ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
朝、おでこに柔らかい何かを押し当てられて彼女は目を覚ました。
「───ん、んぅ……ヤザンさん?」
起き上がりながら、寝る前にまとめておいた長い髪を解く。
姿見に映るシャツ一枚に下着だけの格好も気にせず、彼女は───ナオコはほぼ無意識に立ち上がり日課であるペットへの餌やりを済ませた。
ナオコは一人暮らしにしては少し広いアパートで暮らしている。
寒い寒いと言いながら暖房を付けて、昨日買っておいた朝食用のパンにジャムを着けて食べるだけの朝ごはん。ここで、やっと彼女の頭は覚醒した。
「休日だぁ……」
学校もなければ仕事もなく。
大学生故、自由な時間というのは多いがやはり何の予定もなく遊び呆けられる休日というのは嬉しいものだった。
さて、今日は何をしようか。
そんな事を考えながら顔を洗っていると、携帯端末に一通の連絡が入る。
「あら、先生から?」
メッセージの送信主は彼女が通う大学の教授からだった。メッセージを開く寸前、何やら嫌な予感がしてナオコは表情を引き攣らせる。
「───課題、明後日、だと」
メッセージの内容は週明けまでが提出期限の課題を催促する内容だった。
先生との関係によっては課題の催促等なしにそのまま減点されるだけの事もあるが、ナオコは学校では優等生を演じているし教授との仲間も良いのである。
しかし、忘れていた自分が悪いとはいえ突然休日の予定が潰れて、ナオコはその場に崩れ落ちながら「先生のアホー!」と理不尽な言葉を漏らした。
「もっと早く言ってくださいよ!! 私には休日を謳歌すると言う大切な予定があったのに!! 昨日はそのつもりで夜更かししてポケットの中の戦争を一話から見てたのに!!」
完全に自業自得である。
「課題ぃ!? 嘘だと言ってよ先生ぃぃいいい!!!」
床を転がるそんなナオコの元に、さらに新しく一件のメッセージが入った。
おそるおそる携帯端末に視線を向ける彼女の目に入ったのは、フォースReBondが連絡用に使っている連絡アプリからの通知である。
『暇だから俺は朝からログインしてる。昨日言ってた通りユメは用事だって』
ケイからのそんなメッセージを見て、ナオコは泣き喚きながら返事を書いた。
「すみませんケイさん……私はここまでです───ガクッ」
『週明け提出の課題があるので今日はいけないかもしれないっす! 申し訳ない!』
返事だけして仰向けに倒れたナオコは目元に腕を置いてだらしない声を漏らす。そんな飼い主を他所にペットの猫は朝ご飯を平らげてご機嫌だった。
「……ニャム・ギンガニャム、暁に死す」
言いながら、彼女はノソノソと立ち上がり物凄い嫌そうな顔で課題に手をつけ始める。
「……ヤザンさん? なんすかその顔」
そんな飼い主の前(レポート用紙の上)に立って、猫のヤザンは憐れむような顔で彼女の肩に手を乗せるのだった。
「ニャーゴ」
「猫に励まされてる……。いやでも、とりあえず退いてください」
そうして、ユメもニャムもカルミアも本日はGBNお休みという訳である。
☆ ☆ ☆
ビームライフルに貫かれ、デュナメスHellが爆散した。
「勝者ケイ! いやー、流石だな! 四連敗からの五連勝だ!」
「お前途中からぜんぶエクリプスだったろ!! 接近戦がどうだの言ってなかったか!?」
「イッテナイ。オレハソンナコトイッテナイ」
ロックとケイのタイマン勝負。
最終的には五回先取で決着を付ける事になったのだが、五回戦以降ケイはエクリプスストライカーで五連勝。逆転勝ちを果たしたのである。
「そもそも射撃機体のデュナメスに射撃戦を挑んだんだからズルじゃない」
「俺様の射撃戦技術を上回るとはな……。ん? アレ? なんかおかしくね?」
「オカシクナイ」
「あっはは! ケイは本当に負けず嫌いだな! プライドを捨てても勝ちに行くし!」
「ナニイッテルカワカラナイ」
完全に二人から目を逸らすケイ。そんなケイに、ロックは「得意な射撃戦で負けっぱなしは許せねぇ! もう一度だケイ!」と勝負を挑んだ。
それに関して断る理由もないが、バトルが再開されると同時に二人の視界に何か妙な物が映る。
「なんだ……?」
二人のガンプラの間、何もない筈の空間にひび割れのような線が広がり始めた。
それは一気に大きくなって、絵に描いた風景が剥がれ落ちていく様に割れていく。
「イア! 乗れ!」
観戦用の安全な建物にいたイアにそう言うケイ。
イアは訳もわからず、言われるがままにストライクBondのコックピットに乗り移った。
「なんだなんだ!? 空が割れたぞ!」
「おいケイ、なんだよアレ」
「分からない。バグか? ただ、ここにイアが居るのは不味い気がした」
「バグなんて凄い珍しいって訳でもないが、それは確かにあるな……。離れた方が良さそうだが……どうする?」
ロックの問い掛けにケイは「んー」と首を捻る。
元々暇だから二人でバトルをしていたので、特にやりたい事も予定もない。
ふと目に映ったのはコンソールパネルに映るログインしているフレンド一覧だった。
「なんか、砂漠の犬とメフィストフェレスが戦ってるみたいだぞ?」
フレンド一覧には、プレイヤーの公開設定によってはそのプレイヤーが今何をしているのか表示される。
丁度縁のある二つのフォースがバトルしている事を知り、今現在暇で仕方がなかった二人の行動は早かった。
「───三対三?」
「あぁ。今日は向こうから誘われて、そういうルールでやろうと言われてたんだ」
メフィストフェレスのリーダー、ノワール曰く。
砂漠の犬のリーダー、アンディからメフィストフェレスのアンジェリカとスズそしてトウドウの三人と戦わせて欲しいという提案があったらしい。
今まさにその戦いが始まっているところだ。
「どうして三対三なんだろうな」
砂漠の犬というフォースはメンバーが全て同じガンプラを使用し、大規模な連携を主に置いて戦うフォースである。
ガンプラの完成度や性能、乗り手の力も高いが、彼等の本領はその連携だ。そのため、ケイは砂漠の犬が三人という小規模部隊でのバトルを提案するのが不思議でならない。
「自分が得意な事ばかりしてても仕方がないじゃん?」
「相手の得意な事から逃げてても仕方がないじゃん?」
そう答えるレフトとライトの言葉に、ケイは心臓を杭で打たれたかのような反応を見せる。
イアはそんなケイを見て笑いながら「なるほど、少数部隊での連携の練習って事だな!」と両手を叩いた。
「そういう事だろうな。お、またそろそろ動くぞ」
ノワールがそういうと、モニターに映るMSが動きを見せる。
戦況はメフィストフェレスが微有利といった所か。高所を取ったスズのサイコザクレラージェを守るようにアンジェリカとトウドウが配置していて、アンディ達は攻めあぐねている感じだった。
動き出したのはアンディ達ガイアトリニティ三機である。
二機が遮蔽から地上と空中へMA形態になって飛び出した。スズからすれば格好の的だが、同時に二機を撃墜出来る状態ではない。
「───まずは一つ」
しかし確実に、スズは地上を走るMAを狙撃して撃破する。
スズに近付くのは航空機形態のガイアトリニティ。
地上を走るよりも空を飛んだ方が早いのは明確だ。ならば、地上の機体から落としたのは悪手にも思える。
しかし、彼女の上空には頼もしい仲間が構えていた。
「ここから先はとおせないな」
トウドウのクランシェアンドレアがガイアトリニティを迎え撃つ。
後一歩のところでスズに噛み付かなかったガイアトリニティが、スズに撃ち抜かれたのは言うまでもなかった。
「……後一つ」
「───あ、相変わらず鬼みたいだな」
それを見てロックは真っ青な顔でそんな言葉を漏らす。
彼自身事実はどうあれ狙撃は得意なつもりだ。
しかし、本物のスナイパーを見てしまうと流石のロックも自信を失ってしまうのである。
「ふふふ、後一人ですわね!」
「気を抜かない」
「分かっていますわ! ほら来た!」
最初に撃破したガイアトリニティの爆炎の中から、最後のガイアトリニティが飛び出してきた。
しかし、アンジェリカはそれを読んで先回りしていたのである。あとは、最後のガイアを止めてスズに撃たせるなり囲んで倒せば良い。
「爆炎に紛れて出てくる事くらいお見通しですわ!!」
「なるほど、流石と言わざる負えないが───しかし」
最後のガイアトリニティ───アンディは、MA形態で地面を駆けながらアンジェリカのゴールドフレームオルニアスに接近しながら両翼のビームサーベルを展開する。
「ワンコに負けてあげる程優しくはなくてよ!!」
ジャンプしながらマガノシラホコ四機を展開してガイアトリニティを囲むアンジェリカ。
「終わりですわ!!」
四方からアンカーで囲んで、勝ったと思い込んだ彼女にトウドウは「違う! それは釣りだ!」と叫んだ。
「はい?」
「貰った……!」
アンディは四本のアンカーに攻撃される前にMS形態に変形し、ジャンプしてアンディの間合いに入り込む。
MAはジャンプしてこないだろうと思っていたアンジェリカは突然の変形に反応出来なかった。
ビームサーベルで真っ二つにされ、爆散するゴールドフレームオルニアス。
その爆炎でスズの狙いも定まらない内に、アンディはガイアトリニティを航空機形態に変形させて一気にサイコザクレラージェに肉薄する。
トウドウは先程飛んできたガイアトリニティ迎撃の為にスズから少し離れていた。
そしてアンジェリカを落として、この一瞬の隙にスズを落とすのがアンディが立てた作戦なのだろう。
しかし───
「個人技なら───負けない」
ライフルやミサイルでスズを牽制しながら接近したアンディは、MS形態に移行してビームサーベル二本でスズに襲い掛かった。
それに対してスズはゲシュマイディッヒパンツァーでビームサーベルを受け止めながら、サブアーム二本でハートホークを握りガイアトリニティの片腕を切り飛ばす。
「なんて操作技術だ……」
「終わりだ」
───反撃されると思ってはいなかった。そして、そんなアンディの背後からトウドウが加勢に入る。
そこからは一瞬だった。
トウドウの相手をしている内に、スズが切り替えて狙撃で試合が終わる。
エースを守ってエースが点を取るというメフィストフェレスの勝ちパターンだった。
「いやぁ、参ったな。個人技では君達に敵いそうにない」
アンディは頭を掻きながらケイ達の元に歩いてくる。
彼もアンジェリカを落としているし、パイロットとして力不足という事はない。
しかし個人技だけで見れば、メフィストフェレスのメンバー達の平均値が格段に上だった。
「これは、チーム全体のレベルを上げるのが今後の課題だね」
「オーッホッホ!! やりましたわぁ!! 遂に砂漠の犬っころに勝ちましたわよ!!」
「こっちの土俵で戦ってもらって、だがな。そんな事より、客が来るぞ」
因縁の対決を制して高らかに笑うアンジェリカに、ノワールはケイ達が来ている事を伝える。
そしてアンディも揃って二人の元にやって来たメンバー達に、ケイは自分達の事情───ただ暇だったからここに来た事を伝えるのだった。
「なるほど。それじゃ、もう少し僕達の修行に付き合ってくれないかな?」
「お、なんだバトルか!」
「君は……イアちゃんだったか。話は聞いている。そうだね、君も参加出来る楽しい修行にしようか」
そう言ってアンディはフリーバトルの設定をし始める。
ひょんな事でバトルの誘いが来てしまったが、暇だったので丁度良い。
「───それじゃ、始めようか。個人技の修行を」
バトルの設定が終わり、フィールドに転送されるダイバー達。
ふと、最後に転送されたケイの視界にノイズが走った事が彼は少しだけ気になったのだった。