ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】   作:皇我リキ

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プロローグ──繋ぐガンダム【ストライクBond】
繋ぐガンダム


 少年達は無邪気に笑う。

 

 手に持った人型ロボットの玩具をぶつけ合ったり、動かしたりするのが楽しいらしい。

 しかしふとした弾みで力が入り過ぎたのか、一人の少年が持っていた玩具の部品が折れてしまった。

 

 

「ガンダムの角、折れちゃった……」

 玩具を持っていた少年は先程までの笑顔が消えて、その表情を暗くする。

 友人の一人はそんな少年を見てオロオロとしているが何も出来ず、遂に少年は泣き出してしまった。

 

 少年達が無邪気に笑っていた空間は、泣き声に包み込まれる。

 

 

 そんな中で、もう一人の友人がトタトタとその場を離れて直ぐに戻ってきた。

 その少年は折れた玩具と部品を持ち上げると、手に持った木工用ボンドの蓋を開ける。

 

「……ボンド?」

「うん。学校で使った奴!」

 オロオロしていた少年が聞くと、ボンドを持ってきた少年は元気にそう答えた。

 

 

「大丈夫だよケイスケ! 壊れても直せば良いんだ!」

「壊れても……直す?」

 泣いていた少年は、木工用ボンドでお世辞にも上手く修復されたとは言えない玩具を見上げて小さな声を漏らす。

 

「直ってる」

「本当だ」

 それでも、少年達にとってはそれで充分だった。

 

 

「そうだよ。何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから───」

 これでまた、遊べる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ───GBN。ランダムフリーバトルエリア。

 

 

 赤い閃光が走った。

 人型の巨大なロボットが二機、己の得物である実体剣を振り下ろす。

 

 剣は火花を散らしてぶつかり合った。そんな光景に、特設された観客席にいる人々は歓声を上げる。

 

 

「いけー!」

「頑張れー!」

 人々の熱中の先にあるのは、全長十七メートル以上もある巨大な人型機動兵器。

 

 MS(モビルスーツ)

 機動戦士ガンダムという作品群に登場する、人型巨大ロボットの総称だ。

 その多くは有人兵器であり、大部分は作品の中で戦争行為に使用する兵器として描かれている。

 

 

 そんなMS二機が戦っているのを観て熱狂しているのは、なにも戦争行為を楽しんでいる訳ではなかった。

 

 

「あの()()()()凄いな。獄炎のオーガとまともにやり合ってるぞ!」

「SDガンダムのフルアーマー騎士(ナイト)ガンダムを、初代ガンダムのプラモを使ってリアル等身で再現したガンプラか。完成度高いなおい!」

 ガンプラ。

 MS───ガンダムのプラモデルを総称する略称で、ガンダムと呼ばれるロボットの他にもガンダム作品に登場する多種様々な兵器のプラモデルの事である。

 

 

 ここGBNは、電脳仮想空間でガンプラを使ったバトルを中心に楽しむ世界規模のネットワークゲームだ。

 ゲームのプレイヤーは仮想空間にダイバーとしてログインし、自分の作ったガンプラを操縦する事が出来る。

 

 プレイ形態も様々で、純粋にバトルを楽しむ者やランク上げを目指す者もいれば仮想空間での情報集めや遊戯を楽しむ者等様々な楽しみ方があるのがこのGBNだ。

 

 だから人々が熱中しているのは、本当の戦争ではない───ガンプラ同士の戦い。

 

 

 

 ───ガンプラバトル。

 

 

 

「やるじゃねぇか!!」

 二機の内、赤い機体を駆るダイバーが声を上げる。

 機体のスラスターが火を拭いて、彼の機体は一度もう一機の機体から距離を取った。

 そして肩部に繋がれた巨大なバインダーを開き、両手に構えた二本の剣を構える。

 

 

「負けるものか!」

 対面する機体は機動兵器としてのMSガンダムには差異のある、西洋の騎士のような装備を身に纏ったガンプラだ。

 甲冑に大きな盾と剣。構えた剣はまるで燃えているかのように炎を纏っている。

 

 

「さぁ、お前の強さを……もっと俺に食わせろぉ!!」

 硬直状態から、先に動いたのは赤い機体だった。

 

 スラスターを吹かせて前進する機体は、肩部のバインダーも相まって凄烈である。

 それを見て後退りそうになる対面の騎士。そのパイロットは息を飲むが、これはバトルだ。

 負けても死ぬ訳ではないが、だからこそ負ける訳にはいかない。

 

 

「くそ! くらえ、炎の剣!」

 甲冑を着た機体は、燃える剣を横に振り炎の波動を飛ばして牽制を謀る。

 三度払われた剣から放たれた炎をしかし、赤い機体は一撃を交わして残りの二つを両手の剣で受け止めた。

 

「嘘だろぉ!?」

 悲鳴を上げながら巨大な盾を構える騎士に、赤い鬼のような機体が肉薄する。

 

 

「うぉぉおおお!!」

「ちくしょぉぉ!!」

 雄叫びを上げる男の刃が、騎士の甲冑ごと機体を三つに裂いた。

 

 

 爆散する機体。

 それと同時に歓声が上がる。

 

 

 Battle End

 モニターにそう表示されて、赤い機体のパイロットは口角を吊り上げた。

 

 

「惜しかったなぁ」

「でも九連勝じゃねーか。また獄炎のオーガが十連勝かぁ?」

「ランダムフリーバトル、六連勝からダメージに補正が入るのに勝ち続けてるのおかしいだろ」

 歓声に混じるそんな声。

 

「十連勝の特別報酬の称号って、十連勝二回するとどうなるんだ?」

「経験値ボーナスと、なんか凄い量のビルドコインに変換じゃなかったか?」

「ズルだろ。いや、十連勝なんてそんな出来る訳ないけどさぁ」

 GBN内に新しく設置されたランダムフリーバトルエリアは、その名の通りランダムで対戦相手が決まりバトルをする。

 十連勝する事でゲーム内で使用出来る称号などが手に入るのだが、現在対戦中のプレイヤーはその一歩手前である九連勝まで勝ち進んでいた。

 

 

「彼も流石ね。一年前から更に磨きがかかってるわ」

 観客達がいう獄炎のオーガというプレイヤーは、一年程前から名前の売れ出した凄腕のダイバーである。

 

 

 GBN内で()()()()()()()()()()での活躍もあり、ゲーム内ではかなりの有名人だ。

 

 

 

「さぁ、次の相手は誰だ。食い足りねぇぞ!」

 まるで九連戦した後とは思えない覇気を見せるこの男こそ、オーガという人物である。

 フォース百鬼を率いるリーダー、獄炎のオーガの名は伊達ではない。

 

 

「お、次の対戦相手だぜ」

 観客の一人がそう呟いて、特設ルームにいるダイバー達はバトルフィールドやモニターに視線を映した。

 

 

 

 エリアのどこからともなく現れた穴から、一機のMSが飛び出す。

 機体の色は全体的に灰色で、バックパックから肩までのみ青い部品が目立つ機体だ。

 

 両肩部には円錐状の部品が取り付けられていて、緑色の粒子を漏らすその部品を見てオーガは口角を吊り上げる。

 

 

「───ツインドライヴか……っ!」

 GNドライヴ。ガンダムOOに登場し、劇中にて太陽炉とも呼ばれる()()()()()()()()()()だ。それを二つ装備しているから、ツインドライヴ。

 オーガの機体は類似する擬似太陽炉という装備を有し、さらに彼が最もライバル視する人物もその装備を使用している。

 

 

「獄炎のオーガ、か。運が良いのか悪いのか……っ!」

 灰色の機体のパイロットは、舌を巻きながら苦笑い気味に声を上げた。

 スラスターを吹かす機体は一気に加速して、オーガの機体へと肉薄する。

 

 そして構える得物はオーガの機体と同じ一対の実体剣。

 威勢よく突進してくる相手にオーガは口角を吊り上げて、不敵に笑った。

 

 

「懐に飛び込めば!」

「威勢だけか確かめてやる!」

 突進する灰色の機体。対するオーガは正面から受け止める事を選択したのか、両手の剣をクロスして構える。

 

 刹那、両者の刃がぶつかり合って火花が散った。

 パワーは互角───とは言い切れず、オーガの機体が灰色の機体を押し始める。

 

 

「威勢だけかぁ!」

「そんな事!!」

 しかし、次の瞬間機体の頭部が火花を散らした。

 オーガの機体に叩き付けられる銃弾。頭部に装備されたバルカンが連射される。

 

 

「何!?」

「押し切る!!」

 大したダメージではない───事はない。

 

 このランダムフリーバトルでは連勝すればする程、攻撃の被ダメージが大きくなるのだ。

 ただのバルカンだが、今のオーガには無視出来ない。オーガは一度距離を取ろうと機体を持ち上げる。

 

 しかし灰色の機体はそれを追うように地面を蹴った。バルカンを撃ち出したまま、赤い機体を追い掛ける。

 

 

「オーガが引いたぞ!」

「十連勝阻止か!」

「……あの機体、OOガンダムがベースじゃないわね」

 歓声に混じって盛れるそんな声。モニターをよく見て機体の頭に意識を向けると、その声の主は「なるほど」と笑みを漏らした。

 

 

「もう一度踏み込んで!」

「威勢だけじゃないその強さ……不味くはねぇが───浅ぇ!!」

 踏み込む灰色の機体。しかし先に飛んで上を取ったオーガの機体はバインダーを展開し、各部に設けられた砲身からビーム砲を放つ。

 この距離で広範囲に放たれたビーム砲を避けるのは至難の技だ。爆炎と砂埃に包まれたフィールドを見て、観客達は溜息を漏らす。

 

 

「うわ、これでオーガの十連勝か」

 誰かがそんな言葉を漏らした矢先、砂埃の中から銃弾が連射された。

 

「……ほぅ」

 刃で銃弾を弾きながら小さく声を漏らすオーガ。

 晴れていく砂埃の中で、灰色の機体は未だに立っている。

 

 

「───GNフィールド」

 ───緑色の粒子に包まれて。

 

 GNフィールド。

 太陽炉が生成するGN粒子を機体の周囲に展開し、事実上のバリアとして運用する武装だ。

 

 勿論、いかな太陽炉が半永久機関とはいえどエネルギーの生成量には限度がある。

 無限に使えるという事はなく、さらに実体剣等を防ぐ事が出来ないという欠点もある代物だ。

 

 

 しかし強力な防御装置である事には変わりがない。その証拠に、灰色の機体はあれだけの砲撃を受けてもしっかりと地面に立っている。

 

 

「そうだ、こういうバトルが食いたかった!!」

 口角を吊り上げて、今度はオーガが仕掛けに動いた。

 

 頭上から刃を構え降りてくる赤い機体。

 GNフィールドの弱点、実体剣を彼の機体は持っている。

 

 

「あなたはOOガンダムを知っている。その機体のGNドライヴも、()()()()()()もそうだから。だから───」

 灰色の機体は迫り来るオーガの機体に対して迎え撃つように構えた。

 しかし機体のパワーはオーガの方が上である。そのまま攻撃を受ければどうなるか、観客は今度こそ終わりだと表情を曇らせた。

 

 刃がGNフィールドを抜ける。

 

 

「───だからこそ、実体剣でGNフィールドを突破しにくる!!」

 刹那、灰色の機体のパイロットは操縦桿のレバーを捻ってカーソルを合わせ───

 

 

 

 

「あの機体!」

 

 

 

 

「───フェイズシフト、オン!」

 ───灰色の機体に刃が叩き付けられた。

 

 

 振り下ろされた刃の衝撃に、再び砂埃が舞う。

 しかし静まりかえったフィールドの中でオーガが見たのは、目の前で灰色だった機体に色が付いていく異様な光景だった。

 

 灰色だった機体は刃に斬り裂かれる事なく、全身を青と白の配色に飾り───その身体で刃を受け止めている。

 

 

 

「……フェイズシフト装甲、だと」

 フェイズシフト装甲。

 ガンダムSEEDに登場する、装甲に電流を流す事で特殊な金属を相転移させ物理的な衝撃を無効化する装甲技術だ。

 

 オーガの刃は実体剣でありGNフィールドを貫通するが、フェイズシフト装甲を貫く事は出来ない。

 

 

 灰色の───否、青色の機体のパイロットは舌を巻きながら、剣を振り下ろして動きを止めたオーガの機体に己の得物を向ける。

 

 

「この距離なら避けれないだろ!」

 青色の機体は、頭部のバルカンを放ちながら剣を振った。

 

 

 捉えた、と。

 

「その強さ───」

 バトルを見守る殆どのダイバーがそう思った刹那。オーガは自らの剣から手を離して機体の両手を開く。

 

 

「な!?」

「───俺に食わせろぉ……っ!!」

 そして、彼の機体は青い機体の二本の剣を掴んだ。歓声が上がる。

 青い機体のパイロットは「マジかよ!」と悲鳴を上げた。

 

 

「……くそ、一旦距離を。トランザ───」

「───鬼トランザム!!」

 青い機体が地面を蹴って距離を取ろうとしたその時、オーガの機体は赤い光を放って青い機体を蹴り飛ばす。

 

 地面を転がる青い機体から視線を外さずに、オーガの機体は姿勢を落とした。

 溶岩が周りを囲む。その中から引き抜いた剣は、まるでマグマを纏っているかのように燃えていた。

 

 

「───うぉぉぉおおおお!!」

 その剣を構え、突進する。

 

 地面を転がる青い機体にその刃を交わす術はない。そして、この()()()はいかなフェイズシフト装甲といえど防ぎ切る事など出来ない。

 

 

 

 炎の剣は機体を貫き、爆炎を上げた。

 

 

 

 Battle End

 勝者、獄炎のオーガ。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 特設された観客席に、一人の少年が足を踏み入れる。

 

 

「はぁ、負けた負けた……。でもやっぱり楽しいな、ガンプラバトルは」

 茶髪にパーカー姿のその少年は、バトルフィールドに横たわる自分の機体を見て苦笑い気味に言葉を漏らした。

 

 この少年こそ、先程獄炎のオーガと戦っていた機体のパイロットである。

 

「ねぇ〜、あなた。さっきの()()()()()のパイロット?」

 それに気が付いた一人のダイバーが、ゆっくりと少年に近付いて声を掛けた。

 ねっとりとしたその声に、少年は目を見開いて顔を持ち上げる。

 

 

 少年の視線に入ったのは、引き締まった筋肉を見せつけるように下腹部までファスナーを下ろしたツナギに、ボレロを羽織った強烈なファッションをした男だった。

 少年は「ヒィッ」と声を漏らして後退りする。俗に言うオネェさんだ。

 

 

「あら、急に声を掛けられて驚いちゃったのね。ごめんなさい。私はマギーよ」

「マギー……あなたが?」

 マギーと名乗る男は自己紹介と同時に手を伸ばし、自分のプロフィールが表示されたコンソールパネルを少年に見せる。

 

 このマギーもオーガと同じくGBNでは有名人だ。

 それを知っていたからか、少年は彼が本物であると分かると慌てて伸ばされた手を取って頭を下げる。

 

 

「す、すいません! 変な態度を取って!」

「良いのよ良いのよぉ。急に話しかけられたら誰だって驚いちゃうもの」

 マギーのその言葉に少年は「いや、まぁ……ハハッ」と苦笑いを溢した。

 

 驚いたのはそこではない。

 ただ、悪い人でない事は確かなので少年は幾分か警戒心を解いて「ストライクのパイロット……そうです、ね」と答える。

 

 

「あら、ストライクベースであってたわよね?」

「そうですよ。ストライク」

 GBNで戦うガンプラは、自分でオリジナルの改造を施す事が可能だ。

 勿論、ガンプラを素で組み立てる事が間違いという訳ではない。ガンプラは自由である。

 

 

 そして先程オーガと戦っていた少年のガンプラは、ガンダムSEEDに登場するストライクと呼ばれる機体を改造した物だった。

 

 

 

「彼とあそこまでのバトルを繰り広げるなんて、私の知らない強者がまだ居たって訳ねぇ。感慨深いわ。やっぱりGBNは広い」

「あ、いや。俺なんて全然。……ていうか、GBNは今日始めたばかりですし」

「え」

 少年の言葉に、マギーはキョトンとした顔で固まる。

 

 コンソールパネルを開いて見せる少年のプロフィールには、ランク1と表示されていた。

 ダイバーネームはケイ。機体の名前や称号等は空欄になっている。今さっき登録したばかりという証だ。

 

 

「ケイちゃんね。……サブ垢とかじゃなくて?」

「正真正銘初心者ですよ、GBN()

 そう答えて、少年はバトルフィールドに転がる自分の機体───ストライクに視線を伸ばす。

 

 

「……お疲れさん、俺のガンプラ」

「……なるほど、そういう事ね。嬉しいわ」

 少年の視線を見てマギーは何かを察したように、満足げな表情を見せた。

 

 

「つまり、これから君のGBNが始まるのね。初戦から大変な目に遭っちゃった気がするけど、どう? GBNの事気に入ってくれたかしら」

「まぁ、刺激的ではありましたね」

 苦笑い気味に視線を逸らす少年はしかし、一度俯いてからこう言葉を続ける。

 

 

「……綺麗だって、思いました。誰かが、皆が守ったこの世界が。これまで距離を取り続けていたこの世界はこんなにも綺麗だって。……楽しかったです」

 仮想世界のどこまでも続いていそうな空に手を伸ばしながら、少年はそんな言葉を漏らした。

 

 どこか遠くを見ているようで、少し親身な表情を見せるマギーはしかし一度目を閉じてから口を開く。

 

 

「楽しんでくれたのなら嬉しいわ。これからGBNを楽しむダイバーとして、応援するわよ。分からない事があったらなんでも聞いて頂戴」

 人差し指を持ち上げてウインクをするマギーに、少年───ケイは「あ、ありがとうございます」と頭を下げた。

 

 そんな初々しい態度にマギーは一年前の事を思い出して笑みを見せる。

 あの子達も最初は───

 

 

「───ところで、名前は?」

「え、名前。ケイですけど」

「違うわよ、ガンプラの。……あれだけ心が込められて作られているんだもの。あるんでしょう? オリジナルのガンプラの名前」

 マギーの言葉に、ケイは「あー」と間抜けな声を漏らした。

 

 ただ、一度目を閉じて少年はいつかの事を思い出す。

 

 

 ──何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い──

 

 

「───ボンド」

「ボンド?」

(ビー)(オー)(エヌ)(ディー)で、ストライクBond(ボンド)

 少年は自分の機体を真っ直ぐに見ながら、そう言った。

 

 それを聞いたマギーは満足げに彼に背中を見せる。お尻のラインが綺麗過ぎる事にケイは再び苦笑いを漏らした。

 

 

「良い名前じゃない。これからもGBN、楽しんでね」

「あ、はい。色々ありがとうございます」

「それじゃあね」

「ま、マギーさん!」

 少年が唐突に声を上げて、マギーは首を横に傾ける。

 

「あの……質問があるんですけど。GBNって───」

 続くケイの言葉に、マギーは親切に答えた。満足のいく答えがもらえた少年は嬉しそうに拳を握る。

 そんな少年とフレンド登録を済ませたマギーがその場を去ってから、ケイは少しの間自分の機体と周りのバトルフィールドに視線を向ける。

 

 

「ここが、GBNか……」

 バトルフィールドではオーガが十一人斬りを果たしていた。

 もう誰が彼を止めるんだと、観客席は大盛り上がりである。

 

 しかし時間も時間なのか、次第に人々はGBNからログアウトするようになった。オーガは勝ち続けている。

 

 

 

「オーガさん凄過ぎるよね、りっくん」

「だね。……でもそろそろ時間だし、俺達もログアウトしよっか」

 そんなランダムフリーバトルの観客席で、二人の少年がまたログアウトの話をし始めていた。

 

 二人はコンソールパネルを開いて、しかしりっくんと呼ばれた少年は辺りを見渡して首を横に傾ける。

 

 

「サラ?」

 少年の視線の先で、銀髪の少女がバトルフィールドの端に視線を向けていた。

 バトルが行われているのと全く関係のない場所に向けられる視線に、少年は首を傾げながらサラと呼ばれた少女の手を取る。

 

 

「どうしたの?」

「あのガンプラ───」

 少女の視線の先。

 

 バトルフィールドの端に横たわっているのは、オーガが十番目に戦った機体。ストライクBond。

 

 

「ストライク、かな」

「───あのガンプラ、とても嬉しそうだから」

 そして、少女のそんな言葉に少年は笑みを漏らした。釣られて少女も嬉しそうに笑う。

 

 

「きっと、とても気持ちの込められたガンプラなんだね」

「……うん、きっと」

 

 

 

 

 GBN。

 ガンプラバトルネクサスオンライン。

 

 

 それは、ガンプラに魅せられた人々が夢見た世界。

 

 

 

 ───そんな世界で、新しい物語が始まろうとしていた。




はじめまして!この度ガンダム作品を書き始めることになりました。皇我リキです。
ガンダム作品は初めてなので、温かい目で見てもらえると嬉しく思います。

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