ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
確かその日は雨が降っていたと思う。
「……アオト?」
「これ、受け取ってくれ」
沢山の荷物を持った一人の少年が、友人に鞄を一つ突き出した。
有無を言わせない少年の態度に友人は鞄を受け取って、少年の表情を窺う。
「……ユメカの事、頼んだ」
「お、おいアオト!」
短い言葉。
その意味も分からなくて、家を飛び出した少年に伸ばした手は届かない。
受け取った鞄の中に入っていたのは───
☆ ☆ ☆
少女が泣いていた。
「……ユメカ」
「……ほれ、ハンカチ」
「うぅ……うぅ、うぇぇん」
慰めるケイスケと、ハンカチを渡すタケシ。
「グラハムが死んじゃったよぉぉ……」
そんな二人の前で、ユメカは顔を真っ赤にして瞳を濡らす。三人の前にはテレビが置いてあって、劇場版ガンダムOOのエンディングが流れていた。
「……ぐすん。でも良いお話だった。分かり合うって大切。……ぐすん。キャラも格好良いし」
「だろ。このロックリバー様のオススメだからな」
「まぁ、OOは安定してウケやすいしな」
涙を拭くユメカの左右で二人は「うんうん」と頷く。
傍に用意していたポテトチップスとジュースは空になっていた。ケイスケが「ジュースのおかわりを取って来る」と立ち上がる。
三人はケイスケの家でアニメを見ていた。
今のところ土日にしかタケシがGBNにログインが出来ないので、ならばとユメカが提案したのがガンダムのアニメの視聴である。
ほぼ一週間の平日を丸々使い、金曜日に劇場版を試聴し終えて今この状態という訳だ。
「タケシ君の機体もあったよね、デュナメス。ロックオンストラトス、意識してたりする……?」
「……言うなよ恥ずかしい」
ロックリバーが何処から出て来たのか大体想像が付く。一応、元々は彼の苗字のイシカワから来ているのだが。
「後はケー君のストライクの装備になってるダブルオーとか。色んな作品に、色々なガンダムが出てるんだね」
「そんな数え切れないモビルスーツをプラモデルにして、それで遊んでるってんだから面白いもんだ」
「ご飯です!」
ユメカとタケシが話していると、唐突に部屋の扉が開いて女の子が大きな声でそう言った。
明らかにケイスケの声ではないのでタケシが驚くと、扉の前に立っていたのは中学の制服を着た一人の女の子である。
「あ、ヒメカ。ありがとう」
「うん、お姉ちゃん!」
彼女の名前はキサラギ・ヒメカ。中学二年生の、ユメカの妹だ。
「よ、ヒメカちゃん」
「誰ですか、この明らかに自分の事を格好良いと思い込んでそうな顔面の男は」
「え、ナチュラルに酷い事言われたんだけど。え?」
突然の罵倒にタケシは頭が真っ白になる。理解が追い付かない。
「ほら、タケシ君だよ。プラモ屋でたまに遊んでくれてたでしょ?」
「お姉ちゃんの友達なんだね。ヒメカ覚えてない」
満面の笑みでそう語るヒメカの温度差に、タケシは開いた口が塞がらなかった。
五年前までプラモ屋によく集まっていた幼馴染み四人組だが、たまにユメカがヒメカを連れて来ていた事を思い出す。
その時は五人でお菓子を食べたりして笑っていたヒメカだったのだが、あの頃彼女はまだ九歳。その後なんやかんやで会う事はなかったので、忘れられていてもおかしくはない。
タケシは涙を隠して「ふ、しょうがないさ」と言葉を漏らした。五年というのは短いようで長いのである。
「べー」
しかし、ユメカが車椅子に乗るのを手伝うヒメカは無事に姉を車椅子に乗せるとタケシに向かって目蓋を下げた。
「……えぇ」
別に忘れられていた訳ではないようである。
というか、嫌われていた。
広いリビングにケイスケとその両親と、ユメカにヒメカとタケシが集まる。
ケイスケの家───サイトウ家は両親とケイスケの三人家族だ。しかし机は六人どころか頑張れば八人は座れそうな程に大きい。
何を思ってこんな机を買ったのか分からないが、家族ぐるみで隣のキサラギ家と付き合いがある為これはこれで便利なのである。
両親の隣に座っていたケイスケは、ユメカ、ヒメカ、タケシの順番で座ったのを見届けてから「ごめん、ご飯の時間なの忘れてたわ」と呟いた。
ヒメカの隣に座ったタケシはどうも居心地が悪そうに「……ば、晩ご飯ありがとうございます」とケイスケの両親に挨拶をする。
「良いのよ良いのよ、たんとお食べ」
「タケシ君だよな。大きくなったなぁ」
両親の言葉にヘコヘコと頭を下げるタケシの態度が面白かったのか、ユメカは口を押さえて笑っていた。
しかしその隣で、ヒメカは頬を膨らませる。どうも気に入らない、なんて表情だった。
「タケシ君の父親とは偶に会うよ。お仕事大変そうだね」
「あー、パパ───じゃない、父さんは消防士だから……叔父さんとも偶に顔を合わせるって話聞いてます」
ケイスケの父親は救急隊員で、タケシの父親は消防士である。その仕事柄、火事の現場で顔を合わせる事があるらしい。
勿論仕事柄、ゆっくり話す時間はないのだが。
「懐かしいなぁ、五年前くらいか。あの頃はずっと遊んでいただろう」
どこか遠い所をみるような目でケイスケの父はそう言って少年達を見比べた。
変わった事もあるし、幾分か大きくなってしまったとしみじみ思うが仕事から戻ってみれば幼馴染みが集まって部屋でアニメを見ているというのだから。
どうも懐かしくなって一日くらいはと食事を用意した訳である。用意したのは母であるが。
「あはは……色々ありまして。……すみません」
「謝るような事はないさ。ユメカちゃんから学校では話してると聞いていたよ。これからも、うちの息子の事もよろしくな」
「ご馳走様です」
快活にタケシと会話するケイスケの父親の話の区切りに、ヒメカはそう言って立ち上がった。
彼女の方を見てみれば出された料理は食べ終わって、行儀良く後片付けも終わっている。
「ヒメカちゃん、もう良いの?」
「はい。ちょっと家に戻ってます、です。お姉ちゃんが帰ってくる時にまた迎えに来ます」
ケイスケの母の言葉にヒメカはそう返事をして、お辞儀をしてから家を出て行った。
顔を見合わせる両親の前で、ユメカが「ご、ごめんなさいヒメカったら。もぅ……」と表情を暗くする。
普段から姉の前以外ではそんなに明るいタイプではないが、今日は一段と不機嫌に思えた。
理由に察しがついていたユメカは、一人どうしたものかと考え込む。
タケシは一人、俺は何をしたんだと気まずくなるのだった。
「俺、ヒメカちゃんに何故か嫌われてるんだけど」
夕食を食べ終わって少しして。
タケシは今日家に泊まって行く事になり、ユメカも寝るまではまだケイスケの部屋に居るつもりで話をしている。
話題はユメカの妹、ヒメカの事だった。
「あー、それはだな……」
「ヒメカはガンプラが嫌いだから……」
ケイスケの言葉にユメカは申し訳なさそうに継ぎ足す。
ガンプラが嫌い。
正しくは、大好きな姉から沢山の物を奪ったガンプラが嫌い。当の本人よりも、妹のヒメカの方があの事故を憎んでいたのだ。
あの事故の原因になったガンプラも、その時に遊んでいた友達も、大好きな姉を傷付けた全てが憎いと思っているのだろう。
「……それ、ユメカがガンプラで遊んでるの色々とやばくない?」
「ヒメカはちょっとませてるから……。私にはちゃんと気を使ってくれてるし、ケー君パパやママにもそういう所は出さないんだよね」
あくまで自分がガンプラを嫌いなだけ。
それを誰かに押し付けたりはしないし、表には出さない。
良く言えば出来た子供で、悪く言えば沢山の事を我慢しているのだ。
だからこそ、ケイスケやタケシへの当たりは自然と強くなる。
「気まずいな……」
「私とは普通に話してくれるんだよ?」
「それはさっき見たから分かる。別人かと思ったわ」
俺への態度凄かったからね? と、付け足すとタケシは「うーん」と眉間に皺を寄せた。
別に気にしなくても良いかもしれないが、どうもいたたまれない。
「俺はもう慣れちゃってたけど、確かにこのままって訳にもいかないよな。……ユメカもせっかくGBNを楽しんでくれてるんだし」
「うーん、私もヒメカとちゃんと話してみるね。……えーと、なんかごめんね」
「いや、ユメカが謝る事じゃ……」
そんな二人の会話を聞きながら、タケシはふと思って自然とこう口が開く。
「アオトも……ガンプラの事嫌いになってんのかな」
タケシのそんな言葉に二人は少しの間固まってしまった。
考えた事がなかった訳じゃない。ただ何処かで、目を逸らしていたのだろう。
「……だから、俺にストライクを渡した」
自分のガンプラとアオトに渡されたGBNのマシンを見ながら、ケイスケはゆっくりと言葉を漏らした。
五年前、アオトがガンプラを楽しそうに作ったりバトルしていたりする姿を思い出す。
「そんな訳ないよ!」
しかし、唐突にユメカがそう言った。
「だってアオト君、凄く楽しそうに遊んでたもん。店長さんとも仲良くて、きっと……家族でずっとガンプラが好きだった。きっと、誰よりもガンプラが好きだったと思う」
噛み締めるようにそう言う。
あの頃、いつだってガンプラで遊ぼうと誘ってくれたのはアオトだった。
いつだって彼が中心に皆で集まっていた事を思い出す。
「まぁ、確かにな。俺はともかく、ケイスケがガンプラやってたのは不純な動機だし。……一番ガンプラに真剣だったのは間違いなくアオトだ」
「おいタケシ……」
「不純って?」
「な、なんでもないなんでもない」
タケシの言葉が気になって聞き返すユメカだが、何故かケイスケが顔を赤くして両手を上げた。
首を横に傾けるユメカだが、それ以上の情報は出て来る気配がない。珍しい反応だな、なんて思う。
「ケッ。……とにかく、まぁ、でも、アオトがどう思ってるかは直接会って聞いてみないと分からないって話だ。連絡が取れないんだけども」
ジト目でケイスケを見てからそう言うタケシ。
実際の所その通りで、今彼らはアオトと連絡を取る手段がないのだ。
自分達からのメッセージは勿論、父親からのメッセージにも返事がない。
直接会いに行こうにも彼が今住んでいるのは遠方の街らしく、連絡の付かない相手を探して会うのは難しいだろう。
「案外、実は開き直ってて向こうでGBNやってたりしてな。確かアオトって東京だろ? ほら、えーとなんだっけ。ガンダムベースがある場所」
「いや、それはそれで寂しいだろ」
タケシが漏らした言葉に半目でツッコミを入れるケイスケ。
それはそれで寂しいかもしれないが、でもそれはそれで嬉しいかもしれない。
もしかしたら、GBNの中で再会する事が出来るかもしれないからだ。
「とりあえず、おじさんに連絡が来るまで俺達は何も出来ないって訳だ。俺達はいつアイツが帰って来ても良いように、ガンプラを続けるだけだろ」
そう言ってニッと笑うタケシに、ユメカもケイスケも賛同する。
そうして、明日は一週間ぶりに三人でGBNにログインしようと決めた。
夜も遅くなり、ユメカは一旦帰る事に。
迎えに来たヒメカに睨まれたケイスケとタケシは苦笑いで部屋に戻る。
ヒメカの事もなんとかしたいが、今はユメカに任せるしかない。
「……なぁ、ケイスケ。アオトは今何やってんだろうな」
ベッドの上と床に寝転んで、タケシはそんな事を呟いた。
あの雨の日から、アオトとは一切連絡もしていない。
ただ何となく何処に住んで居るのかを知っているだけで、今彼がどんな暮らしをしているのかも分からないのである。
「……俺達忘れられてたりしてな」
「それだけはない」
少し考え込んで返事をしていなかったケイスケだが、タケシの言葉にはそう返した。
それだけはない。
それだけは分かる。
「アイツにとってガンプラは、忘れたくても忘れられるような事じゃない。だから、もしガンプラを嫌いになっていたとしても……俺達やあの思い出も忘れるなんて事はないと、思う」
だって、アオトにとってガンプラは───
東京。ガンダムベース。
「───GBNは、俺が壊す」
───とても大切な物だった筈だから。
ついに十話目です。完結まで何話かかるか分からなくなって来ました()
そんな訳で今回もキャラデザ置いていきます。ユメカの妹であるヒメカです。忘れられてるかも知れませんが二話が初登場です!
【挿絵表示】
姉に似てます。
あと、評価ありがとうございました。遂に色が着きました、しかも赤色!ありがとうございます。
これからも頑張ります!それでは、読了ありがとうございました!