召喚獣狂騒曲   作:ソウブ

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†四章†3

 

 

 

 俺たちは導かれるように、再び夜の街で会いまみえた。ひと気のない廃工場だ。

 

 

 ―††Summoned Beast Battle Royal††ー

 

 Battle Start…………

 

 

「シュバルツェスツインドライブ、【ジャイアントダークネス】」

 早速幼女が《サモンアビリティ》を使い、シュバルツェスツインドライブの漆黒巨体に漆黒のオーラが纏われる。

 一戸建てを優に超える巨体の圧は、死を犇々と感じさせる。

 そのオーラは力そのもの。敵を絶対に倒すという意思そのもの。

 正面から、物理的な力では敵わない強大!!!!

 

「【クァイエットストーン】」

 フード男にも即座に《サモンアビリティ》を使用され、【ウルトラミラクル】も【ハッピークロニクル】も封じられた。

 【クァイエットストーン】は一つの《サモンアビリティ》しか封殺できないという希望的観測も考えていたが、無意味に終わった。

 

「お前らの負けだ。ラッパー集団もこの場所なら通りかからない。詰みなんだよ。今度こそ、動かなくなれ」

 

 これで頼れるのは、己のラップのみだ。

 

 魂を、力の限り吐き出せ。(たけ)れ! 猛れ!

 

「貴様らは《サモンアビリティ》が使えない! 勝ち目なんてないんだよォォォォォ!!!!」

 

「お前なぞ、わざわざ能力で弱点を設定する必要すらないということだッッッ!!!!」

 

 俺には力が無い。だがラップがある。いや、ラップこそが、力なのだ。

 

 始まる。俺たちの熱き魂の賛歌が、ラップが、始まる。

 

 

「天誅ラップ! 正義ラップ! ()れより始まる断罪だ!」

「お父様……! お母様……! 見てて()てて()てて……!」

「ご主人様! 今行けてる? 超超生けてる? 活かしてる?」

「チンコチンコチンコちょん切る! 切ります!」

「しととねちゃん!?(゚Д゚;)」

「oh yeah!」

「お前が不幸にした少女の名を! お前が殺した人たちの名を! 言ってみろ! 覚えてるか?」

「アリスの名前 北条院アリス……! 不思議の国、のアリスじゃない。北条院。両親から貰った大切! 名字! 名前!」

「そんな大切奪った悪行悪鬼邪悪許しはしません! アリスちゃんの意志召喚獣あたし許しはしません! しととね許しはし ま せん!」

「普通にラップに混ざったしととね。わたしはさっきの発言忘れてない。そんなキャラでいいのかしととねちゃん! 過激な下ネタいいのかしととね!」

「ちゃんつけてちゃんつけてちゃんつけてちゃんつけてください」

「しととねちゃん!><」

「やったー!」

「なんだこれ(´Д`)」

「これは正義ラップ! これは正義ラップ!」

「そうだそうだそうだったご主人様! ソーリー」

「あなたは敵! なにより仇! 絶対に倒す!」

「あたしはあたしはアリスちゃんの味方です! アリスちゃんのために敵を倒します!」

「わたしもわたしもご主人様の味方! いつも一緒共に戦う召喚獣!」

「†正義†! JASUTIS! 一行一己(いっこういっこ)! お前は一個の邪悪だぜッ!!」

 

「あがああああああああああああああ!!! やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 俺たち渾身のラップが奴のハートに決まり、地面でのたうち回る。

 

「お前の負けだ!

 

 例え能力が使えなくても、場の流れが俺の味方をする!!!!

 

 流れを引き寄せ、掴み取ってこそのヒーローだ!!!!!!」

 

 

「黙れ!!!!!!」

 

 よろよろと立ち上がるフード男。

 

「まだだ。一歩も動くなよ。俺はこのガキの家に爆弾を仕掛けているんだ。ふへへははは……」

 

 フード男は幼女を指差しそう言って、懐から何かの起動装置のようなものを取り出す。

 

「この起爆装置を作動すれば、このガキの両親はドカンだ。俺は人差し指を動かすだけで起動できる。二秒もかからない。貴様らが一歩でも動けば、起爆する。へへふはは……」

 

 なんてことだ。この男はどこまでも屑なのか!!!!!!

 

 幼女は両親の命を楯に脅され従っていただけなのだ!!!!!

 

 最初に会ったとき謝ってきたのも、本意ではなかったからなのだろう。

 

「クソがッ!!!!!」

「許せないよ!!!」

「……ひどい…………」

「ファッキン絶対チンコ斬り刻んであげますからね」

 

 人質を取られた状況。

 俺たちだけなら、ここで窮地に陥っていただろう。

 しかし、ここには俺たち四人以外に、敵ではない存在が一人いる。

 そう、シュバルツェスツインドライブの主人、黒髪長髪の幼女だ。

 幼女が協力してくれれば、この窮地を脱することができる。

 

「さあ、覚醒(めざ)めろ!」

 

 正直、あの幼い少女が強力してくれなければ、詰みだ。

 あの脅され怯えた幼い少女に頼るのは、酷だろう。しかし、頼るほかにない。彼女が奮い立ってくれることを望むほかないのだ。

 そしてそれを期待して、俺は強がり余裕でい続けるのだ。

 

「そんな卑怯な手が通用すると思うな! お前はもう、ラップに屈している!!!!!」

 

 俺たちはフード男の脅迫には乗らず、ラップの勢いを強める。

 逆効果になりかねない暴挙!!! このまま起爆スイッチを押されたらBADEND間違いなし!!!!

 

 しかし、ここで幼女が動いてくれたなら!

 そうならば、別!!!

 

 これは、賭けなんだ!!!!

 

「ラップを止めろと言っているうううううううううううううううううう!!!!!!」

 

 ヒステリックに叫ぶフード男。 

 僅かな隙が、フード男にはできている!!

 

 今だ! 今なんだ! 今しかないんだ! 今動いてくれなければ、もうチャンスはない!!!!!

 

 俺はラップを刻みながら幼女の綺麗な瞳を見つめた。

 

 幼女の瞳は、決意を強く湛えていた。

 

「我覚醒せり!!!」

 

 幼女が叫ぶ。

 

 シュバルツェスツインドライブの爪が、フード男の起爆スイッチに掛けた手を弾いた。

 起爆装置が吹っ飛んでいく。工場の地面に落ちる音が反響した。

 

「なんだ、っとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!????? 俺に逆らうのかガキ風情があああアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 奴はラップへの苦しみと追い詰められた状況で、雫への注意を疎かにした。

 雫が戦う意思を持ちさえすれば、勝利できるほどに!!!!!

 

「それがお前の、敗因だ!!!!!!!!!」 

 

 (みち)ができた。奴へと拳を届けるための障害はもうない。

 

【ウルトラミラクル】は使えない。己の身一つで走り、フード男へ肉薄した。

 

 怒りと動揺に支配された隙だらけの奴へ、連続で拳を叩き込んだ。

 

「この下種野郎がァ! ウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウル、ッウルトラァアッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「ぐげぁあああああああああああああああああ!!!!!!!??????」

 

 錐揉みながら吹っ飛びドシャリと倒れ伏す。

 

 フード男は戦闘不能だ。

 

 

「勝った……」

 

 †――ううん、本当にこれで勝ったと言えるの?――†

 

 俺の頭に、夕奈の声で疑問がふと浮かぶ。

 

 †――流石にこの敵は、荒谷戒(あらたにかい)は、邪悪過ぎない……?――†

 あいつの名前は荒谷戒っていうのか。

 †――ねえ、お兄ちゃん。荒谷戒は、殺しておかなければならない邪悪な存在なんじゃないのかな?――†

 

【ウルトラミラクル】が使えない今、強制的に他者へ危害を与えさせなくする手段もない。

 

 確かに、こいつは殺さないと、いつかまた悪行を為し、犠牲が出るかもしれない。

 それか今すぐにでも起き上がって反撃してくるかもしれない。

 危険な存在だ。

 現にアリスの両親を殺害した殺人者だ。子供にも容赦なく不幸にしている。

 凝り固まった邪悪な思想を持つ存在。

 存在してはならない、排除しなければならない邪悪。

 これから真っ当になる見込みもない人非人(にんぴにん)

 野放しにしておけば、生かしておくだけで、誰かを不幸にする。

 

 殺しておくべきなのか? 殺人者だから殺すのか? それは正しいことなのか? 胸を張れるのか? 

 

†――殺すべきだよ。お兄ちゃん。勝たないと。††Summoned Beast Battle Royal††では敵を殺して、勝たないと――†

 

 夕奈がそう言うのなら、そうなんだろうな。

 

「だめだよご主人様。殺して、満足できる? それはご主人様が望んだヒーロー?」

 

 頭を駆け巡り反響していた夕奈の声を、ツキの声が塗り替えた。

 

 人を殺して勝つのが、俺が望んだヒーロー????????????????

 

「違う!!!!!!」

 

 違うんだよ。俺は、そんなもの求めていない。

 俺の記憶にある夕奈は、そんなこと望んでいない。

 夕奈は、優しくかっこいい理想のヒーローを求めていた。

 断じて人殺しを求めてなどいなかった!!!!!!!

 

「アリスは……殺してやりたい……でも、しない……殺したら、そいつと、同じになっちゃうから……」

「アリスちゃん……」

 絞り出すように言うアリスを、しととねちゃんが抱きしめていた。

 

 俺はスマホで警察を呼んだ。

 荒谷戒の犯罪証拠は起爆装置。

 召喚獣関連の事件は認識操作されるようだから、ただの犯罪者として逮捕される。

 

「お前の終わりはDEADじゃねえ。咎人は、法のジャッジメントを受けろ。それが通りってもんだ」

 俺はパトカーに入れられていく荒谷戒にそれだけ言い放った。

 

「これが俺の――HAPPY FIGHT END」

 

 いろいろ事情聴取とか面倒で時間がかかったが、解決した。

 雫の家にしかけられていた爆弾も撤去されて、もう安心だ。

 奴の能力自体は攻撃性のあるものではないから、脱獄を心配することはあまりしなくていいだろう。

 だが召喚者や召喚獣の力は未知数だ。何かしらの力を扱い、簡単に脱獄される可能性だってある。

 それでも、俺は殺さないと決めた。

 もし何らかの手段で脱獄したとしても、俺が何度でもぶっ倒せばいい。

 

 幼女――名前は渡瀬雫(わたらせしずく)と聞いた。雫は両親が迎えに来て、一旦別れることになった。

 

「わ、我を弟子にしてほしい!!」

「いいぜ」

「即答(゚Д゚;)!」

 

 弟子ができた。それからまた会えるように連絡先を交換した。

 

 両親に手を引かれての別れ際、雫が俺を見ていた。

 その瞳は、ヒーローショーのヒーローを見る子供のような瞳をしていた。

 俺が殺人を犯していたら、この瞳は怯えと忌避で彩られていただろう。

 

 だから、俺は正しいことができたのだと、安心できる。

 

「仇、取ったよ……お父様、お母様……」

 アリスが苦々しくも一つ乗り越えたような表情で、ポツリとそう言った。

 

 

 

 家に帰り、皆が寝静まった深夜。

 俺は眠れず、庭に出て夜空を眺めた。

 

 今回の戦い、【ウルトラミラクル】を封じられても相手を殺さずに解決できた。できはした。

「でも俺は、一度殺そうとしちまった。シットッ。情けねえ……」

「ご主人様……」

 いつの間にかツキが俺の隣に立っていた。

 

「助かったぜツキ。お前がいなければ、俺は夕奈に胸を張れない人殺しになっちまってたかもしれねえ」

 

 俺は、妹を裏切りかけた。

 一度でも人殺しを考えてしまったことは、俺の人生二番目の最大汚点だ。一番は妹を守れなかったこと。

 悔やんでも悔やみきれねえ。

 

「ご主人様はちゃんとヒーローやれてるよ」

「そうか……? そうだな! 知ってたぜ!」

「そうやって強がるところ、いいと思うよ。強く在ろうと、ヒーローで在ろうとしてる」

「…………人殺しになりかけたけどな」

「でも、殺さなかった。だから、なにも問題なんてないよ。ご主人様は、ヒーロー。夕奈ちゃんがいつも信じていた、ヒーロー」

「……サンキュー」

 

 俺は、今、ツキに心を支えられた。

 俺の心を支えるのは、妹にはできなかったこと。俺がヒーローで、守ってやらなけりゃならなくて、夕奈は俺にとってそんな存在だった。

 だが、ツキは俺を支えてくれた。隣に立ってくれる存在なんだな。

 

「そうだよな」

 

 ツキは、夕奈とは違うよな。

 ツキは俺の召喚獣で、妹じゃない。

 

「ツキ、すまねえ。今まで俺は、お前を妹の代わりに見てた」

「うん、知ってたよ」

「そうだったのか……すまねえ」

「謝らないで。わたしはそれでもよかったんだよ?」

「よかった?」

「うん。ご主人様の役に立てるなら、嬉しいから。わたしを夕奈ちゃんだと思うことで、ご主人様の心が軽くなるのなら、それでよかったんだよ」

「そうか……でも、今は違う。お前は、俺の召喚獣、ツキだ。お前はツキとして、俺の分身で、パートナーなんだ」

「うん。ありがとう」

 

「あ、このありがとうは別に妹と見られてたのが実はいやだったとかじゃなくて、召喚獣として、わたしとして見てもらえるのも嬉しいから言っただけなんだよ?」

「わかってらあ」

 

「……ん? でも夕奈ちゃんの代わりに見られてた割に対応が雑だったような…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「なんかいってよ!」

「俺はその時その時をノリで生きてるんだ!!!!!! 夕奈が生きてても似たような対応だったと思うぜ!!!!!!」

「最悪だよ!!!!!!!!」

 

 

 

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