ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
一人。
ロックは座り込んで目を瞑り、瞑想をしていた。
瞑想とは名ばかりで、彼はジッとしている事が苦手である。
なので目を瞑っていても彼は瞑想というより頭の中で妄想をして楽しんでしまっていた。
脳裏に描かれる自らの機体───デュナメスHell。
GNスナイパーライフルが敵を何体も貫き、狙撃者として完璧な立ち回りをする妄想をすると自然と肩の力が入ってニヤけてしまう。
「……そこ、集中しろ」
「は!? すみません師匠───じゃなくて、なんでスズがここに居るんだ?」
怒られたと思って目を開くと、何故かそこにはメフィストフェレスのスズの姿があった。
「……タイガーウルフに頼まれた。ロックを見てやってくれって」
「師匠が、俺を? スズに? なんで?」
「───必殺技、欲しいんだろ」
静かにそう言うスズの言葉に、ロックは息を呑む。
「……私がお前に足りない物を埋める。それが、ロックの成長に繋がるんだと。……来い、
「……ヘッ、上等だぜ」
そう言ってロックは構えた。
何故かスズも柔道着で構えている。
誰が言うでもなく、二人はお互いのタイミングでぶつかり合った。
☆ ☆ ☆
眼前に立つMS。
「次はコイツらの相手をしろ」
「なんで!!」
一方。
タイガーウルフの修行を受けていたケイ達は、何故かMSの前に立たされている。
ガンダムWに登場するビルゴが三機。
ライフルなどの武器は装備される事なく丸腰だが、そもそもケイ達は丸腰どころか生身───ダイバーだ。
MSに人が勝てる訳がない、とケイとカルミアは青ざめる。
「なるほど! これはつまり、MSイグルー重力戦線のように人がどうMSと戦うかって事っすね! バズーカとか無いんすか!?」
「ニャムちゃんが壊れた……」
「変な修行し過ぎておかしくなっちゃったな……」
苦笑いを溢す二人だが、逆に冷静になって考える事が出来た。
あのタイガーウルフが、何の意味もない事をやらせる訳がない。
なら、この修行には何かしらの意味がある。
それを考えるのが、この修行の意味なのではないだろうか。
「……GBNで腹筋とか滝行なんてしたって、身体が鍛えられる訳じゃない。そもそもこの身体はデータなんだ。俺とかカルミアさんはあまり現実と変わらないけど、ロックは金髪だしニャムさんは全身もうなんか凄い違う。……ユメは───」
そう口にして、ケイは一つ気付く事があった。
「ユメは現実では歩けない、けど……このGBNなら現実では出来ない事も出来る。この身体は、俺であって俺じゃない」
「ケイ殿?」
「───気付いたようだな」
そんなケイを見て、タイガーウルフは口角を吊り上げる。
「……だったら、俺にも出来る筈だ。ユメみたいに、イアみたいに───」
言いながら、ケイは腕に力を込めた。握った拳に集中する。
「ケー君!?」
「な、なにごとっすか!?」
驚く二人の前で放たれる拳。
その拳圧は地面を抉り、鋼鉄の巨人へと向かい───
「ケイがなんか凄いパンチだしたぞ!」
「そっか……ここはGBNだから、この身体は現実じゃない。私やイアちゃんがケー君達と同じ修行をしなくて良いのって……」
「そうだ。嬢ちゃんはこの世界で現実の己を超える術を知っている。ELダイバーであるそっちの赤いのもな」
「イアな!」
「……まずはこの世界の己を知る事。それがこの修行の意味だ。掴んだようだな」
現実とこの世界の自分との違い。それを知り、この世界の自分を知る事。
そうする事で、この世界で自分が出来る事が広がるのだとタイガーウルフは二人に語った。
そして───
「うぉぉおおお!」
───ケイから放たれた拳は、リーオーの鉄の身体に弾かれる。
「ダメだったぁああ!!」
「ま、無理な物は無理だかな」
「「えぇ!?」」
キッパリ言うタイガーウルフの言葉にひっくり返るユメとイア。
そして、ケイ達は当たり前のようにリーオーに踏み潰された。しかしこれでタイガーウルフの試練は突破したという事になる。
「回りくどいと思ったかもしれないが、鍛錬に効率はあっても近道はない。己で気付かなければ、口で言っても分からんだろう」
「なるほど、ユメちゃんにはもう出来てるからって事ね」
カルミアの言う通り。
ユメは初めから───GBNにログインしたその時から、この世界の自分と現実の自分は違うということが分かっていた。
現実の世界では出来ない事も、この世界なら出来る。
それは、ユメだけじゃない。ケイ達も同じなのだ。
「───まずはこの世界で己を知れ。その上で、敵を知れば百戦危うからず。言うなれば……無敵だ!」
「おー! 無敵か!」
「大袈裟っすけど、確かに言ってる事は合理的っすね」
この世界での己を知る事。
限界なんてない、絶対なんてない。それがこのGBNなのだと、タイガーウルフは語る。
「ケイ、さっきのパンチは中々見応えがあったぞ。なんなら、俺の所で本気で見てやる。そうすればお前も、ロックの奴が欲しがってる
「必殺技……」
言われて、ケイの脳裏にいつかのバトルの光景が過ぎった。
超大規模変則スコア戦。
あの時ビルドダイバーズのリクと戦って、決定的な力の差を見せ付けられた事を思い出す。
チャンピオンがイアやユメ達との戦いで見せた技、タイガーウルフがイベント戦でシャフリヤールに放った技、シャフリヤールがペリシア・エリアで助けてくれた時に見せてくれた技も必殺技だ。
このGBNでは、ダイバーとガンプラがシステム以上の力を放つ事がある。
解放条件は公表されていない。
イベント戦の時にタイガーウルフの必殺技を見たロックは、彼に憧れてこの虎武龍の門を叩いたらしい。
彼がここに居ないのは、既にタイガーウルフの試練を乗り越えて必殺技の習得に力を注いでいるからだ。
「……俺も、必殺技が使いたい」
「良いっすねぇ。ジブンも使いたいっす!」
「ボクも!」
「私にも、出来るのかな?」
「あぁ、俺が教えてや───」
「少し待ちたまえ」
親指を立てて口を開くタイガーウルフの言葉を遮る大人の声が一つ。
「誰だ!!」
「私だ!!」
振り向くタイガーウルフの視線に入ったのは、ケモミミの生えた褐色肌の美青年だった。
「……シャフリヤール!」
彼の名はシャフリヤール。
タイガーウルフとは犬猿の中であり、ペリシア・エリアでケイとイア達を救った人物である。
「あ、シャフリヤールさん……」
「ご無沙汰しているね、ケイ君。件の事は一旦落ち着いたようで何よりだ」
「あの時は本当にありがとうございました」
歩いてくるシャフリヤールに頭を下げるケイ。
「そんな事はどうでも良いんだ。……ケイ、そんな筋肉バカより私の元で修行をしたまえ?」
「え、シャフリヤールさんの所で?」
「あぁ、私なら君のビルダー技術も含めた指導が出来る。君はガンプラに愛を乗せる技術の高いビルダーだ。是非、私の元に来たまえ」
そう話すケイとシャフリヤールを口を開けたまま交互に見比べるタイガーウルフは、遂に血管を浮き出させながら「おい!! ケイは俺の弟子になるんだ。手を出すんじゃねぇ!!」と声を上げた。
「あらあらー、ケー君はモテモテねー。おじさん妬いちゃう」
「あ、あのシャフリヤール殿から声を掛けられるなんて……流石っすよケイ殿!!」
「ケイはなんか、人を惹きつける力があるよな。ボクも、ケイの近くに居たいって思うし」
「え、それってどういう意味!? イアちゃん!? ねぇ、イアちゃん!!」
「え? 何? どうしたんだユメ。わー!? ユメ!? 落ち着いて!?」
「どういう意味なのぉ……!!」
唖然とするメンバー。
イアを揺さぶるユメの事はさておき、騒しい現場にさらに乱入者が現れる。
「ふふ、やっぱり仲が良いわね二人共」
「「良くない!!」」
仲良く返事をする二人の視線の先には、マギーの姿があった。
「マギーさん!?」
「やっほー、ユメちゃん。ご無沙汰してるわ」
「た、タイガーウルフにシャフリヤール、マギー……なんか凄い事になって来たっすね」
虎武龍のフォースネストに集まる有名ダイバー達。
ケイ達ReBondは初心者フォースにしては優秀な成績を収めているが、まだまだ中堅にも程遠いフォースである。
そんな彼等の前にいるのはGBNでもトップクラスのダイバー達だ。ニャムは眩暈がして倒れそうになる。
「どうして此処に?」
「私はお話があってね。それより、二人共喧嘩はダメよ。誰の下で修行するなんてのは本人の決める事なんだから。ね、ケイちゃん」
「……え、えーと、はい」
ケイを引っ張り合うタイガーウルフとシャフリヤールの間に入るマギー。
彼はゆっくりとケイに視線を合わせてから「それで、ケイちゃんは誰の下で修行したいのかしら?」と問い掛けた。
「俺は……」
「勿論俺だよな。俺の元に来い!」
「何を言っている。私だ、私の元に来るんだ!」
「ふふ、なんだか懐かしい光景ね」
マギーは、ビルドダイバーズのリクを二人が取り合っていた時の事を思い出す。
どうしてだろうか、リクやケイには人を惹きつける何かを感じてやまない。思えばケイのガンプラを初めて見た時、あの時から───
「───俺は、二人共に教えて欲しいです。いや、なんならマギーさんにも!」
───彼はあの時から、意志が強くて、強くなる事に貪欲で、その前に進もうとする力に、誰もが惹きつけられるのだ。