『救世主……救世主よ……
声が――――。
「声が、聞こえる! 俺に救けを求める声が!!!! ヒーローを求める声が!!!!!!!!!」
「ええっ!? とうとうおかしくなっちゃったの?? いや元々ご主人様はおかしいけど」
「行くぞ!!!!」
俺は僅かな体力を振り絞って走り出す。ツキも追ってくる。
『そこを前です』
前を走る。
『左です』
脳に響く声を頼りに方向転換していく。
そうして、石造りの廃墟のような建物に辿り着いた。外観からは一軒家とそう変わらない広さに見える。
損傷激しくほとんど意味をなしていないドアを押し開け、中に入った。
「来てくださり、ありがとうございます」
廃墟内には、メイド服を着た女性が立っていた。お辞儀をして迎えてくれている。
俺は倒れた。
「まず水と食べ物を下さい!!!!!!!!」
ツキが代わりに叫んだ。
「ガツガツもしゃもしゃガツガツもしゃもしゃ」
「もぐもぐもぐもぐごくんっ」
俺たちはメイド服の女性がどこからともなく出した料理を食っていた。
飢えた状態から大量に食ったあと水で流し込むと、最高に気持ちいいぜ。
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。俺は
「私はツキだよ」
「メリルと申します」
メリルはお辞儀した。
「恵んでもらってるところ悪いんだけど、こんなところでどうやって食糧到達してるの?」
俺が食い続ける中、ツキが話を進めていく。
「この料理は私の《サモンアビリティ》で保存していたものを取り出しただけですので、この世界にまともな食料は、もうほとんど残っていないでしょう」
「《サモンアビリティ》ってことは」
「はい、私は召喚獣です」
「なら、メリルさんの召喚者は……? ここにいるの?」
「私の
「え……」
「なら、なぜメリルは存在できているんだ?」
スパゲッティを口から垂らして、俺も口を挟んだ。
「それも含めて、召し上がりながらで構いませんので、私の話を聞いていただけませんか?」
メイド服を着た召喚獣は、そう言い置いて
「――この世界も、かつては緑豊かで、多くの国が存在し、人の活気に溢れた世界でした」
「ですが、突然、何の脈絡もなく、邪悪が現れたのです」
「その名は――‡【貪食生命体オールグール】‡」
「すべてを喰らってしまうオールグールを前に、国が次々と滅んでゆきました」
「この世界は突然の災厄に、対応できなかったのです」
「世界は急速に終わりへと向かって行きました」
「それでも、滅びに抗う者たちも、強い意思を持って確かに存在していました」
「この世界の人々は、追い詰められた結果、召喚者と召喚獣というシステムを作り出すことに成功しました」
「その召喚者の一人が、私の主様です」
「しかしオールグールは強大過ぎます。抗う気高き召喚者たちも、一人、また一人と殺されて行きました」
「最後に残った私の主様は、あらゆるものを保存して置ける私たちの《サモンアビリティ》、【インフィニティボックス】で、私だけを残したのです」
「いつか、誰かオールグールを倒してくれる人が別の世界から来訪するまで」
一通り話し終わったメリルは一息ついた。
俺はお茶を飲み干してまだ残っている疑問を口にする。
「俺たちが見た石碑は? この世界にはオールグールについて記述した石碑があった」
「主様以外にも、オールグールと戦う者を増やすために残した方がいるのでしょう」
「なぜ俺は召喚者になれたんだ。それになぜオールグールは††Summoned Beast Battle Royal††なんてもんを仕掛けたんだ。この世界のようにオールグールが直接喰らえばいい話だろう」
「その††Summoned Beast Battle Royal††とはなんでしょうか?」
俺はオールグールが仕掛けた召喚者同士の殺し合い。††Summoned Beast Battle Royal††について説明した。ついでに誰も殺さないように解決してきた武勇伝も語った。
「オールグールはこの世界で召喚者や召喚獣を喰らい、その力さえも喰らい奪っていました。恐らくその力を利用して大海様の世界の人々に与え、何かをたくらんだからでしょう。または、元から召喚者になる素質を持った人間が大海様の世界には存在して、その召喚者を利用して何かをたくらんだ可能性もあります」
「なんだかよくわからんな」
「どちらにしろ、オールグールの目的はすべての捕食です。この世界だけに飽き足らず、大海様方の世界をも喰らおうとしていることは確かです」
そちらの方がわかりやすい。オールグールは何かをたくらんでいるが、つまりは喰いたいだけらしい。
「俺たちがこの世界に飛ばされたのは、偶然か? 敵の召喚者に飛ばされたんだが」
「運命のような偶然、の可能性もありますが、オールグールが大海様方を邪魔に思って直接排除に動いた可能性もあります。大海様はオールグールが作ったルールを妨害するようなことをしてきたのですから」
俺が誰も殺さずに救ってきたから、殺し合いをしてほしいオールグールにこの世界へ放り込まれたってのか?
「そういや、俺たちを襲って来た外にいる黒いやつらはなんだ?」
「あれはオールグールが残した食欲だけの瘴気です。その
「あ……」
そうだ、あの黒い球体が俺たちに向けていた殺意とは違う意思。
それは、食欲だったのだ。
怖気が走った。
あれが、捕食者に食欲を向けられるという感覚か。
今実感となって広がる。
一生こんな感覚知りたくなかったぜ。
「では、大海様、ツキ様、あなた方は、オールグールと戦っていただけますか?」
メリルが、俺の目を見つめてくる。
「当たり前だ」
「わたしはご主人様と運命を共にするよ」
「オールグールは、次元の狭間に居ます。私が、その場所までの道を作る手段を託しましょう」
メリルがどこからともなくランプを取り出した。
「これは、主様が作り上げた特別な魔道具。オールグールまでの道を、一度だけ開くことのできるものです。このランプに火を灯せば、道が
このランプは、必至に戦い抜き次に託した者の、命を賭した結晶か。
メリルがランプをテーブルの上に置き、俺たちの前へ差し出す。
「悲劇を、どうか終わらせてください」
「その思い、受け取ったぜ!!!」
「私が大海様方の世界まで帰還するゲートを開きます。この魔道具を使用するには少々時間がかかりますので、お待ちください」
そう言ってまたどこからともなく取り出した宝石を両手で握り込むと、メリルの体が淡く発光し始めた。
俺たちは、決意を携えてこれから帰還する――――
ドクンッッッッッ!!!!!!!!
妙な気配。
本能全てが警鐘を鳴らしている。
そして震動が世界を襲っている。
今もまだ続いている。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!
何かが、近づいている。
「そんな、まさか……」
メリルが慄き驚愕、絶望の顔をしていた。
俺はボロボロのドアを蹴り開けて、外を見る。
地平線の向こうから、無数の黒い球体が、津波のように迫っていた。