしいからな。だがあの野郎はDの奴らが武器にするにしては手に余る。とても飼い慣らせるような代物じゃねぇよ」

 

「それはそうかもしれないけど……でもアイツだってクラスが負けるのを黙って見てるわけじゃないでしょ。いくらわけ分かんない奴だからって、自分のクラスが負ければいつまで経っても上のクラスに上がれないわけだし」

 

 当然の指摘をする伊吹だが、それでも龍園の主張は変わらない。

 

「あぁ、そりゃそうだ。だが上のクラスに上がる方法は何もクラスポイントでのし上がるだけじゃねぇ。当然抜け道は存在する」

 

「抜け道って……2000万ポイント貯めるってやつ? でもそれって無理って話じゃなかった?」

 

「表向きはな。正攻法じゃどう足掻こうが2000万はおろか半分の1000万すら超えられねぇだろう」

 

「じゃあ上のクラスに上がる方法なんて……」

 

「抜け道っつったろ? 要は邪道も存在するってことだ。黛だけじゃねぇ。おそらく高円寺も何かしらの方法を見つけているだろうな」

 

「抜け道を見つけてる二人は、必ずしもクラスのために動くわけじゃないってこと?」

 

「そういうことだ。そもそもテメェらじゃ扱えねぇ武器を武器とは言わねぇんだよ。あの二人を当てにしてるようじゃDの奴らはガラクタのままだ。警戒するに値しねぇ。今のDはどのクラスよりも脆いってこった」

 

「そういうことね……」

 

「(尤も、懸念点がないわけじゃねぇが……)」

 

 伊吹には強気に言ったものの、龍園は必ずしもDクラスが雑魚だとは思っていなかった。

 高円寺と柚椰は確かにDクラスの勝利に貢献する確率は高くない。

 しかし一度協力する構えを取れば、二人がどのクラスの矛よりも強力な武器になりかねない。

 警戒し過ぎる必要はないが、楽観することは愚かだと龍園は感じていた。

 そしてもう一つ。龍園が考えていることがある。

 Dクラスの矛とは果たしてそれだけなのだろうかという疑問。

 調べた結果は確かにそれを示している。

 特定のステータスに秀でているか、あるいは全てのステータスが高水準でまとまっている人間。

 いくつか候補は存在したが、その中で脅威になりうる存在は先ほど挙げた三人だけだ。

 だが龍園は感じていた。

 Dクラスには未だ隠れた存在がいる可能性を。

 見えざる刺客。まだ刃を抜いていない暗殺者。

 

「(黛の言っていたことがブラフじゃないとしたら、いるはずだ)」

 

 龍園の脳裏によぎるのは夏休み前の一幕。

 黛柚椰という人間の異常性を認識したあの日、彼は戯れにあることを語った。

 Dクラスの担任が見初めた上のクラスへ上がるためのファクター。

 他クラスと戦うために、ガラクタの中から選出された武器。

 それは柚椰と堀北。そして()()()()いた。

 正体不明の存在。顔の無い生徒。

 柚椰の話を全て信じているわけではないが、龍園は本能的にそれが真であると感じ取っていた。

 言わばそれは野生の勘というものだろうか。

 

「(Dクラスの隠し手……黛や高円寺と同格か、あるいは……)」

 

 もし柚椰が言ったことが本当ならば。

 自分から注意を逸らすためではなく、本当にその存在がいるのだと示していたのだとしたら。

 

「面白れぇ……!!」

 

 こみ上がる感情は歓喜一色。

 新たな敵の存在は龍園の闘争心を煽るのに十分だった。

 しのぎを削る相手は多ければ多い方がいい。

 特にこれから先、一学年を四つ巴の状態にしたいと考えている龍園にとってそれは好都合だった。

 Dクラスに柚椰以外の強敵が存在し、それが明るみになればAクラスやBクラスの関心もそちらへ向くだろう。

 警戒対象が増えるということはそれだけ気を張り巡らさなければならないということ。

 そういった状況は隙を突くのにうってつけだ。

 打算的な理由はいくらでも挙げられるが、強敵が増えることへの純粋な歓喜がほとんどを占めていた。

 龍園翔という人間は、ともすればどのクラスのリーダーよりも戦いというものに飢えていた。

 

「(炙り出してやるよ……獅子だろうが怪物だろうが丸裸にして喰い殺す!)」

 

 瞳に歓喜を宿し、口角を上げる龍園は狂気的という他ない。

 纏う空気は飢えた獣のそれだ。

 最高の餌を前にどう喰らってやろうかと算段を立てる餓狼。

 その姿はまさに『狂王』。

 龍園を形容する言葉としてはこの上なく相応しい。

 

「アンタが何考えてるのかは知らないけど、あんまり危ないことはしないでよね」

 

 笑みを浮かべる龍園に対して呆れたように伊吹が言う。

 伊吹の言葉が可笑しかったのか龍園は意識を彼女へ戻した。

 

「なんだ、心配してくれんのか?」

 

「冗談。アンタなんて心配するだけ無駄でしょ。私まで余計なゴタゴタに巻き込まないようにしてってことよ」

 

「そこでクラスって言わねぇ辺りお前らしいな」

 

 揶揄うようなニュアンスを含んだ龍園の言葉に伊吹はフンと鼻を鳴らした。

 

「私は自分が一番可愛いんだよ。アンタの言いなりになるのは今でも納得はしてないけど、他のクラスを倒してAに上げてくれるならそれに越したことはないだけ。特別試験二回でアンタ以外にCのリーダーは務まらないってことはいい加減理解したし、アンタが好き放題やって結果的にクラスが勝てるなら私は素直に従うさ」

 

「ククッ、媚び諂う馬鹿共よりかはお前みたいなエゴイストの方が俺は好きだぜ?」

 

「アンタに好かれても全く嬉しくないんだけど」

 

「どうだ、俺の女にならねぇか? イイ思いさせてやるぜ?」

 

 右手を自らの股間に持っていきニヤリと笑みを浮かべる龍園。

 そんな彼を伊吹はゴミを見るような目で睨む。

 

「笑えないんだけど。その付いてるモノ蹴り飛ばされたくなかったらやめろ」

 

「おー怖い怖い。噛み付きっぷりは変わらねぇようでなによりだ」

 

 両手をヒラヒラとさせて冗談めかす龍園。

 下世話なジョークに対する反応も相変わらずだった。

 その事実を認識し、龍園は伊吹が自分に服従しているわけではないのだと改めて理解した。

 

「言ったろ。納得はしてないって」

 

 念押しするように伊吹は冷たく吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葛城派は随分大人しくなったわ。二学期からはアンタが名実ともにリーダーでしょうね」

 

「そのようですね。あまりに呆気なくて残念ですが」

 

「よく言うわよ。直接手を下さず、彼を使って葛城を潰そうと考えた時点でこうなることは想定済みだったんでしょ」

 

「ふふっ、そうですね。葛城君も決して弱くはありませんが……相手が悪かった、ということです」

 

「ホント、つくづくアンタって性格悪いわ」

 

 学生寮の一室で女生徒二人が語り合っている。

 一人は部屋の家主である神室真澄。

 そしてもう一人は──

 

「誉め言葉、と受け取っておきますね」

 

 ティーカップを片手に微笑むのは坂柳有栖。

 Aクラス坂柳派のリーダーであり二学期からは本格的にAクラスの女王として君臨する少女だ。

 家主が出した紅茶を優雅に飲むその姿は育ちの良さを感じさせる。

 性格の悪さはさて置いてもやはりお嬢様なのだと認識させるだけのオーラがあった。

 

「葛城君は堅実な人です。多くは求めず、安定的な方法を好む。司令塔の在り方としては決して間違ってはいません。ですが、支配者としてはあまりに脆弱です」

 

「脆弱、ね……」

 

「会社で例えるなら、葛城君は部署のリーダーとしてはこの上なく相応しい人物です。しかし会社全体の舵を取る経営者としての資質はない」

 

「なるほどね。リスキーな方法や誰かを潰すことへの貪欲さがないからってことか」

 

「現状維持という選択は一見正しいように映りますが、それは()()()()()です。周りが前進している間に歩みを止めていればそれは退化。退化を選ぶ者に、上に立つ資格はありません」

 

 辛辣な物言いだが、それが坂柳が下す葛城の評価だった。

 

「それを突き付けるための惨敗ってわけね。結果、目論見通り葛城は虫の息。もうアイツに付いてる人間はアイツに心酔してる数人程度。他の人間はアンタを待ってる状態よ」

 

「黛君と龍園君。他クラスの要相手に全く太刀打ち出来なかったという結果は大きいです。今後も彼らと矛を交える機会は幾度となく訪れる。その度に負けていればAからB、BからC、そして最悪の場合Dへと落ちることだってあり得る。それを黙って許容できるほど、クラスの方々はお人好しではないでしょう」

 

「まぁね。Aクラスは我が強い奴も多いし、プライド高い奴はもう葛城なんて当てにしてられないでしょうね」

 

「だからこそ、Aクラスには葛城君より強く、より容赦のないリーダーが必要なのですよ」

 

「まぁこれからは安泰でしょうね。アンタ以上にAクラスを纏められる人間なんていないでしょうし」

 

 神室真澄は思う。

 目の前の女こそAクラスの女王に相応しい。

 彼女を打ち負かすことが出来る者など、誰一人とて存在しないと。

 それはAクラスの中でも、一学年の中でも同じだ。

 坂柳有栖という人間はどこまでも冷徹に、どこまでも冷酷に敵を潰す。

 他クラスに限らず、恐らくクラスメイトだろうと敵と判断すれば容赦はしないだろう。

 非情に映るかもしれないが、だからこそAクラスの王としてはこの上なく適任だ。

 

「ふふっ、葛城君の失脚で舞台は整いました」

 

 対抗馬が消えた今、満を持して女王は動き出す。

 

「黛君の報告では、龍園君も私と同じようにクラス争いを激しくさせたいご様子。であるならば、私もAクラスを束ねる者として参加しないわけにはいきませんね」

 

 艶やかな笑みと鈴の音のような声。

 しかし紡がれたのは好戦的な性を隠さない開戦宣言。

 不整合なそれらが齎すのは圧倒的な覇気。

 冷たく突き刺すような空気に神室は思わず息を呑んだ。

 対象が己ではないと分かっていても尚、身体が震えてしまうほどに。

 女神が大鎌を振り上げているような絶対零度の殺気。

『無敵の女王』。

 死の女神とも呼ばれるそれを神室は坂柳有栖に重ね合わせていた。

 底知れぬ恐怖が身体を蝕むが、同時に感じるのは圧倒的な安心感。

 自分が服従させられた相手はやはり怪物だったのだと実感させる。

 

「(優待者当てでは下準備に動いていたようですし……いよいよ、ですね)」

 

 龍園翔、黛柚椰。目下の強敵は二人だが坂柳がそれと同じくらい、いやそれ以上に意識している相手が一人。

()()()()()()見初めていた唯一無二の好敵手。

 同学年の中で、いやこの学校で最も手強いであろう強敵。

 坂柳有栖は確信していた。

 己が最後に衝突する相手は、もし万が一敗れる相手とすればそれは──

 

「(嗚呼、綾小路君……)」

 

 その名を、その顔を頭に思い浮かべただけで心が躍る。

 自分が本気で戦える相手。心から潰したいと思える相手。

 それはずっと前からただ一人だった。

 龍園も柚椰も、侮ってはならない相手であることは確かだが()()()()()()

 自分が待ち望んでいる人は、焦がれている相手はあの時から一人だけ。

 綾小路清隆。

 教えてやらなければならない。知らしめてやらなければならない。

 

 

「(早く貴方と戦いたい。貴方を完膚なきまでに叩き潰したい!)」

 

 

 

 坂柳有栖は宿敵(おもいびと)に誓う。

 

 

 

 勝つのは、私だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。
今回は龍園君と坂柳ちゃんの幕間ということで。
時系列的には旅行から帰ってきた直後ですね。
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