召喚獣狂騒曲   作:ソウブ

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†七章†

 

 

【貪食】達を何とか撒いて、俺たちはとりあえず、俺の家に隠れ潜んだ。

 

 建物の外、遠くで建物が崩れる音が聞こえる。

 ここが襲われるのも時間の問題だろう。

 

 大惨事になってしまった。早く【貪食】達を(たお)さなければ、被害が広がる一方だ。

 

 こんな状況だから、警察や自衛隊も動くのだろうが、奴らを召喚者と召喚獣以外が倒せるとも思えない。

 下手すれば誰か偉い人が核を撃つという最終手段に出かねない。そうなればこの町は消える。どちらにしろ早急に【貪食】を殲滅する必要がある。

 

「う……うぇ……ひぐっ……」

 

 雫は泣いている。アリスが雫の手を握っていた。シュバルツェスツインドライブも寄り添っている。

 

 雫はいつも強くかっこよくありたいと考えているようだが、本質は心の脆い幼女だ。化け物共が殺戮する光景を見て、泣きだしてしまうくらいには。このぐらいの年なら当然かもしれないが。むしろ一切泣く様子のないアリスが異常に強いのだ。

 

「早く戦わせろォ―!」

「ちょっとこっち来てください」

 静かにしととねちゃんが言い、ライライを引き摺っていく。

 ドアが閉まった。

 俺はドアに耳を当て、外の音を探る。

 

「あなたにはデリカシーというものがないんですか!? 雫ちゃんが泣いてるんですよ!!?? ちんこちょん切りますよ!!!!」

「お、おう」

 

 

「これからどうするの?」

「まず【貪食】一体をみんなで叩くことを考える。異存はないか?」

 ツキの言葉に応じて方針を告げると、泣いている雫以外の全員が頷いた。

 オールグールだって全員揃ってなかったら生き残れたかどうかだから、戦力を分散させるのは避けた方がいい。

 

「あ……お父さんとお母さんは……?」

 泣いていた雫が、はたと気づいたように言った。

「どうした雫」

 雫がスマホを取り出してどこかにかけている。

「繋がらない! 繋がらないよぉ……!」

 今町は大惨事だ。電話はパンク状態だろう。

「お父さんとお母さんがあの怪物に食べられちゃう! 助けに行かないと!」

 こんな状況だ、確かにいつどこで喰い殺されていてもおかしくない。

 

「お父さん……! お母さん……!」

 

「……」

 雫が両親を心配する姿が、妹の夕奈と重なった。

 守ってやらなければ。

 

「助けに行くぜ!!」

「それでこそご主人様!」

 

「戦いたくないけど、そうも言ってられないかな……覚悟を決めるよ」

 引野が眼鏡のブリッジを上げ、額に汗を垂らしながら零した。

「なあに、アタシも一緒だ。気楽に行け!」

 

「バトルゥ……」

 戻ってきたライライが控えめに呟いた。

 

 

 俺達はさっそく行動に移した。

 家から出て、雫の先導の元、雫の家へと向かう。今日両親は仕事が休みで、ほぼ確実に家にいるらしい。

 

 電信柱が倒れる道。車が(ひしゃ)げて置き捨てられている。割れたコンクリートの道を、【貪食】が暴虐した地を走る。

 

 

 

 

 すると突然、壊れた二階建ての一軒家の陰から【貪食】が躍り出て来た!!!!!!

 

 

 

 

 全身どす黒い緑色の肌。蛙のような姿。長い舌が巨大な口腔から覗いている。

 

【第一貪食】《ハングリー》

 

 脳内にそんな文言が浮かんだ。畏怖を強制的に叩きつけられる感覚。

 奴の名は、【第一貪食】《ハングリー》

 

「ちぃ! 今は急いでるってのに!」

 

 

【貪食】討伐戦――開始

 

 

 《ハングリー》が、舌を神速で薙ぐ。

 

「【ピンポイントファイナル】!!」

「【ファイヤーデストラクション】」

「【ジャイアントダークネス】!」

 

 ドリルゴンの回転する突先が、引野がコントローラーで操作する炎が、シュバルツェスツインドライブの爪が、《ハングリー》の舌と初太刀(しょだち)をぶつけ合う。

 

 三組の召喚者の攻撃が一度に衝突したのだ。大抵の攻撃は通用しない。

 だが、押し負けたのはこちら側だった。

 ドリルゴンとシュバルツェスツインドライブが弾き飛ばされ、炎が消し散らされる。

 

「こいつ、強えぜェ……」

「ああもうだから戦いは嫌だって言ったのに!」

 

【貪食】は、やはり一体一体がオールグールと同等かそれ以上の強さだ。

 

「【ウルトラミラクル】!!!!!」

 

【勝利条件:全裸で全身に(のり)を塗りたくって、10分壁にくっつけ】

 

 俺はコンビニに走り、陳列されている糊をありったけ全身に塗りたくった。

 その間に皆が負けないことを祈る。

 そして全速力で走り戻る。

 近くにあった民家の壁に張り付く。

 

「みんな!!!! 頼む!!!! 時間を稼いでくれ!!!!」

「絵面最悪だよ!!!!!!!!!」

「もう切り落としましょうか」

「今回ばかりは賛成しそうだよ。【ウルトラミラクル】が出した条件だからしょうがないんだけど」

 

 張り付くとはいったが、糊だけで人体が壁に張り付けるわけもない。実際は僅かなでっぱりに手を引っ掻けて腕力で壁に取り付いている。しかもオールグール戦で右腕を奪われたから左腕だけで体重を支えている。俺の気合という闘争心のみが支えている。だからかなり苦しい状態だ。本当に10分も持つのか。無駄に股間にまで糊を塗っちまったから、なんか股間も痛くなってきたし。あとで病院確定か???

 

 《ハングリー》が舌を差し向けてくる。

「シュバルツェスツインドライブ!」

 雫の声に応え、シュバルツェスツインドライブがこちらに跳躍、爪を振るい、舌を逸らした。

 正面からのぶつかり合いなら三人がかりでも押し負けるが、逸らすことなら何とか可能なようだ。

 逸らされた舌が隣にあった民家に衝突、全壊した。

 

 攻防で発生した衝撃の余波で手を滑らせそうになる。

「ぐぅぅぅっ! 耐えろ! 俺!」

 

「貴様の《サモンアビリティ》の発動を待つまでもねえ。オレが倒してやる!」

 

【ピンポイントファイナル】でドリルゴンが突っ込んだ。しかし《ハングリー》は軽々とジャンプして避けて来た。蛙型だからか、驚異的な跳躍力だ。ジャンプの初速が見えなかった。そして《ハングリー》は、自らの下を通り過ぎていったドリルゴンを背後から舌を(しな)らせ打つ。もんどりうって吹っ飛び建物を壊していくドリルゴン。

 

「協力してよお! 君が死ぬのは勝手だけどさあ、この戦況で一人でも欠けたら戦力落ちて戦線瓦解してぼくたちも殺されるんだよお!!!!」

「やかましい! 奴が【ピンポイントファイナル】に対してどこまで動けるか試しただけだァ!!」

 

 《ハングリー》が舌を薙いでくる。ライライ、引野、雫たち三組で防ぐ。フェイント。搦め手。崖っぷちの攻防が続いていった。

 そして仲間は疲労していく。

 徐々に《ハングリー》が押していく。

 

【ウルトラミラクル】の条件達成までの残り時間は、数えていなくても自然と理解できていた。

 

「あと2分は張り付いていなけりゃならねえ。持ってくれ俺の腕力! 耐えてくれ仲間たち!」

 

 だが、戦局の均衡は崩れた。

 《ハングリー》の舌に、ライライたちは薙ぎ飛ばされる。

 

「ぐああああああああア!」

「ああああああああ!」

「きゃああああああ!」

 

 防衛線は、突破された。

 壁に張り付く俺の元へ、蛙型の【貪食】、《ハングリー》がジャンプして接近してくる。

 

 あと10秒はあるっていうのに……!

 

「【ハッピークロニクル】!」

 

《ハングリー》は"偶然発生した気流"に、"たまたま体勢が悪く【貪食】という規格外にもかかわらず気流程度で体勢を崩し"、俺の後ろを通り過ぎて地面に着地した。

 

「ここぞという時を狙ってました!!!! 前回は初手ぶっぱで息切れしましたからね! 同じ失敗はしません。あたしは有能な召喚獣。アリスちゃんの召喚獣ですので!!!」

「……頑張って……しととねちゃん……!」

 

 何度も《ハングリー》は俺に飛び掛かるが、何度も【ハッピークロニクル】で防がれた。

 

《ハングリー》が俺に舌を伸ばす。その速さ神速。

「【ハッピークロニクル】!」

 防ぐ。

 あと8秒。

 

《ハングリー》が俺が張り付いている建物を壊そうと舌を振り下ろす。

「【ハッピークロニクル】!」

 防ぐ。

 あと6秒。

 

《ハングリー》が俺に向けて舌を伸ばすと見せかけてしととねちゃんへ伸ばす。

「【ハッピークロニクル】!」

 防ぐ。

 あと2秒。

 

「あ、【ハッピークロニクル】もう使えません。溜めた分使い切りました。品切れです」

「しととねちゃあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!」

 ツキが叫んだ。俺も叫んでいたかもしれない。

 

 舌が俺の眼前に迫る。

 

 俺の脳天は潰される。

 

 直前。

 

【条件達成:勝利確定】

 

【ウルトラミラクル:超動】

 

 10分、経ったぜ。

 

【ウルトラミラクル】の黄金色のオーラを纏っていた俺の脳天は潰されることなく、舌は弾かれる。

 

「ご主人様! いけええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 俺は《ハングリー》の元へ神速で飛ぶ。

 舌が伸ばされ俺に直撃するが、通用などしない。痛みすらない。

 

 連続の拳を叩き込んだ。

 

「ウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウル」

 

 最後の一発を放つ!!!!!!!!!!!

 

「ウルトラァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

《ハングリー》は爆発四散。消し飛んだ。

 

 俺はコンクリートの地面に着地し、立ち尽くす。

 

「やったねご主人様!!>ワ<」

「この勝利は。オレとドリルゴンが強かったおかげだなァ」

「ぼくは疲れたよもう~」

 

 ツキたちが駆け寄ってくる。

 晴れ晴れとしたみんなの顔を見て思う。

 

 全員揃ってなければ、勝利は得られなかっただろう。

【貪食】は、危険すぎる。

 戦う為には、毎回絶対に最大戦力で当たらなければならないだろう。

 改めて、そう確信した。

 

「それよりご主人様」

「なんだ?」

「ししょー……」

「……大海さん……」

「ちんこちょん切ります」

 

 ツキと雫とアリスが顔を赤くしている。約一名例外がいるが。その鋏しまえ。

 

「いや服早く着てよ!!!!!!!!!!」

 

 

 糊を洗い落として服を着た後、雫の家に向かった。

 雫の両親は家にいて、保護することに成功した。家で、雫の帰りを待っていたのだ。電話が繋がらなかった状況で、入れ違いを避けるために一旦待つ選択をしてくれていた。

 だが化け物蔓延(はびこ)る外に娘がいることの危惧は強かったのか、あと一歩遅ければ雫を外に探しに出ていたところだったらしいから、何とか間に合った形だ。

 

「よし。二人には安全な場所に逃げてもらってから、戦いに行こうぜ」

「ししょー……安全な場所なんてあるの? お父さんとお母さんのそばを離れられないよ」

 

 雫は両親に抱き付いて離れたがらない。離れたら両親が【貪食】に襲われるかもしれないのは、確かに事実だ。

 だが全員で戦わなければ勝機は薄い。

 

「ご主人様、雫ちゃんはもう戦わなくていいと思うんだ」

 

 確かに雫は、【貪食】に追いかけられた時、殺戮を見て泣いていた。

 戦力が一人でも減れば勝機が薄いとはいえ、これ以上、この幼い少女を死地に赴かせて良いものかという考えがなくもない。

 雫の両親も、当たり前だが雫とここで別れるつもりはなさそうだし。

 戦いは厳しいものになるだろうが、そこは俺が何とかすればいい。

 戦いたくなければ、戦わなくていい。

 

「雫、まだ戦うか?」

 

「……我は、ここで逃げたくない。怖くても、戦いたい。ししょーたちに全部任せて逃げたら、どんな結果になってもずっと後悔すると思うから」

 俺の目を、決意の瞳で見つめてくる。じっと見つめてくる。

「よし、じゃあ一緒に来い。両親の説得は自分でやれよ」

「うん! わかった! ありがとうししょー!」

「そんな簡単に決めちゃっていいの!?」

「いいんだよ。もうこの類のことを考えるのはめんどくせえんだ。アリスの時も似たようなくだりやっただろ」

「適当過ぎる!(;´Д`)」 

「問題ねえ問題ねえ。誰も死にゃしねえって」

「フラグ立てないで!!><」

「結局なにがあっても俺が護ればいいだけだ!!!!!!!!! はいこれが結論!!!!!!!! 終わり!!!!!!」

 

「でも雫ちゃんの両親をどうするかは決まってないよ。どうするの? ご主人様」

 ツキが首を傾げて訊いてくる。

 

 俺は考えた。

 そして、答えを得た。

 

「別の召喚者に護衛を頼む」

「そんな人いるの? いたなら最初から強力仰げばもっと戦力が上がってたんじゃ?」

「俺たちをを異世界へ送った召喚者だ」

「あの人!? あのヒャハハハとかいってた無駄にテンション高い変な人!? わたしたち死にかけたし敵じゃん! 協力なんてしてくれないよ!」」

 

 召喚者同士は巡り合うから、あの召喚者と会うのは簡単だった。

 

「ヒャハハハハ!!! 奇遇だな」

 スカジャンを着たスキンヘッドの男に頭を下げる。

「頼む。協力してくれないか? 戦いが終わるまで、この人たちを保護してくれるだけでいい。もし【貪食】が来たら護ってくれるだけでいい。無理に戦わず、護ることを優先して逃げろ」

 俺は雫の両親を示しながら協力を要請する。

 

「こんな状況だからなあ。††Summoned Beast Battle Royal††もチャラになっちまったみてえだし、そっちが面倒ごと解決してくれるんなら、いいぜえ! ヒャハハ!」

「助かる」

【貪食】はすべての生物共通の敵だ。敵の敵は味方ということだぜ。

「任せておけぇえ! ワシの召喚獣、ブラックコインの《サモンアビリティ》、【ブラックボックス】なら保護は完璧だあ! 空間に穴をあけて別の世界や異空間に吸い込み追放する能力だが、ワシの作った異空間内なら入れた存在を元の世界に戻すことも出来る。異空間に入ってもらえば究極の保護完成だぁあ!!!! ヒャハハハハ!!」

 黒いコインにコミカルな目と口がついた召喚獣を指でつまみながらスカジャン男は自分の手を明かしてくれた。

 こいつは、信用してよさそうだ。

 

「めっちゃ協力してくれるじゃん……( ゚Д゚)」

 

「俺は大海代悟だ」

「ワシは下波心太朗(したばしんたろう)だぜえ」

 名を教え合い、握手した。これで俺たちは盟友だ。

「報酬はラーメン一杯でいいぜぇえ! ワシ美味いラーメン屋知ってんだよお! ヒャハハ!」

 

 味方になったら、気のいいやつだった。

 

 

 

 

 

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