ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 作:皇我リキ
ロックは打ちのめされていた。
「……その程度か、ロック」
「やってくれるじゃねぇか」
柔道着を着たスズの眼前に倒れ込むロック。
何故か取っ組み合いをしている二人だが、戦いの行方はロックの完全敗北といった所である。
「まだまだぁ!!」
「下が甘い」
掴みかかろうとするロックを転ばせるスズ。
MS戦での格闘戦なら、ロックに勝るダイバーはそうは居ない。
しかし、GBNのダイバーでの格闘戦は話が別だった。
「くそ、速すぎるだろ……」
「動きが硬い。……まだその身体を、自分の物に出来てない。……だからお前は外すんだ」
そう言って、スズは再び構える。
彼女はユメ以上にこの世界で自分の身体をものにしている人物だ。
障害で現実の世界では手も足もない彼女だからこそ、この世界での自分の身体を深く理解出来ている。だからこそ、MSで腕が増えようが彼女は巧みに操作する事が出来るのだ。
「センスは良い。……だから後は、この世界での自分を知る事。ロック、お前をライバルだと思ってるのはノワールだけじゃない。……私もなんだ」
「スズ……」
「……こい。私に勝つまで」
言われなくても、とロックは立ち上がって再びスズに掴み掛かる。
その身体が何度も弾き飛ばされようが、ロックは立ち上がる事を辞めなかった。
☆ ☆ ☆
タイガーウルフに連れられて、ケイは虎武龍フォースネストの中にある道場にやって来る。
隣から聞こえてくるロックの悲鳴を聞いて「ロックの声ですか?」と問い掛けたケイに対して、タイガーウルフは「今は自分の修行に集中しろ」と注意された。
「───俺が修行したからには、アイツよりも俺の元で学びたいと思うだろう。……ケイ、まずはさっきのパンチを俺に向けてみろ」
「え? 良いんですか?」
「俺は鍛えてるからな」
そういう問題なのだろうか、とケイは首を傾げる。
しかし、やれと言われたらやるのがルールだ。
「タイガーウルフさん大丈夫かな? さっきのケー君のパンチ凄かったけど」
「アレはボクでも吹っ飛ぶぞ。ワンコはデカいから大丈夫だと思うけど」
「誰がワンコだ!」
着いてきたユメとイアはそんな感想を漏らしながら床に座り込む。
ケイはタイガーウルフにシャフリヤール、そしてマギーに自分を見て欲しいと頼み込んだ。
本来なら断られてもおかしくないような内容だが、彼の熱さがそうさせたのだろうか。三人共心良く返事をしてくれたのである。
それで、まずケイはタイガーウルフの指導を受ける事になった。
ユメとイアは同行。
そしてニャムは先にシャフリヤールの元で。カルミアは先にマギーの元で指導を受ける事になっている。
「よし、行きます。……うぉぉおおお!!!」
放たれる拳。その拳はタイガーウルフの胸を打ち、彼の大柄な身体を三メートル程滑らせた。
「これはもう漫画とかゲームの世界だね……。いや、ゲームなんだっけ」
ユメの言う通り、GBNはゲームである。
だからこんな事が出来るのだが、しかしダイバーがそんな事をしてもガンプラを破壊出来る訳ではない。
「見事だ、ケイ。その感覚を忘れないように、今から五十回! その拳を放ち続けろ!」
「は、はい!」
タイガーウルフに言われた通り、ケイは拳を打ち続けた。
「ケイって大人しそうに見えて意外と燃えてるとこあるよなー」
「んー、私はあんまり意外に思わないんだよね」
そんなケイを見ながら、イアの言葉にそう返事をするユメ。
「ケー君は昔から、負けず嫌いだったから」
子供の頃から、彼は幼馴染みの中で一番勝ちに貪欲だったのである。
誰よりもゲームを練習していたし、タケシに格闘戦で勝てなければ遠距離戦を挑み、アオトが新しくガンプラを作ってきた時は慎重に負けないように立ち回って戦っていた。
幼馴染み三人の中で一番強かったのは紛れもなくケイスケである。
あの日だって、彼はアオトと戦って勝った。
もしあの日ケイスケがアオトに勝っていなかったら、ユメは此処には居ないかもしれない。
アオトもどこにも行かなかったかもしれない。
それからGBNで砂漠の犬と戦うまで、確かにケイは勝ちに消極的だった事を思い出す。
小学生の頃よりも落ち着いたのは確かだが、それでも彼は心の内に熱い心を持ち続けていた。
「確かに、この前ロックと戦ってた時もそうだったかもな。スズ達やアンディ達と戦った時も」
「ケー君はあー見えて戦うのが好きなんだよね。……いや、戦って勝つのが好きなのかな。負けるの凄く悔しそうにするから」
ユメの知る限り、ケイスケはあまりアオトに負けた事がない。
記憶にある一度だけの話。
アオトに負けたケイスケがあまりにも落ち込んでいた姿が頭を過ぎる。
「でも、どうしてそんなに負けず嫌いなのかは私にも分からないなぁ。本当に、昔からそうだったから」
「ほえー、長い付き合いなのに?」
「うん。長い付き合いだよ」
笑顔でそう答えて、ユメは再びケイに視線を向けた。
真剣な表情で拳を打ち出す彼の姿は、どこか眩しくて「やっぱり格好良いな」なんて言葉が漏れる。
「───終りました!」
「よし。身体に叩き込んだな、MSに乗れ。俺が相手してやる」
タイガーウルフがそう言うと、道場の天井が割れて開けた。
ユメ達は門下生に連れられて安全な観戦室に移動する。
闘技場のようなバトルフィールドには、何も装備していない素手の状態のストライクBondとジーエンアルトロンが立っていた。
「今から拳だけで戦うぞ。足蹴りも禁止だ。お前の武器はその拳一つ。……分かったか!」
「はい!」
「行くぞ! うぉぉおおお!!」
ケイのストライクBondに飛び掛かるタイガーウルフのジーエンアルトロン。
地面を蹴って跳躍したジーエンアルトロンは空中で身を翻して回し蹴りを放つ。
「足蹴りも禁止って!?」
「俺は良いんだよ!!」
「なるほど!!」
苦笑いしながら足蹴りを腕で受け止めるケイ。
その一撃は地面が歪む程の威力だったが、ストライクBondは健在だ。
「……なるほど、良い造り込みしてやがる。シャフリの奴が気にいる訳だぜ。……だが!!」
追撃。
ジーエンアルトロンの拳がストライクBondを打ち続ける。
「どうした! そんな物か!」
「……っ。そんな事!!」
半歩引き、切り返しの拳を放つケイ。
「出が遅い! さっきの修行を思い出せ!」
しかし、その拳は掴まれて背負い投げまで持っていかれてしまった。
直ぐにバランスを整え、今度はケイから仕掛ける。
「うぉぉおおお!!!」
放たれる拳。
今度はその拳圧が地面を抉り、ジーエンアルトロンを捉えた。
「その程度か!!」
吹き飛ばされるジーエンアルトロンだが、特に損傷はない。
「まだだ!!」
必殺技───には程遠い。
感覚は掴んでいる。しかし、何かが足りない。
「拳に気持ちを乗せろ。お前の意地と根性と感情を乗せろ!! お前がその技に乗せる物はなんだ!! ケイ!!」
「俺が、その技に乗せる物……」
ふと視線が揺れた。
その先にあるのは、観客席。
通信が入る。
「ケー君! 頑張って!」
大切な幼馴染みの───好きな女の子の声。
「───俺の、その技に乗せるのは……」
構えるストライクBond。
昔から負けるのが嫌いだった。
特にアオトには負けたくなくて、その理由は今も昔も変わらない。
幼稚な、だけど大切な理由。
「ユメを守りたい。……いや、好きな子に格好良い所見せたい」
ストライクBondの拳が光る。
「掴んだか……!」
「うぉぉぉおおおお!!!」
放たれる拳。
タイガーウルフは負けじと拳を抜き、お互いの機体の拳がぶつかり合って周囲を吹き飛ばす程の衝撃波を生んだ。
砂嵐が舞う。
「ケー君!」
「どっちが勝った!?」
晴れる砂埃。
立っていたのは、ジーエンアルトロンだった。
「……っ。ダメか」
ストライクBondの拳は割れ、肘から砕けて地面に落ちる。
技の力にガンプラの強度が耐えられなかったのだ。
「いや、上出来だ。コツを掴んだのなら、後は己と己のガンプラを極める。さすれば、お前も境地に辿り着けるだろうよ」
「タイガーウルフさん……」
コツを掴んだのなら、後は物にするだけ。
何が悪いかも分かっている。
丁度、この後はガンプラ作りの名手───シャフリヤールから指導を受ける予定だった。
「よし、免許皆伝……とは言わんが。俺の修行をここまでこなしたお前に俺の奥義を見せてやる。もし、今日の修行を終えても俺の修行をまた受けたいのなら虎武龍の門を叩け」
「はい! ありがとうございま───今なんて?」
「くらえ!! 奥義!!」
「え!? なんで!! なんで奥義!!」
慌てふためくケイ。
しかし、タイガーウルフが止まる事はない。
「
「うわぁぁあああ!?」
爆散するケイ。手加減も手心もない、本気の技である。
「な、なんて大人気ないんだワンコ!」
こうして、ケイ達はタイガーウルフからの指導を受け終わったのであった。