ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
広大なペリシア・エリアの中心で、一機のMSが光を放つ。
「───良く耐えた、後はこの私が道を開く!!」
シャフリヤールはそう高らかに声を上げ、その銃口をペリシア・エリアの一番近い出口に向けた。
「吹けよシムーン! アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」
シャフリヤールのガンプラ、セラヴィーガンダムシェヘラザードはその銃口から溢れんばかりの光を放ちペリシア・エリアの中心から端までを消し飛ばす。
まるで洞窟でも掘ったかのように、その光の跡には削り取られた地表だけが残っていた。
「……な」
「す、すげぇ……」
「退路は作った。撤退だ」
スズを先行させて、シャフリヤールとケイが後方から追って来る敵を足止めする。
そうして、イアは無事ペリシア・エリアを脱出する事が出来たのであった。
☆ ☆ ☆
頭を下げるケイ。
そんな彼の態度に、シャフリヤールは目を半開きにして「頭を上げてくれ」と頭を掻く。
「仲間を守ろうとするのは当たり前の事だ。それは、君が仲間を愛してる証拠だよ」
「シャフリヤールさん……」
ケイはシャフリヤールがイアをどうにかしてしまうのではないかと
シャフリヤール本人は気にしていないようだが、他にも謝らないと行けない事は沢山ある。
「ペリシア・エリアの人達は……」
イアを責める者はいなくても、きっとペリシア・エリアのガンプラが動き出したのはイアの周りで起き始めたバグが原因だ。
助けてくれたシャフリヤールはともかく、ペリシア・エリアでGBNを楽しんでいた者達からすれば迷惑を被ったと思われても仕方がない。
「その辺は安心したまえ。今しがた、うまく誤魔化せるように調整している所だ」
シャフリヤールはそう言うと、スズの隣で蹲っているイアの元へと向かってその手を伸ばす。
手が頭に触れた瞬間、怯えるように身体を震わせるイア。そんな彼女に、シャフリヤールは視線を合わせてこう口を開いた。
「君は悪くない。君は、私達がガンプラへ向けた愛の結晶なんだ。……君が怖がる事なんて、何もない」
「シャフリヤールさん……」
「……君達はこの子の事を。私はペリシア・エリアの混乱を鎮めてくる」
尚も沈黙しているイアの頭をもう一度撫でて、シャフリヤールは自分の機体に再び搭乗しペリシア・エリアへと戻っていく。
彼曰く、エリア外のこの場所ならサーバーへの負荷も少ないとの事だ。
ある程度事情を話すと「彼等なら上手くやってくれるだろう。一応、私のフレンドコードを送っておく。何か困った事があったら連絡してくれて構わない」とケイとフレンド登録をしてくれている。
シャフリヤールの事は全面的に信用して良さそうだ。
後はイアの状態だけが心配だと、ケイは彼女の元にゆっくりと向かう。
「イア、大丈夫か?」
彼の問いに、イアは答えられなかった。
スズの隣で蹲る姿は、いつもの元気な彼女とは程遠い。見ているだけで、胸が痛くなる。
「……皆、楽しそうにしてたんだ」
ゆっくりと、イアはそう口を開いた。
「……沢山のガンプラが、良い気分で居た。皆、楽しそうだった。……だけど、ボクの事を見て……凄く、嫌な気持ちにさせた……!」
「そんな事───」
───ない、とは言えない。
イアはガンプラの声が聞こえる。これは事実だ。
彼女がそう言うなら、確かにそうなのだろう。
ペリシア・エリアのガンプラ達が、イアを殺そうとした。
「……どうして」
「……ボクがいると、この世界が壊れちゃうんだ。だから、この世界が大好きなら、ボクを消そうと……するのは、当たり前で、皆にとって……ボクは、敵なんだ!」
「そんな事!! あるものか!!」
もしイアのせいでこの世界が消えるかもしれないとしても、自分達だけでもイアを守る。
二年前
「当たり前なんて、言うな。俺達にとっての当たり前は、お前も居て、ユメも居て、ニャムさんもカルミアさんもタケシも、居て……!」
「ロックな……。イア、この世界に敵なんて居ねーよ。この世界はガンダムが、ガンプラが好きな奴が自分達の好きを盛り上げようとして戦ってる場所なんだ。敵なんて、そんな物ねーよ」
「二人共……」
けれど、とイアが言おうとするが、そんな彼女の言葉を遮るように今度はスズが口を開く。
「……世界の理なんて簡単に壊せる。私も、この世界に来るまで世界の全部が敵だと思っていた。……でもこの世界は、こんな私でも自由に生きていられるんだ。この世界は───ガンプラは、自由だ」
彼女はそう言いながら、コンソールパネルを開いてチャット画面を三人に見せた。
コンソールパネルには、アンディ達とのグループチャットが映されている。
つい数秒前、アンディから『マギーに話は通した。十分な安全を確保してイア君達を連れてアダムの林檎のフォースネストに来て欲しい。所在は分かるかね?』とメッセージが送られて来ていた。
曰く、マギーが現状の解決策を検討してくれたらしい。
「この世界はお前の味方だよ、イア」
ケイはそう言ってイアに手を伸ばす。
その手を取るイアの身体の温もりはデータなのかもしれない。だけど、それはデータであっても偽物だという訳じゃない。
彼女は今ここに居る大切な仲間だ。
「行こう、イア」
「……う、うん」
まだ辿々しい彼女の手を引いて、立ち上がるイア。
不安は消えない。
「スズ! イアちゃんは大丈夫ですの!!」
丁度、合流したアンジェリカが焦った表情で片手を上げながら走ってくる。
それを見て、ケイは「ほら、皆イアの事が大切なんだよ」と片手を上げた。
ケイに釣られて顔を上げるイアに、アンジェリカが抱き付く。
「無事だったんですわね!! 良かったですわ!!」
「く、くるしぃ……! あはは、苦しいぞアンジェ」
そうして少しだけ明るくなったイアを連れて、ケイはアンディとマギーの元に向かうのだった。
「───これで、ヨシ。とりあえず、ひとまずは安心よ」
マギー曰く。
バグの原因はイアという存在の情報量の膨大化による、サーバーへの負担だった。
GBNで時を過ごせば過ごす程、イアは成長し、記憶を蓄積し、サーバー上のデータ量が増えていく。
本来はそのデータを外の世界に出す事で、GBNへの負荷を無くしているのだが───イアは何故かこれが出来ない。
よって、GBN本部のサーバーを強化する事で一時的にバグの発生を抑えるというのがマギーが一時的に打ち出した対策だった。
「とりあえず、か」
「そうね。イアちゃんを現実世界に呼び込む事が出来ない以上、とりあえずの対策を取るしかないわ。本部でも解析を進めているようだけど、何分ELダイバーは分からない事だらけだから」
本当ならイアを現実世界に連れて行き、GBNと切り離す事で何もかもが解決する。
しかし、それが出来ない以上とりあえずの対策を取るしかないのが現状だった。
「サーバーの状態は本部で逐一確認してくれるそうよ。万が一にも、もうバグは起きない筈だけど……ケイちゃん達は今まで通りイアちゃんを見守っていて欲しいわ」
「それは、勿論」
「もうコイツは俺達の仲間だからな」
そう言いながらイアの肩を抱くロックだが、イアはまだ少しだけ元気がないようである。
多少表情が動くようにはなったが、未だにいつもの元気は戻ってきていない。
それからしばらくして、時間が経つとアンディ達やアンジェリカ達はGBNをログアウトする時間になってしまった。
そのままマギーのフォースネストに世話になり続けるのも迷惑かと思って、ケイ達は自分達のフォースネストに帰っていく。
マギーは「私は勿論、タイガちゃん達にも頼って良いのよ。イアちゃんの事を任せておいてなんだけど、私達は全面的にGBNの皆の仲間なんだから」と言ってくれた。
確かにイアは最初、突然嵐のようにやってきた謎の幽霊少女だったのかもしれない。世話をしているのだって、始めはマギーに頼まれたからである。
それでも、イアはケイ達にとってもう掛け替えの無い仲間だった。
「二人は帰らないのか?」
「いや、まぁ……俺様暇だしな」
「俺も、帰っても仕方ないしさ」
夜遅くなっても、二人はGBNをログアウトしない。
時間は刻々と進む。
「……ボクは、ここに居て良いのかな?」
そうして、イアはゆっくりとこう口を開いた。