ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ヤナギランの花畑で
雪が降っている。
窓の外は雪景色で、部屋の中は暖房が付いているとはいえ少し肌寒い。
「フヘヘ、このディテールがたまらないんっすよねぇ。あぁ〜、モビルファイター特有の可動域! あん……そんな、こんなポージングの再現までぇ!!」
しかし、部屋の中で一人の女性が完成したガンプラを鑑賞しながら一人熱く燃え滾っていた。
家には他に誰もいないが、コタツの上に居た猫はそんな彼女をジト目で眺めている。
「フヘ、フヘヘ。さーて、今日はこの子でGBNにログインするっすよぉ。……今日はどんなめちゃくちゃガンプラを狩るっすかねぇ」
そんな猫の視線には気付かずに、女性は不適に口角を吊り上げてダイバーギアにガンプラをセットした。
彼女はGBN内で、こう呼ばれている。
「───ガンプラはそのまま作ってこそ、その真の輝きが見られるっす。許すまじ改造ガンプラ!」
───改造ガンプラキラー、と。
☆ ☆ ☆
GBN。メインフロア。
「タケシ君はお昼からだっけ?」
「そうだな。今朝ユメ……が、来る前に出て行ったから。昼までには合流するって。あと一応ロックって呼んでやろう」
ユメとケイは前日の約束通り、土曜日の朝からGBNにログインしていた。
タケシ───ロックはログインする為に遠出中で、昼には合流するという予定である。
「あははー、そうだよね。一応個人情報だし」
反省反省、と頭を掻くユメ。しかし呼び慣れた名前から別の名前で呼ぶというのは難しい。
たまにケイとユメだって、GBNでお互いの本名を言ってしまいそうになるのだ。
むしろロックのように本名から遠い名前の方が良かったのかもしれない。
「んー、しかしタケシ君が来るまで何してよっか?」
「散歩でもするか」
「散歩?」
首を横に傾けるユメに、ケイは頭を掻きながら「あーと、えーと、だな」と口籠る。
「マギーさんが。そう、マギーさんが……綺麗な花が沢山咲いてる場所があるから。どうだって、話で」
そうして続いたそんな言葉に、ユメは「おー」と感心の声を漏らした。
「お花畑……散歩。えへへ」
はにかむユメを見てこっちが恥ずかしくなったのか、ケイは視線を逸らす。
しかしその先に映る人物と目が合って、彼は「ゲ」と声を漏らした。
「あ〜ら〜、ケイちゃんとユメちゃんじゃなーい」
腰を振りながら、一人の男性がねっとりとした声で近付いてくる。
噂をすればというのか、件のマギーが二人の前でいつも通りの強烈なファッションで現れた。
「マギーさん! おはようございます!」
「あらユメちゃん、とても嬉しそうな顔をしてるわね。何かあったの?」
挨拶をするユメに、マギーは彼女の表情を見てそう問いかける。
少年少女特有の青春をしているという顔だ。
「ちょっと友達を待ってる間に何しようかなって思ってたんですけど、ケー君がマギーさんに教えてもらったお花畑に行こうって言ってくれたんです!」
「あ、いや、ちょ、待って」
「あらそうなの。……でも、おかしいわね」
ユメの言葉に隣で一人で慌てるケイ。そんな二人を見ながら、マギーは首を横に傾ける。
「ケイちゃんとは久し振りに会ったし、連絡もしてない筈だけど」
「あれ?」
マギーのそんな言葉に、今度はユメが首を横に傾けた。どういう意味なのか分からない。
「な、何言ってるんですかマギーさん! この前教えてくれたじゃないですか! あはははは!」
して、ケイは何故か泣きながらマギーの目を必死に見て声を上げる。
実の所、花畑の場所はユメの為に自分で調べたのだ。
しかしそんな事を本人に知られるのは恥ずかしいというのが彼の本心である。
「……あー」
そんなケイを見てマギーは何かを察したのか、後ろで首を横に向けているユメと必死の形相のケイを見比べてから手を叩いた。
「そうだったわね」
「マギーさぁぁあああん!!」
嬉し泣きをするケイを見て、ユメはさらに頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「青春ねぇ」
そんな二人を見てマギーはそう思うのであった。
「それじゃ、私はお邪魔虫かしら。お花畑というと、ヤナギランだったかしら?」
「ヤナギランのお花畑がGBNにあるんだ」
ヤナギランは現実に存在する植物である。
「Vガンダムって作品に登場するんだよ。それ以外にもGBNの中には観光スポットとかが沢山ある」
「ふぇ〜、やっぱりGBNって凄いんだねぇ」
感心するユメの隣で、マギーは「懐かしいわねぇ」と声を漏らした。
しかし、その後マギーは「ん?」と顎に手を向けて視線を上げる。
そんな彼の不思議な言動に二人は首を横に傾けた。
「マギーさん?」
「最近あのお花畑の近くで変な噂をよく耳にするのよ。なんでも、悪質なPKプレイヤーが出没するとか」
マギーの言葉にケイは「悪質な?」と聞き返す。
GBNは元々ガンプラバトルを楽しむゲームだ。PK───プレイヤーキルが珍しい訳ではない。
それでも、特定の場所で悪質と呼ばれるまでのプレイヤーが噂になる程出没するという話はどうも気になる。
「なんでも、改造されたガンプラを見るや勝負を挑んできて。負けると凄い形相でガンプラを改造するなって何時間も説教をされるらしいのよ」
「悪質っていうか異質!」
ガンプラを素組み───改良など手を加えずに組み立て書通りに組み立てる事こそが正しいというガンプラビルダーも少なくはない。
その過激派というべきか。どうもそのプレイヤーは改造されたガンプラを使うダイバーに戦いを挑んでは、その信念を押し付けてくるのだとか。
そのお花畑に行くなら気を付けてね。
マギーのそんな言葉に見送られて、二人はヤナギランの花畑に向かう事に。
クロスボーンストライカーを装備したクロスボーンストライクBondに二人で乗り込んで、機体はマントを揺らしながら空を駆けた。
「───アレはクロスボーンガンダムのスラスターを着けた改造ガンプラ。く、なんと邪道な……。許すまじ……っ!」
そんなストライクを見上げる一人のダイバーは、エアカーのハンドルを握りながら眉間に皺を寄せる。
ストライクを追い掛ける羽のついたエアカー。
搭乗席でそのダイバーは不適に笑っていた。
辺り一面を覆う薄紫。
ヤナギランの花畑の真ん中で、一人の少女がクルクルと回る。
花畑の端にはストライクが腰を落としていて、花弁を巻き込んだ風に揺れるマントが晴々しい。
「ケー君、見て見て! 凄く綺麗!」
「そうだな」
花畑を歩くユメは、満面の笑みでケイに手を振った。
そんな彼女を見てケイも笑顔を見せる。
彼女が自分の足で歩いて笑顔でいてくれる事が、とても嬉しかった。
「スクリーンショット撮っとくか」
両手で四角いフレームを作ってその枠にユメを納めながらそんな言葉を漏らす。
コンソールパネルからスクリーンショットを起動すると、モニターには花弁に包まれて笑みを漏らすユメの姿が映った。
「シャッターチャンス」
スクリーンショットを起動。
「……うん、我ながらベストショットだな」
花畑の花達とは反対の色の髪の毛が花弁を巻き込んだ風に揺れて、そんな髪の毛を抑えるユメがカメラに収まる。
「一緒に写真を撮ろう、は……ないか」
どうも完璧なタイミングで撮れたように思えたスクリーンショットを眺めながら、ケイはそんな声を漏らした。
ユメが自分の足で歩いて、こんなに笑顔でいてくれる。
それだけでも嬉しかった。それだけでも、ここに来て良かったと思える。
「ケー君、そろそろ時間じゃない?」
「ん、あ、あー、もうそんな時間か」
しばらくして。
花畑をボーッと眺めていたら、気が付けばかなり時間が過ぎていたらしい。
ユメに話しかけられて確認してみれば、もうそろそろタケシとの約束の時間だった。
「そろそろ行くか」
「うん。えへへ、凄く楽しかった。連れてきてくれてありがと、ケー君」
「俺は何もしてないけど……。ユメが楽しかったなら、良かった」
そう言って立ち上がり、ストライクの元に歩き出す。
しかし、そんな二人の前に突然走ってきたエアカーが止まった。
「んえ……車?」
「これは……コア・ランダー?」
首を横に傾ける二人の前で、乗り物から一人のダイバーが顔を出す。
「へい、そこのお二人さん。どうもこんにちわっす」
エアカーを降りたダイバーは片手を上げながらそんな言葉を漏らした。
その容姿は深めに被ったキャスケット帽に赤縁の眼鏡、オーバーオール、何故か腰に刀を差した情報量の多い衣装。
帽子の下の若葉色の髪を揺らすそのダイバーは、膨らんだ胸元の下で腕を組んでこう続ける。
「お二人はデートっすか?」
「え、で、デートなんてそんな。えへへ、その───」
「違います」
「ケー君……っ!」
ダイバーの言葉に赤面しながら口籠るユメの前に出て即答するケイ。
ユメはそんな彼の言葉に、背後で頬を膨らませるのであった。
「それは失敬。……それで、アレはおたくらのガンプラっすか? だとしたら───」
「違います」
そして続く言葉に、ケイは即答する。
しかしダイバーが指差すガンプラ───ストライクBondは確かにケイのガンプラだ。ユメはケイが嘘を付いている事を疑問に思って、首を横に傾ける。
「あんた、噂の悪質なPKプレイヤーだな? 改造ガンプラを見てはケチを付けてくるっていう」
しかし、続くケイの言葉にユメは目を丸くして彼とダイバーを見比べた。
当のダイバーは口角を吊り上げてケイを見下ろすように視線を落とす。
「マギーさんが言ってた悪い人?」
「そういう事。付き合う事はない。無視だ無視。フリーバトルなんて同意しなきゃやらなくても良いんだから」
そう言ってケイはユメの手を掴んで歩き出した。
しかしダイバーの隣を無視して歩こうとした時、こんな言葉が聞こえて来る。
「おたくのガンプラ、ダサいっすね」
振り向いて睨んだ。大きめの胸が視界に入る。どうやら件のダイバーは女性らしい。
そんな
「なんだと……」
「ダサいって言ったんすよ。ストライクガンダムベースのクロスボーンガンダムって感じっすか? ストライクには元々、エールストライカーやランチャーストライカーっていうストライクの為に練りに練り上げられた至高のバックパックがあるのに。それを台無しにしてまでクロスボーンガンダムの装備を着ける理由が分からないって言ってるっす!」
そんな彼女の言葉に、ケイの頭の中で何かが弾ける。ユメが見るに気のせいか、目からハイライトが消えている気がした。
「勝負しろこの野郎!!」
「ケー君!? 無視するんじゃなかったの!?」
突然眉間に皺を寄せて声を上げるケイに、ユメは驚いて目を丸くする。
さっきまでの冷静さはどこに行ったのか。
「そうっすよねぇ、真のビルダーなら自分のガンプラをバカにされて黙っていられる訳がないっす」
うんうん、と一人頷く女性は「その勝負受けて立つっすよ」とケイを指差した。
一方で煽られたケイは歯軋りをしながらストライクの元に向かっていく。手を握られたままのユメは引っ張られて「ケー君落ち着いてー!」と悲鳴を上げた。
「ストライクBondは俺とアオトの───」
「ケー君……」
小声で漏らした言葉に、ユメは少しだけケイの気持ちを理解する。
きっと男の子には譲れないものがあるんだ。
「あ、待ってください」
しかし、やる気満々だったケイを引き止める声が聞こえてケイとユメはその場で足を滑らせる。
さっきまでの挑戦的な態度はなんだったのか。女性は花畑を見ながら、感傷的な表情で「いかんいかん」と頭を横に振った。
「Vガンダムでシャクティが植えていたヤナギランの花畑……。こんな場所を戦場にはしたくないっすね。場所を変えましょう」
そう言ってから女性は花畑を少し眺めて、自分が乗ってきた乗り物に搭乗する。
「この先に平原があるっす。そこで落ち合いましょう。……勿論、逃げても良いっすけど?」
「誰が……っ!」
ケイを煽った女性は「それでは、お先に」とエアカーを走らせた。
追い掛けるように、ケイもストライクBondに搭乗する。
「ケー君も怒るときはあるんだね」
一緒にストライクに乗ったユメから心配の声が漏れた。
どちらかといえば彼は熱い方ではあるが、ユメからすれば温厚で優しい性格の幼馴染みである。
そんな彼が思っていた以上に熱くなっているので、少し心配だった。
「……だ、ダメか?」
ユメの言葉に少しだけ顔色を変えて問い掛けるケイ。
「ううん。男の子だもん。そのくらい元気な方が良いよ」
しかしユメはそう言って、彼の頭を撫でる。彼女の言葉を聞いて、ケイは不敵に笑った。
「……それじゃ、少し付き合ってくれ」
「うん。頑張れ、ケー君!」
X字のスラスターが火を吐く。
飛び上がったストライクBondは女ダイバーの言う平原まで一瞬で辿り着いた。
そこには既にエアカーが止まっていて、女性は眼鏡を光らせてストライクを見上げる。
「来たぞ、勝負しろ。……って、あんたのガンプラは何処だ?」
「あんたじゃないっす。いや、自己紹介してなかったっすね。ジブン、ニャム・ギンガニャムと申します」
ニャムと名乗った女性は帽子を押さえながら頭を下ろした。
失礼な事を言う割には行儀が良い、なんて二人は思う。それと、凄い名前だとも。
「……ケイだ」
「それじゃ、始めようっすかね」
ニャムは中指と親指を合わせてその手を持ち上げた。そうして───
「でろぉぉおおお!! ガンダァァアアアム!!!」
───その指を鳴らしながら叫ぶ。
すると何もなかった平原に、一機のモビルスーツが現れた。
彼女が乗っていたエアカーと合体したそのモビルスーツ───否、モビルファイターは背中に展開式の六枚の羽根を開く。
ライフル等の武器は一切手に持たず、腰を落として構えるその姿はファイターの名に相応しかった。
「アレは───」
「それじゃ、始めようっすか───」
機動武闘伝Gガンダムの主人公が搭乗する機体。その機体の名は───
「───ゴッドガンダム」
「───ガンダムファイトォォ!! レディィィイイイ、ゴー!!!」
東方は赤く燃えている。